「86-エイティシックス-(TVアニメ動画)」

総合得点
83.8
感想・評価
667
棚に入れた
2255
ランキング
313
★★★★☆ 3.9 (667)
物語
3.9
作画
4.1
声優
3.9
音楽
3.9
キャラ
3.8

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ネタバレ

oneandonly さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 5.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

衆愚の卑劣に対峙する人間たちの物語

世界観:8
ストーリー:9
リアリティ:8
キャラクター:6
情感:7
合計:38

<あらすじ>
ギアーデ帝国が開発した完全自律無人戦闘機械<レギオン>の侵攻に対応すべく、
その隣国であるサンマグノリア共和国が開発した無人戦闘機械<ジャガーノート>。
だが、無人機とは名ばかりであり、そこには“人”として認められていない者たち-
エイティシックス-が搭乗し、道具のように扱われていたのである。
(公式サイトより抜粋)


いまだに定期的に「さよ朝」をキーワードにtwitterを検索しており、さよ朝に感動した方が増えていくことに幸せを感じているのですが(笑)、その中で本作も感動したとのツイートを見つけ、試しに視聴しようと思ったのが経緯です。

本作の注意点として、設定が複雑で専門用語が多いため、全体を理解するまでは混乱してしまうおそれがあります。しかし、初見では意味がわからずスルーしていた言動が2周目でその意味がわかったところが結構あり、伏線のようで楽しいので、冒頭の1,2話で意味がわからないからと切ってしまうにはもったいない作品です。もし、この機会に視聴しようと思った方は、下記の最低限の知識を持った上でご覧いただくと良いかもしれません。

○主人公の1人であるレーナ(ヴラディレーナ・ミリーゼ)の属するサンマグノリア共和国の無人兵器(ジャガーノート)は、人権を剥奪した有色人種の「エイティシックス」(86)と呼ぶ人間たちが操縦していることから「無人」との扱いで、86がいくら死のうが戦死者は0人と整理されている。共和国の国民は髪や瞳の色が白い白系種(アルバ)で、共和国は多数派のアルバが戦争の負担から逃れるため、物語開始の9年前に86の人権を剥奪し、戦役を課し、戦費を賄うこととした。

○この世界では、パラレイドという機械による交信技術があり、その機能を用いて、レーナはハンドラーと言う戦地の86の監視役の任についている。

○もう1人の主人公である86のシン(シンエイ・ノウゼン)は、東部戦線の最先端である第一戦区第一防衛戦隊《スピアヘッド》の隊長。

○スピアヘッド戦隊は既に4年以上の戦役(5年生き残れば市民権を得られる)を生き残った部隊によって組織されており、全員号付き(シンはアンダーテイカーというパーソナルネームを持つ)で、パーソナルネームと本名の2種がある。

○敵対しているギアーデ帝国の無人兵器はレギオンと呼ばれるもので、レギオンには様々な種類の機体があるが、知能の差で大別すると「羊」、「黒羊」、「羊飼い」の3種類がいる。

○ギアーデ帝国は共和国との開戦後、市民革命により滅んでおり、レギオンは主人なきまま、共和国や市民革命によって誕生したギアーデ連邦と交戦を続けている。

ここからネタバレありの感想に入っていきます。
{netabare}少し長文になりそうなので評価の概要を先に記載します。

世界観:設定はとても重く暗いですが、舞台仕掛けとしては戦争が身近となった今の時代に採り上げるべき題材。ただし、文化は現代の文明(明らかに日本と思うシーンあり)に寄っているところもありふわふわしている。作画、音楽も高い評価で8点。
ストーリー:原作ラノベ1巻を丸々1クールに充てる丁寧な構成に脚本、演出にも光るところがあり9点。
リアリティ:共和国側、86側それぞれの視点で、舞台時点のリアルを感じられる内容。通常だと主人公(シン)たちの戦闘能力の高さにツッコミが入るところ、4年半生き延びた戦闘員である設定が納得感を与えている。ジャガーノート搭乗時にヘルメットなし、羊飼いの顔・流体金属の腕表現、人間の脳を利用するレギオンの設定はちょっと抵抗あり、8点。
キャラクター:レーナとシンの主人公2人は美男美女の良キャラで、86の面々にも個性はありましたが、推しキャラは2周しても不在。キャラデザも特に追加点なく6点。
情感:1周目では泣かなかったので6点でしたが、2周目で7点に上昇。

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主人公たちのいるサンマグノリア共和国では、レギオン(帝国)の侵攻に対応するため、前述のような人種差別政策が実施され、共和国内の白系種たちは、ほとんどがこの政策に疑問を持たず、夕食種の犠牲に基づく平和な生活を享受しています。このあたり、現実世界でもユダヤ人に対する迫害・ホロコーストが行われた歴史がありますし、現在でも表層には見えない、隠された搾取というのは現実の社会にあるでしょう。共和国が採った政策は卑劣そのもので、大量の86の命の上に胡坐をかいて朝から飲んだくれる軍人などを見るにつけ胸糞が悪くなりますが、リアリティがある設定です。

そんな環境の中、レーナは人種差別や86を犠牲にする作戦に疑問を持ち、86を人間として尊重し、毎晩通信をつなぎ信頼関係を築こうと努力しますが、戦場から離れて安全が確保され、ケーキを食べられる状況は到底フェアなものではなく、戦死者に対し「残念でした」としか言えなかったことで隊員の1人から罵倒され、名前すら聞いてないことを指摘され愕然とします。

並みの人間であればここで折れてしまいそうですが、レーナは踏ん張り、次の日も通信をつなぎ、隊員全員の名前を確認します。心を整えて全員と通信をつなぐところでEDとなりますが、ここの入りが印象的でした。振り返ると、第3話のEDの入りも絶妙で、レーナの視点と86側の視点を交差させて同じ会話の双方の状況を描いていく方法により理解が深まりました。

当方は原作未読ですが、時系列が整理されて再構成されているそうで、本作はアバン、OP、Aパート、Bパート、ED、Cパートが駆使され、構成に(特に1クール目)無駄が感じられない等、脚本に制作者のこだわりを感じられるほか、例えば、カイエがジョーカーを引いたり、残酷な台詞の場面で食事シーンを映すなどの演出も印象的です。

4話に戻ると、自身の非礼を詫びて名前を聞くという行動から、レーナの芯の強さが理解でき、また、このようなレーナの86への態度、行動が徐々にシンをはじめとするスピアヘッドの隊員との距離を縮め、心を許すまでとはいきませんが、信頼関係に繋がっていったことが自然と伝わりました。特殊弾頭(花火)を届けるために、慣れない嘘や賄賂を使うレーナは微笑ましく、最終局面では、人員補充が叶わずにその理由を知るや、親友を脅迫して危険を顧みずに視覚の同調を行って、迎撃砲を無許可で使用してスピアヘッドの窮地を救い、また、倒れたシンを目覚めさせ、兄の弔いに一役買うことができました。

7話でようやくレーナ(視聴者)が知ることとなるスピアヘッド戦隊の真実は、これまた卑劣そのものなのですが、86たちはその真実を既に知っていて、殺されることがわかっていても、誇りのために、任務を全うして死ぬことを選んだと言います。

ここを共感できるかは個人差があるかもしれませんが、逃げても背後には地雷原と、幼い86の居住区があるため、逃げることもままならない状況であり、また、この世代の86は物心つく頃には既に現状があって、多くの仲間の死を見てきて死が身近であること、アルバへの対抗意識が、アルバがするような卑劣なことをしないという矜持に繋がっただろうことが想像され、理解できました。(日本でも、戦国時代や幕末には、武士は死に場所を探すという意識があった。)

アルバであるレーナが卑劣な現実に抗おうとする一方で、86たちは現実を受け入れているのは奇異ですが、「早いか遅いかの違い」にすぎず、今ある日常を楽しんでいる姿は考えさせられるものがありますね。

いずれにせよ、86を使い潰して自分たちだけ安寧な生活を送ろうという政策が通ってしまったのは、衆愚政治これに極まれりで、救いなく窮地に追い込まれていくストーリー展開はまどマギを彷彿とさせました。つまり、私にはドストライクな物語なのですが、やはり生死に瀕さなければ人間の本質が出てこず、深まらないのかなと思いつつ、登場人物に不幸を与えなければ物語を進められない創作者及びそれを楽しむファンの業を感じられ少し後ろめたくも思います(人間の被害者は0人です!が)。

サンマグノリア共和国の5色旗は「自由」「平等」「博愛」「正義」「高潔」を表していましたが、86への行いはその対極でした。ミリーゼの叔父の言う通り、この理想は早すぎたようです。叔父の発言は識見のある大人を代表していたと思いますが、国が腐っていて終わっていることは理解しつつ、それは国民が望んだものだから変えられないと諦めている(結局自分ごとと捉えられない)のは多数決による民主主義の限界なのでしょう。(実質を含む)独裁政治のほうが危険であることは歴史を紐解けば明らかですが、マシな選択をしているにすぎないということは認識しておく必要があります。

さて、終盤、スピアヘッド戦隊が最後の任務に就くところ、食堂や談話室に誰もいなくなり、黒板がまっさらになった描写、死に赴く面々の清々しさは沁みましたね。

レーナが仲間と考えてどれだけのことをしても、スピアヘッド戦隊は終わりない進軍を命令され、共和国から通信で確認できるエリアを越え、両者には別れが訪れます。

その後はファイド視点でのこれまでの映像が走馬灯のように映し出され、レーナが彼らのいた場所を訪問して彼らの写真を発見するという1クールの締め方も綺麗でした。シンは、レーナが来てくれると思えたということで、2人の信頼関係の高さが感じられました。

本作は劇伴も良かったです。音楽を担当したのは澤野弘之氏とKOHTA YAMAMOTO氏で、二人は進撃の巨人や甲鉄城のカバネリ等も一緒に手掛けていて、特に澤野氏はその音楽を絶賛する意見を多く見かけました。今回初めて認識しましたが今後も二人に注目したいと思います。特にED「Avid」は、悲哀だけでなく希望も感じさせるもので、(2クールでの起用も大きかったですが)どんどん心地よくなりました。

2周目はあらゆる言動の意味がわかる(ハンドラーを辞めさせるために、黒羊の声を聞かせようとしたり、スピアヘッド戦隊の真実を伝えるべきかと話しているシーン、シンが仲間を撃ち殺したり、死んだ仲間の機体に名前を掘って持っているシーンなど)ので、1周目では響かなかったところで涙が出たりしました。

当初の設定からは描くべきところの多くは描けたようにも思われましたが、まだ1期の折り返し。主人公たちの安否と今後の展開が気になった1周目でした。
{/netabare}

私の好みの作品が被っているような、シリアス展開が好きな方は楽しめる作品ではないかと思われ、そういう方にはおすすめできます。逆に、重すぎるストーリーが苦手な方にはおすすめしません。

第2クールの感想に続きます。

(参考評価:3話4.1→4話4.3→5話4.4→7話4.5→9話4.6→10~11話4.5)1周目は4.3でした。
(視聴2022.8)

投稿 : 2022/08/28
閲覧 : 300
サンキュー:

22

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