テロリストで特殊部隊なアニメ映画ランキング 3

あにこれの全ユーザーがアニメ映画のテロリストで特殊部隊な成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2024年11月05日の時点で一番のテロリストで特殊部隊なアニメ映画は何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

70.0 1 テロリストで特殊部隊なアニメランキング1位
コードギアス 亡国のアキト 第1章「翼竜は舞い降りた」(アニメ映画)

2012年8月4日
★★★★☆ 3.7 (810)
4901人が棚に入れました
監督、脚本家、二人のプロデューサー――たった四人から、コードギアス』は始まりました。お金も、テレビ局も、出版社も、有名な原作も、何もないところからのスタートでした。それがテレビシリーズとして放映され、さらに続編の『R2』が深夜枠から夕方枠へと引き上げられたのは、多くのファンの応援のおかげでした。
あらためて感謝と御礼を言わせてください。本当に、ありがとうございました。最終回を終えた後、多くの方々から続編を望んでもらいました。それらの声に応えるにはどうすればいいのか。我々は再び集まり、話し合い、単純な「続き」ではなく「拡大」を選択することにしました。今回、その嚆矢として、赤根監督のギアスが実現することを、とても嬉しく思っています。今後、発表されていくだろう「拡大」も含めて、みなさんご期待下さい。

声優・キャラクター
入野自由、坂本真綾、日野聡、松岡禎丞、日笠陽子、藤原啓治、甲斐田裕子、川田紳司、茅野愛衣、石塚運昇、森久保祥太郎、小松未可子、瀬戸麻沙美、東山奈央、早見沙織、高森奈津美、伊瀬茉莉也、松風雅也、三宅健太、子安武人
ネタバレ

けみかけ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.5

赤根和樹 is come back ! 異国の地でぶつかり合う異邦人同士の血・・・ とりま【本家の事は忘れて下さい^^;】 to the "翼竜は舞い降りた"

実に4年の時を経て再始動したコードギアスシリーズの映像化作品第1弾


そもそもこのシリーズの続編を作って欲しいという声は古くから多数あったのですが、谷口監督をはじめとする旧メインスタッフの方々は完成されたシナリオに“単純な続き”を作るというつもりは無かったようで、今作のように“シリーズの世界観を広げる”という手法にあえて拘ったそうです


現段階で推測できる時間軸を考えると恐らく『無印』と『R2』の中間にあった空白の1年間に当たると思います








舞台となるのはブリタニアの猛攻に苦戦を強いられているにも関わらず、危機感の軽薄な貴族と世論の反応に慎重な政治家によって“荒廃した民主主義”がとられるユーロピア共和国連合
(『R2』中盤でユーロピア連合は著しく衰退していくのですが・・・)


ブリタニアの日本占領によって、国を追われることになったヨーロッパ滞在の日本人達
そんな肩身狭き日本人の若者のみで構成されたユーロピア特殊部隊の一人“日向アキト”
部隊を指揮する幼くも誇り高き軍人であり、頭脳と武勇を兼ね備えた美しい女性指揮官『レイラ・マルカル』
そして敵国ユーロ・ブリタニア内で暗躍し、アキトと同じ姓を持つ謎の男『シン・ヒュウガ・シャイング』


彼らの【守る国無きまま今日を生き延びるための死闘】が描かれるサバイバルアクション映画となっております







事前から告知されている通り、スタッフのほぼ全てが入れ替え
監督と脚本は『天空のエスカフローネ』以来の古巣であるサンライズ作品となった赤根和樹
同じく脚本には「バーディーに中野ブロードウェイを走らせたり」(http://www.anikore.jp/anime/1288)「佐天さんに補習を受けさせた」(http://www.anikore.jp/anime/1394)浅川美也
両者ともこれまでのコードギアスシリーズには一切関わったことはありません


今作でまず初めに目を引くのがナイトメアフレームの戦闘シーンがCGとなったことですね


テレビシリーズでは中田栄治、中谷誠一を中心としたメカ作画を得意とするアニメタの技量によって支えられていたメカニックアクションでしたが、今作の赤根監督は『ジーンシャフト』や『ヒートガイジェイ』などのサテライト作品時代のCGアニメ成長期よりメカ描写には3DCGを用いていたこともあり、上記の赤根作品や『アクエリオン』『マクロスF』など一連のサテライト作品、それと『インフィニット・ストラトス』等でもCG監督を務めた井野元英二が率いるチーム“オレンジ”が全てのメカ描写を担当
(オレンジつってもジェレミアじゃねーおw)


これが大変素晴らしく、テレビシリーズとは全くと言っていいほど異質な凄まじくスピード感に溢れる戦闘描写になっており見どころです!


ただ逆説的に捉えると、ユーロピア下で開発されたという主人公が駆る新型ナイトメアフレームの動きなのですが、これまでオイラ達が観てきたナイトメアという陸戦兵器(あるいは『R2』でのアニメらしいキャラクター性をわざと強調したスーパーロボット感)というそれらの概念を打ち破るような独特なものであります;


ナイトメアの特徴とも言える車輪による高速移動はせず爬虫類のように4足歩行で地を這ったり
スラッシュハーケン(ビルをよじ登ったりするときに打つアンカーです)や脱出装置を使用する描写も無く、世界観を引き継いでる作品にも関わらず違和感を覚えるかもしれません
(『R2』当時からユーロピアのナイトメアは独特の路線で描かれていましたが)


この辺りはメカデザにあきまんさんを起用した影響も出ていると思います


総作画監督にはこれまた旧テレビシリーズとは無縁だった島村秀一
これに関しては当人の技量とは別に、“単にキムタカさんの絵に似せているだけ”のような印象もありまして、セルソフト化の際に細かな(細か過ぎると言ってもいい)修正を加えるなど繊細な作画によって描かれていた旧テレビシリーズで目の肥えたファンにはクオリティダウンに見えてしまうかもしれません;


そして音楽も前作のダブルコンポーザーを潔くやめてJAZZYな楽曲を得意とする橋本一子の一択に
これは単純に好みだと思うのですが、前作なら黒石ひとみさんの幻想的なボーカル曲が流れるような切ないドラマシークエンスで普通にピアノソロが流れてくるのはある意味新鮮でした


前作の主題歌はタイアップ臭がわざとらしかったですが(好きだけどw)真綾と菅野よう子のタッグに託され非常に好印象


キャストには入野自由、坂本真綾、藤原啓治、甲斐田裕子、川田紳司、松風雅也といった赤根作品ではお馴染みの声優陣に加えて
端役に小松未可子、瀬戸麻沙美、東山奈央、伊瀬茉莉也などの若手が配されたことに前作からの時間経過を感じますね^q^








とにかくハッキリさせたいのは【反逆のルルーシュに思い入れのあるファンほど今作には期待を裏切られてしまう恐れがある】ことです
シェイクスピアを意識しつつも、結果的にはフィリップ・マーロウを引用することとなった前作と違い、改めてシェイクスピアと思しきシークエンスを混ぜ込んでみたり({netabare}お墓を建てると亡霊が出て来るシークエンスがそうじゃね?{/netabare})、谷口監督ならばまずやらんであろう『暗転の多用』とか、何から何までが“違う”ニューシリーズ


古きギアスを一時忘れ、「Newコードギアスを楽しんでみたい!」という勇気あるアニメファンにこそ扉を叩いて欲しいものです

投稿 : 2024/11/02
♥ : 17

zunzun さんの感想・評価

★★★★★ 4.9

OVAだからこそ、多くの人に観てもらいたい力作。

待望のコードギアス アニメシリーズ新作。遅ればせながら先日ようやく視聴し終えました。

個人のレビュー順序から考えると、シリーズの原点である『コードギアス〜反逆のルルーシュ〜』にまず触れておくのが妥当でしょうが、敢えてここは、『コードギアス 亡国のアキト』を。それ程までに私にとっては印象的で素晴らしい作品でした。

と、息巻いていますが、本作、実はまだ未完です。ここでは現在までに公開されている第二章までのまとめレビューとさせて頂きます。

スタッフはTVアニメシリーズの谷口 悟朗監督から、「天空のエスカフローネ」、「ノエイン もうひとりの君へ」の赤根 和樹監督へとバトンタッチしています。個人的にはもうこの時点で胸熱なのですが、現在も愛されているTVアニメシリーズ終幕から第一章公開までに実に4年と時間も経っていたせいか、公開当時の私は他のアニメへ浮気していた事もあり、華麗にスルーしていました。。

...話を戻します。ビジュアル面について、本編に登場するメカニックのうちナイトメアフレーム (KMF) はTVアニメシリーズの『反逆のルルーシュ』『R2』では、ほとんどアニメーターによる手描きでしたが、本作ではオレンジが参加していることもあり、同社によるCG描画になっています。ここが大きなポイントです◎

本作の一番の魅力はOVAだからこそできる突出したビジュアルの美しさにあると私は思っています。一瞬コードギアスシリーズでは無い他作品を観ている感覚に陥る程、美しいです。キャラの作画についてはCLAMPのキャラデザの流麗で繊細な印象を更に活かした出来になっています。年齢別によるキャラの描き分けも素晴らしく、ここがTVアニメシリーズよりも優れている点かもしれないです。美形キャラだけではなく、歳を重ねた渋キャラが綺麗にちゃんと描かれてる。

背景は本作の舞台となるヨーロッパの文化と歴史を感じさせる空気感が上手く表現されています。森や平原、お城に町並みと、どこか上品な雰囲気が漂っていて、本当に素敵です。

そして、CGによるメカの表現がかなり自然で、上記の点と上手く調和を保っていることが一番の驚きでした。。特に冒頭の森での戦闘シーンは必見とも言えるほど美しく迫力があります。とにかく動きまくりで、2度ビックリ。

このビジュアルの衝撃は、個人的に『機動警察パトレイバー the Movie』や『フルメタル・パニック! The Second Raid』を観たとき以来の衝撃でした。とにかく凄いに尽きる。。

とここまで本編のストーリーの内容については触れませんでしたが、ここで少し触れておくと、本作はTVアニメシリーズの『反逆のルルーシュ』『R2』の間のお話で、時系列になっています。舞台はTVアニメ版では存在こそは明かされていたものの、実際にはほとんど登場しなかったE.U.での物語。主人公はルルーシュではなく、イレブンでありながら、E.U.の少年兵である日向アキト。本作での敵もどうやらブリタニアな様子。ヒロインでありE.U.の軍人であるレイラ・マルカルと共に、熾烈を極める強国ブリタニア軍との戦闘へと身を投じていくことになります。

ブリタニアといえば、TVアニメシリーズで描かれた皇帝シャルルの治める大国ですが、この『コードギアス 亡国のアキト』で登場するユーロ・ブリタニアはシャルルの血族では無いヴェランス大公(ユーロ・ブリタニア宗主)が治めるエリア。スタンドアローンで帝国最強にして皇帝直属の騎士であるナイトオブラウンズに匹敵する程の武力を持つ強豪エリア。なので、他エリアと比較しても一線を画している癖の強いエリアなのかも知れません。エリア総督をほぼ血族で固める皇帝シャルルとの関係も気になるところなので今後の展開にも期待ですが、二章の最後にスザクとあの男がE.U.の地に降り立ったことでブリタニア内部でも一波乱ありそうな予感です。

TVシリーズの魅力に、衝撃的な展開を衝撃的な早さで展開していくシナリオが挙げられるかもしれませんが、本作も伏線を幾十にも張り巡らしている印象なので、これからかなり期待出来ると個人的には思っています。大人も楽しめる劇的なピカレスク・ロマンに最高のビジュアル、これほどの力作は他に無いでしょう。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 4
ネタバレ

ヘラチオ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.8

タイトルなし

神聖ブリタニア帝国との戦いで劣勢の続くユーロピア共和国連合軍(E.U.軍)は、国を亡くしイレヴンと呼ばれる日本人を集め特殊部隊「wZERO」を設立。日向アキトはナイトメアフレーム、アレクサンダのパイロットとして生きるための戦いを続ける。TVシリーズ『コードギアス 反逆のルルーシュ』後の空白の1年を描く、ヨーロッパで起こったもう一つの、ギアスを巡る少年少女の物語が幕を開ける。


皇歴2010年、ユーロピア共和国連合、通称E.U.と長きにわたる戦いを続けていた神聖ブリタニア帝国は突如、極東の国、日本を占領、エリア11とした。これにより世界各地にいる日本人たちもまた、イレヴンとして亡国の運命を歩むこととなった。それから7年--。劣勢の続くE.U.軍は、正規の国民でないイレヴンを集め、生存率の極端に低い危険な作戦に立ち向かわせるための部隊、wZERO部隊を設立した。故郷と呼べる地もなく、日本人という名も奪われた中で、日向アキトは、wZERO部隊のナイトメアフレーム、アレクサンダのパイロットとして幾度目かの戦場に立つ。というあらすじ。


主人公は入野自由演じる日向アキト
坂本真綾演じるレイラ・マルカルといったいどういう展開を見せてくれるのか


{netabare}
皇歴2017年5月7日(革命歴228年フロレアル(花月)18日)、ペテルブルク奪還のためにユーロ・ブリタニア軍との戦闘に入ったE.U.軍132連隊は、その作戦に失敗したために四大騎士団の一つ聖ラファエル騎士団にナルヴァで包囲され、彼らの脱出路を確保すべく新型KMFアレクサンダを有する「wZERO」部隊が投入される。司令官アノウが兵士らに強要した自爆作戦により、彼らが次々と命を落とす中で戦局は悪化していくが、アノウのやり方に異議を唱えた参謀のレイラ・マルカルによる司令官権限奪取とアキトの獅子奮迅の戦いにより、132連隊の撤退は成功。この戦いにより「wZERO」部隊は「ハンニバルの亡霊」と呼ばれるようになる。
しかし、生還した兵士はアキトのみであった。ナルヴァ撤退作戦後、アキトは少尉から中尉に、レイラは「wZERO」の司令官にそれぞれ昇進。そして、佐山リョウ率いる成瀬ユキヤや香坂アヤノらイレヴンの少年グループがマフィアとの抗争に勝利後、ジィーン・スマイラス将軍誘拐作戦を決行するもアキトの働きによって全員が拘束され、戦闘員が不足している「wZERO」に入隊することとなる。一方、ユーロ・ブリタニア軍では四大騎士団の1つである聖ミカエル騎士団総帥、ミケーレ・マンフレディが側近のシン・ヒュウガ・シャイングのギアスによって自害させられていた。
{/netabare}


主題歌
モアザンワーズ 坂本真綾
第1章から第3章まで
作詞が岩里祐穂、作曲・編曲が菅野よう子というゴールデンコンビ。
坂本真綾様の物憂げな感じの歌声がたまらん。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 0

74.2 2 テロリストで特殊部隊なアニメランキング2位
虐殺器官(アニメ映画)

2017年2月3日
★★★★☆ 3.8 (253)
1856人が棚に入れました
世界の紛争地を飛び回る米軍特殊部隊クラヴィス・シェパード大尉に、謎のアメリカ人の追跡ミッションが下る。その男、「ジョン・ポール」は、紛争の予兆と共に現れ、その紛争が泥沼化するとともに忽然と姿を消してしまう。かつて有能な言語学者だった彼が、その地で何をしていたのか。アメリカ政府の追求をかわし、彼が企てていたこととは…?

声優・キャラクター
中村悠一、三上哲、石川界人、梶裕貴、小林沙苗、大塚明夫、櫻井孝宏

waon.n さんの感想・評価

★★★★★ 4.8

いち伊藤計劃ファンの視点

 非常に思い入れのある作品です。私をSFの世界へさらなる一歩を踏み込ませた作品であり、人物です。
 この作品以前からジョージ・オーウェル小説の『1984』であったり、ディックの『アンドロイドは電気羊は夢を見るか』くらいはたしなんでおりました。
 映画でもSFというジャンルは好きでよく観ているわけですが、SFとファンタジーの違いとかあんまり考えずに『ブレラン』や『エイリアン』などを楽しんできたわけです。
 それでも十分に良いんですけれど、SFのジャンルに対して特別な意識を持ったのはこの伊藤計劃さんの作品に触れてからという事になるかと思います。
 この伊藤計劃さんの作品には今に繋がる未来だったり過去だったりを感じる事ができる。そこにSFとファンタジーの違いがあることを見せつけてくるんですよね。
 特にこの虐殺器官という作品に関しては特に今に繋がっているように感じられますし、この物語の問題っていうのは明日にでも核爆弾でテロが行われてしまい、この作品と同じ流れを世界が作ってしまう可能性があるのではないかという恐怖をもつことができます。
 シミュレーションになっているという点がこの作品の魅力であり、SFのひとつの楽しみかたなのではないでしょうか。
 本作品の中には色々な未来のデバイスが登場します。まだ開発されていないかもしれないが、ナノテクノロジーにしたって実用化レベルに至っていないだけで、実際にあると聞く。まずは軍用化からされて、民間レベルまで落ちてくるのにどれくらいの時間を要するかは分からないけれど、そう遠くない未来がかんじられます。
 人工筋肉も義手や義足のレベルは驚くほど進化しているので、不可能と断定することもないでしょう。
 また、デバイスもさることながら、国際情勢もポリティカルフィクションの要素も含んでいるため、設定が作りこまれています。
 原作読んでる前提になってしまうので、アニメのレビューをするこの場にはもしかしたら相応しくないのだろうが、いちファンの戯言と吐き捨てここは許してもらおう。
 この作品においてなぜ、サラエボが核爆弾テロの標的となったかという話は過去、現在、未来へと繋がっているのです。
 『戦争広告代理店』という本があるのをご存知でしょうか(暇と興味があればぜひ手に取ってもらいたい)。ボスニア紛争をドキュメントで書き下ろした一冊なのですが、ボスニアヘルツェゴビナの首都サラエボは今でこそ美しい街並みであり、多人種、多民族が入り混じっている平和な国となっているが、1990年代にセルビアとボスニアの間に紛争が起こりました。ボスニアの取った行動が今の美しい景観をしたサラエボという町を作り出した。ただし、当然ながら犠牲もあり、敗者もある。
 敗者がいれば、憎しみも生まれるだろう。それにアメリカが絡んでいる事は想像がつくと思います。なんなら最近の戦争でアメリカが絡んでないものなんてあるのかという位ですね。さかのぼれば第二次世界大戦なども絡んできますね。例えば、ユダヤ人虐殺の話にまでまでも触れています。フランツ・カフカが現在はチェコのプラハが出世地でユダヤ人であることが文脈のなかで語られ、ユダヤ人虐殺が物語のなかに必要不可欠な要素として組み込まれているなど、造詣は細かく深い。
 こういった過去から現在(書かれた当時)の国際情勢や歴史を話に盛り込ませることができている作品です。

 他にも大人の子供に対する扱い。平和な暮らしを安定して供給されている裏側にあるものはなにか。など様々なテーマが散りばめられていて、どれを掬い取り、目を向けることができるのか。それは見ている個人に委ねられているのではないでしょうか。

 日本で描かれる戦争もの映画ってなぜか日本人、可哀想とかやられちゃう系が多いんですよね。被害者であるように描かれているように思えるんですが、戦争って被害者とか加害者とかじゃないと思う。
 伊藤計劃って人の凄いところは日本人でありながら外国の戦争を描けていることで、しっかりと加害者であるし、それによって生まれる兵士の苦悩というのが描かれています。いわゆる「PTSD」というやつで、これはイラク戦争での実在した兵士による伝記をもとに映画制作された『アメリカンスナイパー』ではないでしょうか。
 こちら側を描ける、描けている作家は日本にはそうはいないと感じます。

 ここまでは小説の話になってしまっていましたが、この前段階を踏んで語りたかったんです。
 アニメとして映像化されるにあたり、何やら紆余曲折あったようですね。当初制作していた制作会社が破産してしまい、新しい制作会社に引き継がれるなどして完成をむかえたそうです(wiki)。

 さて、アニメを制作のスタッフです。
 監督には『Ergo Proxy』でも監督をした、村瀬修功さん。もともと原画畑だった人のようで、やはりその動きや見せ方はカッコいい。最近では『GANGSTA』でも監督をしており、どう語らせるかよりもどう見せるかを意識している監督のように思っています。今作もその良さはしっかりと出ていました。
 また、キャラクターデザインもやっているようで、懐かしの『機動戦記ガンダムW』のキャラクターデザインもやっていたそうです。
 今回は脚本も兼任している。個人的にこういった内容のものを原画畑の人が脚本をすることには懐疑的でした。というのも、リドリー・スコットのようにカッコいい映像や音の感じで内容を決めてしまうのではないかという点が付いて回るためです。(リドリーは他にもちゃんと良いところたくさんあります。……多分)
 しかし、そんなのも杞憂でした。原作で描いている内容がしっかりと読み解かれて映像化されているように感じました。むしろ、このアニメを見て原作をまた一段上で楽しめるようになったのは村瀬さんの能力の高さだと感じます。

 音楽は池 頼広さん。『Ergo Proxy』でも音楽を担当していたので村瀬さんが推薦したのかどうなのか定かではないですが、再びこのタッグが実現するわけですね。個人的には『神撃のバハムート』での音楽が好きでした。
 表現している音楽の幅が広いなーすごいなーくらいでしたが記憶に残っていました。

 美術監督は田村せいきさん。レビューを書くにあたりもう一度見直してみたところ発見したのですが、廊下を進む描写で歩いている足を見せるカットがあるんですが、そこで木製の廊下から、石造りの廊下に変わる。これはおそらく、バロック様式で石造りだった部分とその後イギリスの植民地となりアメリカ的な木造建築に切り替わったため増築や改修などのさいに混在したことでこうなったのではないか。それを再現している、もしくは表現しているのはこだわりを感じました。他にも調度品や、未来的なデバイスの表現も良いです。

 声優さんには中村悠一さん、櫻井孝宏さんはイメージにピッタリという感じで、大塚明夫さんに関してもこういう役本当にハマっているし、『メタルギア』ファンの伊藤計劃さん的にも嬉しかったのではないでしょうか。
 個人的には小林沙苗さんが嬉しかった。長いセリフのなかにある、澱ませたり、間を取る感じが良いんですよね。

 この物語はあくまでも戦争や紛争を描いています。それは過去、現在、未来とつながりがあります。一つの物語でつながるのではなく、リアルな視聴者のとのつながりでもあります。
 楽しむという表現とは少し違いますが、前述しているようにシュミレーションであり、それはそのまま未来への危惧でもあります。映画『ターミネータ』のように未来では人工知能をもった機械に人間が殺されてしまうという未来を見せることでこんな危険も存在するという恐怖をシュミレーションするのと同じことです。
 ここを楽しめるかどうかがこの作品にハマることができるかどうかの境界線になるのではないでしょうか。
 個人的には素晴らしい作品でしたので、多くの人の目に留まり、楽しんでもらえたらと思います。

 この伊藤計劃という作家の作品に触れて感じたのは自分の教養や知識によって芸術(ここでは広義な意味で)は楽しめる幅が広がったり、見方がかわったりするのだという事です。
 これってすっごく当たり前で私がこうして書くまでもなく、誰しもが感じたことがあるはずで、小さい頃に観た漫画や映画、アニメを大人になって観返すと「違う面白さに気づく」みたいなことなんですよね。「言われるまでもねーやい!」ってなったかたは申し訳ありませんでした。
 恥ずかしながら私が気づいたのは最近でして『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』なる本でも買うかと迷っているほどです。

 とりあえず、この作品に対してのレビューはおしまい。ここはら超絶蛇足になります。
 レビューを書くまでにだいぶ時間がかかりました。好きな作品はしっかりと書きたいし、読んでもらう事に対してその時の感情だけで書くのは避けたいという気持ちから躊躇われたわけです。
 そんなレビューがあと3作品ほど溜まっていたりもして、いつかは……と思っているのです。
 今回は他のかたが書いている虐殺器官のレビューを読んで触発されたというか勇気をもらったというかモチベーションが上がったというか……。
 そしてちゃんとアニメのレビューになっているのか怪しい。
 今回はイレギュラー的に原作とアニメの両方で語ってみたのですが、上手く分けられていないようにも感じてきて消してしまおうかとか消極的なことも考えていますが、ちゃんと投稿します。
 長くなりましたが、勇気を与えてくれたレビューを書いている皆さまありがとうございます。そしてよもやここまで長ったらしいモノを読んでくれる人がいたらその人にもありがとうございます。
 『人は見たいものだけしか見えないようにできているんだ』
 ではおつかれさまでした。
  

投稿 : 2024/11/02
♥ : 5
ネタバレ

Progress さんの感想・評価

★★★★★ 4.6

虐殺器官 レビュー

端的に言えば、アメリカの特殊部隊に所属するシェパードが、世界各地で虐殺を扇動するジョンという男を捕まえようとする話です。
{netabare}
シェパード達特殊部隊の隊員は、マスキングと呼ばれる、ナノマシンによる痛覚遮断技術、および感情調整における何事にも動じない兵士という、近未来的兵士を描いています。

このマスキング、感情調整という、フラットを生み出す設定が、心身の痛みに鈍感になった人間達を暗に示しており、鈍感な人間社会に住む一人のシェパードが、鈍感さを失っていく話になります。

私のように後追いで見た者の見方としては、「どれどれ、本当に何事にも動じない兵士なのかじっくり観察しようかな」なんて思うのですが、シェパードに関しては、ジョンの虐殺文法と呼ばれる手法に引っかかった敵や、ジョン本人に対しても、感情を揺り動かされ、ルツィアに関しては特別な思い入れまで入っていたように思えます。
まあですから、この作品は、特殊部隊が大事な仲間を失いながらも仕事を全うするようなアダルトなものではなく、社会に支配された(ここはジョンとシェパードの最初の会話、国家への隷属の部分)個人が、支配から逃れるまでに変化する物語だと思います。

シェパードとルツイアの関係は、最初こそ、情報軍のスパイと、チェコ語教師(ジョンの元恋人)という関係に過ぎませんでした。ところが、ルツイアがここで死ななくてもよかったとか、個人軽視の社会の個人感情を消した兵士(少年兵であろうが躊躇なく殺せる兵士)であるシェパードが個人の価値というものを見出しています。
どこで変化したか、ジョンとの会話の中でか、楽し気なルツイアとの会話の中か。(後者であるなら、調査対象に情が入るなんともお粗末なスパイなので、前者を押したいですね)もしも前者を押すなら、土壇場で言語学を専門とするジョンの巧みな会話による精神誘導に引っかかったともとれるので、やはり兵士としてはお粗末、なのですが、この作品のそもそもが兵士としての優秀さを描くものではないことは上の方で述べた通りです。
そのため感情に揺り動かされて無能な兵士であっても、兵士を感情のない兵器であるとするなら、そこからの脱却を描いたのが今作品だと思います。

ここで無感情の脱却という点で、いくつかのセリフとシーンが繋がります。
遠い場所で起きている虐殺で、アメリカに住んでいる人たちに届く話はほんの僅か。この意味と、ピザを食べながらテレビでラグビー(アメフト?)を見ているシェパードと、ウィリアムズのシーンは共通するものがあります。
世界のどこかで起きている虐殺、それを感情的に深入りしようとする人はほとんどいません。ニュースとして聞き流し、そんなことがあったのかと日常に戻る。感情的に起伏がない(フラット)のです。それが悪いかどうか、悪くはないでしょう。ただ、あまりにも世界の遠くで起きている虐殺に、痛みを感じなさすぎなのではないかと、そういうことを感じるのです。
一方でラグビーを見るシェパード達は、日常の中での痛みへの無感情を描いています。彼らが見ているラグビーの試合では毎回けが人が出ます。その怪我に対して驚くわけでも、悲しむわけでもない、フラットな感情なままです。ウイリアムズに至っては、バカなルールだと何気なく言う始末。同情ではなく、なんでこんなバカなスポーツやってるんだという、嘲笑(それを見ている彼らの鈍感さ)。
彼ら兵士にとって、ラグビーはどこか遠いようで近い、怪我をしてでも任務を遂行する所が似ているように感じてからの、仕事に対しての皮肉でしょうか。
しかし、2回目に映し出されたそのラグビー鑑賞シーンで、けが人が回復したときに、少しの安堵のようなものがその場に広がった時、彼らは鈍感な社会、鈍感な職業にいながらも、どこかで感情を持っているという、人間臭さを出しているのが伺えます。

さて、色々書きたいことはまだありますが、今回はこれで。
ありがとうございました。

【再視聴~雑多なシーンとテーマについて】
ストリーミング期間があるので、再視聴までそんなに期間を置かずに視聴しました。
まずは、ストーリーとはあまり関係のない、いくつかのシーンにおいて、気付いた事をメモ程度に示そうと思います
まず、赤髪の敵女兵士について。
印象的なシーンは、シェパードが路面電車に何気なく乗り込んで来ようとする赤髪の女を見て、ルツイアに「仲間か!?」と聞いた所。
なぜシェパードが赤髪の女を、敵兵士として認識できたか。
それは、赤髪の女の初登場シーンがその前にあるからです。ルツイアとチェコ語のレッスンを受ける契約をしたその日の帰り道、シェパードは何者かに付け狙われます。その時、シェパードの乗った地下鉄の電車に入ってくる怪しい者たちの中に、赤髪の女がいた。それをシェパードは記憶していたからです。

次に、序盤の仲間の死体置き去りと、ルツイアの死体置き去りの比較について。
まあ、これはシェパード自身が語っていますが、ルツイアの死体を置いてきてしまった、大切な人の死体は物に見えない。
つまり序盤で死んだ仲間の死体については、シェパードは物としてみていました。
その差異について何故発生したか、というのは、シェパードが特別な感情をルツイアに持ち、その感情を持つまでにシェパードが変化したから。
ここで差異の理由を述べるよりも、映像で見たときのシェパードの変化を見たほうが、ありありと彼の変化や感情を受け取れると思います。

民間軍事会社がなぜジョンを取り戻そうとしたか。
これは邪推に過ぎませんが、内戦が起きることによって軍需があり、軍需が発生し続ける限り、ジョンを生かすメリットがあったのではないでしょうか。


ここから、一つのテーマの話になります。世界の選択の責任
ここでいう選択は、世界の真実を知るべきか知らざるべきか。情報の隠蔽と選択。
知らなくてもいいことは知らず、安穏とした堕落した生活を守りたいと思う人、ジョンやウイリアムスがそれに当たります。(彼らにはそれを提供したい恋人や家族がいました)
世界で虐殺が起きている事を知らせるべきと思うのが、最終的なシェパードやルツイア。人々に今の生活がある理由を知らせ、その中で選択すべきという考え。
ルーシャスのセリフ、高度な自由であったり、人は見たいものしか見えない、人工筋肉の悲惨な生産現場など、便利や安全を得る自由を何気なく選択しているが、その自由を得るために使われている犠牲を人々は知るべきか知らざるべきか。

そういったテーマがある中で、ルツイアの願い「突然大切な人が奪われることがないような世界」をかなえるためにジョンが遠い世界の人間の命を天秤に掛けて選択します。結局、ルツイアはジョンの作り出そうとした願いの世界を否定するという、未だにジョンを好きだったはずのルツイアの選択、ジョンの間違いを描いた恋人の関係を描かれています。精神的依存がルツイアにあると視聴者に思わせていた状態から、実はジョンがルツイアの願いをかなえたいという、ジョンの依存精神を描いている、人物の精神的強弱の逆転、もしくは入れ変わりが面白かったですね。







メモ {netabare}
重要な言葉をいくつか挙げてみたいと思います。

虐殺、器官、言葉、痛み、マスキング、少年兵、サラエボ、フラット、ピザ、ラグビー、個人、国家、世界、心、感情調整、PTSD、遠い場所で起きている、伝わってくる話はごくわずか、潜在的意識、存在の消えた傭兵、人工筋肉、イルカ、クジラ、
二回目
民間軍事会社 情報の隠蔽 頭の中の地獄 仲間殺し 究極の兵士 ウィリアムズ 仲間意識 生得的文生成機能 赤い髪の女(電車) 指紋 網膜認証 俺は誰でもない 情報社会とのバランス(ルツイヤ)
自由の選択 プライバシーの自由と、テロの抑圧からの自由 指紋認証の銃 諜報機関 それほどの隷属(国家と兵士) ルーシャス ナノマシン 人は見たいものしかみえないようにできている 犯人は軍事会社 僕は知らない オルタナ(ナノマシン) 仕事と鈍感 心に覆いをする(ジョン) 中国製ヘリ マスキングされた敵兵士 計数されざる者たち 軍事企業がなぜジョンを助けるのか 内戦の勃発による軍需 自分が生まれた世界を守る 選んだ世界への責任 嘘っぱち 死体を置き去り(冒頭の置き去りとの比較)大切な人の死体はものに見えない 大切な誰かを突然失ったりしない世界 人の命の天秤  罪を背負う 
{/netabare}

{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 24
ネタバレ

ぺー さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

ジェノサイドの正当化

または
虐殺をジャスティファ~イ

いつもながら原作は未読。本編もレビューも不穏なタイトルですね。文字通り不穏なやつです。
少し前に遇々『バビロン』という迷作に触れ、その作品談義で頻出してたタイトルがこれでした。

・34歳の若さで早逝した原作者伊藤計劃
・原作『虐殺器官』その評価の高さ
・ノイタミナムービーなるブランド

これまで知らなかったことを知ることができました。これだけでもお得感あるかしら。
早逝したこともあり数少ない輩出作品をアニメ化する試み「Project Itoh」三部作の締めを飾った作品。2017年2月公開のR15+指定。115分です。

あらすじ:サラエボで起きた各爆弾テロを機に世界各国でテロが激化。アメリカを筆頭にテロに対抗する中で先進国では沈静化の方向。後進国では内戦や虐殺が頻発。といったIFストーリー。
後進国で指導層に接触し対立を煽り、内戦や民族対立による虐殺などを引き起こす黒幕として暗躍すると見做されたとある人物を暗殺せよ!
その実行役である特殊部隊員クラヴィス・シェパード大尉が主役の物語です。


戦闘行為にまつわるグロ表現っぷりでR15+指定となってます。
詳細に触れると、タイトル“虐殺”から想像しそうなスプラッター的おどろおどろしさが主成分のグロではありません。あくまで銃撃戦で斃れる敵兵の描写がそれらしいだけ。想像と違ってライト風味かもよってことは指摘しておきます。程度や具合は18禁ではなくR15指定ということでお察しくだされ。
年齢制限が入るのはクリエイターがやりたい表現をできていることの裏返しな部分もあって、本作のミリタリ描写はアニメの中でも超一級の部類に入ると思われます。オペレーションの合理性や演出の迫力などモノが違う感じがします。
『劇場版PSYCHO-PASS』のミリタリ描写との既視感を覚えましたが、プロデューサーがご一緒ということで納得。ノイタミナで辣腕をふるった山本幸治さんです。それでノイタミナムービーということもあるのね。いろいろ繋がってきました。


 世界観 ◎ ※後述
 軍描写 ◎


軍事作戦がベースにあるお話なので根っこが変だと台無しになっちゃいますがその心配はありません。
あとは通しでの物語の面白みであったり、黒幕ジョン・ポールの目的が腑に落ちるものかだったり、やはりというか作品から受け取るメッセージへの共感の有無が気になります。


 物語 △と○の間


タイトル回収を済ませ、大国のエゴも匂わせる国家の繋がりや人間の持つ原罪のようなものへの言及。おそらくこうだろうと想像できる結末もアリといえばアリ。ただしいかんせんよくわからない。

 {netabare}雰囲気だけかっこいい?{/netabare}

劇場版なので視聴者に想像させる手法を否定しないけど軽い匂わせ止まり。肉を焼く匂いで白飯を食べるような感覚。もう少し踏み込んで欲しかったです。
ところがふとしたとこで原作のネタバレを聞き、

 物語・改 ○と◎の間

となりました。

※原作ネタバレ
{netabare}ジョン・ポールの遺志を継いだクラヴィス・シェパードがアメリカに戻り、“虐殺の文法”を駆使してアメリカを内戦に導いていく。{/netabare}

{netabare}小国の犠牲の上にある大国の繁栄について自問自答が描かれてたとのことです。南北問題ですね。{/netabare}


“人工筋肉”なるガジェットが途上国の子供たちによる搾取的な労働に支えられている、とフェアトレード運動に通底するネタが挟まれてましたが、そんなネタが最終的に繋がっていくところまで提示しないのはもったいなかったですね。
とは言っても雰囲気や見た目を馬鹿にするなかれ、です。映画を観てる時間だけその世界に浸れる幸せを実感できる劇場版作品でしょう。その点で買い!優秀な娯楽作品です。




※後述…の世界観◎について

■United Nations

“国際連合”とは意図的な誤訳です。“連合国”が正しくその国連憲章には日本を敵国と見做した条項が残存していることをご存知でしょうか。たかが条文、実態は違うとも言われますが、この敵国条項を除こうと日本が働きかけてもしっかりChinaは潰しにきてくれたりするのが現実です。
永らく“平和のための国際組織”と喧伝され教科書でもそう習ってきた私たちですが、非常に矛盾を孕んでいるのです。直近の事例だと国連の専門機関WHOの武漢肺炎をめぐるグダグダっぷりでしょうか。

 金だけ出して口は出さないでね

日本に求められてる役割がこれ。よって個人的にはあまりこの組織をよく思ってません。そんなとこへ作品の冒頭↓


{netabare}「寛容と多文化主義がこの国の美徳だったのに」と今は民族浄化に勤しむ途上国の指導者がベートーベンの『月光』をバックにシェパード大尉に独白します。
何故自国民に手をかけたのかわからない。黒幕ジョン・ポールの存在を匂わせる一幕です。その前段。

シェパード:
「その国民を殺して回る。あんたの言う政府とやらはどの国連加盟国からも承認されていない」
えらい人:
「国連?我々の文化を土足で踏みにじり、自決権を鼻で笑う最悪の帝国主義者どもが…」{/netabare}


主人公へのシンパシーはもちろんのこと小国の哀しみなんかをこの指導者に見ることができます。きちんと序盤から下地を作っているのです。



■1974年と1975年

原作者伊藤計劃氏とプロデューサー山本幸治氏の生年です。けっこう作品に影響しているような感じ。
だいたいにして小学生時代のバイブル。ジャッキー・チェンの『プロジェクトA』が原題『A計劃』。これホント漢字なの?と伊藤少年の脳裏に焼き付いてたことは想像に難くありません。
多感な中高生時代で起こった世の中の出来事と暇な大学生時代に触れたであろう作品群。この年代特有の感覚が作品に反映されているとふんでます。

15歳前後で「ベルリンの壁崩壊」「ソ連崩壊」を経験。なんとなく大きなうねりが起こっていることを感じつつ、チャウシェスクの銃殺遺体のインパクトだけ覚えていた思春期。
中学の社会科では、“コルホーズ”“ソフホーズ”などを例にとり計画経済を好意的に捉えていた教科書で学んでました。なんせまだ崩壊前だったので。

その後の東欧民主化で泡を食ったのが欧州の火薬庫バルカン半島。ユーゴ紛争が停戦合意したのが彼らが社会に出る頃合い2000年頃でした。
思索に励むことが可能な大学生時代には小林よしのりの『戦争論』が大ヒット。United Nations(連合国)が構築したWWⅡ後の枠組みに疑義を呈した意欲作と言えましょう。

ドイツおよびチェコを舞台としたサスペンス作品『MONSTER』(浦沢直樹)
ユーゴ紛争で故郷を破壊した者への復讐の物語『PEACE MAKER』

90年代後半に発表された東欧を舞台にした名作群もきっと学生時代に目にしてるんでしょうね。
思えば「ソ連崩壊」とはもの凄く大きな出来事で共産主義の敗北に象徴される第二次世界大戦後の枠組みが崩れたことを意味してました。余波は覇権国アメリカにもおよび歪みの極地が“9.11”にと。

そういえば『MONSTER』のヨハンもニナも1975年生まれの設定です。
朝日・岩波的な言説がインテリの条件だった時代から潮目が変わったのはこのへんの年代からかしら。


国際紛争やミリタリ要素の強い作品を描く時にチェコやユーゴの東欧を舞台にしたくなる気持ちがわからんでもない世代。
お話にしやすい国際情勢の煽りを若かりし頃に浴びちゃったこともあるし、中東やジャングルでの紛争よりも身近に感じることのできるエリアでした。今は情勢も落ち着いてますので実際訪れてみるのをおすすめしますよ。異世界ものにありそうな古き良きヨーロッパの風景は中欧・東欧に残ってます。



視聴時期:2020年3月

-----
2020.12.09追記

5月が初稿の本レビュー。半年経過して“武漢肺炎”の呼称は聞かなくなりましたね。“新型コロナ”で定着した感があります。こうして振り返って気づくことはままあります。
定点観測することで変化に気づく。現在の断面だけ見て踊らされることのなんと多いことか…


2020.05.18 初稿
2020.12.09 追記

投稿 : 2024/11/02
♥ : 35

69.3 3 テロリストで特殊部隊なアニメランキング3位
人狼 JIN-ROH(アニメ映画)

2000年6月3日
★★★★☆ 3.8 (274)
1322人が棚に入れました
『人狼 JIN-ROH』(じんろう)はProduction I.G制作の日本のアニメ映画。押井守の代表作である「ケルベロス・サーガ」の一作。\n強引な経済政策によって失業者と凶悪犯罪が急増した首都・東京。政府は反政府勢力掌握の為、“首都警”と呼ばれる治安部隊を設置する。その首都警の一員である青年・伏一貴は、闘争本能のみで生きる一匹の“狼”の様に一切の感情を切り捨て、自分を律してきたが、一人の女性・雨宮圭と出会い、運命のように惹かれ合っていくが…。

お茶 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

「物語の美しさは、内容よりお表現による」 

強引な経済政策によって失業者と凶悪犯罪が急増した首都・東京。政府は反政府勢力掌握の為、“首都警”と呼ばれる治安部隊を設置する。その首都警の一員である青年・伏一貴は、闘争本能のみで生きる一匹の“狼”の様に一切の感情を切り捨て、自分を律してきたが、一人の女性・雨宮圭と出会い、運命のように惹かれ合っていくが…。(アニメ映画『人狼 JIN-ROH』のwikipedia・公式サイト等参照)

と、本作の設定は狼のように戦闘行動以外思考しない、してはいけない人間の物語であり、その中で出会う少女との物語でもあります。したがって戦闘中に少女を助けるという選択肢を選びます。ただ本作で驚いたのは映像です。

雰囲気としてメタルギアやマトリックス風かつ、重厚な重苦しい色合い・間・心理描写。そのどれもが押井さんの自己満足のようでもあって、ギリギリえいぞうとして成り立っている際どさが何よりも売り。好き嫌いは完全に分かれるでしょう。私はどちらかと聞かれれば苦手です。何よりも辛い辛いのだ。それがよくある残酷な描写とかではなく、圧倒的な映像。いや自分の感覚なので多くの人には当てはまらないでしょうが、観てる側に有無を言わさぬ感じ、例えばニュースで事件や事故が起きた時に流れている映像や、戦時中のモノクロフィルムのようなアレ。すでにその事実があるようで、余白感がないんですよね。それが辛いし、何よりも不親切な創り。

物語としては映像が不親切な分、割と直線になっているような気もします。あらすじそのまんま位に、あまり複雑に広げない采配。これ以上小難しくなった場合視聴を断念していたでしょう。

この物語には赤ずきんを比喩していると考えられる。頭巾は、16、17世紀に貴族や中流階級の夫人が被ったおしゃれ帽である。物語の核心に、まさにその物語全体を象徴するかような強い映像的イメージを見事に折り込み、たわいもない話を永遠の文学にまで高めた。

作者自身、こう言っている、「物語の美しさは、内容よりお表現による」 と。

祖母から赤いずきんを贈られたということは、この少女が最初からスポイルされていることを示唆していると同時に、この少女がなにか社会から逸脱した要素をうちに秘めており、魔女になりうる素質をもっていることを示しているとも考えられる。赤ずきんが狼(森に住む悪魔的なもの。人狼)と言葉を交わすことも、この物語を聞く当時の人びとには、赤ずきんの魔的な素質を感じさせたにちがいない。そして、社会からはみ出した者は罰せられ、みずからの命によってその罪を贖わなくてはならない。

このような考察・対比もあって、どちら(狼と少女)が赤ずきんであるかも本作の美しさであるのでしょうか。
 

投稿 : 2024/11/02
♥ : 1

takarock さんの感想・評価

★★★★☆ 3.6

狼は所詮狼、人にはなれないのか? それとも・・・

2000年公開のアニメ映画。上映時間98分。一部残虐な描写があり、PG-12指定。
原作・脚本は押井守氏、監督に沖浦啓之氏(初監督)、
演出は神山健治氏と錚々たる顔ぶれです。

簡単な舞台説明(知っている方は飛ばしてください)
終戦から十数年後、強引な経済政策により
街には失業者が溢れ凶悪犯罪が多発していた。
中でも「セクト」と呼ばれる過激派集団の反政府運動が社会問題となっており、
政府もそれに対応すべく「首都圏治安警察機構」通称「首都警」を設置。
武装闘争は泥沼化していく中、
行き過ぎた首都警に対して世論から非難する声も大きくなっていった。

※本作では戦勝国はドイツとなっており、
これは架空の世界ということを強調しているのでしょう。

どうでしょうか?
制作スタッフと舞台説明からも分かる通り
本作は重厚謹厳な雰囲気を終始纏っています。
アニメ映画というよりも邦画を観たという印象でしたw
気楽に観れるタイプの映画ではない為、心の準備が必要かもしれませんw

絵は今敏監督作品のような感じですね。
本作の主人公、
首都警の戦闘部隊である特機隊の一員の伏一貴(ふせかずき)巡査は
朴念仁とも形容できるようなソルジャーです。

薄暗さを感じる曇天模様の昭和を舞台に
ボソボソっと必要最低限の会話しかしない伏一貴は
哀愁という言葉が嵌まり過ぎる程嵌っています。
まさにハードボイルドな世界観です。

タイトルから分かる通り本作のテーマは
「人の皮を被った狼」ということになるでしょう。
ダースベイダーを彷彿とさせる強化装甲服が印象的でした。

特機隊と公安部の警察内部闘争に発展していく中
伏一貴の前に突如表れる少女雨宮圭。

この恋は徒花?
狼は所詮狼、人にはなれないのか?
それとも・・・

イデオロギー色も極力控えられていますし、
ストーリー自体も結構シンプルです。
押井作品が嫌い、政治や社会を絡めてくる重厚な作品は観たくない
ということでなければ視聴してみる価値はあると思います。
ラストシーンが印象的で様々な感情が湧き上がってきました。

それにしてもこれ程レビューが書き辛い作品もそうはないですw
時代背景や取り巻く環境、キャラに対しての感情移入という点でも
視聴者はひたすら傍観者であることを強いられるという感覚を覚えました。
視聴者が口を挟む余地がほとんどない作品というか・・・
換言すればそれだけ完成度の高い作品ということなのかもしれません。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 38

三崎鳴 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.6

うーん…難解な作品

押井守作漫画『犬狼伝説-Kerberos Pnzer Cop』を原作としたアニメーション映画作品。脚本も押井守その人が兼ねている。押井守と言えば『イノセンス』『機動警察パトレイバー』『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』など名作SFアニメ作品の作り手として名を馳せる監督だが本作はジャンルとしては戦争物の部類に入る。「あの決定的な敗戦から十数年」--第二次世界大戦の戦敗国・日本。戦勝国ドイツによる占領統治下の混迷からようやく抜け出し、国際社会への復帰のために強行された経済政策は、失業者と凶悪犯罪の増加、またセクトと呼ばれる過激派集団の形成を促していた。そして本来それらに対応するはずの自治体警察の能力を超えた武装闘争が、深刻な社会問題と化していた。政府は、国家警察への昇格を目論む自治警を牽制し、同時に自衛隊の治安出動を回避するため、高い戦闘力を持つ警察機関として「首都圏治安警察機構」通称「首都警」を組織した。(wikipediaより引用)世界設定が複雑なだけに話も複雑。正直初見で内容を完全に理解するのは難儀だがダークな雰囲気ゆえにひきつける要素は強く、開幕から終幕まで前編を通して内容が陰鬱である為暗い話が好きな人にとってはたまらない逸品。自分は正直内容の理解が完全には追いついていないので今後視聴を重ねて完全な理解を得たいと考えている。以下本作受賞暦。

第54回毎日映画コンクールアニメーション賞
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2000南俊子賞
ファンタスポルト1999最優秀アニメーション賞/審査員特別大賞
モントリオール・ファンタジア映画祭アジア映画部門2位
ベルリン国際映画祭パノラマ部門正式出品
第5回アニメーション神戸個人賞
第10回日本映画プロフェッショナル大賞第9位

投稿 : 2024/11/02
♥ : 2
ページの先頭へ