吹奏楽でフルートなおすすめアニメランキング 2

あにこれの全ユーザーがおすすめアニメの吹奏楽でフルートな成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2024年11月08日の時点で一番の吹奏楽でフルートなおすすめアニメは何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

85.9 1 吹奏楽でフルートなアニメランキング1位
リズと青い鳥(アニメ映画)

2018年4月21日
★★★★★ 4.1 (572)
2362人が棚に入れました
北宇治高等学校吹奏楽部でオーボエを担当している鎧塚みぞれと、フルートを担当している傘木希美。

高校三年生、二人の最後のコンクール。
その自由曲に選ばれた「リズと青い鳥」にはオーボエとフルートが掛け合うソロがあった。

「なんだかこの曲、わたしたちみたい」

屈託もなくそう言ってソロを嬉しそうに吹く希美と、希美と過ごす日々に幸せを感じつつも終わりが近づくことを恐れるみぞれ。

親友のはずの二人。
しかしオーボエとフルートのソロは上手くかみ合わず、距離を感じさせるものだった。

声優・キャラクター
種﨑敦美、東山奈央、藤村鼓乃美、山岡ゆり、杉浦しおり、黒沢ともよ、朝井彩加、豊田萌絵、安済知佳、桑島法子、中村悠一、櫻井孝宏
ネタバレ

キャポックちゃん さんの感想・評価

★★★★★ 5.0

優しく繊細に描かれた人生のアイロニー

(末尾に【追記】を加えました)

【総合評価:☆☆☆☆☆】
 高校の吹奏楽部で、それぞれオーボエとフルートを担当するみぞれと希美。ふたりは(一見)とても仲が良い。しかし、コンクールで演奏する自由曲「リズと青い鳥」での掛け合いが、どうもしっくりしない。その原因はどこにあるのか…?
 アニメ『リズと青い鳥』は、青春期の戸惑いや心の揺らぎを、優しく繊細に描き出す。声高な主張はない。わずかな仕草や言い淀んだ沈黙を通じて少しずつ明かされる真実は、切なくやるせなく、人生は見かけ通りではないというアイロニーを感じさせる。

【みぞれと希美】
 みぞれはひどく内向的で他者とのかかわりを避け、めったに感情を表さない。一方の希美は外向的でいつも取り巻きに囲まれ、感情豊かに会話する。表面だけ見ると、人付き合いが苦手で立場の弱いみぞれが、希美に庇護されているようでもある。しかし、制作した京都アニメーションのアニメーターたちは、そんな単純な関係でないことを画面にきちんと描き込んでいる。
 作品冒頭、みぞれと希美が校門から部室へと向かうシーン。石段の上で青い羽根を見つけた希美は、太陽にかざして「わっ何これ。めっちゃ青い。きれい!」と声を上げ、「あげるよ」とみぞれに差し出す。みぞれは、ぼおっとした表情のまま「ありがと」と微かに語尾を上げて受け取り、「なんで疑問形?」と突っ込まれる。二人の関係性が凝縮され、見ているだけで切なくなる名シーンである。
 そのまま先に立ってずんずんと進み、軽くターンしてから一段飛ばしで階段を上る希美は、常にどう見られているかを意識し自分を演出する。一方、希美の行為をなぞりながら数メートル後ろを付いて行くみぞれの姿は、外界との距離感を確認しつつ慎重に立ち位置を見定めているようだ。希美にとってのみぞれは、自分の演技を見つめる観客の一人。みぞれにとっての希美は、外界とのつながり方を示す唯一の指標で、それ故に強い思慕の対象でもある。相手への思いに、「親友未満」と「親友以上」という格差がある。
 もっとも、みぞれが頼りないのは外面だけ。{netabare}そのことを示すのが、中盤でみぞれが独りオーボエを練習する場面から始まる(私好みの)シークエンス。オーボエ担当の後輩が「ダブルリードの会(吹奏楽部に4人しかいないダブルリード楽器担当者の茶話会)」に誘っても、「わたしが行っても楽しくないから」とすげない返事。確かに、みぞれが希美のように「朝ご飯に何を食べるか」といったテーマで会話を弾ませる姿は、想像もつかない。ところが、同じ後輩がリードを自作するみぞれに「あたしにもできますかね~」と擦り寄ると、すぐに「今度教える」と答えて、後輩を感激のあまり泣かせる(後輩が何か言うのだが、涙声で聞き取れない…)。
 みぞれは、社会のさまざまな側面に対して適切に対応する柔軟性を欠き、そのせいでいかにも頼りない。しかし、自分には何ができるかをはっきり自覚しており、役割を果たせるとわかれば能動的に行動する。
 これに対して、希美は多くの後輩に慕われ楽しげに振る舞うものの、明確な上下関係が生み出す雰囲気を好んでいるだけで、その言動はあまり主体性を感じさせない。みぞれとの付き合いも、そうした上下関係の一つと捉えているようだ。みぞれをプールに連れて行こうとしたとき、「ほかの子も誘っていい?」と予想外の返答をされ、心底驚いた表情を隠せなかった(映像では、人が前を横切った瞬間に取り繕う)。他の同期生とは対等な会話を避けており、みぞれとの件で部長に責められたときには、まともに返答できない。{/netabare}精神の内奥においては、みぞれの方が希美よりも遙かに勁(つよ)い。
 {netabare}希美の弱さが表に現れるのは、木管楽器の指導者がみぞれだけに音大のパンフレットを渡したと知ってから。音大進学を表明したものの強い決意があったわけではなく、周囲にふと「あたしさぁ、本当に音大行きたいのかな」と問わず語りに口にする。主役のつもりで演じていたのに、スポットライトが傍らを通り過ぎただけと気が付いた---そんな役者を思わせる情けなさそうな表情で。何度見ても、私はこのシーンで泣いてしまう。泣かせるシーンではないのに。{/netabare}

【人生のアイロニー】
 物語が進むにつれて、みぞれと希美の間のひずみはしだいに大きくなる。一見、とても仲が良さそうなのに、相手に対する思いのベクトルは微妙にすれ違う。社交的な希美が孤立したみぞれを庇護しているようで、精神の強靱さも気遣ってくれる友人の数も、希美よりみぞれの方がずっと上である。こうした外見と内実の乖離が前提となって、クライマックスの演奏シーンが強烈なエモーションを生み出す。
 この作品は、人生のアイロニーを強く感じさせる。アイロニーとは、表面的な意味と隠された内実が相反することを表す用語で、主に物語芸術に関して、登場人物の認識と現実の状況が食い違う場合に使われる。例えば、ギリシャ悲劇『オイディプス王』では、己を正義だと信じるオイディプスが前王殺害の真相を追究するうちに、真犯人が誰で自分は誰と結婚したのかという恐るべき事実を突きつけられる。まさに悲劇的アイロニーの極北である。『リズと青い鳥』も、これに似たアイロニカルな状況を描いた作品である。ただし、ギリシャ悲劇のように深刻なカタストロフはない。現実の人生でごくふつうに起こり得る、ささやかなアイロニーである。そんな事態を前にして、人は寂しそうに笑うしかない。

 ところで、この物語の後、みぞれと希美はどうなるのだろうか?{netabare}アニメのラストはハッピーエンドと呼んで良いものだが、二人の性格と置かれた状況を考えると、幸せな状態がいつまでも続くとは思えない。みぞれが「ハッピー・アイスクリーム!」と声を上げたときも、希美はそれがゲームだと気づかない。親友同士のように振る舞いながら、互いに相手のことをよく理解していない状況は、大して変わっていないのである。想像するに、それぞれ別の大学に進学して疎遠になり、その後の人生ラインが交わることは、もはやないだろう。もっとも、それは必ずしも悲しむべきことではない。人生の一時期に、生涯の宝となる貴重な体験をしたという事実は揺るがないのだから。{/netabare}

【アニメにおける人間描写】
 『リズと青い鳥』は、みぞれと希美の内面を深くえぐった心理劇である。アニメは、小説や演劇に比べて心理描写に向かないメディアだと見なす人もいるが、そんなことはない。むしろ、言語による抽象的な観念に束縛される小説や、生身の俳優が持ち込む身体性を排除できない演劇に比べて、純粋に心理だけを描き出せるメディアである。
 アニメの強みは、個人が創作する小説などと異なり、人間が持つさまざまな側面を、各分野の専門的なクリエーターが磨き上げられる点にある。私は、プルーストやヴァージニア・ウルフの心理描写が好きだが、それでもこんなアニメを見せつけられると、言語表現の限界にいやでも気づかされる。クライマックスの演奏後にみぞれと希美が行う対話を使って説明しよう。
 台詞は、言語に対して鋭い感性を持つ脚本家が彫琢する。{netabare}希美は、妙に冷めた見方でこれまでの経緯を振り返り、「違う」「希美」と言葉を挟むみぞれを無視して話を続けるが、途中でみぞれが強い語調で「聞いて!」と遮り、思いの丈を語り始める。「希美の笑い声が好き、希美の話し方が好き、希美の足音が好き、希美の髪が好き、希美の…希美の全部」。希美がそれに応えるように「みぞれのオーボエが好き」。{/netabare}
 声優は、台本だけではわからないニュアンスを言葉に付け加える。過去を振り返る際の、冷静さを装いながら端々に心のざわめきが現れる希美の口調。一方のみぞれは、口数が少なく自分の内面を説明しないが、かすれそうでかすれない口吻は、意外と粘り強い性格を感じさせる。
 劇伴となる音楽も、心理描写に欠かせない。対話シーンでは、当初、バックで音楽が鳴っていることにほとんど気づけないほどかすかな音の連なりが続くが、少しずつ明瞭になり、ほんのわずかな期間、明るく心躍るメロディを奏でたかと思うと、次の瞬間にはスッと消える。まるで、いつも揺らいでいる少女の心のように。
 何よりも素晴らしいのが、表情や仕草に魂を込めた作画。それまで意図的にこしらえた微笑ばかり見せていた希美なのに、ここでは視線が定まらない。一方のみぞれは、まっすぐに希美を見つめる。{netabare}「大好きのハグ」をするときの、二人の手の位置、体の傾げ方、そして、感極まったようなみぞれとどこか曖昧な表情を浮かべる希美の対比。そのすべてが、二人の心の内を照らし出す。{/netabare}
 『リズと青い鳥』は、静謐なアニメだ。長広舌よりも途切れた言葉、目的を持った行動よりもちょっとした仕草の表現が素晴らしい。例えば、希美にもらった青い羽根を、みぞれが両手で包み込んで口元に寄せるシーンのような。シャープペンの持ち方、髪のいじり方、地面を蹴るときの足の動き---そんな些細な描写にも、アニメーターの思いが籠もる。
 アニメとは、間違いなく、日常の奥深さを描けるメディアである。

【監督・山田尚子】
 当然のことながら、アニメの人間描写が優れたものになるには、スタッフの意思が統一されていなければならない。そのために重要なのは、中心的なリーダーの存在である。アニメの場合、通常は監督がリーダーとなり、スタッフと綿密な打ち合わせをすることで、作品世界を明確に設定し、人物像に一貫性を与える。こうしたリーダーの役割は、制作現場の状況を伝える断片的な報告に示される(例えば、イアン・コンドリー著「細田守、絵コンテ、アニメの魂」では細田守、『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』DVDの特典映像では神山健治、第6回文化庁メディア芸術祭における『クレヨンしんちゃん アッパレ!戦国大合戦』上映前のトークショーでは原恵一が、それぞれスタッフとどんな議論をして作品世界を作り上げたかが紹介された)。
 『リズと青い鳥』がどのような状況で制作されたかはわからないが、監督・山田尚子のインタビュー(『リズと青い鳥』公式サイト liz-bluebird.com に掲載)を読んだ限りでは、テレビアニメの制作を通じてスタッフが原作に馴染んでおり、作品の方向性が自然と一致したようだ。インタビューから引用すると、「「少女たちの溜め息」のようなそっとした、ほんのささやかなものを逃すことなく描きたい」とのこと。
 山田尚子は、監督に抜擢されたテレビアニメ『けいおん!』(2009)で人気作家の座を獲得した。この作品はギャグ中心の4コマ漫画をアニメ化したものだが、アニメでは、話数が進むにつれて、ギャグが薄まる一方で物語の流れが滑らかさを増しており、監督の技量がストーリー重視の方向に成長したことを伺わせる。『けいおん!』の第2期と劇場版、テレビアニメ『たまこまーけっと』とその劇場版も評判を呼んだ。ただし、私の見る限り、話を淀みなくまとめるのはうまいものの、心理描写はそれほど深くない。クリエーターと言うよりは職人に近いという印象だった。
 (私の個人的な)評価が変わるのは、劇場用アニメ『映画 聲の形』(2016)から。聴覚障害者を主人公に人間のつながりを描いたものだが、イメージショットを多用し、流れよりも観客に何かを考えさせることを重んじる。アニメ作家として一皮剥けた感があった。
 続く作品が『リズと青い鳥』で、これまでのところ山田の最高傑作である(一般的な評価とは少し違うが)。『けいおん!』以来、多くの作品で協力関係にあった名脚本家・吉田玲子と、トップクラスの職能集団である京アニ・アニメーター陣の力が大きいとはいえ、山田が着実に成長を続けていることを示す。今後の動向に注目したい。

【『響け! ユーフォニアム』との関係】
 ここで、本作とテレビアニメ『響け! ユーフォニアム』の関係についてコメントしておこう。一言で言えば、まったく別の作品である。
 京アニは、武田綾乃のライトノベル『響け! ユーフォニアム』シリーズを継続的にアニメ化しており、2015年と16年にテレビアニメ第1、2期が放送(いずれも放送翌年に総集編が劇場版として公開)された。これらは高校吹奏楽部の人間模様を描く群像劇で、まじめに作られたウェルメイドな作品である(ただし、私好みではなく退屈した)。さらに、2017年のトークイベントで、石原立也監督による「2年生になった久美子(シリーズの実質的主役)たちの物語」(2019年公開)と、山田尚子監督によるの「みぞれと希美の物語」(2018年公開の本作)という完全新作映画2本の制作が発表された。この2本は、いずれも、トークイベントのすぐ後に刊行されたシリーズ第4長編『北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』を原作とする。
 京アニは、決して大きな会社ではない。同じ原作の(したがってファンがかぶる)劇場用アニメを並行して2本制作するというのは、かなり無謀な企画である。なぜそんな決定をしたのか、私のような部外者は憶測に頼るしかない。おそらく、2016年に、興行収入250億円という超特大ヒットアニメ『君の名は。』が出たほか、興収50億以上のアニメが3本、京アニ制作の娯楽性の乏しいアニメ『映画 聲の形』も興収23億(興収額は日本映画製作者連盟発表のデータによる)に上ったことから、経営陣が劇場用アニメ制作に前のめりになったのだろう。
 原作小説『波乱の第二楽章』は前後編2分冊で、1本の映画にするには少し長すぎるため、2本に分割したと考えられる。ただし、前後編に分けるのではない。1本は、テレビアニメで登場人物の成長を描いてきた石原立也が担当し、久美子らが2年に進級してからコンクールに出場するまでを経時的に描いた。不思議なのは、もう1本が、かなり地味なみぞれと希美のエピソードを取り上げた作品になったことである。
 山田尚子は、『聲の形』に先立つ『映画けいおん!』でも、それまでの京アニ記録だった『涼宮ハルヒの消失』の2倍以上となる興収19億円を達成しており、京アニ最大のヒットメーカーである。経営陣が彼女に大いなる期待を寄せ、その希望を最大限に受け入れたことは想像に難くない。こうして、山田が原作にとらわれず、自分の思うままに作ったのが『リズと青い鳥』なのである。
 近所の図書館にあった原作の一部を読んでみたところ、控えめに言って、本アニメとはかなり趣が異なる(…って言うか、「全然ちゃうやん」というレベル)。原作の北宇治高校は男女共学なのに、アニメでは男子生徒の姿が見えず、完全に“女の園”になっている。目を凝らすと、全体練習の際にちらほら男子が映っているのだが、後方でぼかされた姿に。廊下や下駄箱周りにもモブのように現れるものの、巧みに別の箇所へと視線誘導される。おそらく、本アニメだけを見た人の大部分が、女子校の話と思ったはずだ。敢えて「男子はいない」と錯覚させるような演出がなされている。
 原作には、部員たちの(擬似)恋愛の描写が過剰気味に現れるが、これもほとんどが省略された。それほど、みぞれと希美の関係に集中したかったのだろう。まるで、アンリ・ヴェルヌイユやエリック・ロメールら名匠の手になるフランス映画のように、二人の心理をじっくり描き出す。
 石原立也が監督した『響け! ユーフォニアム』は、原作にかなり忠実なようだが、『リズと青い鳥』は、登場人物が共通するだけで、作品全体の方向性が全く異なる別作品だと思った方が良い。それぞれのキャラも、かなり大きく変更された。部長の優子は、頭の大きなリボンがいかにも不釣り合いな、真面目で他人思いのリーダーとして描かれる。
 ただし、山田には原作から離れているという意識がなかったらしい。公式サイトに掲載された山田のインタビューでは、「原作の持つ、透明な、作り物ではない空気感を映像にしてみたいと思いました」「原作から受けたこの二人の物語の印象をそのままフィルムに落とし込んでみたいというのがまずありました」とある。原作に没入するうちに、行間を深読みしイメージが勝手に膨らんでいったのだろう。脚本の吉田玲子とも見解の相違はなかったようで、「あまり窮屈に打ち合わせるような感じではなかった」と語っている。
 本人に「原作とは違うものを」という気負いがなく、思うがままに作ったため、壊れやすい少女の内面を丹念に描いた、アニメ史上に残る傑作が誕生したと言える。もっとも、山田の感性は『ユーフォ』ファンと少しずれがあったようで、興行的には惨敗に終わった。

【おまけ---オーボエという楽器】
 本アニメでフィーチャーされるオーボエは、2枚のリードを向かい合わせに固定し、その間に息を吹き込むことで音を出す楽器。高音成分が多く震えるような切ない音色が特徴で、それに心惹かれる人も多い。ただし、本格的な演奏をしたければ毎回リードを自作せねばならず、やたらに手間がかかるのに、フルートのような華麗さに欠ける。希美がフルート、みぞれがオーボエを担当するのは、それぞれのキャラに見事にマッチする。
 オーボエの名曲と言えば、モーツァルトやリヒャルト・シュトラウスの作品が有名だが、私は、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハのオーボエ・ソナタ ト短調が好きだ。派手さはないが心に沁みる曲で、みぞれのテーマとして使えそう。

【も一つおまけ】
 作中でアニメ内アニメとして描かれるのが、コンクール曲のベースにもなった童話「リズと青い鳥」。大写しになった本の表紙に「ヴェロスラフ・ヒチル著」と明記されていたので、実在する童話かとおもって検索したが見つからない。ネットの情報によると、映画監督のヴェラ・ヒティロヴァをもじって、武本康弘(京アニ所属の監督で放火事件で亡くなった)が考案した名前らしい。ヒティロヴァには『ひなぎく』というぶっとんだ快作があり、私は30年ほど前、これ見たさに唯一の上映館がある吉祥寺まで遠征した。武本監督とは、そんな趣味も一致していたのか---ちょっと涙。

【追記】
 上のレビューを執筆した時点では、原作となる『北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 前編/後編』のうち、近所の図書館にあった前編しか読んでいなかったが、その後、別の図書館から後編を借りて読むことができた(文庫本くらい買えって言わないで!金欠なんだから)。
 アニメが小説と趣を異にすることは前編と同じだったが、それが心理描写の深化にとどまらず、原作における客観的記述ともかなり食い違っていることに、少々驚いた。出来事の時系列や希美を諫める人物を変更したほか、みぞれと久美子の会話や、みぞれがオーボエソロで名演を示した後の指導者の対応など、ストーリーの上でかなり重要な部分をバッサリ切り捨てている。その一方で、原作では触れられない童話「リズと青い鳥」の細かな内容を、本編とは異なる技法を用いた映像によってたっぷりと見せる。ここまでくると、山田尚子がかなり確信犯的に原作を変更したのではないかと思えてくる。おそらく、原作(前後編)のプロローグ部分に記された希美とみぞれの関係に心打たれ、その部分をどこまでも拡大してアニメ化したのだろう。
 そう考えると、本作が『響け! ユーフォニアム』シリーズの一編として制作発表されながら、公開時にそのことを示す副題がなかった理由も見えてくる。京アニの経営陣は、完成間近になって、原作や(原作に忠実な)テレビアニメとかなり異なると知って驚いたのではないか。「響け! ユーフォニアム」と冠すると、これまでの路線を大きく逸脱したことに対して、ファンの批判が高まりかねない。そこで、独立した作品としても楽しめるという言い訳をしながら、スピンオフ作品として扱わない方針を固めたと推測される。結果的には、それが大爆死と言える興業成績につながったようだが。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 8
ネタバレ

フィリップ さんの感想・評価

★★★★★ 5.0

山田尚子監督が目指していたものをやり切った、実写的表現の到達点

アニメーション制作:京都アニメーション、
監督:山田尚子、脚本:吉田玲子、
作画監督・キャラクターデザイン:西屋太志、
音楽:牛尾憲輔、美術監督:篠原睦雄、
色彩設計:石田奈央美、原作:武田綾乃。

揺れるポニーテール、廊下を歩く足、瞬く瞳。
静かな劇伴が流れるなかのふたりの情景。
絵柄は滲んだブルーを基調とし、透明感のある色彩。
響く足音、キャップを開ける音、楽器を組み立てる音。
様々な生活音を拾い上げていく。
細部まで徹底的なこだわりを感じさせる。
思わず息を詰めて観てしまうような静謐感が作品全体に流れている。

私は冒頭のシーンを観たときに、この感覚はどこかで味わったような気がすると、
鑑賞中にずっと考えていたのだが、
それは岩井俊二監督の『花とアリス』だった。
岩井俊二監督のなかでいちばん好きな作品だが、
それを初めて観たときのような鮮烈な印象を受けた。
眩いばかりの透明感を重視した絵作りだ。

『リズと青い鳥』は『響け!ユーフォニアム』シリーズの続編に位置づけられる。
田中あすかや小笠原晴香たち3年生が引退した後の
春から夏にかけての一部分を切り取った物語。
しかし、シリーズ名がタイトルに入っておらず、
単体で観られることも意識して制作されている。
私は原作を全巻既読で、TVアニメも映画も過去作品は
全て鑑賞済みなので断言はできないが、
初見の人でも十分に楽しめるのではないかと感じた。
人間関係は観ていれば、ほとんど理解できると思うし、
基本的には鎧塚みぞれと傘木希美の関係性についてのストーリーのため、
それほど分かりにくくはないと思う。
ただ、もしかするとみぞれと希美の依存といえる関係性が理解できず、
物語に入り込めない人がいるかもしれないが、
そんな友人同士の繋がりもあると考えてもらうしかない。
これは、いびつな形ですれ違い続ける愛と嫉妬の物語だ。

アニメ的な手法よりも実写的なカメラワークを
意識しているシーンが多く見られる。
足の動きや手の動き、会話の「間」などで、心情を表現している。
また、感情を表すような目元のアップシーンが多い。
アニメではなく、実写ではよく使われる手法だが、
この作品では重視されている。
そして、被写界深度を意識した絵作り、
つまりカメラの焦点とボケを意識している点はシリーズと同様だ。
物語にはそれほど大きな起伏がないため、
好き嫌いが分かれるタイプの作風だが、
映画としての完成度はかなり高い。

{netabare} 特に素晴らしいと感じたのは冒頭のシーン。
何かの始まりを予感させる童話の世界から現代の世界へ。
まだ人があまりいない早い時間の学校に鎧塚みぞれが到着して、
階段に座り、誰かを待っている。自分の足を見る。不安げな瞳。
誰かがやってくる。
視線を向けるが、期待した人ではない。
そして、待ち人がやってくる。いかにも楽しそうで快活な表情、
軽快なテンポの歩様、揺れるポニーテール。
それに合わせて流れる明るいメロディ。
フルートのパートリーダーである傘木希美だ。
鎧塚みぞれは、それとは逆に表情が乏しく、口数も少ない。
彼女なりに喜びを表現して希美と一緒に音楽室へと向かう。
途中で綺麗な青い羽根を拾った希美は、それをみぞれへと渡す。
戸惑いながらも希美からもらったものを嬉しく感じるみぞれ。
この青い羽が、閉じられた世界の始まりを予感させる。

校舎に入り、靴箱から上履きを取り出すときのふたりの対比。
廊下に彼女たちの足音が響くが、その音のテンポは全く合わない。
完全な不協和音。ふたりの関係性が垣間見える。
みぞれは少し距離を置いて、希美の後に付いていく。
階段の途中の死角から希美が顔を覗かせてみぞれを見る。
希美は少し驚いたように、目を何度か少しだけ動かす。
教室に着いて鍵を開け、椅子と譜面台の並んだ誰もいない室内に
2人だけが入っていく。
吹奏楽コンクールの自由曲は、「リズと青い鳥」。
この曲を希美は好きだという。
そして、ふたりで曲を合わせてみるところで、
タイトルが映し出される。

この一連のシーンだけで気持ちを持っていかれるだけのインパクトがある。
とても丁寧で実写的で挑戦的な作風だと感じ、
私は思わず映画館でニヤついてしまった。

物語はみぞれと希美のすれ違いを中心にしながら、
それに劇中曲である「リズと青い鳥」の物語がリンクしていく。
童話のほうの声優にちょっと違和感がある。
ジブリ作品を見ているような感覚だ。
みぞれがリズ、希美が青い鳥の関係性として観客は見ているが、
最後にふたりの立場が逆になる。
みぞれの才能が周りをなぎ倒すようにして解放され、
美しいメロディを奏でる。
同じように音楽に真摯に取り組んでいたみぞれと希美の差が
明らかになる瞬間だ。

二羽の鳥がつかず離れずに飛んでいくシーンが映る。
左右対称となるデカルコマニーの表現。
そして、ふたりの色は青と赤。
心があまり動かずしんとした雰囲気のみぞれが青、
情熱的で人の中心になれる希美が赤だろうか。
このふたつの色が分離せずに混ざり合っていく。

みぞれが水槽に入ったふぐを見つめるシーンが度々出てくる。
おそらくみぞれは、水槽のなかのふぐを羨ましいと思っている。
仲間だけでいられる閉じられた世界。
そこが幸せで、ほかは必要ないと考えている。

この作品は意図してラストシーン以外での
学校外のシーンを排除している。
鳥籠=学校という閉じられた空間を強調しているのだ。
閉じられた学校という世界のなかにあって、
さらに閉じられた水槽内にいるふぐ。
それをみぞれが気に入っているというのは、
みぞれの心情を示している表現だろう。

たくさんある印象的な場面でいちばん好きなのは、
向かいの校舎にいる希美がみぞれに気づいて手を振り、
みぞれも小さく手を振って応えるシーン。
そのとき、希美のフルートが太陽に反射して、
みぞれのセーラー服に光を映す。
それを見てふたりがお互いに笑う。
言葉はないが、優しく穏やかな音楽が流れるなかで、
(サントラに入っている「reflexion, allegretto, you」
という曲で、1分20秒と短いがとても美しい)
何気ない日常の幸せをいとおしく感じさせる。

ラストシーン。歩く足のアップ。
一方は左へ、一方は右へと進んでいく。
希美は一般の大学受験の準備ために図書室で勉強を、
みぞれはいつものように音楽室へと向かう。
帰りに待ち合わせたふたりが歩く。
足音が響く。
ふたりの足音のリズムは、時おり合っているように聞こえる。
お互いに別の道を歩くことを決め、そこでようやく何かが重なり始めたのだ。
ふたりの関係がこれからどうなるかは分からない。
しかし、最後に「dis」の文字を消したところに、
いつまでも関係がつながっていて欲しいという作り手の願いがこめられている。{/netabare}
(2018年4月初投稿・2020年5月5日修正)

大好きのハグから続くラストシーンについて
(2018年5月11日追記・2019年3月15日修正)

{netabare}みぞれは希美の笑い方やリーダーシップなど、
希美自身のことを好きだと告白するが、
それに対して希美は「みぞれのオーボエが好き」だと言い放つ。
このやり取りは一見、ふたりの想いのすれ違いだけを
表現しているように感じるが、実はそれだけではない。

友人として以上に希美のことが大好きなみぞれにとって、
とても厳しく感じる言葉だが、これは希美自身にとってもキツイ言葉。
みぞれの才能を見せつけられて、ショックを受けているときだから尚更だ。
それなのに、敢えて言ったのはなぜか。
この言葉には、自分は音大には行けないが、
みぞれには、音大に行ってオーボエを続けて欲しいという
願いがこめられているのだ。
「みぞれのオーボエが好き」という希美の言葉がみぞれに対して
どれだけ大きな影響を及ぼすのかを希美自身は自覚している。
単に希美が自分の想いを吐露しただけではない。
「みぞれのオーボエが好き」は童話における、
一方的とも思えるリズから青い鳥への
「広い空へと飛び立って欲しい」と言った想いと同じ意味を持っている。

それは、帰り道に希美が「コンクールでみぞれのオーボエを支える」と
言ったことからも分かるし、それに対して、
みぞれが「私もオーボエを続ける」と宣言をしていることからも明らかだ。
しかし、このやりとりはどう考えても違和感がある。
つまり、希美はコンクールの話をしているのに、
みぞれは、コンクール後のことについて語っているからだ。
会話がすれ違っているように聞こえる。
ところが、そうではない。
つまり、ここでは希美が音大に行かず、
フルートを続けなかったとしても、
みぞれは音大に行く決意をしていることを示している。
これは希美の「みぞれのオーボエが好き」に対して
みぞれの出した答えなのだ。

実は原作では、音大を受験するかどうかの話を
みぞれが希美に問い詰めるシーンがあるのだが、
映画では、完全にカットしている。
その代わりに、左右に分かれていく足の方向と
図書館での本の借り出し、楽譜への書き込み、
最後の会話によって表現している。
「みぞれのオーボエが好き」という言葉が
みぞれの背中を押したという、別の意味を持たせているのだ。
そのあとの「ハッピーアイスクリーム」で
ふたりの感覚が足音のリズムとともに、ようやく一致したことを描いている。
また、みぞれが校門を出るときに希美の前を歩いたり、横に並んだりする。
切なさはあるが、やはりこれはハッピーエンドといえるのではないだろうか。

音楽については、フルートが反射する「reflexion, allegretto, you」と
ラストシーンで流れる静かだが心地良いリズム感の「wind,glass,girl」、
そして、字幕の時の「girls.dance,staircase」、
「リズと青い鳥」、Homecomingの「Songbirds」が印象的だ。{/netabare}

コメンタリーを視聴して(2019年2月14日追記)

{netabare}昨年発売された脚本付きBDを購入して、
本編とインタビューは手に入れてすぐに観たのだが、
脚本やコメンタリーは後回しになってしまっていた。
脚本を読んでみると、「リアルな速度の目パチ」など、
とても細かい指示がなされていて驚いた。
目を閉じ切らないまばたきも指示されている。
また、作画については「ガラスの底を覗いたような世界観」という
指南書が配られていたという。
映像では山田尚子監督の意図を確実に実現している。

そしてこの作品には3つの世界観が表現されている。
学校、絵本、そしてみぞれ(希美)の心象風景だ。
絵本は古き良きアニメを再現させるよう
線がとぎれる処理を行っている。
心象風景は、よりイメージ感の強い絵作りを意識したという。
希美が走る水彩画のようなタッチ。
左右対称の滲んだ色の青い鳥など。
これら3つの世界観が上手く活かされていて、
物語に彩りを与えている。

それに加えて、BDで解説を聞かないと気付けないのが、
生物学室のみぞれと希美のシーン。
最初から何段階かに分けて色合いを変化させている。
夕方の時間の経過とともに初めは緑っぽかった室内から
オレンジ系に少しずつ色を変えるのと、
カットごとに順光、逆光でも変化させている。
確かに言われてみて確認すると、
生物学室での色合いはとても繊細だ。

髪を触る仕種については山田尚子監督自らの発案。
曰く、みぞれがそうやりたいと言っていたから。
キャラが監督に下りてきていたそうだ。
また、「ダブル・ルー・リード」も監督のアイデア。
これは映画館で観ていたときから、
洋楽好きな監督が考えたことだろうと予想していたので、
インタビューを観たときは、あまりにもそのままで可笑しかった。
印象に残ったのが、スタッフのいわば暴露話で、
内面を描くよりも映像(ビジュアル)で見せたいと
昔に語っていたことがあったそうだ。
監督は昔の話だと恥ずかしがっていたが、
まさにこの作品はその方向性を貫いたといえるだろう。{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 122
ネタバレ

藍緒りん さんの感想・評価

★★★★★ 4.7

ふたりということにまつわる衝撃的な傑作。

今までで観た映画のなかで一番か二番か、くらい凄かったです。
少なくとも五本の指には入ります。凄まじかったです。
ほんとうに、見終えてからどんどんもどかしさが膨らんでいくというか、
映画の意味が分かっていくというか、本当に切ないんですよ。

あまり劇場には見に行かないのですが、
山田監督の「たまこラブストーリー」が良かったことと、
本編ユーフォニアムが良かったことから、見に行くことにしました。
予想していたとおりですが、ユーフォニアム感はまったくなかったです。

精神的な意味での甘酸っぱい「青春もの」を求めている方にはぜひお勧めしたいものでした。
というよりも、ほろ苦い、のほうが近かったかな。
ジブリで喩えるならば、
同監督の「映画けいおん」や「たまこラブストーリー」を、宮崎駿っぽい作品だと喩えるならば、
本作は高畑勲っぽい作品だなと思いました。
人間の心の機微やずれなどのテーマを丁寧に描いている作品で、
エンターテインメント映画の性質は弱いと感じました。

以下猛烈にネタバレですので本編をご覧になった方だけ。

{netabare}

 劇場を出てから電車の中で、なんて悲しい終わり方だ、って思いました。
 希美にとって、みぞれは謎だったんですね、何を考えているのか分からない。
 劇中で、希美はふっとみぞれに距離を置いてしまうのに、
 自分が距離を置かれているという感じ方になってしまう。
 相手のことが分からないとき、自分のこともわからなくなってしまう、
 そういう混乱みたいなものがすごく生々しかったです。

 みぞれにとって希美は唯一無二の親友だったわけです。
 でも、希美からしてみればそこまで思われる根拠がない。
 なんとなく気になって、吹奏楽部に誘ってみて、友だちになった。
 するとみるみる上手くなって、置き去りにされちゃった、という感じ。
 分からない存在ではあっても、大親友という感情ではないんですよね。
 後輩に仲良いですよね、って聞かれたときも、
 「たぶん、そうだと思う」としかいえない。
 このときも自分がみぞれのことをちゃんと友達として思っているかさえも、
 曖昧になってしまっている、謎へ向かう時の混乱を感じます。

 関係的にはふたりとも相手のことがわからないんです。
 みぞれからしてみれば、なんで希美ほどの人が自分と仲良くなってくれるのかわからない。
 希美からしてみれば、なんでみぞれは自分のことをそんなに大切に思っているのか、
 それでいて、どうしてあまり感情を出してくれないのか、謎になってしまっている。
 みぞれからしてみれば、向こう側から来てくれた希美に、自分を出すのはすごく怖いんですよ。
 それでも希美はみぞれの謎のなかに、嫉妬が絡まってすごくややこしい感情を抱いている。
 嫌いなところなんてないのに、でもなんとなく遠ざけたい気持ちになる、
 それが「みぞれは私のことを遠ざけてるんじゃないか」っていう違和感になる。
 ほんとうは、自分が遠ざけてるんですけどね。その理由がわからないから相手が遠ざけてるから、っていう理由に逸れてしまう。

 それでも、関係のなかでの自分の立ち位置はちゃんと分かってるんです。
 みぞれは「私は希美にとって友達のうちの一人でしかない」
 希美は「私はみぞれが思っているような人間じゃない」
 それは的確なんですね。それぞれ相手に別の意味で過剰な感情をいだきすぎている。
 それが結局ずれたまま終わるということが、すごく切ないな、と思ったんです。

 でも映画を観てから一晩寝て、やっぱりこの映画はハッピーエンドなんじゃないか、って思い直したんですよ。
 結局この二人はまだ関係の途上にすぎなくて、作中ではけして平行線を辿っていたわけじゃなくて、
 ずれたままとはいえやっぱり距離は縮まっている。
 希美はみぞれに「大好き」っていう明らかな感情をぶつけてもらった。
 みぞれは希美に自分の感情を曲がりなりにも受け入れてもらえたわけです。

 どうして二人があんなにずれてしまっていたのか、自分に精一杯だったんですよね。
 ふたりとも進路提出表を白紙のままで出していましたが、
 関係に詰まっているのより先に、人生に行き詰まっているような状況の中にいた。
 優子や夏紀はそういう点で根本的に安定感があるんですよ。
 だから関係も「ずれ」の中でも、割合すんなり過ごしていくことが出来て、
 優子は人の感情にすごく敏感で、ちゃんと気にかけることができるし、
 夏紀なんか適当なこといって希美を慰めてみたり、
 そういう二人のようにはすんなりいけない素質が、関係以前に希美とみぞれにはあって、
 それがずれていることをひどく残酷なものにしていたような。
 その意味合いで、アニメ版ではなんで優子が部長?って思っていたんですが、
 映画版ではもう完全に部長の器でしたね。

 自分に精一杯だと、関係の中での問題も、全部自分の問題になってしまう。
 希美はみぞれが何を考えているのか、ってことを考える余裕がなくて、
 みぞれは希美が何を考えているのか、って考える余裕がない。

 それでもみぞれは新山先生との「リズと青い鳥」についての対話の中で、
 逆の立場だったらどう思うって聞かれてふっと視線が変わるわけです。
 物語と現実の関係もずれていて、そのまま適用できるようなものではない。
 どちらもリズでも青い鳥でもなくて、ただ相手のことを見る余裕の違いがあると思うんです。
 リズはずっと自己完結ですよね。相手のことを見る余裕はない。
 相手のことを思ってはいるけど、でも自分で勝手に決めて勝手にさよならしちゃう。
 青い鳥にはすごく余裕があるんです。別れるのは嫌なのに、リズがそう決めたなら、って
 ちゃんと受け入れて飛び立って行くんですね。
 みぞれはリズの立場だったら絶対離さないぞってところで演奏に身を入れられなかったけれど、
 青い鳥の立場から、希美が言うんだったら別れだって肯定できるよ、っていうすごい大きな愛を羽ばたかせてあのオーボエの演奏を披露するわけです。
 それでも希美の立場からはいままでは手を抜いたんだ、っていうだけのことになる。
 それでガツンとやられてひとりはぐれてしまうわけです。もう希美とは無理だというような追い詰められかたをする。
 物語の構図を使うならば希美は別れを告げられたのに受け入れられなかった青い鳥なんですよ。
 みぞれは自分こそ青い鳥だという自覚で吹いていたけれど、
 希美の立場からみれば別れを突きつけられてしまったんです。
 そこで何も解けないまま理科室へはぐれてしまう。

 理科室で再会しても希美からしてみれば、みぞれから試練を突きつけられているだけなんですよ。
 わたしは本気を出せばこれだけ吹けるんだよ、と。そこでついて行けないことの罪悪感と恨みとが心の中を巡るわけです。
 それでもみぞれからしてみればあれは「愛の告白」なんですよね。そこが決定的にずれている。
 ずれているけれど、希美が自分で精一杯だってことを受け入れるだけの余裕がみぞれには生まれていたんです。
 大好きのハグ、なんて希美からすれば唐突で、すごくびっくりしていましたよね。
 あれはいままで受動的だったみぞれが希美に対して始めて能動的になるシーンであるとも言えます。
 希美はみぞれが積極的になったことの中にあのオーボエソロの凄まじさも含めて考えることができて、少しみぞれのことが分かったはずだと思うんです。
 それでも根本的には愛の告白は唐突に感じられたでしょうね。
 今まで自分をどう思っているのか分からなかったみぞれから、感情を明らかにしてもらって、それは紛れもなく嬉しかったと思います。
 それでも希美の頭の中にはやっぱり「みぞれのオーボエ」が残り続けていた。
 「みぞれのオーボエが好き」って漏らしたのは、作中では「希美のフルートが好き」って言ってもらうための呼び水として漏らしたわけですが、
 どちらにしろあのシーンでの希美の返答はそれしか考えられない。みぞれのオーボエの演奏が凄いという事実を受け入れることだけが、希美にとっては愛の告白でありえたんですから。
 その意味でみぞれは希美の愛の告白に応えなかったわけですよね。そこで散々ずれていたお互いの関係が一致したところで決まった、つまり両方があのシーンで「失恋した」ってことだと思うんです。

 ラストシーンではみぞれが「ハッピーアイスクリーム」なんて言って、今まででは考えられなかった積極性を見せるわけですよね。
 それでも希美は「アイスクリーム食べたいの?」なんて誤解をしている。
 普通「ハッピーアイスクリーム」なんて言われたら「え?なにそれ?」ってなりますよね。
 まだ理科室での唐突な告白も希美にとって謎の中にあるし、希美にとってみぞれは未だ「不思議」な存在のままなんです。
 それでもみぞれは笑ってみせる。はじめて観たときは、その笑いが二人の誤解を象徴しているものだとおもって残酷だとおもったんですが、
 それはみぞれが希美の誤解を受け入れている、分かっていることの笑いだと思うようになりました。
 それならやっぱり二人はこれから仲良くなれるんじゃないかという希望の描写だと思うんですよね。
 というのが大まかなこのストーリーの自分の解釈で、大まかには捉えられてるつもりです。
 それでもインタビューで述べられているような「互いに素」であるような決定的なずれというよりも、
 自分に必死であることが生んだずれで、もしそういう必死さがなくなったところであれば、
 ふたりはもう少し一致できるような気がします。
 
 リズと青い鳥のことを希美は結末はハッピーエンドだと思うと言って、
 そのことをみぞれはすごく気にするんですが、
 希美は子供の頃読んだ童話のひとつとして、そこまで切実に考えていないんですよね。
 他にもたとえば希美は「一緒に音大行こう」なんて言ってないのに、
 優子に「音大行こうって言っといて辞めるって何!?」と責められる。
 そして希美もそれを否定しない、そういう過去が曖昧なものになっていく感じとか、
 そういうずれの描き方が、格段にすごいと思いました。
 上にも書きましたが、自分で相手を避けておいて、
 相手が自分を避けてるんじゃないかって思う感覚とか、
 人のせいにするってわけじゃないけど、自分の感情も曖昧になってくるんですよね。
 そういうことの描き方の濃度が異常なほど高いと思いました。

 さりげない描写でかつ印象深いシーンが多いのがアニメシリーズもそうでしたが、特徴だと思います。
 フルートが照り返す光に気がついて笑ったりするシーン、
 ああいうシーン描かれるとそれがあまりにさりげなすぎて泣けますよ。
 あのシーンだけでももう大傑作ですよ。
 あらすじじゃもはや語れないんですよね。細部が充ちているという感じがすごいです。

 もうひとつだけ、黄前久美子ちゃんと高坂麗奈ちゃん、ほとんど出てこなかったですが、
 二人でセッションしているあのシーンはほんとやばかったですね。最高だったです。
 ほんとうにあの二人はかわいい。自分たちの世界を作り上げている。
 普通に考えて先輩がうまくいかないパートを堂々と部室の裏で吹くなんてあてつけ、
 あまりに性格悪いですよ。
 みぞれと希美もやっぱりちょっとむっとしてますし。
 でも許されるようなところがある。
 あの二人はつんけんしているところもあるけど、基本的に人間が好きなんですよ。
 その愛情が感じられるからこそ、多少きついことを言っても受け入れられる、
 つまり周囲から信頼されている、その感じがたまらなく可愛いし、羨ましいですよ。
 キャラクターとして最高です。ほんと。

 終わります。

{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 23

67.6 2 吹奏楽でフルートなアニメランキング2位
ハルチカ ~ハルタとチカは青春する~(TVアニメ動画)

2016年冬アニメ
★★★★☆ 3.4 (710)
3238人が棚に入れました
青春にはいつも、解き明かせないたくさんの謎が溢れてる!

「原作シリーズ累計55万部突破」初野晴の大人気・吹奏楽青春ミステリ<ハルチカ>シリーズ、待望のTVアニメ化!
原作はシリーズ累計55万部を突破した大人気・吹奏楽青春ミステリ<ハルチカ>シリーズ。廃部寸前の弱小吹奏楽部で、吹奏楽の甲子園と呼ばれる"普門館"を目指す、幼なじみ同士のチカとハルタ。
部員集めに翻弄する日々と、仲間たちと交わす友情、そして次々に現れる謎(ミステリ)。チカとハルタの奏でる音楽がいま、遠く高らかに鳴り響く!

声優・キャラクター
ブリドカットセーラ恵美、斉藤壮馬、花江夏樹、山下誠一郎、千菅春香、島﨑信長、瀬戸麻沙美、岡本信彦、山田悠希
ネタバレ

剣道部 さんの感想・評価

★★★☆☆ 3.0

ユーフォ以下の吹奏楽部を舞台に氷菓以下の謎解きをする。しかし、だからといって、つまらないアニメではないと思ふ。(レビュー最後に算数アリw)

【櫻子さんの足元には死体が埋まっている】【GOSICK】などが好きな方は合うかもしれません♪

どんなアニメかと問われれば、レビュータイトル通りです(笑)

《以下ネタバレ》
{netabare}
第1話
「響けユーフォニアム」系かと思ったら、「氷菓」系? てか、黒板の音符、「さよならドビュッシー(中山七里さんのミステリー小説)」まんまやん^_^; いきなり、普門館を目指す、って言っても、吹奏楽の知識が0の方にも通じるのかな? 個人的には、小見川さんの出る作品にほとんど外れなしなので、楽しみです♪

全話、視聴終了。

個人的に、P.A.WORKSさんは、京アニさんと双璧を成す、否、むしろ一番好きな制作会社さんですが、これは京アニさんに軍配ですね。(無彩限と比べると、辛勝かもw)

まず最初に思ったのは、「これ、吹奏楽部でやる必要あるか?」です。まあ、終盤に思い出したように吹奏楽をやってましたが(でも、県大会の描写くらい欲しかった)。

私の母校は吹部が強く(全国レベルで)、その吹部の友達から聞いた話ですが、

吹部あるある~♪
{netabare}
・練習の半分は(言い過ぎだけど)ミーティング(笑)
・楽器に名前をつける人がいる(主に外人名)。
・下手な運動部よりも体育会系な挨拶、礼儀。
・午前午後ぶっとうされる練習。
・編成によっては、希望しない楽器をやらなくてはいけない、葛藤。そしてそれを「違う楽器をやることで幅が広がる」と諭されること。
・オーディションのガチ感と、その後の人間関係の難しさ。
・はたから見るとユリすら感じる、同パートの先輩への敬愛(か、憎悪か恐怖)。
・顧問の影響力が異常にでかい。
・男子に発言権がない(カッコいい男子はすくないし、居たら居たで抜けがけできない)。
・楽器運搬がきつく、意外に腕力がある(この時だけ、男子がチヤホヤされる)。
{/netabare}
などです。「響けユーフォ」では、この辺を結構うまく押さえてた印象ですが、「ハルチカ」では、ほとんどなかったですね。

ミステリーと割りきっても、吹奏楽である必要はほぼなかったし。どうせなら(パクりですが)第1話の音符みたいに、音楽関連のミステリーが観たかったです。それに、謎解きも、あまりにもヒントが少なく、視聴者が考える間もなくハルタが謎をバンバン解いていくので、ミステリーの醍醐味である「謎解き→答え合わせの快感(や、一本とられた感)」がなかったです。草壁先生の謎解きスキルにいたっては、もう教師なんか辞めてFBIにでも就職したら? と思いました(笑)

んじゃ、キャラや、ラブコメか? と思っても、(悪くはないけど)秀でたものはなし。唯一、チカはウザイイ味w出してましたけど。もちろん、背景や楽器など、絵はきれいですね。
{/netabare}
さて、なんだかんだ酷評してますが、これはあくまで、「響けユーフォニアム」「氷菓」という名作が頭にあるから、ですかね。もし、上記の2作品を視聴していなかったとしたら……普通に、平均以上に楽しめる作品だと思うんです。私自身、少なくとも途中で切ろうとは思いませんでした。

あにこれでレビューを書く方は、かなりアニメ観てる方が多いから、(自分を含め)どうしても他作品と比べ、相対的に評価を下げるのはしょうがないけどね(^.^)

と、いうことで、作品単体としては、普通にそこそこ楽しいアニメですから、時間があるなら視聴をオススメしますよ♪

一番の好評価としては、OPが、大好きな「河合荘」を思わせる素敵なものだったことかな! {netabare}あと、花巻に来てくれたことかな、駅前だけだけど(笑){/netabare}

【蛇足】
第4話の500円玉の金額が気になったので、計算してみよう! 少なく見積もっての、概算だか。(私は文学部だったので、計算ミスがあったら指摘してほしい♪)
{netabare}
草壁先生の身長を180㎝とすると、画面上、縦に約4人分(720㎝)、横に約6人分(1080㎝)入るから、500円玉の全体の面積は777,600平方㎝。500円玉の面積は、5.5平方㎝(wiki調べ)。単純に割ると(円と四角形だから単純に割れないけど)、141,382枚の500円玉があることになるから、一面当たりの金額は70,691,000円。それが、登場人物(靴あり)の足首以上まで積まれている描写があるので、地上からの高さを10㎝とすると、500円玉の高さが1.8㎜(0.18㎝)だから、55枚重なっていることになる。ただ、隙間もあるだろうから、50枚にしよう。

結果、3,534,550,000円(約35億3455万円)。になりました。

計算、合ってるかな?(小学生レベルの公式しか使っていないから、馬鹿がバレたw)

ぱっと見、数億円かな? と思ったけど、意外と多かった(笑) ただまあ、完全に(相続税の)脱税ですから、税務署に追徴課税とられた後、(遺言に500円玉の表記がないので)親族で新たに取り分を決めるのかな? すると、甥っ子はさほど貰えないんじゃ? それとも、「家の一部」という解釈になるのかな? わかんないや。

誰か、法律か骨肉の争いに詳しい方、計算してみて下さい(笑){/netabare}

ちょっと、「空想科学読本」感を出してみました(笑)

投稿 : 2024/11/02
♥ : 38
ネタバレ

❣ユリア❣ さんの感想・評価

★★★★★ 4.1

こんな三角関係絶対に認めな~い!!!!

☆原作未読☆

清楚で乙女なキュートガールの穂村チカ…
いえ、元気で運動神経抜群な天然な穂村千夏(チカ)と
天才と呼べるほど頭の回転がいい上条春太(ハルタ)の

吹奏楽×青春×ミステリーです

舞台は静岡県清水市、吹奏楽が背景となっていて
吹奏楽に関する謎や事件ををハルタ(と チカ)が解いていく…そういう物語です
なので、吹奏楽はメインではなく、オマケ?というような感じでしょうか?響け!ユーフォニアムとはまた違う感じになっています☆

絵がとってもキレイで目が特に
こってるなと思いました☆

{netabare}
チカwwww始めの登場、思わず笑ってしまいました(*´∀`)
{netabare}結局最後までキュートガールになれませんでしたねwwww {/netabare}

ってかネコ飼ってるのに好かれてないんですねw
千夏ちゃん可哀想w  
{netabare} 結局最後まで好かれなかったんですよねw  {/netabare}

…というか、なんですかあれ!
第1話の最後、ビックリでした!!!
{netabare}
チカが草壁先生のこと好きならまだ分かりますが
ハルタまで好きとか…
「男だからって手加減しないよ?」
って…え…
しかもなんかほんとに草壁先生のこと好きなんですね…(´д`|||)
こんな三角関係絶対に認めな~~い!
そりゃあそうだと思います…チカ…お気の毒に…(´;ω;`)

でも…ハルタとチカ、なかなかお似合いですよね♪
まあ草壁先生が好きということで最後まで二人がくっつくということはありませんでしたが…(´・ω・`)
ナイスコンビだなと思いますww
2人がくっつけばいいのにな~とも思います☆
まあその可能性は無さそうですが…(´・ω・`)
{/netabare}

第1話の1番始めの場面、いかにもミステリーですねw
本当に始めだけでしたがww
第1話はアニメオリジナルみたいですね☆
とってもよかったです♪

その他のミステリーも、とっても面白くて
あ~なるほど!と思えたところが多かったです
{netabare}特に、第5話の エレファンツ・ブレス
のミステリーがお気に入りです☆
{/netabare}
ってか、ハルタ頭良すぎじゃないですか?w
普通はあんな考え思い付かないと思いますw
{netabare}それに第2話のルービックキューブも一瞬で完成させちゃうし…w {/netabare}
ハルタすごいw

チカも鈍そうですがハルタにヒントを与えていてすごいなと思いました♪

{netabare}
第5話のお金、あれすごいですね!
大金ですね!物語ならではですごいなと思いました☆
一体いくらあるんでしょう…
{/netabare}
後、第9話の他校にお邪魔?する場面…
{netabare}あの制服かわいいですね♪
特にチカかわい~♡
レアですね♪
{/netabare}

そして次期部長… {netabare}チカになる!?と思ったらマレンでしたね☆
けっこう意外でした…
私はてっきりハルタかと思いました☆ {/netabare}
それで終わりって……
な~んか物足りない感じがしました(>_<)
最終回以外はすごくよかったんですが……なんか残念です(>_<)無理矢理終わらせた感がありました
でも、他の話を見直すとやっぱり面白くて何度も見たくなります!
{netabare}
金賞取れませんでしたね…
いつか金賞取れるといいですよね♪
{/netabare}
原作はまだ続いてるようなので
2期があれば絶対に見たいな~と思います♪
原作や2期に期待ですね☆
{/netabare}


~お気に入りキャラクター~
やっぱり、1番はチカです♪
なんと言ってもかわいい!特に目がお気に入り♡
それに、超運動神経バツグン!
羨ましいです♪

芹沢さんもお気に入りです♪
何だかんだ言って…チカとすごい仲いいですよね♪
{netabare}最終話では芹沢さん、吹奏楽に入ってくれましたね♪よかったです(*´∀`)♪
{/netabare}
成島さん、第2話では正直嫌いでしたが…
第3話ではすごくチカと仲良くなっていたし、明るくなっていたのでよかったです♪

部長wwww
キレイな人好きとかwなんかアニメキャラに1人はいそうなキャラですよねw

双子の朝比奈 香恵&紗恵
最後まで見分けはつきませんでしたが…w
(一応、ピンとゴムの色が違います)
二人がハモるところとかかわいくてお気に入りです♪

あれ?ハルタは?
と思った人もいるでしょうかw
正直ハルタはなんか生意気?であまり好きじゃないかもです…(>_<)

界雄(かいゆう)はラジオのパーソナリティーやっていて、すごいなと思いました☆
声が意外と好きです☆


~オープニング曲~
歌の最後は部員の集合写真で部員が加入するたびに写真を撮り直していましたね
あそこはこってるなぁと思いました☆

この曲は、初めはBGMみたいに流れるような曲であまり頭の中に残らないような感じでしたが、何回も聞くとじわじわハマり
今ではお気に入りの曲です!
とってもいい曲なのでぜひぜひ聞いてみて下さいね♪

タイトル 虹を編めたら


アニメは全体的に見ると面白かったので
原作(小説)やオリジナルの漫画もぜひぜひ見てみたいなと思います(*´∀`)
オススメですよ♪

投稿 : 2024/11/02
♥ : 23
ネタバレ

アレク さんの感想・評価

★★★★☆ 3.2

素敵な回りくどさ

高校入学を機に心機一転フルートを買い清楚で乙女なキュートガールになるため
青春ポイントを稼ぎたくて吹奏楽部に入部しようとするが口を開くとすぐ地金を晒しちゃう元気いっぱいの
穂村 千夏と博識で冷静沈着、頼れるが社会的に公にできないある秘密を抱える
上条 春太の二人が中心となり部員達にかかわる様々な謎を解き明かしながら
普門館を目指す学園ミステリー。

{netabare}少し前にやっていた京アニのユーフォも吹奏楽を主題にしていたのもありやはり作画に定評のあるPA
ライバル的作品といいますかこちらも生々しく苦みを伴った濃密な青春が香る王道的な部活物を期待しましたが
いい意味で裏切られました、こちらは一話完結が多く謎解きミステリーを
主題としていて謎解きというと犯罪を隠すためとか物騒なイメージがついて回ったり
しがちですが本作は人情話が多く謎に込められた伝えたいが伝えたくない、矛盾する想いを主題とし
そんな素敵な回りくどさが謎という形に姿を変える、社会的マイノリティーや身障者など重めな話も多いけど
演出的にも工夫されていて後味がさわやかな印象。

春太が博識で老成すぎて学生離れしすぎてるような気がしないでもないが
千夏が視聴者と同じ視点に立ち疑問を投げかけたり持ち前の人懐こい性格で
一癖ある登場人物たちと絡みながら春太が締める、バディ物としてはありだと思います。

しかし見ていて惜しいと思う所も多々あり、まず人数の少ない吹奏楽部の仲間集め
謎解き、そして心棒として普門館を目指す、これを1クール中にやりきるには
窮屈すぎると感じたし1話1話見ても部員になるキャラたちの背景の説明と
謎解き、解決からの吹奏楽部入部といろんなことを並行してやりすぎ、あらすじをなぞっただけで
終わってしまう回もあった印象で話それ自体はもっとけれんみやタメを作って
じっくりやればもっと面白くなったのにな~と何度も思ったので実に惜しい!
9話の「初恋ソムリエ」の回にそれが一番顕著に出てておばあさんの年代を鑑みるに
多分関わってた組織は左翼とかアカだったのかな?思い出となり輪郭がぼやけていたとしても
デリケートな問題だと思うしそれを学生がしかも30分1話完結でやるには
あまりに手に余る主題。

それに二人の目標であり吹奏楽部での目標でもある普門館を目指すための練習パートも
仲間集めと謎解きに忙殺されていて描写不足な印象、これは自分がもっと見たかったという
好みの問題でなく作中で何度も普門館や練習に言及されていたのでやっぱりちぐはぐに感じてしまうし
各話導入も少々強引すぎな印象、謎解きミステリーならそこらへんはご愛敬と思いたいんだけど
誰もが学生である、あった学校を舞台にするのであれば共感を感じる要素を盛り込まないのは
惜しいと思ったし自分はミステリーの魅力って日常から徐々に非日常へと足を踏み入れるときの
ゾクゾク感も大事だと思ってるので導入が強引だと最初から非日常に思えてしまうんですよね

好きなアニメのはずなのに文句が多めになってしまいましたが素材はいいはずなんだけどな~
今度原作読んでみようかな
{/netabare}

以下特に好きな回を書いていきます

第1話「メロディアスな暗号」
{netabare}凄い良かったです
知られたくない、でも想いを届けたい、そんなもどかしさが謎という形に変わって
それを解いた瞬間醸成された想いがふわっと花開く、生徒の姿かたちはおろか性別さえ
わからないですが強烈に記憶に焼き付かれました、そして音になったラブレターが
そのまま2人の草壁先生の恋心とリンクする、オチはちょっとどういうテンションで
見たらいいか戸惑いましたがやっぱりいい話だしよくできてたと思います。
{/netabare}

第3話「脱出ゲーム」
{netabare}マレンの誰にも言えない悩みをもっとじっくりなぞって前後編に分ければもっと
よかったのにな~ダイジェスト気味でもったいない{/netabare}


第5話「エレファンツ・ブレス」
{netabare}一つ目の謎の奥にもう一つ謎がある二重底の構造、孫娘に誤解されながらそれでも明るくふるまう祖父。
重い話ですが像の親子の物語が現実の2人にもなぞらえており最後祖父の姿をあえて映さない
倒置法的演出が余韻を誘いEDの入り方も素晴らしいです。{/netabare}


第7話「周波数は77.4MHz」
{netabare}無許可で老人ホームみたいなのをやってるのは設定的に非現実的かな
でも光の見え方に関するアドバイスが宝石とつながり彼女の生き方にもつながる
強引ですがそれでも伝えたい思いというのが伝わってきました。{/netabare}


ED「空想トライアングル」
ピアノの軽やかな独走がリズムを刻みボーカルのChouChoさんのさわやかで
学園を舞台にしたアニメにとてもあってる歌声が軽やかな余韻を一層高めてます。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 28
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