2023年度の不気味アニメ映画ランキング 1

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69.0 1 2023年度の不気味アニメランキング1位
君たちはどう生きるか(アニメ映画)

2023年7月14日
★★★★☆ 3.6 (62)
301人が棚に入れました
宮崎駿監督が「風立ちぬ」以来10年ぶりに手がける長編アニメーション作品。
宮崎監督が原作・脚本も務めたオリジナルストーリーとなり、タイトルは、宮崎監督が少年時代に読み、感動したという吉野源三郎の著書「君たちはどう生きるか」から借りたものとなっている。
ネタバレ

薄雪草 さんの感想・評価

★★★★★ 4.5

宮崎駿氏の天命か、ジブリからの報奨か

冒頭、久しぶりのトトロの絵に、時代の流れを感じました。
そして、心なし、佇まいがしゃんとなる自分が可笑しく思えました。

10年ぶりを噛みしめるのは、捉えどころのない官能感です。
120分の長座ですが、満喫も堪能も、一期一会として欲張りました。

~  ~  ~

官能というと、何やら妖しげです。

言うなら、根源的な生命の営みに "ブルルッ" と震えてみたり、奇遇な縁に "カヘヘッ" と歓んでみたり。

五感の昂ぶりに浮き沈みする記憶の疼きだったり。
甘やかな陶酔感だったり、色さえ失う極致感だったり。

宮崎氏のペンタッチは、いつだって逞しい想像力と類を見ない表現力で踊っています。
彼の絵コンテは、どんな風にもファンタジーのフィルムに花と宝石をちりばめています。

2013年9月、氏は引退宣言をします。
でも、アニマを形にせずにはいられない職人でもあります。

その10年もの筆まめが本作品です。
ついに日の目に適うクオリティーに仕上げられたということでしょう。

その集大成という触れ込みです。
一見の価値、一考の余地が十二分にあるはずと、居ても立っても居られませんでした。

~  ~  ~

さて、感想です。

「アニメーションにはアニメーションで返したい。」
そう声に出るほどの強い思いに当てられました。

羨望に応えてくれたのは、底なしの想像へのアプローチでした。
憧憬に見てとれるのは、底ぬけの創作へのトリビュートでした。

ここまで求めてこれた・・。
ここから始めていければ・・。

その非凡さで、宮崎氏は地球儀を回していく。
のぼる朝日に刮目し、沈む夕日に目尻を細めるのです。

~  ~  ~

驚いたのは、時空の縛りに囚われないクリエイターとしての気迫と、一期一会にまみえる商才とのイニシアチブコンフリクトが見られたことです。

端的に申し上げれば、10年余の時計の巡りに問いかける宮崎氏のリアリズムに対して、なんの手間もかけない告知と番宣に工夫を入れた鈴木氏のスピリットの衝突です。

この話題性は巷を盛り上げましたね。
衆口一致の第一歩は、うまく踏み出しているように感じました。

とは言え、正直なところ、お二人の歩調に合わせるのは、かなりの骨折りでした。
でも、両者のバトンワークの "妙" は、胸に沁みこむような "種" にもなりました。

~  ~  ~

ストーリーを追うのなら、参考に足る本がいくつかあります。
ただ、私はそれらを読んでいないので、あからさまな情報弱者です。

君たちはどう生きるか?
この問いかけは、わたしは何のために生まれ、何を成し遂げるのか?に反射されます。

ナウシカ、シータ。
あなたたちは、どんな風に乗っていたのでしょう?

さつき、千尋、雫。
あなたたちの瞳には、何が映っていたのでしょう?

生と死、光と影。
大人と子ども、個人と社会。

その構造にうかがえるビジョンは、内心に矛盾を満たしながら、外界との衝突は否めないものです。
もしも、前後左右を見回すのなら、大地に居場所を定め、風に帆を立てねばならないでしょう。

目にそびえ立つ障壁を、どう乗り越えるか。
耳をざわめかせる喧噪と、どう折り合うのか。

主人公たちの気構えに心を寄せながら、愛を打つ試金石に自分を重ねるような小旅行でした。

~  ~  ~

主人公の少年・牧眞人は、宮崎駿氏の生き方をトレースしているようでもあるし、高畑勲氏の生きざまを映しているようにも感じます。

だから、既存の作品を手元に引き寄せながら、一つひとつの演出を論じるもよいでしょう。
あるいは、新境地と割り切って、いわく言い難い思惑やもと酔いしれるスタンスも良きです。

お二人が、畑を深くたがやし、丹念に水を蒔き、たわわに実らせてきた果実の結晶です。
次代につなぐリュックに詰め込んで、さぁ君たちの番だとエールを送っているようです。

~  ~  ~

鳥たちは不思議な存在です。

クリエイティビティに躍動し、自己と集団とをぐいぐいと主張しています。
生きるために蜜を求め、華やかな社交場や煌びやかな勲をずかずかと欲しています。

閉じられた門を開こうとし、高い空へと羽ばたこうともし、逸る気持ちにそれぞれのオープニングを飾ろうとしています。

ついにその塔は形を失せ、力を失ってしまいますが、それでもジブリのマジックを存分に受け取れとばかりのオーラを放ち続けるのでしょう。

鳥たちの羅針盤になり、置き土産となり、止まり木ともなるのならという祈りを、その残滓に潜ませてあるように感じました。



~  ~  ~

過去を省み、未来を鑑み、さて、今日のわたしはどのように過ごしていきましょうか。

斬新なインスピレーションにハミングを楽しんだり、軽やかなミームに囲まれて暮らしを彩ったり。


生きろ。
生きねば。
生きていく。


素晴らしいアニメーションには、素晴らしいアニメーターたちがお返しをしてほしい。

今は、ただそう願うばかりの私です。



おまけ
{netabare}
パンフレットを販売初日に買い求めました。

一読して・・・? 再読して・・・?? 

再々読して・・・???

アニメ本体にも勝る衝撃!!!


絵コンテから始まるという宮崎氏の "原石" なのか
マーケティングにかけるジブリの "新境地" なのか。

とにかく何かものすごい秘密を覗き見たようで、思わずのけぞりました。


今では、その報奨にすっかり畏まっています。
{/netabare}

投稿 : 2024/11/09
♥ : 17
ネタバレ

nyaro さんの感想・評価

★★★★★ 4.7

考察は無力。エロスとタナトスについて感じればいいと思います。

 この作品、ネタバレ禁止、イメージ禁止でしたが、これは戦略というより苦肉の策でしょう。だって、紹介の仕様がないですこんな話。別に悪いというわけでは無いです。まあ、どういう意味かは見た人ならわかると思います。

 1回しか見てないです。それで思ったのはこの作品の考察はすべて役に立たないと思った方がいいです。解答を欲しがっては駄目です。自分で考えるから意味が出ると感じました。なので、これから書くのはたわごとだと思って下さい。

 さて、本作の1つ目にして最大のひっかかりポイントは、ここまで露骨なプライベートなストーリーが映画作品として許されるかどうかという問題です。
 少年が疎開する、父親が飛行機工場を経営しているというのは宮崎駿の子供時代そのままでであることから彼を投影している作品というのはわかります。

 が、あまりにも露骨に散りばめられたジブリ作品要素が沢山あります。王蟲の風防から始まって、トトロの森のトンネル、もののけのコダマ、ナウシカの菌糸、紅の豚の飛行機(船)の列とか庭園のガゼボ、最後の方のカリオストロなどです。多分全作品分あるのでしょう。それはデータベース的な楽しみとして私は嫌いですけどいいとします。が、 {netabare}13の積み木は駄目{/netabare}でしょう。自分の業績をたたえているだけ。本物は俺の作品しかない、と言っているように見えます。

 これは私小説ですらない何かなのではないか?と思ってしまいます。私小説は体験をそのまま描くにしても、少なくとも作品世界の登場人物として描く必要があると思うのです。
 が、本作のこの部分、過去作を連想させる要素は、ジブリ作品を見ていること、宮崎駿という人間を知っていることを強要しているように感じました。もし本作を視聴するのに、外面的な宮崎駿像を知っていないと読み取れないものがあるとすれば、まともな映画作品ではないと思います。
 本人が私小説と言っているわけではないですが、じゃあ、この部分について我々は何を見せられているんだ?という話です。

 これが「宮崎駿物語」とかいう題名で、露骨にそういう話だよと言われているなら分かりますが、本当にこれが劇場用アニメとして許されるのか?という疑問がわきました。

 そして、鳥ですね。どういう文脈でつかわれているか、というと、やはり目だと思います。なにを考えているかわからない不気味な目です。インコが顕著でしたが、インコ=大衆あるいはインコ=ジブリ社員とも見えました。あの塔はどう考えてもジブリを表現していると思います。

 本が沢山あった意味は何かです。ジブリがアーカイブ化したということでしょうか。アオサギは鈴木敏夫氏にしか見えません。少年と最後の老人は両方とも宮崎駿かなあと思いました。


 2つ目。継母と実母の描き方です。これはすごかったですね。テーマとしてはこちらの方が優れていましたが、これが宮崎駿の内面なのかは分かりません。
 冒頭の主人公が寝てしまったときの継母が見せた表情はぞっとしました。あの和洋折衷の屋敷の不思議な感じと描写の美しさ。7人の小人=老婆=妖精のようなイメージ。すべてが高レベルでした。

 夜の自分の知らない両親の顔。妊娠や寝顔や作りものの肉体など、継母から感じるエロスはものすごかったです。手塚のケモナーに対応するのは宮崎氏はロリコンだと思ってましたが、継母=近親相姦的な想いもあったのでしょうか?
 実母と同行した老婆についてです。{netabare}あの老婆が若返った姿などもひどくパワフルな描写でした。あのよぼよぼの老婆の昔を知る意味。実母についてはエロスというより、実母にも若くて可愛い時期があったという、人間の時間経過の不思議な感覚が良く描けていました。その母と胎盤のアナロジーである石室に入るのはエロいですけど。つまり、人間の生まれてから死ぬまでについて、特に家族の年齢について感じる不思議さ、エロさがイメージされました。{/netabare}

 この点をしっかり描けていたので、私小説的な不満が気にならなくなるわけではないですが、ここはさすがジブリという描写でした。もちろん冒頭の火災のシーンはすごかったですが、ちょっと風立ちぬの震災のシーンの焼き直しに感じました。


 3つめ。エロスとタナトス。海のイメージと弱肉強食的な生命の循環、昇天=成仏=生まれ変わりのイメージ。魚の解体と内臓。巨石の墓、地下世界という黄泉的な映像。船は言語的には女性のイメージでもあります。弱ったペリカンに対する視点の切り替えなども印象的でした。
 
 一つ一つの意味性を考察するより、こういったエロスとタナトスを象徴するイメージが見事に描かれていました。これは良かったですね。恐らく神話とか美術作品などから引用したと思われる映像が沢山ありました。私は全部ひろいきれませんでしたが、ここで見せた生死観は素晴らしかったです。

 不思議の国のアリスのようなワンダーランド的な冒険譚と、あの世を旅する神話のようなイメージが見事に融合していました。


 で、最後にタイトルですけど、これはまあ訳わからないですね。別に解説も聞く必要もないです。「君たちはどう生きるか」と宮崎駿が問いかけられて、ジブリを作る=映画に人生を捧げてきた。それが自分にとっての真実だったという話かな、と思っています。正解じゃなくて全然かまいません。

 多分もう1回見れば、それっぽい事を沢山かけると思いますが、やっぱり1回に留めて、上の2番目と3番目のポイントを感じてモヤモヤするのが大事かなと思います。ただ、うーん。もう1回…迷いどころですねえ…

 しかし、この作品は考察すればするほど意味性が出てきてしまい、その分作品を見た意味が希薄になる気がします。

 ただ、そうか。レビューを書いてて気が付きましたが「君たちはどう生きるか」は、「君たちは」ですから人から答えを貰うんじゃなくて自分の体験や感性で考えろ、かもしれません。つまり、宮崎駿氏としては「どう生きるか」は自分で考え続ける事だから、この作品がどういう作品かはそれぞれが感じてくださいという意味かもしれません。
 つまり「どう生きるか」とは考察で教えてもらうな=視点や解答を外部に求めるな、ということかもしれません。

 うん。やっぱり宮崎氏の生い立ちや経歴・家族なんかを分解したり、アニメーターとしての影響とか、過去作その他がどこに反映しているかを見つけても、意味はなさそうです。逆にそれらは反映しているでしょうがそれは宮崎氏の「サイン」でしかない気がします。私小説と取られて仕方がないとは思いますが。

 作画はものすごいですけど、そっちの印象よりストーリーというか視点の切り替えが早いので、そちらに気を取られてどこが凄いのかははっきり覚えていません。

 なお、2週間以上前に見てすぐに書いた他の映画サイトのレビューにはかなり低い点数つけました。が、こうやって時間がたってから考えると印象も変わるし不思議な余韻があるので、文学的な味わいでは優れていたと思います。

 ただ、総合点は2点で十分と思えば、それも正しい気もします。




 

投稿 : 2024/11/09
♥ : 14
ネタバレ

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

流石にこれで最後だと思った宮崎駿監督の集大成

(※内容は先日某所で投稿した内容とほぼ同じになります)

私は、あらすじ程度は踏まえないと何も語れないでしょ?との方針の元、
“ネタバレなし”レビューを核心部分はタグで隠した上で投稿しています。

ですが本作は、あらすじはおろか、キャストや、ジャンル等、公開前に事前情報がほとんど伏せられた作品なので、
本レビューは全面的にタグで隠させて頂きます。


レビュー前に、劇場鑑賞した雑感だけ

面白いの?……良作。劇場鑑賞するだけの価値は十分あったと思います。特に作画、音響面。

傑作なの?……自分の中では良作止まり。2023年マイベストアニメ映画も今後、良作公開が続けば本作はベスト10に入れるか微妙な位。
マイベストジブリ映画という観点でも、ほぼ良作以上しかないジブリ作品の中では本作は下位グループ。

オススメなの?……宮崎 駿監督作品が好きならオススメ。が、“国民的アニメ映画”になり得るかは不透明。近作の『ポニョ』や『風立ちぬ』から何かを感じられる方じゃないと厳しいかと。

ここまで事前情報隠した意味あるの?……ある。事前公開設定で苦手かもと“ゼロ話切り”する風潮下では、ジャンルどうなるのか?というワクワク感も貴重なエンタメ体験ではないかと。


以下レビュー。
{netabare}
【物語 4.0点】
一応のジャンルは異世界転生物。神隠し物。
生きづらさを抱える少年・眞人(まひと)が冒険を経て、現世で生きる糧を得る典型的なジュブナイル。

『千と千尋~』ではこっちの世界の場面など数分でしたが、
本作では現世に当たる戦時中の日本での悶々とした少年の葛藤の描写にも多くの尺が取られ、
現実世界で数多く張られた伏線が、ファンタジー世界の動向を左右する際に回収されるプロット構造。
現世と異世界を行き来するカットもあります。

疎開先のお屋敷での淡々とした日常描写が続き退屈する可能性もありますが、
公開前にジャンルなどの基本情報も伏せたことで、どこでファンタジーに転換するのか?
という期待が鑑賞の集中力の源になった面も大いにあり、
その点では「情報がないことがエンタテイメントになる」との鈴木プロデューサーの目論見は外れてはいないと感じました。

事前公開ビジュアルをアオサギに絞ったのも上策。
あの鳥人間?は何者?と誰もが気にしているアオサギに、
ファンタジーへの予兆を集中させるプロデューサーと監督のタッグによる誘導も機能していました。


現実とファンタジーにまたがる世界観には、過去作を思わせる要素も詰っており、
これまでの宮崎駿監督作品の中でも一際、集大成感がある作品でもありました。

ただ、私は嬉しさより、これで本当に最後になるのだろうなとの寂しさの方が上回りました。
作品メッセージも私には、要は本の世界やファンタジーにこもってないで、
現実世界でちゃんと生きなきゃダメだよという既視の説教の再生産にも感じました。

次世代の作り手たちが発信してきた内容と同様のテーマを、
企画段階で同時期に構想しても、6年以上の制作期間を費やす内に、トレンドからは乗り遅れた感。

新しい作品を生み出す役割は、次世代に託されたのだなと思いました。


この種のジュブナイルやテーマが好物であるはずの私が、
鑑賞後モヤモヤしてしまった心理を自己分析すると大体こんな感じでしょうか?

ま、正直、『ポニョ』を越える考察難度に私の頭が付いていけなかったという説が有力
なんですけどねw


【作画 5.0点】
IMAXレーザーにて劇場鑑賞。

作画は手描き重視。
CGはおびただしい数の鳥の大群の処理など補助的に用いられる程度。
(アオサギだけじゃなく、ペリカン、インコと鳥超特盛りですwヒッチコック級のトラウマですw)

日常のちょっとした場面での人体の動きへの宮崎 駿監督の飽くなき探究心は健在。
精密に設計した機械や建物を構築しては壊す趣味も相変わらず。
今回は(※核心的ネタバレ){netabare} 「下の世界」を丸ごと{/netabare} 壊してしまったので、スケール面では過去最大ですね。
これを実現するため背景にまで作画を入れる人員や労力は厭いません。
(原画陣に米林 宏昌監督らが入ってるってどんだけ戦力豪華なのかとw)

ジブリが内部保持し続けた大量の手描きマンパワーは、
近年の新海誠監督作品など、作画カロリー大量消費プロジェクトを回す支援部隊としても重宝してきましたが、
宮崎 駿&高畑 勲両監督がアニメを作るため設立したスタジオジブリが役割を終えた後、
この人的資源を今後も継承活用するのか、新たな技術等で代替するのか、
次代のアニメ業界の割と大きな焦点です。


【キャラ 4.0点】
主人公少年・眞人(まひと)
良家のボンボンですが、怪鳥?を狙撃するため弓矢を自作したり、
女を助けるため弦をつたって壁面をよじ登ったりと、
アシタカ、パズー級の逞しさも垣間見せる少年。

ただメンタル面は梅雨入り真っ只中。
眞人は実母・久子を空襲で亡くした過去を消化しきれず、
新たに義母となる久子の妹・ナツコとも折り合いが付かない。

時は喰えるか、生きられるかの戦時中。
相対的に贅沢なお坊っちゃまの悩みを抱えて、
自分だけ苦しいみたいな面をぶら下げて國民学校に登校しても上手くいくはずもなく。

義母や学校から逃避するように、眞人は、
{netabare} 同学との喧嘩で負った傷の上に、自ら石で側頭部を殴りつけ大怪我をする{/netabare}
という悪意ある自演により部屋と自分の心の扉を閉ざそうとする。

眞人の自己嫌悪の原因にもなっている自身の悪意や嘘。
もはや眞人の傷心に寄り添えるのは実母が遺した『君たちはどう生きるか』などの本の世界くらいしかないのか?

現世と乖離しつつある眞人の心理状態は、
{netabare} かつて本の世界に吸い込まれるように「下の世界」に誘われ、
今は「下の世界」の調律者となっている大叔父様にとっては、
「下の世界」の役割を託せる逸材に映る。{/netabare}

主人公を始め、現実とファンタジーを橋渡す人物像は練り込まれています。


{netabare} 「上の世界」では女中の老婆陣の一人、「下の世界」では命の源“わらわら”を世話する逞しい女性である、{/netabare}
キリコなど、女性や老人が元気なのも如何にも宮崎 駿監督作品。


【声優 3.5点】
主人公・眞人役で初主演を務める18歳の若手俳優・山時 聡真さんを始め、
キャスト陣は俳優・タレント・歌手・モデルで固める。

集大成として、木村 拓哉さんを特別出演させるなど、過去作のキャストの名も見られますが、
過去のジブリ出演声優も含めて、アニメ声優をメインから外す近年の方針は徹底して変わらず。

出演タレントのTV番組での宣伝など、事前の話題作りをやらなかった本作でこのキャスティング。
晩年の宮崎 駿監督の声優軽視を越えた声優無視の意図が私にはサッパリ分かりません。

この辺りを少し追記すると、
宮崎駿監督自身は木村 拓哉さんの演技を純粋に必要として起用したのでしょうが、
私には過去作のキャストも起用して大団円の流れだと思ったのに、
声優はあくまで外すなんて、キムタク出すなら田中 真弓さんや高山 みなみさんも出せよムキー!となった感じ。
独りよがりな要望でしたね。スンマセン。

ただ、例えばナウシカ役の島本 須美さんにナツコを演じさせたら、
俗世は汚れているけど、私は汚れた世界で生きていくといった感じで、
コミック版『ナウシカ』とシンクロして粋なキャスティングになったのでは?
と欲が出たりします。



主演の山時さんなど発声は卒がなかった印象。
怪鳥?アオサギ役を怪演した菅田 将暉さんの濁声には独特の味わいがありました。

ただ炎の魔法少女・ヒミちゃんには歌手・あいみょんではなく、
“ちゃんとした声優”で萌えたかったですw


【音楽 4.5点】
劇伴担当は久石 譲氏が定番のピアノとストリングスを提供。

ですが「下の世界」へ旅立つ前の日常シーン等ではBGMは多用せず、
時に無音の中で、異音を鳴らして、ファンタジー世界へ誘う違和感を演出。
IMAXの恩恵は、作画だけでなく音響、特に効果音の面で強く実感しました。


ED主題歌は米津 玄師さんの「地球儀」
4年前にスタッフ側から打診され、監督からコンテを渡されて練り上げたバラード。
節々に、作品を捉えたワードは感じましたが、
何分、事前情報が少なすぎたので、私は作品も本曲もまだ咀嚼し切れていません。{/netabare}

投稿 : 2024/11/09
♥ : 12
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