初恋で妄想なアニメ映画ランキング 1

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62.3 1 初恋で妄想なアニメランキング1位
陽なたのアオシグレ(アニメ映画)

2013年11月9日
★★★★☆ 3.7 (76)
268人が棚に入れました
内気な小学4年生(ヒナタ)は、クラスで人気者の女の子(シグレ)のことが大好きな男の子。でもシグレと話をすることも出来ないヒナタは、彼女のことを思い描きながら妄想する日々を送っていた。そんなある日、突然シグレが転校してしまうことに…。悲しみに暮れるヒナタ、クラスメイトに見送られ去っていくシグレ。「僕はシグレちゃんに想いを伝えるんだ!」決心したヒナタは走り出す。

声優・キャラクター
伊波杏樹、早見沙織
ネタバレ

renton000 さんの感想・評価

★★★★★ 4.6

良い監督が現れた!

 18分のショートフィルム、石井祐康監督の劇場版デビュー作です。
 石井祐康監督は「フミコの告白」と「rain town」で話題になった方ですね。どちらも監督自身がyoutubeに全編を上げています。両方合わせても10分か15分くらいだったかな。気になる方はご覧になってはいかがでしょうか。

 本作のあらすじは、「シグレちゃんのことが好きな小学生4年生のヒナタくん。シグレちゃんを見ては、妄想に浸ってばかり。そんなある日、シグレちゃんの転校が決まってしまって…」といったところですね。18分の作品なので特にひねられたストーリーではありませんが、構成も演出関係も非常に良かったです。
 後半の大半がまるごと山場といった感じなんですけど、何度見ても飽きない力強さがあります。物語評価は納得の5点。作画評価はモブが動いてないところがあったので減点しています。劇場作品で、しかも18分しかないのですから、モブでも手を抜いてはダメです。それ以外の動き、特に躍動感は素晴らしかったです。石井監督が「フミコの告白」で見せた疾走感も健在です。


パンツ?:{netabare}
「ジャパニメーションになくてはならないとされる二つの柱、その一つが『華やかさ』を引き受ける可愛い婦女子の笑顔とパンツ、そしてもう一つがアニメの 『派手』の代名詞とさえいわれる『爆発』だ。ジャパニメーションの真骨頂はこの二つである。偏見ではない。この二つが揃ってこそ正統なジャパニメーションだ。」
 これは石井祐康監督の言葉ではなくて、今敏監督の言葉ですね。

 この作品にはパンツのシーンが3回出てくるんですよ。18分の作品で3回です。そのうちの1回は残念ながら(?)ヒナタくんの方なんですけどね。で、こんなにパンツエピソードいるのかな、と。のび太くんとしずかちゃんを彷彿とさせるヒナタくんとシグレちゃんなんですけど、このほのぼのとした二人のお話にパンツは邪魔なように思えました。
 ただ、その後に爆発シーンがあるのでとりあえずは許すことにしました。なんか笑顔とパンツから来る「華やかさ」と「爆発」がジャパニメーションに必要らしいので。個人的には、シグレちゃんの笑顔だけで十分!とも思うんですけどね。

 あと、石井祐康監督って、笑いの作り方が結構古典的なんですよね。悪いとか嫌いっていうのではないですけど、もうちょっとサッパリしたのが見たいかな。まぁ、この作品に関しては子供向けを意識していると思われますので、分かりやすい笑いのでも良いんですけどね。
{/netabare}

 雑談は以上。ここから本題ですけど、基本的には既視聴向けとして書いています。いつも通り遠慮なしに書いてしまうので、未視聴の方はご注意ください。というか、基本的には未視聴の方には非推奨です。この作品はかなり綺麗にまとまっていますから、アニメの読解力を試すにはうってつけの作品です。ご自身の解釈を得た上で、私の解釈に触れていただければと思います。


鳥と花(植物):{netabare}
 作品内では、妄想と現実が頻繁に切り替わるんですけど、両者をつなぐ象徴物として使われているのが鳥と花(植物)と電車ですね。ここでは鳥と花(植物)について述べます。
 鳥と花(植物)がヒナタくんの妄想につながるきっかけは、鳥がシグレちゃんの持っているキーホルダーで、花がシグレちゃんのカチューシャです。カチューシャには白い花の飾りが付いています。

 妄想内では、シグレちゃんのカチューシャのワンポイントは赤い花に変わっています。文字通りバラ色ってことなのでしょう(ツバキかもしれないけど)。で、ヒナタくんは鳥籠を模した閉塞空間で鳥と植物に囲まれて絵を描いています。そして、シグレちゃんとの思い出を積み重ねていくたびに、鳥の種類が増えていき花が咲き誇っていきます。ここまでが前半。

 シグレちゃんの転校が明らかになった後は、カチューシャの赤いバラが散って、植物に囲まれた鳥籠は現実の廃墟に変わってしまいます。妄想に浸って絵を描いているときは廃墟が気になっていなかったけど、別れを目前にして現実に引き戻されてしまった、ということなのでしょう。

 決意の後からが山場突入です。鳥の力で廃墟の鳥籠を壊して、鳥の助けを借りながら追いかけます。この際には、ビル群や電車がだんだんと植物に覆われていきます。山場での妄想シグレちゃんは、現実と同じ白い花のワンポイントが付いたカチューシャをしています。バラ色の妄想が終わってしまい、現実のシグレちゃんを意識しているのでしょう。妄想の世界と現実の世界がリンクを強めていることは、現実でのシグレちゃんの涙が妄想内にも届いていることからも分かります。

 山場での演出の肝は、「鳥が助けてくれる」というのと「植物に覆われていく」ですね。これはそのまま「シグレちゃんと積み重ねた思い出である鳥と植物が力になって助けてくれる」ということなんだと思います。素敵な表現でした。
{/netabare}

電車:{netabare}
 山場で空へと昇っていってしまう電車。このフラグは、ヒナタくんのパンツシーンのときにシグレちゃんが読んでいた本ですね。「銀河鉄道の夜」。これに七夕メニューの給食(宇宙を連想させるもの)が関連することでその意味合いを補強しています。銀河鉄道は死へと向かう鉄道ですけど、今作では別れの鉄道として使われていたようです。

 現実での「タクシーに乗って遠ざかってしまうシグレちゃん」に、シグレちゃんが読んでいた「銀河鉄道の夜」の思い出が影響することで、「空へ昇って行く別れの電車」になっていたんだと思います。唐突に空へと昇っていったわけではなく、きちんとフラグが用意されていました。
{/netabare}

エンディング:{netabare}
 銀河鉄道に乗られると「死んじゃうのかな?」というイメージが強いせいか、電車で別れたシーンには「今生の別れで、二度と会えないのかな?」という印象を受けました。このシーンはすごくさわやかに描かれているので、強烈なギャップを上手く描いているなぁと感心してしまいました。

 最後の後語りを見たときに「やっぱり会えるのかな?」と感じたところもあるんですけど、この描き方ってやっぱり会えないっぽいですよね。
 シグレちゃんの青い目がどうにも引っかかっていたんですけど、シグレちゃんの引っ越し先であるお父さんの実家って、これ外国ですよね? お父さんとおばあちゃんに加えクラスメイトも外国人ぽいし、教室内はアルファベットだし、お弁当はみんなサンドイッチだし、市場も外国人だらけだし。「お互い気には掛けているけど、もう会う機会はない」ってのが結論のような気がしました。「夏休みにはまた帰ってくるよね?」という質問にも返事がなかったですからね。


 この作品て、たった三ヶ月の話なんですよね。黒板の日付などから5~7月の三ヶ月だっていうのが分かります。正確に言うのなら1学期の終わりだと思われる7月25日まで。現実の植物の描写として青い葉のイチョウや咲いたアジサイなんかが出てきますから、そこからも季節を察することが出来ます。

 鳥や植物のように表立って使う演出もあれば、本のタイトルや日付などのこっそり隠す演出もあって、作品としてのバランスは非常に良かったと思います。無駄なものが一切なく、きちんと作品内で説明し切っていますし、見終わった後の余韻もしっかりありました。短編とは言え、ここまで練り上げた構成力は称賛すべきものだと思います。
 石井祐康監督には早く長編を作ってほしいですね。{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 11

ひろたん さんの感想・評価

★★★★★ 4.1

子供から大人へ一歩成長する、その瞬間をたったワンシーンで描いて見せた貴重な作品

小学生の男の子が同級生の女の子を好きになるお話です。
キャッチフレーズは、「男子小学生の全力告白アニメーション!!」です。
主人公は、自分の想いを伝えるために全力で走ります。
最初から最後まで一直線な物語でした。


■妄想

この物語で何よりも面白いのは、その演出です。
主人公の現実と妄想が交互に描かれ、主人公の気持ちを「妄想」で表現します。
嬉しければ、花が咲き、鳥がうたいます。
悲しければ、花は散り、ガラクタが散乱します。

私たちが子供のころ、何かに夢中になっている時のことです。
自分は何者かになったような妄想をしませんでしたか?

速く走っていれば、何かに向かって駆け抜けているヒーローのように。
傘を持ってくるくる回していれば、それこそ魔法少女のように。
そこの小さい側溝を飛び越える時でさえも、まるで空を飛んでいるかのように。

子供のころは、自分を妄想の中に置いていたような気がします。
逆に子供だからこそ何の迷いもなくできた妄想なのかなと思います。
大人になるにつれて、何者にもなれない自分を知り、いつしか、妄想をやめてしまう。
そして、気付けば、現実でしか物事を考えなくなっている。
そんな乾いた心に潤いを与えてくれる、そんな作品です。
この作品は、現実と妄想を行ったり来たりする「童心」をとても上手く描けています。


■こうして、子供から大人へ一歩成長する。

主人公は、最後、告白しなければならないと決意するときがやってきます。
そして、好きな女の子のもとへ全力で駆けていきます。
走る、走る、そして、走る。
この疾走感の描き方は、とても上手いなと思いました。
しかし、実は、普通に考えたらとてもじゃないけど追いつけない状況なのです。
でも、主人公の想いを「妄想」がバックアップし不可能を可能にしてしまいます。

そして、ついに女の子に告白するときがやってきます。
頭の中の妄想では、告白はバッチリできそうだと思ったその瞬間、目の前に現実が。
さて、実際の告白は、いかに?

このシーンは、とても良いと思いました。
とても子供らしく微笑ましい結末でした。
その一方で、主人公は、妄想と現実とは、やはり違うことを自覚し始めました。
こうして、子供は、大人へと一歩成長するんだなと言うのがよく分かります。
それをたったワンシーンで描いて見せたのがすごいなと思いました。


■まとめ

子供から大人へ一歩成長する、その瞬間を描いた貴重な作品だと思いました。
私は、とても楽しめました。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 18
ネタバレ

さんの感想・評価

★★★★★ 4.8

西壁に刺さります

監督は石田祐康氏
学生の時に制作したフミコの告白で文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を獲得した若手のアニメーターにして演出家。

この人の作品の良さはとにかく場面展開が気持ち良いところ。
設定の面白さや物語の深さに重きを置いている方は合わない可能性もある。
しかし、この気持ちの良さは、出そうと思っても簡単に出せるものでは無いし、観る人にちゃんと気持ち良いと感じさせるのは更に難しいはず。
それが出来てしまうのは、監督自身の鋭く磨かれた感性、そして研究の成果もあるだろうけれど、丁寧な作品作りがあってこそなんだろうなー
これは短い作品だから出来た事かもしれないけれど、妥協することなく手間暇をかけて制作したからこその結果なのだと思った。

フミコの告白から引き継がれたドジな主人公に、精一杯の走り描写。
最初は随分ませた小学生だなあなんて思っていたけれど、ひなたくんの一生懸命過ぎる想いに、次第に目が離せ無くなって、最後はボロ泣き。

涙脆くなったよなあ…前はそんなでも無かったのになあ…と思いつつ円盤をポチった。
そして限定版を持ってるのにも関わらず、ゲオでレンタル版を借りるという奇行に走る。

声優の演技力も凄いし、作画の演技力も高いし、スピッツの曲「不思議」もピッタリで感動する。
セリフの半分くらいを「ひなたくん」「しぐれちゃん!」で占めていても良いと思う。ジョンレノンとオノヨーコだって二人の名前を呼びあうだけのCDを出してるし、語彙が無くても想いは伝わるもの。


たった18分の物語。是非多くの方に見てもらいたい。


そういえば、物語の内容について{netabare}しぐれちゃんが行ってしまう時の演出で、なぜ電車が飛んでいるのだろう?鳥を魅せたいための演出かな?と勘ぐっていたら、もう一重重ねた設定になっていたのには驚かされた。{/netabare}
根幹は凄くシンプル。
しかし、さりげなく散りばめられたイベントが面白いかったり、盲点を突いていたりするから面白く感じるのかもしれない。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 21
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