101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.1
全ては人の心の中にある
妖怪、鬼、怨霊の類いを討伐する伝奇作品は多い。
あやかしを悪とする勧善懲悪のエンターテイメント作品から、
あやかし側の論理まで斟酌して価値観を揺さぶる作品まで様々ですが、
退治する対象を“神魔”と仮称したこの88年OVA作品はどちらかと言うと後者の部類。
さらに本作はあやかしに対する人間の認識論にまで踏み込んでいるのが特徴的。
よくお化けやUFOが実在するか否かの論争にて、しばしば科学サイドからは、
そんな物は人間の脳が作り出した錯覚、幻に過ぎないとの主張が投げ込まれ、場が荒れますがw
本作は人間の認識があやかしの実像を、己の願望も交えて、歪めて捉えたりもする。
認識と実在の狭間をも伝奇世界の不思議として描く懐の深さを見せます。
“神魔”という呼称には、太古の昔は神として崇められることもあった存在が、
仏教、キリスト教等の世界宗教の流入等で邪なものに解釈し直された。
こうした宗教観、歴史観が滲み出ています。
神魔を討伐する“吸血姫”という存在も、
一般的に語り継がれているヴァンパイアの在り方とはズレがあります。
主人公“吸血姫・美夕”についても、美夕を追う女霊媒師の視点で捉える、
狂言回しを用いた手法で描かれ、美夕の存在すらも固定的ではありません。
こうして古都・京都、鎌倉という舞台が持つ神秘性もスパイスしつつ、
視聴者の認識に繰り返し問いかけることで、思索の迷路に誘い込む。
妖しい魅力を持った作品でした。
BGMは川井憲次さんが担当。
音楽の力を過信した昨今の例に漏れず、
最近は川井さんのBGMもフロントセンターに進出して感動を煽ることを余儀なくされていますがw
本作は正しくバックグラウンドミュージックに徹する良い仕事しています。