mikura さんの感想・評価
3.9
二人の幸せを願う。
原作は未読です。昭和27年が舞台。
友達のいない楠本頼子はクラスメイトの柚木加菜子の美しさと神秘性に惹かれ、彼女に声をかけられたことによって急速に親しくなる。
「私はあなたなの。私はあなたの前世で、あたなは私の来世」
二人は感応精神病患者のように、お互い輪廻転生しあうという妄想的世界に没入し、夜の散歩を繰り返す。
桜吹雪の中、月を背景に二人が手を取り合うシーンは幻想的で美しいです。1、2話が最高じゃないですか。
しかし耽美的な百合アニメではなかった。
これはミステリであり、ホラー、SF要素もあり、そして陰陽師の話でもある。
凄いですねこれは。まるで知識の宝石箱やぁ。
・ミステリとしての謎。
{netabare}
加菜子が中央線にひかれて瀕死の重傷を負う事件。
衆人環境の中、重傷の加菜子が病室の帳の中から消えてしまった謎。そしてその直後、医者須崎が殺された事件。
加菜子の消失と前後して各地で発見された、箱に入れらたバラバラの四肢。
頼子の母親が信じていた「御筥様」という宗教。
{/netabare}
・SF&ホラーとしての謎
{netabare}
加菜子が運び込まれた、窓がほとんどない直方体の、病院というより工場のような美馬坂近代医学研究所
の秘密。
{/netabare}
絡まりあう謎を、古本屋の主人で陰陽師でもある京極堂が「憑き物落とし」の中で解明していく。
登場人物たちの思い込みや事実誤認を修正し、妄執を取り払うと、謎であったことが自明のこととして解明され、一連の事件が整合性を持って繋がり全体像が明らかになる。
やってることは推理小説の探偵役と同じといえば同じですが、人の認知の歪み(憑き物)の修正に重きをおいているのが良いと思いました。
この作品、榎木津という探偵を名乗る人物が出てくるのですが、彼は全然推理しないんですね。
何やってるんだお前ってつっこみたくなる、トリックスター的超能力者。
小説家の関口も相当ネジが緩んでいて、最後笑わせてくれました。
戦後間もなくのレトロな雰囲気も良く出ていて懐かしい気持ちになりました。
東京通信工業の録音装置、十四年式拳銃、未舗装の道路を走るジープ、蓄音機、ステンドグラスの衝立、そして鳴りすぎる風鈴(笑)などが緻密に描かれていて、小物が効果的に使われていたと思います。
京極堂の薀蓄話も大変面白かった。
超能力者、占い、霊能者、宗教者それぞれの違いや、魍魎とされるものの解釈もわかりやすくて興味深い。このへんは原作小説の方がいいんでしょうね。
{netabare}
しかし加菜子と頼子、二人の末路が悲惨すぎる。
「黒い干物」って、あまりに具体的すぎるわ(´;ω;`)。
二人の来世での幸せを願ってやみません。
SF考察
加菜子は下半身と両上肢がなく、内臓では心臓と肺はあるものの、胃、腸、すい臓、肝臓、腎臓がない状態でした。
この時代に人工的な装置で生命維持が可能だったのでしょうか。
定期的に静脈を通して外から与えなくてはいけないもの。
高カロリー輸液(ブドウ糖、アミノ酸、脂質、ミネラル、ビタミン含む)、インスリン、副腎皮質ホルモン、エリスロポエチン、ヘパリン(抗凝固剤)。
そのほか、もちろん人工腎臓(透析装置)と人工肝臓も必要になる。
このうち昭和27年時点で、すでに発見・実用化されていたのは、インスリンとヘパリンだけでした。肝臓に至っては現在でも人工的な装置で肝細胞の働きを再現することはできていないそうです。