劇中作アニメ映画ランキング 2

あにこれの全ユーザーがアニメ映画の劇中作成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2024年06月10日の時点で一番の劇中作アニメ映画は何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

80.1 1 劇中作アニメランキング1位
劇場版「SHIROBAKO」(アニメ映画)

2020年2月29日
★★★★☆ 3.9 (349)
1663人が棚に入れました
いつかアニメーション作品を一緒につくろうと、ひょうたん屋のドーナツで誓いを立てた上山高校アニメーション同好会の5人。卒業後、5人はそれぞれアニメーション制作に携わる。宮森あおいは「えくそだすっ!」「第三飛行少女隊」の制作を経て、少しずつ夢へ近づき、「自分が本当にやりたいこと」を考え始めていた。一方、日々の仕事に葛藤を抱きながら過ごしていたあおいは、新企画の劇場用アニメーションを任され、「今の会社の状況で劇場用アニメーション制作を進められるのか?」と不安を感じる。はたして、劇場版アニメーションの納品は間に合うのか――!?

声優・キャラクター
木村珠莉、佳村はるか、千菅春香、髙野麻美、大和田仁美、佐倉綾音、山岡ゆり、葉山いくみ、米澤円、井澤詩織、田丸篤志、松風雅也、中原麻衣、吉野裕行、小林裕介、檜山修之、こぶしのぶゆき

takato さんの感想・評価

★★★★★ 4.8

アニメは「みんな」でつくるんだ!。私的2020年ベスト映画。

 クレイジーボーイこと水島監督はクレイジーな巨匠の領域へと旅立ってしまった…。ガルパンもやってるし、夢のシロバコ映画化!ってだけでも十二分に喜んだ。もうよっぽど酷くなければ満足、なんて駄目なファンに成り下がっていた私の頬をもろに宮森にぶっ叩かれたようだ…。


 信じがたい密度、とてつもない熱量、心の機微を描く上手さ、なによりも決して尽きることない愛、これが愛の映画でなんだと言うのか!。愛といっても純愛などという名の元に量産される愛でも、セカイの名の元に作られる視野狭すぎな愛でもない。


 それは脇役なんて作らない全てのキャラに対する愛、「みんな」でアニメショーンを作ることに対する愛、夢と情熱に対する愛、そしてみっともなく足掻き続けても明日を目指して生きることに対する愛。テレビ版が持っていた魅力が全てグレードアップした、とてつもない大傑作だよこれ!。


 ふ~、少々興奮しすぎた。いったん冷静になってネタバレにならない程度で中身の話を。


 ツカミから各キャラのその後を説明的でなく説明する件も良かったが、今回は本当に枷の重要性を再認識した。基本的な構成はテレビ版とそんな変わらないが、今回のほうが圧倒的に枷が重い。だからこそ宮森が決意する瞬間も、その後の展開も熱すぎる!。


 熱すぎて正直置いてかられる瞬間も正直あったけど、熱いだけじゃなく繊細な機微を描いた小技も見事だからちゃんとメリハリがついてる(まさか遠藤さんの奥様に泣かされるとは…)。


 そしてなによりアニメは「みんな」で作ってることをこんなに感じたことはない。膨大なキャラが出てるけど誰一人適当な脇役でもモブでもない。何故ならばアニメには「みんな」が関わっているのだから!。


 設定だけのようなキャラも、話の上での都合なキャラもない、「みんな」生きてる存在なんだよ!、そんな監督の想いがビンビン伝わってくるほどにキャラクターに対する愛がそれぞれのエピソードをみんな輝かせている(個人的には、指導する側にまわったみーちゃんのエピソードがツボ)。え、この映画って3時間くらいあったっけ?ってくらいボリュームを感じたのに、全然ダラダラしてないとか信じられぬ。



エピローグ

宮森、ロロ、ミムジーが夜道を行く

「みんな」の想い

なにより監督の想い

それらと共に歩いてきた者なら三人の会話に応えざるをえない。

「届くよ、きっと」


二回目鑑賞後


見返すと、終盤の展開は作中作品についての話だけど、本当はこの作品自体で作ってる時の状況をそのまんま盛り込んだようなものなんじゃないかなぁ~と思わざるをえない。


そうじゃなきゃ3日前納品とかにはならないし、ラストの作中内作品におけるアクションの凄まじさはありえないだろう。メタとは違うが、こういう形で現実と二次元の関係が他と明らかに違うのはプリキュアぐらいしかないと思ってたが…。


EDで各キャラの次々に映っていく中、もう恍惚としか言いようがない幸せが心を満たす。膨大なキャラ、その全てが愛おしいほどに肯定的に生きている。それがもたらす効果は、創造されたもう1つ世界、あるいは創造力そのものに対する大いなる肯定。世界を悲観するのは簡単だ、しかしそれでも肯定する真の強さを見た。

投稿 : 2024/06/08
♥ : 49

KANO さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

アニメ制作の方々に感謝

あの感動から4年
ムサニはある制作上の出来事により
大きく会社環境の変化を余儀無くされていた。
そこへ舞い込んだ劇場版の話し
新たな戦いが始まる…

本作では4年後の劇場版作成に纏わる
エピソードを主に描いていて、前作は1クール作品の
制作を1クールで描いていたので、今回は劇場版は
劇場版でと言うスタンスなのかなと。

4年後なので、何よりも彼女たち5人の成長が
垣間見れる描写も有り、実際同様がむしゃらに努力をする姿から、落ち着き、拘り、そして体力も付き、
人によれば呑む量も増えてくる時期ですよね。
彼女たちの姿を観れた事が何よりです。

個人的にはTVシリーズの劇場版を観て
完結編で無ければいつも思う率直な感想は主に
TVシリーズの良さの再認識
劇場版の尺の短さ(もう少し観ていたい心情)
続きを観たい(出来ればTVシリーズの長い尺で)
この3点が絡んでくる中で如何に自分の満足度を
見つけられるか?と思っていつも観てます。
特に本作はTVシリーズが良過ぎたので…

基本的にこのシリーズは、普段お世話になっている
アニメ制作が題材なので今回も私は楽しく観賞出来ました。
やはりいつかは『七福神』を制作する
内容を観てみたいものですね。

これからも、なるべく劇場版は劇場に足を運んで
微力ですが制作の方々に貢献出来るようにと
思える事が出来る作品でした

投稿 : 2024/06/08
♥ : 43

でこぽん さんの感想・評価

★★★★★ 4.1

好きな仕事だから続けることができる

この物語は、テレビでの出来事から4年後の物語。

すっかり変わり果てた武蔵野アニメーション。
まさに倒産寸前の会社に、劇場版アニメの依頼が舞い込んできます。

しかし、その依頼は、劇場公開まで10ヵ月しかない。決まっているのは映画のタイトルだけ。それ以外は全て白紙。
誰もが無理だと思われる中、宮森あおいだけができると確信します。

そして彼女は、持ち前の頑張りと人脈とで多くの仲間を呼び集め、無謀とも思えるスケジュールに挑みます。
今度のあおいの役割はプロデューサーです。

私は劇場で鑑賞しながらハラハラしました。
あおいは休憩する余裕など全くありません。
超過密な仕事です。
でも、あおいの目は、いつもキラキラと輝いています。明るい未来を見据えています。

そして、最後は感動しました。このアニメにふさわしい終わり方でした。


アニメ業界の仕事は、体力がないと持ちません。
朝から夜まで仕事仕事仕事の世界。
おしゃれをする暇も、恋愛する暇もない。

それでもアニメ業界で働く人が大勢いるのは、きっとその人たちはアニメが大好きだからでしょう。
彼らは、子供の頃の夢をかなえたのだと思います。

夢をかなえるのは大変な努力が必要です。
そして、その夢を維持し続けるのは、さらに大変な苦労を強いられます。
それでも頑張れるのは、その仕事が大好きだからです。

アニメ業界で働く人たちに感謝します。

投稿 : 2024/06/08
♥ : 41

85.8 2 劇中作アニメランキング2位
リズと青い鳥(アニメ映画)

2018年4月21日
★★★★★ 4.1 (556)
2307人が棚に入れました
北宇治高等学校吹奏楽部でオーボエを担当している鎧塚みぞれと、フルートを担当している傘木希美。

高校三年生、二人の最後のコンクール。
その自由曲に選ばれた「リズと青い鳥」にはオーボエとフルートが掛け合うソロがあった。

「なんだかこの曲、わたしたちみたい」

屈託もなくそう言ってソロを嬉しそうに吹く希美と、希美と過ごす日々に幸せを感じつつも終わりが近づくことを恐れるみぞれ。

親友のはずの二人。
しかしオーボエとフルートのソロは上手くかみ合わず、距離を感じさせるものだった。

声優・キャラクター
種﨑敦美、東山奈央、藤村鼓乃美、山岡ゆり、杉浦しおり、黒沢ともよ、朝井彩加、豊田萌絵、安済知佳、桑島法子、中村悠一、櫻井孝宏
ネタバレ

shino さんの感想・評価

★★★★★ 4.3

あの子は青い鳥

山田尚子監督作品、脚本吉田玲子。

群像劇としてのユーフォニアムから、
思春期の少女2人の機微な心情に焦点を当て、
より先鋭化した形で描写され提示される、
あまりにも美しく儚い旅立ちの物語。

足音の効果音が印象的に導入され、
2人の未来を象徴するかのように、
違う歩幅で、リズムで共に歩いて行く。
{netabare}ここでは大きな物語は、徹底的に排除され、
日々の練習風景と少女の心情のみが反復される。{/netabare}
少女たちの所作の1つ1つがあまりにも美しく、
その機敏な運動の中に、身体の美を見ました。

内向的なみぞれと明るく社交的な希美。
{netabare}童話「リズと青い鳥」が詩的に象徴するように、
それぞれの現状と未来に不安を覚え始める。
微妙な距離を生む対比された2人の感情、
上手くかみ合わないオーボエとフルート。{/netabare}
小さな青い鳥の幸せとは何でしょう。
ここにあるのは少なからず誰もが通過する、
イニシエーションではないでしょうか。

少女の美しさと儚さの一瞬を切り取り、
残酷さまでもドキュメントした記念碑的作品。
それでも前途ある未来を輝き解き放って欲しい。

私の大切な宝物となりました。

投稿 : 2024/06/08
♥ : 125
ネタバレ

フィリップ さんの感想・評価

★★★★★ 5.0

山田尚子監督が目指していたものをやり切った、実写的表現の到達点

アニメーション制作:京都アニメーション、
監督:山田尚子、脚本:吉田玲子、
作画監督・キャラクターデザイン:西屋太志、
音楽:牛尾憲輔、美術監督:篠原睦雄、
色彩設計:石田奈央美、原作:武田綾乃。

揺れるポニーテール、廊下を歩く足、瞬く瞳。
静かな劇伴が流れるなかのふたりの情景。
絵柄は滲んだブルーを基調とし、透明感のある色彩。
響く足音、キャップを開ける音、楽器を組み立てる音。
様々な生活音を拾い上げていく。
細部まで徹底的なこだわりを感じさせる。
思わず息を詰めて観てしまうような静謐感が作品全体に流れている。

私は冒頭のシーンを観たときに、この感覚はどこかで味わったような気がすると、
鑑賞中にずっと考えていたのだが、
それは岩井俊二監督の『花とアリス』だった。
岩井俊二監督のなかでいちばん好きな作品だが、
それを初めて観たときのような鮮烈な印象を受けた。
眩いばかりの透明感を重視した絵作りだ。

『リズと青い鳥』は『響け!ユーフォニアム』シリーズの続編に位置づけられる。
田中あすかや小笠原晴香たち3年生が引退した後の
春から夏にかけての一部分を切り取った物語。
しかし、シリーズ名がタイトルに入っておらず、
単体で観られることも意識して制作されている。
私は原作を全巻既読で、TVアニメも映画も過去作品は
全て鑑賞済みなので断言はできないが、
初見の人でも十分に楽しめるのではないかと感じた。
人間関係は観ていれば、ほとんど理解できると思うし、
基本的には鎧塚みぞれと傘木希美の関係性についてのストーリーのため、
それほど分かりにくくはないと思う。
ただ、もしかするとみぞれと希美の依存といえる関係性が理解できず、
物語に入り込めない人がいるかもしれないが、
そんな友人同士の繋がりもあると考えてもらうしかない。
これは、いびつな形ですれ違い続ける愛と嫉妬の物語だ。

アニメ的な手法よりも実写的なカメラワークを
意識しているシーンが多く見られる。
足の動きや手の動き、会話の「間」などで、心情を表現している。
また、感情を表すような目元のアップシーンが多い。
アニメではなく、実写ではよく使われる手法だが、
この作品では重視されている。
そして、被写界深度を意識した絵作り、
つまりカメラの焦点とボケを意識している点はシリーズと同様だ。
物語にはそれほど大きな起伏がないため、
好き嫌いが分かれるタイプの作風だが、
映画としての完成度はかなり高い。

{netabare} 特に素晴らしいと感じたのは冒頭のシーン。
何かの始まりを予感させる童話の世界から現代の世界へ。
まだ人があまりいない早い時間の学校に鎧塚みぞれが到着して、
階段に座り、誰かを待っている。自分の足を見る。不安げな瞳。
誰かがやってくる。
視線を向けるが、期待した人ではない。
そして、待ち人がやってくる。いかにも楽しそうで快活な表情、
軽快なテンポの歩様、揺れるポニーテール。
それに合わせて流れる明るいメロディ。
フルートのパートリーダーである傘木希美だ。
鎧塚みぞれは、それとは逆に表情が乏しく、口数も少ない。
彼女なりに喜びを表現して希美と一緒に音楽室へと向かう。
途中で綺麗な青い羽根を拾った希美は、それをみぞれへと渡す。
戸惑いながらも希美からもらったものを嬉しく感じるみぞれ。
この青い羽が、閉じられた世界の始まりを予感させる。

校舎に入り、靴箱から上履きを取り出すときのふたりの対比。
廊下に彼女たちの足音が響くが、その音のテンポは全く合わない。
完全な不協和音。ふたりの関係性が垣間見える。
みぞれは少し距離を置いて、希美の後に付いていく。
階段の途中の死角から希美が顔を覗かせてみぞれを見る。
希美は少し驚いたように、目を何度か少しだけ動かす。
教室に着いて鍵を開け、椅子と譜面台の並んだ誰もいない室内に
2人だけが入っていく。
吹奏楽コンクールの自由曲は、「リズと青い鳥」。
この曲を希美は好きだという。
そして、ふたりで曲を合わせてみるところで、
タイトルが映し出される。

この一連のシーンだけで気持ちを持っていかれるだけのインパクトがある。
とても丁寧で実写的で挑戦的な作風だと感じ、
私は思わず映画館でニヤついてしまった。

物語はみぞれと希美のすれ違いを中心にしながら、
それに劇中曲である「リズと青い鳥」の物語がリンクしていく。
童話のほうの声優にちょっと違和感がある。
ジブリ作品を見ているような感覚だ。
みぞれがリズ、希美が青い鳥の関係性として観客は見ているが、
最後にふたりの立場が逆になる。
みぞれの才能が周りをなぎ倒すようにして解放され、
美しいメロディを奏でる。
同じように音楽に真摯に取り組んでいたみぞれと希美の差が
明らかになる瞬間だ。

二羽の鳥がつかず離れずに飛んでいくシーンが映る。
左右対称となるデカルコマニーの表現。
そして、ふたりの色は青と赤。
心があまり動かずしんとした雰囲気のみぞれが青、
情熱的で人の中心になれる希美が赤だろうか。
このふたつの色が分離せずに混ざり合っていく。

みぞれが水槽に入ったふぐを見つめるシーンが度々出てくる。
おそらくみぞれは、水槽のなかのふぐを羨ましいと思っている。
仲間だけでいられる閉じられた世界。
そこが幸せで、ほかは必要ないと考えている。

この作品は意図してラストシーン以外での
学校外のシーンを排除している。
鳥籠=学校という閉じられた空間を強調しているのだ。
閉じられた学校という世界のなかにあって、
さらに閉じられた水槽内にいるふぐ。
それをみぞれが気に入っているというのは、
みぞれの心情を示している表現だろう。

たくさんある印象的な場面でいちばん好きなのは、
向かいの校舎にいる希美がみぞれに気づいて手を振り、
みぞれも小さく手を振って応えるシーン。
そのとき、希美のフルートが太陽に反射して、
みぞれのセーラー服に光を映す。
それを見てふたりがお互いに笑う。
言葉はないが、優しく穏やかな音楽が流れるなかで、
(サントラに入っている「reflexion, allegretto, you」
という曲で、1分20秒と短いがとても美しい)
何気ない日常の幸せをいとおしく感じさせる。

ラストシーン。歩く足のアップ。
一方は左へ、一方は右へと進んでいく。
希美は一般の大学受験の準備ために図書室で勉強を、
みぞれはいつものように音楽室へと向かう。
帰りに待ち合わせたふたりが歩く。
足音が響く。
ふたりの足音のリズムは、時おり合っているように聞こえる。
お互いに別の道を歩くことを決め、そこでようやく何かが重なり始めたのだ。
ふたりの関係がこれからどうなるかは分からない。
しかし、最後に「dis」の文字を消したところに、
いつまでも関係がつながっていて欲しいという作り手の願いがこめられている。{/netabare}
(2018年4月初投稿・2020年5月5日修正)

大好きのハグから続くラストシーンについて
(2018年5月11日追記・2019年3月15日修正)

{netabare}みぞれは希美の笑い方やリーダーシップなど、
希美自身のことを好きだと告白するが、
それに対して希美は「みぞれのオーボエが好き」だと言い放つ。
このやり取りは一見、ふたりの想いのすれ違いだけを
表現しているように感じるが、実はそれだけではない。

友人として以上に希美のことが大好きなみぞれにとって、
とても厳しく感じる言葉だが、これは希美自身にとってもキツイ言葉。
みぞれの才能を見せつけられて、ショックを受けているときだから尚更だ。
それなのに、敢えて言ったのはなぜか。
この言葉には、自分は音大には行けないが、
みぞれには、音大に行ってオーボエを続けて欲しいという
願いがこめられているのだ。
「みぞれのオーボエが好き」という希美の言葉がみぞれに対して
どれだけ大きな影響を及ぼすのかを希美自身は自覚している。
単に希美が自分の想いを吐露しただけではない。
「みぞれのオーボエが好き」は童話における、
一方的とも思えるリズから青い鳥への
「広い空へと飛び立って欲しい」と言った想いと同じ意味を持っている。

それは、帰り道に希美が「コンクールでみぞれのオーボエを支える」と
言ったことからも分かるし、それに対して、
みぞれが「私もオーボエを続ける」と宣言をしていることからも明らかだ。
しかし、このやりとりはどう考えても違和感がある。
つまり、希美はコンクールの話をしているのに、
みぞれは、コンクール後のことについて語っているからだ。
会話がすれ違っているように聞こえる。
ところが、そうではない。
つまり、ここでは希美が音大に行かず、
フルートを続けなかったとしても、
みぞれは音大に行く決意をしていることを示している。
これは希美の「みぞれのオーボエが好き」に対して
みぞれの出した答えなのだ。

実は原作では、音大を受験するかどうかの話を
みぞれが希美に問い詰めるシーンがあるのだが、
映画では、完全にカットしている。
その代わりに、左右に分かれていく足の方向と
図書館での本の借り出し、楽譜への書き込み、
最後の会話によって表現している。
「みぞれのオーボエが好き」という言葉が
みぞれの背中を押したという、別の意味を持たせているのだ。
そのあとの「ハッピーアイスクリーム」で
ふたりの感覚が足音のリズムとともに、ようやく一致したことを描いている。
また、みぞれが校門を出るときに希美の前を歩いたり、横に並んだりする。
切なさはあるが、やはりこれはハッピーエンドといえるのではないだろうか。

音楽については、フルートが反射する「reflexion, allegretto, you」と
ラストシーンで流れる静かだが心地良いリズム感の「wind,glass,girl」、
そして、字幕の時の「girls.dance,staircase」、
「リズと青い鳥」、Homecomingの「Songbirds」が印象的だ。{/netabare}

コメンタリーを視聴して(2019年2月14日追記)

{netabare}昨年発売された脚本付きBDを購入して、
本編とインタビューは手に入れてすぐに観たのだが、
脚本やコメンタリーは後回しになってしまっていた。
脚本を読んでみると、「リアルな速度の目パチ」など、
とても細かい指示がなされていて驚いた。
目を閉じ切らないまばたきも指示されている。
また、作画については「ガラスの底を覗いたような世界観」という
指南書が配られていたという。
映像では山田尚子監督の意図を確実に実現している。

そしてこの作品には3つの世界観が表現されている。
学校、絵本、そしてみぞれ(希美)の心象風景だ。
絵本は古き良きアニメを再現させるよう
線がとぎれる処理を行っている。
心象風景は、よりイメージ感の強い絵作りを意識したという。
希美が走る水彩画のようなタッチ。
左右対称の滲んだ色の青い鳥など。
これら3つの世界観が上手く活かされていて、
物語に彩りを与えている。

それに加えて、BDで解説を聞かないと気付けないのが、
生物学室のみぞれと希美のシーン。
最初から何段階かに分けて色合いを変化させている。
夕方の時間の経過とともに初めは緑っぽかった室内から
オレンジ系に少しずつ色を変えるのと、
カットごとに順光、逆光でも変化させている。
確かに言われてみて確認すると、
生物学室での色合いはとても繊細だ。

髪を触る仕種については山田尚子監督自らの発案。
曰く、みぞれがそうやりたいと言っていたから。
キャラが監督に下りてきていたそうだ。
また、「ダブル・ルー・リード」も監督のアイデア。
これは映画館で観ていたときから、
洋楽好きな監督が考えたことだろうと予想していたので、
インタビューを観たときは、あまりにもそのままで可笑しかった。
印象に残ったのが、スタッフのいわば暴露話で、
内面を描くよりも映像(ビジュアル)で見せたいと
昔に語っていたことがあったそうだ。
監督は昔の話だと恥ずかしがっていたが、
まさにこの作品はその方向性を貫いたといえるだろう。{/netabare}

投稿 : 2024/06/08
♥ : 122

えたんだーる さんの感想・評価

★★★★★ 5.0

「人間ドラマ」のみで勝負、「スポ根」要素は捨ててみた!

※作画の評価を5にしていますけど、一般的な「アニメの作画」という意味ではなく演出も込みの画作りとしての5です。「現実」パートはすごく実写映画っぽい一方で、「物語」パートがアニメならではな感じの画作りで面白い試みです。

原作は<響け!ユーフォニアム>シリーズ(以下、「ユーフォ」)の『北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』(前後編2巻に分かれていますが、映画『リズと青い鳥』は主に後編の話)です。

ということではあるんですけど、原作での「鎧塚みぞれと傘木希美の関係性」という一点特化型の映像化ということで、作中で発生するイベントや登場キャラクターとしては原作の通りではあるんですが、原作の時系列を違った切り口で見ているのである意味原作とは(良い意味で)全く違う作品になっています。

ということで、原作既読で映画を観たわけですが、私は観ている最中は原作のストーリーを特に意識することもなく楽しむことができました。また、この切り口で迫るのであればTVシリーズや以前の劇場版を観ていなくても本作を独立に楽しむことができるだろうとも思いました。


ユーフォは原作時点で元々「競技としての吹奏楽」(全日本吹奏楽コンクールを地方大会から勝ち上がっていく)の要素(スポ根要素)と、「大所帯である部活としての吹奏楽部」(部員同士の関係性など)の要素(人間ドラマ要素)が両輪になってストーリー全体が構成されています。

アニメ化にあたってもどちらか一方の要素にしかフォーカスが当たらないということはなくて、ただ両要素のウエイトのかかり方はそれぞれ違うという感じでした。

私個人の印象ですがTVシリーズ1期目とその総集編ともいえる劇場版第1作目はスポ根要素が気持ち重め、TVシリーズ2期目は人間ドラマ要素が気持ち重めでしょうか。

劇場版2作目だった『届けたいメロディ』では久美子とあすかの関係性がメインになって人間ドラマ要素にフォーカスされるも二人の関係性を作る動機が「うまくなりたい」というスポ根要素ということで、人間ドラマ要素がかなり重めであるもののスポ根要素がスッパリとなくなる脚本にはなっていませんでした。

翻って本作では「部員が演奏者として向上するために熱心に練習する」という場面はまったく出てきません。特に鎧塚みぞれについて言えば演奏技術そのものは既に一高校生としては普通でないくらいに高いのであり、演奏が変わるきっかけは完全に精神面(作中作『リズと青い鳥』という物語に対する理解度)によるものなのです。
(もちろんユーフォのお約束で、演奏の質そのものはバッチリと変わります。)

スポ根要素はザックリと排されていると言えます。

時系列的には作中で同時期に重なっているもう一作の映画のストーリーで明らかになるであろうコンクールの具体的な成績も描かれませんので、スポ根要素を排すると同時にネタバレも回避しているわけで、ここら辺の脚本・演出は巧みでした。

この構成であればTVシリーズとは別のスタッフで制作に当たるのは妥当ですね。なるほどという感じでした。タイトルについてもあえて「響け!ユーフォニアム」を含めないのは納得ですね。

もちろん、コンクールでの演奏曲である『リズと青い鳥』は、2018年中に公開予定のもう1本の劇場版でも使用されることと思います。

なかなか新鮮な作りで面白かかったので、観に行って良かったです。

2018.12.19追記:
『誓いのフィナーレ』公開は2019年になってしまいましたが、それはさておき…。

本作品の演奏とか、スポーツ競技における身体操作や反応速度など「ある程度上達はできたけど凡人」が才能の壁みたいなものにぶち当たって一流の競技者を目指すのを諦める的な話は世の中に数多ありまして、そこに共感する向きにはストレートに突き刺さる作品なんだろうと思います。

ただ、得意なことを突き詰めた人には意味不明なのかも?

例えばですがカポエイラを10年もやったら師範、師範代レベルになる人もいれば一生ただのインストラクター止まりな感じの人もいます。

もちろん続ける中での努力や自分に合った指導者に恵まれるかといった問題もあるんですが、好きと得意は必ずしも一致しません。切ないですよね…。

余談: 数多の凡人が天才である鮎喰響(あぐい ひびき)に振り回され、打ちのめされて己と向き合っていくマンガ『響 ~小説家になる方法~』はお薦めです。なお、「マンガ大賞2017大賞」受賞作のわりには知名度も評価も高くない模様…。

投稿 : 2024/06/08
♥ : 93
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