101匹足利尊氏 さんの感想・評価
3.9
知能より心を選抜する驚異の惑星システム
【物語 3.5点】
今冬放送された1クールTVアニメ版の劇場版完結編。
良く言えば王道。悪く言えば昭和のジブリの焼き直し。
超古代文明の知識や力に陶酔した野心家の凶行に、
ピュアなボーイミーツガールが立ち向かう典型的な構図が継続。
本シリーズならではの個性を見出すとすれば、
この星に“賢者”たちが組み込んだシステムが、大願成就の最大の障害を人間の欲望に設定し、
心の清らかな人間にのみ核心的な権限を与える選抜機能を組み込んだこと。
これにより力なき少年少女が奇跡を起こすお約束を、
シナリオの都合ではなく、先人たちが遺したシステムも後押しした必然として展開可能に。
とは言え、マイペースなカイナでも容易に潜入できる警備甘すぎな敵アジトなど、ツッコミ所はチラホラ。
“大軌道樹”での駆け引きも地階と上階を行ったり来たりする、世界の命運をかけるにはスケールが小さく単調な感じ。
正直、結局最後に2人で{netabare} バルス{/netabare} やりたかっただけでしょうwという私が抱いた邪念を振り払うには、もうワンパンチ足りない印象。
例えば最後は天膜上の宇宙空間でやり合うなど、もう少し多彩なロケーションで没入させて欲しかったなとは思いました。
解答編としては、概ね全ての謎について答えを示唆する材料は提供されました。
予想通りの{netabare} テラフォーミング{/netabare} でしたが、{netabare} 磁場の安定{/netabare} までプランに入っていた。
軌道樹に反応する“コンパス”も伏線だったなど意外な設定も開示されました。
一方で“ひかり”を基軸にした心の良し悪しを選抜するシステムのメカニズムなど不明点も残されました。
ただ、こちらについてはオープンにされないままで良かったとも感じています。
深読みすると、心の選抜システム周りには、知識の制限と文明後退により、人類を無垢の赤子に精神浄化するプログラムも含まれると思われるわけで。
これって一歩間違えばクメール・ルージュにも通じる危険思想を“東亜重工”のAIに持たせるってことですからねw
{netabare} 心が汚いとみなした人間の脳を幻覚も交えてぶっ壊す“亡霊”システム{/netabare} とか背筋が凍ります。
本当は怖い『大雪海のカイナ』よりも(※核心的ネタバレ){netabare} カイナとリリハの結婚{/netabare} という若者の前途を祝した方が後味爽やかですから。
【作画 4.5点】
ポリゴン・ピクチュアズによるCGアニメーション。
惑星全体に組み込まれた賢者のシステムが稼働する描写は圧巻。
巨大ロボ枠の“建設者”も大量動員されバトルを盛り上げる。
SFアニメとして申し分ない劇場版クオリティで魅せる。
ですが私がTVアニメ版に引き続き魅入ったのは人物の表情描写。
アメロテさんの面従腹背の表情は相変わらず含蓄があり読み解きがいがあります。
本シリーズは空から少女が降ってこないで浮上して来るなどの逆転発想の映像が面白い要素ですが、
劇場版でもユニークな映像で、{netabare} “大海溝”{/netabare} ってこっちだったのねwって感じで刺激を与えてくれます。
生物では雪海馬の成獣・大雪海馬が活躍。
馬というよりほぼ首長竜って感じで古生物ファンの私の心をくすぐります。
{netabare} 船に大浮遊棒として使用された大雪海馬の首に反応して寄ってきた
大雪海馬の番(つがい)を眺めて、ロマンとカイナへの好意を感じるリリハ様の赤い顔。
そんな乙女心に気が付かないカイナw{/netabare}
大雪海馬を材料に設定面でも恋愛面でも独特かつ印象的な映像が構築されていました。
【キャラ 3.5点】
劇場版のラスボス・ビョウザン。
大きな犠牲を払う“事業”に勤しむ野心家。
TVアニメ版・ボスのハンダーギル同様、人の心を軽んじて墓穴を掘るパターン。
異なるのは、ビョウザンも昔は“ひかり”が見え、純粋に知識で世界を良くしようと行動していた点。
より情状酌量の余地があるボスキャラで、勧善懲悪な明快さはやや弱い印象。
そう言えばハンダーギルには“建設者”の暴力的なシステムに精神を蝕まれ狂気を深めるといった設定がありましたが、
ハンダーギル以上の東亜重工製品ヘビーユーザーであるビョウザンは案外、自我を保っていた感じ。
リリハは自らの判断により人々が傷つくことを悔やみ、これが弱さだと卑下する。
アメロテは先祖伝来の賢者の鎧の力を受け継ぎながら、祖国を滅ぼした敵に助力してきたことを自嘲する。
2人のリーダーの率直な会話が印象的でした。
決断の結果傷ついた人々の心を無視しないリリハは弱くない。
本作や惑星システムが重視する心の在り方を象徴しています。
恋愛面では、カイナとリリハの関係進展の予感を横目に、
オリノガがアメロテさんの攻略を開始。
乙女なアメロテさんを目撃したい方は劇場に急ぎましょうw
【声優 4.0点】
CGの調整力を生かしたプレスコ収録。
ボスキャラ・ビョウザン役には花江 夏樹さんを起用。
割りとヒーロー役も務めることが多い声優さんですが、
本作では外面が優しいサイコパスを好演。
そんな息子を憂う母親役には桑島 法子さん。
清らかな母に語られると、ますますビョウザンが倒し辛くなりますw
主人公・カイナ役の細谷 佳正さんの飄々としたピュアボイスは健在。
{netabare} 精神を蝕む“亡霊”が出る“関門”{/netabare} という極悪なブラック労働環境に放り込まれる時も淡々としていて、
ある意味、頼もしいような怖いようなw
リリハ様の弟・ヤオナ王子役の村瀬 歩さんにも終盤意外と見せ場あり。
{netabare} 建設者と“シンクロ”して絶叫する熱演が様になっていました。
彼の演じるロボットアニメなんかも是非見てみたいです。{/netabare}
【音楽 4.0点】
劇伴は長瀬 みさき氏とKOHTA YAMAMOTO氏の楽曲が大多数。
澤野 弘之氏はメインテーマとそのバリエーションを提供するだけという体制が継続。
ですが、そのメインテーマをOP曲にした導入は上々のスケール感。
要所を締める役回りでも結果を出す辺りは流石。
ED主題歌はヨルシカ「月光浴」
一聴しただけでは解釈し切れない詩的なラブバラード。
ただ一つ感じるのはカイナよ、リリハ様の気持ちにようやく気が付いたのかという感慨。