101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.1
世界史上最大級のヒットを飛ばす異世界アニメ🍄
あらゆる物をヌメヌメ、ネバネバに加工しちゃうハリウッド特殊効果の黒魔術により、
菌糸塗れにされてしまったコレジャナイ悪夢の実写映画『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』から30年。
3DCG作品として制作された劇場版アニメ映画。
【物語 4.0点】
『ドンキーコング』などアーケードゲームの主役だった初期のマリオはリアル世界寄りの都市民。
ファミコン版『スーパーマリオブラザーズ』以降のマリオはファンタジー世界寄りの冒険家。
例えばゲームを映像化する際に難儀する設定の谷間、ツッコミどころ。
本作は弱点を上手くシナリオ化、ネタ化することでエンタメ性を高めています。
あらすじはNYブルックリン在住の配管工・マリオ兄弟が、地下の土管から異世界に迷い込む。
大魔王クッパから弟ルイージや、プリンセス・ピーチが治めるキノコ王国を守る。
親父に認められず、現実世界で、やっぱり自分は何もできないのか?とくすぶっていた若者マリオが、異世界で何にでもなれる力を得る。
『マリオブラザーズ』が『スーパーマリオブラザーズ』になるまでの物語。
「勇気を持って前に進めば誰もがスーパーマリオになれる」(←日本語版マリオ役・宮野 真守さん談。コメントもイケメン過ぎます👍)
マリオを操作し、難所や強敵相手に何度もトライ&エラーを繰り返しクリアするゲーム性。
これを不屈の異世界冒険譚として昇華することで、忍耐という作品テーマに変換。
それでいて映倫区分G(全年齢対象)
ハリウッド映画も長尺化傾向が続く中、本作は上映時間92分と膀胱にも優しく理想的。
一度出した小物はネタとしてキッチリ回収する米国アニメの伝統芸との絡みも小気味好い。
随所に仕込まれたマリオネタにクスリとできる程度の思い入れは必要。
ですが私は久しぶりに童心に戻って、はしゃぐことができた。
世界的ヒットも頷ける優良なアトラクション・ムービーだと好感しました。
【作画 4.5点】
アニメーション制作・ILLUMINATION
上記の実写映画のトラウマもあってか、自社の知的所有権(IP)のメディアミックス展開には非常に慎重な任天堂。
本作ではキャラクターを重視するスタジオ、原作ゲーム愛のある監督スタッフを厳選。
その上で『マリオ』生みの親であるゲームクリエイター宮本 茂氏を始め、任天堂スタッフも積極的に作品に関与。
このゲーム原作作品もまた、特徴的なキャラの動き、やたら空中で動く床にちくわブロックなどのステージやアイテムのギミックを映像に盛り込み、ファンの心をくすぐりにかかる。
凡庸な映像化作品では、ウケを狙っているけど何か違うが多発。
ですが、本作の場合は任天堂のチェックもあってか、それが本当にないです。
私はアトラクション性を最大化するため4DX/3Dで鑑賞。
4Dの方は『マリオカート』の振動と風の臨場感を堪能したければベターくらい。
一方で3Dは絶対チョイスした方が良いと思いました。
3D効果自体は飛び出し控え目、奥行き重視。3DSレベルの平凡な出来。
ですがアスレチック要素の立体視で得られるキャラとの一体感は得難い物があります。
私は意外と横スクロールアクションの再現シーンで、立体視の恩恵をより感じました。
NYブルックリンの街並み描写で感じたのは地下インフラの老朽化。
日本も明治以来の水道管破裂が懸念されたりと大概ですが、NYの方はさらに年季が入っており配管工も大忙しですw
忘れ去られた都市の地下に開いた異界の出入り口から災厄がもたらされても驚けません。
同様の描写が『すずめの戸締まり』の東京地下でもありました。
東京もNYも抱える内憂は共通しているようです。
【キャラ 4.0点】
挑戦的な描写が目立ったのがプリンセス・ピーチ。
座してクッパに蹂躙されるのを待たずに積極行動する勇猛果敢ぶり。
でも考えてみればピーチ姫は仮にも一国のリーダー。
統治能力は当然あるはずですし、ゲーム版にて毎回無抵抗でクッパに攫われたように見えたのは描写が飛ばされていただけなのでしょう、きっと。
アイテムを駆使しつつ立ち回りも派手だったピーチ姫。
振り返ればピーチ姫も『スーパーマリオUSA』ではカブやらヘイホーやらぶん投げていたわけで。
流れで{netabare} マリオ{/netabare} をぶん投げても何ら不思議ではありませんw
さらにはキノコ王国で、おびただしいキノピオたちを束ねる、たった一人の人間・ピーチ姫。
この奇々怪々にも、{netabare} ピーチ姫は幼い頃に土管を通ってこの異世界にやって来て、キノピオたちに育てられたと{/netabare} キャラ設定を掘り下げて来ました。
その上でのマリオとの関係も、恋仲というより、異世界転移の記憶を共有する戦友といった感じ。
キャラ解像度アップは世界征服とピーチ姫を狙うラスボス・クッパも同様。
ピーチ姫に一途に恋して空回りする痛い描写を増量することで、
悪逆非道だが何処か憎めない。むしろかわいいと自称するキノピオたちより余程かわいらしいw
絶妙なブレンドで、キャラクター価値を保全。
ピーチ姫とクッパの新境地により、ピーチ姫救出に飽きた原作ファンも新鮮な気持ちで挑むことができます。
その他、マリオと長男坊の憂鬱を共有するけど、やはり相容れないドンキーコング。
クッパ様のピーチ姫溺愛妄想に律儀に付き合う腹心・カメック。
などなど脇に至るまで“マリオ劇団”は快調♪
ただヨッシーやワリオなど出番が無かったキャラも残されました。
もっともそこはエンドロール後に{netabare} ヨッシーのたまご?が割れるカット{/netabare} を見るに、
続編やる気満々なので希望は持てます。
【声優 4.0点】
日本語版を鑑賞。
英語の台詞を翻訳した“日本語吹替版”ではありません。
英語版とは別にもう一冊、日本語の台詞で脚本した“日本語版”。
こうなると映画吹替経験よりも、キャラクターを提供するアニメ声優の出番です。
前向きな声質でムードも明るくした主人公マリオ役の宮野 真守さん。
芸術的な怖がりっぷりを悲鳴で再現したルイージ役の畠中 祐さん。
メインだけでなく、マリオの親友を自称し、フライパンを駆使した贈賄が小賢しい異端のキノピオを演じた関 智一さん。
{netabare} ピーチ姫への痛いラブソングの熱唱{/netabare} も笑えるサイコパスだったクッパ役の三宅 健太さん。
ベテランが熟練技で脇を固める盤石の布陣。
その中で異彩を放ったのがルマリー(よろずやチコ)を演じた子役の山根 あんさん。
クッパに囚われ絶望する生贄たちに{netabare} 「唯一の希望、それは死による解放さ」{/netabare} などと無邪気な虚無をバラ撒き追い打ちをかける。
まったく『すずめの戸締まり』ダイジン役から立て続けに幼気な少女に毒を吐かせおってw
日本の将来は虚無の真っ暗闇ですねw
やはり『すずめ』と『マリオ』。日米は地下の奥深~い所でつながっている?のですw
【音楽 4.0点】
劇伴担当はブライアン・タイラー氏。
安定感のあるオーケストラを土台に、時にゲーム版BGMや8bit風アレンジも交える遊び心でアトラクションを盛り上げる。
意外な所では、マリオがアスレチック・ステージに初挑戦する際に挿入された{netabare} 「Holding Out for a Hero」{/netabare}
聞いた時は何でまたwと面食らいましたが、終わってみれば不屈と忍耐の主題にマッチした歌詞世界。
何より『マリオ』が波に乗っていった80年代前半に、
欧米でヒットして、日本でもドラマ主題歌として流行した本曲。
世界の人々があの頃を共有できる適材適所の選曲でした。