薄雪草 さんの感想・評価
4.5
宮崎駿氏の天命か、ジブリからの報奨か
冒頭、久しぶりのトトロの絵に、時代の流れを感じました。
そして、心なし、佇まいがしゃんとなる自分が可笑しく思えました。
10年ぶりを噛みしめるのは、捉えどころのない官能感です。
120分の長座ですが、満喫も堪能も、一期一会として欲張りました。
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官能というと、何やら妖しげです。
言うなら、根源的な生命の営みに "ブルルッ" と震えてみたり、奇遇な縁に "カヘヘッ" と歓んでみたり。
五感の昂ぶりに浮き沈みする記憶の疼きだったり。
甘やかな陶酔感だったり、色さえ失う極致感だったり。
宮崎氏のペンタッチは、いつだって逞しい想像力と類を見ない表現力で踊っています。
彼の絵コンテは、どんな風にもファンタジーのフィルムに花と宝石をちりばめています。
2013年9月、氏は引退宣言をします。
でも、アニマを形にせずにはいられない職人でもあります。
その10年もの筆まめが本作品です。
ついに日の目に適うクオリティーに仕上げられたということでしょう。
その集大成という触れ込みです。
一見の価値、一考の余地が十二分にあるはずと、居ても立っても居られませんでした。
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さて、感想です。
「アニメーションにはアニメーションで返したい。」
そう声に出るほどの強い思いに当てられました。
羨望に応えてくれたのは、底なしの想像へのアプローチでした。
憧憬に見てとれるのは、底ぬけの創作へのトリビュートでした。
ここまで求めてこれた・・。
ここから始めていければ・・。
その非凡さで、宮崎氏は地球儀を回していく。
のぼる朝日に刮目し、沈む夕日に目尻を細めるのです。
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驚いたのは、時空の縛りに囚われないクリエイターとしての気迫と、一期一会にまみえる商才とのイニシアチブコンフリクトが見られたことです。
端的に申し上げれば、10年余の時計の巡りに問いかける宮崎氏のリアリズムに対して、なんの手間もかけない告知と番宣に工夫を入れた鈴木氏のスピリットの衝突です。
この話題性は巷を盛り上げましたね。
衆口一致の第一歩は、うまく踏み出しているように感じました。
とは言え、正直なところ、お二人の歩調に合わせるのは、かなりの骨折りでした。
でも、両者のバトンワークの "妙" は、胸に沁みこむような "種" にもなりました。
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ストーリーを追うのなら、参考に足る本がいくつかあります。
ただ、私はそれらを読んでいないので、あからさまな情報弱者です。
君たちはどう生きるか?
この問いかけは、わたしは何のために生まれ、何を成し遂げるのか?に反射されます。
ナウシカ、シータ。
あなたたちは、どんな風に乗っていたのでしょう?
さつき、千尋、雫。
あなたたちの瞳には、何が映っていたのでしょう?
生と死、光と影。
大人と子ども、個人と社会。
その構造にうかがえるビジョンは、内心に矛盾を満たしながら、外界との衝突は否めないものです。
もしも、前後左右を見回すのなら、大地に居場所を定め、風に帆を立てねばならないでしょう。
目にそびえ立つ障壁を、どう乗り越えるか。
耳をざわめかせる喧噪と、どう折り合うのか。
主人公たちの気構えに心を寄せながら、愛を打つ試金石に自分を重ねるような小旅行でした。
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主人公の少年・牧眞人は、宮崎駿氏の生き方をトレースしているようでもあるし、高畑勲氏の生きざまを映しているようにも感じます。
だから、既存の作品を手元に引き寄せながら、一つひとつの演出を論じるもよいでしょう。
あるいは、新境地と割り切って、いわく言い難い思惑やもと酔いしれるスタンスも良きです。
お二人が、畑を深くたがやし、丹念に水を蒔き、たわわに実らせてきた果実の結晶です。
次代につなぐリュックに詰め込んで、さぁ君たちの番だとエールを送っているようです。
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鳥たちは不思議な存在です。
クリエイティビティに躍動し、自己と集団とをぐいぐいと主張しています。
生きるために蜜を求め、華やかな社交場や煌びやかな勲をずかずかと欲しています。
閉じられた門を開こうとし、高い空へと羽ばたこうともし、逸る気持ちにそれぞれのオープニングを飾ろうとしています。
ついにその塔は形を失せ、力を失ってしまいますが、それでもジブリのマジックを存分に受け取れとばかりのオーラを放ち続けるのでしょう。
鳥たちの羅針盤になり、置き土産となり、止まり木ともなるのならという祈りを、その残滓に潜ませてあるように感じました。
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過去を省み、未来を鑑み、さて、今日のわたしはどのように過ごしていきましょうか。
斬新なインスピレーションにハミングを楽しんだり、軽やかなミームに囲まれて暮らしを彩ったり。
生きろ。
生きねば。
生きていく。
素晴らしいアニメーションには、素晴らしいアニメーターたちがお返しをしてほしい。
今は、ただそう願うばかりの私です。
おまけ
{netabare}
パンフレットを販売初日に買い求めました。
一読して・・・? 再読して・・・??
再々読して・・・???
アニメ本体にも勝る衝撃!!!
絵コンテから始まるという宮崎氏の "原石" なのか
マーケティングにかけるジブリの "新境地" なのか。
とにかく何かものすごい秘密を覗き見たようで、思わずのけぞりました。
今では、その報奨にすっかり畏まっています。
{/netabare}