101匹足利尊氏 さんの感想・評価
3.9
ビヨンド・ザ・セーラー・ギャラクシー
【物語 3.5点】
前編で決戦に至るまでの経緯をギュウギュウ詰めにして、後編ではラストバトル。
ボスとヒロインの矜持をぶつけ合う論戦も含めてジックリ描く。
前作『~Eternal』と同様の全体構成。
今回のセーラームーンとセーラーギャラクシアの最終舌戦は、
宇宙の成り立ちのレベルからセーラー戦士の宿命を説き明かす。
{netabare} 星が生まれた時、光が生じるからこそ闇が生まれる。
星を守護するセーラー戦士と光に引き寄せられる悪は表裏一体。
よって星々とセーラー戦士が生まれる限り、戦いは終わらない。
永劫の輪廻転生の中で重要なのはクリスタル。器の肉体が経験する刹那の人生などに大した意味などない。{/netabare}
その上で尚、現世に生きる女の子の青春の価値を抗弁する。
時空を越えた特大スケールの大説教合戦。
瞬きする間もなく倒れていくセーラー戦士など、
やはり尺は窮屈な感じはしますが、
壮大な宇宙観をまとめ上げた手腕には見るべき点があります。
【作画 3.5点】
変身&必殺技の“バンク”再現にも多くの労力が割かれた集大成。
『~Crystal』1期序盤のセーラームーン変身バンクでは、
少女漫画風タッチとCGが目立ち、
90年代アニメ版とは違う作風で行くんだという主張が相容れず、
私の脱落の一因となりました。
結局、本シリーズも回り回って、90年代風の再現に戻って来た感。
劇場で堪能できた嬉しさ半分。これを最初からやっていればとの悔恨半分。
限られた尺で宇宙の真理を表現すべく作画も奮闘。
掴み難いイメージを理解する一助になりました。
それにしてもスターライツやギャラクシアのヘソ出しスタイル。
最後は{netabare} ネグリジェ姿のセーラー戦士たちで大団円。{/netabare}
悟りに近づくに連れ、薄着、肌色率が上昇していくのは何故なのでしょうw
劇場で平然とヒロイン変身シーンを堪能していた私も少し羞恥を覚えましたw
【キャラ 4.0点】
ほぼラストバトルのみを描いた後編。
登場キャラもほぼ全員セーラー戦士ですが、その数は膨大。
星の数だけ守護戦士が生まれる宇宙観を物量で思い知らせる。
ラスボス・セーラーギャラクシアは、“クズ星”の戦士として傷を重ねた上、
{netabare} 真ボス・カオス{/netabare} に明かされた宇宙の真実への絶望から凶行を重ねる。
ギャラクシア自身がセーラームーンに救済を求めていた?
勧善懲悪とは異なる余韻をもたらす。
戦士たちの百花繚乱の中、私の心に残っているのが、月野うさぎの母・育子。
セーラー戦士の事情を知らないはずの母が、最終決戦に挑む娘の背中を見て、もう戻って来ないかもと予感するカット。
何でもお見通しな母親。宇宙に勝る真理なのかもしれません。
【声優 4.5点】
主演・三石 琴乃さん。
この春出た、自身の声優人生を回顧した自伝的エッセイ『ことのは』を購読。
その中で繰り返し語られるのは、昔は今続けている事が意味があるのか分からなかったが、とにかく努力は続けた。
後になって、あの時苦しんで身に付けたことが役に立ったという人生訓。
セーラームーンの一人称視点が強調された本作。
月野うさぎも、仲間が次々に倒れ、孤独の中で自身の正義を見失いかけるピンチが続く。
暗中模索の中で、何度も立ち上がり戦い抜くムーンの姿を見ていたら、
まるで中の人の声優人生と重なっているように感じて胸を打たれてしまいまして。
本シリーズも周りのセーラー戦士役は実績を重ねた中堅、若手に変更して、
主役だけは三石さんのままで行くというキャスティングが無理があると物議を醸しましたし、私も疑問でした。
でも最後に主演声優に感動できたのだから終い良ければこれで良しだったのかなと。
“国民的美少女戦士アニメ”主演という成功にも慢心せず、
舞台・ドラマにも挑戦し芸を磨き続けて来た三石さん。
来年の大河ドラマ『光る君へ』では藤原道長の母・時姫役での出演も決定。
京の伏魔殿でどんな華を咲かせるのか?楽しみな大河がますます楽しみになります。
意外なキャストだったのがセーラーコスモス役。
一人だけ、たどたどしいアフレコだなと訝しんでいたら{netabare} 北川 景子さんでした。
実写ドラマ版のセーラーマーズ役がデビュー作の女優がムーンの遠い未来の姿を演じる。{/netabare}
作画と合わせてキャスティングにも本シリーズだけでなく、
メディアミックス全体を総括しようとの意志が滲み出ています。
【音楽 4.0点】
OP主題歌は「セーラースターソング」
TVアニメ版『~セーラースターズ』OPを、
セーラー火球役・水樹 奈々さんがスターライツ声優陣を従え、こぶしを利かせてカバー。
奈々さん起用の真価を発揮。
ED主題歌は前編から続投のDaoko「月の花」ほか数曲のメドレーで、
『セーラームーン』コンテンツの集大成を飾る。
エンドロール後の締めくくりには、価値観が移り変わろうとも、
これが自分が描いて来た女の子の幸せだとの作者の意地も感じました。