とまときんぎょ さんの感想・評価
4.0
赤い靴はいていた 嫌いなものの多い女の子 (綾波=林原はここから)
誰もレビューしてないものに書き込んでみるシリーズ。また長文になってしまいました。^^;
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『クリスマスパーティに こないか?
毎年招待状を出しているのに 君はまだ一度も来てくれたことがないね。
君は 僕が嫌いで
パーティが嫌いで
12月が嫌いだ。
君は 嫌いなものが多すぎる。
クリスマスパーティに来てほしい。
とびきり 面白くないパーティにしてあげるから。
楽しいことが嫌いな 君へ』
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岩館真理子原作漫画のOVA、50分弱。
(岩館真理子の作風は、ほわっとクールで線の細い少女な絵柄でありながら、シリアスと笑いを両立させてみたり、シリアスのみの時は物凄く胸に迫る美しい痛々しさや哀しみを描いたりします。)
本作はというと、絵柄はまぁ、年代を感じさせる垢抜けないアニメ絵になっておりますが、シリアスな短いドラマです。モノローグやセリフにすごく味があるのは、忠実に重用された原作の
クリスマス間近の雪の降る日、主人公の働く靴屋にやってきた、ひとくせある女の子。ショートカットにつぶらな瞳、赤い口紅。ダブタブの赤いコートにリトルミイのような細い手脚。見た目は中学生みたいにちまっとしていてかわいいいのに(でも本当の歳はいってる)、態度がそれはそれは意固地で。この娘がどうも隣の洋館に住み出したらしい。絵本に出てきそうな可愛らしい大きな家には、灯りもつかず、ストーブもない。彼女はひとり、何をしているのか…。
元は少女漫画であるし、主人公と幼なじみの恋人とのラブストーリーもあるのですが、それは付随的なことで、本題は、頑なに孤独にしか生きられない少女との、短い期間の接点を描いた人間ドラマです。
さびしそうな彼女を心配して気にかける主人公と恋人ですが…相手は、手負いの野良猫のような少女です。
「あなたってね、優しそうに笑うけどほんとはとっても意地悪ね。意地悪なくせに いい人のふりして、大嫌い。」
と言ったかと思うと、婚約した主人公と恋人に対し
「あんたたち、結婚なんかできないわ。私が邪魔するもの‼」
と物騒なことを言ったり。
あるいはぽつんと振り返って
「ねえ、教えて。彼女になんといって、気持ちを打ち明けたの?どんな風にいったの?あなた、どんな風に女の人に想いを打ち明けるの?教えて…」
簡単に人を救うことなんて出来ないさびしさと、それでも、出会って心惹かれてすれ違うことはあるという…。この子がこの先どう生きて行ったのか、とても気がかりに胸に残るのです。
ネタバレも含む、最終局面での少女の激白セリフ…
{netabare} 「おとうさん…おとうさん…待ってたのに。ひとりでずっと待ってたのに、この家で。こんな家だけあったって…お父さん。」
「クリスマスはね、私の誕生日なの。毎年、お母さんとパーティの用意をして、お父さんの帰りを待ってたの。今日こそは、今日こそは絶対きっと帰ってくる。だって、クリスマスは私の誕生日だもの。今日こそはって、思うでしょ?
なのに…なのに、あの人はね…必ず酔って帰ってきて、パーティをめちゃくちゃにしたの。お母さんは、一度も楽しいクリスマスを迎えないまま死んだのよ。
だからあたし、お父さん大っ嫌い。12月は嫌い。クリスマスは嫌い。誕生日は嫌い‼
なんにも好きになったり期待したりしなければ、裏切られることないんだもの。」
(´・_・`)「でも君は、お父さんが帰ってくるのを、待ってたんだろ?あの家で。期待して。」
「だって。あの人、突然あんな家…ばかみたい。昔私が、一度だけ住んでみたいって言った、絵葉書に描いてあった絵を、あの人ずっと覚えてて…。
あたし、大人になれないわ。いつまでもずっとこのままよ。
あたしの気持ちは子供の頃にしか帰れないの。このままずっと大人にはなれないのよ。でも、可愛げのない子供だから、誰も愛してなんかくれないわ。
あなただって私が嫌いでしょう。あたしも自分が嫌い。自分の中に、自分勝手で冷たい自分しかいないこと知ってるから。」
(´・_・`)ソンナコトナイヨ
「あたし、子供の頃からお父さんが怒鳴ったり怒ったりしてる声しか、聞いてこなかったわ。
どうしたら、優しい言葉をしゃべれるの?教えて。
どうしたら、優しくなれるの?あたし、どういう風に生きていけばいいの?教えて…教えて…教えてよ」 {/netabare}
(T ^ T)こげな可愛げのない態度でありながらも、限りなくどこまでも果てしなくさびしんぼな女の子。「あたしの気持ちは子供の頃にしか帰れないの」なんて、ここまで美しくまとまったセリフでさびしぼになられてしまうと、ぐうの音も出ない〜〜。手に負えない〜〜。
ちなみに、庵野秀明が林原めぐみを綾波レイの声優に決めるきっかけになった作品です。林原めぐみの感情を抑えながらも力のある演技も、軽くなくていいのでしょうね。ともすればこんなヤツムカつくって単に思われてしまう、難しい子です。
しかし実際こういう厳しい少女時代を送った人って、こんな素直につっけんどんではない気もしますね。むしろ柔和で、ニコニコして負けてたまるか!って生きている人もいますよね。
まぁ、あくまでも物語なので。手紙、ショーウィンドウ、ストーブ、マフラー、本、絵葉書…赤い靴、といったアナログな物達が彷彿とさせる普遍的なイメージもこもっているかなと感じます。
恋人(すごく包容力のあるいい女性)や、住職である飄々とした主人公のお父さん、センチメンタルで調子のいい仕事仲間など、周囲の人物の言動も面白いんです。実は冒頭のセリフを言ったのは、主人公でも少女のお父さんでもないのですが。
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気になったらぜひ、観てみてください。辛気臭そうとか思わずに〜
こういう日の当たらない(LD、VHS以外出てないよ〜)古い短編くらい、動画サイトでみちゃってもバチ当たらないと思うんだ…むしろ作品が報われると思います。YouTubeにあります。
原作もおすすめです。
短編集の集英社文庫版などに入っています。
岡崎律子が初めてアニメのテーマソングを作った作品でもあり、ラストに流れる「冬のないカレンダー」は透明感のあるいい歌です。
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「綾波レイに抜擢されるきっかけ」のネタはどこかで読んだような気がしてたのですが、wikiによると林原めぐみのラジオで本人が語っていたようです。
そういや、昔聴いてました。ハガキ読まれたことあるよ\(//∇//)