熱いでコメディなアニメ映画ランキング 3

あにこれの全ユーザーがアニメ映画の熱いでコメディな成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2024年11月05日の時点で一番の熱いでコメディなアニメ映画は何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

72.1 1 熱いでコメディなアニメランキング1位
ズートピア(アニメ映画)

2016年4月23日
★★★★☆ 4.0 (189)
1100人が棚に入れました
体の大小や、肉食か草食かに関わらず、動物たちが平和に共存する大都会ズートピアを舞台に、夢を信じる新米警官のウサギ・ジュディが、夢を忘れた詐欺師のキツネ・ニックと共に、ズートピアに隠された驚くべき事件に挑んでいく姿が描かれる。

声優・キャラクター
上戸彩、森川智之、三宅健太、玄田哲章、竹内順子、高橋茂雄
ネタバレ

Dkn さんの感想・評価

★★★★★ 4.6

ディズニー映画? どうせお涙頂戴なんだろ? ってな人にオススメ出来る映画

2016年でもTOPクラスに有名な、アニー賞とアカデミー賞をとった傑作。

アメリカ合衆国が自国で抱える問題や、人類の歴史の中で何度も起こる避けられない問題などを題材にして、それを動物に置き換え描写する映画。面倒で重苦しく聞こえる題材を見事に痛快な娯楽作へと昇華させています。このアニメはどんな見方をしても面白いんじゃないかな?

特に私のように捻くれている人間はドンピシャでハマリました。

作中で出てくる問題。動物達が共存する為のルールは、私たちの社会や倫理観にも関係してくる。

娯楽作として出来がいいので親子で観ても全然感想は違うけれど、両方楽しめるでしょう。

思考を巡らせ、映像を楽しみ、シャープで、さらにスピード感のある展開で飽きさせない。


このアニメが欠片でも面白く感じないなら、私はお手上げかもしれないです(笑)

【↓ネタバレ(雑記)見なくても問題なしw】
{netabare}
夢見るロマンチストの主人公と、リアリストの相棒の対比が素敵でした。

スゴイなと思ったのが2人の性格をあまりクドくしない事。真逆に掘り下げて行くのかと思いきや、2人ともお互いの話に耳を傾け柔軟な発想をしていくんですよね。視聴者側のストレスになる寸前でサラリと進む感覚があって、絶妙だなと関心。

序盤の細かいところで、動物の大小によって列車のドアが別々に分かれている部分。

これだけ見ても種族としての強い弱いではなく、個々が尊重される社会を形成しはじめている事がわかります。常識や倫理観が徐々に整えられようとしている段階。数年もすれば全体の意識が大きく改革される時期なのでしょうか。それとも根付いた常識とは別に、歪んだ考え方が今だに払拭できない停滞期を続けているのか・・。田舎と都会の意識の違いも上手く描かれていましたね。

象徴的なシーンで、「サハラ・スクエア」「ツンドラ・タウン」「レインフォレスト地区」を列車で抜けるシーンでは、まるでテーマパークのような広大さと、これから始まる新しい生活を表していました。動物が共存するためにエリアを分けて、その為の“施設”を視聴者に紹介する場面でもあります。(熱帯雨林の環境を作り出すために人工樹木を植え、スプリンクラーで雨を降らし湿地を再現する等)

この映画は何重にも仕掛けられた映像的な魅力が込められているので、何度観ても楽しい。

肉食獣と草食獣。そして様々な動物が共存に成功した街「ズートピア」

このトンネルを抜ける度、全く違う景色が広がる線路の配置は大都会であるズートピアがどんな街なのかを、一発で見せることの出来る宣伝効果を狙った場所なのでしょうね。外からの客に見せるための広告。ここから既に“共存”を目指した街の本質が見え隠れしています。

ただ人種差別だけをテーマにしてるだけじゃなく、この作品では権力の浅ましさや欺瞞という現実社会で常に存在する問題をも作中で扱っています。ここから来る問題提起に対して主人公や相棒が立ち向かい解決していく姿でカタルシスを生み出しているのですけど、これもまた絶妙なのです。ディズニー作品でCG技術や音楽などの豪奢さ絢爛さに圧されない脚本を感じたのは久々・・いや、ここまでの物は初かもしれません。


ここからはクスッと笑った場所を少しだけピックアップ。

捜査で向かう『THE MISTIC SPRING OASIS』という場所。これは笑いましたねww

ヌーディズム(ネイチャリズム)を表現し、服を着て羞恥心を持って生活しているはずの彼ら動物たちが生まれたままの姿で行動している。よく変態性を追求した通好みの映画でこういう描写を見ます。けれど動物がやると全く意味合いが違ってくる。完全にギャグにしてしまっていますがエッジの効いた部分でもあって、この映画の面白い要素の一つ。

様々な動物が共存出来ているように見えるが、一度問題が起きて仕舞えば取り返しがつかない。例えばネズミ達の全てのスケールが小さいエリア。ここでサイズが普通の動物が大捕り物をやれば大惨事になる可能性もある。街が常に危険性をはらんでいる事がわかるシーンでもあります。真面目に考えなければミニチュアでの特撮の感覚で、街のバラエティーに富んでる部分で好きですね。

皮肉を交えたジョークが魅力の本作なんですが、海賊版のバイヤーを作中で出すのは笑いました。

【↓自社タイトルをもじった物】
ブーマックス、塔の上のヒヒンツェル 、ツノーラッシュ、モアニャ〜、ジャックとキリンの木、ラッコと海の女王…等(笑)ベイマックス、塔の上のラプンツェル、シュガー・ラッシュ、モアナ、ジャックと豆の木、アナと雪の女王。。。ですねwチョイスはSTAFFが関わってるものが多いかな?

ライオンの市長が肉食のライオンであることや、羊の副市長で女性であること。仕事を副市長に任せ、秘書的な扱いであること。(ライオンは自身で狩りを行わずメスに狩りをさせる)

先を予想させる場所とミスリードを誘うバランスも上手い。

例)肉食獣が凶暴になる→市長 羊のバイヤー兼スナイパー→羊市長

これらの一目瞭然の推理させる場所と、ミスリードを誘う部分の散りばめ方が丁寧でしたね。

マイナスポイントなんて少しも無いんですけど、ケチをつけるなら悪役キャラクターにそこまで魅力がなかったかな?街の住人はすごく魅力がありました(笑)最高です。これはメインの2人を掘り下げて行くためでもありますが、次作を予想させるものでもある。変わらず登場するであろう住人は魅力的に。退場させるキャラクターはあっさりと。考え違いかもしれませんが続編があれば生きてくると思われます。

記憶にあるものをいくつか抜粋しましたが、この他にも沢山面白ポイントがありました。

総評としては・・・色々凝っていて面白い映画だった。続きが見たいですね(^^♪
{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 18

ピピン林檎 さんの感想・評価

★★★★★ 4.4

これが本当の《意識高い系・社会派アニメ》。やるなディズニー!

本作については、一時あにこれの2016年春シーズン作品ランキング1位になっていたことから、個人的に結構気になっていたのですが、わざわざ映画館に足を運んで鑑賞するに至らないまま、いつの間にか上映期間が終わってしまいました。

それが先日、たまたま視聴する機会があり、これが私の事前の期待を遥かに超えて興味深い内容だったので、これは早速、紹介レビュー書かなくちゃな、と思った次第です。

さすがのディズニー作品・・・というよりも、むしろこれ、アメリカじゃないと到底、発想が生まれないし企画も制作も通らない種類の作品だったんですね。

幾ら金が掛かっているのか分からないフル CG技術は勿論秀逸だと思いますが、それよりも本作の場合は、シナリオが実に見事で、見ていて何回も「う~ん、そう来たか」と唸ってしまいました。

だいたい、CG技術だけなら『アナと雪の女王』で既に同等なものを見ていますし、私の場合は、以前書いたレビューのとおりアナ雪のシナリオは実は大して評価していません(・・・というより字幕版と日本語吹替版の2回も鑑賞したにも係わらず、アナ雪は私の頭の中ではとっくの昔に風化した作品になってしまっています)。

だけど本作は、たった一回視聴しただけなのに、かなり鮮明というか、今後もきっと長く忘れられないだろうな・・・と今から確信できる程の強い印象が残りました。

それは、アナ雪に代表される「安心できるけど詰まらない」印象(私だけ?)のディズニー作品というよりは、アメリカという国と社会が現実に地上に存在し、そしてそこへの“問題意識“と、しかしそれでも、それを努力して乗り越えようとする制作者側の“希望”とが滲み出ているようなコンセプチュアルな作品、“日本という国と社会”があってこそ生まれる見事なアニメ作品(*1)があるのとパラレル(平行)な関係で、現代の“アメリカという国と社会”があってこそ生み出された作品・・・という風に私には見えたわけで、そういう意味で、本作こそ正真正銘の《一見の価値がある作品》と個人的に捉えたいわけです。


◆「被害者ビジネス」「弱者利権」「ポリティカル・コレクトネス」「ソーシャル・ジャスティス」

要は、こういう言葉に少しばかり関心がある人にとって、見応えのある作品ではないか、と私には思えたわけです。

そういう意味で本作は、日本のアニメ作品の中でも《社会派アニメ》とか《意識高い系》と一部で評されており、私も実は以前に少しばかりの期待をもって視聴してみたものの、結局「何だコレ?こんな浅い内容で終わっちゃうの?ガッカリだなあ・・」という感想にしかならなかった作品群(あえて具体名は出しませんが)とは、完全に一線を画す作品に個人的には見えたわけです。

ちょっと解説すると、「被害者ビジネス」とか「弱者利権」というのは、読んで字の如くですが、“自分が被害者だ・弱者だ”ということを(それが事実かどうかはともかく)殊更に強調し感情的に捲くし立てることによって、相手側のまっとうな理屈に基づく異論反論までをも遮断して、自分の都合を押し通すタイプの問題行為であり、とくにアメリカでは、1960-70年代のいわゆる「それまで差別され抑圧されていた人々」の「解放の時代」が一段落したあと、1980年代に入って以降に、今度はそのやり過ぎの反動として顕在化してきた問題で、政治的あるいは社会的に「ポリティカル・コレクトネス(政治的適正さ)」とか「ソーシャル・ジャスティス(社会的正義)」とは何か?ということを巡って、長々と真剣な議論が続けられ、司法的ないし政治的な判断が時に示されたり、双方の部分的な合意がこれまで積み重ねられ続けている重要かつセンシティブな事柄です。

そういう点で、アメリカとは国や社会の成り立ちや在り方に違いのある我が国の場合は、問題意識そのものが、アメリカに比べるとどうしても浅く甘い感じになってしまい、問題の片方の側だけ(つまり自称「弱者」の側の主張だけ)をやたらに扇情的に強調するだけのタイプの作品がこれまで目立っていた(今も目立っている)ような印象が個人的にはあり、前述のような《社会派アニメ》とか《意識高い系》とされる作品について、これまで視聴済みだけれども特に評価すべきほどの感想も持てず、かといって別に酷評するほどの感想もないので、そのまま放置してきた作品が幾つかあるわけです。

その点、本作は、私にとってほぼ初めて、肯定的な意味で《社会派アニメ》として高く評価したい作品となったわけで、そういう意味では、自分がこれまで高評価を付けてきた、自分が何度も見たくなる《大好きな作品》というわけではないので、個人的な評価点数をそうした種類の作品の限界と決めている4.4としました。

公式サイトによれば、8/24にBD/DVDがリリースされるそうで、それを機会に、より多くの方に視聴していただきたい個人的な《お勧め作品》となりました。

(*1)日本ならではの作品・・・それは主に、世界基準だと異常なくらいに“感情描写が繊細な”作品群と個人的には考えています

投稿 : 2024/11/02
♥ : 37
ネタバレ

NANA さんの感想・評価

★★★★★ 4.1

楽しい映画。でもハードル上げ過ぎたかも…

評判が良くて気になっていたのですが、ようやく視聴しました。
これぞディズニー、愉快なキャラクターや近未来都市の世界観、テンポの良いアクションとストーリー、子供から大人まで楽しめる映画ですね。
キャラ造形はクオリティが高いし、街も細部まで作り込まれていて見る人を飽きさせません。あと、背景のCGっぽさを抑えた色合いが綺麗でした。(井上直久さんの絵を思い浮かべました。)

ストーリーはわかりやすいけど、少し説教臭く感じました。最近のディズニーはインサイドヘッドと言い、教育的要素が前面に出ている作品が目に付きますね。
まあ、でも楽しむには十分な出来。
それよりも、わかりやすいストーリーでありながら表面的な部分しか伝わらず、深く考えさせられるまでは至らなかったのが残念。
差別問題を扱っているのはわかるけど、結局この映画で何が言いたいのか分からなかった。悪者捕まえてめでたしめでたし。偏見は良くないね。夢を諦めずに頑張ろうね。仲間っていいね。自分の感性が鈍いのかもしれませんが、それ以上のものが伝わらないと言うか、全体的に薄っぺらく感じてしまいました。

唯一リアリティを感じたのは、ジュディが悪意なくニックを傷付けた時。自分では差別を否定しておきながら、無意識のうちに差別している。差別の根底にあるのってそういうところだよね。綺麗事言ったって直せない部分は誰にでもある。それを描いておいて、結局有耶無耶に終わってしまった気がする。まあ最後はハッピーエンドにするしかないのだけど。

監督談では、当初はニックが主人公の予定だったらしい。でも、それだとネガティブで映画のイメージが暗くなってしまうから変えたんだよね。要するに万人受けする方向に転換したと言うわけ。でも、そのせいでテーマがぶれた気がする。

と言うか、自分がアニメに求めるものが間違っているのかも…。楽しくて面白ければ良し。映像も完璧。
でも、何か物足りない。ハードル上げ過ぎたのかな?

アニメではないし差別問題を扱っているわけではないですが、一緒に借りたロバート・ゼメキス監督の『ザ・ウォーク』の方が夢や仲間や師弟愛まで感じられて満足度高かったです。他人が認めてくれることだけが夢じゃないんですよね。


2016.12.1 追記
解せなかったので、再度視聴しました。
映像は文句なし、ストーリーもそつがなく設定も細かいし、アクションシーンや小ネタも満載。とにかく、細部まで手が混んでいて贅沢な映画だなと。(お金あるなー)

なのに何かが足りない。心に訴え掛けてくるものがないんです。アナ雪やドリーで感じた鳥肌が立つような胸が熱くなるような、ぐいぐい引き込まれていく感覚がない。
前評判でハードルを上げすぎたせいもありますが、自分の場合感動の度合いが大きく評価に影響するようです。完璧に近いストーリーでもあまり惹かれないのはそのせいかも。
以下、完璧に近い映画にさらに注文を付けるという我が儘な意見です。ご了承下さい。

{netabare}
当初の主人公はニックの予定だったということで、意識的にニック視点で見てみました。
確かにその方がわかりやすいかも。ニックから見たら現実を知らず希望でいっぱいのジュディは考えが甘いと思っていたことでしょう。でも、夢を諦めず頑張るジュディに、夢を見ていた頃の自分を重ね、やがて自分を変えていく…そんな感じの王道ストーリーですね。
変化するのはニックの方です。ジュディの存在がニックを変える。
でも、転機となるエピソードがよくわかりませんでした。ニックが過去を語るシーンはありましたが、その前の心変わりするシーンが見当たらなかったのが残念。二人で協力して捜索している間にいつの間にか…ということなのでしょう。

あと、ラストの展開についても結果オーライというか、ニックとジュディの絆が実感として伝わりませんでした。ジュディがニックを傷付けた後、二人には乗り越えるべき課題があったわけです。台詞で謝ったり、問題を解決することでニックの汚名を晴らし償うという描き方でしたが、本質的な部分は乗り越えてないような?これ、見せ場にもなり得る気がするのですが…
あくまでも個人的な感想ですが、アナ雪では姉妹の絆が、ドリーでは親子の絆が真実として実感出来たのです。この映画にはそれがなかった。

例えば、ニックが撃たれた時の銃が本物で、ニックがジュディに襲い掛かる。でも、ジュディはニックを信じて逃げずにいる。ニックはジュディを傷付けないために自分を傷付ける…とか。ベタですかね?(そう言えば好きなアニメでそんなシーンがありました。)
でも、それくらいやってくれたら二人の絆で差別の壁を乗り越えたと実感出来たのですが。(もちろん、社会にはびこる差別が解消されたと言うわけではないですが、少なくとも二人の間の垣根はなくなったと実感出来たはず。)

何でもかんでもお涙頂戴を入れれば良いといういう訳ではないですが、一番大事な部分が疎かになってしまった気はします。
でもまあ、かなりハイレベルな要求ですので。(^^;;
{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 17

69.5 2 熱いでコメディなアニメランキング2位
老人Z(アニメ映画)

1991年9月1日
★★★★☆ 3.7 (214)
1041人が棚に入れました
看護学校に通うハルコはボランティアで高沢老人の介護を行っていたが、高沢が最新型介護ロボット「Z-001号機」のモニターに選ばれ、お役御免となってしまう。見舞いに行った先でチューブだらけになった高沢の姿を見てショックをうけたハルコは高沢を助け出そうとするが失敗。実習先で知り合ったハッカー老人らに助けを求めるが…

声優・キャラクター
松村彦次郎、横山智佐、小川真司、近石真介、辻谷耕史

hiroshi5 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

介護、その真の意味は・・・?

秀作中の秀作。
1991年にこのストーリー・・・。本当に今敏監督は天才以外の何者でも無いです。

一番評価したいのは作画と物語。昭和の雰囲気をそのまま出した作画は最近のアニメと違って逆にリアルです。
アニメだからこそ出せる「アニメ内での真実」というものを上手く表現しています。
ストーリーのベースとなる、時代、季節、キャラクターなどを選択するのは製作者の自由なんですが、一度設定してしまえばその設定に、その雰囲気を突き通さなければいけない。
それが「アニメ内の真実」です。

今作品は1991年と言う当時のそのままの風景を設定にしてあります。無駄に近代化もしてなければレトロにもしてない。
で、作画のタッチもその昭和の雰囲気を表現するに相応しい、薄くて輪郭がぼやけながらも、活気みたいなものを視聴者に無意識化で伝達するような感じになっていてその世界観にずるずる引き込まれます。
似ているのは「かみちゅ!」です。「かみちゅ!」でもぼやけた輪郭が焦点が合わさっている物をより強調する効果を持っていたのと同時に懐かしいような雰囲気を醸しだしていました。

で、その作画だけでも素晴らしいのですが、一番興味深いのはその「THE 昭和」にコンピューターネタを持ってくることです。
しかもそのアイデアそのものは2012年の今でも通用する、「意思の介入」というもの。
一般家庭にパソコン自体普及していないような時代にこのネタは本当に天才としか良い様がありませんね。まさに圧巻です。

最近の同じネタとして扱った作品として挙げられるのは「サマー・ウォーズ」です。
ラブ・マシーンという探究心を持ったプログラムがOZという架空世界でどういった行動を起すのかを描いていました。


実は、私はコンピューターネタとしては今作品、「老人Z」の方が一枚上だと考えています。
「サマー・ウォーズ」との一番の違いは現実世界か架空世界か、です。
そして、現実世界でコンピューターが意思を持つということの方が作品として描くのが難しいと私は思うんですよね。
なんせ、現実世界には(老人Zでは昭和の神奈川付近)現実世界のルールがある。それは本編でもよく描かれていました。
マスコミなどは、本当にそのもので、これだけでもオススメしますよw
で、その現実世界のルールの従いながら、または破りながらどう矛盾無く視聴者をその世界観に引き込むか。
架空世界だと製作者側でどうにも変えられますからね。


物語は単純明快でして、しかも世の中の有様を非常によく表しています。
特に厚生省や国際情勢などの詳細な説明はありませんでしたが、そこは普段からニュースを見ていたら分かります。というより、分かりすぎて面白いww
1991年からマスコミや政府は変わっていないことが良く分かりますよw

例えばマスコミ。初めのロボットを厚生省が発表を記者会見でする時、こんなセリフがありました。
「そのロボットの原動力はなんなんですか?」
「ミニ原子力です!」
「え?そんなの大丈夫なんですか?放射線が洩れて患者の容態が悪くなる可能性は?」
「大丈夫です。万が一の場合はロボット自体が緊急信号を発信します」
「成る程!それなら大丈夫だ!」

ってな感じで、ホント厚生省の発言を鵜呑みにするマスコミ報道陣。もっと調査報道しろっての!

他にも1991年に製作されたにも関わらず、今の日本と通ずつシーンがチラホラ。
そういう点は非常に共感できるのと同時に面白いです。


ちなみに、この作品の一番の焦点は「介護」であって、コンピューターが意思を持つということではありませんのど、そこだけは気をつけてください。

コンピューターが、ロボットが意思や探究心を持つなどと言った作品は他にも沢山ありますし、もっと深いところで問題提起する作品もあります。
というより、今作品では第六世代コンピューターというものの、基礎チップ(多分CPUのことだと思う)がバイオテクノロジーで作られているということしか記されていなくて、それがどう探究心に繫がるのかは曖昧でした。

対照的に「介護」は物語の全体を通して上手く描いていました。
介護とは人の体を清潔に、とか出来るだけ手間を省いて効率良くとかじゃなくて、如何に患者に負担をかけずに、患者の気持ちを汲んで幸せにするか、だということです。

こういう点はサービス業とリンクして、花咲くいろはで出ていた幾つかのセリフを思い出しました。

物語は簡単ですが、そのメッセージ性は独特かつとても強調的でダイレクトに心に響きます。
何度目か分かりませんが、本当に1991年とは信じられない。
いや、むしろ1991年だからこんなにも輝いているんだと思います。
時間がある人も無い人も是非見てください^^

投稿 : 2024/11/02
♥ : 17

takarock さんの感想・評価

★★★★☆ 3.3

浅薄だがおもしろい、そんな歪なアニメ映画

1991年公開のアニメ映画。
監督:北久保弘之氏、
メカニックデザイン:大友克洋氏、キャラクターデザイン:江口寿史氏
作画を担当しているのも、今敏氏、沖浦啓之氏、黄瀬和哉氏、井上俊之氏
鶴巻和哉氏、松本憲生氏等々数え上げればキリがない程超豪華スタッフです。

「簡単なあらすじ」
看護学生の三橋晴子がボランティアで看護している寝たきり老人の高沢喜十郎は、
ある日突然日本政府の推進する最新型介護ロボット「Z-001号機」のモニターに選ばれる。
体中チューブだらけの高沢に胸を痛める晴子。
そんな中介護ロボットは暴走していくことになる・・・。

*現在においては看護と介護の違いは明確化されていますが、
ここではほぼ同義語として取り扱います。

さて、私が本作を観終えた直後の率直な感想を述べると、
アニメーションとしてはおもしろいと思う・・・
けれども、一体何なのこの作品? 何が言いたいの? そもそも何の為に作ったの?
と狐につままれたような気分になりましたw

本作を視聴する前は当然介護問題を取り扱った作品だろうと想定しているわけです。
劇中でも「愛のある看護でなければいけない」的なことを晴子が発言していたので、
ああ、そういうメッセージ性の作品なんだと思っていたんですけど、
テーマ性、ストーリー性、舞台設定、キャラ造形、さらには話のオチに至っても、
その全てが浅薄極まりなく、もうペラッペラですw
本作を観終えて、「介護問題について深く考えさせられた」なんて言われた日には
真顔で「は???」と聞き返してしまうレベルw

高齢化社会が進んだ現在において介護問題は当時とは比較にならない程深刻化しています。
家族の認知症介護の経験者、あるいは現在介護している立場の方からしたら、
本作は極めて不愉快なものに映るかもしれません。

高沢をどこか小馬鹿にしたかのような描写、
高沢の願望の為に介護ロボットとして暴走し、周りに迷惑をかける描写、
劇中にアーパーギャル(死語)などという言葉が出てきましたが、
晴子含めアホな学生たちの軽佻浮薄な言動、
ご都合主義にも程があるだろうという登場人物の存在等々
本作の欠点は数え切れない程ありますし、
見る人によっては不謹慎だなんて言う人もいるかもしれません。

しかし、アニメーションとしては結構おもしろいw
何故ゆえにこんな歪な作品が出来上がったのかその背景に興味をそそられました。
それで、ちょっと調べてみたんですけど、
「アニメ監督・北久保弘之氏、『老人Z』の当時のエピソードを語る」という
Twitterのつぶやきがありました。興味があれば是非ご覧になってください。

この北久保弘之氏のつぶやきを要約すると、
飲み屋で酔っ払った北久保弘之氏と大友克洋氏がノリと勢いで作った企画を、
プロデューサーに持ちかけたら、よもや企画が通ってしまって、それで作るはめになったとw
売れる企画って何だ?→売れるといったらロボットものでしょ!!
→最強のロボットの操縦者が逆に寝たきり老人だったらおもしろくね?
→可愛いお姉ちゃんも必要でしょ→じゃあ、江口寿史さんに描いてもらっちゃう?(笑)
こんな感じだったのでしょうねww
それで、集められたスタッフは(もちろん今振り返るというのは考慮しても)超一流揃いだったので、
出発点がバカ企画とは思えない本格的なSF作品に仕上がってしまったとw

制作動機も不純ですし、見る人によっては不快感を与えるかもしれません。
前述したように不謹慎と捉える人もいるでしょう。
こういったブラックユーモアはエンターテインメントとして成立しづらいのが、昨今の風潮です。
それは、多少不謹慎だろうとおもしろければなんだっていいじゃん!という、
当時は当たり前のように受容されていた往年の❍ジテレビのようなノリが
もはや時代錯誤ということなのでしょう。

個人的にはこの程度のブラックユーモアなら許容できる範囲だと思いますし、
現在のあまりに行き過ぎた規制の掛け方は、表現する側にとっても窮屈でしょうし、
なによりも業界から活気を奪うので、如何なものかという思いはあります。

ちょっと話が逸れましたが、
本作を楽しむには、テーマ性? キャラ造形? 
そんなもんおもしろければなんだっていいじゃん!という
ある種バブリーなノリが必要なのかもしれませんね。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 34

nyaro さんの感想・評価

★★★★★ 4.3

単純なAI機械批判ではない、介護老人として生きる意味とは?

 マトリックスが1999年。本作が1991年です。機械文明の中で生きるということはどういうことかと、考えさせる作品です。攻殻機動隊の初出が1989年でコミック発売が1991年です。アニメ映画ですから準備に2年かかるとすると、おそらくは同時に進んだんでしょうね。シンクロニシティともいえるし、時代がそれを考える時期に来ていたということでしょう。

 本作は、超高齢化社会における機械とコンピュータによる介護を一見チャップリンのモダンタイムス的にとらえて、批判的に見ることは出来ます。ヒロインのハルコさんとの生身のつながりを描くことで、やはり人間による介護が必要だという結論になるのかな、と思ってしまいます。

 が、結果的に主人公?となる老人はAIで再現された疑似人格の元妻によって救済を得ます。そして、老人の逃亡を手助けしたのは、ネットワークでつながった別の老人の支援でした。人間がバーチャルに拡張することでボケた老人に生きる意味が生まれるのでは、という可能性もありました。

 私ごとになりますが、私は機械で介護されたほうが気が楽です。人間関係や生身の生活は今までの蓄積がありますので、この先がバーチャルでも何の問題もありません。むしろ、生命維持の呪縛から解放してくれるならこのアニメの介護機械を選択すると思います。もちろん、機械を信用するにたる安全性の担保は欲しいですけどね。

 では、この老人は何のために生かされるか、ですね。ここが資本主義の不思議なところで、経済成長のためには、消費し贅沢し浪費し蓄財したいと思う理由が必要になります。人間の価値は将来は機械につないでも生かされることになります。つまり、マトリックスの世界ですね。


 本作のヒロインにより物語は進行しますが、彼女の思想はおじいちゃん可哀想ということと看護担当としての使命感だけです。本作のテーマ性はヒロインには見えてきません。
 感情移入は、ボケてしまった老人に将来の自分の姿を重ねることができるかどうか、になってくると思います。

 この時代にそこを考えていたかわかりませんが、人の出会いと思い出が老人には必要です。最期に誰を想うか…まあ、そこはネタバレなのでいいませんが、老人になることについて深く考えさせる非常に良い作品でした。


 で、本作の面白さですが、面白いです。古さはありますけど、テンポよく話が進みますし、映像のカットが凝っているので見ているだけで飽きません。
 それに、物語はかなり時系列的には単純に進行しますが、展開が早くて日常から荒唐無稽な世界にどんどん移行してゆく中、ヒロインを中心にキャラがよく動きます。

 メカやAIのイメージも秀逸です。1991年にしては、というカッコ書きはつきますが、作画のレベルが非常に高いので安っぽさはないですし、むしろ映像的な面白さは新鮮です。AKIRAで培った技術がはっきり生きていましたね。まあ、ここは二番煎じ的ではありますが、大友カラーともいえます。

 ヒロインの可愛さは秀逸です。大友克洋の美少女苦手と江口寿史の美少女しか描けないが組み合わさって、各キャラが個性的な造形で、ヒロインは非常に可愛かったです。萌え絵感はまったくありません。看護婦姿(死後でNGワードですがどうしてもこの言葉を使いたいです。正しくは女性看護師)最高です。作画も素晴らしいです。
 目が後半の方が大きかった気もしますが、後で確認します。

 SF設定、センスオブワンダー、テーマ性。「当時としては」というカッコ書きをつけたくなりますが、良く考えると2022年だからこそ更にテーマが身近になっているとも言えます。

 上述の文中に挙げた各作品に劣らない名作でした。話のスケールが小さいのでSF大作に見えませんが、立派な作品だと思います。


 点数では、85点/100点ですかね。ヒロインの内面がもうちょっと見えると良かったかな。それとキャラが今風からいえばちょっとくどいですね。ただ、作画キャラデザは素晴らしいです。
 テーマ性、SF設定は秀逸。センスオブワンダーはまあ及第点という感じです。
 音楽はあまり見るべきところがなかったかな?



追記 美術設定、原画に今敏さんが参加していました。映像的には最高のメンバーでしたね。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 7

74.3 3 熱いでコメディなアニメランキング3位
夜は短し歩けよ乙女(アニメ映画)

2017年4月7日
★★★★☆ 3.8 (334)
1745人が棚に入れました
クラブの後輩である“黒髪の乙女”に思いを寄せる“先輩”は今日も『なるべく彼女の目にとまる』ようナカメ作戦を実行する。
春の先斗町、夏の古本市、秋の学園祭、そして冬が訪れて…。
京都の街で、個性豊かな仲間達が次々に巻き起こす珍事件に巻き込まれながら、季節はどんどん過ぎてゆく。
外堀を埋めることしかできない“先輩”の思いはどこへ向かうのか!?

声優・キャラクター
星野源、花澤香菜、神谷浩史、秋山竜次、中井和哉、甲斐田裕子、吉野裕行、新妻聖子、諏訪部順一、悠木碧、檜山修之、山路和弘、麦人

♡Sallie♡☆彡 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

アニメ化してくれてありがとうヽ(*´□`*)ッ

このアニメの原作はわたしが大好きな小説です。
森見作品の中でも1番好き。
彼の小説はラノベでもないのにドラマ化よりアニメ化の方が向いているらしく,「四畳半神話大系」や「有頂天家族」がアニメ化されているのにこちらはアニメ化されていませんでした。
是非してほしいなぁとかねがね思ってはいたのですが,なんと映画としてアニメ化されると知った時は「なんとしてでも観ねば!!」と思ったものです。
でも,結局映画館に足を運ぶこともなく時が経ってしまいました。
4年も前の作品なのか…。

こちらは「四畳半神話大系」で登場した人達が出てきたりする(というか互いにリンクし合っている)ので,同じように作ってくれて感謝!!って感じでした。
とくにキャラクターデザイン。
キャラクター原案は中村佑介じゃないと!!
あと,言っておきたいのは声優ですね。
羽貫さんの中の人はわたしの中で1番馴染みがあるのは「ゴシップガール」のセリーナなんだけど,羽貫さんの声もやっぱりぴったりでまた彼女をキャスティングしてくれて良かったと思いました。
古本市の神様は…これ小津じゃん!!ちっちゃい小津!!
ぶっちゃけこの小説読んだの多分10年くらい前だと思うので,あんまりよく覚えてないのだけど小津ではなかったと思うんだよな…(笑)。
また読んでみようかな。。
あと何気にジョニーも同じ声優さんなんですね。
とにかく残念なのは樋口師匠ですよね。。
けれど,こちらの樋口師匠も全然良かった☆
また「四畳半~」のアニメも観てみようかな。
そして,以下は「四畳半~」とは違うキャスト。
まずは先輩の星野源。
もう星野源まんまじゃん!!って感じですね。
観る前誰がやるのかチェックしてなかったから星野源でびっくりした。
わたしはオールナイトニッポンで彼のしゃべる声だけを聴くっていうことがよくあるので(最近全然聴いてないけど),そのせいもあってか終始星野源がチラついて集中できない感じでした。
でも,よく頑張ってるなとは思いました。
彼の出演作品をあんま観てない人とかだったら特に違和感なく観れたんじゃないかなと思います。
星野源は「逃げるは恥だが役に立つ」の平匡さんといいこういう地味な男性の役が合ってるなぁ。
ただまぁ,「四畳半~」の「私」が良かったからなぁ。
それと比べちゃうとね。
チラつくといえば,ロッチの中岡ですね。
彼もとても上手だったけど,やっぱ中岡だなぁって。
逆にロバートの秋山は全然分かんなかった!!
え。出てた!?って感じでした。
黒髪の乙女の声はめっちゃ良かった★
とにかく可愛くてこんな声の女の子に生まれたかったと思いました。
そして,学園祭事務局長。
やば。色っぽいしイケボすぎる。
でも,妙に聴き馴染みが…と思ったら阿良々木くんか!!
正直,阿良々木くんの声が好きではないのですが,あたしこの人の声自体はむしろ好きなんだな。
「天官賜福」でもイケボだと思ったものなぁ。
先輩と学園祭事務局長が会話するとやっぱりアニメは声優さんだよなって思っちゃう。
演技力って点ではもちろん俳優さんでも良いんだけど,声優さんはイケボなのよ。
そして,紀子さん。
しゃべってる時は普通に観てたんだけど,歌い出してからびっくり!!
「え。うま。」って思って中の人調べちゃいましたよ。

そもそも「四畳半~」と「夜は短し~」の主人公と黒髪の乙女って別人物なのかな??
明石さんも黒髪の乙女ってことだったけど,ちょっとキャラは違う感じするよね。
「夜は短し~」の方が子どもっぽいというか不思議ちゃんな感じ。
それでいうと,わたしはこの不思議ちゃんな黒髪の乙女がとても好きで,ここ10年くらいずっと黒髪なのはこのキャラクターの影響もあるんだけど…。
(カラーしようとするたび「黒髪の乙女」というワードがチラつく)
この映画観てびっくりするくらい変な娘に描かれている気がしてちょっとショックでした。
ヘンテコだけど可愛らしい子っていうイメージだったから。
特に詭弁踊り。
あんな踊りだったの!?!?
活字だとどんな風に表現されてたのか覚えてないけど…。

総括です。
第一にこの小説をアニメ化してくれてありがとうと,まずはそこです。
でも,やっぱ原作は原作の独特の文体が1番の魅力で,「四畳半~」はそれが存分に活きてた感じだったけど,こちらはそうでもなく途中でちょっとだらけちゃいました,わたし。
やっぱ長々と観るよりはテレビアニメとして30分ずつ観ていくって方が集中力がもつというのかな。合ってる気がします。
小説って純文学と大衆文学っていう括りがあると思うのですが,アニメでそういう括りがあるとしたらわたしはこちらを大衆アニメではなく純アニメとしたいです。
観て面白い楽しい感動するというのではなく芸術作品寄りというのかな。
なので,好き嫌いは分かれるというのか,このアニメの味を理解できる人ってのは限られてくる気がします。
まぁ森見登美彦の小説自体割と人を選ぶみたいなので,そこは仕方ないのかもですが…。
わたしは彼の世界観が好きなので,このアニメも好きだと思いました。
また原作読みなおしたり,「四畳半神話大系」のアニメも観直してみようかな♪
(因みに原作読んだ当時に「ラ・タ・タ・タム」は読みました。実在する絵本なのでこのアニメが好きな方はこちらも是非☆)

追記
みなさんのレビュー読んで原作と違う点をいろいろを知り,「やっぱそうだよね!!」と共感することしきりでした。
原作読んだのかなり昔だから「わたしの覚え違いかな?」とか「こんなシーンあったかな?」「こんな設定・展開だったかな?」とか思ってたので…。
原作がとても素晴らしいので正直原作通りにやってほしかったかな。
特に一夜って設定は「え。そうだったっけ?」ってなった点です。
あと「魔風邪恋風邪」はもっと冬のほっこり感があった気がするけど,アニメだとカオスになってて残念でした。
やっぱ原作読みなおします!!
そして,もっと批判的なレビューを書いてやります!!

投稿 : 2024/11/02
♥ : 4
ネタバレ

Witch さんの感想・評価

★★★★★ 4.5

この「世界観」初見で理解できるの? →先に「四畳半神話大系」で学習することをオススメ

【レビューNo79】(初回登録:2023/8/27)
小説原作のアニメ映画で2017作品。90分程度。
視聴理由は「四畳半神話大系」の森見登美彦×湯浅政明作品だったので。
キャッチコピーは「こうして出逢ったのも、何かのご縁」

(ストーリー)
舞台はある京都の大学。
「先輩」は、1年前から同じクラブの後輩である「黒髪の乙女」に恋をして
いる。
彼は日々彼女を追い掛け、なるべくその目に留まろうと「ナカメ作戦(なる
べく彼女の目に止まる)」を実行していた。
そんな先輩の気持ちはつゆ知らず、乙女は好奇心の赴くまま、夜の先斗町を
歩いていく。
これはそんな2人の夜にまつわる物語。

(評 価)
・「四畳半神話大系」は別格ながらも、個人的には本作も評価
 前回レビューしましたが、そもそも「四畳半神話大系」は1クール使って、
 最初は「平行世界」を描いて同じような展開を繰り返しつつも、伏線を巧
 妙にバラマキながら、終盤でこれらを見事に回収していき、皆を「あっ」
 と言わせる「神作品」ですからね。
 それを踏まえ本作は「四畳半神話大系」を彷彿させる世界観を描きつつも、
 映画の尺の中で、キャッチコピー「こうして出逢ったのも、何かのご縁」
 をしっかり落とし込んでいたので、個人的にはかなり評価できる作品かな
 と思います。

・この「世界観」初見で理解できるの?
 ただ私は「四畳半神話大系」で、この手の作品に免疫があったから楽しめ
 ましたが、これ本当に何も知らない方が視聴されたら「ついていけるの?」
 というところに疑問を感じました。
 「四畳半神話大系」も正直最初は「??」って感じで、上述の通り「平行
 世界モノ」で3回ほど同じような展開を観て、それでようやく馴染んできて、
 この作品の良さや味が判ってきたって感じなので・・・
 個人的には先に「四畳半神話大系」で、この世界観を学習することをオス
 スメします。

・内容は奇天烈感が強い(上述の補足)
 この作品の格子はシンプルで
 ★黒髪の乙女に恋する先輩は始めは縁遠く、「ナカメ作戦」等ヘタレな状
  況から、いろいろな人との「ご縁」などが巡り巡って、先輩も勇気を出
  して行動し、本当の「ご縁」にたどり着く。
 という「純愛もの」なのですが、この「いろいろな人との「ご縁」が曲者
 で、この部分の厚みが凄いんですね。ここが「森見登美彦×湯浅政明」作
 品の真骨頂であり、雰囲気を例えるなら(四畳半でも書きましたが)
 「ベクトルの違う『西尾維新×シャフト』」みたいな?!
 ストーリー展開も奇天烈感が強く、通常の「ピュアラブストーリー」感覚
 で観てると面食らう感じですね。なのでちょっと耐性が必要かなっと。

・以下簡単なあらあらすじを書いておきます(章立ては原作から)
 ・先斗町での一夜の物語
  原作では京都の四季になぞられ、各季節毎の4編の物語として描かれてい
  るらしいのですが、本作では「一夜の物語」と改変されたようです。個人
  的にはこの演出は◎。
  「夜の帳が下りてから夜明けまでを、2人がどう過したのか。」
  → タイトル「夜は短し歩けよ乙女」にピッタリハマる感じが心地よい。

 ・第一章(春):夜は短し歩けよ乙女
   {netabare}「恥ずかしながら、このとき私は単身、魅惑の大人世界に乗り出したい
   と思いました。要するに先輩方に遠慮することなく、無手勝流にお酒が
   飲みたかったのです。」
  この黒髪の乙女、かなりの酒豪です(笑)
  このお酒の「ご縁」から様々な「ご縁」を紡いでいき・・・
  樋口君&羽貫さんの「四畳半神話大系メンバー」が話を先導していく演出
  がニクい。{/netabare}

 ・第二章(夏):深海魚たち 
  {netabare}「ここはまるで本の海。私は深海魚となって獲物を求めて回遊する所存」
  「下鴨納涼古本祭り」を舞台に、2人はどんな本と「ご縁」があるのか。
  特に先輩にとっては、彼女にまつわる「古い絵本」をゲットするという、
  重要な使命が・・・{/netabare}

 ・第三章(秋):ご都合主義者かく語りき 
  {netabare}「学園祭とは青春の押し売り、たたき売り、いや青春闇市なり」
  学園祭事務局は、神出鬼没な集団「韋駄天コタツ」とゲリラ演劇「偏屈王」
  に頭を悩ませていた。そして黒髪の乙女もゲリラ演劇騒動に巻き込まれ、
  それを知った先輩は・・・
  ゲリラ演劇→「ミュージカル」と「恋愛」が見せ場になっています。{/netabare}

 ・第四章(冬):魔風邪恋風邪
  {netabare}「君はどんどん進んでいくから、なかなか誰も追いつけない。なのに何度
   も通りかかるやつっておかしいと思わない?」
  これまでの喧騒が嘘のように、巷では「李白風邪」が大流行。一人元気な
  な「黒髪の乙女」はそれまでの「ご縁」に沿って、いろいろな人の元にお
  見舞いに訪れます。
  そして最後にお見舞いに向かった先は・・・{/netabare}

テーマの「ご縁」に沿って、様々な個性的なキャラが登場しては入れ替わって
いき、上述の通り四季のイベントも入ってくるので、物語の展開はかなり早い
です。そして
「最初『点』で出会っていた人たちは、実は『線』で繋がっていた」
という仕掛けは、テーマ「ご縁」にピッタリで思わず唸ってしまいます。
{netabare}最後に「お見舞い」という形で、キャッチコピー
「こうして出逢ったのも、何かのご縁」
を回収していくストーリー展開は本当に秀逸です。{/netabare}
問題はその見せ方が好みにあうかどうか・・・
でも、こんな作品も楽しめるようになると世界が広がるのは確かなので、まず
は「四畳半神話大系」から「森見登美彦×湯浅政明作品」の世界に足を踏み入
れてはいかがでしょう。
って「何の作品のレビューやねん!」って感じですが(笑)

投稿 : 2024/11/02
♥ : 12
ネタバレ

剣道部 さんの感想・評価

★★★☆☆ 3.0

命短し 恋せよ 男子も。

[文量→中盛り・内容→酷評系]

【総括】
原作組なので、チト辛めの評価です。

非常に不思議な映画。映画単独で内容を理解するのは難し、、、いや、ほぼ無理なんじゃないかと思います。

アニメーションとして本作を観たとき、他にはない独特の映像表現が観られますから、アニメ好きなら観ても損はないでしょう(第41回オタワ国際アニメーションフェスティバル長編部門グランプリ、第41回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞受賞)。

ただ、もし映画を観て、ちょっとでも興味をもった方は、是非、原作を読んでほしいとおもいます。

第20回山本周五郎賞受賞作品。第137回直木賞候補、2007年本屋大賞第2位。2017年2月時点で累計売上130万部を超えるベストセラーとなっている(Wiki参照)のは、伊達じゃないということが分かります。

映画がかなり原作改編しているので、ある意味、映画を観てても関係なく、原作を楽しめると思います。

個人的には、映画版は☆3.5。原作は☆5です。

《以下ネタバレ》

【視聴終了(レビュー)】
{netabare}
細かな点での、改編の文句は勿論あります。(李白がショボすぎるとか、実行委員長の女装ピックアップとか)言い出したらキリがないのですが、一番を挙げるなら、文化祭編。パンツ番長と紀子さんのエピソード改編は酷すぎる。

原作では、紀子さんは紀子さんで、象の尻を展示するというエキセントリックな方法で、パンツ番長を探しています。そんな紀子さんを手助けするのが、「黒髪の乙女」です。そして、同じような廻り合わせの中で、パンツ番長の願いを叶えようと奮闘するのが、「先輩」。本作は、語り手がコロコロ変わるのが特徴の小説で、「黒髪の乙女」と「先輩」が微妙に繋がりながら、絶妙にすれ違いながらストーリーが進んでいくのが楽しいのですが、この学園祭編は、まさに真骨頂という感じ。最終的に、パンツ番長の願いを叶えるために必死になる先輩を見て、初めて「恋」の兆しを感じる「黒髪の乙女」。もの凄く大事なところなのに、映画では、「先輩」が「パンツ番長の恋より、自らの願いを優先している」ように見え、なぜあれで「黒髪の乙女」が惚れるかが謎です(抱き締められたからって、そんなバカな。確かに、原作でもそうだけど、抱き締めるまでの過程が違いすぎるでしょ)。

とまあ、予定より長く書いてしまいましたが(笑)、実は、そんなのは些事です。

一番大事なことは、監督が、この原作の「一番の旨味」を勘違いしていること。

本映画の独特の映像表現は、原作者「森見登美彦」さんの独特の文体を表現したものでしょう。夢と現実の境目が曖昧で、どこか酒に酔っているような、自分に酔っているような、古めかしくも新しい、軽妙な文体。いわば、「森見節」を表現するものとして、この映像表現は、非常に素晴らしい。その点に関しては、何の文句もない。

でも、本作に限って言えば、作品の一番の旨味(魅力)は、「キャラクターの良さ」なんですよ。

(奇しくも、入賞歴引用するためにWikiを開いたら載っていたけど)山本周五郎賞の選考委員だった重松清は、同賞の授賞理由として著者が黒髪の乙女の「一人称の「天然」を描ききった」ことを理由に挙げている。

とあるように(流石、重松さん♪)、とにもかくにも、黒髪の乙女の魅力なんです。

原作の彼女は、もっとつかみどころがなくて、可憐で、軽やかで、芯が強くて。天然ですけどバカじゃない。いや、高いレベルのバカではあるんですが、とにかくもっと、可愛いんです。

変態親父におっぱいを触られても、友達パンチ1発で終わらせ、鯉のリュックをワクワクして背負い、ご飯主義者とパン食連合の討論会で、「ビスコを食べれば良いのです!」と宣言し、りんご飴をチロチロ食べながら夜の町をトテトテ歩くような、不思議な可愛さなのです。

勿論、対となる先輩も、不器用ながら一途で、素敵な人です。

もし、この原作を映像化するなら、森見さんの文体の不思議さを表現するよりも、ヒロインの魅力をちゃんと表現し、主人公との恋愛を丁寧に描写した方が良かったとおもいます。スタート地点を間違え、ずっとボタンをかけ違え続けた映画化に感じました。
{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 22
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