lEFUg59761 さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
様々なシーンに一石を投じる怪物動画
原作は漫画タイムきららMAXで連載されている4コマ作品。
1巻発売とほぼ同時に重版がされているほどの人気作であり、満を持してのアニメ化でした。
作者のはまじあき先生は少女漫画出身ということもあってか、トーンの使い方や構図がいい意味で男性向けらしくなく、芯のあるテーマと共にその独創的な作風が支持されています。
そんな人気作が原作理解に定評のある制作会社CloverWorksと手を組み、アニメ化するにあたって原作者と共に再構築をした結果、斎藤圭一郎監督の手腕もあって近年稀に見る名作となりました。
以下、項目ごとのレビューです
■物語……4.0
{netabare}この作品の特徴の一つとして、バランス感覚の良さが挙げられます。
それはストーリーにも影響を及ぼしており、一般受けの良いバンドものとしての展開は期待を上回って見せてくれますし、決して夢を見せるだけではない現実的な展開も用意されているので、青春物語としての強度もしっかりあります。
また、既存のきらら作品ファンを裏切らない可愛らしいシーンや、癖の強いギャグシーンも外していません。
それらが矢継ぎ早に繰り広げられるのでとにかく視聴していて飽きることがなく、視聴意欲をグングンと煽ってくれます。
この作品が流行した理由が各所で語られていますが、個人的には音楽よりもこの『飽きさせない映像』という部分が一番大きいのではないかと思っています。
そんな幅広い層に受ける脚本ですが、それ故に人によっては退屈に感じる部分も出てきてしまうのがややネックでしょうか。
過度にバンドものや青春作品として見たりすると、期待外れに感じる所が出てきてしまうかもしれません。
ベースはギャグ漫画であると言う事を念頭に置いて見れば、温度差に違和感を感じることは少なくなるでしょう。{/netabare}
■作画……5.0
{netabare}作画というよりは動画と言うべきか、様々な演出で楽しませてくれます。
斎藤圭一郎監督の手腕がいかんなく発揮され、実写やCGをうまく使う事で作画リソースを確保し、それによって生まれた遊びでアニメーターの人たちが自由に作ることができる環境を整えていることが見て取れます。
結果的に生まれたのが、とてつもない演技力を持った動画の数々です。
演出面での実写を使った象徴化、モーションキャプチャーにより人の体や動きを丁寧に模写する作画、アニメでしか表現できない崩れによる記号表現、奇をてらったわけでもないが適切で効果的なカメラワーク……
その他にも数多くの『演技』が見られ、近年稀にみる怪物動画になっています。
特にカメラワークは素晴らしく、ワンシーンごとにぴったりの構図を見せてくれるのでデフォルメされた絵柄でありながら高級感のある上品な動画になっています。
CloverWorksの描く緻密な作画は以前から話題ではありましたが、それがきらら系と駆け合わさるとこんなにも魅力的な『アニメーション』になるのかと驚くばかりです。
近年ではアニメ映画監督を中心としたリアル志向の作画が好まれる傾向にありましたが、この作品はアニメの原点に立ち返るようなユニークでワクワクする『アニメーション』になっており、純粋なアニメの魅力を再確認できる久しぶりの作品と言えるでしょう。{/netabare}
■声優……4.0
{netabare}比較的若い声優さんが多く起用されており、最近の声優さんらしいレベルの高いフレッシュな演技を楽しむことができます。
ですがそれ以上に音響監督である藤田亜紀子さんが素晴らしく、全体を通してメリハリのある演技構成になっており、多種多様な演出が為される難しい作品を完璧に乗りこなしています。
それに答える声優陣もさすがプロと思わせてくれますが、なによりもベテラン音響監督の技の光る作品と言えるでしょう。
それゆえに完全なアドリブが少なく、ガヤすら管理する徹底ぶりが寂しくもありますが、分散収録が当たり前になったこの時代を考えると仕方のない部分かもしれません。
キャストの中では特に伊地知虹夏役の鈴代さんが素晴らしく、全体の演技をリードしてくれる名演をされています。{/netabare}
■音楽……4.5
{netabare}下北沢を中心に活動するバンドものということもあって、音楽にはかなり力を入れて作られています。
具体的には主人公グループである結束バンドの技術や性格を反映させた楽曲作りを強いられており、アレンジも一人にまかせることで統一感を出す等、難解な制作であることが容易に察せられるものとなっています。
その甲斐もあってか、このアニメにぴったりの魅力的な楽曲が数多く作られ、アニメ音楽と言うよりは"アーティスト"結束バンドの楽曲として認識できるほどの解像度があるのはただただ脱帽です。
非常に残念であったのは劇伴の使い方で、話数を担当した監督によってBGMのつけ方が違う為なのか、常にBGMがなっている日本の映像作品特有の悪い癖が出てしまっている時があります。
劇伴自体は個性的なものが多く、作品テーマにあったものになっている為に非常に惜しいと言わざるを得ません。
この部分に関してはドラマチックな展開の多い2期に期待したいところです。{/netabare}
(アニメの評価からは外れますが、一応音響業界に少し勤めていた経験もあるので、1期終了後に発売されたアルバムの評価もおまけに添えておきます)
●結束バンド1stアルバム「結束バンド」
{netabare} 豪華制作陣が楽曲提供をしていることもあり、邦ロックとして十分な観賞価値のあるフルアルバムになっています。
今時ここまでバンドサウンドにこだわったメジャーアルバムも珍しく、それでいて音圧不足を感じさせない内容にしている事にまず驚きました。
久しぶりにルームリヴァーブがカッコいいロックを聴いたかもしれません。
特にOPテーマの青春コンプレックスは洋楽に多用されるverse-chorus形式でありながらJ-popの大サビを取り入れているハイブリッドな楽曲構成で、アニソンの自由さを感じさせてくれる名曲です。
また、歌詞に関しては手放しに褒められるユニークな点であると言えるでしょう。
社会的不安を抱えるZ世代の苦悩をドラマチックに描いており、歌詞カードを読むだけで鑑賞に堪えうる曲ばかりです。
評価の難しい所としては純粋にオルタナティブロックとして聞いた時、MIXの甘さや編曲のワンパターンさがやや気になってしまう点でしょう。
制作陣のインタビュー記事を拝見するに、そのどちらも意図的に「駆け出しのインディーズバンドらしいエネルギッシュな音」を狙っているが故の調整となっているようですが、つまるところ"駆け出しインディーズバンドのアルバム"というクオリティが上限になってしまっている事でもあります。
ドラムのぼやけた音像と一辺倒なダイナミクス、裏拍に囚われがちなリードギターに工夫のないバッキング、存在感あるベースはいい点ですが技術を見せつけてるかのようで違和感を覚える所もあります。
楽曲ごとの印象もすでにどこかで聞いたことのあるものばかりです。
その為、コアなオルタナ好きにも刺さるアルバムかと言われると、微妙な所と言わざるを得ないのが正直な感想です。
アニメを視聴した上でなら名盤と言って差し支えない出来をしていますが、これだけで音楽シーンに切り込めるほどの力はないでしょう。
最も、そんなガチな事を考えてしまうぐらいには邦ロックしているアルバムであり、DUBを多用する昨今のバンドサウンドに一石を投じる可能性がある意欲作ともいえるので、これだけでも是非手に取って欲しい一枚です。 {/netabare}
■キャラクター……4.0
{netabare}きらら作品が最も得意とする部分であり、やはり魅力的なキャラクターが数多く登場します。
キャラクターデザインが秀逸で、アイコンにしても真剣に描いてもそれぞれの魅力を振りまいてくれる許容範囲の広い人物が多いです。
惜しむべくは男性キャラクターが少なく、他のギャグや青春作品と比べると世界観が足りない部分ですが、裏を返せばしっかりきらら作品をしているともいえるので、好みになるでしょう。
個人的には虹夏の持つ、等身大でありながらファンタジーな女の子像は非常に秀逸だと思いました。 {/netabare}
とにかく高クオリティにまとまった作品でした。
1期だけでも十分に歴史に名を残す名作アニメですが、原作を見るに2期の方が物語としては本番であるという点が末恐ろしいです。
BECKやけいおん!等の二番煎じと勘違いしている方には、是非とも視聴してその誤解を解いて欲しい所です。
唯一無二のオリジナリティのある、2022年の怪物動画でした。