けみかけ さんの感想・評価
4.7
【死んだら地獄へ行くよ】江戸の四季、江戸の風俗、江戸の恋、江戸に生きる女を描く傑作【半鐘の音が聞こえると、じっとしていられねぇのさ】
『クレヨンしんちゃん』や『河童のクゥ』でお馴染みの日本を代表する名監督、原恵一の最新作
アニメーションとしては『カラフル』以来5年ぶり
間に挟んだ実写映画『はじまりのみち』からは3年ぶりのご帰還
1年前には『ARISE』にいた筈のProductionI.Gに太いパイプを持つアニメタがこっちにいたりで、原監督には初めての現場なのに色々凄いことになってます
原作は監督自身がファンだと公言している若くしてこの世を去った漫画家、杉浦日向子の代表作
江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎の三女で葛飾応為こと“お栄”を主人公に彼女の視点から江戸の情緒や北斎を取り巻く人々を描いた時代劇です
主要キャストは本職の声優ではなく、これまた杉浦作品のファンであると言う杏がお栄を演じます
北斎(本名、鉄蔵)には何の因果か杏の父親役を度々演じる松重豊
北斎の弟子の一人で北斎やお栄と同居する若者、善次郎には原監督作品のファンだと言う浜田岳
これら俳優陣の演技は声優初挑戦ながらとても素晴らしく、特に杏はこの『百日紅』という作品をよく知っているだけあって気合の入れ方が凄かったようで、アフレコに着物で来たとか
また、アニヲタ的には矢島晶子と藤原啓二がカメオ出演しているのも面白かったのでぜひ探してみてほしいです
元々いくつかの短編を集めたものとして描かれている原作なので、この映画でも小さなエピソードの連続と共に移り変わっていく江戸の四季や登場人物の心情変化を描写しています
ココが今までの原監督作品と違うところなんです!
北斎とお栄の浮世絵師という仕事は現代で言うところのノンジャンルのイラストレーターに相当するもので様々な依頼に合わせて有象無象、虚実混濁、抽象、風景、人物問わず絵にしていきます
龍の水墨画、妖怪絵巻、地獄絵図、仏画・・・
それらに合わせて描かれる江戸の風景が大変美しい
時代考証に裏打ちされた両国橋や吉原の丁寧な描写は外国人に「これが江戸時代です!」と言い張れる完成度
さらにところところで画面レイアウトが【そのまんま北斎の代表作と同じ】になっているという遊びをそれとなく入れてくるのはニクイ
細かいエピソード毎の区切りが小気味良いテンポとなって原監督特有の「さぁ、泣いてください!」という湿っぽい雰囲気やあざとさを感じさせず、杉浦作品のドライな世界観と調和して高次元でバランスしていると感じました
そしてお栄が最も得意としていた春画(エロ絵)
北斎や江戸の浮世絵師を語る上では欠かせない春画、ですが年頃の娘であるはずのお栄(劇中では23歳)がなぜエロ絵を描き続けたのか
生涯未婚だったという彼女の青春に何があったのかを合わせて描く恋模様エピソードも見逃せない
そして物語全体の軸となるのがお栄の妹、そして北斎が無意識に避けてしまっている四女、お猶とのエピソード
じつはこのエピソード、原作の単行本ではクライマックスなんですが文庫版だと後日談が付け加えられてしまっています
これを原監督は蛇足と考えたのか、あえてこのお猶ちゃんを最後に持ってくることで原監督には十八番の“涙で〆括る”という体裁を取っていて、まあそう来るだろうとは薄々わかっちゃいましたがこれがまた自然な仕上がりですっかり乗せられました
いや、率直に素晴らしかったです
エンドロールには生前の杉浦が好んで聞いていたという椎名林檎が歌う主題歌
ただでさえ男尊女卑の時代を生きたであろうお栄という逞しく地に足着いた女性の姿を通して、作品全体に仄かに漂う女性応援歌の香りがこの曲で裏付けられます
江戸文化の丁寧な描写という面で観ても世界に発信するに相応しい一作でありつつ、流石に吉原とか遊郭が出てくるので小さいお子様連れ向けとまでは言わないが老若男女楽しめるエンターティメントに仕上がっている思います
文字通り傑作ですよ、これは
そ
れ
と
お猶ちゃんマジ天使、な