101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.4
突然変異が世界を変える驚異を活写した快作
野生の島にて、目覚めた人間生活アシストロボットのROZZUM(ロッザム) 7134(ロズ)が、
自然界にアジャストできずに、もがきつつも奮闘し、
やがて自身にも周囲にも大きな変化をもたらしていく、
米国のSF児童小説『野生のロボット』(2016、未読)の劇場アニメ化作品(102分)
【物語 4.5点】
イレギュラーな存在が、科学、自然、双方に変化をもたらす、懐の深さが、
作品のスケール感につながっている。
野生で活動するロボットが{netabare} 雁(ガン)の雛鳥の子育て{/netabare} を通じて、
プログラムを超えた心を獲得していく。
ここまでなら近年量産されている、凡庸な多様性映画でもできる芸当。
が、本作が非凡なのは、変化を迫られるのが科学サイドのみに留まらず、
ロボの言動を受容した自然界もまた、
弱肉強食の掟を超えて変容していく点にあると感じます。
これが凡作なら、自然は大事だ、科学文明が変われと一方的に説教する、
自然共生ならぬ自然“強制”作に終わっていたと私は思います。
昨今、自分たちのイデオロギーは正しく、変化すべきはお前たちだけだと、
糾弾しあって、分断を深めている輩にはない、包容力が本作にはあります。
近頃は、私も、ポリコレアレルギーをこじらせて、
多様性を押し付けるななどと、方方で毒を吐いておりますが。
本作の、この文脈なら、イレギュラーも受容する寛容さこそが、
社会や世界の進化をもたらすのだというメッセージも素直に受け入れられます。
上記のような捻くれ者の感想はさておきw
本作は、人とAIの関係といったトレンディなテーマから、
親子愛などの普遍的なテーマまで、
幅広い層に思い出となる要素が敷き詰められた王道娯楽作。
洋画離れが叫ばれる今日この頃ですが、
久々に洋画で世界の人々を一つにでき得る作品が公開されたと嬉しい気持ちになります。
【作画 5.0点】
アニメーション制作・ドリームワークス・アニメーション
例えばディズニー映画『塔の上のラプンツェル』のランタンを上げるシーンなど、
後々まで語り継がれる作品には、アイコンとなり鑑賞者の心に刻まれる名場面があるものですが、
本作の場合は、サムネにも描かれている{netabare} 雛から育て上げたキラリが、ついに雁の渡りに参加して飛び立つのを両手を広げたロズが並走しながら見送るシーン{/netabare} が該当するのではないでしょうか。
あのワンカットだけで、描いた鳥・28,000羽超、羽の総数1億オーバーを費やしたという渾身の一撃。
私の胸にもしかと刻まれました。
圧倒的物量で押す力技だけでなく、ロズの瞳の“表情”など心情描写の小技も巧み。
ここまでならまだ4.5点なのですが、満点まで突き抜けたのは、
フォトリアル風と絵画調の使い分け。
リアルタッチで無機質なロボット・ロズの描写に対して、
島の動物たちや背景美術はマネ、モネなど印象派の画風も彷彿とさせる有機的なタッチ。
ロズが厳しい自然界で生きる内に、“生傷”も増え、年季が入り、
キャラデザの面でも有機的な野生の色に染まって行く。
科学と自然の融合と変化という作品テーマを、
作画、背景も体現しているのがお見事でした。
そのグラデーションを感知できたドルビーシネマ鑑賞。
追加料金に見合う価値は十二分にありました。
【キャラ 4.5点】
私が一番好きなキャラはキツネのチャッカリ。
弱肉強食の自然界をちゃっかり生き抜くキツネらしい、島でも嫌われ者の狡猾なキャラなのですが、
ロボットのロズとは、はぐれ物同士気も合うのか、
何かと気にかけてフォローしてくれる可愛い奴です。
思えば私が好きなディズニー映画の『ズートピア』でも、
キツネの詐欺師・ニック・ワイルドの相棒ぶりが作品を牽引していました。
キツネがキツネらしい海外アニメ映画に外れはないようです。
7匹の子供たちに{netabare} 死んだふり{/netabare} を仕込んで厳しい大自然を説諭する、
オポッサムの母親・ピンクシッポの子育て指南も毒が効いていてスパイシーでしたし。
使えないと思っていた奴が、いざという時役に立つというのも、
多様性を扱う映画ではお約束。
私も分かっていましたが、{netabare} 巨木を倒す無意味な行動ばかりしていると皆から笑われていたビーバーのパドラー{/netabare} が、
島の危機を救う鍵になるシーンはグッと来ました。
カッコいいと思ったのが、鷲のサンダーボルト先輩。
{netabare} キラリは小柄だが小回りは効く{/netabare} などと、
短所も長所と認めて、無償の激励をしてくる辺りに漢気を感じます。
【声優 4.0点】
日本語吹替版を劇場鑑賞。
メイン吹替キャストは俳優陣中心。
ロボット・ロズ役の綾瀬 はるかさんは、
過去に映画『僕の彼女はサイボーグ』にて人造人間役もこなしており、
心を獲得していくロボットの演技ならお手の物。
キツネのチャッカリ役の柄本 明さんは、
集団を斜に見るポジションから、徐々に溶け込んで来て、粋な言動をさせていく役をやらせたら、
卓越した演技力を発揮する役者さん。
雁のキラリ役の鈴木 福さんはドラマ『マルモのおきて』にて子役として一世を風靡した経験が、
子供からたくましい青少年へと成長していく過程を表現するのに重宝しますし。
この辺りの洋画アニメの的確なリサーチ力に基づいたキャスティング。
宣伝ありきで俳優・タレントのミスキャストをやらかしている、
一部の日本アニメ映画は見習って欲しいと返す返す思います。
そんな中、アニメ声優界からも、千葉 繁さんが雁の群れの長老・クビナガ役を好演。
若い奴を見守る落ち着いた語り口には円熟味を感じます。
種崎 敦美さんも、{netabare} ユニバーサル・ダイナミクス社の刺客ロボ・ヴォントラ役として登場。
無機質な声色で、心を得たロズをイレギュラーとして葬送いやwデータ抹消(デリート)を試みる無機質なボイスがハマってました。{/netabare}
【音楽 4.0点】
劇伴担当はクリス・バワーズ氏。
オーケストラ音源を前面に押し出し、高揚感のあるメインフレーズで大作感を醸し出す。
そのオケ音源を、BGMをコミカルシーンの効果音としても活用する米国アニメの伝統芸にも惜しげも無く使う。
劇伴はバックグラウンドに潜む方が好みの私にとっては、あまり好みの作風ではありませんが、
本作の物語、作画には、音楽に負けないだけのスケール感はありました。
実際、上記の鳥・28,000羽超の名シーンは、大迫力のオーケストラあっての場面だと思いますし。
あとは、ロズがお手伝いロボットのサービス提供をアピールする際に鳴り響く、
スタートアップBGMの押し売り感w
私は嫌いではありません。
主題歌にはグラミー賞・カントリー歌手・マレン・モリスを起用し必勝体制。
個人的にはED主題歌の「Even When I`m Not」よりも、
挿入歌「Kiss the Sky」が印象的。
空を飛ぶことがストーリーラインの軸となる本作にとって、
同曲は推進剤として機能していました。