フリ-クス さんの感想・評価
4.1
ウラ設定がヤバい、DASH(it)村
いきなり私的な嗜好のハナシで恐縮なのですが、
基本的に僕は『ハ-レムもの』というのがキライであります。
最近だと、完走した作品はほとんどありません。
だってさあ……
なんだコイツ、とか思っちゃうような主人公に、
よりどりみどりの美少女が次々寄ってきてキャッキャウフフ。
ねえよ、と言いたくなるご都合テンカイに世界観がムンクの叫び。
でもって、その美少女たちが、
リアル女子なら一発でカエル化しそうなクサいセリフに感動し、
好きよ好きよのがぶり寄り。
優柔不断な主人公をめぐって押し合いへし合いせめぎ合い。
ラッキースケベもたっぷりあるでよ皆の衆。
と、DT乙、としか言いようがないハナシが目白押しなんですもの。
本作『異世界のんびり農家』も、見る前はその系統かと思っていました。
あいかわらず原作は未読なんですが、その原作が、
なろう系
+異世界転生もの
+ハーレムもの
+スローライフもの
なんて、ほとんどマンガン確定じゃないですか。
ですからまあ「Aパ-トぐらいは見てもいいかな」ぐらいのつもりで、
点棒8000点ぶん握りしめて視聴を開始しました。
結果はというと……みごとに完走。
ためいきもストレスもなく、楽しく見ることができました。
けっこう、というか、かなり好きかもです、これ。
そもそも、妄想ラブ要素が満載の『ハ-レムもの』じゃなく、
いわゆる『環境ハ-レムもの』でしたしね。
アレな方には物足りないでしょうが、拙にとっては実によき。
あにこれの評価を見る限り、けっこう厳しめの意見が多く、
完走しなかった方、ハナから相手にしてなかった方も多そうですが、
モノづくり的にも『かなり興味深いトコロ』があるんですよね。
というわけで、ほとんどの方にスル-されるのを覚悟しつつ、
製作的な見どころも踏まえたりしながら、
ちくちくと本作を語ってみようかと思う次第であります。
おハナシは、神さまの手違いで過酷な人生を強いられたという、
主人公の街尾火楽(まちお ひらく)39歳が、
つぎの人生では人のいないところでのんびり農業でもしたい、
という願いを聞き入れてもらい、
健康なカラダと『万能農具』を与えられ、森の中へ転生したところから始まります。
この森、実は『死の森』と呼ばれ、
魔物がめっちゃ徘徊していて人が寄りつかない(寄りつけない)という、
おおよそ『のんびりと農業を営む』には全く適さない過酷な場所でした。
ただ、与えてもらった『万能農具』がスグレモノ。
あらゆる農具(それも超高性能)に変化するというだけでなく、
・どんなに作業を続けても疲れない。
・念じて使うだけで、種がなくても願った作物がすぐに芽をはやす。
・ドラゴンすら倒す武器にもヘンシンする。
という、リアル農家の方々が逆上しそうなチ-トグッズであるわけです。
この『万能農具』のおかげで、
テレビでしか農業を知らないヒラク君もなんとか体裁を整え、
柵で魔物を防止しつつ、孤独な自給自足生活をスタートさせることができました。
やがて、一人、また一人と、
同居する『村人』が増えていきます。
(ヒトではなく、吸血鬼や天使、エルフなどの亜人ですが)
最初のころの村人は「追われてる」「住むところがない」など、
ワケありの、そしてけっこうな、いや、かなりの美人さんばっか。
ところがこの村人たち、建築や道具づくりなど村づくりに有用なスキルもち。
しかもなかなかにパワフルかつワイルドで、
居住区は少しずつ、健全かつ文化的に発展していきます。
こうなると移民希望者が増え、雪だるま式に人口が増加。
リザードマンだの鬼人族だのも移住してきて、
ワインなんかも作れるようになり、そこそこの『農村』へ進化します。
近隣の町や村、さらに魔王なんかと物々交換による『交易』もはじまり、
ついにはじめての赤ちゃんも産まれたりして、
のびのびと、明るく楽しい農村ライフが続いていくのでした。
……とまあ、リアル農家の方々からはジト目でにらまれそうな、
ある程度はリアルだけど、かなりのご都合主義、
アニメだからこそ許される『楽しい農村づくり』物語なのであります。
僕がこの作品を『よき』と評価しているのは以下のポイントです。
① ロリっ子がでてこない。
② ラブ要素・恋のさやあてみたいな部分が一つもない。
③ 女の子が『守るべきもの』でなく『たくましきもの』として描かれている。
④ ラッキースケベみたくチープな演出がない。
⑤ 主人公のヒラクくんがオンナにハァハァしない。
まず①『ロリっ子がでてこない』ですが、これ、ダイジですよね。
このテの作品って『ロリ成分命』みたく考えてる方が少なくありません。
開拓初期に非労働力のロリはいらんだろ、
という極めてまっとう、というかイッパン常識的な考察に対しても、
『見た目はロリだけど実は300歳』
なんて使い古された手で強行突破してきますしね。
その点、本作にはロリ成分がほとんどありません。
物語後半、移民の中にショタだのロリっぽいのが混じりますが、
あくまでもモブで本筋にカンケイなし。実によきです。
次に②『ラブ要素・恋のさやあてがない』のもグッジョブかと。
村にやってくる美女たちは、
みんなヒラクくんに『好感』はもつけれど『好感どまり』なんですね。
あくまでも『いい村長さん』であってレンアイ対象じゃありません。
(繁殖の『種馬』にしたいとは思ってますが)
{netabare}
そもそもヒラクくんは第一村人のルールーシーに、
誤解と勢いでプロポーズをして、OKされているんですよね。
ですから、
最初っから『他のオンナのだんなさま』ポジションですので、
ラブの対象としては外れているんです。
{/netabare}
そんなわけで、実にケンゼンにのびのびと、
明るく楽しく農業に従事しているところが実によき、であります。
そして③『女の子がたくましきものとして描かれている』ところも好感度大。
ラノベ系の作家って女の子を『守りたい』傾向があるっぽくて、
どんなツンデレだろうが女騎士だろうが、
最後はオトコに守ってもらって目がハート、というのがお約束かと。
その点、本作のキャラには『男性依存』の傾向がみじんもありません。
ヒラクくんってチ-ト武器のおかげで最強なんですが、
本作においては、それと『目がハ-ト』は別モンダイになっております。
開墾・土木・建築などの力仕事も自分たちでこなしますし、
『自分のチカラで生きる』という姿勢が身についているんですよね。
丸の内の有能OLみたく、しっかり働き、しっかり飲み、しっかり遊び、
いやほんと、みんなかわいいクセに、たくましい。
オトコがなんぼのもんじゃい、と。
こういう自立性、というかたくましさって、
なんかあったら『政府・世間のせい』にする男連中にも
ぜひぜひ見習ってほしいものであります(←差別発言)。
さらに④『ラッキースケベみたくチープな演出がない』ところもよき。
というか、みんなワイルドかつたくましいし、
そもそも亜人ですからジョ-シキも我々とは違うのであります。
ハダカ見られたぐらいで赤面して、
「ばっ、バカっ、あああ、あっち向いてなさいよっ」
なんて定番のセリフ吐くヤツ、いないんですよね。
男の子みんな大好き『モジモジ・うじうじ・テレテレ』演出もなし。
混浴も平気で、ヒラクくんの方がモジモジだし、
脱衣麻雀も大喜びでやって「脱~げっ、脱~げっ」の大合唱。
で、そういう設定だからサービスカット大満開の章かと思いきや、
全12話で、お風呂シ-ンが一回あるだけ。実によき。
おさわり厳禁オトナの社交場、がきんちょはお帰りくださいまし、
最後の⑤『ヒラクくんがオンナにハァハァしない』もポイント高し。
環境的には、美女にかこまれウハウハのハ-レム状態。
そしてその美女たちのほとんどが『繁殖』をしたがっているわけでして、
その気になればアラブの王様みたいな暮らしもできるわけです。
でも、しない。奥さま一筋。
だからといって、べつに草食系をこじらせているわけでもなく、
奥さまとの間には、きっちり子どもを作っております。
いやあヒラクくん、アンタ男だよ。
とまあ、ここまでがアニメに描かれているハナシ。
なかなかにケンゼンな『環境ハ-レム村』だと思うじゃないですか。
で、その方向でレビュ-しようかなと思い、
下調べとしてウィキペディアで原作情報を見てですね……思わず
Dash it!(なんてこった、ちくしょうめ)
と叫んじゃった次第です(あ、いえ、実際には叫んでませんが)。
で、ここからはウィキで調べた原作情報・ウラ設定。
正直『反転術式かよ』と思うぐらい作品を見る目が変わっちゃいますので、
まるっとネタバレで隠しておきますね。
{netabare}
原作では、第二村人のティアって、
入村当初からヒラクくんの『第二夫人』なんですね。
ルールーシーの策略でティアもヒラクくんと「励む」ようになって、
なりゆきで二番目の妻になっているそうなんです。
アニメでルーが「わたし一人じゃカラダがもたないのよぉ」なんて、
なにそのオモシロ掛け言葉、みたいな台詞いってましたが、
実際は掛け言葉でもなんでもなく、マジでガチなアレだったわけです。
(ヒラクくんが転生の際に神さまにもらった
『健康な身体』がゼツ〇ンだったみたいですね)
さらにウィキペディアによりますと、
ヒラクくんは二人の妻でマンゾクしているのですが、
種族繫栄のための『種馬』リクエストにお応えするカタチで、
たいていの女の子とカンケイをもち、
次々に子どもをこさえていくそうであります。
アニメと同じく正妻であるルールーシーの子どもが一人目ですが、
原作ではそれ以降、10人以上も、
別の女の子との間に子どもを作っちゃうんだそうです。
ちなみに原作の時系列では
アニメ最終回のすぐあと、同じ年の秋にティアが出産するんだとか。
え? そんなに原作改変したの? よくカ〇カワが許したなあ、
なんて思って再視聴してみるとですね……
『してる』描写は一つもないけれど、
『してない』とはヒトコトも言ってない。
ということに気づくわけです。
まいった、完全にやられた。
おまえ『シックス・センス』かよってハナシです。
いや、確かにこれ、カ〇カワも文句言えないわ。
原作改変(専門用語で言うと『翻案』)してるわけじゃないんだもの。
まあ確かに、原作に描かれていることをそのまま表現していたら
ご都合満載の『農村ゼツ〇ン物語』
みたくなっていたことが容易に推察できるわけです。
それはそれで別のリアリティなり需要なりはあるかもですが、
少なくとも僕は、あんまり見たくないかな。
そんなもん、大枚はたいてアニメ化する意味がわからんし。
というわけで本作は、
なんかちょっとかなりアレな原作を改変することなく、
『健康的で楽しい農村づくり』
にベクトル変換するという、レベル5級の能力が発揮されているのであります。
製作的には、菓子折りもいらず大助かり。えらい、スゴい。
倉谷涼一監督、グッジョブです。
{/netabare}
で、本作の拙的なおすすめ度は、
あまり深く考えずまったり楽しむ、という前提でAランクです。
万能農具のチ-ト性能もさることながら、
物語の中盤あたりからかなりのご都合テンカイで村が発展していくので、
そこのところにツッコむと一歩も前にすすめません。
本作の視聴ポイントというのはそこではなく、
健康的でたくましく、おまけに相当きれいな女の子たちが、
元気に、明るく楽しく農村づくりをしていくさまを、
ちょい鼻の下をのばしつつ、にこにこ笑いながら健全に楽しむ。
という、かなりマニアックな楽しみ方に限られるわけなのであります。
そのぶん、見るだけでも楽しめるよう、映像にリキ入ってます。
制作はゼロジ-さんで、
これまで『悪くはないけどクセがあって微妙』なイメ-ジだったんですが、
本作は『健康的できれいなおねいさん』の作画に大成功。
ほとんどのキャラが、姿勢がよく、リッパな谷間をおもちです。
キャラデだけでなく動画さんもがんばってまして、
なめらかな人体曲線やタブりの多い洋服デザインがけっこうあるのに、
動かすべきところはきっちり動かしています。
OP、ル-ル-シ-がジャンプしてくるっと一回転するところなんか、
ちゃんとジャパニメーションしていますもの。
そして、人物作画にリキいれるだけでなく、
畑・森・農作物などもていねいに描き込まれており、
質感や空気感まで表現できていて、世界観が心地よく伝わってきます。
こんなにいちいちリキいれてたら予算合わないだろ、
というような心配は、SD演出の多用でカバ-。
このSD演出、ただ単に枚数稼ぎになっているだけでなく、
ちゃんとカワイイうえに、メリハリが効き、
シ-ンに応じた『演出』として立派に成立しているんですよね。
わりとよく見る枚数稼ぎの手法であり、
キメツでもしょっちゅうやってたりするわけなんですが、
あっちは『箸休め』的な扱いなのに、
こっちは本編進行と連動していて、しかも違和感がありません。
倉谷涼一監督、本作に限って言えば、かなり有能です。
キャラクターの作り込みも、けっこう繊細にできております。
みんな『きれいなおねいさん』であるだけでなく、
『チ-ト的能力もち』『しっかりした自立心もち』『ウジウジしない』
という共通項をもっているのに、
しっかりと性格付けができていてキャラかぶりがありません。
とりわけスゴイと思うのは、
関西弁も廓言葉もにゃんにゃん言葉もボクっ娘もおかしな語尾もなく、
みんな基本的にきれいな言葉遣いをしているのに、
個々のキャラが書き分けられ、きちんと立っているところ。
これ、作家を目指すワカモノたちにぜひ見習って欲しいかも、です。
それだけでなく、同じキャラが同じ内容の話をするときも、
「ラスティって呼んでください」
「ラスティって呼んでね」と、
相手との位置関係で自然に言葉が変化しているんですよね。
こういう『キメ言葉にせず会話の自然さをダイジにしてください』という指示、
脚本家的にはとてもウレしいものなのでありますよ。
キャラに生命を吹き込む役者さんたちも、いい仕事しています。
本作って、難しくとんがったキャラがいない分、ぶっちゃけて言うと
大手事務所に正所属できるレベルの役者さんなら
『誰でもそれなりにできる』タイプの作品なんですね。
正直、駆け出しの若手や預かりレベルの役者さんをずらりと並べても、
ふつうの視聴者さんなら、良し悪しが判別できないテイストかと。
それだけに、違いを生んだり声の表情をつくったりするのがムズカしい、
手を抜こうと思えばいくらでも抜けるけど、
役者の根性見せたんよ、と思えばかなり難易度が高くなる作品であります。
で、根性見せてくれたのが、物語序盤メインのお三方。
下地紫野さん(ルールーシー役)
洲崎綾さん (ティア役)
Lynnさん(リア役)
「わかったわよ」「え? ここにですか?」「皆さん、張り切って働きますよ」
なんて、個性の出しようがなさそうなセリフにも徹底的にこだわって、
実に活き活きとした人物像をつくってくれました。
先行役者がいいお芝居をすると後続が『燃える』のが役者の性質であります。
その例にもれず、中ほどから出てくる役者さん、
藤井ゆきよさんや日岡なつみさん、伊藤かな恵さん、岡咲美保さんなどが、
少ない出番でなんとか自分の爪痕を残してやろうと、
テンプレふうでありながらも実はすごく細かいお芝居を披露しています。
おかげさまで、同系統の『なろう系』作品に比べ、
かなり耳ざわり・聴き心地のよい作品に仕上がっております。実によき。
(それにしても洲崎綾さん、相変わらずスゴい声してますよね)
音楽は、OP・EDともに、耳に楽しい素敵な曲かと。
とくにOP、
この曲に下地さん・洲崎さんの二人をあてるのは、反則級のキャスティング。
劇中の、葡萄ふみの唄もいい感じ。
劇伴は……ごめん、なんにも耳に残っていません。
というわけで、作り手側はかなり頑張って、
あちこちに強い『こだわり』を見せている本作なのですが、
ショ-ジキ言って、視聴者の琴線に触れそうなところは少なめです。
のんびり農家、というわりにけっこう新展開が多めでせわしなく、
たとえば『のんのんびより』あたりと比べると、
ぜんぜん、まるっきり『のんびり』感が足りませんしおすし(←死語)。
既述のように、ロリっ子もラッキースケベもなんもなし。
ついでに言うと、リアル農家につきまとうJAとのしがらみもなし。
ほんと、あっちこっち流用されているキャッチコピー、
『なにもない、がある』
みたく、田舎のやけくそ集客作戦が似合いそうな作品であります。
ただまあ、ムネの谷間と自然とおいしそうなごはんはたくさんあります。
そして最終話、出産前後の村人たちを見ればわかるように、
ヒト(亜人ですが)の本能に基く日々の営みが、ていねいに描かれています。
おすすめ度Aと書きましたが、
それはあくまでも『拙はスキ』という主観まみれの評価でありまして、
決して万人にすすめられるタイプの作品ではありません。
ですが、粗製乱造のおおい『のんびり系』において、
細部まできちんと気を使って作り込まれた『良作』ではあるまいかと。
女性の方が見られても
『男の子ってホントこういう話、好きよねえ』
なんて感じにはならないと思います(たぶん、ですが)。
ちなみに、脱サラ・定年退職してあこがれの農村生活を始めたものの、
思ってたのとチガう、
なんていろいろご苦労なさっているハナシをよく耳にします。
まあ、あたりまえですよね。世の中そんなに甘くありません。
都会には都会の、イナカにはイナカの、
いろんなしがらみだったりアレだったりがあるのが人の世かと。
都会であくせく働く方々にとっては、
こういうかなり非ゲンジツ的なアニメをたまに見たりして、
農村っていいなあ、自然っていいなあ、
なんて思ってるのが『ほどよい生き方』なんじゃないのかなあ、
と、愚考する次第なのであります。ゆめゆめ、
あいてます、あなたのNOSON♪
みたいな誘い文句には、カンタンに乗らない方がよろしいかと。
いやほんと『となしば』というのは、
言い古されているようでいて、
いつの時代もけっこう真理だったりするんですよね。
むかし隣の家で飼ってた豆芝は、ガチで可愛かったんですが。