さざなみ さんの感想・評価
4.4
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:----
百合作品にとどまらず恋愛作品としても大傑作
「やがて君になる」という作品を味わう上でまず大前提として抑えないといけないのは、橙子先輩はこれまで幾度となく告白されてきて全て断っているということ。普通の恋愛じゃダメなんですね。
というのも橙子先輩は周りの人から見れば容姿端麗・頭脳明晰の完璧人間ではあるものの、本当はプレッシャーに弱い小心者で周囲が思い描く理想とのギャップを努力で埋めているだけの人物であることが描写されています。
これは姉が亡くなったことを自分のせいだと思い込んでいる橙子が「私が姉の代わりにならないと」と考えているからです。
そして橙子は姉の仮面を被って生きている臆病で凡庸な自分のことを嫌っています。
つまり橙子にとって「好きだと告白されること」は姉の仮面を被った自分に好意を寄せられることであり、本当の自分に寄せられた好意ではないんですね。
彼女にとってこれまでの告白は仮面を脱ぐことを許されない束縛でしかなかったということです。
逆に相棒ともいえる佐伯先輩には自分の弱みを見せている訳ですが、仮面の下の本当の橙子を好きになるということは、仮面を被り姉のように振る舞うことに全てを捧げてきたこれまでの人生の全てを否定されることになります。
ここの部分は6話ラストで小糸侑への「私のことをどうか好きにならないで」に繋がります。
そこで他人からの好意がそれぞれ仮面の自分と裏の自分を否定するものでしかないという橙子が出会ったのが、「好きを知らない主人公・小糸侑」です。
橙子は他人への好意を知らないかつ自分のことを無責任に否定してこない侑に惹かれることになります。
ここから物語がスタートしていく訳です。
またラストが微妙だと頭ごなしに否定する人もいますが、そうではありません。
最後の「先輩、そろそろ乗り換えですよ」という台詞は電車の乗り換え的な意味はもちろん、未だに姉の仮面を被ることに固執し、そんな自分を嫌っている橙子に「自分を変える時だ」と語りかけているようにも見えました。
またこの時はまばゆいばかりの黄金色で包まれていましたが、13話の前半で「劇が終わってしまったら私はどうなるんだろう」と考えながら一人で電車を待つ橙子の様子を暗い色彩で描いていた対比にも注目したいところです。
このように例を挙げるとキリがないですが、台詞のみならず風景描写の一つ一つに意味があり、こちら側が気を抜くことを許してくれません。