Dkn さんの感想・評価
3.7
チェコのストップモーション・アニメーション作家、映画監督の『イジー・バルタ』は、約二十数年もの間この作品への情熱を注いでいた。実写とストップモーション・アニメーションの融合である『ゴーレム』。この作品は制作当初90分の長編映画として制作されるはずだった。しかし、1989年に起きた共産党政党の崩壊により制作が滞る。国からの安定的な資金の供給が途切れてしまったことにより、資金集めに奔走するが、娯楽の中心ではないアニメーション映画という性質のために資金が集まることはなかった。皮肉として共産主義の恩恵に預かり育った作家といわれたイジー・バルタ。国に保証された作家性と芸術性を備えた作品は、政治の変動があった時から無用の長物として淘汰されていく運命にあったのかもしれない。
インタビュー“唯物論に対するマジック”では、彼が今まで辿った道のりや創作してきた作品,技術論と共に、未完成である『ゴーレム』についても言及した文面がある。ユダヤ教の伝承で語られる泥人形のゴーレムは、経典「タルムード」の中で神が大地からアダムを生み出す前の胎児であったという。だが彼が表現したかったものは、19世紀に活躍した作家「グスタフ・マイリンク」の著作「ゴーレム」から着想を得たものであった。自身に寄り添うもうひとりの自分とも言える存在、心的な不安や病巣を写す幽霊のような自我、実体なきドッペルゲンガー。謎の男から、イッブール(霊魂の受胎)という本を渡された主人公は自身に振りかかる奇妙な出来事に対して一つの答えを得る。それが「ゴーレム」という存在だった。直面した謎や主人公に起こる苦難を経てのカタルシスは秀逸であり、映像化に踏み切る事も頷ける刺激的な作品。このゴーレム(パイロット版)からも大きく影響を受けた事が見て取れる。
このパイロット版で用いられる手法はチェコアニメーションで多く見られる実写とアニメーションの融合、そして実写から転写したレリーフによる強烈なクレイアニメーションだった。同作者の「手袋の失われた世界」や「最後の盗み」などの実写がメインの作品や、人形アニメーション主体のストップモーション・アニメーション「笛吹き男」なども秀逸な作品。現在は「ゴーレム」の制作は頓挫してしまい、次作に取り掛かっているという。「屋根裏のポムネンカ」「雪女」以降、大きな動きが無いためファンは新作を待ち望んでいる状況だ。
camuson さんの感想・評価
3.5
レリーフ(クッキーみたいな平べったいもの)の組み合わせでつくられた
愛嬌ある動物キャラクターが、絵本から飛び出して動き回るかわいらしい作品。
外国人が、かわいいつもりで描いたものが、
まったくかわいくないという現象が、
たびたび起こることはよく知られるところですが、
この作品は、なかなか、かわいくできています。
特に途中から出てくるネコがいいですね。
これが、作者の感覚によるところなのか、
レリーフという表現手法が、たまたま、
リアルな表現、立体的な表現を抑制してくれたからなのか、
よくはわかりませんが、成功してると思います。
レリーフの素材がよくわからないのですが、
丁寧な職人の仕事感と、手作り感のバランスがなかなかいい感じです。
あえて伸び縮みしないレリーフを使って、
動物の柔らかい動きを表現したところにセンスを感じました。