TAKARU1996 さんの感想・評価
4.2
父娘の「願い」が叶う場所
今期、2016年秋アニメは見事に魔法少女物、俗に言う変身少女物がとても多いクールでした。
最近流行りのスタイルから、古き良き作風を思い出す物まで、実に選り取り見取りの作品揃い
ここまで同じジャンルが被ると言うのも案外、珍しい物
その中でも好みが分かれたり、分かれなかったりと派閥大戦争がどこぞで勃発していたようですが、それはひとまず置いといて…
私は今回、そんな数多くある変身少女物の中でも意欲作と思っている作品『装神少女まとい』について書いていきたいと思います。
これは1人の少女から生まれた「願い」を自身が叶えるまでの物語
読んで下さる心お優しい方はどうぞお付き合い下さい。
まずはあらすじから簡単に説明します。
西暦2016年
関東、釜谷市にある「天万神社」では中学2年生、皇まといが親友でバイト仲間でもある草薙ゆまと共に巫女のアルバイトをしていた。
彼女は幼少の頃に母と生き別れになったばかり…
今までは父方の祖父母の家に預けられていたのだが、3ヶ月前からようやく父である伸吾と2人で暮らし始めている。
しかし、長年会っていなかった事と彼の不器用さも相まってか、なかなか安定した関係を築けない日々
そんな境遇からか、まといは家族みんなで暮らす、平凡で穏やかな日常を密かに憧れていたのだった…
一方、草薙ゆまは「天万神社」の神主一族に生まれた次期巫女候補である。
彼女はまといが悩んでいる最中、一族が悪霊を払う為の「退魔行」にまつわる儀式「神懸りの儀」に挑戦中…
しかし、それもなかなか上手くいかない彼女はまといに(無理やり)協力してもらって、儀式を成功させようと働きかけている所だった。
しかし、そんな彼女の行いが1人の少女との不思議な出会いを生んでしまう事を、2人はまだ知らない…
平凡で普通の生活を求めていた少女に与えられた1つの力
それは、神を纏って悪霊を払う能力だった!?
皇まとい、14歳
誰にも邪魔されない穏やかな毎日を取り戻すため、日々の退魔活動(タイカツ)に励みます!!
ここからは私が今作を観た上で感じた事、思った事、見所を存分に書いていきたいと思います。
さて、この『装神少女まとい』ですが、はっきり言って今期の中では抜群に面白い作品です(と勝手に思っています)
オリジナル作品と銘打って発表された作品は、魔法少女モノかと思いきや纏創少女モノと言う、微妙に違う見慣れないジャンル
しかも、このアニメ、どこか懐かしい印象を与えており、何故か私にとって気になる存在でした。
聞く所によると、どうやら「父娘愛」を主軸にしているらしいと言う噂
一体どんな出来になるかと思って、ほんの少しの興味本位で観てみたら……
見事に自分的には「当たり」と呼ぶに相応しい作品へと昇華してくれました。
1人の少女が願っていた事の真意
普通の女の子が抱いた、父に対する優しき思い
それが叶えられるかもしれない事を知った時の彼女の迷いと選択
もう、全てが痺れましたね…
心に深く浸透していった次第です。
そんな個人的に好評である今作をもっと浸透させる為、今回も多く見所を語るとしましょう。
①キャラがそれぞれ立っている
とにかくキャラクター全員が覚えやすい!!
そう私が断言できるのは、それぞれの登場人物達が上手い具合に個性、特性、魅力を持って描かれているからです。
一部で絶大な人気となった草薙ゆま(通称ゆまちん)は勿論の事、主人公である優しい少女、皇まとい(通称といちゃん)や謎の少女クラルス、今作において重要人物の刑事、皇真吾
他にもIATOの眼鏡ボインこと春夏・ルシエラ先生やクラルスの保護者であるカリオテ、真吾君の部下ことポチ等、最初から勢揃いとなっています。
しかし、こんなに多く感じても、私は1話で殆どの登場人物の名前を覚えられました。
地味にこれは凄い事だと私は思います。
そもそも、昨今のアニメを良作だと断定するにおいて、最も大切な事は何か…
ストーリー、作画、演出等々、どれを重視するかにおいて様々な意見がある物
どれも必要な要素ですが、その中の1つである重要な要素にキャラ立てがあると思います。
「現実世界でも実際にいるような気がする」
「キャラのそれぞれが人形ではなく、作中世界で生きている」
こういった感覚と言うのは、高評価に値するには重要な産物、ファクターと言えるでしょう。
なぜなら、そのような感想を抱く事自体、キャラクターが少なからず視聴者に対して影響を与えていた事の証となり、夢中になれる可能性を秘めているからです。
上記のような思考を植え付けられるアニメと言うのは、意外にも中々無い物
今期のアニメ数は多いですが、私が思うそういったアニメはその中でも今作を含めて3つ程しかありません。
そして、その数少ない作品の中でも、今作は実に素晴らしい!!
人それぞれに異なった要素、尚且つ埋没していない魅力を与える事によって、キャラ全体が生きているような錯覚を起こしてくれます。
その為、見分けがつきやすく、特徴も把握しやすい。
そして、それ故にストーリーも理解しやすく、人間関係の構図も掴みやすい
と、実に長所が連鎖反応で成立していく作品です。
全員が同じような設定で、名前だけに特徴を加えているような作品と今作は、非常に一線を画した作品と言えるでしょう。
②よく出来たストーリー
次に紹介したいのがストーリー展開、物語構成の良さです。
これを語るにおいて、私はもう1回最初から今作を観返してみました。
そして視聴中も感じていた事が今回の一気視聴で明確になった次第です。
うん、このアニメストーリーには全くもって「無駄」がない。
全てが必要な要素として、最後の展開に結びついています。
最初の不自然な描写、不可解な展開が次話、もしくは後半になるにつれて、必要であったという確信に変わっていく…
そして、それが上手く帰結していく展開は正にお見事、感無量と言える物でした……
直近1年間のアニメで紹介した中では、『Dimension W』が1番よく出来ていました。
しかし、正直、今期は「これ、必要なのか?」と思わせる類の、関係ない話のあるアニメがいくつか存在したように思います。
特定のキャラ回のようにそれが明確になっていれば結構なのですが、明らかに本筋の話をなぞっているのに視聴者にそう思わせてしまったらおしまいです。
「疑念」と言うのは、全ての可能性を途絶する爆撃兵器の様な物
大抵は、原作付きのアニメでさえ、必要な話だったか、無駄な描写ではなかったかと感じてしまう作品が多い物
しかし、このアニメの凄い所はそういった不安、不満の類が仮に生まれてしまったとしても、話が進むにつれて、そして、あの最終回を観終わった後では見事に消化され、必要だったと感じさせてしまう所です。
しかも、これはオリジナルアニメ
ここまで上手く展開させるのは、余程のベテランでないと到達できない領域です。
改めて、オリジナル作品と言う物を作るにおいて、別の意味でかなり挑戦したアニメだと私は感じました。
さっきも申しあげたとおり、今作は全話を隅々まで観終えて、初めて1つのきちんと帰結した作品と言えます。
それは言うならば、別の意味で、目が離せない描写ばかりと言う事
スタッフが考えて作られた作品だったと言うのが明確に断言できる今作
途中で述べたように、尻上がりに面白くなり、最後まで付き合うと実に感慨深い物がこみ上げてくる作品です。
だからこそ、これは観始めたら、観たいと感じたら、是非最後まで観て欲しいと私は思います。
③テーマ性の統一
このアニメにおいて一貫して伝えているのは、父と娘の関係です。
物語以前に離れ離れとなってしまった親子
10年越しに娘と父親は再会し、関係を築き始める2人
彼らはどこかぎこちない、不器用な関係でありながらも共に生活していく内に本当の親子に戻る為に、邁進していきます。
私はその過程に一役買ったのは「纏創」=「変身要素」であると断言できます。
そういった状態でなければ素直に真意を、自らの想いを吐露できなかった2人
そう、『装神少女まとい』の面白い所は変身少女物でありながら、それは舞台要素の1つに過ぎず、真の意図は別にあると言う所です。
私はあまりこういったジャンルを拝見した事は無かったので、もしかしたら他にも今作の様なアニメがあるのかもしれませんが…
この作品は変身して戦う事が主軸にはありません。
このアニメのテーマは戦った先にある物、すなわち「願い」と言う存在です。
心の奥底にある「願い」は何か?
と、誰かに聞かれたら、一体どれ位の人が簡単に即答できるでしょうか?
私は恐らく、判断に窮します…あまりに数が多すぎて(笑)
しかし、数が多いのは「願い」ではなく「欲望」ではないかと感じてしまう私です。
そう考えると、「願い」と言うのは、あまり思い浮かばない類の産物ではないかと感じてしまいます。
信じる者は救われ、願いが叶うと言うのはキリスト教の教え
ですが、そもそも「願い」が思い浮かばなければ、信じようがないと言うのは私のように恵まれ過ぎた現代人特有の発想
普遍的な「願い」と言う概念を持っている人は考えてみると、意外に少ないのではないか……
そんな事を夢想してしまう私のような穢れた人間とは違って、といちゃんは至極純粋な心を持っています(笑)
彼女の根源に内在しているのは父親と、母親と、3人で幸せに暮らす事
母親はいなくなってしまいましたが、残された自分の父だけでも守っていく事を誓います。
その為にといちゃんは1人の「普通」な少女でありながら、次第に纏創少女としてその誓いを成就せんと活動していくのです。
そして、父親である真吾君は妻の「願い」を胸に、1人娘である彼女を一生懸命守る事を誓います。
この、ひたむきな互いの想い、相手が相手を不器用ながらも優しく思いやる要素に王道ながらも心を打たれました。
そして、そんな2人のまっすぐな感情が1つの「願い」を生むのです。
最後まで乱れたり歪曲したりする事の無かった登場人物達の純粋さが、上手い具合に帰結していく瞬間、実に見事でした……
さて、ここまで熱く語ってきましたが結局の所、この『装神少女まとい』と言う作品は、少しずれていた関係が普通なまでに戻っただけの話です。
それはまるで、モーリス・メーテルリンクが著した『青い鳥』の物語の様
あの童話、戯曲は「幸福」を
身近にあって日常の輝きを感じさせる物でありながらも、捕まえて半永久的に自分の所に留めておく事は出来ない物
とまとめていました。
「特別」を求めようとして「普通」に落ち着いたチルチルとミチル
「普通」であろうとするが為「特別」になったといちゃん
主人公は相反する存在でこそありながら、伝えたい真意はどちらの作品も同じように感じてしまいます。
『青い鳥』の「青い鳥」は最後に大空高く飛んで行ってしまいました。
といちゃんはチルチル、ミチルのように決して手放さない事を、彼女の「普通」の「幸福」が『青い鳥』の如く簡単に終わらない事を祈って……
このレビューを閉じたいと思います。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
「普通」ではない少女が「普通」を求めて戦った結末
戦闘の果てに辿り着いた数多くの「願い」とその帰結
興味を持った方は是非ともご視聴、オススメします!!
恐らく後悔はさせませんよ(笑)
P.S.
何も着てなくて…夏って(笑)
またずいぶんと懐かしい楽曲ネタを入れてきましたね…
今の子供達はこのネタの元は分かるのだろうか?
疑問に感じた最終話視聴後の事