「やがて君になる(TVアニメ動画)」

総合得点
82.0
感想・評価
678
棚に入れた
2493
ランキング
384
★★★★☆ 3.8 (678)
物語
3.8
作画
3.8
声優
3.9
音楽
3.8
キャラ
3.9

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ネタバレ

キャポックちゃん さんの感想・評価

★★★★☆ 3.1
物語 : 3.5 作画 : 2.5 声優 : 3.0 音楽 : 3.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

日常性を描いた百合アニメ

【総合評価☆☆☆】
 女性同士の親密な関係を主題とするいわゆる「百合アニメ」は、これまで数多く制作されてきた。だが、登場人物の心理を細やかに描出し、最上級の文学に劣らない感銘を与えてくれる作品は、(他ジャンルならばいくつもあるのに)百合アニメにはほとんど見当たらない。理由を推測するに、制作サイドが女性同士の恋愛感情を的確に把握できていないからだろう。
 女性同性愛者を含むLGBTの割合がどれくらいか、さまざまな調査が行われているが、かなり信頼できるデータとして、7~8人に一人という数字がある。「生涯の一時期に異性よりも同性に惹かれる体験をした」という緩やかなケースならば、3割以上とも言われる。つまり、同性愛とは、異常でないのはもちろん、少数ですらない。ごく身近に存在する当たり前の恋愛であり、日常的な出来事として描かれて然るべきなのだ。
 ところが、百合アニメでは、制作する側が(恋愛以前のケースも含めた)女性同士の親密さを特異なものと感じるせいか、意図的に日常性から遊離させた表現が少なくない。乙女たちの夢の園を具現させた『マリア様がみてる』は、親しみやすくはあっても過剰に理想化されている。「同性愛者である同性への片思い」という報われそうで報われない恋心をアイロニカルに描いた『ささめきこと』は、肝心な場面でギャグに逃げてしまう。『ユリ熊嵐』は、アニメとして優れているものの、同性愛は現代社会の不寛容を炙り出すためのきっかけでしかない。他の百合アニメも、現実離れした理想化やギャグへの逃避、あるいは身体的接触の過激な表現に重きを置き、女性同士の内面的関係性を深く掘り下げることはない。私の知る限り、唯一の例外は、女子高生同士の友情以上・性愛未満の関係を儚く美しく描いた傑作『青い花』である。
 『やがて君になる』は、女性同士の交流を日常性の中で表現した、比較的真面目な百合アニメと言って良い。メインになるのは、美人で成績トップ、周囲の信頼も厚く生徒会長を務める一見完璧超人の燈子(高2)と、恋愛感情が理解できず一見クールな侑(高1)。この二人の、ちょっとちぐはぐな関係が作品の軸となって、それなりに楽しめる。
 ただし、ドラマとしては批判したい点がいろいろとある。
{netabare} 燈子が完璧に見えるのは、生まれつきの才能によるのではなく、優秀な姉への過剰な思いにせかされ、懸命に演技しているから。これは、少女マンガ(例えば大島弓子『草冠の姫』)で繰り返し描かれてきた性格類型であり、特に目新しいものではない。私は、このタイプの人間を良く知っているが、外骨格で身を護ろうとするので、内面は脆い。燈子は、まさにその通りで、自分を型にはめて見ない侑に対してのみ気を許し、まるで小さな子供のように甘えたがる。問題は、外面と内面の乖離という心理的特性を持つ主人公を登場させたにもかかわらず、これがドラマに生かされないところである。
 外骨格キャラは、常に身構えて生きているので、一般に自己抑制が効く。にもかかわらず、燈子の行動パターンは、すぐに侑とキスをしたがるなど、設定されたキャラにそぐわないように見える。体育祭のリレーで敗れたときには、子供っぽい素顔を人前でさらけ出してしまう。 {/netabare}
 燈子が自分を厳しく律して、特別な状況下でしか甘える姿を見せないならば、彼女の素顔がどんな状況であらわになるかを巡って、緊張が生じるだろう。だが、こうしたドラマチックな要素は、ストーリー展開に利用されない。
 おまけに、侑は少々のことでは動じないクールな性格であり、燈子が一方的に甘えてきても、大した葛藤なしに突き放してしまう。こうして「甘えと突き放し」が何度も繰り返されるだけで、物語の転機はなかなか訪れない。作者は、二人の関係性を変化させるために、部活対抗リレー、生徒会劇、合宿など、きっかけとなるイベントを次々と導入するものの、いずれも、内面的な緊張から生まれた行動ではないため、一貫した心理ドラマにはならず、単にイベントの連鎖だけで話が進むように感じられてしまう。
 ストーリー展開に緊張感が欠けるとしても、作画によってキャラの内面をえぐり出すことは可能なはずだ。私が百合マンガの最高傑作と高く評価する吉田秋生『櫻の園』では、二人の女子高生が「大好きよ」「うれしい もっと言って」と言葉を交わすときの表情や手の動き、首のかしげ方などによって、彼女たちの心理がくっきりと浮き彫りにされる。しかし、アニメ『やがて君になる』では、こうした細部の描写が不充分で、燈子と侑は、いつも同じような表情にしか見えない。女性同士がどのような感情を抱いて向き合うのか、アニメーターが理解できていないようだ。
 こうした中で、第6話「言葉は閉じ込めて/言葉で閉じ込めて」だけは、例外的にドラマチックである。自販機ルームで燈子の“親友”である沙弥香が侑に厳しい言葉を投げかけるシーンでは、突然、画面が90度回転して、侑を圧倒する沙弥香の気迫が画面に満ちる。あるいは、飛び石の上で燈子が「そんなこと、死んでも言われたくない」と口にした瞬間、鉄橋を通過する電車の風圧で髪が乱れる。こうした描写の一つ一つが、彼女たちの心の内をあらわにする。第6話が突出して優れているのは、絵コンテを担当したのが、あおきえい(『空の境界 俯瞰風景』『Fate/Zero』)だったからかもしれない。あおきの監督作品には、トランスジェンダーの少年少女を優しく見つめた秀作『放浪息子』があり、彼が、疎外される者の内面を描き出すことに手腕を発揮するアニメーターであることがわかる。この水準の作画が続けられたならば、もうワンランク高い評価を付けられたのだが。

投稿 : 2019/01/01
閲覧 : 258
サンキュー:

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