ossan_2014 さんの感想・評価
4.3
滑走路の彼方
【極微修正】
スーパーカブ、という実在の車名に囚われ過ぎない方がいいだろう。
これは、「何もない」少女が「バイク」という「力」を得る物語だ。
力点は、おそらく「力」の方にある。
スーパーカブは「力」を象徴し、表象する特権的な「記号」であって、実在物としての「スーパーカブ」のディテールにこだわりすぎると、物語を見誤るかもしれない。
確かにカブにかかわるディテール描写は緻密で、スーパーカブという、ある種シーラカンス的な車種をフィーチャーすることで、「スーパーカブ」という固有の車種だけでなく、古い時代のオートバイの記憶を呼び覚ます。
チョークレバー、キックスターター、スライド式ウインカースイッチ、収納ではなくフック式のヘルメットホルダー、通気システムもシールドも無いジェットヘルメット、などなどなど。
昔のオートバイを知る視聴者には、どれも懐かしく胸に迫ることだろう。
だが、こうした細部に淫してノスタルジーを消費することを、本作が目指しているようには思えない。
では実在のバイクを登場させることは無意味なのだろうか。
そんなことは無い。
「現実」に生きる人間であれば、「どこにもない」バイクに乗っているはずがない。
アニメの少女が実在のバイクに乗ることは、少女が視聴者と同じ地平に立っていることを意味する。
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全編を通じて、どこをとっても元高校生ライダーには身に覚えのあるエピソードの連続で、胸に迫るものがある。
同じような、元、あるいは現役の高校生ライダーは多いに違いない。
が、強く引き付けられるのは、元高校生ライダーや現役ライダーだけではないだろう。
実在車としての「スーパーカブ」に囚われることなく、力=自由を表象する特権的な「記号」であると捉える限り、他作品の感想にも記したように、クルマやオートバイに「自由」のアウラを見ていた無数のオジサンやオバサンもまた、本作に強く惹かれるだろうと信じる。
本作に一撃で引き付けられたのは、過去を追体験させるようなプロットだけではなく、舞台が甲府盆地であることも1つの要素だ。
いや、お金のない東京の高校生ライダーの手軽なツーリング先として、よく甲府盆地を目指していたからだから、これも追体験の一要素かもしれない。
だが、主人公が甲府盆地に住む少女であることは、オッサンのノスタルジーの対象であることを越え、もう少し現代的な意味も併せ持っている気もする。
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それにしても、マンガや小説の中にあれほどいたオートバイ少年は、どこへ行ってしまったのだろう。