フリ-クス さんの感想・評価
4.4
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
求める者と与える者との繊細なラブストーリー
ずっと昔、国際ジャーナリストの落合信彦氏が、
アウン・サン・スー・チー氏に
「愛とは何ですか」と質問したことがあります。
スー・チー氏はそれに対し、間髪入れず、こう答えました。
「与えることです。惜しみなく与えることです」
すっごく衝撃的でした。
同時に、自分の若い頃が恥ずかしくなりました。
だって、それとは真逆のことばかりしていましたから。
好きだから、いつでも一緒にいたい、癒してほしい。
好きだから、料理やお弁当を作って欲しい。
好きだから、えっちがしたい・心も身体も繋がっていたい。
それってつまるところ『求めることばっかり』ですよね。
もちろん相手を喜ばせることは、
それなりにしていました。
だけどそれは、今にして思えば『愛情の発露』なんかじゃなく、
相手に求めることへの『対価』あるいは『免罪符』
であったような気がしてなりません。
いやあ、若気の至りってほんとこわいわ。
てか死ぬほど恥ずかしい。
さて、本作の話ですが、端的に言うと
この作品は『求める者』と『与える者』のお話です。
そして『与える者』である侑の足の置き場が、
少しずつ『求める者』である燈子に引き寄せられていく様が、
緻密に、そして美しく描かれていきます。
{netabare}
そして、引き寄せられるほどに突き付けられる、
絶望的なパラドックス。
燈子は『誰のことも好きになれない』侑だからこそ好きになり、
「私を好きにならないで」と侑に言い放ちます。
だから、侑が燈子に好きでい続けてもらうためには、
好きになっちゃいけない、
好きになってもその気持ちを伝えちゃいけない。
このパラドックスは、ある意味『地獄』です。
ロミジュリなら生まれた血筋とか社会のせいにできます。
血のつながった家族なら『倫理』、
親友の恋人とかなら『友情』、
とりあえず二人の間にある障壁を共通の課題として、
余計にもりあがることすら可能です。
だけどこのパラドックスは、誰のせいにもできません。
それどころか、
二人で一緒に悩むことすら許されない。
自分の気持ちを殺して与え続けることでのみ、
維持できる関係性。
そこにもがき苦しみながらも、
侑は燈子を「変えたい」と願います。
それは、一つには侑の『自分のため』でもあります。
本人もそれを『傲慢』『わがまま』と称していますしね。
だけどそれ以上に、
自分の好きな燈子のことを燈子自身に好きになって欲しい、
という純粋な気持ちが侑を突き動かしています。
つまり、ここでも侑は、
自分から進んで『与えよう』としてるのです。
恋愛とは『求め合う』ものだという概念を飛び越え、
全く新しい天秤の形を創造した原作者の仲谷鳰さんに、
心から敬意を表したいと思います。
ストーリーがいいから、当然、脚本もよくなります。
そして、脚本がいいと、役者のお芝居もよくなります。
特筆すべきは、侑役、高田憂希さんの基礎声質のすばらしさ。
五話冒頭、店番しているシ-ンのモノローグなんか、
特別な芝居は何もしていないのに、ぐいぐい惹き込まれます。
燈子を演じた寿美菜子さんも、好演でした。
そして、なんと言っても
沙弥香を演じた茅野愛衣さんがどハマり役です。
言葉の温度というか、寒暖のつけ方がほんとうにすごい。
さらに言うなら、OPの映像美にも思わず息をのみます。
女の子、花、学校、それだけの単純極まりないモチ-フなのに、
ほとんどアートと呼べる域にまで達しちゃっています。
ほめどころ満載の本作品で唯一残念なのは、
おそろしく『続きが気になる』ところで終わっていること。
いまのところ二期決定の報もなく、あんまりだ。
ただ、それを考慮しても、本作は『お薦め』の一本です。
ハ-レム大好きロボメカ大好きという方にはお勧めできませんが、
それ以外の方、
繊細に『人』を描いたドラマ好きな方なら好適かと。
全部見終わった後でコ-ヒ-を淹れ、
『愛とはなんぞや』みたく、
青臭いテ-マに思いを馳せてみるのも一興かと存じます。
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ところで、この作品はいわゆる『百合アニメ』に属しています。
僕は、好きになった相手が『たまたま』同性だっただけで、
女同士であることは作品の本質に関係ないんじゃないか、
そんなふうに考えていたのですが……
[燈子が『男』だった場合]
いわゆるイケメンで文武両道のスーパ-生徒会長さま。
そんなやつが後輩になに甘えとんじゃ、という話になりそう。
僕を好きにならないで、とか言いつつ侑にキスするとか、
外道街道まっしぐらすぎる。
[侑が『男』だった場合]
根が寂しがり屋の美人生徒会長に翻弄される淡泊美少年。
それはそれでアリな設定かも知れないけれど、
少なくとも世界観はまるっきり別のものになっちゃいます。
てか、それってレディコミの設定じゃね?
[どっちも『男』だった場合]
特定の方々御用達。アニメ化すんなよ。
という結論に至りましたので、
やっぱり『百合』であることは必然ではないかと。
というか本作って
絶対に『百合でしか描けない世界』なんですね、
納得です。う~む。
{/netabare}