フリ-クス さんの感想・評価
3.9
無情に立ちはだかる『性』の壁
僕が大学時代に知り合った、ある女の子の話。
その子は高校時代、軟式テニスで県のベスト4までいったそうです。
で、キャンパスで一緒に歩いてるとき、
ふつうに感心して「すごいね」と言ったら、
ん~、でもまあ『負けて終わった』ことには変わりないしね。
結局さ、『勝って終わり』たかったら、一番になるしかないんだよ。
負けて終わったら価値がない、なんて言うつもりはないよ、もちろん。
でもさ、やっぱやる限りは、勝って終わりたいんだよ。
少なくともわたしはそう思ってやってきた。勝手な言い草だけどさ。
なんてことを言われました。
ちっこくて可愛い顔してるくせに、すげえやつだなあ、と。
照れくさそうにそんなことを語る横顔が、とても眩しく見えました。
卒業して何年かたち、久々に再会して彼女にその話をすると、
わたし、そんな偉そうなこと言ったっけ?
なんて、OLさんらしい、少し疲れた顔で笑っていました。
言ったんだよ。
俺、猛烈に憧れたんだよ。
だから、そんな何かをあきらめたような顔で笑わないでくれ。
閑話休題。
本作はあの大ヒット作『メジャー』の新シリーズで、
最初のシリーズで登場したキャラの息子さんだの娘さんだのが、
ごちゃごちゃ悩みながら青春する野球アニメです。
第一期は小学生編でしたが、
第二期にあたる本作からは中学生編となり、
女子が大勢を占める男女混成野球部の悪戦苦闘ぶりが描かれています。
そしてその『男女混成』であることが、
この第二期からのキモ的な位置づけになっています。
女子野球をモチ-フにしたアニメはこれまで何本も制作されていますが、
僕的な感想としては、ろくなものがありません。
ど素人の寄せ集めが、あたりまえ程度の練習をしただけで強豪とタメ。
運動部とは思えないキャッキャウフフのオンパレード。
仲間・友情ワ-ドのたたきうり。
少年野球レベルの考察・戦術がなぜかどハマり。
などなど、野球なめとんか展開がてんこもりなんですもの。
要するに、これまで女子野球というのは『色モノ枠』だったんです。
その点において本作は、
男女混成チ-ムでありながらも過剰な『萌え』に走らず、
生理学的ハンディにめげず野球に取り組もうとする女の子の姿が、
おおむね真面目に描かれています。
その『生理学的なハンディ』については、
長くなりすぎるのでネタバレで隠しておきますね。
興味のある方だけ、どうぞ。
{netabare}
女の子と言っても、小学生までは男子とそんなに性差ありません。
少年野球でも女子エ-スだの四番だのをたまに見かけますし、
うちのバカ息子が三振とられたこともあります。
チ-ム内で太鳳、弥生、アニータ、千里の四人は、
名門のリトルチ-ムでレギュラー格だった設定になっています。
それって、小学生時代は並みの男子より遥かにうまかった、ということなんです。
ですが、第二次性徴がはじまると男子は筋肉が大きく発達し、
生理学的に大きなハンディがついてしまいます。
男子の第二次性徴が始まるのは平均で11歳6か月ですから、
小学校五、六年生あたりですね。
ただし、筋肉の発達は12段階ある性徴の9番目ですから、
もちろん個人差はあるものの、
やっぱり中学生時代というのが性差のつく分水嶺になります。
作中で太鳳が「シンデレラの魔法は解けちゃってる」と言いますが、
そう自虐的になってもおかしくないぐらい、
体力・筋力に差がついてしまうのがこの頃なんです。
技術力や経験値で並程度の男子チ-ムには勝てても、
ガチでやっている男子チ-ムにはボコボコにされてしまいます。
ちなみに、日本女子プロ野球選手の遠投平均は72mちょいぐらいです。
中学男子だと下位チ-ムでも80m以上投げるのが普通にいますし、
強豪チームだと90m投げても「おっ、いい肩してるね」程度の評価。
女同士の戦いに置き換えると、
たとえ地域の二~三回戦程度であっても、
身体能力的には中学生がプロ野球チームと試合するようなものなんです。
しかも、強い男子チ-ムにはしっかりした指導者がいて、
理論的にも強度的にも充分すぎるほどの練習を重ねていますから、
技術的にも相手の方が上、というのがほとんどです。
{/netabare}
対戦する相手チームも、
こちらの先発に女子が六人もいることから、
最初はなめきって試合に臨みます。
そこをひっくり返して勝つところが「ざま~みろ」なのですが、
強豪相手にはそう上手くいきません。
{netabare}
リトル出身者が四人(うち一人は女子)いる大尾中学には逆転負け、
名門と言われる辻堂中学が相手ともなると、
10点ものハンディをもらいながら逆にコールド負け。
{/netabare}
そのあたり、女子が男子と混成でやるリアルな姿が描かれています。
ガチな男子チ-ムに10年に一人の天才女子がぽつんと混じる、
という構成なら話は別ですが、
先発の6~7人が女子のチ-ムなら、それでも「よくやっている」方なわけで。
物語は、いまのところ、
そうした『男女の壁』に悩みながらも部活に励む、
思春期男女の群像劇として進行しています。
チ-ム内女子の考え方も一枚岩ではなく、
負けたくない、絶対に勝ちたい、というアニータ、
男子には勝てないけど同じ女子には負けたくない、という弥生、
『適当でいいじゃん』と『熱血』の間をふらふらしている太鳳、
あまり深く考えてないけど一所懸命、のその他、
など、まさにバラバラという感じですね。
さらに、彼女たちを引っ張るキャプテンの大吾が、
あの滋野吾郎の息子とは思えないぐらいメンタル弱いです。
ふだんはわりといいこと言ってるのですが、
いったん躓くと、すぐ自分の殻に入ってヒッキ-化してしまいます。
部活の先輩が一斉退部でキャプテン指名された時も、
いきなり猛練習はじめて一部の部員からそっぽ向かれた時も、
しっかりせいよおいこら的な。
最悪なのは辻堂戦で光と再会したとき。
{netabare}
光が後遺症でピッチャーができないと聞かされて上ずってしまい、
凡フライをピッチャーとお見合い、
リ-ドが小さいだけで初見の相手の盗塁ノ-マ-ク、
ショ-トからの牽制サイン見落とし、
肩に力入りまくりのピッチャーに声掛けもなし、
楽々ダブルスチール決められ、送球も甘々。
というていたらく。
光が「まあ女子会がんばって」などと突き放すような皮肉を言ったのは、
チ-ム全体を揶揄したのではなく、
再会を楽しみにしていたのに甘々プレイ連続の大吾個人に言ったのですが、
伝わるわけもなく、またまたヒッキ-化。
しっかりせいよおいこら。
{/netabare}
そうしたメンバーが「とりあえず頑張ろう」と一致団結したところで、
第二シリーズは終わります。
原作はまだまだ続いているので、長期作品になりそうですね。
おすすめ度といたしましては、
テ-マに共感・関心が抱ける方にはAランク、
ガチ野球アニメが好きな方や、逆に萌え萌え野球大好きっこにはBランク、
野球なにそれおいしいのという方にはB~Cランクといった感じです。
映像はけっこうきれいで、野球の動作フォ-ムもそれなりです。
監督は映画『ドラえもん』で有名な渡辺歩さん。
この方は『グラゼニ』の監督やったりもしているのですが、
いまいち野球には詳しくないようです。
{netabare}
完全補給してからゆっくり腰上げても二盗なんか刺せね~よ。
その角度で上がって中学生の外野ポジションならフェンス際は背走キャッチだよね。
全投手に対して同じグリップ同じスイングってなに。
みたく、思わずツッコミたくなる演出が散見されます。
心情を深く描くため原作にないエピソードを色々と追加しすぎて、
物語の進展にドライブ感が薄かったりもしますし。
最悪なのが前半ク-ルのED映像で、
そんなのどこで売ってんだと言いたくなるようなワンピースを女子が着て、
お花畑のなかで楽しく『球遊び』。
べちょっとしたボーカル曲がそれに重なって、痛いことこの上ありません。
もはや『色モノ扱い』以外の何ものでもなく、
このEDを見て、
あ、要するにこれってそういうアニメなのね
と判断した方が少なくないと思います。
{/netabare}
というわけでいろいろと難ありの本作ですが、
僕は個人的に応援しています。
こんな難しいテ-マをどう転がすのか、ぜひ、続きが見てみたい。
野球というのはすごいバッテリーがいて縦の守備がしっかりしていれば、
ある程度は何とかなる、という側面があります。
だから、女子が多いからといって、
最初から『絶対』あきらめなきゃいけないという決まりはありません。
そしてなにより、
同じ球技で彼女たちが本気で男子と張り合えるパーティは、
これが本当の『ラストダンス』なんです。
大人になった彼女たちはこの時のことを思い出し、
いや~、あの頃は若かったねえほんと
なんて、照れくさそうな苦笑いをすることでしょう。
本気で笑い、泣き、汗を流して挑めるのって、この時しかないんです。
だから目一杯がんばって欲しい。
たとえ未来の自分がどんな言葉を語るようになるのだとしても。
そして、結果に関わらず、
胸をはって笑って生きて欲しい。
それだけが、偉そうで恐縮ですが、僕の身勝手な、切なる願いであります。
この作品に対しても、
いま何かにがんばっている、すべての方々に対しても。