フリ-クス さんの感想・評価
3.7
ツバキちゃんのニンジャー服
最近知った衝撃の事実なんですが、
みんな大好き『くノ一=女忍者』というものは、
史実的に「まったく存在していなかった」そうであります。
え? いや、ほら、だって時代劇にもしょっちゅう出てくるじゃん、
とかなんとか言っても、時代劇そのものがフィクションですしね。
実際のところ、間諜(スパイ)として送り込まれる女はいたらしいけれど、
それは今でいう女ニンジャとはまるで別物でありんす。
オンナを武器にして敵方に入り込み、機を見て忍法で標的をパンしちゃう、
みたくかっこいいものではありんせん。
ちなみに『くノ一』という言葉そのものは江戸時代からあったのですが、
それは『オンナ』を意味する隠語であって、
言葉そのものに『女忍者』という意味はこれっぽっちもなかったのだとか。
(くどいようですが、江戸時代に限らず日本に女忍者、いません)
じゃあなんで女忍者がドラマやアニメにガンガン出てきたり、
彼女らのことを『くノ一』なんて呼んだりするのさ、
というと、実は、山田風太郎先生の忍法帖シリ-ズの影響なのだそうです。
1959年に出版された『甲賀忍法帖』にはじめて女忍者が登場し、
それが翌年からの『くノ一忍法帖』シリ-ズにつながって大ヒット。
山田先生は最初、女ニンジャは『女忍者』としか呼んでおらず、
同シリ-ズのタイトルも『オンナ忍法帖』という意味でつけたのだけれど、
作品が映画化されてこちらも大ヒットし、知名度が急上昇。
で、みんなが「くノ一って女忍者のことなんだ」と誤解し、
その誤解に基づいて類似作が次々とリリースされ、
あ~もう、それじゃそれでいいです、となったのが『くノ一』誕生秘話なのだとか。
さて、このアニメのお話です。
舞台は人里離れた山奥にあるくノ一(女忍者)の里。
まあ、里というよりは、全寮制の女忍者養成所みたいな感じです。
時代的には江戸時代風ではありますが、時代考証はするだけムダかと。
(会話でも『リーダ-』とかのカタカナ外来語、ふつうに使っております)
で、その『オトコから隔絶された女ばかりの里』で、
思春期をむかえ、まだ見ぬオトコに興味津々の主人公ツバキを中心に、
くノ一見習い女子のわちゃわちゃした生活を描く日常系です。
いわゆる『忍びの掟』とか『生死を賭した忍術合戦』みたく、
どきはらシリアスな要素は何もなく、
はっきり言っちゃうと、くノ一をモチ-フにしたゆる系萌えアニメ。
登場人物の年齢設定は公開されていませんが、
身長や体型から察するに小学校中学年から、せいぜい中二ぐらいまで。
おっきいお友だちみんな大喜びの『非実在児童』満載でお送りいたします。
原作は『からかい上手の高木さん』の山本崇一朗さん。
制作はアニプレ子会社で『青ブタ』なんかで有名なCloverWorks。
山本さんの原作をアニプレがアニメ化したらどうなるのか、
みたいな意味での注目作です。
(主題歌も『青ブタ』と同じくthe peggies。リキ入ってます)
監督は、これが初監督作品となる角地拓大さんですね。
で、ええと、最初に結論から言っちゃうと、
面白いか面白くないかは『けっこう微妙』です。
ほんと『人による』としか言いようがなく。
まず、女の子が三十人以上も出てきて、
どれが誰だかいちいち名前まで覚えていられないのがつらいです。
こんだけいりゃ誰にでも一人ぐらい刺さるだろ、
そういうアキモト的大雑把なのは、
もうほんとに心の底からお腹いっぱいなんだってばよ。
そして最初の数話は、主人公のツバキは変に発情しちゃってるし、
劣化版クロコみたいのが「ねえさまぁ~」なんて言って追いかけてるし、
なにがやりたいアニメなのか一向にわかりません。
二話、三話あたりで脱落した方、けっこういるんじゃないかしら。
で、心折れそうになりながらしぶとく見続けているうちに、
これひょっとすると『やりたい/言いたいことは、特にない』アニメではないか、
ということに、はたと気づくわけです。
あの『からかい上手の高木さん』では、
それまでほとんど存在しなかった『からかい萌え』を徹底追及するぞ、
みたいな気概が感じられたのですが、
本作にはそういう目新しい要素が何も見当たりません。
強いてあげればツバキの『発情萌え』かしらんと思うのですが、
だとしたらけっこうニッチなところを狙ってきたなあ、と。
条例的にもアレな臭いがぷんぷんいたしますし。
それに、ツバキにしたところで常に発情しまくっているわけでもなく、
やっぱ『女児ばっかの里の日常』がメインストリーム。
つまるところ、明日ちゃんの通う女子校の制服をニンジャ服にして、
ついでにJCだけでなくJSも詰め込んで、
みんなで『非実在児童』を愛でて楽しもう、という作品ではないのかと。
もちろん、そのこと自体を『あかん』と言うほど僕は立派な人間ではなく、
あとはもう『実際に愛でて楽しめるか』という、
個人の感性みたいなものに評価が帰結してしまうわけであります。
僕的には「楽しめる回もあり、そうでない回もあり」みたいな。
ネタバレレビューを読む
個人的な作品のおすすめ度は、いいとこB+ぐらい。
ほんとうに『言いたいことは何もない』萌えアニメですので、
ぼ~っと見ていて好きになれるかなれないか、ぐらいしか分水嶺がありません。
ナルト的な忍びの世界を期待している方は豪快にうっちゃられ、
『私に天使が舞い降りた』あたりがお好きな方には、
大谷翔平もかくやのど真ん中剛速球はあるまいかと愚考いたします。
映像は、かなりいいです。さっすがCloverWorks。
若干あざとさの残るキャラデは好き嫌いが分かれるかも知れませんが、
ぐりぐりとよく動くし、作画もきれいに統一されてます。
ただし、忍者バトルみたいなアクションシ-ンはめったにありません。
かなりOP詐欺の香りがしてたのですが、最終話でなんとか持ち直しました。
いったんバトルになると、構図もいいですし、迫力も十分かと。
あと、忍術の描写、けっこうかわいいです。
どこがどうかわいいかは本編をごろうじろ。
キャラクターは、可もなく不可もなく。
主人公のツバキと中盤から参加するリンドウ以外、
テンプレに毛をはやしたのをずらり並べているのでお好みでどうぞ。
ネタバレレビューを読む
音楽は、OPと劇伴には文句のつけようがなし。
とりわけOP、the peggiesの『ハイライト・ハイライト』は絶品です。
世界観もドンピシャだし、映像とのマッチングも最高レベルかと。
かたやEDの『あかね組活動日誌』は、なんだかなあ、です。
『くノ一ツバキの音合わせ』という制作プロジェクトの元、
毎回、別々の班が、それぞれに合わせた歌詞・編曲で歌うのだけれど
僕の耳には『かげきしょうじょ』の劣化版、
それもあざとさ増し増しバージョンにしか聞こえてきません。
サントラ作るとき、いちいちキャラソン起こさなくていいっしょ、
みたいなソロバン勘定なのかも知れないけれど、
たぶん、よっぽどディ-プな人しか買わないと思うよ。
で、役者さんのお芝居なんですが、
僕の耳にはツバキ(夏吉ゆうこさん)とリンドウ(小原好美さん)が、
『キャラ立ち』という観点で突き抜けちゃっています。
他のメンバ-は、正直、適当にシャッフルしても作品は成り立つけれど、
この二人だけは『替えが効かない』レベルにあるなあ、と。
この点については、
言いたいことが多くてけっこう長くなりそうなので、
こっから先はネタバレで隠しておきますね。
(読まなくてもぜんぜん問題ありません。興味のある方だけ、どうぞ)
ネタバレレビューを読む
ちなみに、タイトルにも書きましたがツバキの忍者服、かわいいです。
俗にいう忍び装束とは天と地ほどかけ離れたデザインなのですが、
なぜかちゃんと『くノ一』に見えるんですよね。不思議ふしぎ。
黒のピタピタT半袖シャツと、同じく黒の三分丈スパッツがあれば、
あとは誰でもわりとカンタンに作れそうだし、
コスイベントなんかでけっこう出てくるんじゃないかしら。
なお、Tシャツもスパッツも俗にジャ-ジと呼ばれる丸編み素材で、
江戸時代には影もカタチもありません。
いわゆる『横編み』は水戸光圀の時代からあったらしいけど、
丸編みは明治42年にスイス製丸編み機が和歌山に5台輸入されたのが
最初だと言われています。
ただし、そもそも『くノ一』の存在そのものが時代考証ぶっちぎってるので、
本人さえ良ければそれでよし。
おへそとおでこに自信のある方、よろしかったらお試しあれ。