renton000 さんの感想・評価
4.6
良い監督が現れた!
18分のショートフィルム、石井祐康監督の劇場版デビュー作です。
石井祐康監督は「フミコの告白」と「rain town」で話題になった方ですね。どちらも監督自身がyoutubeに全編を上げています。両方合わせても10分か15分くらいだったかな。気になる方はご覧になってはいかがでしょうか。
本作のあらすじは、「シグレちゃんのことが好きな小学生4年生のヒナタくん。シグレちゃんを見ては、妄想に浸ってばかり。そんなある日、シグレちゃんの転校が決まってしまって…」といったところですね。18分の作品なので特にひねられたストーリーではありませんが、構成も演出関係も非常に良かったです。
後半の大半がまるごと山場といった感じなんですけど、何度見ても飽きない力強さがあります。物語評価は納得の5点。作画評価はモブが動いてないところがあったので減点しています。劇場作品で、しかも18分しかないのですから、モブでも手を抜いてはダメです。それ以外の動き、特に躍動感は素晴らしかったです。石井監督が「フミコの告白」で見せた疾走感も健在です。
パンツ?:{netabare}
「ジャパニメーションになくてはならないとされる二つの柱、その一つが『華やかさ』を引き受ける可愛い婦女子の笑顔とパンツ、そしてもう一つがアニメの 『派手』の代名詞とさえいわれる『爆発』だ。ジャパニメーションの真骨頂はこの二つである。偏見ではない。この二つが揃ってこそ正統なジャパニメーションだ。」
これは石井祐康監督の言葉ではなくて、今敏監督の言葉ですね。
この作品にはパンツのシーンが3回出てくるんですよ。18分の作品で3回です。そのうちの1回は残念ながら(?)ヒナタくんの方なんですけどね。で、こんなにパンツエピソードいるのかな、と。のび太くんとしずかちゃんを彷彿とさせるヒナタくんとシグレちゃんなんですけど、このほのぼのとした二人のお話にパンツは邪魔なように思えました。
ただ、その後に爆発シーンがあるのでとりあえずは許すことにしました。なんか笑顔とパンツから来る「華やかさ」と「爆発」がジャパニメーションに必要らしいので。個人的には、シグレちゃんの笑顔だけで十分!とも思うんですけどね。
あと、石井祐康監督って、笑いの作り方が結構古典的なんですよね。悪いとか嫌いっていうのではないですけど、もうちょっとサッパリしたのが見たいかな。まぁ、この作品に関しては子供向けを意識していると思われますので、分かりやすい笑いのでも良いんですけどね。
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雑談は以上。ここから本題ですけど、基本的には既視聴向けとして書いています。いつも通り遠慮なしに書いてしまうので、未視聴の方はご注意ください。というか、基本的には未視聴の方には非推奨です。この作品はかなり綺麗にまとまっていますから、アニメの読解力を試すにはうってつけの作品です。ご自身の解釈を得た上で、私の解釈に触れていただければと思います。
鳥と花(植物):{netabare}
作品内では、妄想と現実が頻繁に切り替わるんですけど、両者をつなぐ象徴物として使われているのが鳥と花(植物)と電車ですね。ここでは鳥と花(植物)について述べます。
鳥と花(植物)がヒナタくんの妄想につながるきっかけは、鳥がシグレちゃんの持っているキーホルダーで、花がシグレちゃんのカチューシャです。カチューシャには白い花の飾りが付いています。
妄想内では、シグレちゃんのカチューシャのワンポイントは赤い花に変わっています。文字通りバラ色ってことなのでしょう(ツバキかもしれないけど)。で、ヒナタくんは鳥籠を模した閉塞空間で鳥と植物に囲まれて絵を描いています。そして、シグレちゃんとの思い出を積み重ねていくたびに、鳥の種類が増えていき花が咲き誇っていきます。ここまでが前半。
シグレちゃんの転校が明らかになった後は、カチューシャの赤いバラが散って、植物に囲まれた鳥籠は現実の廃墟に変わってしまいます。妄想に浸って絵を描いているときは廃墟が気になっていなかったけど、別れを目前にして現実に引き戻されてしまった、ということなのでしょう。
決意の後からが山場突入です。鳥の力で廃墟の鳥籠を壊して、鳥の助けを借りながら追いかけます。この際には、ビル群や電車がだんだんと植物に覆われていきます。山場での妄想シグレちゃんは、現実と同じ白い花のワンポイントが付いたカチューシャをしています。バラ色の妄想が終わってしまい、現実のシグレちゃんを意識しているのでしょう。妄想の世界と現実の世界がリンクを強めていることは、現実でのシグレちゃんの涙が妄想内にも届いていることからも分かります。
山場での演出の肝は、「鳥が助けてくれる」というのと「植物に覆われていく」ですね。これはそのまま「シグレちゃんと積み重ねた思い出である鳥と植物が力になって助けてくれる」ということなんだと思います。素敵な表現でした。
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電車:{netabare}
山場で空へと昇っていってしまう電車。このフラグは、ヒナタくんのパンツシーンのときにシグレちゃんが読んでいた本ですね。「銀河鉄道の夜」。これに七夕メニューの給食(宇宙を連想させるもの)が関連することでその意味合いを補強しています。銀河鉄道は死へと向かう鉄道ですけど、今作では別れの鉄道として使われていたようです。
現実での「タクシーに乗って遠ざかってしまうシグレちゃん」に、シグレちゃんが読んでいた「銀河鉄道の夜」の思い出が影響することで、「空へ昇って行く別れの電車」になっていたんだと思います。唐突に空へと昇っていったわけではなく、きちんとフラグが用意されていました。
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エンディング:{netabare}
銀河鉄道に乗られると「死んじゃうのかな?」というイメージが強いせいか、電車で別れたシーンには「今生の別れで、二度と会えないのかな?」という印象を受けました。このシーンはすごくさわやかに描かれているので、強烈なギャップを上手く描いているなぁと感心してしまいました。
最後の後語りを見たときに「やっぱり会えるのかな?」と感じたところもあるんですけど、この描き方ってやっぱり会えないっぽいですよね。
シグレちゃんの青い目がどうにも引っかかっていたんですけど、シグレちゃんの引っ越し先であるお父さんの実家って、これ外国ですよね? お父さんとおばあちゃんに加えクラスメイトも外国人ぽいし、教室内はアルファベットだし、お弁当はみんなサンドイッチだし、市場も外国人だらけだし。「お互い気には掛けているけど、もう会う機会はない」ってのが結論のような気がしました。「夏休みにはまた帰ってくるよね?」という質問にも返事がなかったですからね。
この作品て、たった三ヶ月の話なんですよね。黒板の日付などから5~7月の三ヶ月だっていうのが分かります。正確に言うのなら1学期の終わりだと思われる7月25日まで。現実の植物の描写として青い葉のイチョウや咲いたアジサイなんかが出てきますから、そこからも季節を察することが出来ます。
鳥や植物のように表立って使う演出もあれば、本のタイトルや日付などのこっそり隠す演出もあって、作品としてのバランスは非常に良かったと思います。無駄なものが一切なく、きちんと作品内で説明し切っていますし、見終わった後の余韻もしっかりありました。短編とは言え、ここまで練り上げた構成力は称賛すべきものだと思います。
石井祐康監督には早く長編を作ってほしいですね。{/netabare}