ピピン林檎 さんの感想・評価
4.4
《優しい心配りのできる人になる》舞台装置の抜群に素敵な大河ファンタジー
あにこれに来てまもなくの頃に視聴して、終盤かなりの感銘を受けた名作『カレイドスター』の監督を務めた佐藤順一氏の、もう一つの長編監督作品(ただし原作者は別)で、本サイトにも絶賛者の多い名作アニメ、という事前情報に興味を惹かれて一気観してみました。
3期54話(※のちOVA2が追加されて計57話)と長く、作品世界に自分の気持ちが入り込むまで少し時間がかかりましたが、第1期の終盤以降(第11-12話~)は、ネオ・ヴェネツィアという本作の舞台装置が醸し出す《特別な雰囲気》を心地良く感じるまでに変わり、第3期を見始めた頃には灯里たちの姿をまもなく見終えてしまうことを惜しく思う作品になりました。
最終回手前に決定的な《神回》がドカンとやって来る『カレイドスター』と違って、本作は、最初から最後まで割りと淡々としたストーリーが続く構成ですが、特に第3期の第5話({netabare}藍華&晃の才能と努力のエピソード{/netabare})以降は、心に響く良エピソードが続いて、それまでのストーリーが次第に収束していく様を堪能できる平均点の高い作品、という印象を受けました。
後述するように、私個人としては、本作は絶賛するほどの評価とはなりませんでしたが、爽やかな余韻の残る良作に巡り会えたことを素直に喜びたい気持ちになりました。
◆作品内容
{netabare}
(1) 主人公の少女(灯里)が、プリマ(観光都市ネオ・ヴェネツィアの花形職である「通り名」付きのゴンドラ操舵手兼観光案内)になる夢に向かって、親友となる2人の少女(藍華、アリス)と共に、明るく研鑽に励み、(特に心の)成長を遂げていく話である、と同時に、
(2) 灯里の憧れである花形プリマの先輩(アリシア)が、彼女にバトンを託す話、そして藍華・アリスそれぞれの先輩である花形プリマたち(晃、アテナ)も、後輩たちの成長を確りと最後まで導いていく話、でもある。{/netabare}
※表の主役(視点人物):
{netabare}ウンディーネ(ゴンドラ操舵手兼観光案内)見習いの灯里(あかり、15~16歳)視点で進む話が多いが、同じく研修仲間の藍華・アリスが灯里に代わって視点人物を務める話も多い{/netabare}
※裏の主役(話のキーとなる人物):
{netabare}灯里の先輩であり花形プリマであるアリシア。また藍華・アリスそれぞれの先輩である晃・アテナが裏の主役を務める話も多い{/netabare}
◆作品/期別評価
(1) 第1期 ★ 4.1 (2005年)(13話)
(2) 第2期 ★ 4.4 (2006年)(26話)
(3) OVA1 ★ 4.2 (2007年)(1話)
(4) 第3期 ★★ 4.6 (2008年)(13話+特別編1)
(5) OVA2 ★ 4.0 (2015年)(3話) ※サイドストーリー
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総合 ★ 4.4 (計57話)
◆制作情報
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原作マンガ 天野こずえ(『月刊ステンシル』2001年3-11月連載“AQUA”、
『月刊コミックブレイド』2002年4月-2008年4月連載“ARIA”)
監督・シリーズ構成 佐藤順一
脚本 吉田玲子(計18話)、藤咲あゆな(計15話)、浦畑達彦(計7話)、岡田磨里(計4話)、
佐藤順一(計3話)、竹下健一(計3話)、布施木一喜・竹下健一(計2話)、
布施木一喜(計1話)、平池芳正(計1話)
音楽 Choro Club feat. Senoo
アニメーション制作 ハルフィルムメーカー{/netabare}
◆各話タイトル&評価
★が多いほど個人的に高評価した回(最高で星3つ)
☆は並みの出来と感じた回
×は脚本に余り納得できなかった疑問回
ёは怪奇あるいは幻想的なエピソードが入る回
=========== ARIA The ANIMATION (2005年10-12月) ===========
{netabare}
Navigation.1 その 素敵な奇跡を… ☆ 灯里(あかり)&藍華(あいか)でアイちゃんを案内する話
Navigation.2 その 特別な日に… ☆ アクア・アルタ(満潮)、「姫屋」所属の藍華(あいか)&晃(あきら)回
Navigation.3 その 透明な少女と… ★ 天才少女アリス回、暁さんの浮島に行く
Navigation.4 その 届かない手紙は… ★ё 首に鈴をつけた謎の少女(アミ)のビデオレターを届ける回
Navigation.5 その あるはずのない島へ… ☆ 無人島で合宿する話
Navigation.6 その 守りたいものに… ★ 「オレンジぷらねっと」所属のアリス&アテナ回
Navigation.7 その 素敵なお仕事を… ★ 新婚夫婦同乗で晃さんの実地訓練を受ける話
Navigation.8 その 憂鬱な社長ったら…/その イケてるヒーローってば… × アリア社長の冒険
Navigation.9 その 星のような妖精は… ☆ 伝説のプリマ(グラン・マ)の家に教えを乞いに行く話
Navigation.10 その ほかほかな休日は… ☆ 温泉回、冬支度
Navigation.11 その オレンジの日々を… ★ アリシア・晃・アテナの研修時代の話
Navigation.12 その やわらかな願いは… ★★ё 過去の世界に行く話(アクアの町の水路に初めて水が来る)
Navigation.13 その まっしろな朝を… ★ё サン・マルコ広場での年越し、初日の出と新年を迎えての願い{/netabare}
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★★★(神回)0、★★(優秀回)2、★(良回)6、☆(並回)5、×(疑問回)0 ※個人評価 ★ 4.1
=========== ARIA The NATURAL (2006年4-9月) ===========
{netabare}
第1話 その カーニバルの出逢いは… ☆ё カサノバの仮面(ケットシー)と猫たちに出会う話
第2話 その 宝物をさがして… ★ 宝探しをしていてカフェ店長と出会う
第3話 その 流星群の夜に… ☆ 藍華&アル(重力制御技術者の少年)回
第4話 その ネオ・ヴェネツィア色の心は… ★ 郵便配達を手伝う話
第5話 その 雨の日の素敵は…/その 春にみつけたものは… ★★ё 伏見稲荷(狐の嫁入り)/廃鉄道の脇の桜を見つける話
第6話 その 鏡にうつる笑顔は… ★ アリス回(勇気を出して社内のパーティに参加)
第7話 その 猫たちの王国へ… ★ё 水路で迷子になり再びケットシーに出会う回
第8話 その ボッコロの日に… ☆ 暁さんがアリシアさんに贈る赤いバラの話
第9話 その 素顔の星たちは… ★ アリシアさんの心に灯る小さな炎を知る話
第10話 その あたたかな街と人々と… ☆ 藍華&アリス目線で灯里の良さを考える回
第11話 その 大切な輝きに… ☆ ムラーノ島のグラス工房から荷を運ぶ話
第12話 その 逃げ水を追って…/その 夜光鈴の光は… ☆ё 夏のふとした出来事
第13話 その でっかい自分ルールを… ★★ アリス&アテナ回
第14話 その いちばん新しい想い出に… ☆ ARIAカンパニーの彩色パリーナを作る話
第15話 その 広い輪っかの中で… ☆ 暁・アリシア・晃の子供時代の話(出逢いの喜び)
第16話 その ゴンドラとの別れは… ☆ё 新人の時からお世話になった船の話
第17話 その 雨降る夜が明ければ… × この回は脚本が少し安直(第16話の繰り返しシーンが多い)
第18話 その 新しい自分に… ☆ 藍華&晃回(藍華が伸ばしていた髪を切る話)
第19話 その 泣き虫さんったら…/その 乙女心ってば… ☆ 藍華の病欠日(アルのひと言)
第20話 その 影のない招くものは… ★★ё 聖ミケーレ島の怪談、ケットシーに助けられる
第21話 その 銀河鉄道の夜に… ★★ё ケットシーからの招待チケット
第22話 その ふしぎワールドで…/その アクアを守る者… × 性別入替の話、暁さんの少年時代
第23話 その 海と恋と想いと… ★ 老夫婦と海との結婚式の話
第24話 その 明日のウンディーネに… ☆ 晃さん回(プリマの心構えを説く話)
第25話 その 出逢いの結晶は… ☆ レデントーレ祭に皆を招待する話(花火の夜)
第26話 その 白いやさしい街から… ★ アリシアさんと一緒に雪球を転がす話{/netabare}
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★★★(神回)0、★★(優秀回)4、★(良回)7、☆(並回)13、×(疑問回)2 ※個人評価 ★ 4.4
=========== ARIA The OVA 〜ARIETTA〜 (2007年9月) ===========
全1話 ★ 4.2 ※ARIETTA(短いアリア、小詠唱、そよ風・・・の意味)、{netabare}アリシアさんと鐘塔に登る話(プリマになることの不安と決意){/netabare}
=========== ARIA The ORIGINATION (2008年1-3月) ===========
{netabare}
Navigation.1 その やがて訪れる春の風に… ☆ いずれ来る世代交代への心の準備
Navigation.2 その 笑顔のお客さまは… ★ 灯里を指名した婦人客を案内する話
Navigation.3 その こめられた想いは… ☆ 新しい伝統づくりの話(アンリさんのチョコ)
Navigation.4 その 明日を目指すものたちは… ★ トラゲット(渡し舟)回(プリマ昇格試験の話-あゆみ・杏・アトラ)
Navigation.5 その おもいでのクローバーは… ★★ 才能と努力(藍華&晃回)
Special Navigation その ちょっぴり秘密の場所に… ☆ 聖マルコ寺院のバルコニーから見る夕暮れの景色(暁さん)
Navigation.6 その 素敵な課外授業に… ★ アリス回(アリシアさんが決して叱らない訳を聴く話)
Navigation.7 その ゆるやかな時の中に… ★ グラン・マからARIAカンパニー創立の話を聴く話
Navigation.8 その 大切な人の記憶に… ★ アリス回(好きと不安、アテナさんの記憶喪失)
Navigation.9 その オレンジの風につつまれて… ★★ アリス特例でプリマ昇格
Navigation.10 その お月見の夜のときめきは… ★ 藍華回(アルと井戸に落ちてしまう話)
Navigation.11 その 変わりゆく日々に… ★★ 晃から藍華への通り名提案、アリスと灯里・藍華の関係
Navigation.12 その 蒼い海と風の中で… ★ 藍華プリマ昇格、灯里のプリマ昇格試験
Navigation.13 その 新しいはじまりに… ★ アリシアさんの寿引退、ラストにアイちゃん{/netabare}
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★★★(神回)0、★★(優秀回)2、★(良回)8、☆(並回)3、×(疑問回)0 ※個人評価 ★★ 4.6
======== ARIA The AVVENIRE (2015年9月)(OVA2) ========
全3話 ★ 4.0 ※視聴済、再視聴後改めて評価する予定。
◆本作の特に感銘を受けた点と、幾らか幻滅した点
◇感銘を受けた点
基本シナリオがオーソドックス(正統的)で、過度にご都合主義的だったり、お涙頂戴的な安直さに流れてしまうことがほぼないこと。
◇幾らか幻滅した点
基本シナリオは正統派を貫いているにもかかわらず、作画・脚本のレベルでは、肝心のところで、ギャグ風の絵柄に切り替わって何だか誤魔化された気持ちになってしまう点が凄く不満でした(例えば、第2期の第18話で、{netabare}藍華の髪にバーベキューの火がついて大変なことになった後のシーン{/netabare})
おそらくマンガ原作どおりなのでしょうけど、『四月は君の嘘』でも指摘したように、こうした描写は作品の“格”を落としてしまっているように感じました。
ギャグで誤魔化さずに、ここは正攻法で描き切って欲しかったです。
そういえば、「恥ずかしいセリフ禁止!」という文句も、余りにも便利に多用され過ぎていて食傷気味に感じてしまうことが、特に序盤は多くありました。
◆その他、個人的な留意点
◇とくに『カレイドスター』との比較から
{netabare}同じ花形職の世代交代に関わる成長物語でも、
(1) 『カレイドスター』が、「レイラ→そら」という単線形の話だったのに対して、
(2) 本作は、「アリシア→灯里」、「晃→藍華」、「アテナ→アリス」という、より厚みを持った三重線形の話であり、
かつ
(1) 『カレイドスター』が、現・新のスター間、あるいは新人スター間の、①ライバル関係や、②厳しい練習過程や、③派手なバトル展開、を描き出すところに、少なくとも終盤までは重点が置かれていたのに対して、
(2) 本作は、先輩プリマ間や、見習いウンディーネ間、あるいは先輩と見習いの間の、①相互的な気づき・思い遣り、や、②そうして気づきあった優しい心の伝え方、を過不足なく描き出すこと、に焦点が当てられているように思えました。{/netabare}
→以上から、
(1) 『カレイドスター』は、第50話という圧倒的な《神回》に向けてドラマチックにストーリーが展開していき、そこで受ける瞬間的な感動が非常に大きな作品、と評せるのに対して、
(2) 本作は、1話1話をじっくりと味わって鑑賞していけば、特に中盤以降の節々に細かいながらも意外な感動を沢山発見できる作品、と評することができるのではないかと考えます。
私個人としては、(1)のタイプよりも、(2)のタイプの方がどちらかというと好みなので、作品全体の評価としても、(1)『カレイドスター』の4.2に対して、(2)本作を4.4とより高く評価しました。
◇ただし、本作は1:n関係の「扇の要(かなめ)」の役には盲目かも?
{netabare}本作は、1:1関係での理想的な心配りのあり方、自分の思いと相手の思いを互いに犠牲にせずに上手く重ね合わせていくための心の持ち方、あるいは何気ない日常の中でささやかな幸福を見つけ出す心の持ち方、などを絶妙に描き出した良作と評することが出来ると思います。
ただ、私個人としては、1:n関係での「扇の要(かなめ)」となるような人物の描写が本作からは抜け落ちているような感じが多少気になりました。
例えば、ARIAカンパニーのような「アリシア→灯里」の1:1関係で完結する団体ならともかく、姫屋やオレンジぷらねっとのような多数の人材のいる団体では、きっと本作の藍華(※姫屋の跡取り娘)のようなキャラは、1:n関係での扇の要(かなめ)の役を(少なくとも将来的には)務めることが期待されるはずであり、その期待を果たすに足る《特別な心のあり方》があるはずです。
(※例えば、『アイドルマスター』で765プロの12人のアイドルたちの結束の要となる役を務めた天海春香のような。→私が『アイドルマスター』の評価を本作より高い4.7とする理由){/netabare}
以上が、私が本作を、他に類例のない《特別な雰囲気》を持った良作と評価しながらも、個人的は今一歩とした理由です。
*(2018.8.28 第3期とレビュー内容をスィッチ)