劇場版アニメ映画ランキング 4

あにこれの全ユーザーがアニメ映画の劇場版成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2025年03月07日の時点で一番の劇場版アニメ映画は何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

63.7 1 劇場版アニメランキング1位
メイクアガール(アニメ映画)

2025年1月31日
★★★☆☆ 2.9 (23)
47人が棚に入れました
現在より少し先の未来。天才的な頭脳を持つ科学少年・水溜明は、人々の生活をサポートするロボット・ソルトを開発、製品化することに成功するが、新たな発明がことごとく失敗し、行き詰まりを感じていた。そんなとき、友人から「カノジョを作ればパワーアップできる」という話を聞き、人造人間のカノジョ・0号を科学的に作り出す。0号は、プログラムされた感情と成長していく気持ちの狭間で揺れ動く。人と心を通わせることに不慣れな明との間に芽生えるのは恋なのか、それとも……?

鬼戦車 t89 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.1

令和のキテレツ大百科だな…。

 映画館で観て来ました。2025.02.26

 今は亡き偉大な科学者である母親の後を継いで研究に勤しんでいる主人公、立ち位置的には母親の遺したデータを解析して発明品を作っているので、キテレツ君っぽいです。

 キテレツ君は、最終回まで御先祖である奇天烈斎様が遺した古文書を読んで、再発明していることに疑問を感じていませんでしたが、本作品の主人公は一丁前にスランプに陥って悩みます。

 スランプ脱出のためには彼女を作ると良いと親友に言われ、自分のことを好きな人造彼女を作ってしまいます。

 うわ…。ヤバい臭いしかしねぇ…と、思いますが、この人造彼女の0号、キャラデザインも良く、結構可愛いので何となく応援したくなります。

 ただ、弟分だったキテレツ君のコロ助と違うのは、成長するにつれて彼女ヅラした雌ムーブをかましてくる点です。0号的には産まれた意味を果たそうとしているのですが…。

 そこから始まる悲喜劇が本作品の見所なのですが、オチはモヤッとしています。

 世界観からして勢いで誤魔化しているので、気になる人は気になって感情移入を拒まれそうです。

 他の登場人物たちも大した掘り下げは無く、主人公の幼馴染は、中々可愛い感じのツンデレですが、ここに至る背景が不明なので、単なる賑やかしですし、主人公の親友も良く分からない人物です。そもそも主人公も含めてコイツら人間なの?文明水準が不明なので、デザインヒューマンとか試験管ベイビーとか混じってそうです。

 母親の同僚の姉御っぽい研究者も、おじさん的保護者ポジの研究者も、主人公とどんな関係なのか一切劇中で描写されないので、何か不思議でフワフワした感じで物語が進んでしまいます。

 主人公の作った0号も、トンデモも無い存在の様な気がしますが、普通に高校に通っても、親友、幼馴染、先生、他の同級生他誰も気にもしません。

 私が参考にしているアニメ評論ブログを運営している笠希々さんは、本作品をSFサイコスリラーと評価していますが、そう言えなくも無いけど違う様な気もします。

 グロ描写があるとは言え、ザックリとした世界観は、藤子F不二雄先生のSF(すこし不思議)的ギャグ時空の様な気がします。コロ助も時々キレてキテレツを殺そうとしてましたしね!

 0号もコロ助も創造主に逆らったりしますが、母親の遺したメモリを解析して発明している本作品の主人公と、奇天烈斎様の古文書がネタ本のキテレツは、構造的に相似したキャラなのでは!?厳密には創造主では無いと言う…。

 どちらにしても、90分だから何とか映画として成立している様なアニメ映画でした。色々考察出来る深さがある様な、単なるスタジオの技術力をアピールするためのプロモーションの様な何とも言えない雰囲気なので、私的には、映画館で観る程では無いかなぁ位の評価てす。

投稿 : 2025/03/01
♥ : 2
ネタバレ

あと さんの感想・評価

★★★★★ 4.7

序盤のゆったりしたテンポからギアを上げ想像を飛び越えていく怪作

 見終わったあとは放心して立ち上がれなくなるほどの衝撃的なラスト。これはある意味ホラーなんじゃないか。
 作品としては3DCGのレベルじゃないくらいセルルックな作りになっていて見ていて違和感なんかはほとんどないしこれだけのクオリティであんな躍動的な動きまでを3Dでできるのか…。とこちらの意味でもかなり感嘆したところではありました。また、3Dで構図を自由にできることもあってか、映像的な演出を意識したところが多くて見ていても考察のしどころが多くなかなか咀嚼しがいのあるアニメでしたね、ただこうなるなら {netabare} ~あの序盤の青春キラキラパートが結構寂しくなってしまう、必要ではあったんだけどあのキラキラパートとは遠く離れた展開になってしまった。{/netabare}
 情報量も多くあまりセリフで説明されることもないのでちゃんと読み取って理解したうえで悩んでほしい、劇場で集中してみてほしい作品。最後のエンドはハッピーエンドなのかバッドエンドなのか、果たして。

投稿 : 2025/03/01
♥ : 2

計測不能 2 劇場版アニメランキング2位
劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師(アニメ映画)

2024年12月20日
★★★★★ 4.4 (5)
20人が棚に入れました
2013年に刊⾏された 「⼩説 落第忍者乱太郎 ドクタケ忍者隊 最強の軍師」を劇場アニメ化。決闘に向かい消息を絶ってしまった土井先生を捜す上級生と、忍術学園に危機が迫り奮闘する姿を描く。
ネタバレ

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

ギャグこそ平和を継承する長寿アニメ13年ぶりの映画化作品

「朝日小学生新聞」に連載されていた原作マンガや、本劇場版の原作となった小説版(2013)は未読。
1993年~現在も続くNHK・TVアニメ版は5期(1997年)辺りまで視聴。


【物語 4.0点】
落第忍者がギャグでグダグダやって、ドクタケ一味がポンコツ過ぎて野望叶わず。
ダメだコリャwとズッコケて笑っていられる内は世界は平和。
長期アニメシリーズの長寿の秘訣を抽出、再提示した快作。


主人公トリオを始めとした忍者の玉子の落ちこぼれクラス・一年は組が、
先生を困らせつつ笑いを取る学園コメディが基本線の本シリーズ。

が、一方で舞台となった戦国・安土桃山時代の時代考証はかなり緻密。
TVアニメ版も特に初期の頃は、戦乱で荒廃した街、戦災孤児など、
なかなかエグい描写も混在したりして。
基本一話10分完結の学園ギャグショート作品なのですが、
時々ドクタケ忍者隊の陰謀といった学園外の乱世の現実を思い知らせる連続シナリオで引き締める。

このシリーズ構成が私の肌に合っていた当初の4年間は視聴継続。
残虐描写の自主規制が入り、一年い組、“ドクたま”とライバルとなるクラス、集団が登場して学園アニメ要素が強まった頃に、自然と視聴しなくなったと記憶しています。


本作では初期の頃の戦災描写が復活。
“最強の軍師”天鬼とやらを担いで、性懲りもなく出張って来たドクタケ一味の野望を通じて、
改めて兵庫県・尼崎市(旧・摂津国)が舞台だという忍術学園周辺の概況を俯瞰してみると、
『忍たま』の世界って、諸勢力が入り乱れる危険な紛争地帯なんだなと現実を再認識させられます。
ホント織田信長が上洛した頃の畿内の如くグッチャグチャです。


シナリオは失踪した、は組担任・土井先生捜索とドクタケの“軍師”との対決がメイン。
上級生の6年生たちでも歯が立たない難事件。
リアリティを突き詰めれば、落第忍者の、一年は組に絡める要素はない。

が、そこを金に目がくらんだ時だけサーチ力が爆上がりする、きり丸や、
空腹時だけ食い意地が暴走するクラッシャー・しんベヱといった、
キャラクターのギャグのパワーで笑わせつつ強行突破する。

で、最後はこのギャグこそかけがえのない日常と、
{netabare} 土井先生の胃痛を伴うw{/netabare} 冒頭のコメディパートを伏線回収しつつ、
華麗に着地を決め、上映時間90分でまとめ上げる。

例えば終盤、{netabare} しんベヱが監禁されたドクタケ砦の壁を食い意地で食い破る。
撒き散らした涎で、忍者が痕跡を残しちゃだめだろうwと山田先生を呆れさせつつ、ラスボスのアジトにナビゲートするとか。{/netabare}

は組は無能だからこそ予測不能な波乱をもたらす。
常識の枠を笑いで取り外し脚本の自由度を確保しつつ、クライマックスではホロリとさせる。
この辺りの、シナリオ運びの熟練技には舌を巻きます。


【作画 4.0点】
アニメーション制作・亜細亜堂

近年は深夜アニメの元請けも目立つ同スタジオですが、
元は『忍たま』などの児童向け長期シリーズで実績を積み上げて来た所でもあります。

が、本格的な忍術アクションで魅せた本作では、
ファンタジー、異世界バトルアニメでの経験もより生かされた印象です。

戦火で荒んだ“最強の軍師”の心の闇を示唆する彼岸花などは、
直接的な戦火の荒廃描写以上に、真に迫る物があり。
心情描写もより深夜アニメ寄りとの感想を得ました。

一方で、{netabare} あの金の亡者・きり丸がバイトをやめる{/netabare} と耳にした時に、
驚愕した、は組一同が目ん玉飛び出すコメディ描写など、
古の児童向けギャグ対応もカバー。

総じてエンタメ忍者映画としての幅広い対応力が光ったアニメーションでした。


【キャラ 4.0点】
一年は組・担任の土井先生は戦で家を滅ぼされた天涯孤独の身の上。
落第忍者トリオの一角・摂津の きり丸もまた戦災孤児。
(その貧困の反動だからと言って、きり丸は金に目がくらみ過ぎですがw)
似た境遇を経験した先生は、{netabare} きり丸を寮の長屋が閉まる夏休み中に家に招く{/netabare} など、気にかけて来た。

戦火の中の『忍たま』を再クローズアップするに当たって、
土井先生と、きり丸の関係性の掘り下げが効いていました。

きり丸は(※核心的ネタバレ){netabare} 記憶を失いドクタケの軍師・天鬼に闇落ちした土井先生奪還する{/netabare} キーマンでもありました。


きり丸、しんベヱの、金欲、食欲モンスターぶりがシナリオ打開の飛び道具として活用される一方、
乱太郎は、それすらもない凡人を極めた主人公。
主役が影が薄かろうが、話を成立させる。この辺りもブレないなと、ある意味、感心します。


にしても、諸泉尊奈門(しょせんそんなもん)だの、雑渡昆奈門(ざっとこんなもん)だの、
『忍たま』のキャラは相変わらずネーミングがテキトーで可笑しいですw


個人的には、体当たりで授業終了の鐘を鳴らすマスコット・ヘムヘムや、
「お残しは許しまへんでー!!」の食堂のおばちゃんが変わらず元気だったのにも
懐かしくてホッコリとさせられました。

土井先生も、落ちこぼれ共の相手で胃腸の調子が悪くても、
練り物ちゃんと完食しましょうw


【声優 4.5点】
初期から継続している方も、役を継承した方も、
ベテラン声優としての実力を示す。

乱太郎・高山 みなみさん、きり丸・田中 真弓さん、
しんベヱ役の講談師・一龍斎 貞友さん。
メインキャストを継続する御三方の、
歳を重ねても高音少年ボイスでキャラを維持し続ける確かな実力。

父・大塚 周夫さんから山田先生役を引き継いだ大塚 明夫さん。
明夫さん演じる山田先生を私は初めてちゃんと聞きましたが、
キャスト確認するまで失念していた程、完璧な一子相伝ぶりでした。

語彙力不足で恐縮ですが、長年、生き残って来た声優さんって、
やっぱり上手いな~としか言い様が無いです。


何より今回は土井先生役の関 俊彦さん。
(※核心的ネタバレ){netabare} 柔和なイケボの先生と、冷徹な軍師・天鬼という別人格の演じ分け。見事でした。{/netabare}


【音楽 3.5点】
劇伴はシリーズ通じて楽曲提供して来た馬飼野 康二氏。
本作ではアップテンポな戦闘曲も目立つ構成でしたが、
ベテラン作家が、電子音も交えたアレンジで好対応。

光ったのは、メインフレーズとなった素朴なバラード「一緒に帰ろう」による、
乱世より日常の説得力補強。

ただ挿入歌「愛と正義のドクタケ忍者隊」
その程度のリサイタルで、私は洗脳されませんよ(笑)


ED主題歌は、なにわ男子が「ありがとう心から」でアニメ主題歌初挑戦。
同グループは終盤、光GENJIによる往年のTVシリーズOP主題歌「勇気100%」も挿入歌カバーしてくれて嬉しかったです。

ジャニーズも人類史上最悪レベルの性加害事件などのスキャンダルで不透明な先行きが続きますし、
私も許し難いとは思っていますが、
「勇気100%」は、劇場版次回作がまた10年後とかになっても、
後輩たちに歌い継がれて欲しいと願います。

投稿 : 2025/03/01
♥ : 11

67.4 3 劇場版アニメランキング3位
五等分の花嫁*(おはな)(アニメ映画)

2024年9月20日
★★★★☆ 3.6 (20)
93人が棚に入れました
春場ねぎの同名漫画を原作にしたテレビアニメ「五等分の花嫁」シリーズ放送5周年を記念して製作されたスペシャル版を、テレビ放送に先駆けて劇場上映。
アルバイト家庭教師として、勉強嫌いで落第寸前だった五つ子姉妹を高校卒業まで導いた上杉風太郎。それぞれの道を歩み、大人になった五つ子は夢を叶えたが、なにか悩みを抱えていた。そんななか、風太郎と五つ子はハネムーンを兼ねたハワイ旅行を計画する。準備は順調に進んでいたが、ある事件が発覚し大騒動になり、ハワイでもトラブルに巻き込まれてしまう。

U-yan さんの感想・評価

★★★★★ 4.8

劇場版まで観てから観ましょう。

ついにファイナル。五つ子ちゃんとの新婚旅行編です。新婚旅行だもん。劇場版を観てからじゃないとね。しかし新婚旅行だっつうのに他の4人も可愛い・・・w高校卒業から5年経っても何かと問題ありの五つ子が、旅行中に遭遇したある出来事のおかげでさらに成長するって感じかな。というか原作では旅行の内容までは描かれてなかったみたいなので、オリジナルストーリーって事になるんでしょうかね。とにかく可愛い五つ子にまた会えて嬉しかったです。

投稿 : 2025/03/01
♥ : 1

計測不能 4 劇場版アニメランキング4位
ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い(アニメ映画)

2024年12月27日
★★★★☆ 3.7 (5)
18人が棚に入れました
映画「ロード・オブ・ザ・リング」3部作の知られざる200年前の物語を描く長編アニメーション。
騎士の国ローハンの人々は、偉大な王ヘルムに護られながら平和に暮らしていた。しかし、突然の攻撃によって美しい国は崩壊してしまう。王国滅亡の危機に、ヘルム王の娘である若き王女ヘラが立ち向かうことに。そんな彼女の前に、幼少期を共に育ち、ヘラに想いを寄せていたウルフが最大の敵として立ちはだかる。
ネタバレ

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9

戦慄!ワンパンキング!!

トールキン氏の原作シリーズは『ホビットの冒険』は原作、劇場版三部作共に完走済み。
一方で本編である『指輪物語』は原作は読み始めては挫折を繰り返し、
劇場版『ロード・オブ・ザ・リング』三部作も、何度かTVロードショーで途中から観て、
今度しっかり通して見ようと思いつつ時は過ぎ去り。

今回、本作を観て、いい加減、RPGの原典でもある『LoTR』くらいちゃんと履修しとかないとと思い直してみたりw


【物語 3.5点】
2024年の世界は、表現の世界だけでなく、選挙イヤーとなった欧米の政治・経済界も含めて、
進歩し過ぎたネオリベ、多様性への反発から生じた揺り戻しがトレンドになった年だったと思われます。

この文脈からも本作の満足度の分岐点となるのは、
実質的に主人公視点が置かれた王女・ヘラを受け入れられるか否かだと思います。


ストーリーは、原作小説の「追補編」に6頁分だけ記されたという、
本編から約200年前のローハン王ヘルムの伝説を大作映画1本分に広げて脚本。

その際に、書物にも歌にも語り継がれない物語でシナリオを広げるために、
原作では「ヘルムの娘にウルフが求婚したがヘルムが断った」との一文だけ登場する名もなき女から構想を膨らませて、
王女ヘラという、ほぼアニオリのヒロインを造形。

またヘルム王の傍らで活躍する王女ヘラを語り部視点にすることで、
原作で心情描写の無かったヘルム王のキャラクターを拡張する狙いもあった模様(※1)

映像作品の『指輪物語』と言えば、近年アマプラ実写ドラマ版『力の指輪』(2022)(未見)が、
“黒人のエルフ”を登場させ、またポリコレが作品を台無しにしたなどと盛大に燃えていたようですが。

上記の通り、神山 健治監督ら本作の制作スタッフは、
多様性だから安直に女性を活躍させたのではなく、
近年の多様性作品を巡るデリケートな問題も踏まえて熟慮した上で、
王女ヘラ視点のヘルム王伝説を練り上げた。

何より神山 健治監督は『攻殻機動隊』草薙素子、『精霊の守り人』バルサと、
戦う強ヒロインの取り扱いに定評があり、
彼が参加するファンタジーヒロイン作品には唆(そそ)る物がある。

私も大概ポリコレアレルギーですが、
本作には、私のアレルギーを覆す程度の鑑賞理由はあったので、まずまず満足の行く劇場鑑賞ではありました。
と言うより、神山監督でなければ、眼中に入れなかったと思います。

ただ、王女ヘラの物語がポリコレ批判含めた懸念を完封できる程だったかと言うと、そこは微妙でして。
ヘラもじゃじゃ馬姫ではありますが、素体化した身体を使いこなす草薙素子や、熟練槍使いのバルサほど圧倒的な戦闘力までは持たない。
と言うより、ヘラ王女が草薙素子ばりに大暴れしたら『指輪物語』の世界観がぶっ壊れて再び炎上しちゃいますw

そこをヘラが武闘派王女と言っても男の戦士やオークには力負けする程度のリアリティでブレーキをかけつつ、
活躍度合いも伝説として語り継がれるヘルム王未満に自重。
例えるなら、封建社会下で、史実までは覆さないように女性を活躍させる近年の大河ドラマ脚本程度にセーブ。

個人的には世界観などにも配慮した佳作以上だったけど、伝説には及ばないくらいの物語に落ち着いた(とどまった)感じです。


【作画 4.5点】
実写映画版『LoTR』三部作にも参加したスタッフらが、
神山 健治監督を招聘(へい)して制作された、
米・日・ニュージーランド合作映画

ハリウッド超大作が表現技法としてジャパニメーションを選択したらどうなるのか?
アニメファンとしての私の興味はそこに尽きるかと。

最近、日本アニメ好きな海外の創作者たちが、
ジャパニメーションは、登場人物の内面を描写するのに優れた表現手段だとリスペクトするインタビューをよく見かけますが、
本作の作画にも、同様の嗜好が現れています。

合理的な判断を覆す程のウルフの復讐心やヘラ王女への愛憎が戦火の火種となるシナリオに、
引きつる表情筋が本音を示唆する日本アニメは最適です。


一方で、背景美術は大自然の偉大さ、恐怖を思い知らせるリアル志向。
最近は、背景にも作画を入れてキャラ心情を表すアニメ映画鑑賞が多かったので、
人間の心持ち程度じゃびくともしないリアル背景を押し出したアニメ映画鑑賞も久々でしたが、こういう作風も良いですね。

自然は加工できると人間が思い上がる以前の封建社会。
“冬将軍”最強ですし、黒い森は人知を超えた怪物が棲んでいる畏怖すべき魔境。
その中で懸命にあがいて戦う人間同士で、策が手詰まりになった時、
打開するのは人間より上位の伝説の怪物たち。
このシナリオパターンには強引さもありましたが、
作画にはねじ伏せるだけの説得力はありました。

封建社会の内戦故、戦闘もせいぜい数百人規模でしたが、
CGによる原動画の上に、手描き表現を一つひとつ乗せていった、軍勢バトルには、
チープなCGで数万人規模戦闘を自称する凡庸なアニメーションには無い迫力がありました。
もっとも、映像的に一番インパクトがあったのは、やはり大自然の脅威。
{netabare} 沼の主による象さん(ムーマク)丸呑みシーンなんですけどねw{/netabare}

何より、こだわりを感じたのは馬の描写。
特に馬を単なる乗り物ではなく、ちゃんと息切れする動物として描く姿勢は好感できます。
ただ、{netabare} ハマ王子{/netabare} は、もうちょい速い馬を選んどけば良かったのにとは思います。


【キャラ 3.5点】
主人公視点はヘラ王女でも、本作の主役はヘルム王で間違いないでしょう。
実際クレジットでも最上位はヘルムですし。

ヘルム王。老王ですが、敵をワンパンで薙ぎ倒す“槌手(ついしゅ)王”の異名を誇る剛腕は健在。
大体、此度の内戦の発端も、{netabare} ヘルム王がウルフの父・フレカをワンパンで撲殺しちゃった禍根{/netabare} でしたし。

ヘルム、これは流石に死ぬだろうと思った所からの、
{netabare} ソロの撲殺活動で亡霊騒動を巻き起こし敵軍の戦意を喪失させたり、
我が生涯に一片の悔い無しな最期{/netabare} など、
何か色々混ざってる気もしますがw
槌手王の暴れっぷりを堪能するだけでも、この映画鑑賞の価値はあると思います。

それにしても、撲殺王・ヘルムに加え、“盾の乙女”オルウィンまで無双する
本作は刀剣の立場が無さすぎて(苦笑)
クライマックスも(※核心的ネタバレ){netabare} ヘラが盾でウルフを“刺殺”して一件落着しますし。{/netabare}


一方で先述したヘラ王女や、ラスボス役となるウルフらは、
もうワンパンチ足りない印象。
ウルフも悪感情に囚われて過ちを重ねる臆病故の人間の愚かさを良く体現していましたが、
流石に、ちょっと愚か過ぎると思うこともしばしば。

そんな中、良心だったのが事あるごとにウルフの蛮行を諌める部下のターグ将軍。
が、ターグ将軍も、冷静な助言を尽く無下にするウルフの器の小ささを際立たせる演出装置に留まった感じ。
何だかんだ私は{netabare} ウルフに諫言するなと刺殺された{/netabare} ターグ将軍が一番不憫でした。


【声優 4.0点】
※日本語吹替版を劇場鑑賞

如何にも大作ハリウッドファンタジー映画らしい大仰なセリフ回し。
深夜アニメよりは舞台劇寄り。
この観点からも本作吹替は、深夜アニメ声優より、俳優、洋画吹替声優向きな作品。

実際、ヘルム王役には市村 正親さん、ヘラ王女役には小芝 風花さんと俳優を起用。
一方でラスボス・ウルフ役には声優・津田 健次郎さんが、
ネットリと復讐心を燃やす演技で食い込みますが、
ツダケンも近年は俳優業にも活動領域を広げているお方。

またターグ将軍役の山寺 宏一さんや、ソーン卿役の大塚 芳忠さんなどは、
『LoTR』三部作でも別役で吹替を担当した“経験者”声優。

それだけに、この深夜アニメ領域の声優が簡単には入り込めそうにない布陣に、
ハマ王子役でちゃっかりと入野 自由さんが心優しいイケボで割って入っているのが私は何か嬉しかったです。

こういう作品に養成所卒業したての若手声優が食い込めるくらいになったら、
声優界隈の演技育成力も成熟の域に達するのだろうなと思ってみたり。


【音楽 4.0点】
劇伴担当はスティーブン・ギャラガー氏(NZ)
終始、壮大な金管サウンドを前面に打ち出し、大作感を演出する楽曲構成。
ただ、私は静かに会話を咀嚼したいシーンではBGMはバックグラウンドで黒子に徹してくれる方が好みなので、
本作の劇伴のあり方は、あまり好きではありません。

ED主題歌はパリス・パロマ「The Rider」
高音女性ボーカルが幻想的な本シリーズらしいバラード。

ただ作画枚数10万を支えた作画兵力の大軍など、
本作はEDクレジットの長さもハリウッド超大作なので、
EDでは主題歌含めて3曲は費やしていましたねw


【参考文献】(※1)「アニメージュ」2025年2月号

投稿 : 2025/03/01
♥ : 8
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