らしたー さんの感想・評価
3.9
類まれな格調の高さ
18世紀ヨーロッパ(主にフランス・ロシア・イギリス)を舞台に、史実とフィクションを巧みにミックスした骨太な物語が展開される。しっとりと落ち着いたトーンと淡々とした進行が特徴で、ターゲットは年齢層高めかと思われる。とにかく格調高いというのが第一印象で、オカルティックな要素が多分にあるにもかかわらずあまり荒唐無稽さを感じさせない。作画や音楽面も雰囲気を大切にしていることがよく伝わる素晴らしい出来。原作は知らない。あと萌とか期待するな。
●舞台
革命前夜のフランス。といってもルイ16世やマリー・アントワネットに代表される断頭台の季節ではなく、この作品はそれより一世代前、ルイ15世やポンパドゥール夫人らの時代。アンシャン・レジーム崩壊の序曲が静かに流れ始める火種の季節である。
主人公は実在したフランス外交官デオン・ド・ボーモン。姉の不審な死に端を発する「王家の詩」の謎をめぐり、秘密外交官としてロシア・イギリスを駆け抜ける。劇中、姉リアの魂が乗り移って女性騎士として描かれることがあるが、これもある程度史実を踏まえた設定である。
●脚本のうまさ
舞台をフランス→ロシア→イギリスと変え、最後は再びフランスの地で終幕を迎える、という構成。追う立場と追われる立場が幾度も逆転する展開が冒険活劇テイスト満載で飽きさせない。
うまいと思ったのはロシア編。プロット上ではロシアの変革は主人公たちにとってまったく関係のない話なのだが、女帝エリザベータからエカテリーナへと引き継がれる啓蒙政治の端緒を垣間見せることで、フランスの相対的な後退を印象付ける構成は見事。
●史実との整合性
半分以上フィクションなので整合性もなにもないわけだが、登場人物の年齢からなんとなく考察してみる。
そもそも西暦何年頃を想定した話かという点がひっかかる。{netabare}史実では1762年初頭にロシア女帝エリザベータが崩御している(劇中ではマクシミリアン・ロベスピエールによる暗殺)。劇中で間髪入れずに起こるエカテリーナによるクーデターも史実において1762年の出来事。夫であるピョートル3世を追い落として女帝エカチェリーナ2世として即位する。このあたりの展開は大筋で史実をなぞっているようなので、ためしに1762年当時における主要人物たちの史実年齢を見てみると、
デオン・ド・ボーモン(主人公):34歳
ルイ15世:52歳
マリー・レクザンスカ王妃:59歳
オーギュスト殿下(のちのルイ16世):8歳
サン・ジェルマン伯爵:55歳?
ポンパドゥール夫人:41歳
カリオストロ伯爵:19歳
ポンパドール夫人41歳はすごくいい線だが、なんかちょっと違う気がする。。若々しい主人公が34歳はありえないので24歳設定にすると、今度はオーギュスト殿下がまだ生まれていないことになる。マリー王妃の59歳てのもなあ。要するに登場人物の年齢設定は相当いい加減であり、同時代性は豪快に無視されていることがわかると思う。無理に答えを出すなら「だいたい1750-1780」てのが落としどころである。
ただ、こんなことを調べているうちに、1762年ってロベスピエールがまだ5歳に満たないよなあ、なんて気づいちゃって、おそらく作中のマクシミリアン(ロベスピエール)は、革命家として名高いあのマクシミリアン・ロベスピエールの名だけを史実から借りる形で、架空のトリックスターとして登場させているだけだ、そう考えると彼の人物設定だけが他の実在人物と違って原型がないくらいの大胆なアレンジがなされているのも頷ける、、なんて考えていたら最終回であの展開ですよ。一本取られた。{/netabare}
●総評
マイナーな作品ではあるが、力強さを感じる佳作。
個人的に少々残念なのは中盤以降ややファンタジー色が強く出すぎてしまい、せっかく丁寧に描かれてきた権謀術数の数々が薄っぺらくなってしまったところだろうか。