フリ-クス さんの感想・評価
4.1
龍(オロチ)取りを題材にした『情熱大陸』
アメリカへ海外番販に行って一番げんなりさせられるのは、
なんと言ってもレーティングの厳しさです。
なんせ「首が飛ぶから残酷」という理由でアンパンマンに年齢制限かかっちゃうお国柄ですから。
おじさんが女の子見てにんまり笑う、なんて演出も、
性犯罪を助長する危険があるとかで年齢制限の対象になります。
けんか売ってんのかこんにゃろ。
子どもの誘拐なんてもってのほか。
暴力表現や流血も基本的にご法度と考えた方がよく、
もちろん、ナイフだの日本刀だの、
武器を使ったバトルものは軒並み年齢制限の対象になります。
ただし、スターウォーズのライトセーバーはOKなんです。
なぜかというと『現実に存在しない武器』だから。
いやいや、トイザらスで
プラの日本刀とライトセーバー並べて売ってんじゃん、
とか言っても、指をちっちっちっと横に振られるだけです。
だけどまあ、それをひっくり返すと、
捕鯨はダメだけど捕龍はいいよね
という理屈が成り立つわけで。
言うことあるなら言ってみろ、シーシェパ-ド。
さて、本作『空挺ドラゴンズ』は、
ポリゴン・ピクチュアズ制作のフル3Dファンタジー作品です。
その内容を簡潔に、身もふたもなく言ってしまうと
商業捕鯨を『捕龍』におき変えた日常もの
ということになります。いやほんと身もふたもないな。
もちろん『捕龍』だから、見た目の感じはかなり違います。
{netabare}
この世界の龍は空を飛んでいるので、
捕龍船は海を渡る『船』ではなく『飛行船』ですし、
その関係で船体部を大きくするわけにもいかず、
龍を仕留めるたびにいちいち地上に降りて解体しなければなりません。
獲物を求めて仲間たちと大空の旅を続け、
龍を見つけると銛を打ち込み、追いかけ、仕留める。
地上に降りて、乗組員総出で解体し、バラした部位を積んで再び大空へ。
脂肪の部位は船内で煮込んで『龍油』を摂る。
点在する街へ降りて肉や油を換金し、物資を補給したらまた大空へ。
ほんと、その繰り返し生活です。
もちろんそれだけでは物語にならないので、
大小さまざまな事件が起こってメリハリがつくのですが、
事件が終わったらまたみんなして元の生活へ。
楽しみと言ったら食うことぐらいなので、
『龍料理』の描写やバリエーション作りにはかなり力が入ってます。
けっこう丁寧にレシピの解説もしてくれていますが、
素材がアレなので誰にも作れません。
ただ、食べてみたくなるほどおいしそうに見えることは確かです。
{/netabare}
正直、地味なのか派手なのかよくわからない作品なのですが、
少なくとも僕は、
二つの点で、最後まで楽しく観ることができました。
一つめは、物語の根幹となる龍(オロチ)取りの生活が、
緻密に、生き生きと描かれている点。
このあたりは『情熱大陸』のノリではないかと。
もう一つは、群像劇の中でとりわけフォーカスされる新米乗組員、
タキタの成長譚としての魅力で、
こちらは『情熱大陸』に加えて『銀の匙』入ってます。
『銀の匙』なんか知らね、という方のために補足しておきますと
原作は荒川弘さんで、制作はA-1 Pictures。2013年OA。
受験ノイローゼになって農業高校酪農科に進学した優等生が、
第一次産業の実情や『命を食らう』ことの意味を知り、
新たな夢に向かって仲間とともに駆け抜けていく青春群像劇。
という感じですね。大名作なのでご存じの方が大半かと。
ちなみに、どうでもいいことですが
同作のヒロイン御影アキは、僕にとって、これまで視聴してきた全アニメの中で、
ダントツ、ぶっちぎりで『理想の女の子』NO.1です。
いやほんとどうでもいいな。
酪農でも捕龍でも『生命を奪って、食らう』という本質は同じです。
{netabare}
ごく一部のベジタリアンなどを除き、
日本などの先進国に生きている方の多くは、
屠畜場の映像を見るのは御免だが、お肉を食べることはやめられない
という『業』を背負っています。
そして酪農を学んだり捕龍船に乗ったりすることは、
否が応でも、その『業』と向き合うことに直結してしまいます。
最初はタキタも、そのあたりは曖昧に考えていました。
しかし、仲間の話を聞き、いくつもの経験を重ね、
十一話では泣きながら母龍の猟師鍋を食らい、
ついに決意を固めて、誇りある言葉とともに子龍を群れに返します。
そこに大層な蘊蓄や哲学はありません。
ただ『あるがまま』です。
永遠のように繰り返される人々の営みの、ごく一部の意味を、
すとんと肚のなかへ落としただけのことです。
日頃はパックでしか食材を手にすることのない僕たちにとって、
一度は直視しておくべき『あたりまえ』のことを、
タキタは疑似体験させてくれているんです。
よく見とけよ、シーシェパ-ド。
{/netabare}
おすすめ度としては、Aランクに位置すると思います。
いやオレは手書き以外はアニメと認めん、とか、
ジェットコースターみたいな起承転結こそが物語だ、とか言う方には、
あまりおすすめできません。
あと、細かいところが気になって仕方ない方にも難しいかな。
捕龍船の甲板って、空を飛んでいるくせに安全柵がありません。
そのくせ常に命綱をつけているわけでもなく、
いやそれ落ちるだろとか思ってたら、
案の定、タキタが落っこちたりしてるわけで。
そういうツッコミどころは、けっこうたくさんあったりします。
だけど、龍取りという未知の世界、
そしてそこで奮闘する若者たちを描いた群像劇として見るならば、
他のロ-ファンタジーと比較しても出色の出来です。
タキタ役の雨宮天さんが、きゃんきゃんしたアニメ芝居ではなく、
リアルな元気ムスメに寄せているのも好感度大。
バニー役の花澤香菜さんも、やさぐれたいい味出してます。
前野智昭さん、諏訪部順一さん、関智一さんなど、
豪華男優陣のがらっぱちな感じも、リアリティきっちり仕上げてますし。
ワケありふうの男が大勢乗っているというのは、
捕龍船というよりも
なにやら『マグロ漁船』っぽい気がしますが、それは置いといて。
視聴後には、東欧の田舎カフェに座って一人で街を眺めているような、
どこか不思議な気分にさせてくれる逸品です。
見知らぬ世界で営まれる人々の暮らしに思いを馳せ、
ライ麦パンなぞかじりながら、
『生命と食』みたいなものを改めてじんわり考えてみるのも一興かと存じます。
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本作のED楽曲を提供したバンド『赤い公園』の津野米咲さんが、
昨年10月、お亡くなりになりました。
表現力あるギタリストであり才能あふれるコンポ-ザ-でもあった彼女の、
あまりにも突然で、早すぎるお別れでした。
ご冥福を心よりお祈り申し上げます。
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