101匹足利尊氏 さんの感想・評価
3.8
絵柄変わり過ぎで拒絶するのはもったいない気がします
【物語 3.0点】
1クールの中に、現生と過去生、“合体”といったシリーズ要素、
宇宙物理学、量子力学なども絡めたSFオカルト要素をふんだんに盛り込んだ野心的な第4期。
が、まとめ切れたとは言い難い。
シナリオの核となるワードの一つ“宇宙の修正能力”
有限の肉体を司り人間の感情など非合理な要素が残存する、可能性を秘めた現生宇宙。
無限の精神を司るが堕天翅(だてんし)族にはびこった戒律により感情の発露たる翅(はね)を無用と毟り取るなど自傷する神話宇宙。
かつて“女神”の元、同一宇宙であり、量子レベルで相関関係にある二つの宇宙が、
再び合体する時、優勢の方が維持され、淘汰された宇宙は消滅する。
これの阻止が“機械天翅”アクエリオンにて“神話獣”に立ち向かう主目的。
設定の柱からして、接触したら膨大なエネルギーを放出し対消滅する物質と反物質。
では、多次元宇宙論において、反物質で構成された宇宙が我々の物質宇宙と出会ったら?といった夢想を想起させます。
私は『アクエリオン』初代しか観ていませんでしたが、
SFより、いっそう陰謀論、オカルト寄りな印象を受けました。
300人委員会じみた裏で暗躍する世界覚醒会議とかも登場しますしw
例えば作中、マンデラ・エフェクトという用語が登場します。
南アフリカにてマンデラ大統領が暗殺されたなど、
集団において事実と異なる記憶が共有される現象。
SFオカルト界隈では、そこから踏み込んで、
マンデラ・エフェクトこそが地球外生命体による文明への干渉の痕跡などと陰謀論を巡らせるわけですが。
本作においては、マンデラ・エフェクトも、歴史における災厄も、
来る合体にて現生宇宙に対して優位に立つための神話宇宙からの攻勢の一貫と解釈される。
観測して初めて事実が確定するという量子力学の視点の導入も積極的で、
人々の認識改変により、死んだはずの{netabare}サヨ{/netabare}が生きている世界が現出するなどという超常が平然と起きる。
ここまでで既に、何言ってるか分からない状態かもですがw
SFオカルト界隈の予備知識があれば引っかかる要素が多く、
毎回、考察が楽しい噛み応えのあるアニメではありました。
過去生の神話宇宙においても、AIが台頭する近未来においても、
感情の翅はむしり取るべき非合理とみなされる。
だが合理的に、有限の肉体に囚われず、永遠に残すことが可能な認識、データの保存さえ確保すれば、
実質、不老不死は実現する。
これも近年、量子論を絡めたスピリチュアル界隈で説かれる人生観ですが、
率直に違和感があり、アクエリオンの拳で粉砕したくなる。
二つの宇宙の相克を通じてシリーズ伝統の“合体”を継承し、
来るAI時代もにらんで、人間が持つ非合理な感情の価値を再認識するアップデートも試みる。
消化しきることができればラストの(※核心的ネタバレ){netabare}死んだメインヒロインの復活{/netabare}も、
納得してストンと落ちるはずですが、
まぁ、私も含めて、ほとんどの方が胃もたれするとは思います。
実際、本作がこの冬アニメ、一時停止および巻き戻しボタン発動ナンバーワンアニメでしたしw
それだけ立ち止まって考えたい刺激的な要素が多かったという証左でもありますが。
よって万人にはオススメしがたいのですが、
作画、キャラデザ見て、0話切りするのはもったいないという感想は初回から変わりません。
【作画 4.0点】
カートゥーン調の現生宇宙、リアル調CGの神話宇宙。
二つのデザインの使い分けにより、異なる二つの宇宙、欠けた感情の価値などを表現。
各々、作画カロリー等は平凡なクオリティに感じましたが、
私は挑戦的だと評価したいです。
ま、単純に、作画とCGで、現生と過去生を区別してくれないと、
混線したシナリオ下で私も視聴完走困難だったという説もありますがw
特にカートゥーン調の人物作画には、
背景美術と共にリアリティを追求し描き込み量を費やすトレンドとは一線を画し、
デフォルメで表情を記号化、簡素化することで、
アクエリオンを通じて、欠けた感情が蘇って来た時の反応などを、
ダイレクトに伝える効果を感じました。
駅で宇宙終末のビラを配る男“カミサマ”の顔面はキュビズム風の多面体でシワを表現されていますし。
一見、描く際、工程が少なそうな瞳についても、
各々キャラクターカラーを有して、サンに至っては星が宿るなど、デザインに意志はこもっており、
決して手抜きではないと私は思います。
イラストタッチの江ノ島を背景に、躍動するアクエリオンは、
三原色やパープルを強調したポップなデザイン。
搭乗者によって形態が変化しますが、私は無難にサッコのアクエリオンシーゲルかなと。
必殺技も無限絶望拳(むげんぜつぼうパンチ)など王道の拳ですし。
ハナが絡んだ時などは稀に{netabare}超絶愛抱擁拳(サンアタックラブハッグ){/netabare}なども飛び出したりしますがw
こうした必殺技が極太フォントで打ち出される画面も強烈でした。
【キャラ 3.5点】
現生と過去生で対になったキャラを多数揃えるも、1クールでは深く掘り下げ切る尺も無く。
アクエリオンの“エレメント”として搭乗する中学生たち。
オオトリサッコは平然とパルクールをするくらい恐怖心が欠けているが、
それは過去生にて堕天翅族のナヌークが抱えていた臆病な感情をむしり取られたからである。
など各々が過去生に由来する感情の欠損を抱えており。
それらが欠けた者同士が補い合い力を発揮するアクエリオンの“想星合体”を経て、
学園生活の青春の中で萌芽する。
人間の感情が非合理だと切り捨てるには尊すぎると一方的に礼賛する内容ではなく、
各々の感情にはむしり取るに値する不完全さ、問題もあることも提示しつつ
というのもまた本作の一筋縄では行かない所。
私は特に中盤登場したサヨの妹で“地雷系ギャル”のイチキハナ。
愛ゆえに、{netabare}相手を殺したくなってしまう。
大好きだったサヨもかつて大ケガさせたし、モモヒメも襲撃してしまう。{/netabare}
人の愛は想いが強い故に、愛憎表裏一体というジレンマを強調されたハナには考えさせられました。
まぁ、ハナちゃんは巨乳枠でもありましたし。
シリーズ伝統の合体で昂奮しちゃうカットでも魅せてくれましたし。
(結局ソッチかいw)
ただ1クール尺の中では各キャラ、ダイジェスト気味に触れるのが精一杯。
これでもメインの“エレメント”については過去生含めて、それなりに描写できていましたが、
サンの宇宙たまごの会など、{netabare}二つの宇宙を巡る方針の違いから内部分裂した世界覚醒会議の関連人物{/netabare}については、
終盤駆け足の説明で、補完はほぼ考察任せになり、クライマックスのシナリオ理解を妨げる一因に。
【声優 4.0点】
恋愛感情が欠落したメインヒロインのアマハモモヒメ役の和氣 あず未さん。
その過去生・セドナ役は石川 由依さん。
など現生、過去生共に実力者を揃える豪華な“ダブルキャスト”
主演オオトリサッコ役に花守 ゆみりさん。好奇心が欠如したハタノトシ役に豊崎 愛生さん。
と現生宇宙サイドの中学生たちは男子役も女性声優が担当。
女性声優たちばかりの中学生活もどうだろう?とも思いましたが、
ツキシロリミヤ役の小市 眞琴さんの過去生は{netabare}セドナの妹・ハイダ(CV.東山 奈央さん){/netabare}
現生と過去生で必ずしも性別が一致するわけでもない事例も見て、
この構成も一手だと思えるようになりました。
トリックスターだったのが大人しいイチキサヨと危ないギャルのイチキハナの両者を演じた小原 好美さん。
ジョーカーとして立ち回らせたら一級品です。
転校生サン役の七海 ひろきさん。
男の私でも魅了されそうになる美少年ぶりを好演。
生徒が洗脳されるのも頷ける、流石の元宝塚男役ぶりでした。
【音楽 4.5点】
劇伴は大間々 昴氏と兼松 衆氏の共作。
平時はエレクトロにジャズも絡めて「イチキサヨ」など
ミステリーと葛藤を深めるバックグラウンドの仕事に徹する。
が有事となれば「神話獣」「想星のアクエリオン」の各バージョン曲など、
高火力のストリングスと壮麗なコーラスで急襲してくる。
電子サウンドとオーケストラの融合が心地よい完成度の高いサントラだと思います。
主題歌はAKINO from bless4。
OPの「創聖のアクエリオン Myth of Emotions Ver.」はAKINOのデュエットに福山 芳樹氏を迎えた、
初代OPのリメイクバージョン。
AKINOさんがこの主題歌の原曲でブレイクした2005年当時が15歳。
20年経った今もなお35歳。まだまだ現役で歌える。
才能はいち早く発見、開花されるのに越したことはないと再認識する事例です。
EDの「告白」は過去生に思いを馳せる壮大なラブバラード。
“あなたは あなたは あなたは どうして あなたなの”というサビの歌詞。
ド直球で良いという説もありますが、個人的にはもうちょい捻って欲しかったかも。
【余談】
しかし本作のカートゥーン調の現生宇宙のキャラデザ発表に対して、
子供向けとの拒絶反応が出てしまうのは、私はちょっと寂しい気持ちになりますね。
こうした低頭身、簡素化デザインの絵柄が大人の鑑賞に耐えられないとなると、
芸術性の高いアニメ映画を量産しているカートゥーン・サルーン(『ウルフウォーカー』など)もスルーでしょうし、
ディズニー、ピクサーにも大人が鑑賞してこそ価値を見出だせる骨太作品が多数ありますが、
それも食わず嫌いとなってしまうのでしょう。
それもまたもったいない気がします。
最近、画像生成AIに、例えば2010年代の日本アニメ風でとプロンプトを入力すると、
悔しいがそれっぽいと納得してしまうデザインの絵を出力して来ます。
これも懐かしくて良きですが、特に深夜アニメ界隈のデザインはそれくらい画一的だということでもあります。
リアルな背景と一体となって瞳を中心に人物を描き込み、撮影で光源処理も施して、そこに若干の萌えもブレンドして。
そこから外れるとコレジャナイとか言われる。
私は日本のアニメ界も、もっと多彩なデザインが繚乱する闇鍋であって欲しいと願います。
【1話感想】絵柄変わり過ぎで拒絶するのはもったいない気がします
長くなるので折りたたみ
{netabare}
『アクエリオン』シリーズの4期目。
カートゥーン調の背景、キャラデザへの拒否反応からか、
早くも、タイトル名を検索すると、Google先生に“キャラデザ”、“ひどい”と連想されちゃう本作(苦笑)
確かに従来シリーズのイメージを大事にしたい方にとってはショッキングな絵柄変更なのでしょう。
ただ、私の場合『アクエリオン』は1期で綺麗に終わったので、続編も見どころはあるのでしょうが、1期の思い出を大事にしたいと視聴を見送り続け、
本作が、随分久しぶりの『アクエリオン』
というよりゼロ年代のロボアニメシリーズは、『エウレカセブン』や『蒼穹のファフナー』も私は綺麗に着地が決まった1期まで。
パチンコ・パチスロで延命してるメディアミックスになんて付き合ってやるもんかフーンwって感じでひねくれて視聴を止めています。
こんな頑なな私が今更、続編に興味を惹かれるには、
本作くらいガラリと作画の印象を変えるくらいじゃないと視界にも入りません。
で、視聴し始めてみると、このカートゥーン調の江の島を舞台に活躍する低頭身な中学生主人公たちという背景・デザインにも意味がある、むしろ興味深いと思えるように。
『アクエリオン』と言えば、神話の時代の前世の力や記憶を、不完全な形で引き継ぐ後世の主人公たちが、ぶつかり合いながらも、
欠けた各々を補い合う合体により、強大な敵に挑んで行く展開が物語の熱源なのですが。
本作は不完全な主人公たちの時代をカートゥーン調の2D低頭身キャラで、
神話の前世を3D高頭身で再現して使い分ける作画構成になる模様。
実際、EDアニメでは、旧シリーズ同様のリアル頭身のイケメン美女のデザインも披露されます。
絵柄の違いにより、時代の変化と、失われた神話の記憶を強調する作画方針は挑戦的ですし、
カートゥーン調の中学生たちのデザインも一見テキトーですが、
欠けた者同士が抱える葛藤など心情を表現する表情描写は上々。
初回は特に冒頭、{netabare} イチキ サヨの“葬儀”で、ツキヒロ リミヤが、サヨと一度も喋ったこともないのに、共感性の欠如を誤魔化すために涙を流す。
取り繕った涙を見たオオトリ サッコの気分を害する{/netabare} という描写が、フックとして刺さりました。
そんな欠けた者同士が早速、共闘して神話獣に立ち向かっていく。
何だ、ちゃんと『アクエリオン』してるじゃないかと私は好感しました。
カートゥーン調という如何にも創造物っぽい違和感を伴う背景美術には、主人公中学生たちが守る宇宙が、
我々の住む世界や、従来シリーズとはどう異なる宇宙なのか?考察欲を掻き立てるトリガーにもなり得る。
{netabare} 死んでるのか生きているのか分からないサヨの位置付け{/netabare} など、
伏線を思わせる要素、用語も多く、終わってみれば刺激的な初回でした。
が、BDリリース情報から、どうやら、この4期は1クール予定らしく。
この中で、この宇宙の来歴や、主人公たちの過去世から続く因果までも描くとなると、
要素を回収し切れずシナリオが空中分解しちゃう懸念も。
ただ、例え、この先ストーリーが破綻したとしても、
私は本作が江の島アニメというだけでも満足度は高いです。
江の島に設立された養成中学校。
江の島に続く橋が折りたたまれ、神話獣と戦う前線基地が出現し、ベクターマシンが発進する。
江の島サイコーじゃないですか。
多分に人を選ぶ要素の多そうなアニメではありますが、
乗り越えた先に確かに得られる物がある。
そんな予感もしますし、そうなるよう緩く期待して視聴継続していこうと思います。{/netabare}