フリ-クス さんの感想・評価
3.7
FLY ME TO THE HONEYMOON
僕の奥さんいわく、
結婚における一番いい時期というのは
『ずばり、婚約期間』なのだそうであります。
え゛、結婚してから僕ってそんな幻滅させた?
と思ってショックを受けたのですが、
そのことで彼女に「なんでそうネガティヴにとるかなあ」と逆ギレもされ。
いや、ふつうは絶対、そうとりますよね。
彼女の主張によりますと、
新婚旅行なり結婚当初が楽しいのは『あたりまえ』なのだそうです。
ふわふわした『おままごと』みたいな『リアル』。
これに対して婚約期間というのは、
その『リアル』に向けた『イメージ』が膨らんでいく時期なんだとか。
一緒に家具やカーテン、食器なんかを選びに行ったり、
結婚式や披露宴のあれやこれやに奔走したり、
会社の同僚や学生時代の友人に「独身最後だから」と飲みに誘われたり。
そういうバタバタと忙しくてお尻の落ち着かない感じが、否が応にも
ラストスパート的なエネルギーを注入したり、
ゴ-ル後の新しい生活を想像させたり、
誰かと共に生きる、という気持ちを少しずつ固めていったりしてよき。
というのが彼女の主張であります。
甘々生活なんてその気になればなんぼでも続けられるけれど、
そういう気分になれるのって、そこしかないやん、と。
いやまあ、言ってることはわかるけど、それにしても『言い方』……。
で、本作『トニカクカワイイ』なのですが、
ざっくり言うと、10代若夫婦の新婚甘々ラブコメディであります。
高校受験直前の夜、
交通事故で死にかけた自分を助けてくれたかわいこちゃんに一目ぼれ。
ただ、その子の連絡先どころか名前もわからず、
高校には行かず一人でアパート暮らしをしながら想い続けていたところ、
18歳の誕生日、その子が婚姻届けをもって現れて……
とまあ、ツッコミどころしかないような展開で結婚したふたり、
だんなさまの由崎星空(なさ)くんと、
およめさんの司(つかさ・戸籍年齢16歳)ちゃんの、
いちゃいちゃふわふわした新婚生活のお話ですね。
再会したその夜に婚姻届け出しに行ってるので『婚約期間』はゼロ。
そんじゃマクラはなんだったんだ、という、
ジェットコースター的な展開による結婚甘々生活物語なのであります。
{netabare}
原作を読んでいる方はご存じかと思いますが、
実は司には大きなヒミツがあり、
物語は壮大でロマンティックな方向へ舵を切っていきます。
ただ、この第一期では、あっちこっちで『匂わせる』だけ。
ですから、新婚若夫婦のイチャコラ日常物語、
というような見方をしていても大丈夫かと思われます。
まあ、そのヒミツ自体、一期でもけっこう『バレバレ』なのですが。
{/netabare}
原作は『ハヤテのごとく!』の著者であり、
役者(声優)の浅野真澄さんと結婚したことでも有名な畑健二郎さん。
掲載先が少年誌の週刊少年サンデーということであり、
新婚いちゃいちゃ物語でありながらも、
いわゆる18禁的なアレはまるっきりありません。
というか、テイスト的にはリアルな新婚生活ぶっぎっております。
DT諸兄のケッコン妄想をそのままアニメにしたような、
既婚者諸兄は「うん……まあ……そうね」としか言えないような、
高木さんもまっつぁおの純情コントがてんこもり。
これから結婚を考えておられる方にとってはなんの参考にもならない、
あくまでもマンガやアニメ限定の結婚ラブコメであります。
今年度中に二期の放送が決定したということで再視聴してみたのですが、
僕的な印象はやっぱ初見のときのまま。
畑さんらしいニッチなギャグや思わせぶりな伏線はすごくいいんです。
そこのところはほんといいんだけど、
だんなさんである星空くんの純情イチャコラ演出が、
あまりにも『しょっちゅう』かつ『長く』描かれ過ぎていて、
お話のキレが薄まったり打ち消されちゃってる感がなきにしもあらず。
『からかい上手の高木さん』の場合は、
二人がイナカ(小豆島の方、ごめん)の中学生で、
おまけに、ちゃんと付き合ってもいない。
という前提があるから、いやいや過剰演出でしょというシーンでも
微笑ましく見られるところがあるわけです。
かたや本作は、中卒とは言え、自分で生計を立てている社会人のハナシ。
婚姻届けまで出して二人で暮らしている、
ちゃんとした『ご夫婦』のお話なわけでありまして。
ですから、最初の数話はお目こぼすにしても、
最終話まで『付き合い初めの中坊』みたいなこと言ってんじゃね~よ、
と、どうしても冷ややかなまなざしになることを禁じ得ず。
もちろん、こういうイチャコラ演出が好きな方を否定はいたしません。
いたしませんが、拙的には、
ここまでしょっちゅう、しかも『長い』演出が続くというのは
『微笑ましい』とか『ニヤニヤする』を通り越して、
『ウザい』だとか『イラっとさせられる』
と感じさせられてしまうような次第なのであります。
ただ、そうしたイチャコラ演出が長いのはともかく、
ラブコメ作品としては『よくある妄想ラブコメ』よりも優良であります。
そこは、旦那さんである星空くんのキャラ設定によるものかと。
学生のときは勉強をがんばり(全国一位)、
ホリックワ-カ-みたく仕事もがんばり(しかも優秀)、
若干18歳にしてそこそこの資産(500万強)を貯めている。
それを鼻にかけず、周囲の人に手を貸してあげたり気を配ったり、
ふつう以上に人づきあいが出来て周りからも好かれている。
とまあ、もじもじ演出がウザいだけで、
本人にはきちんとモテ要素が搭載されているわけです。
高学歴・高収入・高身長の3Kではありませんが、
庶民派の結婚相手としては、
まずまず『準優良物件』に分類されるレベルにあるかと思われ。
ここらへんはよくある妄想ラブコメ、
① ジミで何の努力もしていない男の子に
② 学校でもトップクラスの美少女が『一方的に』すり寄ってきて
③ 戸惑う男の子をぐいぐい引っ張ってなんだかんだ
みたいな『劣化版ハルヒ路線』とは一線を画していて、よき。
ああいうのは一本二本あれば十分なわけで、
まあ、書く読むは自由だけど、妄想するまえに努力せいよ、草食男子。
僕的なおススメ度は、B+ぐらいの感じかと。
ラブコメの『コメディ』部分は、まずまず楽しい仕上がりです、
ハヤテ一期の頃みたいなキレッキレ感はありませんが、
いかにも畑さんの原作らしいニッチなギャグは、それなりに健在。
サブキャラも適度にヌケていたり黒かったりして、
わちゃわちゃとにぎやかで楽しい雰囲気が、けっこう出せています。
ただし作品のコンセプト上、
ヲタ心よりもDTの妄想心をくすぐる部分に力点が置かれているので、
バランス的には夫婦の2ショットシ-ンが多めになります。
結婚指輪やランジェリーのお値段、
化粧品の多さや、繊細な衣類のお洗濯の仕方など、
未婚かつ女子と暮らしたことのない諸兄がヨロコビそうなフックも多め。
そのあたり、ハヤテ的な『わちゃわちゃ』だけでなく、
いわば『わちゃわちゃ』と『いちゃいちゃ』のハイブリッド作品、
さらに司の『謎』もトッピングされているという複合フック型なので、
そこのところを
・一粒で三度おいしい
・焦点がぼやけている
のどちらと感じるかで評価がまっぷたつに割れるのではあるまいかと。
僕的には、けっこう面白い基軸だと思いますし、
ありっちゃあり、ただし演出がときおりひつこい
ぐらいの評価をいたしております。
キャラ的には、鬼頭明里さん演じるヒロイン、司の一人勝ち。
草食系男子の妄想をこれでもかと受け止め、
それらをお釣りがくるぐらいパーペキ(←死語)にこなしております。
・見た目がおとなしそうで、しかもめちゃくちゃかわいい。
・そのくせしっかり者で、ぐいぐい引っ張ってくれるところもある。
・ヲタ趣味を否定せず、むしろ本人にその傾向が強い。
・お料理上手、掃除や洗濯も上手と、絵にかいたような女子力強者。
・物欲・金銭欲が極小で、ダンナの稼ぎや買ってくれるものに一切文句なし。
・性的にウブ、ジュンジョ-小芝居に赤面しながら付き合ってくれる。
・大人びたミステリアスな魅力もあり、そのくせさびしがり、甘え上手。
と、まさに「そんなやつ、いね~よ」的なフル装備キャラに他ならず。
単に見てくれや言うことが『かわいい』というだけでなく、
シ-ンに応じ『男前』『ミステリアス』『家庭的・しっかり者』など、
様々な側面を見せながら、
きちんと『由崎司』という一つの枠に収まって物語を引っ張っていきます。
ちょい気になるのは、
星空くんの司に対するほめ言葉が『カワイイ』しかなく、
それってうがった見方をすれば、ルッキズムの塊なんじゃないか、と。
気持ちはわからなくもないけれど、
女性をほめるときはもう少し言葉を選んだ方がいいかもです。
作画は……お世辞にも「よき」とは言えず。
制作が、あたりはずれの落差がはげしいSeven Arcsさんで、
本作は限りなく『ハズレ』に近いかも。
いいカットは間違いなくいいし、
キャラもかわいらしく描けてるんですが、
回やカットによっては『作画崩壊』のにおいがぷんぷんと。
監督は、原作の畑さんと『それが声優!』つながりの博史池畠さん。
直近作だと『新米錬金術師の店舗経営』など、
萌えアニメが主戦場の方ですね。
本作は、他の萌えアニメとの差別化を狙ったのか、
純情コント演出を前に出し過ぎで、
作品をチープにしちゃった感がなきにしもあらず、です。
(狭い層を意識的に狙った戦略だったのかも知れませんけどね)
キャラや役者さんのお芝居は、
こちらもやっぱりヒロインの司役、鬼頭明里さんの独壇場。
榎木淳弥さん、上坂すみれさん、小原好美さんなど、
中堅の人気役者さんに加えて、
江原正士さん、浅野真澄さん、久川綾さんなど、
ベテラン役者さんがちょい役で物語をがっちりとサポート。
だがしかし、その中にあっても、鬼頭さんの存在感は『圧倒的』です。
基礎声質は、メゾに近いソプラノハスキー。
声そのものにはたいした特徴がなく、
しょうもない役をあてると埋没しちゃうそうな感じです。
ただ、役柄を咀嚼して人物像を創造する力と、
喜怒哀楽全てにおいてそれらを伝える表現力がものすごい方で、
しかるべき役があてられると、素晴らしいキャラを立ち上げてきます。
『まちカドまぞく』の千代田桃しかり。
『虚構推理』の岩永琴子しかり。
(キメツは正直、よくわかんないです。劇場で聴いたら違うのかな?)
本作も、もし司のキャストがしょうもないアイドル『声優』だったら、
ぐだぐだで目も当てられない作品になっていた可能性、大です。
そこんとこは、すごくストレートに鬼頭さんの手柄ではあるまいかと。
もちろん、それはやっぱり音監の本山哲さんの手柄でもあり。
『俺ガイル』みたいな良作はものすごく繊細に、
グダグダの作品もそれなりに仕上げてくる、素晴らしい音監さんです。
音楽は、劇伴、OP、ED全て問題なし。
とりわけ、鬼頭さんが歌うOP曲『恋のうた』は、
本作の一風変わった世界観をよく表していて、楽しいです。
ED、カノエラナさんの『月と星空』は、
曲調といい歌い方といい、
そのまんま『高木さん』のEDに使えそうな感じではあるまいかと。
とにもかくにも、虫歯になりそうな甘々アニメなので、
辛党の方にはちょっと敷居が高いかも。
ほんと、『ハヤテのごとく』に砂糖をドバっといれて、
上からチョコレートシロップを目いっぱいかけたような感じです。
視聴後はきちんと歯磨きをするなど、
心の健康に注意しつつ、ご賞味あれ。
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ちなみに、レビュ-タイトルに用いてる"HONEYMOON"という単語ですが、
日本ではいわゆる『ハネムーン』、
つまるところ『新婚旅行』という意味でつかわれるのが一般的かと。
じゃあ英語(発音は『ハニムン』みたいな感じ)ではどうかと言うと、
もちろん『新婚旅行』という意味もあるのだけれど、
漢字に直した『蜜月』という字面に近いニュアンスというか、
新婚当初の甘々期間を指す言葉として用いられることも多いのだとか。
(この場合の『月』はmoonじゃなく、期間を表すmonthですね)
もちろん僕は、そっちの意味として使っております。
他にも、政治的な意味での蜜月時代や
就任とか入社直後の『多少の失敗は大目にみてもらえる時期』を
honeymoon period
と表現したりしますが、文脈によってはhoneymoon一語だけでも、
そういう意味になっちゃったりするそうです。
で、本作『トニカクカワイイ』の副題は『FLY ME TO THE MOON』。
(エヴァで有名な、ジャズ・スタンダードの曲名ですね)
はあ? なんで「私を月につれてって」なの?
moonって単語に、なんか他の意味とかあったっけ?
原作を読んでおられない方はそう思われるかもしれませんが、
ちゃんと意味、ございます。
そのあたり、二期で明らかになると思いますのでご期待を。
ちなみにmoonには、スラングで『ナマおしり』という意味があるそうです。
動詞としても使えるらしくて、
その場合はアメリカの青春映画でときおり見かける、
おしりを見せて相手をからかう
という意味になっちゃうんだとか(ぼく調べ)。
夜、女の子を送っていったついでに部屋にあがり込もうと思って、
ロマンティックな言い方のつもりで
「君の部屋で月を見せてよ」
なんて言うと、ヘタをするとひっぱたかれるかも知れませんので、
拙と同等レベルの語学力しかない方、くれぐれもご注意を。