フリ-クス さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
へいおん!
男の子が『もてたいから』という理由ではじめる趣味の一つ、
というか、そういう趣味の代表格として『ギタ-』というものがあります。
はい、拙もアコギとエレキを所有しております、ごめんなさい。
もちろん『ギタ-が弾けりゃサルでもモテる』ということはありません。
もともとモテ要素のある男の子が、
きちんとモテに値するだけの技術を身につけ、
ふつうにモテそうな音楽を演奏をするから、
モテるのであって、
そうじゃない場合は、概ね、かすりもいたしません。
聞いてるか? あの頃の僕。
さて、本作のヒロインであるぼっちは『陰キャ美少女』であります。
幼稚園の頃からふつうにぼっち生活、
友だちもおらず、家族以外との会話はほぼコミュ障レベルでありました。
そんなぼっちが『こんな自分でも輝けるかも』という理由で、
中学一年生の時にエレキギターをはじめます。
さて、ぼっちは自分を変え、みごと輝くことができるでしょうか?
……って、もちろんそんなうまくいくはずもなく。
世間なめとんか、自分。
コミュ障も治らずバンドも組めず、
ソロ弾きだけがやたらうまくなっただけの三年間。
そんなぼっちが高校に進学し、
ひょんなことからガールズバンドに入ることになってなんやかんや、
というのが本作の概要であります。
原作は、はまじあきさん。女性。
きらら枠のJKガールズバンド日常系ものということですから、
あの『けいおん!』の正統的な系譜に属する作品ですね。
製作がSME系列のアニプレックス、
制作はその子会社のCloverWorksということで、
バチバチの音楽系企業がモノづくり母体となっておりまして、
いよいよ『けいおん!』を超える作品ができるかな、
超えたらいいな。
いや、むしろ超えて欲しい、
と、放映前から個人的に期待していた一本です。
で、そのへんどうだったのよ、という結論から先に言いますと、
確かにすごく面白い。ほんと面白いっちゃ面白いんだけど、
改めて『山田尚子監督のスゴさ』を思い知らされた、
みたいなところに落ち着いちゃうのかな、と思う次第であります。
(あくまでも個人的な印象の話なので、あまり気にしないでおくんなまし)
原作素材としては、こっちの方がダンゼン面白い、と拙は思うわけです。
てか『けいおん!』の方は男性作家の原作だったので、
悪い意味での『オトコの身勝手な妄想』押し付けがてんこもり、
ウソ800のお花畑物語だったわけでありまして。
ガチで練習したがっているメンバーと、
遊んでばかりでろくに合わそうともしないメンバーが、
仲良しこよしでキャッキャウフフ。
なんかね、もうね、その世界観自体が妄想以外のなにものでもなく。
そもそも楽器や音楽がホンキで好きならば、
一分でも一秒でも長く演っていたいというのが初心者バンドの心理であります。
ソロ練習は一人でもできますしね。
よしんば、真面目に練習したがらないメンバーがいたとしても、
あっさ~、悪いんだけど、やる気ないんならやめてくんない?
などとシメられるのがふつうの姿かと。
ところが同作では、ちょっとすねたり文句言ったりするだけで、
ついついつられて仲良しこよし。
まさに全てをやさしく抱擁する母性のかたまり、ミルキーはママの味。
いやほんと、おまえらいったい女子高生になに求めてんだ。
そういう意味では、本作の方がよっぽどヒトのカタチをしているわけです。
陰キャでコミュ障のぼっちが仲間からよくしてもらえるのだって、
① 本気でギターが好きなのが伝わってくる。
② 接客だのなんだの、苦手なものでも頑張って取り組んでいる。
③ 片道二時間もかかる下北まで小まめに通ってきて、練習をサボらない。
という『ヒトとして認められる』部分、リスペクトがあるからであります。
{netabare}
ライブ前に逃げ出した喜多郁代がバンドに復帰できたのだって、
① 本当のことを白状して誠心誠意あやまった。
② 罪滅ぼしとしてライブハウスのバイトを明るく元気にがんばった。
③ そのまま帰るところを、ぼっちが必死に引き留めた。
からであって、ただ単に皆がお人好しだからってわけじゃありません。
{/netabare}
このあたりは、さすが女性作家の原作、という感じであります。
基本的には登場キャラみんな性格がいいわけですが、
それでも『いいよいいよ』で許される点と許されない点の線引きがしっかりと。
女の子みんながみんなお砂糖でできているわけじゃない、
そういう『あたりまえのこと』が、
ちゃんとあたりまえに描かれているところが実に良き、であります。
音楽的にも、こっちの方が本編で許容される幅が広いですしね。
あっちは、女子高のお遊び部活バンドのお話。
かたやこっちは、
まがりなりにもライブハウスに出演してプロを目指しているという、
ひよっこながらもガチバンドのお話ですから、
演奏レベル的にワンランク上の表現をしてもおとがめなし。
そんなわけで本作は、
原作的に『けいおん越え』ができる要素が大きかったわけです。
人のカタチはこっちの方がまとも。
音楽的に許されるキャパも、こっちの方が上。
作画もCloverWorksなら当時の京アニとタイマンはれますし。
実際、すごく面白い作品に仕上がりました。
登場するキャラはそれぞれきちんと立ち上がっているし、
ヒロインであるぼっちの陰キャ・コミュ障属性も、
人のカタチのデフォルメ、キャラの『個性』の範囲に踏み止まっています。
そもそも『陰キャ』という言葉って、
オレだけが正しくて世間が間違ってる、ガッコ-なんてアホの集まりだ
なんて下っ端パヨクみたく必死に自己肯定してるイメージなんですが、
ぼっちは引っ込み思案をこじらせてるだけですしね。
他人を否定しないところ、よきです。応援してあげたくなりますもの。
バンド女子たちの楽しい日常みたいなのも描けているし、
ちょい年上のおねいさんを登場させることで、
女子高生のみの『狭い価値観』に縛られない奥行きもしっかりと。
ボケとツッコミのセンスや会話リズムは耳に心地よく、
ちょっとダークな厭世ギャグも嫌味がなくて、安心して楽しめます。
きらら枠に期待されているであろう女の子のきゃぴきゃぴ感も出ているし、
ライブシーンは映像・音楽ともリアルかつカッコいい。
顔芸演出が多すぎ・ひつこい以外、欠点らしい欠点が見当たりません。
ですから作品単体で評価した場合、
僕のおすすめ度は、ほとんどSに近いレベルのAランクです。
とくに視聴者を選ばない、万人向けの楽しい一本ではあるまいかと。
萌え、青春、ギャグ、そして耳になじみやすいPOPロックと、
一つ一つの要素を丹念に磨き上げて詰め込んだ、
海原雄山もびっくり、至高の幕の内弁当みたいな仕上がりになっております。
全編を流れる音楽、音作りは丁寧そのもの。
第八話、初ライブのノってない演奏や徐々にキレを取り戻すボーカルなど、
別どり収録して説得力をもたせているのは、ぱちぱちぱち。
ときおり覚醒するぼっちのギターも『女子高生離れ』しているし、
一回だけ登場したSICK HACKなんか、ちゃんとサイケロックになってますもの。
{netabare}
ちなみに最終話でぼっちが演ったボトルネック、
あれ、カップ酒のビンでやるの、けっこうムズカしいと拙は思います。
ふつうは専用の器具を指にはめてやるんですよね。
僕は薬指にはめてやるんですが、
全然、まるっきり、きれいに鳴らないんだ、これがまた。
{/netabare}
音楽を支える映像・作画も充分に及第点。
動かしやすくするためにあえて線の少ないキャラデにしたらしいけど、
違和感なく、萌えは萌え、ライブはライブでさまになってます。
特にライブシーン、ぼっちがカッコいいのはもちろんだけど、
リズムセクションの二人、
ドラムとべ-スが時折り視線を交わして確認しあうところがステキ。
ていうか、喜多郁代を除く全員(SICK HACKも含む)の、
ステージで演奏している立ち方がすごくキマっているんですよね。
日常パ-トと全然ちがう。デッサン、すげえそす。
その喜多ちゃんも、ギタ-を弾きなれてきた最終回では、
ライブの立ち姿が格段にキマってきていて、
このあたりの繊細な描き分け、ものっそいこだわりだなあ、と。
役者さんもかなり頑張っています。
個人的にMVPをあげたいのは、伊地知虹夏役の鈴代紗弓さん。
このバンドの編成って、実は虹夏しかツッコミ役がいないんですよね。
おなじく陽キャラで口数の多い喜多郁代(長谷川育美さん)は、
かぶり回避のためノリボケに振りぎみなわけで。
日常会話パ-トがあれほど自然に楽しく回ったのって、やっぱ鈴代さんの手柄かと。
そして、ヒロイン後藤ひとり役の青山吉能さん。
デビュ-作『Wake Up, Girls!』で山〇寛に散々ミソつけられただけに、
いい役引けてよかったなあ、と。
まだまだ26歳と若いだけに、歌や音楽に色気を出さず、
きちんと芸を磨いて『役者』としての地盤を固めて欲しいものであります。
それと、山田リョウ役の水野朔さん、
どっかで見た名前だと思ったら『後宮の鳥』柳寿雪役だった人ですね。
特別うまいわけじゃないけれど、声に表情と味があり、
まだ23歳だけに、磨き方次第で大化けする可能性がある逸材かも。
(ただ、所属がSMAだけに、
楠木ともりさんみたく音モノ仕事ぶっこまれそうなんだよなあ)
あと、JKじゃない『大人チ-ム』に、
内田真礼さん、小岩井ことりさん、千本木彩花さんと、
キャリア充分の演技派をもってきたところも、ナイスチョイスかと。
それぞれが自分の立ち位置をしっかり演じてるおかげで、
結束バンドの『地に足がつききらない若々しさ』がうまく浮き上がっています。
と、いうことで、かなり褒めっぱなしの本作なのですが、
それじゃ『けいおん!』なみのインパクトがあったのというと、
最初に書いたように、それほどでもないわけであります。
こっから先は作品単体の評価じゃない『比較論』ですから、
まるっとネタバレで隠しておきます。
読んでも読まなくてもまるっきり問題ありませんし、
本作が『すごく楽しい・よくできている』という評価は変わりませんから、
そこんとこはヨロシクだもの。
{netabare}
拙が愚考いたしますに、
本作って全体的にいい意味で、そしてちょいネガティヴな意味で、
『無難』『平穏』なモノづくり、なんですよね。
原作のよさを最大限に生かすべく、
バンド女子のあるあるを前面にフィ-チャ-してみたり、
ぼっちのキャラクター性をコミカルに描いてみたり、
キモであるライブの音源に徹頭徹尾こだわりぬいてみたり。
つまり監督の斎藤圭一郎さんは、方向付けとして、
『与えられた素材を磨き上げて』作品を昇華させていったわけです。
これに対して『けいおん!』監督の山田尚子さんは、
原作に『足りない』と感じるところを、
4コマであるのをいいことに、拡大解釈を重ねて修正していったわけです。
足を広げて座らせたり、おカネの苦労をさせたり、
お砂糖だけじゃないところを少しずつ水増しすることによって、
キャラクターに血肉を与えていった。
そして、最大のネックである『女子高のお遊びバンド』である点。
これをEDで『将来成功してプロになった』という仮定の元、
PV形式でそれを表現していくということで、
音楽的・映像的な制限をものの見事にとっぱらっちゃいました。
最初のED曲『Don't say "lazy"』のイマジネーションあふれる映像、
とりわけ澪の『右見て左見て』カットは、
それまでのアニメの常識を覆す、衝撃的な、才気ほとばしったものでした。
曲そのものも、そして演奏も、ガチプロでしたしね。
これらによって原作には存在しなかった表現の幅と奥行きが生まれ、
凡庸な萌え四コマにびしっと芯が通り、
メリハリの利いた楽しいアニメ作品になっていったわけです。
つまるところ、
斎藤監督は『原作から想像できる最良の作品』をつくりあげ、
山田監督は『原作からは想像もできないような作品』をつくりあげた、
というのが、僕の両作品への評価です。
作品の内容は圧倒的に『ぼっち』の方が好きですし、
正直、アレなひとたちによる『けいおん!』フィーバ-にはげんなりなのですが、
それでも、たとえそうであったとしても、
モノづくりのクリエイティビティという観点からすると、
どうしても山田監督に票を入れざるを得ない、という結論になっちゃいます。
誤解のないように付け加えておきますが、
斎藤さんも、誠実できちんとしたモノづくりができる、
とてもいい監督さんだと思います。
ただ、山田尚子さんが『ばけもん!』なだけです。
だってその『けいおん!』が監督デビュ-作なんですよ?
京アニ入社して5年で監督任されたんですよ?
入社するまで芸大で油絵描いたり発泡スチロールけずってりしてた人なんですよ?
ちなみに本編に出てくるライブハウス『STARRY』、カッコいいですよね。
下北沢にある『SHELTER』が外観モデルになっているらしいです。
どこまで忠実に再現してるのかは、行ったことないのでわかりませんが。
社会に出てからって、
知り合いとか関係者に招待される以外で、
ちっこいハコのライブに行く機会ってホントありませんしね。
僕が学生の頃は実家通い、京都在住だったので
『拾得』(実家がすぐ近くだった)
『ブルーノート』(いまは奈良に移転しちゃったらしいけど)
みたいな知る人ぞ知る伝説級の、
そして激シブの店にちょこちょこ行ってました。
当時の『ブルーノート』ってかなりフランクな感じで、
お客さんが勝手に即興で演りはじめちゃって、
君、フリっつったっけ?
ギタ-だろ? 一緒にやろ~よ。
なんてあたりまえっぽく声かけられちゃったりするんですよね。
はっきり言って拙の腕前は
学園祭で英国バンドのヘタコピ演ってイキってる中坊
とトントンぐらいのものでありまして、
(運動部員の手すさびギタ-なんてそんなもんです)
カドが立たないよう笑いを取りながら断るのにけっこう苦労しました。
だってあいつら、フツーに芸大レベルのヤツばっかなんだもん。
死ぬわ。
{/netabare}