フリ-クス さんの感想・評価
3.4
『愛は地球を救う』的なアレ
名作、と一般的に呼ばれてはいるものの、僕的に
『いやいや、そんな言うほどいいもんじゃないでしょ』
というアニメが、いくつか存在いたしております。
本作『四月は君の嘘』はその代表格というか、
ぶっちぎりの一位作品でありまして、
見返すたびにアラが見つかってココロがささくれ立つ一本です。
もちろん、同作に熱狂的なファンが多いことは存じ上げておりますし、
その方々の思いを否定するつもりは毛頭ありません。
僕が言うのは「こういう角度からだとこう見える」という話に過ぎず、
どんな角度から見るかなんて、100%、個人の自由です。
そこに正誤だの良し悪しだのは存在しない、と僕は考えております。
ただ、自分が好きなものを悪く書かれて気分がいい人なんてイナイ、
というのも真なり、です。
同作に関わる美しい感動・印象を断じて犯されたくない、
そういう思いがある方は、
この先を読まれないことを強くおすすめいたします。
根拠もなくイチャモンを並べ立てる、みたいなことはしていませんが、
かなり『辛辣な表現』になっておりますし、
そのことで誰かの心を傷つけるのは、僕の本意ではありません。
ほんと、あくまでも「僕の角度からだとこう見える」という話でして、
ムリして読む必要なんてありませんから、
不快な思いをしたくない方は、どうぞお引き返しくださいませ。
警告は致しました。では、遠慮なく……
身体障害者や余命宣告を受けた方々を安易に扱い、
感動コンテンツとして消費している作品を、
巷では『感動ポルノ(Inspiration porn)』と呼んだりします。
もちろん、そういう方々と真摯に向き合い、
目を逸らしたくなるような現実を繊細に描いていくことによって、
芸術と呼べる域まで達した作品はたくさんあります。
そうした作品と『感動ポルノ』の分水嶺は、
作品を通じて伝えたいこと、訴えたいことの有無や深さ
だというふうに、僕は考えています。
残念ながら本作は後者の方かと。
作品として『伝えたいこと』なんてリッパなものはありません。
(少なくとも僕には伝わってきません)
きれいで頑張ってる少女が死んじゃったら『かわいそう』なのはあたりまえ。
プロフェッショナルのモノづくりとか物語づくりというのは、
その『かわいそう』という共通認識をフックとして、
なにを描き、なにを伝えようとするか、
それらを通じて『なんのためにその作品を創るのか』を突きつめていく、
そんなところがキモであると僕は愚考するわけです。
ところが本作は、その『かわいそうさ』をアピールしているだけ。
それっぽく聞こえるだけの言葉を並べ立て、
人のカタチまでも不自然に歪め、
ほらほら、こんな頑張ってるのにかわいそうでしょ、泣けるでしょ、
そんなふうに物語を飾り立てているだけなんです。
そこには何のメッセージもありません。
作画がかなりイイので誤魔化されがちですが、
そこに気がついちゃうと、少なくとも僕はダメです、ダメでした。
作家の「カンド-作品として他人から評価されたい」という、
『エゴ』や『自己実現欲求』ばかりが鼻について、
とても泣く気にはなれません。
で、総論的に『ダメだダメだ』と言われても、
とてもじゃないけどナットクできる話ではないと思いますので、
ここからは総論や抽象論ではなく具体的に、
どこがどう、なぜダメなのか
というポイントを列挙してまいりたいと思います。
【1.オマージュにおいて、引用元への理解・リスペクトがナイ】
リアルタイムで本作がはじまったとき、
僕はほんとうに、めちゃくちゃ気に入ってたんです。
友人にも「今期No.1はダントツでこれじゃね?」とか言ってましたしね。
作画はきれいだし、音楽も楽しいし、人物造形もしっかりしている。
ときおり「はあ?」とは思わされるものの、
そんなものを吹っ飛ばすぐらい、作品に『いきおい』がありました。
その評価にはっきりと『?』がついたのが、
第八話、井川絵見が演奏する『木枯らし』でのモノローグです。
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【2.音楽の扱いがザツ・オンガク論がいいかげん】
これも回が進むにつれて印象が変わっていったポイントであります。
視聴開始当初、僕は本作のことを
『ちゃんとオンガクと向き合った、ホネのあるアニメ』
だと思っていたのです。
ほんとそう思っていたのですが、回が進むにつれ、
その扱いがザツなところとか、
言ってることがいいかげんなところとか、
そういうのが鼻について、作品自体を楽しめなくなっていきました。
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【3.病気と真剣に向き合っていない、デッチあげている】
宮園かをりの病気はいったいなんだったんだ、
なんていう議論じみたものがネット上に出回っています。
・白血病
・脳腫瘍
・パーキンソン病
・ALS
・SCD(脊髄小脳変性症)
・筋ジストロフィー
なんていろいろと候補が上がっていますが、
どれも「この症状はあてはまるけど、この症状や治療はあてはまらない」
ということで、結論は『わかんない』になっています。
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【4.言語表現がチンプ、言ってることが支離滅裂】
これは原作者さんのクセだと思うんですが、
ものごとを『詩人』っぽく表現しようとして、
言葉選びでコケてるところがけっこう多いんですよね。
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まあ、そういうのはただ『こっぱずかしい』だけなんですが、
それだけじゃなく、
根っこの部分で『?』となる表現も散見されます。
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【5.人のカタチがご都合主義で崩壊していく】
ここまでごちゃごちゃ書いてきましたが、
それでも『人のカタチがちゃんとした、ドラマとして成立している』作品なら、
僕は物語の評価に『2』なんてつけません。
ですが、その『人のカタチ』が、回を追ってぐちゃぐちゃになっていくんですよね。
これは言いたいことが山ほどあるんですが、
長くなるので(ここまででも充分長いですし)
物語の最終盤、21話と22話にしぼって言及させていただきます。
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というわけで、僕的なおすすめ度はCランクです。
映像がかなりきれいなので総合満足度が3.4になっておりますが、
心証的には2点台がいいところの作品かな、と。
内容的には、ど直球の感動ポルノ。
病気にも、
音楽にも、
人の死にもカタチにも、
ろくに向き合わず売れ線だけを追求した会心の一本です。
おそらくは、原作の抱えた問題をそのままアニメに完コピ(原作未読)。
監督のイシグロキョウヘイさんは、
内容のなさを映像でカバ-しようとしすぎかと。
これが初監督作品でいろいろ気を使ったのはわかりますが、
原作者の新川直司さんだって、
初のアニメ化作品だったわけですしね。
講談社の版権担当は最初とっつきにくいけど、
強気にいったらけっこう話聞いて親身になってくれるし、
(昔は、ですね。いまもそうなのかな?)
ちょっとこれおかしいんじゃね、と感じるところは
もっとゴリゴリいくべきだったと思います。後の祭りですが。
ただまあ、板もマンガもけっこう売れたようで、
ビジネス的には成功作品です。
カネ目当てで作った感動ポルノでお金がたくさん入ってきたんだから、
そこは「よくできました」と誉めてあげるところかと。
流れで『いちご同盟』がそこそこ売れたのも、よき。
現実論として、こういう作品の需要があることは誰にも否定できません。
ぶっちゃけたハナシ『いちご同盟』みたいな
悲しい・可哀そうという表層を超えて突きつけられるなにか
が含まれているコムズカシイ作品よりも、
うんうん、好きな人が死んじゃったらつらいよねえ。
うんうん、支えてくれる友だちや仲間はダイジだよねえ。
うんうん、打ち込めるものがあるっていいよねえ。
みたくアタリマエのことを目先を変えた言葉で語った作品の方が、
市場に受け入れられやすいのは『事実』です。
マ-ケットにおいて『感動』は『消費するモノ』なんです。
消費財としての『感動ポルノ』のどこがワルいんだ、と問われれば、
実際のところ、どっこも悪くなんかありません。
それは『良し悪し』の話ではなく『好き嫌い』の話でしかないんですよね。
僕は、あくまでも個人的にですが、
アニメが『消費財』ではなく『文化』であることを願っています。
ですから、音楽や人の生死にかかわる作品は、
きちんとそれらに向き合い、
物語に芯なり骨格をちゃんと通して届けて欲しいと思うんです。
ただ、そういうのは現場を離れたから言えることであり、
それができるんならトックにやってんだよ、
というのは、現場を預かる方の多くが声を大にして言いたいセリフだろうなと。
そんなもんは、チンプな理想論に過ぎね~よ。
こっちゃビジネス、食い扶持かせぎでやってんだよ。
みんなが「いい」と言ってるのに、なにカッコつけてんだテメエ。
というのは、ある意味『正論』なんです。
……いや、そうじゃないな、自分を正統化したがっちゃってるな。
そういうのは、ほんとうに、イタいほどの『正論』なんです。
つまるところ、世間一般からしたら『たかがアニメ』なんですよね。
ですから、僕が言っていることは、
しょうもない一個人の、しょうもない感傷論みたいなものに過ぎません。
でも……ですね、
その『たかがアニメ』に全てを賭けている人たち、
命を削るようにしてモノづくりに打ち込んでいる人たちがいることを、
ほんの少しでも考えていただけたら、
そんなふうに考えてアニメを見る方が一人でも増えたら、
僕としては、とても、とても幸せだなあと思います。