yuugetu さんの感想・評価
4.4
なんのためにうまれて なにをしていきるのか
【物語】
年に一度の星まつりの準備が進められる中、宇宙から不思議なクルンという子がばいきんまんの所に落ちてきます。クルンは自分が何者かわかりません。ですがそんな時、黒い星が街にいくつも落ちてきます。クルンは強い使命感に突き動かされ、アンパンマン達と共にいのちの星のふるさとへ向かいます。
今作でモチーフとなったのは主題歌「アンパンマンのマーチ」。
「なんのためにうまれて なにをしていきるのか」
歌詞を読みなおすと、テーマ性を深く映画に反映させていると感じます。
【作画】
ゲストキャラクターデザインの素晴らしさ。背景の美しさ。コンテ・演出・カメラワークがシンプルで幼児向けとして優しく見やすい画面作り。キャラクター性を反映した仕草の可愛らしさ。
どれをとっても変わらぬ安定感と高品質です。
最初のアンパンマンとだだんだんの戦い、カット割りなどはシンプルですが、背景とマッチしていて凝っていますね。でも一番いいなって思ったのは日常作画です。クルンも他のキャラもとても可愛らしい。ばいきんまんと遊ぶシーンも微笑ましいです。
【声優・キャラクター】
ゲスト声優である杏さんの素朴な声質とあどけない演技は申し分なし。とても可愛らしいです。
【音楽】
アンパンマン映画ではやなせ先生の遺した歌を参考に作っていくことが多いようですが、なんと今作は主題歌をモチーフにしています。
アンパンマンそのもののメインテーマのひとつでもありますから、この曲を選んだことからしても、今作はかなり力を入れて作っているということですね。
【感想】
{netabare}
記憶を失ったクルンは最初ばいきんまんのもとに姿を現します。そしてクルンはばいきんまんや皆と遊んで楽しさを知り、けれども使命感に突き動かされて自分のあるべき場所へ戻っていく。
「何のために生まれたのか」というのが今回の問い掛けですが、その答えは人の数だけあるのですね。子供向けは答えの出せない問い掛けをして見ている側に考えてもらうことが出来るのが良い所ですが、今作はそれが顕著です。
(ばいきんまんの出したごみの問題は今回はさわりだけで、また別の機会にやったほうが良いでしょうね。)
ばいきんまんはアンパンマンをやっつけるため、アンパンマンは誰かを助けるため。EDで他のおなじみのキャラが自分の料理をふるまっているのを見ると、きっと彼らは自分の作ったものを食べた人の笑顔を見たい、そうして喜んでもらうことが使命なんだろうなと感じます。
そしてそれをまだ得ていない人たちに対しては、ジャムおじさんが「生きる理由を見つけられたらそれはとても幸せなこと」とフォローを入れてくれるのが良い。
ばいきんまんがアンパンマンを助けるシーンがあるんですけど、アンパンマンに助けられた借りを返すとかではなくて、ただ純粋に自分の心に従ったのだと感じられるのが良いですね。
生きる理由を問う物語と聞くと小難しく感じますけど、作中の誰もが自分の心に正直に行動してるので理屈っぽくならない。良い幼児向け作品は変に理屈で固めないんですよ。見る側の感性を信じて作っているからです。そういうところが好き。{/netabare}
どこか哲学的な面も感じる作品。オススメです。
(2021.10.20)