フィリップ さんの感想・評価
3.6
スポーツを金で量る異質のテーマ
アニメーション製作:スタジオディーン(昭和元禄落語心中、GIAANT KILLING)、
監督:渡辺歩(宇宙兄弟)、シリーズ構成・脚本:高屋敷英夫、
キャラクターデザイン:大貫健一、原作:森高夕次、漫画:アダチケイジ
プロ野球の裏側を見せることを意図した異質の作品。
基本的には1話完結の形になっているため、気軽に観ることができる。普段はあまり目立たない選手たちに焦点を当てているのが興味深い。中継ぎ投手や2軍選手、引退間際の選手、引退後に何をするかということなども取り上げてプロ野球のいろいろな面を見せてくれる。
プロ野球選手にもさまざまなタイプの選手がいて、面白かったのは明らかに横浜ベイスターズの三浦大輔をイメージした原武投手の話。三浦は速球派で強気な性格の投手だったので、リーゼントの髪型や「番長」というイメージ以外は全く似ていないのだが、この投手の投球間隔が際立って長いというのは面白かった。現在の日本プロ野球機構では、無走者の場合、捕手から投手がボールを受けて15秒以内に投げなければならないというルールがある。それができなければボールを宣告される。だからこの話は、ルールが明確に適用される以前のことなのだが、昔は本当に原武のような投手がいてイライラさせられた覚えがある。「いつ投げるんだよ!」と突っ込みたくなる投手が本当にいたのだ。これも駆け引きのひとつだったのだが、現在では試合時間を短縮する目的によって、ルールが厳格化されている。
今回の全12話ではつながっていく話があまりなく、そういう意味では継続視聴がなかなか難しい作品だったかもしれない。特に盛り上がる訳でもなく、絵が綺麗だったり、動きが良いわけでもないので、なかなかポイントが少なかったのが残念なところだ。しかし、野球選手の悲哀を感じることのできる、じんわりとした味わい深さがあるのは確かだ。
そして、最終話で登場したユキちゃん絡みの話は面白いので、今秋からの放映が決定した2期に期待したい。
(2018年7月6日追記)
1話視聴時レビュー
野球漫画といえば、『巨人の星』に始まり、『アパッチ野球軍』や『侍ジャイアンツ』『男ドアホウ甲子園』『野球狂の詩』『あぶさん』『ドカベン』『プレイボール』『タッチ』『MAJOR』など数多くの作品が描かれ、高い人気を誇ってきた。昔はどちらかというとトンデモ展開の作品が多かったが、最近ではよりリアルに寄せた作風が多くなっているようだ。これは、年を追うごとに漫画やアニメを見る大人の割合が高まり、あまりに現実離れした展開だと読者や視聴者が付いてこないことも理由に思える(とここまで書いて、最近では『ONE OUTS』という漫画があったのを思い出した。あれは現実離れしたぶっとんだ話だったが、なかなか上手く作っていた)。
そんななかで制作されたのが『グラゼニ』だ。私はモーニング連載開始から原作を読んでおり、昔は必ずチェックする漫画のひとつだった。まず発想が新しい。主人公の凡田夏之助はスポーツ選手でありながら、年俸で選手を量るという特殊な考え方の持ち主。普通なら技術やパワー、運動神経などで選手を評価するところを「金」で判断するのだ。
1話では、年俸1800万円の凡田が1億を超えるような選手を抑えると、どのように評価されるか、逆に2軍から上がってきたばかりの打者が年俸1800万円という凡田のような微妙な投手に打ち取られると、どのような結果が待っているかというシビアな世界が描かれる。またそういう理屈は野球社会だけでなく、引退した野球選手が解説者になっても付いて回る話で、野球選手の悲哀が面白おかしく描かれている。
今では『グラゼニ』の漫画からは遠ざかっていたので、改めてアニメで見てみると、なかなか楽しめると思った。元々の漫画の作風が古臭く、動きが良いわけでもないので、ストーリーや展開を気軽に楽しむタイプのアニメだろう。
主人公の凡田の声優は落合福嗣。三冠王を獲得し、監督としても活躍したプロ野球選手・落合博満の息子だ。『灰と幻想のグリムガル』のモグゾーの役などで知られており、初の主人公役に抜擢された。1話を見た限りでは無難にこなしたという印象。高い声になると古谷徹に似ているところもあるので、色々な役ができるようになるかもしれない。
(2018年4月初投稿)