2020年度の姉さんおすすめアニメランキング 1

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77.4 1 2020年度の姉さんアニメランキング1位
波よ聞いてくれ(TVアニメ動画)

2020年春アニメ
★★★★☆ 3.7 (405)
1488人が棚に入れました
いやあ~~~~ッ、25過ぎてから男と別れるってキツいですね!」札幌在住、スープカレー屋で働く鼓田ミナレは、酒場で知り合った地元FM局のディレクター・麻藤兼嗣に失恋トークを炸裂させていた。翌日、いつものように仕事をしていると、店内でかけていたラジオから元カレを罵倒するミナレの声が……!麻藤はミナレの愚痴を密録し、生放送で流していたのだ。激昂してラジオ局へ乗り込むミナレ。しかし、麻藤は悪びれもせずに告げる。「お姐さん、止めるからにはアンタが間を持たせるんだぜ?」ミナレは全力の弁解トークをアドリブで披露する羽目に。この放送は反響を呼び、やがて麻藤からラジオパーソナリティにスカウトされる。「お前、冠番組を持ってみる気ないか?」タイトルは『波よ聞いてくれ』。北海道の深夜3時半、そしてミナレは覚醒するッ!

声優・キャラクター
杉山里穂、藤真秀、石見舞菜香、山路和弘、大原さやか、石川界人、矢野正明、能登麻美子、島田敏、浪川大輔、内山昂輝
ネタバレ

ぺー さんの感想・評価

★★★★★ 4.1

言葉のプロレスに溺れよう

原作未読


素朴な疑問で道民はなんというか…ヒグマと常に闘ってるんでしょうか?これと『ゴールデンカムイ』を教科書にすると私みたいな内地もんは勘違いしそうです。


北海道ローカルFMの破天荒DJ顛末記。その子はスープカレー屋店員兼務の素人だよな1クール。
視聴動機は社会人モノだから。絶対数が少ないのでたいていはチェックするようにしてます。未成年モノばかりで世間ズレしてく自分に恐怖を覚えるのでこういうので歪みを矯正してる(つもり…)。

…なんて言ったところで歪みが矯正されるケースはほぼありませんね。本作の場合は主人公鼓田ミナレ(CV杉山里穂)が破天荒すぎるため自分に置き換えづらかったりします。
ただし…芝居は凄い!通常台本の3倍くらいのセリフ量をこなされてたんじゃないかしら。速い・多い・間も完璧。これを拝みに視聴してもいいんじゃないかしら?と推薦です。
基本的に会話劇でアニメーションとしてどうかは微妙。実写向きかと思ったのですが、ミナレのマシンガントークを再現できる若手の女優さんがパッと思い浮かびません。配役も中堅の実力派ならびに吹き替えに軸足おいてる方々で固め、わき役も含め声優の演技が素晴らしいです。久々に声優項目に5.0を進呈しようかと思ってます。

それ以外は意見がばらけそうな仕様ではありました。

 ・ミナレのエキセントリックな性格
 ・第1話アバンの某実況
 ・光雄(CV浪川大輔)
  etc…

メリットはデメリットと表裏一体。クセの強さは魅力でもあり遠心力でもあります。
12話使っての物語の畳み方も唐突と言っても意外な展開と言ってもどちらともとれそう。何が言いたいかっていうと視聴していてもわりとフワッとしていて視点を落ち着かせるポイントを探りにくいのです。マシンガントークに乗せられて最終回までイケて、最後に背筋伸ばすといったところでしょうか。


ちなみに私は後述2点を理由に評価高めです。
未視聴の方は演技目当てで手を出してみる価値はあると思います。キャラへの共感や物語の面白さなどはなんとも言えません。私みたいに貴重な社会人物件ということに価値を見い出しても良いでしょう。1クールで綺麗にまとまった感はあるのでサクッと。そんな一品です。



※評価高い理由(ネタバレ)


■フィクションを楽しむ フィクションに本気を出す


パンとカレーの夢空間「VOYAGER」とはミナレの勤め先。リアリティとフィクションについて店長とミナレの関係がその後を物語っている気がします。
味もさることながら店舗のコンセプトと売上実績からして店長は正しい。バイト風情(ミナレ)は言うこと聞いてコンセプト守れ!って話です。“夢空間”すなわち“フィクション”が大事であり、“楽屋ネタ”すなわち“リアリティ”はダメよという店長のスタンスです。
一方的に店長が正しいかというのも難しいところで、ミナレが客にさらっと内輪話を暴露したらウケたりもするわけです。「実際はこうだよ…」みんな好きでしょ? それにポン・デ・ケイジョ(ブラジルのパン)出すならボサノヴァ(ブラジルの音楽)かけろよ!のミナレの独り言は即却下されましたが整合性の取れてる話です。

{netabare}フィクションを大事にせーよ{/netabare}

とこの作品は言ってます。これある意味リアリティ重視の時代と逆行してるように見えませんか。

例①恋愛番組
パンチDEデート('70年代)⇒ねるとん紅鯨団('80年代)⇒あいのり('90年代)⇒テラスハウス('10年代)
:徐々にくっつくまでのプロセスを見せる仕様に…

例②プロレス
全日本⇒新日本⇒前田⇒総合格闘技⇒???
:リアルファイトへと嗜好が変化…

行き着く先は『トゥルーマン・ショー(米映画'98)』ですかね。仕事なんかでもそうですけど「大事なのはファクトだ」は耳タコです。ともすると架空≒嘘と取られかねない昨今。そんな架空≒フィクションを疎かにすることでの弊害だってもちろんあるんですよ。それはこちら↓

 {netabare}イノベーションが生まれません{/netabare}

も一つ!みんな企業家になるわけでもありません。そんな一般人が陥りがちなこと

 {netabare}他者への配慮に思いが至りません{/netabare}

想像しなくなりますもんね。もちろんそんなの昔からあることで、現実と虚構の区別がつかずドラマの役柄を理由に有森也美や裕木奈江をバッシングなんてのはあったので一概に今がしょぼいとは言いませんよ。しかしながら今の時代に『川口浩探検シリーズ』の企画が通るとは思いません。
さて…長くなりましたがもうお分かりでしょうか。

{netabare}第一話アバンはフィクション(想像力)礼賛物語を宣言する号砲なのです{/netabare}


見誤るとふるいにかけられます。まずはここついてこいよと我々は試されます(たぶん)。
ラジオは音だけ。聴覚や視覚から受ける情報をもって判断/理解するのがコミュニケーションとするなら決定的に情報が不足してます。不足した分を補うのは想像力ということになるのでしょう。
少しだけ脱線。テレワークのWEB会議で事足りると無自覚な経営者や上司のみなさま。非言語コミュニケーション領域は直のコミュニケーションでやりとりする情報量の3分の1くらいです。このへんのケアを怠ると生産性が著しく低下しますのでご注意くださいませ。

 {netabare}・羆(ヒグマ)を前にお悩み相談
 ・光雄殺したったの振り返り{/netabare}

供給する側はひたすらバカ真面目に作り上げてます。そして大事なこと

受け取る側は{netabare}面白がって敢えて乗ってみる。{/netabare}

いわばお互いの信頼関係に寄って立つプロレスみたいなものです。対戦相手同士だったり選手と観客間だったりの暗黙の了解で許される空間。「あれってイカサマなんだぜ」と言う程野暮なことはないでしょう。ラジオDJとリスナーの関係に距離の近さを感じるとしたらこんな理由なのかもしれません。
ある種、思考のトレーニングを兼ねておりまして、相手の知識量に合わせての言葉遊びを試したくなってきます。不遜ながらこのわたくしもレビューでそんなネタやボケを投下してたり(笑) おもろいかどうかは別にして、反応があればお互いニヤッとしてるんだろうなぁと思いながら日々楽しんでます。

 {netabare}客「光雄さん見つかりました?」
 ミ「せんだと相田、どっちのですか?」{/netabare}

 {netabare}麻「シセル光明という芸人を知ってるか?」
 ミ「聞いたこともありません。なんすか?その司馬懿を走らせそうな人は」{/netabare}

{netabare}「せんだみつおと相田みつを」「生ける仲達を走らす」これ知らなければポッカーンです。こうして間髪入れずにボケられるミナレの頭の回転は速い。
さらにそれを受けて「そら相田じゃん?騙し取られたっていいじゃないか。人間だもの」とか「あまりふざけるなよ。なんなら泣きながらお前を斬るぞ」とか被せてくるなら一気に仲良くなれそうです。このへんはノリよ。{/netabare}


なお、なんだかんだ“リアリティ”や“整合性”を作品評価では重視してます。
本作の場合、フィクションを大真面目にやるプロレス的なところがあって、極度のご都合主義や心情推移の胡散臭さで感じる“リアリティの欠如”とは根本的に違いますよということだけは強調しときます。



■だからこその最終回

二つあるうちの一つで時間を要してしまいました。残りひとつは短めに。
主旨は「フィクションを大事にしよーぜ!」だったとします。そこを底流に作品そのものも虚虚実実な世界観を保って最終回に突入してました。

{netabare}だからこそリアルでラジオ媒体がめちゃくちゃ活躍する最終回が映えるのです。謎の感動の正体は振り返ってみるとこれでした。{/netabare}

{netabare}そして大変失礼ながらやや忘れかけてた“北海道胆振東部地震”にスポットライトをあてた功績も大です。たしか日本初の“ブラックアウト”だったなぁとか、セイコーマート大活躍だったなぁとか、これで『はねバド』一週とんでたなぁとか、札幌在住の知人が「でも星が綺麗なんだよ」と言ってたのを思い出しました。{/netabare}




ラジオは斜陽媒体です。しかしながら本来の魅力と重要性に気づかせてくれました。
まさに『aranami』(OP)に抗ってる者達の『pride』(ED)の物語。そんなメッセージを作品から受け取ったような気がします。



視聴時期:2020年4月~6月 

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2020.06.26 初稿
2020.09.03 タイトル修正
2021.03.05 修正

投稿 : 2024/11/09
♥ : 62
ネタバレ

shino さんの感想・評価

★★★★☆ 3.7

大人に響く苦みあるコメディ

サンライズ制作。

FMラジオ放送局のパーソナリティに、
スカウトされたスープカレー屋で働くミナレ。
彼女の放送は反響を呼ぶのか!?
新しい日常で奮闘する姿をコミカルに描く。

声優の技量、声質が評価を左右する。
難しい仕事ですがここは評価をしたい。
ただ序盤の展開にうまく入って行けず、
早々の撤退も考えたのですが、
3話にしてやっとこの世界に入れました。

と、なると面白い。
キャラクターが主体性も持ち動き出す。
酒を飲み、失恋トークを炸裂させ、
新たな取り巻く環境をものともせず、
我が道を模索する彼女の奮闘が描かれていく。

7話視聴追記。
私の周りにもたくさんいた。
{netabare}お酒が入ると特にめんどくさいやつ。
いつのまにかみんな良い母親になって、
いつのまにか疎遠になった。
そんな気持ちに浸りながらラジオを聴く。{/netabare}

最終話視聴追記。
どうでもいい話が身近にさせる。
{netabare}そこにリアリティが生まれるのだろう、
ラジオが廃れないのはそういうことだ。
声でつながり感情を共有する、
現代人にはむしろ情報以上に重要なことだ。
評判の良い原作のその理由を知る。{/netabare}

大人に響く苦みあるコメディですね。

投稿 : 2024/11/09
♥ : 61
ネタバレ

フィリップ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9

札幌から生じる風変わりな波

アニメーション制作:サンライズ、
監督:南川達馬、シリーズ構成:米村正二、
キャラクターデザイン:横田拓己、
音楽:岩﨑元是、原作:沙村広明

『無限の住人』の作者・沙村広明が、
ラジオDJの女性を主人公にした現代劇に挑戦。
初めてそのニュースを知ったときは、
疑問符がいくつも頭に浮かんだ。
この人は、一体何をやろうとしているんだと。
そして、作品を手に取ることは一度もなかった。

札幌のスープカレー店で働く鼓田ミナレが
居酒屋で恋バナをしたことがきっかけになり、
ラジオDJを目指すことになる物語。
アニメ化されなければ、目にすることはなかっただろう。
物語を面白くするハードルが高すぎる設定だし、
そもそも、ラジオDJの仕事を取り上げること自体に
今さら感があって、興味がなかったためだ。
そして、1話を観てその想いを新たにした。
これは面白くないと。
あにこれにいなかったら、間違いなく1話切り。
アニメ独自に話の構成を変更して
1話に途中のエピソードを持ってきたことを
後で知ったが、個人的には原作通りの流れにしたほうが、
まだ付いていけただろう。

印象が変わったのは、4話だったのだが、
これは2度目を観ていると、最初の頃から
面白いことに気づく。ただし、やはり初見で
この作風に身を委ねることができる人は、
あまり多くない気がする。
濃密なストーリーがどこに進もうとしているのかを
視聴者が捉えきれないと、その世界に入っていくことは
できないし、どこに面白さがあるのかを理解できない。
そもそも物語に面白さを感じるポイントは、
人それぞれで千差万別だ。
だから、多くの若者の共通言語ともいえる
RPG系、異世界系、バトル系の作品が増えることになる。
要するに説明しなくても内容を理解できて、
魅力に気づきやすいし、多少の粗があっても
視聴者が付いてくる可能性が高いからだ。

例えば、私は長年映画ファンだったが、
視聴前の心構えとしていつも心がけていたのが、
その国の文化や慣習、宗教などを理解しようとすることだった。
だから自分のなかの常識から離れて、
その国の常識に身を投じなければならない。
その上で、自分が何を感じるのかが、
洋画鑑賞のひとつの醍醐味といえる。
洋画なんてものは、そもそもその国の歴史や
宗教、価値観、政治的な背景などを
考慮しないで観ているとさっぱり理解できないことがある。
特に宗教や世界史的な事件の知識があることは、
当然のこととして話が進められる。
視聴者側からすると、少しハードルが高い。
アニメばかり観ていると、そういう感覚から
遠く離れていることを思い知らされる。
つまり、何が言いたいのかというと、
この作品のような一般的なアニメにありがちな
一定のルールから逸脱したようなものを観るのが
難しくなっている自分の視聴時の感覚に気づいたのだった。

長々と御託を書いてしまったが、
キャラクターに魅力を感じられれば、
物語にスムーズに入り込むきっかけにはなる。
主人公のミナレは『無限の住人』の百琳が
現代に転生してきたような雰囲気。
奔放で大胆な性格には引き付けられる。
それに加えCV杉山里穂の
外連味たっぷりの喋りがいちいち面白い。
もちろん、上司でもある麻籐兼嗣や同居する南波瑞穂もいいが、
ボイジャー同僚の中原忠也の性格が物語を盛り上げる。
4話で何気にミナレを口説くシーンの
自分勝手な妄想は大爆笑もので、
個人的に最初にツボに入ったポイントだった。
それとともにミナレの元彼氏である須賀光雄の登場が
さらに物語を掻き回す。

『無限の住人』のときも特徴と感じていたが、
この作者は、狂気を孕んだキャラ作りが上手い。
{netabare}漫画で初めて両肩に首を乗せた
黒衣鯖人を見たときは度肝を抜かれた。{/netabare}
そして『無限の住人』からのもうひとりの
タイムスリップキャラ・城華マキエも
芯の強い滑稽さとでもいうようなものが滲み出る。
ミナレの父母という少ししか登場しない
キャラにも強烈な個性を纏わせる。

正直なところ架空実況という、
作品のいちばんのキモともいえる部分が
個人的にはあまり響かなかったため、
突き抜けた面白さを感じることはなかった。
しかし、ラジオ局とスープカレー店を中心にした
人間関係は存分に楽しませてくれた。

札幌という土地が持つ空気感もよく出ており、
心地良い不思議な波を感じることができる。
(2020年7月18日初投稿)

投稿 : 2024/11/09
♥ : 53
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