ブリキ男 さんの感想・評価
4.7
ヒーローになりたい悪役のラルフが壊したいものってなに?
80年代のアーケードゲーム「※1Fix-It Felix」の悪役ラルフと映画オリジナルゲーム「※2シュガーラッシュ」の仲間外れの女の子キャラ"ヴァネロペ"が主人公の映画。
古きよき80年代ゲームから近年発表されたゲームのキャラに至るまで、多数の※3ゲストキャラが端役で登場します。
久し振りにディズニーアニメを見ましたが、特徴的と思った点をあれこれ。
第一に挙げられるのは、子供と対等な立場の大人が登場するという所。これはアメリカのホームドラマとかでもそうですが、大人が子供に合わせて"あげている"のではなく、あくまでも自然に、友達に話しかける様に子供と同じ目線になって会話するのです。日本のアニメでもこの様な光景をたまに見かける事が出来ますが、ジャンルが限定されていて、ギャグアニメに集中している傾向がある様です。この場合、大人は往々にして子供よりも劣った存在として描かれます。シリアスなドラマにおいては尚の事そうですが、日本のアニメでは大人と子供の役割に明確な線引きを設けている事に気付きました。
もう一つは子供を決して素直な良い子に描かない点が挙げられます。子供は子供らしく、ちょっとワガママに描かれているのです。何かと大人と競争したがって勝って喜んだり、説教染みた事を言われると鸚鵡返しをして反撃したり、無視したり、命令したり‥。作中でラルフの被った様な愉快?な災難は子供と係わった事のある人なら多分一通りお馴染みのもので、あるある話として納得する事が出来るのではないでしょうか? 威圧感の無い大人を前にした時の子供の尊大な態度(子供にもよると思いますが)をよ~く表現出来ていると思いました。国は違えど子供の行動って似てるんですね~(笑)
日本のアニメでも以上の2点を概ねクリアーしているものはありますが、このアニメを見た後だと、何となく子供の描写がきれい過ぎて、理想化されている傾向がある様に思い返されます。もっともキャラ表現が現実のものと近ければ近いほど良いとは言い切れないので、どちらが正解という話には出来ませんが、子供の感情表現の精密さについては目を見張るものがありました。
それとCGについて、一昔前の不自然な光沢感のあるキャラ表現とは一線を画しており(わざと古い表現を採用しているキャラもいますが)まるで実写のクレイアニメを見ている様で、柔らかで落ち着いた色彩、造形には親しみを覚えました。現在放映中の日本のアニメ「にゃんぼー」を見た時にもびっくりさせられましたが、こういった技術は日々目まぐるしく改良され、長足の進歩を遂げている様ですね。"CGアニメ"と一括りに出来ない時代がやって来ていると感じました。
全体的に見ると、子供でも容易に理解出来る内容の物語でありながら、伏線の張り方や演出に隙が無く、非常に細やかな作りのアニメという印象でした。表層は単純そのものですが中身は高性能。持てる物をさらけ出すのではなく封じ込める作風、こういうのをcoolという言葉で表現するのでしょうね。‥多分(笑)
子供ならヴァネロペを通して共感を、ラルフを通して大人の不器用な優しさを、大人ならラルフを通して自分の立ち位置を、ヴァネロペを通して子供時代に置き去りにしてきた純粋さを見つめ、自分の中に欠けているものに気付かされるのではないでしょうか? この映画を通して子供も大人もほんのちょっとでも成長出来て、優しい気持ちになれたらいいですね。
人は大人になるに従って自分にとって必要な知識を取捨選択して、思考すべき事の優先順位を決めてしまう事があります。その序列の下へ下へと追いやられていく知識は知らず知らずの内に印象をおぼろげにし、いずれ忘却の彼方へと隠れてしまいます。そうしていかめしい大人が一丁出来上がりという訳です(汗)
でも子供にとって、えばっているだけの大人というのは怖くてつまらなく見えるもの、そこには対等な関係は生まれません。わたしとしては、なるだけ子供と同じ目線で考え、喜びも悲しみも共有出来るラルフみたいな大人でいたいものです。大人の威厳? まぁ二の次ですね‥そういうのは(笑)
ゲームというテーマは大好きですが、CGがあまり好きじゃなかったし、ディズニー映画からも長らく離れていたので、視聴前、今のわたしに楽しめるのかな?とかちょっとばかりの不安はありましたが、杞憂でした。‥でもまさか泣かされてしまうとは!!
ところでこの「シュガーラッシュ」原題が「Wreck-It Ralph」となっており、邦題とまるっきり違うんですが、スラングのWreckは"破壊する"延いては"ぶち壊す"というちょっと乱暴な意味があり、悪役である自分の立場に不満を抱いているラルフが、煮え切らずうじうじしている自分自身をぶち壊すというニュアンスも込められている様に私には感ぜられました。
古典的ゲームというのは大体の場合、勧善懲悪ストーリーを活劇を通して面白おかしく擬似体験するものが多いわけですが、当然の事ですが、ゲーム内ではヒーローもヒール(悪役)も等価値で、いずれも欠けてはならない存在です。むしろプレイヤーの分身たるヒーローはただの器に過ぎないので、没個性キャラでも何ら問題はなく、悪役にこそ確固とした魅力のあるキャラクター性が必要だったりします。
正義役とか悪役とか現実の世界では存在しませんが、人の個性は多種多様、どっちが上だとか下だとか、良いものとか悪いものとかで人を分けず、それぞれが何かを担っているという事、個々の持つ掛け替えの無さを見据える目は大切ですね。ヒーローになりたい悪役のラルフがどうやって変え難く替え難い自分の立場と向かい合ったか、羨望にしがみついていては到底行き着けないヒーロー像がそこにはありました。是非ご自身の目でご確認下され。ディズニーアニメを食べず嫌いしている人にこそお勧めの映画です。
山寺宏一さん、諸星すみれさんなどが熱演する日本語吹替え版もイイ!
親しみ深いゲームキャラが画面内で喋っている風景は結構楽しいもので、芋づる式に「ピクセル」も観てしまいました(笑)
※1:この映画を見るまで、このゲームの事知らなかったのですが、日本のゲームで言うと画面を見る限りでは「クレイジークライマー(1980年)」+「ドンキーコング(1981年)」+「レッキングクルー(1984年)」という趣のゲーム。(レゲー好きでないと全部知っている人あまりいないと思うけど)作中の説明に従えば1982年に稼動が開始された「Fix-It Felix」は、先に挙げた3つのゲームの発表のちょうど真ん中くらいの時期に当たります。当時の日本とアメリカのゲーム業界がお互いに強く刺激し合っていた事が伺える面白い発見でした。因みにこの映画の原題はゲーム内のラルフの台詞"I'm Gonna Wreck It!"から一部引用した「Wreck-It Ralph」であり「Fix-It Felix(直せフェリックス)」と対になっていたりもします。芸が細かい‥。
※2:映画オリジナルゲーム「シュガーラッシュ」の元ネタは多分「マリオカート」。赤コウラみたいなアイテムとか、レインボーロードとかもあって、かなりまんまな印象でした。でもフィールドもカートも全てお菓子で出来ています(笑)カート工場でマイカートを作るシーンとか、実際のゲームにあっても面白そうだな~とか思いながら見てました。他ゲームネタもちょこっと入っていて、上上下下‥とかいい所ついてくれます。
※3:「ストⅡ」ネタでは、ベガはともかく何故かザンギエフまで悪役に‥。ぐぐってみたらネットでも話題になっていました。スタッフ間でもザンギエフを悪役扱いするかどうかは意見が分かれていたそうですが、全体的に観るとザンギ擁護の声が圧倒的に多い様です。
確かにザンギエフは悪人ではないですが、初期のシリーズでは「ロシアの大地をお前の血で染めてやろうか!?」とか「腕をへし折ってやるぜ!?」とかヒドイ台詞言ってるし、噛み付き攻撃とかもするので冤罪とは言えない気はします。エンディングではゴルビーと一緒に楽しそうにコサックダンスに興じてましたが(笑)実写映画で悪漢として登場していたのも影響したのかも‥。
日本語吹替え版の「君は悪役かもしれないけど、悪い奴じゃないでしょ?」とラルフに問いかけるザンギの台詞は自問の様にも聴こえ哀愁が漂っていました。(英語版では実際に「ザンギエフ、お前は悪役だが、悪い奴という意味ではない」と自答した事になっている)