タイラーオースティン さんの感想・評価
3.3
人目を憚らずボロボロ涙を流した作品
全体的に絵柄が子供にも観やすいように愛嬌かつほのぼのした感じであったがゆえに野坂昭如の代表作である火垂るの墓以上に戦争の残酷さを一匹の巨大なクジラの悲劇を通して観る者の心を抉るように描いております。
自分は、この作品を夏にテレビ放送されていたのを偶然目にしたのですが、潜水艦を仲間のクジラと勘違いし、そして恋をしたクジラのクー助(潜水艦の乗組員で少年兵であった主人公が名付けた)に知らず知らずのうちに感情移入してしまったのでしょう。終盤でのクー助が魚雷で原型が分からなくなるほどバラバラになり、かろうじて尻尾の残骸が水面に浮かんでいる状態で、それを主人公ら乗組員達が敬礼するというラスト。
主人公ら乗組員達は自分達の乗る潜水艦を魚雷攻撃から身を挺して救ってくれたという事でクー助を英雄的な感じで感謝していたのに対し、当のクー助はその潜水艦をクジラと勘違いし恋をしていたがために戦争という人間のエゴとかを理解することなく理不尽な最期を遂げてしまう。恐らく、この不条理さに当時の自分は観終わった後やりきれなさに一人で観ていた事もあり人目も憚らずボロボロ涙をこぼしたほどでした。
カッコいい死に方なんてものじゃないんです。そもそも戦争がなければ死ななかったわけで。まさに無駄死に。そういった当たり前の事を雄弁と物語っていた作品でした。