SFで冒険なアニメ映画ランキング 3

あにこれの全ユーザーがアニメ映画のSFで冒険な成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2024年11月05日の時点で一番のSFで冒険なアニメ映画は何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

69.7 1 SFで冒険なアニメランキング1位
サカサマのパテマ(アニメ映画)

2013年11月9日
★★★★☆ 3.8 (662)
3143人が棚に入れました
どこまでも、どこまでも坑道が続く地下世界。狭く暗い空間であっても、人々は防護服を身にまとい、慎ましくも明るく楽しい日々を送っている。地下集落のお姫様であるパテマは、まだ見ぬ世界の先に想いを馳せて、今日も坑道を探検する。お気に入りの場所は、集落の「掟」で立ち入りが禁止されている『危険区域』。これまでに見たこともない広大な空間には、幻想的な光景が広がる。世話役のジィに怒られながらも、好奇心は抑えられない。いつものように『危険区域』に向かったパテマは、そこで、予期せぬ出来事に遭遇する。何が『危険』であるのか、誰も彼女に教えてはくれなかったから。隠された“秘密”に触れる時、物語は動き出す――

声優・キャラクター
藤井ゆきよ、岡本信彦、大畑伸太郎、ふくまつ進紗、加藤将之、安元洋貴、内田真礼、土師孝也
ネタバレ

renton000 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.7

良いふわふわ感

あらすじは他の方のレビュー等をご参照ください。

 初見でした。100分くらいのSFファンタジー。

 演出のメインである重力感は、かなり上手く描けていたと思います。高所に立った時のぞくぞくする感じは、画面を通して見ている私にも感じられました。視聴後のスッキリ感も良く、結構面白い作品だったとは思います。
 ただ、作品の出来としては、まぁまぁくらいですかね。


世界の構造(ネタバレ注意):{netabare}
 オチが読みやすい分、分かりにくくはないと思うので簡単に。
 ボールの中にボールが入っている構造です。私たちが認識している地球が外側のボールだとすると、その中に内側のボールが入っていることになります。

 図解するとこんな感じです。外側ボールを”外)”、内側ボールを”内)”で表現します。
 < ←地球のコア  内)←偽物の空 ←アイガ|パテマ→ 外)私たち→ 本物の空→ >

 外側ボールの表面に、外側に向けて立っているのが私たちです。作中には一切出てきませんので、もし居たとしたらという話ですけどね。そして、私たちの足元の地下世界に、同じ向きで生活しているのがパテマたちです。
 外側ボールの裏面に、内側に向けて立っているのがアイガの人たち。この人たちが逆さまです。文字通り「ガイア」の逆ってことなんだと思います。

 内側ボールというのは、パテマたちの祖先が、アイガの人たちのために作った偽物の空です。光源でもあり熱源でもある人工物です。雲の描き方から察するに、雲の生産も行っているのだと思われます。地下深くに上空と同じ雲が再現できるとは思えませんから、雲状のガスというのが正しいのかもしれませんけどね。

 パテマが本物の空を目指さずに、偽物の空を目指していたのは、自分たちが逆さまだと思っていたからです。偽物の空だけを知っているため、本物の空の方を地下深くだと認識していました。
{/netabare}

吉浦康裕監督のこと:{netabare}
 吉浦作品は、「イヴの時間」と「アルモニ」を視聴済みです。今回で三作目ですね。
 特徴としては、かっちりとした作品を作る監督だと思います。世界観や設定を練り上げて、さらにフラグ管理も徹底することで、破綻のないストーリーを作る。世界観については、オリジナルというよりは、どこかで見たことのあるものが多いですから、独創性よりはアレンジャー気質を感じる監督です。

 「イヴの時間」では、このかっちり感がやや裏目に出てしまったような気がします。裏面のストーリーはもちろん、表面のストーリーでも、フラグが回収できてないことが分かってしまう。平たく言えば、未完であることがバレバレであるってことですね。もちろんこれは、完結ものとして評価しづらいだけで、作品として悪いという意味ではありません。

 かっちり感が良い方に転がったのが「アルモニ」です。二つの異なる世界を使って、かっちりしているのにわざと見せない部分を用意するという作りになっていました。これにより、答えを用意しながらも、その後どのように展開するのかを視聴者の想像に委ねることができていました。
 かっちりした作品というのは、破綻のない分、想像の余地や余韻が失われてしまうことが多いです。ですが、わざと穴をあけることで、破綻のなさと想像の余地を両立するかなりいい作品に仕上がっていました。


 時系列的には、「イヴの時間」と「アルモニ」の間に作らえたのが「サカサマのパテマ」です。作品の性質もこの二つの作品の中間に該当します。「イヴの時間」にあったフラグ未回収で中途半端な感じは消えているものの、「アルモニ」のような想像の余地は得られない。未完のせいで評価しづらい「イヴの時間」とも、かなりいい作品に仕上がっていた「アルモニ」とも違う、まぁまぁな作品。これが「サカサマのパテマ」です。
 そして、「サカサマのパテマ」のかっちり感がどこから来たかというと、「天空の城ラピュタ」です。
{/netabare}

サカサマのパテマのプロット:{netabare}
 サカサマのパテマの基本プロットは、「天空の城ラピュタ」と全く同じでした。
 女の子が落ちてきて、男の子と出会う。女の子がさらわれて助ける。上昇や下降の末に、新たなフィールドが用意されている。足場が崩れてエンディングに至る。お父さん役は同じ夢を追って死んでしまっている。敵はムスカのような分かりやすい悪役。

 「ラピュタ」を作りたかったのは理解しますが、さすがにここまで同じだと厳しいものがあると思います。パクリなのかオマージュなのかという話ではなくて、宮崎駿監督に正面から挑むとかラピュタ越えする作品を作るとかいうのが無理がある。ここまで同じプロットだとこちらも比較せざるを得ません。

 ラピュタというのは、冒険譚としての圧倒的な面白さに加え、宮崎駿監督の思想が出ているから傑作になっているんだと思います。面白さとメッセージ性が両立された稀有な作品です。
 ですが、この作品は表面をなぞるだけで終わってしまっています。人物像はどこかで見たものばかりで、掘り下げられてはいない。描かれている思想もありきたりな管理社会批判だけ。エンディング後に世界がどうなっていくのかの示唆も感じられない。
 重力感の描き方以外は、どれもこれも今一つなものばかりです。

 ラピュタのような名作と同じプロットで作品を作れば、失敗しないのは当たり前だと思います。ですが、ラピュタ越えする作品を作るというのは、宮崎駿監督本人にとっても非常に難しいと思います。
 結局、二番煎じにもかかわらず、新しい要素はほとんど見せられなかった。そんな意味でもこの作品は、「まぁまぁな作品」だと思います。
{/netabare}

演出関係:{netabare}
 静止後に画面をぐるっとひっくり返す演出が、複数回使われていました。個人的にはここまで露骨なのは最初の一回だけにして、あとはアレンジした演出を見せて欲しかったです。
 分かりにくくなるのを恐れたんだとは思いますが、分かりにくいことを分かりやすく表現することこそが演出力として必要なことなんだと思います。

 反面、パテマとエイジの人間関係の描き方は非常に良かったです。
 手と手でつながっていたものが、身体と身体でつながるようになる。反対を向いているという相容れない存在同士が、キスシーンのときだけ同じ向きを向いている。
 この辺の人間関係の進展の描き方は、この作品の設定と非常にマッチしていました。
{/netabare}

おわりに:{netabare}
 吉浦監督がどのような方向に行きたいのかはよく分かりませんが、いずれの作品も社会風刺の要素がありますから、今後もその傾向を持つんだと思います。ただ、かっちりな大枠を用意して作品をまとめ上げることを優先しすぎているせいか、そのメッセージ性自体は全く面白くありません。おまけで入れているようにすら感じます。そもそも風刺の内容に新しい視点があるわけではなく、既に語られてきたやや古いものばかりです。
 作品のプロットも、思想の中身も、二番煎じばかりという今の状況はなんとかした方が良いと思います。


 批判的に書いていますが、私個人としては、吉浦監督には結構期待しています。
 前述したとおり、「イヴ」「パテマ」「アルモニ」と、作品を追うごとにクオリティはどんどん上がってきています。しかも、ただ単にクオリティを上げているだけではなく、悪かったところは重点的に修正されています。

 特に、人間関係の描き方や掘り下げ方は、「イヴの時間」や「サカサマのパテマ」ではお世辞にも良い作品とは言えませんでしたが、「アルモニ」ではかなり上手くなっていました。
 また、作品の設定そのものにも改善が見られます。室内劇であったためにスケールが小さかった「イヴの時間」、大空を舞台としたスケールの大きい「サカサマのパテマ」、と来て、室内劇とファンタジーを組み合わせた折衷的な「アルモニ」が作られた。

 新しいことにチャレンジしながらハイペースで成長している監督ですから、個人的には今後が期待できる監督としてはかなり注目しています。

 今後は、プロットを引用しないオリジナルの長編に、ぜひチャレンジしてほしいと思います。「アルモニ」は短編でしたからね。もし次の作品で大失敗しても、切り捨てるようなことはしないと思います。
{/netabare}

対象年齢等:
 子供は十分に楽しめると思います。
 大人向けというのは厳しい気がしますが、大人が見ても損することはないと思います。「風に乗る」とか「風を切る」とかとは違う「ふわふわ感」を体験できるのは、この作品の特筆すべき特徴です。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 17
ネタバレ

ヲリノコトリ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.7

「物質に働く重力の向きが2種類ある」傑作SF

【あらすじ】
 「咎人は空に落ちる」。重力が反転した人々は地下に隠れ住んだ。そして月日は流れ、何も知らない少年と少女が出会う。その果てに待ち受ける真実も知らず……。

【成分表】
笑い★☆☆☆☆ ゆる★☆☆☆☆
恋愛★★★☆☆ 熱血★★☆☆☆
頭脳★★★★☆ 感動★★☆☆☆

【ジャンル】
SF、恋愛

【こういう人におすすめ】
SF好きな人。しっかり考えながら見るタイプの人。

【あにこれ評価(おおよそ)】
68.3点。いまいち。

【個人的評価】
舐めてたけど予想を超えてきた。スタジオ六花の可能性を感じた良作。

【他なんか書きたかったこと】
 地中に重力が逆向きの人々が住んでいて、ひょんなことから重力が逆の少年と少女が出会う。なんと少女は手を繋いでいないと空に落ちて行ってしまうのだ!そして始まる『天空の城ラピュタ』的な二人の冒険劇……。
 分かる。言いたいことは分かりますよ。一つのアイデアでゴリ押しする感じのありがちなストーリーに思えますよね。要するにご都合いちゃいちゃアニメじゃんハイハイご苦労さんって思ってるでしょう?
 少なくとも私はレンタル屋でパッケージを見たときにはそう思いました。
{netabare}
 でもこれ実はすごいですよ!「物質に働く重力の向きが2種類ある世界」というSFとして見ると、物理学的に全然間違ったところが無いです!
 そして、隠された謎も面白い!最後まで明言されない謎なので、ながら見するとストーリー構成の妙に取り残されますよ!

 むしろ頭を使ってアニメを見るタイプの人、緻密なストーリー構成が好きな人にこそおすすめしたいアニメ映画です。「重力が逆向きの二人のボーイミーツガール」というアイデアだけでも十分アニメ映画は作れたでしょうが、そこからさらに一歩テーマを突き詰めた良作SFです。
 映像的にも天地反転のカメラワークが面白くて「おー」ってなります。

↓以下、「一度みたけど何がすごかったん?まあラストあんま意味わかんなかったけど」という人だけ開いてください。これから観る人は絶対開けちゃダメ! 
{netabare}
 物語の始まりでは女の子サイドは地底人。男の子サイドは地上人として登場します。地上の都市の名前は「あいが」。この時点ではなんのことか分かりませんが、ちょっとスルーできない雰囲気を持つ都市名です。

 で、ボーイミーツガール。ここはまあ楽しんでください。
 でもこのあたりでの「都市の外のタブー」地域があとで効いてきます。

 で、女の子捕獲→救出。ここもまあ楽しんでください。
 しかしここで、「あいが」サイドが地底人に対してなんか無駄に敵対心があることが読み取れます。「罪人」という言葉も無駄に出てきます。これは単にジブリの悪役のマネしたいわけじゃなく、ちゃんと裏設定があるのです。”遥か昔”は、地底と地上で交流があったことも示唆されています。

 で、二人で空に落ちる!
 この展開、結構面白くないですか?本来は女の子のほうが軽かったので下向きの力の方が強くて地面にいたのですが、この時は女の子が足かせをしていたのでその重さの分だけ上向きの力が勝って空に落ちてしまったのです。なんか物理かじってるとこういうの楽しいです(笑)
 そして空へ浮いて浮いて行き着いた先が、都市!?
 ここまでちゃんと見てた人は大パニックになります。これはむかし空に飛んで行った人たちの都市なのか?いやいや、そうなると空の上にもう一つ地平があることになります。まさか地球をぐるっと囲むようにもう一つの地面の膜が作ってあるのか?
 NOです。
 最後までみると分かりますが、ここには人は住んでません。これは「気象発生+照明装置」です。……はい?って思いました?さあ先に行きましょう!
 
 ここでちょっといい話挿入。でもこれ、都市から気を逸らせるための罠です。にくいことしますね(笑)

 そして地下→ラスト。地下の一番底が抜けて、空が!
 わかりましたね。
 つまり地底人は男の子サイドのほうだったのです。女の子サイドは地下に住むだけの地上人。地底に「あいが」という巨大な空間があり、そのさらに最下層に無人の都市(に見える気象装置)があったのです。
 「あいが」=「さかさまのガイア(大地)」だったんですね。ま、これはチープっちゃチープですがさらっと面白いことしやがる。
 女の子サイドは「サカサマ事件」を起こした実験に関与していた人たちの末裔で地下都市アイガを監視する役目。男の子サイドは地下に追いやられたサカサマ人。アイガの人が地底人を恨んでいるのは当然ですね。しかしお互い長い年月の末、そのことを知るものがいなくなったようです。
 アイガの外のタブー地域はつまり、空間の終わり。つまり地下空間の壁がある場所なのです。
{/netabare}

↓「SFとして面白いこと!ちょっと間違ってること!」これも観てない人は開けちゃダメ!
{netabare} ・まず、アイガの男性陣は結構パテマを軽々片手で持ってますが、これはちょっと握力強すぎ。女の子が片手で懸垂してるのと同じ力が必要です。

・最初に二人で大ジャンプして追手をかわそうとしたシーン。あれはジャンプの瞬間にパテマ側も男の子を押すようにして二人の腕が曲がらないようにしないと成功しません。全体的にこいつら筋肉質だなあ。

・二人がアイガの塔から空に落ちるシーン。ちょっと初速が速すぎますね。もうちょっと風船くらいの速度で行かないと、無人の都市にぶち当たってヒキガエルですよ!

・しかし、無人の都市にぶち当たって死ぬことがない。これは空気抵抗で説明できます。二人の重力の差がごくわずかであればすぐに空気抵抗によって加速しなくなるので、「ゆっくり着地」はあり得ます。まあそうなるとゆっくり離陸するはずですけどね(笑)

・親が昔作った重力反転気球みたいなやつ。動力0で浮遊できる!ちょっとリスキーだけど魅力的な乗り物です!重りの落とし方ミスったら宇宙の果てですね。

・最後本当の地面が抜けた時、アイガ側におちる破片と、本当の空に落ちる破片の2種類がありましたね。芸が細かい!

・これ言ったらSFってジャンルはオシマイですが、地下につくられた空間デカすぎですね。地平線で見えなくなるところまで、認識できないほど地下深く掘られています。
{/netabare}

 さかさまな二人から子供生まれたらどうなるの?とか、ご飯食べたら浮くの?みたいな面白い考察をするレビューがありました。まさしく!そこらへん面白いです!分子レベル、量子レベルで重力が反転していると考えるのが自然なので、理論上「どっちの分子でできているか」によってどっち向きか決まると思います。
 ということはサカサマ人は地上の食べ物を食べ続けて正しい重力方向の炭素を摂り続けたら、地上で暮らせるようになるかも!反転する瞬間が怖いですが。あと、反転するまでは、排泄したう○こが上にすっ飛んで行きますね。
 ……やめとくかこの作戦は。
 あ、炭素など取らずとも数日正しい重力方向の「水」を飲めば重力反転は可能ですね!熱中症とかになって脱水症状がでたら宇宙まで飛んでいくかもですが。
 「生まれてきた子供」はほぼ母体の炭素から構成されるはずなので、パテマ側の重力になること間違いなしです。

↓私発案!正しい重力の戻し方!
{netabare}
1、地下の一室に閉じこもり、天井に磔にします
2、この状態で水だけを正しい重力方向のものと代えて、数日過ごします。その間、おしっこは浮くかもしれません。
3、何日かすると重力が反転します。
4、次にご飯も正しい重力のものに代えて数か月過ごします。この時期には頃合いを見て地上に出ることも可能です。
5、完成!もうサカサマ人じゃないよ!サイヤ人だよ!(髪の毛は逆立ちます)
{/netabare}
{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 40
ネタバレ

剣道部 さんの感想・評価

★★★☆☆ 3.0

秀逸なワンアイディアによって展開する劇的なアニメである一方、そのアイディアに引っ張られ過ぎた感もある

[文量→特盛り・内容→考察系]

【総括】
文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞。王道のボーイミーツガールであり、冒険活劇。メッセージ性、芸術性、娯楽性、いずれの質も高い。大変出来の良いアニメ映画です。

《以下ネタバレ》

【視聴終了(レビュー)】
{netabare}
やはり、「重力が逆」「空に落ちる」というアイディアが秀逸。また、その効果により、カメラアングルがぐるっと上下逆転する映像は新しく、見処のひとつであり、パテマとエイジが手を取り合い空を(月面のように)駆ける様には緊張感と爽快感があった。

絵で魅せる、絵で伝える、というアニメの基本であり王道であり、奥義でもある魅力を堪能できるアニメ。カメラがグルグルと回り、天地が引っくり返ると同時に、自分の価値観や、これまで信じてきた事実の根底をグラグラと揺さぶられる妙な快感を味わえることでしょう。

それから、ヒロインのパテマがとても可愛らしかった。いかにも、宮崎駿さんが好きそうな女の子です(笑) 基本的には勝ち気だけど、少女らしい弱さもあって。映画という尺の中でも十分に魅力を表現できていたと思う。

ここまでは、絶賛w

ここからは、カライ評価。

(アニメをたくさん観てきた方なら)「実はパテマ達が通常の人類で、エイジ達が大罪人(逆さま人)だった」というオチは、正直早いうちから見当はついただろう(そうじゃないと、物語に決着がつかないしね。悪役が語る伝承は嘘であることが定番w)。

この作品は、監督に表現したいことが多過ぎたから、一生懸命にムダを削り、それでも尺からはみ出てしまい、泣く泣く描きたいシーンを削ってできた作品のように思う。監督にとってはツラい作業であったろうし、個人的には、そのぐらい思いの詰まった重い作品は、愛しく感じる。

とはいえ、やはり中途半端な感じは否めない。

この作品の致命的にマズイところは、ボーイミーツガールものなのに、主人公(エイジ)とヒロイン(パテマ)の心の交流、絆の深まりをじっくりと描ききれなかったことだと思う。

例えば、エイジとパテマが管理塔から空に落ち、エイイチの気球(的な乗り物)を見つけた場面。ハッキリとは描かれてないけど、エイジとパテマのキスシーンがあった。あれは感動的で良いシーンに成り得るんだけど、私は観ていて「いつの間にそんなことになったの?」と思ってしまった(出会ってからトータルで、2日も一緒にいないよね?)。なんか、「つり橋効果?」とか「ラゴスの死を知った後に優しくされたからほだされたのか?」とか、考えてしまった。言い方悪いが、パテマが尻軽に感じた。だから、最終的にフラレるポルタが可哀想で可哀想で。幼馴染みより、たった2日しか過ごしてない相手を選ぶってどうなのよ?

パテマとエイジが出会った後、治安警察に捕まるまでの間に、少し(2,3日程度)で良いから日常パートを差し込み、2人に「重力が違うからこそ成り立つラブコメ」をさせておけば、だいぶ違ったと思う(まあ、尺の関係で削ったのだろうけど)。

そこが、最大に残念なところかな。

あと、「折角考えた秀逸な設定を紹介したい」熱が凄すぎて(汗)

最もそれを感じたのは、やはり上記の「エイイチの気球を見付けた」場面。あの場所はおそらく、アイガ国民にとっての太陽なのだろう。大災害を経て地下に逃れた人類(逆さま人、後世のアイガ国民)は、自らの科学技術により、地価の大空間に空と星と太陽を作りあげた。それが、あの施設。その設定、世界観の作り込みは秀逸で、確かに紹介したい。気持ちは分かる。でも、あの少ないシーンでそこまで気付ける視聴者って多くない気がする(それに、エネルギー源とか、だれかコントロールしている人間がいるのかなど、不明な点もある。きっと裏設定はあるのだろうけど、視聴者には伝わらない)。

それよりも、例えば、アイガを「空中都市」にしちゃえば、話が早かったのでは?(ラピュタへ逆さまに立っている感じ)。それだと、父親の手帳を見つけるシーンと最後の本当の地球に辿り着くシーンが(ラストの)1発でいけるから、中盤にラブコメを入れられたと思う。

もちろん、2回にわたり世界を引っくり返すことで、世界観はより深まるから、あれはあれで価値は高いんだけど、何よりもパテマとエイジの心の交流を描くことが優先される、というのが私の意見だ(この作品がボーイミーツガールである以上)。

しかも、更に他にも、この作品には「異なる価値観を認める」というテーマも含まれている。

ベルトコンベアーのような道路で運ばれ、偏った思想教育を植え付けられ、(例えば空を飛ぶなど)おもいきった夢を持つことを禁じられた、無表情な学生達。まるで、大量生産される商品のようだった。それは多分、今の日本の教育や社会に対する(かなり大袈裟な)警告なのだろう。

「自分の価値観(世界)だけが正しいのか」「異なる価値観(逆さま人)とも手を繋ごう」というメッセージは、作中かなりたくさんあった。でも、結果が出てない。せいぜい、パテマとエイジが空の上から帰ってきた時に、学生達が明るい表情で空を見上げたことくらいだろうか。イザムラが死んだ後の世界で、彼らはどう生きるのだろうか? 本来ならCパートで、「その後」を見せるべき構成だろう。エイジの学校で学ぶパテマや、パテマの家で遊ぶカホ(エイジの同級生)とかね。まあ、これも尺の問題で無理だったのだろう。

と、色々と難癖はつけているが、確実にレベルの高い作品であったことは間違いない。記憶に残る一作になるだろう。実際、この映画にムダな部分はない。でも、足りない。つまり、アイディアと構想が良すぎただけだ。時には、思いきって「大衆化」する勇気も必要なのだと感じた作品だった。

イメージ的には、「鰻牛(うなぎゅう)ツユダクで生卵トッピング、あ、あと、カレーとチーズもかけて下さい」byすき家 って感じのアニメでしたねw どれもこれも美味いんだけど、バラバラでじっくり食べたかったな、と。
{/netabare}

【視聴終了(要約バージョン小盛りレビュー)】
{netabare}
「重力が逆」「空に落ちる」というアイディアが秀逸。絵で魅せる、絵で伝える、というアニメの基本であり王道であり、奥義でもある魅力を堪能できるアニメ。

ただ、主人公とヒロインの心の交流、絆の深まりをじっくりと描ききれなかったことがマイナス。また、監督が自らのアイディアを全部詰め込もうとして、やや空回っている感じもした。勿体ない作品だった。
{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 40

74.9 2 SFで冒険なアニメランキング2位
銀河鉄道999-The Galaxy Express 999(アニメ映画)

1979年8月1日
★★★★☆ 4.0 (178)
922人が棚に入れました
身体を機械にかえて、人間は死なないですむようになった。そんな時代にも、やはり貧しい人々は存在する。彼らにとって、機械の身体は高価なものであり、買うことができなかった。そんな中、一つの噂が流れる。銀河鉄道999に乗れば、タダで機械の身体を貰える星に行けるというのだ。少年・星野鉄郎は母と二人、噂をたよりに銀河鉄道の停車駅、メガロポリスに向かう。その途中、二人は機械伯爵による人間狩りに遭い、母は殺されてしまう。メガロポリスのスラムに居着いた鉄郎は、銀河鉄道のパスを手に入れる機会を伺い、実行に移すも失敗に終わる。しかし、そのとき知り合った謎の美女メーテルから、鉄郎は銀河超特急999号のパスをもらい受けて、メーテルとともに地球を旅立つのだった。

声優・キャラクター
野沢雅子、池田昌子、一龍斎春水、肝付兼太、井上真樹夫、田島令子、富山敬、小原乃梨子、柴田秀勝、藤田淑子、槐柳二、坪井章子、納谷悟朗

ろき夫 さんの感想・評価

★★★★★ 4.7

世代じゃないけど楽しめた!

名作とは知っていながら、世代じゃないのでスルーしていた作品の1つ。
おススメされたこともあり観てみることに。

1979年の劇場公開作品。30年以上も前の作品です。
古いですね~w まだ私が生まれてもない時代ですよーw

さすがにここまでギャップがあると腰が引けちゃいますよね。
でもでも、実際見てみると物凄く楽しめました!
この作品に関しては殆ど情報を入手せずにピュアな状態で挑みましたw
なんで、名作だからといって変に贔屓目でみているとか、そんな事は無いですよ?断っておきますがw

で、銀河鉄道といったら宮沢賢治が先に思い浮かんじゃうですよねー。
なんで、哲学的で芸術的な印象をこの作品にも勝手に抱いていました。
でも、観てみると全然イメージと違っていてびっくり!
第一級SF超大作といった感じですw
なんだろ、スターウォーズ?みたいな。(この例えもちょっと古いんですけどw)
ストーリーは簡単にいうと、
主人公「星野鉄郎」が「機械伯爵」に母を殺され、その復讐を誓う。そのために永遠の命と圧倒的な力を持つ≪機械の体≫を手に入れるため、謎に包まれた女性「メーテル」の導きのもと、機械化母星の存在するアンドロメダを目指し‘銀河鉄道999’に乗り旅をする…というお話。

…なんですが、ここから話が二転、三転しますw衝撃のラストですww
ある程度先は読めても、ラストまではなかなかw
話が巧く練られており非常に楽しめました!
ただの派手なアクションものとも違い、しっかりと奥深さもあるんですよね~。
哲学的要素も散りばめられてはいるんですが、とても解り易く表現されており、
「子供にも伝わる」…そういう素敵な工夫がなされています。
映像で、鉄郎の台詞で、それを囲む大人達の台詞で、そして時には歌に乗せて…。
特に、酒場での女性の弾き語りの歌!…染みましたw疲れた大人にはゴダイゴの歌よりこっちの方が効くんじゃないかな?w
アニメという、表現媒体をフルに活用した素晴らしい演出でした。もちろん絵も綺麗。
特に女性の描き方が特徴的ですよね~。
人間離れしてるというか…完全に理想化されたモデルです。
あのカラダのラインは芸術的に見えさえしますね。
建造物の崩壊シーンには目を見張るものがあります(崩壊シーン萌えな方必見!…少なくとも私は萌えましたw)
松本零士、りんたろう、金田伊功、野沢雅子…などなど、今となっては伝説級のスタッフのアツい共演。
あの時代で、このクオリティで二時間超の作品を作るのって…どれだけの労力を要したんですかね~。驚嘆しますよ。
テンポも速すぎるwというくらいスピーディーで、視聴者を退屈にさせません!

この作品のテーマは「少年の旅立ちと成長」です。
序盤で、999号に乗り、Taking Off Over the Galaxy(歌:ゴダイゴ)の「誰も行かない未来へ~♪」
な歌詞に乗せて広大な宇宙へと旅立つわけです。
ロマンを感じずにはいられませんよねw
若者の抱く‘無限の可能性’というヤツを夢いっぱいに表現しています。
義務教育を終える3年くらい前までなら純粋な気持ちで観れた気がしますw
今となっては~…切ないっ!!ちょっと捻くれて観ちゃうかな?w
あと、やっぱり時代を感じました。
宇宙を舞台にした作品って今も昔もたくさんありますが、最近は割と現実的なテーマに触れた作品が多い気がします。
あの頃って若い世代だけではなくある程度の年齢の大人にも今よりは夢があったんじゃないですかね?
日本がイケイケな時代だったというのもありますが、機械分野の技術的な進歩が目覚ましく、未来に対する大きな期待があったのだと思います。
そういった意味では、伸びしろの期待できない現代の世の中ってどことなく寂しいものがありますよねー。夢を見れなくなったというか…。
まあ、どんな時代であっても努力なしには夢は実現できないものですよね~。
その努力を惜しんでアニメを観ちゃうからダメなのかなw
ああ…だんだん鬱に…。(´;ω;`)

最後に一つだけ言わせてほしいのが、鉄郎がまさか15歳とは思いませんでした!w
しぐさ、行動が少し幼い気がします。あとメーテルとの身長差が…。
劇中、その設定に気付かず観ていたので、二人の恋愛に始終違和感を感じてしまいました。
感動するエンディングでさえもそのせいで若干ついていけませんでした。
なんで、これから視聴する方はその年齢を知っておいた方がいいのかもしれませんw

でも、そんな細かいことなんてどうでも良くなるようなエネルギッシュで爽やかな素晴らしい作品で、
数多くのファンがいるのも納得できました^^
子供ができたら観せたい作品の1つになりました。良い子に育ちそうw

世代じゃないからといって敬遠するものじゃないですね~。
私もこの銀河鉄道999のおかげで、過去の名作巡りの旅に駆り出されることになりそうですw

投稿 : 2024/11/02
♥ : 29
ネタバレ

ぶらっくもあ(^^U さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

さらば少年の日よ

昭和期劇場公開されたアニメ作品の中で、
私的お勧め感トップクラス、
シナリオ、音楽、サービス精神、見事という他はない、
よくぞこれだけのものを2時間弱にまとめたものだなと、

銀河鉄道999という事で主人公は当然星野鉄郎、
何をアタリマエな事をと思われるかも知れないが、
キャプテンハーロックやエメラルダス始め、
松本零士氏作品オールスター的キャラ複数登場し、
其々単なるゲストキャラではなくキャラ立ちも半端ない、
{netabare}
特にキャプテンハーロック等登場シーンからカッコいい、
ハーロックはTVアニメ版も大好きだったが、
本作でのハーロックはアルカディア号デザインと共に格別、
トチローも登場しアルカディア号心臓部含む根幹的物語も内包、
もうゲストどころの騒ぎではない、
{/netabare}
ヘタすれば物語統一性単一性欠きかねないが、
徹底した主人公視点駆使し原作999エピソード主軸に、
旅の過程で全てのキャラエピソードや出会いを、
主人公の成長物語として鉄郎中心に必然性保ちつつ、
自然に語られてるのが素晴らしい、

ヤマト革命から端発した70年代後半アニメブームにより、
様々なアニメが劇場にて公開される事になったが、
当初はTVアニメ使用フィルムの再編集的作品も多かった、
999は同時期TVでも原作本沿った形で毎週放送されてたが、
この劇場版999はTV流用無しのオリジナルで、
主人公鉄郎のキャラ画も原作或いはTV版より、
(5歳程)青年的に描かれている、
当初この鉄郎デザイン若干違和感もあったが、
本作フィナーレ迎える頃は、
自然気にならなくなったと言うより成程なと、
というのも、
{netabare}
序盤当初鉄郎にとってメーテルは母親の幻影、
道中冥王星付近で寒がる鉄郎メーテルに抱衣され、
思い出すのは母親の温もり、
{/netabare}
少年が、
{netabare}
様々な出会いや物語初期主人公目的であった、
母の仇打ち成し遂げ。
いつしか人間の機械化そのものに疑問持ち、
目的は終着駅である機械化惑星破壊へ、
真摯さが顕著になってゆく鉄郎の目、

鉄郎が辿りついた終着駅機械化惑星の名前はメーテル、
(ここからのラストまでの一連のBGMは神がかってる)
崩壊する惑星メーテルからの脱出シーンは今観ても圧巻、
戦火の中轟進するアルカディア号
999脱出路の盾となるエメラルダス号
一貫して流れる(BGM惑星メーテル)
メーテルの手を引き999目指し駆ける鉄郎は、
{/netabare}
いつしか大切な人を守るひとりの男になり、
{netabare}
原作上悲しいキャラだったガラスのクレア、
劇場版では助かったと思ったんだけどな、
思い出してしまった、、、
(BGMガラスのクレアフルオーケストラバージョン)

旅のおわり、
メーテルの別れの言葉
「私はあなたの心の中の幻影」
メーテルを乗せ走り出す999を追い駆けだす鉄郎、
(BGM別離そして旅立ち)

さらばメーテル、さらば銀河鉄道999
{/netabare}
さらば 少年の日よ、

というのが、
機械化人間等に象徴される人間性欠如への警鐘と共に、
本作のテーマな故、

放映当時の事だけど本作が凄かったのは、
TV版勿論原作においても表記されない物語クライマックスが、
見事なかたちで描かれ切っていた事、
原作先んじて或いは離れて物語構築し、
ともすれば台無しになった作品も多いが、
本作の場合は、
この劇場版一作こそ正道と言わしめるくらい完成されてた事、
TV版宇宙海賊キャプテンハーロックや同銀河鉄道999通し、
制作会社として関わってきた東映動画の本気度が窺える、

松本零士著作品という事であればその代表作は各人様々であろうが、
映像化された松本零士作品という事であれば、
本作は間違いなく代表格だと感じる。

1979年度劇場公開作品
原作 松本零士 監督 りんたろう 監修 市川 昆 
音楽 青木望 作画監督 小松原一男 制作 東映動画

投稿 : 2024/11/02
♥ : 36

nyaro さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

評価修正 歴史的意義や絵の美しさはあるが、奥行きは現代アニメに劣る。

追記 歴史的意義を排して、アニメ映画として考えた場合の評価について

 アニメ映画は2016年の3本の素晴らしい劇場アニメ以降、乱造されている印象もあります。が、例えば評判の悪い「打ち上げ花火…」とか「君の膵臓を…」「バブル」「ひるね姫」などと比べてさえ、本作とどちらを評価すべきか、という点で考えてしまいました。

 本作は、冒険活劇、少年の成長ストーリー、それぞれのキャラの重厚感などはさすがだと思います。作画もセルアニメとして素晴らしいですし、色彩は最高峰でしょう。
 ただ、現代的面白さ、キャラ造形、感情移入、テーマ性などを2016年以降のアニメの水準と比較して考えた場合、私は圧倒的に最近のアニメ、特にアニメ映画の方が面白いしテーマ性も感じることが多い気がします。

 単純に2016年の「君の名は」「聲の形」、それ以降の「ポンポさん」「ジョゼと…」「岬のマヨイガ」「地球外少年少女」などのアニメと999にどちらを見るのに時間を割きたいか、先に出したアニメの他、2000年代以降に素晴らしいアニメは沢山あります。

 本作について、冷静に今見て感じる映画的な奥行については、残念ながら少年を意識したアニメ作り感が濃厚で、古さが隠せません。
 ガンダム以前のアニメはヤマトなども含めてやはり古すぎて見ているのが辛いです。
「ローマの休日」は教養としての価値は認めても、今更もう一回見ようと思わないのと一緒です。

 ということで5点満点から評価再調整です。100点満点ですと65点でも付け過ぎかなあ。重ねていいますが歴史的価値、当時としての水準の高さはもちろん認めています。




以下 初回レビュー時の評価です。
メーテルと宇宙の黒さが美しい。2度と作れない奇跡のアニメ。

 映像。宇宙が黒いんですよね。すごく。漆黒。まさに深淵。だから、メーテルの金髪がより美しいし、999の黄色く光る窓が一直線に流れて行くのが、幻影的で。キービジュアルを見ていただければ言っていることはわかると思います。
 自然や都市を写真で切り取ったような美しさばかりを最近見ますが、アニメとしての美しさを堪能するって、こういうことなんだなあ、と思います。

 主題歌。42年前の曲です。こんなに歌い継がれていくアニメの主題歌ってこれからでるんでしょうか。壮大で、力強くて、未来的でもあるし、懐かしくて切なくもある。

 メーテル。青春幻影というのにふさわしい。ここまで儚くも美しい女性キャラは他に類を見ません。2作目になりますが「さよなら」のエンディングのメーテルの髪の作画は異常です。なんなんですか、あの作画は?ちょっと今のアニメでもあれには追い付けてません。といいますか、今のアニメの進化の方向だと、永久に再現できないでしょう。

 ストーリー。出会いと別れ。まさに一期一会ですよね。だからこそ、そのときそのときが命がけなのでしょう。だから成長できるのでしょう。そして、それが旅なのでしょう。
 そう。地元を離れよ。知己を捨てて、新しい出会いを求めよ。別離の悲しみを経験しない少年に成長はない。
 今を批判的に語る必要はないですが、少し内向的保守的になった自分から見ると、自分ではもうできないからこそ眩しく感じるし、憧れてしまいます。

 カット割りが短く、エピソードも少し細切れなところに古さを感じますが、驚異的な美しい映像で、古いどころか、今のアニメの安っぽさ、劣化を感じます。
 「旅立つこと」が「別れ」だった旅客手段も情報通信も発達していなかった時代だからこそ作られた奇跡のアニメ映画でしょう。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 9

68.4 3 SFで冒険なアニメランキング3位
ぼくらのよあけ(アニメ映画)

2022年10月21日
★★★★☆ 3.6 (16)
60人が棚に入れました
西暦2049年の夏。阿佐ヶ谷団地に住む小学4年生の沢渡悠真は、もうすぐ地球に大接近するという彗星に夢中になっていた。そんなある日、沢渡家の人工知能搭載型家庭用ロボット・ナナコがハッキングされてしまう。犯人は「二月の黎明号」と名乗る未知の存在で、宇宙から1万2000年の歳月をかけて2022年に地球にたどり着いたもののトラブルで故障し、阿佐ヶ谷団地の一棟に擬態して休眠していたのだという。二月の黎明号から宇宙に帰るのを手伝って欲しいと頼まれた悠真たちは、極秘ミッションに乗り出す。
ネタバレ

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9

団地は未知と交流する方舟

人類がどんどん宇宙に出る程じゃないけど、AIロボットが実用化される程度には近未来の日本の夏。
団地暮らしの少年らが、宇宙から飛来した人工知能を、故郷へ返すため奮闘したりする、
同名コミック(全2巻・未読)の劇場アニメ化作品。

【物語 3.5点】
宇宙より来る未知のAIと最初に遭遇するのはAIである。
AIが心に類したものを持つ時、AIは人間に禁断の嘘を付く。
{netabare}団地屋上に貯めた水分子は量子コンピュータの媒体として最適。水は燃料でもある。{/netabare}
宇宙空間に浮かぶ団地!

これらの要素にビビッと来る人、
あとは団地マニアには是非オススメしたいJAXA協力の青春SFジュブナイル。


ただ構成がもう一つスッキリせず突き抜けない感じ。
本作もまた数万年単位の壮大な宇宙の交流を妨げるのは、
子供や、その親御さん同士の些細な人間(およびAI)関係のもつれ。
という定番メニューを揃えますが、人間関係の進展が小出しで、ややゴチャ付いている感。
連載なら徐々に解決でも良いのですが、一本の映画でやるなら、
もっと山は少なく、高くした方が明快でシナリオも盛り上がったと思います。

映画化に当たり大きな流れを作るためにアニオリで、
早くAIを宇宙へ送らないと取り壊しが決まっている団地が解体される。
というタイムリミットを設定したのは妙案でしたが、
その煽りで、人間ドラマの小山が、いっそう添え物に押しやられた感じ。

佳作青春SFだったけど、もっと感動作に出来たはずという悔恨も残りました。


【作画 4.0点】
アニメーション制作・ZERO-G

ミッションの鍵となる複雑な水の表現処理には実績のあるスタジオで土台は安定。

“オートボット”や各種デバイスを担当したデザイナーからも、
2049年の近未来社会を表現しようとの意欲が伝わって来ます。

特筆したいのは、“虹の根”コンセプトアートを担当した、みっちぇ(miche)氏。
幾何学的なデジタルアートで構築された惑星の風景は、スクリーンで一見する価値あり。


【キャラ 4.0点】
“オートボット”のAI・ナナコと喧嘩が絶えない小4・沢渡悠真らの主人公少年グループ。

そこに、悠真グループの少年・岸 真悟の姉・わこ世代が抱える、
小5女子のカーストとイジメの構図が持ち込まれ波乱要素に。

ここまでならよくある子供たちの若気の至りですが、
ここから親世代の過去も巻き込んでいくのが意欲的。

何歳になったって人類は未熟であることを描けているからこそ、
AIの嘘が説得力を増すのです。


【声優 4.0点】
主人公・沢渡悠真役には俳優・杉咲 花さんがまずまずの少年ボイスを披露。

アフレコに当たり、コロナ禍で大人数の収録が困難な中でも、
相棒のオートボット・ナナコ役の悠木 碧さんと杉咲さんの同時収録にはこだわったという本作。
子役→声優の経験がある実力者が、主役の俳優をリードする関係を死守。

俳優・タレントでも、一定以上の演技を引き出している作品には、こういう制作エピソードが必ずありますね。
口酸っぱく言いますが、俳優・タレントを広告塔、お客さん扱いで名前借りしているだけの作品と、そうでない作品は、観ていればハッキリと伝わって来ます。

それにしても、悠木 碧さんの「いわゆるロボット系の子を演じる際は、その子がどのくらい高度な文明で作られているかによってロボ度のさじ加減を調整しています」
とのキャストコメント。高度すぎて、わけがわからないよ(笑)
宇宙船“二月の黎明号”役のベテラン・朴 璐美さんと合わせてAIへと超越する声優さんの神秘を実感します。

脇は“クラスの敵”河合 花香役の水瀬 いのりさんVS岸 わこ役の戸松 遥さんの修羅場など、
ほぼ声優陣で固め盤石。


【音楽 4.0点】
劇伴担当は横山 克氏。
十八番のストリングスを軸にした心情曲から、
ピアノ&ギターの団地ノスタルジー、シンセ和音とオーケストラによる大宇宙表現まで幅広くカバー。
青春物も良いですが、横山 克氏のBGMは、もっと宇宙に出るべきだと再認識。

ED主題歌は三浦 大知さんの「いつしか」
伸びのあるハイトーンボイスで、しっとりと聞かせる壮大なバラード。
タイアップに合わせて、ロケ地となった杉並第二小学校の生徒が書いた本作試写会の絵日記風感想を取り込んだコラボAMVを公開する粋な対応。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 9

ato00 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

エンドロールに驚かされる

2022年公開、120分の長編劇場アニメ。
漫画原作の割には、真面目成分多めです。
主人公たちは小学校高学年だから、少々幼い感じ。
年相応の悩みを抱えながら平凡に暮らしています。

そんな彼らの元に降ってわいた宇宙からの来訪者。
舞台が近未来だから、AIとの絡みも興味深いです。
全体に素直なストーリーなので、120分ながらあっという間に見終えることができました。
ただし、内容が薄味なので、あまり記憶に残らないかな。
ひと夏の宇宙的不思議感覚を味わうのに適している作品ではないでしょうか。

全く前情報なしで観たので、主人公の男の子の声に違和感がありまくりでした。
さもありなん、まあまあ若い女優さんとのこと。
それに比べ、他の方の演技が自然なこと。
エンドロールですべてを理解しました。

津田健次郎さんの脱力系の声は何となく納得。
その他、花澤さん、水瀬さん、戸松さん、岡本さんとそうそうたる面々。
中でも驚いたのは、ナナコ役の悠木碧さん。
AI役もできるんですね、彼女。
薄めながらも良い味を出されておりました。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 12

あと さんの感想・評価

★★★☆☆ 3.0

ひと夏の不思議でちょっぴり切ない青春SFジュブナイル

近未来SFジュブナイルという超面白そうな設定からは特には膨らまず、特に冒険はしません。近未来だけどノスタルジックな雰囲気で小学生たちの日常シーンはとても良いですね…。
内容としてはひょんなことから関わることになる宇宙探査機を子供たちが頑張って助ける、という感じでびっくりする場面展開が何個も起きるわけではなく、小難しいような話もないので子供がサクッと見て夏を感じるような映画ですね。仲のいい友達との夏休みの忘れられない思い出を、ただ青臭く夢を見る。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 0
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