フリ-クス さんの感想・評価
3.6
このあざとらしい世界に満腹を!
ちなみに『あざとらしい』という日本語はありません。
わかって書いておりますので、
つっこみはナシでお願いいたします。ほんとお願い、やめて。ごめんて。
さて、本作は大人気異世界ギャグアニメの第三期にあたります。
途中にスピンオフ作品『この素晴らしい世界に爆炎を』があったので、
シリ-ズとしては4作目になるのかしら。
原作は暁なつめさんのライトノベル(拙は未読)。
制作は、二期まではスタジオディーンさんだったのですが、
前作にあたる『爆炎』からドライブさんへ変更になっております。
その変更に合わせて監督も、
金崎貴臣さんから安部祐二郎さんにバトンタッチ。
(金崎さんは総カントクですね)
前作の『爆炎』はめぐみんしか出てこなかったため、
主役パ-ティの四人(カズマ・アクア・めぐみん・ダクネス)がTVで揃うのは、
二期の放送終了以来、なんと7年ぶり。
ちなみに劇場版から見ても4年半ぶりということでして、
ファンの方々は待ち焦がれていた、
前作を知らない方々は「なんですか、これ?」的な新シリーズになります。
拙は一期から見ておりまして、
劇場版ぐらいまではけっこう好き・お気に入りだったのですが、
その視点から本作の評価を申し上げますと
なんか思ってたのとチガウ
というのが偽らざるホンネといったところです。
見ていて面白いっちゃ面白いんですが、
拙が勝手に期待していた『おハナシの核心的な魅力』みたいなものが、
どうにも薄まっちゃった感が否めないんですよね。
仲間をココロから大切にし、実はけっこうもてもてのカズマさん、
なんていうのは、
なんかこう『裏切られた感』があると言いますか……。
もちろん、何をどう描こうが、
それは100%、原作者や制作陣の自由であります。
いやほんと自由っちゃ自由なんですが、
けどさ、でもね、
・「それってあなたの感想ですよね」とか言ってジャイアンを論破するのび太くん
・お笑い番組を見て、テーブルをばんばん叩いて笑い転げるゴルゴ13
・裏アカでアスカをディスりまくってクックッと笑う綾波レイ
・「おまえさ、いいかげん『長いものに巻かれる』ってこと覚えろよ」
とかなんとか飲み屋で後輩にセッキョ-するエレン・イエーガ-
・「SOS団はズッ友だよ」なんて言う涼宮ハルヒ
みたいなのって、あんまり見たくないじゃありませんか。
もちろんパロディならぜんぜんアリなのですが、
本編でそういうのって、
なんかちょっとアレじゃないかと思うんですわたし。
で、拙が勝手に思っている『本シリ-ズの核心的な魅力』はなにかと言いますと、
あえてきれいにまとめない『逸脱感』
という点に尽きると思うんです。笑いのとれるグダグダ感、とも言えるかしら。
イッパン論として申し上げますと、
巷にあふれてる異世界転生ファンタジーものって、
なぜか『きれいにまとめよう』とし過ぎちゃってると思うんですよね。
ゲンジツ世界ではぼっち、あるいは引きニートだった主人公が、
異世界でステキで愉快な仲間に恵まれ、
最初はちょいちょい苦労っぽいことはするものの、
ゲンダイ知識やチ-ト能力を生かし、
モテモテで楽しい異世界ライフを満喫するのでした。めでたしおひたし。
なんかね、もうね、
そういう『ゲンジツ逃避型ユメ物語』は、ほんとおなかいっぱいなんです。
そんなジブン全肯定の妄想にひたる前に、
ちゃんと本読めベンキョ-しろ、そして働け
とかなんとか言いたくなっちゃいます。
その点、1~2期の頃の『このすば』は、
いい感じに『とんがっていた・逸脱していた』と拙は思うんです。
転生しようがなにしようがクズマはクズマ。
世のため人のために働こうなんて気もちはまるっきりありませんし、
パ-ティメンバーとの友情だの相互信頼だのは、ほぼゼロ。なんならマイナス。
タチの悪いお調子者かつストレートでお下品なスケベさんなので、
モテることもありません。
たまに成り行きでがんばって皆から喜ばれたりしてみても、
セケンによくある女性の評価、
あ~~悪いヒトじゃないと思うんだけど、
そっち系の相手としてはふつうにナシかな、ごめんね。
的なポジションが不動のもの。
二期でダクネスにお見合いのハナシが持ち上がった時だって、
今期とは全然違いましたしね。
{netabare}
ダクネスはダクネスで
あんな下卑たところのない清廉なオトコはいやだ
なんて理由で話をぶち壊そうとします。
カズマはカズマで
ポンコツクルセイダーとおさらばするチャンス
という理由で、話をぶち壊そうとするダクネスの邪魔に潜入します。
これはもう、よしあし以前の、
作品としての『個性』かつ、れっきとした『差別化』なんですよね。
視聴者の斜め上を行く枠外思考、
ファンタジー作品におけるパ-ティもののセオリーを逸脱し、
ブレないポンコツっぷり、外道っぷりがたまりませぬ。
ところが今期の結婚話は、みんなそろってウジウジめそめそ。
いやいや、こんなハナシならそのへんになんぼでも転がってますやん。
教会からダクネスを略奪するシーンなんかは、
制作陣はカンド-して欲しかったのだろうと思うのですが、
なにを見せられてるんだ僕は
としか思いようがないぐらいありきたり、チープそのものでした。{/netabare}
こういう傾向というか『ふつう化・セオリー化』は、
劇場版のラストあたりから見え隠れし、
前作の『爆炎』から顕著になってきていたと思います。
あの『爆炎』って、あにこれの評価もけっこう低めだと思うのですが、
その要因は『他の三人がでていなかった』からではなく、
まるっきり『エッジが効いていなかった』からではあるまいかと。
{netabare}
めぐみんは『アタマのおかしい魔法使い』なんかじゃなく、
爆裂魔法にこだわるのにはちゃんと理由があり、
周囲の声に惑わされず夢に向かってまっすぐ突き進む元気な女の子。
ゆんゆんとめぐみんは、
堅い信頼と友情で結ばれている真の同期生。
クラスメイトも二人のキャラに戸惑っているだけで、
いじめもないし、
どこまでいっても『まあ、ふつう』。
個々のプロット以前の問題として、
基礎構成自体があまりにも『ふつう』過ぎて、だらだらの緩斜面。
エッジを利かせるところがひとつもありません。
ネット上でシロートが書きちらかしている魔法学校物語
と、どこがちゃうねん、というハナシです。
ちゃうちゃう、こんなん『このすば』ちゃうんちゃう?
{/netabare}
というわけで、
本作において久々に四人が揃ったわけですから、
むかしのキレが戻ることを期待していたファンが多かったと思うんです。
で、確かにギャグ要素は、四人そろったからよくなっています。
だけど核心的な部分で、
なんかこう……『このすば』らしい逸脱感が失われちゃってるんですよね。
{netabare}
王女アイリスの話のオチだって、え゛、そういうハナシなん? て感じですし。
カズマは失意。だけどアイリスは実はホの字だった。
なんて、そのへんに転がってるコミカルラノベそのまんまじゃないですか。
拙の期待するオチというのは、
指輪のルール(魔王を倒したら王女と結婚できる)を知ったカズマは、
いずれオレは王族の仲間入り、おまえらいまから跪け、と有頂天。
その勢いで魔王討伐の旅へ出かけようとします。
だけどアイリスはけっこうしたたか。
最初からカズマのことを『面白いペット』ぐらいしか思っておらず、
まさかの事態にそなえ、
指輪のル-ルを廃止することを決定、街中におふれを出します。
それを見てガックリし引きこもるカズマ、
爆笑するアクア、
よくも散々威張ってくれましたねと怒るめぐみん、
いいから魔王討伐に行ってやられよう、とカズマを引きずり出すダクネス
みたいなグダグダ、ぜんぜん『ココロ暖まらない』ものなのであります。
最終話の締め方も、なんだかな。
カズマが支払ったお金は領主から没収した財産から補填されることになり、
なにもかもが元通り。
カズマが知的財産権を失いダクネスに×がついただけで、
これからも楽しいわちゃわちゃした暮らしが続くのでしたって……
あんたは文科省推奨作品か。
めぐみんの爆裂魔法で破壊された教会・町の修復費で、
パ-ティは元の極貧生活に逆戻り。
カネのぶんはそのカラダで払え、と迫るカズマにたいし、
それは正当な取引であり、悪辣さも下劣さもないではないか
と反論するダクネス。
そこにダスティネス家の使いが来て、
貴族社会のルールとして結婚した女性は、
夫が承認するか死亡・失踪後三年経過するまで離婚が認められず、
貴族と不倫をした平民の男はナニがちょん切られる、ということが判明。
ほほう、ならば相手をしてやろう
とニヤリと笑い、逃げるカズマを追いかけまわすダクネス。
アクアとめぐみんは「切~れっ、切~れっ」の大合唱。
ぐらいの『美しくない』締めの方が、
逆に『らしさ』があって爽やかじゃとぬしは思わんかや?
と賢狼さまも申しております。ウソですが。 {/netabare}
いろいろぐちゃぐちゃ書いてきましたが、
拙的な作品全体のおすすめ度は、B+といったところです。
決して『駄作』というわけではありません。
ほかの異世界転生ものよりはキレがありますし、
バカバカしいギャグそのものは健在でもありますので、
お気軽な時間つぶしとして好適かと。
ただまあ、拙みたく一期二期に引っ張られてるムカシの方には、
やっぱ薄味感は否めないんじゃないのかしらと愚考します。
・もてもてカズマ
・パーティの美しくも熱い信頼と絆
・勧善懲悪・エブリバデハッピーな世界観
ってのはやっぱちょっとな……。
スケベで矛盾だらけでお調子者でちゃらんぽらんだけれど、
やるときはやる、そして仲間をダイジにする。
そんな主人公に、最初は毛嫌いしていた美女たちもメロメロ。
そういう物語のスタイルって、
申し訳ないけれど『古い』と感じちゃうんですよね。
{netabare}
二期みたく
バスタオルがはらりと落ち、
カズマのエクスカリバーを見てアクアが『フッ』と笑う。
ああいうグダグダで『美しくない』のが、
本シリ-ズの魅力ではなかったのかと思ってみたりみなかったり。 {/netabare}
映像は、はっきり言って『しょぼい』です。
キャラデもなんかジュニア作品っぽくなってますし、
9話で「いっそこのまま……」とカズマにせまるダクネスなんか、
いや、別にいらんけど
とかふつうに言えちゃいそう(←悪しきルッキズム)。
役者さんとOP・EDが安定しているだけに、
映像のやすっぽさが、
世界観の『ありきたり化』をブーストさせている感は否めません。
そうは言っても、
主役パ-ティ四人がそろうのはやっぱ懐かしいし楽しいです。
ファンの方なら『けっこう』楽しめる仕様ではないかと愚考いたします。
少なくとも、
なんでこんなんアニメ化したの?
みたいな異世界転生ものよりは、見どころ・笑いどころが盛りだくさんかと。
ある意味、こういう逸脱感の消失、テイストの変遷というのは、
カドが取れて丸くなった、オトナになった
という前向きな評価をすることもできると思います。
コンテンツ制作業界ではこういうキャラの変遷を『振り幅』といって、
ドラマ系ではマストな要素のひとつですしね。
ただ、それって『このすば』に要るのかしらん。
そこのところはもう、
まるっきりの主観、好き嫌いレベルのお話でして、
正解なんてどこにもありません。
クズマさんはあくまでも、どこまでもクズマさんであって欲しい、
カドがとれたりオトナになったりしないで欲しい、
そういうのはファンの勝手なノスタルジーの『押しつけ』です。
ただまあ実社会においては、
望む望まないにかかわらず誰もが荒波にもまれてカドを削られていく、
というのは『みんなわかっていること』であります。
だからこそせめてギャグアニメのキャラぐらいには、
変わらない・成長しないことを求めたい。
そういうキモチってわからなくもないというか、
むしろ共感できちゃうんですよね。
少なくとも本作品に対する拙のスタンスはそうであります。
いや、決してゲンジツトーヒのためにアニメを見ているわけではなく、
作品のコンセプチュアルな部分に対し、
マ-ケットのニ-ズの観点からあ~だこ~だ……って、
言いわけ聞き苦しいぞ、僕。