フリ-クス さんの感想・評価
4.3
クズの本懐
妻 「ねえあなた、会って欲しい人がいるんだけど」
夫 「へえ。誰?」
妻 「話したことなかったっけ、子供のころめっちゃ憧れてたセンパイ」
夫 「ああ……会うのはいいけど、なんで?」
妻 「あたしね……その人とも、結婚したいと思ってるの」
夫 「はいっ?」
妻 「ほら、こないだあなた出張中、あたしの父が死んじゃったでしょ」
夫 「うん」
妻 「あたし、めっちゃ落ち込んで……その時に再会して、優しくされて」
夫 「それ、つけこまれてない?」
妻 「で、なんか拒む気力もなくて……最後までしちゃったのね」
夫 「げふっ……だ、だからそれ、つけこまれてない?」
妻 「違うよっ。あの人はあたしのこと心配して、してくれたんだもんっ」
夫 「いや、だからそういうのを……あ~~もういいです」
妻 「で、すごく嬉しくて、あたしやっぱこの人、好きだなあって」
夫 「……で、僕と別れたい、と」
妻 「ううん、あなたのことも好き。だから彼を『第二夫』にしたいなって」
夫 「じゅ、重婚っすか。そそそ、それってもう、浮気ってレベルの話じゃないよね?」
妻 「うん、本気の話。あたし、自分に正直になりたいの」
夫 「あの~~正直過ぎませんか?」
妻 「ほら、あたしってオトコとかあっちなこととか好きでしょう?
毎日好きな男二人に囲まれて生活して、
かわりばんこにあんなことやこんなことって、サイコ-だと思わない?」
夫 「だから正直すぎるだろっ」
妻 「そっちの方が、あなたもコーフンするかも知れないし」
夫 「僕のため、みたいな言い方やめて。あと、そういう性癖ありません」
妻 「あたしも、最初はさすがにないかなって思ったのよ。
でも、友だちが背中おしてくれて……」
夫 「お友だちのせいにするのもやめて。これ、キミの意志だよね?」
妻 「お願い、あの人のこと認めて。あなたのこともきっと幸せにするから」
夫 「いや、この話のどこに、僕が幸せになれる要素が?」
妻 「あなた、自分のことばっかり……。
いっつもそうじゃない、ちょっとはあたしの気持ちも考えてよ。
あなた、あたしのこと幸せにするって誓ったじゃない。
あたしは、あの人のこともあなたのことも好きなの、
だから三人で幸せになりたいのっ」
夫 「え~~~……」
げに恐ろしきは『ジブンに正直な人』であります。
がんばれ、旦那さん。
さて、大人気の異世界転生モノ『無職転生 Ⅱ』の第二ク-ルは、
平たく言っちゃうと、
前フリ会話劇のような論理がリッパに成立してしまうおハナシであります。
もちろん、いろいろオブラートに包んだり、
ちゃんと考えてるっぽいエピも散りばめられておりますが、
とどのつまりはそういうこと。ぜひもなし。
異世界モノガタリですから、日本の法律や倫理観は機能しておりません。
だからまあ、コトをコンプラうんぬんで語るのは詮無きことかと。
(てか、そもそもアニメだし)。
しっかし、
ED治ったと思ったら、いきなりなにやってんだ、ルディ。
(わかんない方は、第一ク-ルからどうぞ)
さて、この第二ク-ルは、
まんま第一ク-ルの『続き』なのですが、
ただ単にアソコのナニを克服するだけのことに13話まるっと費やして、
テ-マもへったくれもあったもんじゃなかった前ク-ルと違い、
ばくっとした大きなテーマをもっています。
拙は勝手に本作品の通奏的なテ-マを
『人間の業と再生』
みたいなモノだと愚考しているわけなんですが、
その『ヒトとしての再生』過程における社会構成の最小単位、
いわゆる『家族』というものが、
本ク-ルのサブテーマとして流れているんですよね。
13話から15話までが 『妻(結婚)』
16話から18話までが 『妹(兄弟姉妹)』
19話から22話までが 『親』
ここらへんあたりまでは、
好き嫌いは横に置いておくとして、
イッパン論的にわりとキレイな物語が紡がれていきます。
ただし、それで終わらないのが『無職転生』クオリティ。
ラスト二話、23話と24話でハナシがもっかい『妻(結婚)』に戻り、
ちょっとは成長したじゃん、ルディ
といったそれまでの評価をブチこわしてくれやがります。
自己憐憫の次は自己陶酔かよって感じで、
なんかもういろいろセッキョ-したくなる話の畳み方なのでありました。
物語の前半部、
新婚ベタ甘生活から妹たち(ノルンとアイシャ)との同居生活のくだりは、
正直言って拙的にあんまり面白くありません。
もちろん、こういうのがお好きな方はお好きなのでしょうが、
ハナシの起伏が平坦でもったりしており、
拙は「いいから早よ、ツギ」とか思って見ておりました。
ケッコンって素晴らしい、という甘々生活から始まって、
いじけた妹を心配するおにいちゃん奮闘記、
懐かしのホームドラマ異世界版がぐだぐだと続きます。
全体的なハナシの進行や人物相関の明確化という点から、
外せないプロットではあるのですが、
ていねいに描きすぎてハナシが間延びしちゃった感が否めません。
(それにしてもアイシャは、けなげでよい子ですね。鍛えられてます)
物語の中盤、
ギ-スからの『救援求む』の手紙を受け取ってから、
ハナシはがぜん面白くなります。
ただし、
すんなりベガリット大陸に行こうとしないルディがなんだかな。
ヒトガミやエリナリ-ゼに何を言われようが、
親がピンチで救援を求めてきていて、
ジブンの家族は友人・仲間がしっかり守ってくれる環境なのだから、
行く・行かないを迷うあたりでニンゲン失格。
ごちゃごちゃとアタマの中で行かない理由を並べ立ててますが、
いや行けよ
としか思いようがありません。
家長としてのセキニンカンみたいなハナシではなく、
こんなの、単なる『守りに入ったおっさん』状態ではあるまいかと。
で、自分で行こうとするノルンの姿をみて、
ようやく覚悟をきめて重い腰を上げるとかね、もうね。
ぜんぜん『いいお兄ちゃん』してませんやん。
で、ベガリット大陸行きを決めてからは物語がアクティヴになって、
テンポよく視聴者を惹きつけながら、
ダンジョンでの悲劇に向かって展開してまいります。{netabare}
エリナリ-ゼとの砂漠旅。
ラパンの町で父親(パウロ)、そしてダンジョンでロキシーと再会。
ダンジョン攻略、ヒュドラとの死闘。
パウロの死。
救出に成功したものの、廃人化した母親(ゼニス)。 {/netabare}
まさに『上質な異世界冒険譚』といった感じで、
息つく暇もなく、
リアリティのある残酷な結末へと物語が収束していきます。
映像にもいちいちリキはいっていて、
作画さん、
描いていて楽しかったんじゃないかしら、と思いを馳せてみたり。
この間、ルディの言動はけっこうまともで、
ちゃんと異世界冒険譚の主人公ポジションをつとめております。
おお、成長したじゃん、見直したわ
と思われた方も多かったのではあるまいかと愚考いたします。
ただまあ、ロキシーに結婚の報告をしない、という
指輪を外してパ-ティに行き、女の子にコナかけるオヤジ
的なアレはあるんですが、
ちゃらちゃらしたお見合いパ-ティではなく、
ゼニス(母親)救出という目的を持ったガチパ-ティであるため、
この段階では「こらこら」程度でお目こぼし可。
ただし『けっこうまともなルーデウス』はこのあたりまで。
ダンジョン攻略終了後は、
ニンゲンとしての未熟さといいますか、
くすぶっていたヒキニ-トの思考回路が燃え上がります。まさに火の鳥。
{netabare}
まず、ルディをかばって亡くなった父親(パウロ)について、
まるで自分一人だけが大事な人を失ったように、
周囲にカリカリしながら悲嘆に暮れているあたりで、なんだかな。
そもそも心の中で『名前呼び』を続けて父親扱いしておらず、
今回だって来るつもりなかったんですよこのヒト。
それを『自分を息子と思ってくれていた』と気づいたからってアンタ。
かたやパ-ティメンバーは、
長年、パウロと命を預け合って苦楽を共にしてきた仲間たち。
ロキシーだって第二の家族として慕っていたし、
宿で待っていたリ-リャなんか、
パウロの第二夫人であり、子ども(アイシャ)まで産んでいますしね。
それぞれが気が狂うほど哀しい思いを抱えているのに、
そういうのはガン無視。
そして、オレだけがつらいんだヅラ。
あんた、そんな顔する資格ないでしょうに。
さらに、下心満載でなぐさめ夜這いをかけてきたロキシーを、
ケッコンしている事実を伝えることもなく完食。
で、翌朝すっかり元気になりましたとかね、なんかね、もうね。{/netabare}
でもまあ、それだけで済んでいれば「しゃ~ねえな」というハナシなんですが、
もちろんそれだけで収まるハズもなく、ここからがルディの本領発揮。
クズの本懐、重婚ハ-レムに向けて突っ走ってまいります。
{netabare}
そもそも父親のパウロが妻を二人娶っていた理由というのは、
愛情モンダイなどではなく『デキ婚』だったんですよね。
リ-リャにうまいこと誘惑されて、デキちゃいましたごめんなさいという話。
ですから、
正妻ゼニスに対する『ニクタイ的な裏切り』はあっても、
そこに『精神的な裏切り』はありません。
もちろんニクタイ的な裏切りも決してよろしくはありませんが、
そこはまあ、その、あの、えっと、ほら、なんだ。
で、リ-リャを第二夫人として迎えることになったのも、
なんにも言わせてもらえないパウロを尻目に、
出ていこうとするリ-リャをゼニスが男前な判断で引き止めたまでのこと。
かたや、ルディには『とるべき責任』がありません。
むかし憧れていた年上のおねいさんとチョメチョメしちゃいました、
ほんとそれだけの話なんです。
ロキシーの方からベッドにもぐりこんできたわけだし、
ルディが結婚していることを承知の上でのもぐりこみだったし、
もちろん、できちゃった、なんてこともありません。
そして相手は、見かけロリはいってるだけで100歳以上も年上。
たとえお互いに好き同士であったとしても、
こういうことは封印して鍵をかけ、
黙って墓場までもっていくのが既婚者のたしなみではなかろうかと。
{/netabare}
ただですね、やっぱりと言うかですね、
ルディには持ち合わせがないわけなんですよ、既婚者のたしなみとか。
だってもともとキモデブヲタDTヒキニ-ト。
基本、ジブンのことばっかしで、
コンプラうんぬんのまえに『ヒトとしてのあれやこれや』が備わっておりません。
{netabare}
ロキシーを第二夫人にしていいかシルフィにお伺いを立てる、
ということで『正々堂々フェアにやっている』ように見せかけていますが、
それはただセキニンをなすりつけているだけのことかと。
シルフィにしてみたら、
帰らせていただく『お里』がないわけなんです。
それどころか、
ルディの屋敷を出たところで住む家も、
乳飲み子を抱えて生きていくためのケーザイ力もありません。
ですから『ぶち切れて出ていく』という選択肢は最初からないんです。
身重のカラダであることが、
オンナの幸せではなく『足枷』になってしまってるんですね。
(そういうカラダにしたのはもちろんルディ)
で、ロキシーを追い返したところで、
ルディが未練たらたらでロキシーを思い続けるであろうことは容易に推察できます。
この世界は重婚がコンプラ的にセーフですから、
なんならシルフィの方が、
独占欲で恋路をじゃました悪者ポジションにされるかも知れません。
セ-ヨクに負けて××しちゃいましたあ、という話ならば、
ぶち切れて何日かクチをきかず、
可能な限り大きな『貸し』をつくって許してやればいいんです。
それと『この女も好きだから第二妻にする』は全く別もの。
ルディが選んだのは、
一人のオンナを100愛するという生き方ではなく、
ふたりのオンナを50:50で愛する
という生き方に他なりません。
(どっちも100というのはキレイゴトorうそっぱち)
ゼロから50になるロキシーはともかく、
100から50にされるシルフィにとっては
たまったもんじゃありません。
話を聞いてノルンがぎゃんぎゃん言ってたことは、まさに正論。
かたや、
自分の置かれた立場をすばやく計算し、
あ~~それじゃあたしも50でついてけば、
子どもと今の生活守れるのね
という判断をくだしたシルフィは立派、男前、そして賢いかと。
しゃあないな風に笑顔で認めるところが、
オンナの強さとしたたかさを如実に表しています(てかちょっと怖いかも)。
で、肝心のルディは、
そういうことはなんにも理解せず、
パウロの墓前で
父さん、僕もこれでいっぱしの男になったよ
みたいな感じに自己陶酔のラストシーン。
ほんともう、後ろからバットでアタマ殴ってやろうかしら。
{/netabare}
それでも拙的な作品のオススメ度は、Aクラス。
映像・音楽・お芝居すべての面で標準を軽々クリアしており、
ほかのしょうもない『なろう系』見るぐらいなら、
ぜひぜひこっちを、と言えるレベルにまで達しております。
物語の根幹は
もしも骨の髄まで腐りきったキモデブヲタDTヒキニ-トが
金髪美少年として中世・牧歌的な異世界に転生したら
というものであり、
その背骨は一ミリたりとも揺らいでおりません。
社会経験・人生経験・恋愛経験なんもなし。
ジブンの受けた傷を理由に罪なき両親に寄生してぶくぶく肥え太り、
その親の葬式にも出なかったゴミ野郎。
そういうやつがパツキン美形に転生してモテモテになったら
そりゃあこのぐらいするわなあ、
ということをそのまんまいたしている物語にございます。
もちろん平常運転のときは、
周囲に気を配れるぐらいにニンゲン的な成長をしております。
してはいるのですが、
イザ、というときに前世の『業』が顔を出しちゃうんですよね。
極端に視野の狭い、ジブン至上主義。
ここのところは物語開始時から一ミリもぶれておりません。
武道でも舞踊でも、
正中線の揺らがない所作は美しいものであります。
こんなの転生まったくカンケイないやん、
という『エセ転生モノ』が横行する昨今のアニメ業界において、
実に希少な『背骨のちゃんとした物語』だと拙は評価しています(←石丸ふう)。
じわじわと『それなりに』成長している部分と、
やっぱダメじゃんこいつ、という部分、
その比率が回を追うごとビミョーに変化しているところが実によきです。
男性視聴者の多くを『いいなあ、うらやましいなあ』と唸らせ、
女性視聴者の多くに『死ねば?』と思わせたであろう本ク-ルですが、
物語はまだまだ続きます。
今後、どんなふうに視聴者の予想を裏切ってくれるのか、目が離せません。
あくまでも拙的には、ですが、
アイシャがどんだけ『いい子』に育つのか、
秘かに楽しみにしております。
(これ、高田憂希さんの手柄ですね)
そこのところだけは、裏切って欲しくないかなあ。
いずれにいたしましても、
良きにつれ悪しきにつれ『人のカタチ』をしていて崩れない、
上質な異世界冒険譚に仕上がっております。
はあ? なろう系転生モノ? いらんいらん。
という方にもオススメできる逸品かと。
未視聴の方がおられましたら、
ぜひぜひ第一話からご賞味あれ。
けっこう気持ちよくイラっとできますよ。