101匹足利尊氏 さんの感想・評価
3.3
【評価辛目】公式ファンブックを映像化したような微妙な劇場版総集編
【物語 2.5点】
キャッチコピー"真実は、藪の中。"
この”藪の中”という表現の由来は芥川龍之介の同名短編小説。
※「藪の中」あらすじ概要……ネタバレレビューを読む
TVアニメが想定以上の話題作に。
急遽、劇場版も作りたいが興行成功のためには時間を空けるのは不味い。
よって新録プレスコ(作画の前に収録)も、新規カットも用意するコストと時間が限られる。
それでいて、既存ファンだけでなく新規にも訴求したい。
無茶振り企画をまとめる苦肉の策として「藪の中」の証言集形式を当てはめた。
というのが劇場パンフレットの脚本・此元 和津也氏の”証言”などからの私の推理。
証言集形式も悪くはないが、会話劇としてのTVアニメの良さは消えてしまう。
強引な企画で崩れた劇場版総集編の典型だと感じました。
構成は事件後、警察取調室での、主人公のタクシードライバー・小戸川への事情聴取。
クライマックス前の時点に”調査報告書”を集める謎の集団が
カフェ等で実施した各キャラへのインタビュー。
二つの時点の証言集によるTVアニメ総集編が大半。
あとは終盤にTVアニメラストで勿体ぶられた結末の追加カットによる方向性の示唆と、
さらなる謎の提示が少しだけ。
TVアニメ版のちょっと先を把握することはできるがモヤモヤは残る。
そのためだけに劇場鑑賞料金&2時間の価値はあるのか?は要自問。
私は不満を抱きつつも、元が良かったのと、
何より『オッドタクシー』が好きだったので退屈はしませんでしたが。
感覚としては、気に入ったTVアニメ視聴後に、公式設定資料集等で、
ストーリーやキャラを振り返って余韻に浸るのに近いです。
尚、"初乗り歓迎”と宣伝されていますが、
TVアニメ未視聴者に本劇場版を鑑賞させても、
“田中革命”は尺不足で弾かれる。
など、結局、TVアニメ見なきゃ分からない。
後からTVアニメ見ても、驚きが激減する。
正真正銘の悪(あく)じゃん!と思うので、悪の反対の方は全力で止めましょうw
小戸川交通は個人タクシーなので初乗りできるのはTVアニメ版の一台だけですw
【作画 3.5点】
新規カットはラスト数分と、各キャラの証言シーンくらい。
証言する各人物の挙動にはキャラクター性が現れておりファンならニヤニヤできます。
【キャラ 3.5点】
概ねTVアニメ版の多くのキャラを網羅するが
報告書作成時点で拘束されていたネタバレレビューを読む など、
あと付けの証言集形式による歪みで取りこぼしたキャラクターもあり。
インタビューにより私が一目置いたのはドブ。
証言者の事情によって、何なら積まれた金額によって証言内容は変わると、
主観的な証言の限界を指摘した上で語り始める知的な言動。
やはりドブはケンカ強いだけの脳筋ヒヒではない懐の深さがある。
アルパカが囚われたのも金と暴力だけじゃないです。
【声優 3.5点】
特徴的なのが聴取に当たった捜査員、報告書作成者のノーキャスト。
あたかも鑑賞者がインタビュアーの一人称視点で証言を集めていくような誘導。
これも「藪の中」及び同小説の映画化作品・黒澤 明監督『羅生門』と同様の構図。
この観点からエンドロール後のネタバレレビューを読む
三矢ユキ役の村上 まなつさん。
冬アニメでは明日ちゃんも演じた方と意識したら乾いた笑いが止まりませんでしたw
田舎娘も色々ですw
【音楽 3.5点】
こちらも主題歌「ODD TAXY」がリミックスされエンドロールで流れる程度で新要素は最低限。
ただ劇場大音響で唐突に鳴り響く
インド映画風?カポエラのリズムは分かっていてもツボにハマりますw
【余談】
公開館を絞り込み、公開週週末・劇場館アベレージ1位を達成した本作。
私が行った平日午前の客入りも上々でした。
数年間、丹精込めて制作した力作が閑古鳥という惨状が続いた
今年前半のアニメ映画の中では、成功した興行だと思います。
小戸川は不器用だけど、スタッフはドブくらいのやり手ですw