ドーピングでmanglobeなおすすめアニメランキング 2

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早速見ていきましょう!

65.6 1 ドーピングでmanglobeなアニメランキング1位
GANGSTA.(ギャングスタ)(TVアニメ動画)

2015年夏アニメ
★★★★☆ 3.5 (666)
3497人が棚に入れました
マフィアにチンピラに売春婦に汚職警官が巣食う悪党だらけの街・エルガストルムを舞台に、誰もかかわり合いたくない汚れ仕事を引き受ける便利屋を営むウォリックとニコラスを描いたハードボイルド作品。

声優・キャラクター
諏訪部順一、津田健次郎、能登麻美子、金尾哲夫、石川界人、三上哲、悠木碧、宝亀克寿、小山剛志、前野智昭、橋詰知久、桐本拓哉、榊原良子、吉野裕行、小松未可子、植田佳奈、櫻井孝宏、稲田徹、梅津秀行、磯辺万沙子、小清水亜美、村瀬歩、花江夏樹

ossan_2014 さんの感想・評価

★★★☆☆ 2.5

ディテールとトリビア

マフィアの支配する無法地帯で炸裂する暴力を、独特の美意識で描写している作品世界だが、冒頭の数話を見る限り違和感が募ってゆく。

SF的な設定のある世界らしいことはうかがえるので、ギャングしか登場しない都市の不自然さについては、いずれ何らかの描写があるのかもしれない。
ギャングの経済基盤は、突き詰めれば「まともに働いて金を得ている」堅気の人間の懐から金をむしり取ることにあるので、ギャングしかいない都市で互いの金を奪い合ったところで経済的に成立しないのは明らかだ。
何らかの設定によって都市の外部から資金の流入が確保されているのだとしても、麻薬や娼館が描写されているのに、これを支える顧客の「堅気」が登場しない不自然は残る。
それなりに職業意識の高そうな警察も、守っているのは「堅気」の市民の治安ではなく、ギャングの抗争のレギュレーションを「守る」という「レフリー」役のように見える。

(最終的に、舞台の都市が政治的な理由で半封鎖された隔離地区であることは説明されるが、政府の監視がありながら、ギャング組織が運営を担っている理由は不分明だ。
ギャング組織があたかも人権団体のようにふるまい、堅気を搾取する場面が描かれない理由も。

ギャング組織の暴力は、非合法に堅気を搾取するためのものだ。搾取をしないのならただの企業体であってギャングではない筈で、暴力を保有する必然性が見当たらない。
自衛のための暴力に見せてはいるが、本末転倒で倒錯している。)


全ては、一見して特徴的な、独特の黙示録的な頽廃をスタイリッシュに表現するためであり、設定の合理性はあまり考慮されてないのかもしれない。

それはそれでいいのだが、固有の美意識に貫かれたスタイルを見せるのが最優先にしては、いささか引っ掛かりを感じさせる。


架空の都市にせよ、明らかに中南米を連想させる風景で、かつ登場人物にアングロ・サクソン系の名前がほとんど見られないにもかかわらず、公文書や商店の品書きが英語表記=公用語が英語。

撃鉄を起こさなければ発砲できない銃種で、拳銃の撃鉄が倒れたまま発射する描写が多い。


アニメを視聴するにあたって、アラを探しながら観たところで面白いはずはない。
ちょっとした食い違いや不整合は、見ないふりでスルーするか脳内補完で視聴する方が楽しいに決まっている。

が、本作のように、独特のスタイリッシュさでエキゾチックな舞台での過剰な暴力を描くことを前面に出した作品においては、上記のような瑕疵は、トリビアルな瑣末事に過ぎないと見過ごすわけにはいかない。特に細部のディテールが重要な意味を持つハードボイルドの様式を基調にしている場合には。


とびぬけて格好の良いお洒落をキメている人が、なにかの拍子に、お洒落を演出するために必死の一夜漬けをしていることが暴露されたとき、「ダサい」を通り越して「滑稽」に見えてしまうことがある。

格好をつけるために「努力している」と見透かされることが余計に滑稽さを際立たせるのだが、独自の美意識で映像を構成している物語世界で細部にスキが見えると、細部を細かく描写しようとする意図が見えるだけに、スタイルそれ自体が「お笑いぐさ」になって世界のもっともらしさが崩壊してしまう。

スタイルのために舞台が異国的である必要から「外国」を選択したのだろうが、いくら架空世界の都市とはいえ、現実の中南米のイメージを借用してリアリズムを補強しようとしているにしては、借用元についての考察が不十分なのではないか。
「外国」の記号としての外国語は何語をもってきても製作上の手間は同じなのだから、英語にこだわる理由はない筈だ。
品書きや本のタイトルが英語でも、公文書=捜査資料がスペイン語かポルトガル語であれば(あるいはその逆でも)かえってもっともらしさを補強しただろう。
使用言語の考慮など視野になく、外国=英語という貧弱な固定観念しか持ち合わせていないようだが、今ではアニメを視聴する層も幅広くなっていて、英語その他の外国語が話せたり海外経験のあるアニメファンも数万人どころか、ひょっとすると数十万単位だろうに、現代の視聴者に向き合う姿勢が安易に見える。

暴力描写の要である銃にしても、実在の銃ではなく、架空のテッポウや思い切ってレーザー銃であっても設定に矛盾しないだろう。
わざわざ実銃を使ってリアリティを補強する演出手法を採用しているのに、肝心の実銃の描写に対する不備を曝け出したのでは、もっともらしさを阻害しているどころか、実物主義演出法をとることに自覚的ではないと告白しているに等しい。


ある美意識を持った雰囲気を描き出すことだけを目指した作品があっても、それはそれで意義のあることだと思う。
だが、ごく普通の視聴者が冒頭近くから引っ掛かりを感じるようでは、この美意識を貫徹して物語を語るのだという覚悟が製作者には足りていないのではないか、と疑われても仕方がないだろう。

フィクションにおいて、現実そのもののように世界を構築する事はできないし、その必要もない。
が、配慮すべきディテールと捨ててもよいトリビアの見極めに注意を払った形跡がうかがえないのは、構築への意識が低いと思わざるを得ない。

過去に類例のない大胆な演出に見事に応えた声優の演技が印象に残るが、せっかくの役者の熱演が「茶番劇」に見えてしまうようではあまりに役者が気の毒だ。
本作に限らないが、どれほどの名演でも作品世界という舞台の破綻を補うことはできないと見せつけられるとき、役者というのは報われないこともある職業だなと思う。

投稿 : 2025/01/04
♥ : 8

ポール星人/小っさ さんの感想・評価

★★★☆☆ 3.0

ちょっと待てぃ

あれで最終回として作ったんならマトモじゃねぇなと思ってたら、倒産ですか(汗)
餞別代りに評価多少戻しますが、そんな事に意味なんて無い訳で。
わかっちゃいますが、深夜アニメという商売の形態の影響は大きいんでしょうし。正直、円盤買ってまでって層が大半なんでしょうしねぇ。
多少は小銭持ってる私ら世代でも2話7K¥って相場は高いと思うもの。
実際私も現時点で春期と夏期の2作品買ってるけど、流石に並行して3作品はキツイ。
でも、そんな単価でも売り手側としちゃ費用回収出来るか否かの瀬戸際な商売なんでしょうから過酷っすよねぇ。


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12ワ ミマシタ
・・・・オワリデスカw
ソリャ ネエデスヨ。
ビックリテンカイDE キガドウテンシテマsu
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11話観ました。
 展開自体はピカレスクロマンの王道ですね。
そこに"タグ付き"と言う人々の悲劇性を盛り込んだ作品では有るんですが、私は終盤はもっとその悲劇性で畳み掛けるのかなと思って期待してましたがそうではないようで。
障害者の方々の暗喩と思ってましたので志は高い作品と観てましたが、この作品の場合はやはりタグ付きと言う存在が短い寿命と迫害の引き換えに超人的な身体能力を持ってると言う構図で悲劇性がぼやけてしまい上手く物語の中に消化出来て無い気がします。
雑な言い方すると、いい人ばかりで美しすぎる話といいますか。
そこら辺が"悪漢"たちの物語としても弱い様な。
まぁ原作が未完な上に1クールの作品ですので、物語の導入部ではあるのでしょうけど。

正直、テクノライズを観た後にコレ観ちゃうと・・・ね。
心に強烈に残る作品にはならない気がしますが、イイ感じの作品だとは思います。
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6話まで観ました。
 序盤はタグ付きの超人的な部分を盛り込んだだけの洋風任侠物と思ってしか観ていませんでしたからさほど興味無かったんですけど、徐々に突出した身体機能の陰のハンデの部分とかアレックスの薬の話とか出てきて話に魅力が増してますよね。いい感じだと思います。
 ただ、この手の作品って必ず主人公たちが如何に不幸な境遇で今に至ったとしても、今はマフィアだの殺人者だろ?って視点で観られると否定的な意見で低評価になっちゃうのがこの手の作品の辛い所。
私はこの作品は今のところそこら辺は上手く表現してると思うんで、そういう意見が出づらい位にうまく悲劇性盛り上げてほしいですね。
障害を持つ方々の気持ち汲んだ良い作品となる事期待してます。

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2話見ましたが、もともとオサレ路線なコレに関しては特別面白い訳でも無いですが安定した絵的カッコ良さで観れますね。徐々にタグ付きの所以を明かしていく見せ方で退屈はさせないですし。
アレックスさん、優しそうでイイ女だしw

バイオレンス前面に出てる作品ですが、テクノライズの様な強烈さは無いので普通にアニメとして観れると思います。
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日本刀持ちの方が異常な身体能力だったりパトカー蹴り上げたりして、なんか変な作品だなと思ったら、設定的には弱SFなんすねコレ。
この手の地味な作品って1話見るの長くて退屈に感じたりしがちですが、コレはそんな事も無く。
余り原作の内容知ると興醒めしそうなんで、余計な事調べない方が良さそうですね。
 ただ、どうもどの国の話かがイマイチイメージ出来ない町並みが気になりました。町並みはヨーロッパの様ですが、パトカーとかはアメリカ感じさせるし。そういうゴッチャな文化の設定なんでしょうか・・・

投稿 : 2025/01/04
♥ : 16

Ka-ZZ(★) さんの感想・評価

★★★★☆ 3.7

紫煙の香りが鼻をくすぐるちょっと大人の物語・・・

この作品の原作は未読ですが、メインキャストとして能登麻美子さんが出演される事を知り視聴を決めた作品です。どんな能登さんを見る事ができるのかワクワクしながら放送を待ちわびていました^^;

放送が始まりオープニングが目に飛び込んできました。独特な色使い、作画とカメラワーク・・・所謂劇画タッチの作画は好みが分かれるのかもしれませんが、私は最初から違和感無く入ることができました。
むしろ印象的だという感想の方が強いです。
この作品もしっかり前を見据えるウォリックと不屈の笑みを浮かべながらウォリックの斜め後ろを歩くニコラスの目が、とても活き活きしていているんです。
この作品も毎回オープニングを見るのが楽しみな作品でした^^

物語は、便利屋家業を営むウォリックとニコラスの2人が暴行を受けている女性を目撃します。
茶褐色の肌に白の服を着た彼女こそが、能登さん演じるアレックス・・・
物語の行きがかり上、行く宛を失ったアレックスが便利屋の事務所の電話番をするようになり・・・物語が動いていきます。

犯罪、殺人など様々な悪がはびこる街・・・エルガストルムが物語の舞台になっているのですが、物語の流れはゆっくりです・・・
きっとマフィア同士の抗争などが日常茶飯事で。常にあちこちでトラブルが起こっているこの場所そのものがそう感じさせるのかもしれません。

でもこの作品は二人の便利屋家業を淡々と描いた作品ではありません。
冷たい過去・・・
消せない記憶・・・
強さを求め超えてはならない一線に平然と足を踏み入れるニコラス・・・
確かにこの街では強くないと生き抜いていけませんし、生きることに必死なのも理解できます・・・
でも、身体は無理をいつまでも受け入れてくれません。
いつか破綻する時がくる時がきます・・・

二人の・・・そして街の抱える闇についてアレックスと共に少しずつ知識を広げながら物語が進んでいきます。

でも・・・やっぱ能登さん、凄いです^^
普段の会話もさることながら、物語の中で歌ってくれる歌は鳥肌モノでした^^;
マフィアの抗争は組織間の関係が正直良く分かりませんでしたが、能登さんの声が聴ける・・・だけで私にとっては嬉しかったです。
だからこの作品の視聴する私のスイッチを入れるのはとても簡単・・・
再生ボタンを押してオープニングでクルクル回るアレックスを見るだけで良かったので(//∇//)

オープニングテーマは、STEREO DIVE FOUNDATIONさんの「Renegade」
エンディングテーマは、Annabelさんの「夜の国」
この作品のもう一つの楽しみがエンディングでした。
タイトルにピッタリの旋律と歌詞がツボに入りました。
この曲も間違いなくBEST10上位の曲になると思います。

1クール12話の作品でした(9.5話を含めると13話)。
マングローブさん最後の制作作品となってしまいました。
これまで神のみ、ましろ色やハヤテなど楽しませて貰った作品がたくさんあっただけに残念に思います。
この作品も物語の半ばで幕が引かれています。
このままでは単なる販促作品になってしまうような気がしてなりません・・・^^;
もし続編があるなら、マフィア組織の関係などもう少し詳しく説明して貰えると、より楽しめる作品になると思います。

投稿 : 2025/01/04
♥ : 24

74.3 2 ドーピングでmanglobeなアニメランキング2位
虐殺器官(アニメ映画)

2017年2月3日
★★★★☆ 3.8 (254)
1861人が棚に入れました
世界の紛争地を飛び回る米軍特殊部隊クラヴィス・シェパード大尉に、謎のアメリカ人の追跡ミッションが下る。その男、「ジョン・ポール」は、紛争の予兆と共に現れ、その紛争が泥沼化するとともに忽然と姿を消してしまう。かつて有能な言語学者だった彼が、その地で何をしていたのか。アメリカ政府の追求をかわし、彼が企てていたこととは…?

声優・キャラクター
中村悠一、三上哲、石川界人、梶裕貴、小林沙苗、大塚明夫、櫻井孝宏

waon.n さんの感想・評価

★★★★★ 4.8

いち伊藤計劃ファンの視点

 非常に思い入れのある作品です。私をSFの世界へさらなる一歩を踏み込ませた作品であり、人物です。
 この作品以前からジョージ・オーウェル小説の『1984』であったり、ディックの『アンドロイドは電気羊は夢を見るか』くらいはたしなんでおりました。
 映画でもSFというジャンルは好きでよく観ているわけですが、SFとファンタジーの違いとかあんまり考えずに『ブレラン』や『エイリアン』などを楽しんできたわけです。
 それでも十分に良いんですけれど、SFのジャンルに対して特別な意識を持ったのはこの伊藤計劃さんの作品に触れてからという事になるかと思います。
 この伊藤計劃さんの作品には今に繋がる未来だったり過去だったりを感じる事ができる。そこにSFとファンタジーの違いがあることを見せつけてくるんですよね。
 特にこの虐殺器官という作品に関しては特に今に繋がっているように感じられますし、この物語の問題っていうのは明日にでも核爆弾でテロが行われてしまい、この作品と同じ流れを世界が作ってしまう可能性があるのではないかという恐怖をもつことができます。
 シミュレーションになっているという点がこの作品の魅力であり、SFのひとつの楽しみかたなのではないでしょうか。
 本作品の中には色々な未来のデバイスが登場します。まだ開発されていないかもしれないが、ナノテクノロジーにしたって実用化レベルに至っていないだけで、実際にあると聞く。まずは軍用化からされて、民間レベルまで落ちてくるのにどれくらいの時間を要するかは分からないけれど、そう遠くない未来がかんじられます。
 人工筋肉も義手や義足のレベルは驚くほど進化しているので、不可能と断定することもないでしょう。
 また、デバイスもさることながら、国際情勢もポリティカルフィクションの要素も含んでいるため、設定が作りこまれています。
 原作読んでる前提になってしまうので、アニメのレビューをするこの場にはもしかしたら相応しくないのだろうが、いちファンの戯言と吐き捨てここは許してもらおう。
 この作品においてなぜ、サラエボが核爆弾テロの標的となったかという話は過去、現在、未来へと繋がっているのです。
 『戦争広告代理店』という本があるのをご存知でしょうか(暇と興味があればぜひ手に取ってもらいたい)。ボスニア紛争をドキュメントで書き下ろした一冊なのですが、ボスニアヘルツェゴビナの首都サラエボは今でこそ美しい街並みであり、多人種、多民族が入り混じっている平和な国となっているが、1990年代にセルビアとボスニアの間に紛争が起こりました。ボスニアの取った行動が今の美しい景観をしたサラエボという町を作り出した。ただし、当然ながら犠牲もあり、敗者もある。
 敗者がいれば、憎しみも生まれるだろう。それにアメリカが絡んでいる事は想像がつくと思います。なんなら最近の戦争でアメリカが絡んでないものなんてあるのかという位ですね。さかのぼれば第二次世界大戦なども絡んできますね。例えば、ユダヤ人虐殺の話にまでまでも触れています。フランツ・カフカが現在はチェコのプラハが出世地でユダヤ人であることが文脈のなかで語られ、ユダヤ人虐殺が物語のなかに必要不可欠な要素として組み込まれているなど、造詣は細かく深い。
 こういった過去から現在(書かれた当時)の国際情勢や歴史を話に盛り込ませることができている作品です。

 他にも大人の子供に対する扱い。平和な暮らしを安定して供給されている裏側にあるものはなにか。など様々なテーマが散りばめられていて、どれを掬い取り、目を向けることができるのか。それは見ている個人に委ねられているのではないでしょうか。

 日本で描かれる戦争もの映画ってなぜか日本人、可哀想とかやられちゃう系が多いんですよね。被害者であるように描かれているように思えるんですが、戦争って被害者とか加害者とかじゃないと思う。
 伊藤計劃って人の凄いところは日本人でありながら外国の戦争を描けていることで、しっかりと加害者であるし、それによって生まれる兵士の苦悩というのが描かれています。いわゆる「PTSD」というやつで、これはイラク戦争での実在した兵士による伝記をもとに映画制作された『アメリカンスナイパー』ではないでしょうか。
 こちら側を描ける、描けている作家は日本にはそうはいないと感じます。

 ここまでは小説の話になってしまっていましたが、この前段階を踏んで語りたかったんです。
 アニメとして映像化されるにあたり、何やら紆余曲折あったようですね。当初制作していた制作会社が破産してしまい、新しい制作会社に引き継がれるなどして完成をむかえたそうです(wiki)。

 さて、アニメを制作のスタッフです。
 監督には『Ergo Proxy』でも監督をした、村瀬修功さん。もともと原画畑だった人のようで、やはりその動きや見せ方はカッコいい。最近では『GANGSTA』でも監督をしており、どう語らせるかよりもどう見せるかを意識している監督のように思っています。今作もその良さはしっかりと出ていました。
 また、キャラクターデザインもやっているようで、懐かしの『機動戦記ガンダムW』のキャラクターデザインもやっていたそうです。
 今回は脚本も兼任している。個人的にこういった内容のものを原画畑の人が脚本をすることには懐疑的でした。というのも、リドリー・スコットのようにカッコいい映像や音の感じで内容を決めてしまうのではないかという点が付いて回るためです。(リドリーは他にもちゃんと良いところたくさんあります。……多分)
 しかし、そんなのも杞憂でした。原作で描いている内容がしっかりと読み解かれて映像化されているように感じました。むしろ、このアニメを見て原作をまた一段上で楽しめるようになったのは村瀬さんの能力の高さだと感じます。

 音楽は池 頼広さん。『Ergo Proxy』でも音楽を担当していたので村瀬さんが推薦したのかどうなのか定かではないですが、再びこのタッグが実現するわけですね。個人的には『神撃のバハムート』での音楽が好きでした。
 表現している音楽の幅が広いなーすごいなーくらいでしたが記憶に残っていました。

 美術監督は田村せいきさん。レビューを書くにあたりもう一度見直してみたところ発見したのですが、廊下を進む描写で歩いている足を見せるカットがあるんですが、そこで木製の廊下から、石造りの廊下に変わる。これはおそらく、バロック様式で石造りだった部分とその後イギリスの植民地となりアメリカ的な木造建築に切り替わったため増築や改修などのさいに混在したことでこうなったのではないか。それを再現している、もしくは表現しているのはこだわりを感じました。他にも調度品や、未来的なデバイスの表現も良いです。

 声優さんには中村悠一さん、櫻井孝宏さんはイメージにピッタリという感じで、大塚明夫さんに関してもこういう役本当にハマっているし、『メタルギア』ファンの伊藤計劃さん的にも嬉しかったのではないでしょうか。
 個人的には小林沙苗さんが嬉しかった。長いセリフのなかにある、澱ませたり、間を取る感じが良いんですよね。

 この物語はあくまでも戦争や紛争を描いています。それは過去、現在、未来とつながりがあります。一つの物語でつながるのではなく、リアルな視聴者のとのつながりでもあります。
 楽しむという表現とは少し違いますが、前述しているようにシュミレーションであり、それはそのまま未来への危惧でもあります。映画『ターミネータ』のように未来では人工知能をもった機械に人間が殺されてしまうという未来を見せることでこんな危険も存在するという恐怖をシュミレーションするのと同じことです。
 ここを楽しめるかどうかがこの作品にハマることができるかどうかの境界線になるのではないでしょうか。
 個人的には素晴らしい作品でしたので、多くの人の目に留まり、楽しんでもらえたらと思います。

 この伊藤計劃という作家の作品に触れて感じたのは自分の教養や知識によって芸術(ここでは広義な意味で)は楽しめる幅が広がったり、見方がかわったりするのだという事です。
 これってすっごく当たり前で私がこうして書くまでもなく、誰しもが感じたことがあるはずで、小さい頃に観た漫画や映画、アニメを大人になって観返すと「違う面白さに気づく」みたいなことなんですよね。「言われるまでもねーやい!」ってなったかたは申し訳ありませんでした。
 恥ずかしながら私が気づいたのは最近でして『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』なる本でも買うかと迷っているほどです。

 とりあえず、この作品に対してのレビューはおしまい。ここはら超絶蛇足になります。
 レビューを書くまでにだいぶ時間がかかりました。好きな作品はしっかりと書きたいし、読んでもらう事に対してその時の感情だけで書くのは避けたいという気持ちから躊躇われたわけです。
 そんなレビューがあと3作品ほど溜まっていたりもして、いつかは……と思っているのです。
 今回は他のかたが書いている虐殺器官のレビューを読んで触発されたというか勇気をもらったというかモチベーションが上がったというか……。
 そしてちゃんとアニメのレビューになっているのか怪しい。
 今回はイレギュラー的に原作とアニメの両方で語ってみたのですが、上手く分けられていないようにも感じてきて消してしまおうかとか消極的なことも考えていますが、ちゃんと投稿します。
 長くなりましたが、勇気を与えてくれたレビューを書いている皆さまありがとうございます。そしてよもやここまで長ったらしいモノを読んでくれる人がいたらその人にもありがとうございます。
 『人は見たいものだけしか見えないようにできているんだ』
 ではおつかれさまでした。
  

投稿 : 2025/01/04
♥ : 5
ネタバレ

Progress さんの感想・評価

★★★★★ 4.6

虐殺器官 レビュー

端的に言えば、アメリカの特殊部隊に所属するシェパードが、世界各地で虐殺を扇動するジョンという男を捕まえようとする話です。
{netabare}
シェパード達特殊部隊の隊員は、マスキングと呼ばれる、ナノマシンによる痛覚遮断技術、および感情調整における何事にも動じない兵士という、近未来的兵士を描いています。

このマスキング、感情調整という、フラットを生み出す設定が、心身の痛みに鈍感になった人間達を暗に示しており、鈍感な人間社会に住む一人のシェパードが、鈍感さを失っていく話になります。

私のように後追いで見た者の見方としては、「どれどれ、本当に何事にも動じない兵士なのかじっくり観察しようかな」なんて思うのですが、シェパードに関しては、ジョンの虐殺文法と呼ばれる手法に引っかかった敵や、ジョン本人に対しても、感情を揺り動かされ、ルツィアに関しては特別な思い入れまで入っていたように思えます。
まあですから、この作品は、特殊部隊が大事な仲間を失いながらも仕事を全うするようなアダルトなものではなく、社会に支配された(ここはジョンとシェパードの最初の会話、国家への隷属の部分)個人が、支配から逃れるまでに変化する物語だと思います。

シェパードとルツイアの関係は、最初こそ、情報軍のスパイと、チェコ語教師(ジョンの元恋人)という関係に過ぎませんでした。ところが、ルツイアがここで死ななくてもよかったとか、個人軽視の社会の個人感情を消した兵士(少年兵であろうが躊躇なく殺せる兵士)であるシェパードが個人の価値というものを見出しています。
どこで変化したか、ジョンとの会話の中でか、楽し気なルツイアとの会話の中か。(後者であるなら、調査対象に情が入るなんともお粗末なスパイなので、前者を押したいですね)もしも前者を押すなら、土壇場で言語学を専門とするジョンの巧みな会話による精神誘導に引っかかったともとれるので、やはり兵士としてはお粗末、なのですが、この作品のそもそもが兵士としての優秀さを描くものではないことは上の方で述べた通りです。
そのため感情に揺り動かされて無能な兵士であっても、兵士を感情のない兵器であるとするなら、そこからの脱却を描いたのが今作品だと思います。

ここで無感情の脱却という点で、いくつかのセリフとシーンが繋がります。
遠い場所で起きている虐殺で、アメリカに住んでいる人たちに届く話はほんの僅か。この意味と、ピザを食べながらテレビでラグビー(アメフト?)を見ているシェパードと、ウィリアムズのシーンは共通するものがあります。
世界のどこかで起きている虐殺、それを感情的に深入りしようとする人はほとんどいません。ニュースとして聞き流し、そんなことがあったのかと日常に戻る。感情的に起伏がない(フラット)のです。それが悪いかどうか、悪くはないでしょう。ただ、あまりにも世界の遠くで起きている虐殺に、痛みを感じなさすぎなのではないかと、そういうことを感じるのです。
一方でラグビーを見るシェパード達は、日常の中での痛みへの無感情を描いています。彼らが見ているラグビーの試合では毎回けが人が出ます。その怪我に対して驚くわけでも、悲しむわけでもない、フラットな感情なままです。ウイリアムズに至っては、バカなルールだと何気なく言う始末。同情ではなく、なんでこんなバカなスポーツやってるんだという、嘲笑(それを見ている彼らの鈍感さ)。
彼ら兵士にとって、ラグビーはどこか遠いようで近い、怪我をしてでも任務を遂行する所が似ているように感じてからの、仕事に対しての皮肉でしょうか。
しかし、2回目に映し出されたそのラグビー鑑賞シーンで、けが人が回復したときに、少しの安堵のようなものがその場に広がった時、彼らは鈍感な社会、鈍感な職業にいながらも、どこかで感情を持っているという、人間臭さを出しているのが伺えます。

さて、色々書きたいことはまだありますが、今回はこれで。
ありがとうございました。

【再視聴~雑多なシーンとテーマについて】
ストリーミング期間があるので、再視聴までそんなに期間を置かずに視聴しました。
まずは、ストーリーとはあまり関係のない、いくつかのシーンにおいて、気付いた事をメモ程度に示そうと思います
まず、赤髪の敵女兵士について。
印象的なシーンは、シェパードが路面電車に何気なく乗り込んで来ようとする赤髪の女を見て、ルツイアに「仲間か!?」と聞いた所。
なぜシェパードが赤髪の女を、敵兵士として認識できたか。
それは、赤髪の女の初登場シーンがその前にあるからです。ルツイアとチェコ語のレッスンを受ける契約をしたその日の帰り道、シェパードは何者かに付け狙われます。その時、シェパードの乗った地下鉄の電車に入ってくる怪しい者たちの中に、赤髪の女がいた。それをシェパードは記憶していたからです。

次に、序盤の仲間の死体置き去りと、ルツイアの死体置き去りの比較について。
まあ、これはシェパード自身が語っていますが、ルツイアの死体を置いてきてしまった、大切な人の死体は物に見えない。
つまり序盤で死んだ仲間の死体については、シェパードは物としてみていました。
その差異について何故発生したか、というのは、シェパードが特別な感情をルツイアに持ち、その感情を持つまでにシェパードが変化したから。
ここで差異の理由を述べるよりも、映像で見たときのシェパードの変化を見たほうが、ありありと彼の変化や感情を受け取れると思います。

民間軍事会社がなぜジョンを取り戻そうとしたか。
これは邪推に過ぎませんが、内戦が起きることによって軍需があり、軍需が発生し続ける限り、ジョンを生かすメリットがあったのではないでしょうか。


ここから、一つのテーマの話になります。世界の選択の責任
ここでいう選択は、世界の真実を知るべきか知らざるべきか。情報の隠蔽と選択。
知らなくてもいいことは知らず、安穏とした堕落した生活を守りたいと思う人、ジョンやウイリアムスがそれに当たります。(彼らにはそれを提供したい恋人や家族がいました)
世界で虐殺が起きている事を知らせるべきと思うのが、最終的なシェパードやルツイア。人々に今の生活がある理由を知らせ、その中で選択すべきという考え。
ルーシャスのセリフ、高度な自由であったり、人は見たいものしか見えない、人工筋肉の悲惨な生産現場など、便利や安全を得る自由を何気なく選択しているが、その自由を得るために使われている犠牲を人々は知るべきか知らざるべきか。

そういったテーマがある中で、ルツイアの願い「突然大切な人が奪われることがないような世界」をかなえるためにジョンが遠い世界の人間の命を天秤に掛けて選択します。結局、ルツイアはジョンの作り出そうとした願いの世界を否定するという、未だにジョンを好きだったはずのルツイアの選択、ジョンの間違いを描いた恋人の関係を描かれています。精神的依存がルツイアにあると視聴者に思わせていた状態から、実はジョンがルツイアの願いをかなえたいという、ジョンの依存精神を描いている、人物の精神的強弱の逆転、もしくは入れ変わりが面白かったですね。







メモ {netabare}
重要な言葉をいくつか挙げてみたいと思います。

虐殺、器官、言葉、痛み、マスキング、少年兵、サラエボ、フラット、ピザ、ラグビー、個人、国家、世界、心、感情調整、PTSD、遠い場所で起きている、伝わってくる話はごくわずか、潜在的意識、存在の消えた傭兵、人工筋肉、イルカ、クジラ、
二回目
民間軍事会社 情報の隠蔽 頭の中の地獄 仲間殺し 究極の兵士 ウィリアムズ 仲間意識 生得的文生成機能 赤い髪の女(電車) 指紋 網膜認証 俺は誰でもない 情報社会とのバランス(ルツイヤ)
自由の選択 プライバシーの自由と、テロの抑圧からの自由 指紋認証の銃 諜報機関 それほどの隷属(国家と兵士) ルーシャス ナノマシン 人は見たいものしかみえないようにできている 犯人は軍事会社 僕は知らない オルタナ(ナノマシン) 仕事と鈍感 心に覆いをする(ジョン) 中国製ヘリ マスキングされた敵兵士 計数されざる者たち 軍事企業がなぜジョンを助けるのか 内戦の勃発による軍需 自分が生まれた世界を守る 選んだ世界への責任 嘘っぱち 死体を置き去り(冒頭の置き去りとの比較)大切な人の死体はものに見えない 大切な誰かを突然失ったりしない世界 人の命の天秤  罪を背負う 
{/netabare}

{/netabare}

投稿 : 2025/01/04
♥ : 24
ネタバレ

ぺー さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

ジェノサイドの正当化

または
虐殺をジャスティファ~イ

いつもながら原作は未読。本編もレビューも不穏なタイトルですね。文字通り不穏なやつです。
少し前に遇々『バビロン』という迷作に触れ、その作品談義で頻出してたタイトルがこれでした。

・34歳の若さで早逝した原作者伊藤計劃
・原作『虐殺器官』その評価の高さ
・ノイタミナムービーなるブランド

これまで知らなかったことを知ることができました。これだけでもお得感あるかしら。
早逝したこともあり数少ない輩出作品をアニメ化する試み「Project Itoh」三部作の締めを飾った作品。2017年2月公開のR15+指定。115分です。

あらすじ:サラエボで起きた各爆弾テロを機に世界各国でテロが激化。アメリカを筆頭にテロに対抗する中で先進国では沈静化の方向。後進国では内戦や虐殺が頻発。といったIFストーリー。
後進国で指導層に接触し対立を煽り、内戦や民族対立による虐殺などを引き起こす黒幕として暗躍すると見做されたとある人物を暗殺せよ!
その実行役である特殊部隊員クラヴィス・シェパード大尉が主役の物語です。


戦闘行為にまつわるグロ表現っぷりでR15+指定となってます。
詳細に触れると、タイトル“虐殺”から想像しそうなスプラッター的おどろおどろしさが主成分のグロではありません。あくまで銃撃戦で斃れる敵兵の描写がそれらしいだけ。想像と違ってライト風味かもよってことは指摘しておきます。程度や具合は18禁ではなくR15指定ということでお察しくだされ。
年齢制限が入るのはクリエイターがやりたい表現をできていることの裏返しな部分もあって、本作のミリタリ描写はアニメの中でも超一級の部類に入ると思われます。オペレーションの合理性や演出の迫力などモノが違う感じがします。
『劇場版PSYCHO-PASS』のミリタリ描写との既視感を覚えましたが、プロデューサーがご一緒ということで納得。ノイタミナで辣腕をふるった山本幸治さんです。それでノイタミナムービーということもあるのね。いろいろ繋がってきました。


 世界観 ◎ ※後述
 軍描写 ◎


軍事作戦がベースにあるお話なので根っこが変だと台無しになっちゃいますがその心配はありません。
あとは通しでの物語の面白みであったり、黒幕ジョン・ポールの目的が腑に落ちるものかだったり、やはりというか作品から受け取るメッセージへの共感の有無が気になります。


 物語 △と○の間


タイトル回収を済ませ、大国のエゴも匂わせる国家の繋がりや人間の持つ原罪のようなものへの言及。おそらくこうだろうと想像できる結末もアリといえばアリ。ただしいかんせんよくわからない。

 {netabare}雰囲気だけかっこいい?{/netabare}

劇場版なので視聴者に想像させる手法を否定しないけど軽い匂わせ止まり。肉を焼く匂いで白飯を食べるような感覚。もう少し踏み込んで欲しかったです。
ところがふとしたとこで原作のネタバレを聞き、

 物語・改 ○と◎の間

となりました。

※原作ネタバレ
{netabare}ジョン・ポールの遺志を継いだクラヴィス・シェパードがアメリカに戻り、“虐殺の文法”を駆使してアメリカを内戦に導いていく。{/netabare}

{netabare}小国の犠牲の上にある大国の繁栄について自問自答が描かれてたとのことです。南北問題ですね。{/netabare}


“人工筋肉”なるガジェットが途上国の子供たちによる搾取的な労働に支えられている、とフェアトレード運動に通底するネタが挟まれてましたが、そんなネタが最終的に繋がっていくところまで提示しないのはもったいなかったですね。
とは言っても雰囲気や見た目を馬鹿にするなかれ、です。映画を観てる時間だけその世界に浸れる幸せを実感できる劇場版作品でしょう。その点で買い!優秀な娯楽作品です。




※後述…の世界観◎について

■United Nations

“国際連合”とは意図的な誤訳です。“連合国”が正しくその国連憲章には日本を敵国と見做した条項が残存していることをご存知でしょうか。たかが条文、実態は違うとも言われますが、この敵国条項を除こうと日本が働きかけてもしっかりChinaは潰しにきてくれたりするのが現実です。
永らく“平和のための国際組織”と喧伝され教科書でもそう習ってきた私たちですが、非常に矛盾を孕んでいるのです。直近の事例だと国連の専門機関WHOの武漢肺炎をめぐるグダグダっぷりでしょうか。

 金だけ出して口は出さないでね

日本に求められてる役割がこれ。よって個人的にはあまりこの組織をよく思ってません。そんなとこへ作品の冒頭↓


{netabare}「寛容と多文化主義がこの国の美徳だったのに」と今は民族浄化に勤しむ途上国の指導者がベートーベンの『月光』をバックにシェパード大尉に独白します。
何故自国民に手をかけたのかわからない。黒幕ジョン・ポールの存在を匂わせる一幕です。その前段。

シェパード:
「その国民を殺して回る。あんたの言う政府とやらはどの国連加盟国からも承認されていない」
えらい人:
「国連?我々の文化を土足で踏みにじり、自決権を鼻で笑う最悪の帝国主義者どもが…」{/netabare}


主人公へのシンパシーはもちろんのこと小国の哀しみなんかをこの指導者に見ることができます。きちんと序盤から下地を作っているのです。



■1974年と1975年

原作者伊藤計劃氏とプロデューサー山本幸治氏の生年です。けっこう作品に影響しているような感じ。
だいたいにして小学生時代のバイブル。ジャッキー・チェンの『プロジェクトA』が原題『A計劃』。これホント漢字なの?と伊藤少年の脳裏に焼き付いてたことは想像に難くありません。
多感な中高生時代で起こった世の中の出来事と暇な大学生時代に触れたであろう作品群。この年代特有の感覚が作品に反映されているとふんでます。

15歳前後で「ベルリンの壁崩壊」「ソ連崩壊」を経験。なんとなく大きなうねりが起こっていることを感じつつ、チャウシェスクの銃殺遺体のインパクトだけ覚えていた思春期。
中学の社会科では、“コルホーズ”“ソフホーズ”などを例にとり計画経済を好意的に捉えていた教科書で学んでました。なんせまだ崩壊前だったので。

その後の東欧民主化で泡を食ったのが欧州の火薬庫バルカン半島。ユーゴ紛争が停戦合意したのが彼らが社会に出る頃合い2000年頃でした。
思索に励むことが可能な大学生時代には小林よしのりの『戦争論』が大ヒット。United Nations(連合国)が構築したWWⅡ後の枠組みに疑義を呈した意欲作と言えましょう。

ドイツおよびチェコを舞台としたサスペンス作品『MONSTER』(浦沢直樹)
ユーゴ紛争で故郷を破壊した者への復讐の物語『PEACE MAKER』

90年代後半に発表された東欧を舞台にした名作群もきっと学生時代に目にしてるんでしょうね。
思えば「ソ連崩壊」とはもの凄く大きな出来事で共産主義の敗北に象徴される第二次世界大戦後の枠組みが崩れたことを意味してました。余波は覇権国アメリカにもおよび歪みの極地が“9.11”にと。

そういえば『MONSTER』のヨハンもニナも1975年生まれの設定です。
朝日・岩波的な言説がインテリの条件だった時代から潮目が変わったのはこのへんの年代からかしら。


国際紛争やミリタリ要素の強い作品を描く時にチェコやユーゴの東欧を舞台にしたくなる気持ちがわからんでもない世代。
お話にしやすい国際情勢の煽りを若かりし頃に浴びちゃったこともあるし、中東やジャングルでの紛争よりも身近に感じることのできるエリアでした。今は情勢も落ち着いてますので実際訪れてみるのをおすすめしますよ。異世界ものにありそうな古き良きヨーロッパの風景は中欧・東欧に残ってます。



視聴時期:2020年3月

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2020.12.09追記

5月が初稿の本レビュー。半年経過して“武漢肺炎”の呼称は聞かなくなりましたね。“新型コロナ”で定着した感があります。こうして振り返って気づくことはままあります。
定点観測することで変化に気づく。現在の断面だけ見て踊らされることのなんと多いことか…


2020.05.18 初稿
2020.12.09 追記

投稿 : 2025/01/04
♥ : 35
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