テロリストで戦闘なアニメ映画ランキング 6

あにこれの全ユーザーがアニメ映画のテロリストで戦闘な成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2024年11月05日の時点で一番のテロリストで戦闘なアニメ映画は何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

78.2 1 テロリストで戦闘なアニメランキング1位
劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス(アニメ映画)

2015年1月9日
★★★★★ 4.1 (1105)
6887人が棚に入れました
世界は禁断の平和(システム)に手を伸ばす。
2116年――常守朱が厚生省公安局刑事課に配属されて約4年が過ぎた。
日本政府はついに世界へシビュラシステムとドローンの輸出を開始する。長期の内戦状態下にあったSEAUn(東南アジア連合/シーアン)のハン議長は、首都シャンバラフロートにシビュラシステムを採用。銃弾が飛び交う紛争地帯の中心部にありながらも、水上都市シャンバラフロートはつかの間の平和を手に入れることに成功した。シビュラシステムの実験は上手くいっている――ように見えた。
そのとき、日本に武装した密入国者が侵入する。彼らは日本の警備体制を知り尽くしており、シビュラシステムの監視を潜り抜けてテロ行為に及ぼうとしていた。シビュラシステム施行以後、前代未聞の密入国事件に、監視官・常守朱は公安局刑事課一係を率いて出動。その密入国者たちと対峙する。やがて、そのテロリストたちの侵入を手引きしているらしき人物が浮上する。
その人物は―― 公安局刑事課一係の執行官だった男。そして常守朱のかつての仲間。
朱は単身、シャンバラフロートへ捜査に向かう。自分が信じていた男の真意を知るために。
男の信じる正義を見定めるために。

声優・キャラクター
花澤香菜、野島健児、佐倉綾音、伊藤静、櫻井孝宏、沢城みゆき、東地宏樹、山路和弘、日髙のり子、神谷浩史、石塚運昇、関智一
ネタバレ

ぺー さんの感想・評価

★★★★★ 4.5

英語字幕は戸田奈津子さん

1期2期視聴済


うーん・・・
犯罪係数ってとどのつまり、“手汗多い”“脈拍上がる”とアウト!みたいなもんかしら。

ストレス係数上がりそうな局面でみんな犯罪係数上がってますものね。100年後の日本人は心の平静を保つよう努めてるうちにアドレナリン上がる機会が失われていき、喜怒哀楽でいえば“怒”と“哀”の表現に乏しい。“怒”に触れなければ普段の生活で恐怖を感じることはないものです。

たおやかににこにこしながら生きていれば色相をクリアに保てるけれども、ストレス耐性がないためふとしたことで“犯罪係数”急上昇。ガラスの橋を渡るかのような緊張感は内在していて、たがが外れれば2期の酒々井監視官みたいなのも容易に出てきそうです。やっぱり嫌な社会ですね。


TVで好評を博し1期2期の放送経ての劇場版オリジナルアニメ。アクションだけ楽しむなら一見さん可。ただしあまりそのような方はいないでしょう。TV版視聴が前提となります。

すでにシビュラ導入されて久しい日本と違って今度の『PSYCHO-PASS』は海外が舞台です。
日本以外は戦乱のさなかとTV版で説明がありました。その具体的なお話。
戦火の中で生き抜くには色相が曇りまくってないと無理だと思いますね。
そんな私の心配を知ってか知らずか!?日本政府が輸出したシビュラシステムを内戦状態のSEAUn(東南アジア連合)が実験的に導入する、というところから始まる物語でした。


 シンプルなバトルムービー
 娯楽大作 


といった感じでしょうか。
頭使ったTV版と違ってそのまま画面の中で繰り広げられるアクションに身を委ねてしまえば良さそうな劇場版らしい劇場版です。

実は日本人には現代戦を描けないだろうと高をくくってたところがありました。でも違いましたね。一歩も二歩も先取りしてる未来の話だとはいえ、現在実用段階にある無人機戦闘の描写が素晴らしい。
迫力あるよねーと劇場で観るべき作品だったでしょう。もちろん今となっては自宅で鑑賞せねばならんというのが非常に残念です。

{netabare}また戦闘地域がアンコールっぽい寺院(ワット)近辺というのも個人的にはツボです。実写映画では戦争ものをけっこう好んで鑑賞してました。ベトナム戦争ものしかり。ちょっと懐かしく感じるくらいに良く出来た戦闘描写でした。{/netabare}


バトルやアクションだけでも観る価値あり!・・・と思います。
そのくせ『PSYCHO-PASS』らしいシビュラと常守朱との対峙についてこの劇場版でも用意されてますのでしっかり深みというかとろみは出ております。


{netabare}「法が人を守るんじゃない、人が法を守るんです。」(1期)
「社会が人の未来を選ぶんじゃない。人が社会の未来を選ぶの。」(2期){/netabare}


判断はあくまで人間が下す。このブレなさが彼女のカッコよさ。主人公たる所以ではないでしょうか。

{netabare}ハン議長言われたとおりに辞任したのもなかなか朱の無双ぶりが際立ってました。{/netabare}



さらに今回の劇場版での隠し味。シビュラを

 “恣意的に運用できちゃうこと”

これですよこれ!
時間をかけ合意形成を重ねシステムを導入しただろう日本と違って、外枠だけを導入しようとすればこういうことが起こらないわけありません。
人間は過ちを犯すもの。それでも判断と決定権を人間の手に収めることについての重みをしかと受け止めた我々視聴者一同です。
物語上新たな視点を吹き込んでくれたことに感謝ですね。


 『PSYCHO-PASS』らしからぬわかりやすいストーリー
 『PSYCHO-PASS』らしいシビュラへの受容と否認を描いたストーリー


総監督に本広克行氏。脚本に虚淵玄氏。1期のメンバーが出戻ったのか2期よりも深くコミットしてきた影響もあるのでしょう。
地味にすごいのが英語シーンの字幕を戸田奈津子さん。・・・ちょっとやり過ぎではないかしら。

劇場版アニメとしては至極満足のいくレベルの作品でした。良作です。




※余談

■日本強くね?

国防どうしてるんだろう?がちょっとひっかかってました。戦乱に明け暮れる周辺諸国の侵攻をいかに防ぐのか心配です。

{netabare}杞憂。

高性能な戦闘ドローンって日本製だったんですね。これまで高度な衛星持ってるから成立するような技術はTV版でもあったのも思い出して、ミサイル飛んでこようが戦闘機こようが、速攻で探知して無力化できそうな技術力を有しております。
制空権取れなきゃ地上侵攻の難度も上がるうえに、きたところでドミネーターやドローンで瞬殺でしょう。じゃあスパイ忍ばせて内部攪乱と思っても、サイマティックスキャンの網でけっこう引っかけられそうです。

パワーバランスが歪なくらいに日本無双状態なので攻める気にもならないだろうことはわかりました。国防・外交面では憂いがなさそうです。{/netabare}


■タイ語?マレー語?

日本人CVさんらの下手っぴ英語にちょっと痒くなりましたが、そこに隠れてたまに東南アジア圏の言語混じってませんでした?
それと東南アジア訛りの英語もです。こういったこだわりは大歓迎。リアリティを感じる演出でした。

{netabare}アンコールのアジトのシーンで映されてた小道具の中に『Angkor』ビールを発見。缶のデザインも実物のまんま。これ飲みやすくて美味いです。現地だと1本100円しないくらい。

私がカンボジア行ったのは20年くらい前でして、ポル・ポト派の残党がそこそこ鎮圧され、ちょうど陸路でのタイ~カンボジア国境通過が可能になった直後くらいの時でした。
せっかくだから陸路で横断しようと思い、ベトナムのホーチミンシティを起点にカンボジアのプノンペン入り。湖を北上してシェムリアップ(アンコール)に長居し、それから西方のタイ国境を抜けるルートを辿りました。北部は行ってません。理由は死ぬから。
警察がいちゃもんつけて賄賂を請求してくるくらいはかわいいもんで、乗り合いトラックの同乗者がズボンのポケットに銃を無造作に入れてるわ、警備の人間が重火器で武装してるわ、挙句にはラリッてるやつのポッケにも銃が見えたり。とかく人の命が軽そうなことをいやでも見せつけられます。

映画の中でのカンボジアを拠点とする反政府ゲリラの連中を見ながら、そんなカンボジアで実際出会った面々や往時の治安状況を思い出しました。

そして、戦火が絶えない地において、治安維持装置シビュラシステム導入による有用性について考えさせられましたね。

 {netabare}それでもシビュラはいれちゃあかんよ!{/netabare}{/netabare}


地域に対する思い入れ補正が働いてる気もしますがご容赦願いたく。
作品の舞台が未踏のツンドラ地帯とかならどうだったかは知る由もなし。



それと常守監視官。短期間で殺傷能力高そうなコンバット技術を身につけておりました。
そっち方面の素質ありますよ。



視聴時期:2019年10月  

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2019.11.02 初稿
2020.02.14 タイトル修正
2020.07.31 修正

投稿 : 2024/11/02
♥ : 43
ネタバレ

ブリキ男 さんの感想・評価

★★★★★ 4.3

踊らされる捜査線上のサイコパス

時系列は2期の後とされている意見が散見されますが、それだといないはずの人がいたり、シビュラのバージョンアップ(ダウン)が無かった事になったりしてしまうので、恐らくサイコパス1期終了時~2期までに起きた事件。(ギノさんの髪の長さを見れば2期の外伝では無い事も分かる。)東南アジア連合/シーアンに試験的に導入されたシビュラシステム、それを牛耳る官僚、その支配に抵抗する人々の姿などが描かれます。

テレビ版と比べて残酷シーン(主にドミネーターによる執行)の描写があからさまになっているので苦手な人は注意が必要です。

一係のメンバーは1期エピローグで顔見せのあったメンバー通り。朱とギノさん、六合塚さん、霜月監視官と東金、雛河執行官の6名。雑賀先生と唐之杜さんも少しだけ登場します。

独白からの狙撃シーン、捕物アクションと、冒頭はいかにも映画という展開。

アクションシーンについては劇場版ならではの作画の美麗さとスピード感がありましたが、ドミネーターが鈍重。犯罪者を追う攻勢の立場にある場合はともかく、乱戦において犯罪係数の測定と形態の変形を待ってから反撃というのにはリアリティが欠けていました。アクションの流れが止まってしまう印象を受けてしまうのでした。

続く朱の友人の佳織の結婚のお話のシーン。シビュラの正体を知っているか否かに係わらず(知ってたら尚更)マシーンが決める恋人適正とかは私なら御免被りたいです。1期の槙島の言葉を借りれば「家畜扱い」にも等しい気がします。

テクノロジーについて
{netabare}
スパイドローン"ダンゴムシ"。現代でも実用化されている技術の延長上にあるものという印象ですが、半自立型で超小型、超高性能にという印象。カメラや触手状の端末を備えたカニみたいな形状のロボです。

スーパーボールみたいに弾むスタングレネードについては通路の曲がり角とか遮蔽物に隠れている相手に対しては何らかの有用性があるかも知れませんが、本作でこれが用いられる場面には全く合理性を見出せませんでした。それに外見をホロで偽装出来るなら、駐車場の地面の色に似せて転がすか、せいぜい動作の挙動が似ているスーパーボールとかカラーボールにすべきで、公安局のマスコットキャラ"コミッサちゃん"にするなど最悪の選択なのでは?という感想を抱いた次第。非常に残念な演出でした。

強襲型ドミネーターについて。元々可動部分が過度に多いドミネーターですが、2期でも登場した強襲型ドミネーターはさらにガチャガチャと変形しまくります。マシンとしての耐久性への疑問と、けれん味を加えているだけなのではないかという少し嫌な印象が残りました。設定上では壁越しから射的が可能なドミネーターとの事ですが、本作で使用された状況はそれに該当せず‥。ならばドミネーター+光学照準器+ストックの方がスマートでリアルな気がします。あんなにゴチャゴチャした形状のライフルなんて持ち辛くて敵わない。姿勢制御が大変そうです。片腕サイボーグのギノさんだから扱えたのかも知れません(笑)

言語翻訳機については作中では詳細な説明はありませんでした。1フレーズ聞き取ってから始めて翻訳可能になるタイプの様です。これについては手前味噌ながら「 タイムトラベル少女~マリ・ワカと8人の科学者たち~」にテクノロジーのそれらしい説明がありますので、ご興味を持たれた方は御一読されてもよろしいかと思います。
{/netabare}
本編について
{netabare}
狡噛と傭兵のリーダーデスモンドの会話はいかにもサイコパス風味なのですが、填島とか雑賀先生とかの会話と比べると物足りない印象。まぁこういう衒学的な会話は映画には向かないのかも知れません。仕方なし‥。

朱の身の回りを世話をしていた給仕の人、色相が一定以上曇ると神経毒が体内に流れ込み死に至らしめる首輪をしていましたが、街頭スキャンやドミネーターで犯罪係数を計られるよりも遥かに無情な印象を受けました。人の手を介さない裁きという所に残酷さがあるのです。

朱の判断も軽率。非合法に首輪を外せば良くない事が起こるに決まっているのに情にほだされたのかやってしまいました。後の事情を知れば給仕の少女の死は免れなかったとも言えますが、いつでも法を遵守する傾向にある朱にしては思慮の足りない行動だったのでは思います。

朱は1期の時と比べて、より狡噛を倣っている様にも見え、心身ともに格段に強くなりましたが、上の様な未熟な面もまだあるとは少し意外でした。

クライマックス、狡噛のピンチにギノさんが駆けつけて共闘という流れには、少なからぬあざとさを感じましたが、同時に心躍るシーンでもありました。二人の息がぴったり合った戦いぶりを見ると、その良コンビ振りに感慨深いものを覚えます。

そして続く名シーン?ギノさんのお仕置きパンチ。当然そうなると予測していながら、この映画では貴重な笑えるシーンでした。狡噛傷だらけなのにフルスイングとかちょっと心配になりましたが、ギノさん左腕使ってないし大丈夫だよね(笑)

全体を通して、支配者をくぐつにして祭り上げ、権力を掌握させた後に奪い取るという物語は古典的過ぎる色合いが強く、面白みが感じられませんでした。それだったらシビュラという※SF設定を無視しても物語が成立してしまう気がするのです。SFならではのテーマの提示を怠った作品になってしまっていたのではないでしょうか?

※:例えば王権争いで勝利した後に、王でなくその側近が権力を掌握するとか、あるいは王を殺してその側近がその地位につくとか、古今東西これに似た話は無数にあります。作中のハン議長を模した義体についてもアレクサンドル・デュマの古典ダルタニャン物語の一つ「鉄仮面」における双子を利用した陰謀と類似性が見られます。陰謀では無いけれど、入れ替え物語としてはマーク・トウェインの王様と乞食とかも‥。

最後に英会話について、冒頭の物語の舞台が海外であるという印象を与える場面を除き、必要なかったのではと思われました。私はあまり英語に堪能なやつではありませんが、殆どの英語台詞にネイティブのものとはかけ離れた印象を受けました。(英語圏にいる人が観たらがっかりしてしまうのでは?)
{/netabare}
1期の槙島や2期の鹿矛囲の様な魅力ある人物が現れるわけでもなく、霜月監視官はまだしも、六合塚さん、東金、雛河執行官、の出番も冒頭以外殆ど無し。典型的かつ派手目のアクション映画として凡庸に収まった感のある劇場版でした。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 29
ネタバレ

N0TT0N さんの感想・評価

★★★★★ 4.8

シビュラ総選挙。

注)1期2期のネタバレあり。

かなり見応え十分の作品でした。
シビュラシステムの設定の秀逸さは相変わらずで、今回視点が世界の中のシビュラという位置付けだったので、自分の中での認識が新しく更新された感じがあります。
どういう部分かというと、今まではシビュラ内部からの視点でしか描かれてこなかったので、シビュラの是非を考えるとき、外部の情勢を今の世界情勢に当てはめて考えていました。
だけど、時代設定は今から100年後の世界。劇場版では今とは若干違った世界情勢を匂わせていて、それを考慮すると個人的には多少シビュラを肯定する方向にシフトした感じになりました。

そもそもどんなシステムも一長一短な部分を持ち合わせていると思うので、外側との相対的な関係によって優れたものにも劣ったものにもなってしまう面があると思います。

そういう意味で、今回提示された世界との関係を考慮するとやや肯定的な印象に変わったということです。

それに、作画、演出効果のクオリティがかなり凄かった。
アクション、武器、航空機、未来都市、のデザインや挙動、効果音にいたるまでどこを切っても説得力のある安定のハイクオリティでした。
実在しないアイテムの数もかなりあった‥というかほぼ実在しない物だらけでしたが、1つ1つのアイテムのディテールまで妥協なく描かれていて、これらの仕事に作品の質が支えられているんだろうな‥と思わされました。

常守朱。
2期同様今回も聡明さが全面に出てましたが、作画が1期同様の丸みのあるデザインだったので、とんがった印象にならず、「見かけによらず意志が強い」的な印象になってた。
些細なことだけど「とんがってる」より「意志が強い」の方が色相がクリアな朱らしい。

それにしても‥精神状態をクリアに保てる朱の精神的特徴が未だに解らない。。強さ、柔軟さ、信念、純粋さ。そういうものを総合的に持ってるということなんでしょうかね。
雰囲気としては解る感じなんですが。

でも、ストレス溜まってそう。


物語。
内容を進展させながらハラハラどきどき感長持ち!というスリリングで中身のある展開でよく出来ていたと思います。
オチも含め、驚きの展開とかはそこまで無かったですが上手くまとまっていたとおもいます。


以下、シビュラシステムについて。(個人メモ的ネタバレ)

{netabare}

シビュラの考え方『最大多数、最大幸福。』
なんとも魅力的な言葉ですね。
この言葉だけ聞くと何が悪いんだ!と思ってしまいます。
「管理社会」という言葉も「サポート社会」と言ってしまえばなんかいい感じに聞こえるかも?

今回劇場版を見終えても、シビュラの全貌は解らなかったけど、2期レビューで書いた疑問点が少しだけ解消されました。
シビュラ社会でも選挙はあるみたいです。

ですが、

やはりというか、選挙に勝ったのはシビュラでした。
このことが是か非かというとおそらく公職選挙法なるものが存在するのであれば非だといえる事態でしょう。
そりゃそうです、ハン議長は本人ではないうえ、暗殺まで絡んでいるんだから。

ですが、

国民は多分平和に近い状態を勝ち取ったといえます。

この辺がこの作品の奥の深さであり、ジレンマといえる部分だと思います。
もうこのことを指して「シビュラのジレンマ」と呼んでもいいくらいです。

そして、これも2期で疑問に思ったことだけど、民意は最終的にはシビュラの意志に染められる。
最適な暮らしを選んでくれるシビュラが最終的には最適の政治を選んでくれることになっても何の不思議もない。
過渡期としては民意は必要であっても一旦シビュラ管理
がスタートすると、シビュラが選んだ「絵に描いた民意」になってしまうのかもしれない。

そしてもう1つ、
最大多数には但し書きがあって、実際は、最大多数(犯罪係数の高い人を除く)って解釈でしょうか。現時点では。
可能性としては、メンタルケアの向上等によって最大多数=ほとんど全人類になる日がくるかもしれないですね。

最大幸福。
正直、ここも大きな疑問がある。
今、現状ではイメージできないんだけど間違いなくこちらにも但し書きが付いてるでしょう。最大幸福(選ぶ権利(楽しみ)はありません。)
この状態の感じ方によってはシビュラを受け入れられるかもしれない。
果たして「選ぶ」という権利を放棄した幸福は存在するのでしょうか?

犠牲の上に成り立っているということ。
これもかなり難しい問題だけど、
誰かの犠牲の上に成り立っている幸せならいらない。という思いと、そうこうしてる間にも犠牲は出ている。という現実があって、シビュラの場合長期的幸福のためであれば直近の犠牲はやむなしという思想のような気がする。
つまり、結果重視、過程軽視な思想。
犯罪係数が高い人限定の犠牲であるとはいえドラスティックな印象は拭えないですね。
正論ではあるけど心情的にはどうだろう?って部分でしょうか。

まあ、身も蓋もない感じだけど1番の問題は維持、管理、そして物理的、システム的なセキュリティーでしょうか。。
これだけ一極集中させた管理システムに世界のほぼ全てを任せるのは流石にリスクが高すぎるでしょうね。。
劇中「可及的速やかに~」なんて言ってたけど、最も可及的速やか改善しなくてはいけないのはシステムの分散でしょう。


最後に2期で疑問だった「集団的サイコパス」
多分こちらも劇場版ではノータッチだったでしょうか?
戦争と関係した問題にもなりそうだけど、はたして?という感じです。

いろいろ、考察しようと思えばいくらでもできそうですが、ぜひ!続編期待しております(`v´)ゞ!


{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 17

68.5 2 テロリストで戦闘なアニメランキング2位
コードギアス 亡国のアキト 第2章「引き裂かれし翼竜」(アニメ映画)

2013年9月14日
★★★★☆ 3.8 (510)
3684人が棚に入れました
皇歴2017 年(革命暦228 年)、ユーロ・ブリタニアとユーロピア共和国連合(E.U.)の戦争は続いていた。劣勢のE.U.軍は、イレヴン――ブリタニアに占領された亡国の日本人――を集めた特殊部隊、wZERO 隊を設立した。そして、wZERO 隊に新たな指令が下る。それは陽動のため敵中降下を命じる過酷な内容だった。wZERO 隊のパイロットは、隊長のレイラ以下、先の戦闘での唯一の生き残り日向アキト、イレヴンのゲットーを逃げ出し闇社会で生きてきたリョウ、ユキヤ、アヤノのみ。それぞれがさまざまな思惑を抱えたまま、作戦は発動する。一方、ユーロ・ブリタニアでは恩人を謎の力“ギアス”で自死させたシンが、聖ミカエル騎士団の総帥に任命される。自らの野心のために着々とあゆみを進めるシンと、配下のアシュラ隊に出動命令が下る。闘う為に生きる者と、生きる為に闘う者。凄惨極まる戦場のさなか、恐るべき真の力を発揮したアキトと、シンがついに相まみえる!

声優・キャラクター
入野自由、坂本真綾、日野聡、松岡禎丞、日笠陽子、藤原啓治、甲斐田裕子、川田紳司、茅野愛衣、石塚運昇、森久保祥太郎、小松未可子、瀬戸麻沙美、東山奈央、早見沙織、高森奈津美、松風雅也、伊瀬茉莉也、寺島拓篤、島﨑信長、花江夏樹、井口祐一、小野友樹、石川界人、逢坂良太、室元気、菅生隆之、子安武人、武虎、宮田光、立木文彦、石原夏織、能登麻美子、櫻井孝宏
ネタバレ

カリューム さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

下積みも終わり、いよいよ本格始動ですね

第一章は正直ハテナだらけ
新キャラ、伏線、いろいろあるのはいいのですが、まだどういった展開になるのかすらわからない状態でした
戦闘がルルーシュと違ってフルCGだったのと、予告の引きが気になる感じだったぐらいしか印象がありませんでした

第二章も正直ハテナだらけなのですが、第一章の延長線上で描かれるので、ある程度謎が整理されて、いよいよ続きの展開を予想できるレベルまで来ました
背景や、思惑みたいなのも絡んできて、いよいよギアスっぽくなってきましたね
それとキャラを覚えてきたのでようやく中の人にも気が回るようになってきたのですが、かなり豪華で驚きです(*´∀`*)
さすがサンライズさんです

おそらく第三章からはルルーシュ見てた人にとっては胸熱な展開になると思います
まさに「まさか!!そんな!!」って感じですね
なので、もしコードギアス熱がまだ残っているなら、見てみるといいでしょう!

個人的に、フルCG戦闘にも慣れてきたので結構楽しめそうでワクワクしてます(´∀`)


そんなこんなで、また見てギアス!



ネタバレ感想
{netabare}無印とR2の間を描く=ルルーシュは出てこない、というふうに固定観念にとらわれてしまっていて、この展開は予想できなかった(^▽^)
出てきてもC.C.、スザクだろうとタカをくくっていたら、足元すくわれましたね(^^)
アキトと兄貴の話にどんなふうに関わってくるのか気になります!

次回予告ではついにランスロットの旦那が出撃するシーンが出ていましたがCGじゃありませんでしたね
どうするんですかね?
サザーランドやグラスゴーみたいにCG作るのでしょうか?
なんか印象変わっちゃいそうだな(^_^;)
ランスロットはグラスゴーやサザーランドに比べて、やけに立体的にヌルヌル動くのがカッコいいのと恐ろしかった感じだったのですが、今回のCGだとグラスゴーさんもヌルヌルなんですよね・・・
なんだか性能差とか、そういうのがはっきり伝わってこないように感じるのは、ルルーシュの価値観が抜けてないからですかね(^_^;)

しかし、新型ナイトメアフレームはなんだかはっちゃけた作りになってますね
ケンタウロスとか(^^)
そんなのアリ?と思ってしまいましたが、かっこいいです(*´∀`*)
ホームページとか宣伝に使われていた一枚絵にケンタウロスさんがいるんですが、剣持ってなかったよね(^_^;)
斧振り回してたよね(^_^;)
ついでにアレキサンダーも首チョンパしなかったし、早い段階であの一枚絵を作っちゃって、後から作った内容と違ってしまったんでしょうか?
些細なことですが、気になってしまうのが性分です

それと映画最後まで見て思ったのは、「C.C.どこにいた?」
でしたね
入場特典の漫画には出てたし、その回想シーンでレイラらしき子供が映ってるので一様存在は匂わせてますが・・・
結局は回想オンリーの出演かもしれませんね

今後はルルーシュとスザクの最強コンビが戦場に降り立つわけで、果たしてアキトはその存在感を保ち続けることができるのか?
死ね死ねいって最後はメッタ斬りだったから敗戦ムードか・・・
まぁラストで怖い笑顔でゾクッとしましたが、親友が仇のゼロだと知って荒ぶるスザクさんに勝てる気がしない・・・
頑張れアキト!
そしてレイラさんカワイイ(・∀・)!!
{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 5
ネタバレ

ヘラチオ さんの感想・評価

★★★☆☆ 3.0

タイトルなし

イレヴンを集めた特殊部隊、wZERO隊に新たな指令が下った。それは陽動のため敵中降下を命じる過酷な内容だった。wZERO隊のパイロットは、隊長のレイラ以下、先の戦闘での唯一の生き残り日向アキト、イレヴンのゲットーを逃げ出し闇社会で生きてきたリョウ、ユキヤ、アヤノのみ。それぞれがさまざまな思惑を抱えたまま、作戦は発動する。一方、ユーロ・ブリタニアでは恩人を謎の力“ギアス”で自死させたシンが、聖ミカエル騎士団の総帥に任命される。自らの野心のために着々とあゆみを進めるシンと、配下のアシュラ隊に出動命令が下る。凄惨極まる戦場の中、恐るべき真の力を発揮したアキトと、シンがついに相まみえる!というあらすじ。

スザクが出ますねえ


{netabare}
マンフレディの「自害」から1か月後、ユーロ・ブリタニアではシンが聖ミカエル騎士団の総帥へ選出される。一方、「wZERO」はリョウ、ユキヤ、アヤノにアキトを加えた4人による戦闘部隊「ワイヴァン隊」を結成するも、リョウ達の不信感は拭えないままであった。実際、「wZERO」には大気圏離脱式超長距離輸送機・アポロンの馬車で成層圏からブリタニア軍背後に回り込み、E.U.のワルシャワ駐屯軍本隊を援護するという、またも無謀な作戦が強要されていた。

その頃、リョウ達は脱走を試みるもレイラが自身も危険な戦場に立つことを宣言し、一旦は収束する。そしてアポロンの馬車が発射され、「ワイヴァン隊」4機、レイラ機、レイラが展開する無人機15機による部隊は、目的地であるスロニムへの着陸に成功する。しかし、リョウ達の再度の反乱や聖ミカエル騎士団のアシュレイ・アシュラ率いるアシュラ隊の急襲により、アキトらは敵地で窮地に陥る。そんな中、アキトが「ブレインレイド」を発動させ、アシュラ隊を単機で翻弄すると共に、「ワイヴァン隊」の3人を彼らに埋め込まれたニューロデバイスを通して精神的に従属させ、3人を操りながら戦況を優位に進めていく。

しかし、アシュレイをあと一歩のところまで追い詰めたとき、シンの気配を感じ取ったアキトは動きを止めてしまう。同じくアキトの気配を感じ取ったシンはアキトのもとへ赴き、マンフレディが受領するはずだったヴェルキンゲトリクスでアキトの乗るアレクサンダの動きを四肢を切断することで無効化。それにより、ブレインレイドから解放されたリョウ達はその切り替えに対応できず、乗機を次々と撃破されてしまう。脱出したリョウや一人無事だったレイラはアキトとシンが邂逅している場面に遭遇し、彼らが幼少時に袂を分かった実の兄弟であることを知る。

シンはアキトを自分の陣営に組み込もうとするが、レイラやリョウの妨害により失敗し、撤退していく。アキト達の働きにより、「ワイヴァン隊」はレイラの決意通りに死者を出さず任務を達成するが、その後に敵軍の反抗に遭い、奪ったはずの領地は取り戻されてしまった。その頃、ユーロ・ブリタニアにはブリタニア本国から護衛の枢木スザクと共に軍師のジュリアス・キングスレイが派遣されていた。
{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 0
ネタバレ

Yulily さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

コードギアス~動き出したもう一人の主人公の物語~

コードギアス反逆のルルーシュ1期、2期のR2視聴済み
コードギアス亡国のアキト第1章、2章視聴済み


「コードギアス反逆のルルーシュ」の世界観を共有する作品
スピンオフ作品で全4章で描くその2章が本作です。


舞台をヨーロッパに移し主人公の日向アキトが神聖ブリタニア帝国に戦いを挑む!


冒頭に1~2分の回想シーンはありますが、これはここまで視聴済みの方の
復習程度で1章からの視聴は必然でしょう。


1章はプロローグでほぼ終わってしまいましたが、2章は少しずつ謎だった真実が
解き明かされ物語が動き出します。


物語の中心としてアキト、レイラはもちろんのこと、新たに登場した個性
あるキャラ、過去作からの面々が登場し物語を盛り上げます。



引き続きユーロブリタニアとユーロピア共和国の戦争は続いています。
劣勢におかれているユーロピア共和国の作戦はアキトやレイラを含む部隊を
ロケットで敵の陣地の後方へ送り込むというもの。
極めて無謀に近い戦いと皆の運命を壮大なスケールで描いています。



1章に引き続き高いクオリティで描かれたナイトメアフレームのフルCGの映像
動きもスピードも抜群に良く見応えのあるシーン満載です。


{netabare} そして今回一番謎であり、続きを熱望することになった場面
ブリタニア本国からE.Uとの戦いのために列車で来た「軍師」の護衛の男
がいた。なんとアニメシリーズでお馴染みの「枢木スザク」だ。
更に驚くべきはその「軍師」というのがアニメシリーズの主人公の
「ルルーシュ」と顔も声も瓜二つの男だということだ。
しかし名前は「ジュリアス・キングスレイ」という。



ギアスが使えないように左目を塞がれているし、やはりこの男は
ルルーシュなのでしょうか?ルルーシュと名乗らない理由も興味をそそられる。


このルルーシュ(似)がどのように物語に絡んでくるかは3章最大の見所
になるのは間違いないでしょう。


レイラが指揮を執るEU軍とジュリアスが指揮を執るブリタニア軍との対決
ギアスシリーズファンなら絶対見逃せない。


今回見送られたC.C.も3章に登場予定となっていて益々期待を持てる。{/netabare}


4章の内の残り2章になり、ここに来て広げ過ぎとも思いますが、やはり
ギアスシリーズですから伏線回収をやってのけるははずだろうと期待を
持ちたいと思います。

2015年5月公開予定
第3章「輝くもの天より堕つ」意味深なタイトルですが今から待ち遠しい!

投稿 : 2024/11/02
♥ : 28

74.2 3 テロリストで戦闘なアニメランキング3位
虐殺器官(アニメ映画)

2017年2月3日
★★★★☆ 3.8 (253)
1856人が棚に入れました
世界の紛争地を飛び回る米軍特殊部隊クラヴィス・シェパード大尉に、謎のアメリカ人の追跡ミッションが下る。その男、「ジョン・ポール」は、紛争の予兆と共に現れ、その紛争が泥沼化するとともに忽然と姿を消してしまう。かつて有能な言語学者だった彼が、その地で何をしていたのか。アメリカ政府の追求をかわし、彼が企てていたこととは…?

声優・キャラクター
中村悠一、三上哲、石川界人、梶裕貴、小林沙苗、大塚明夫、櫻井孝宏

waon.n さんの感想・評価

★★★★★ 4.8

いち伊藤計劃ファンの視点

 非常に思い入れのある作品です。私をSFの世界へさらなる一歩を踏み込ませた作品であり、人物です。
 この作品以前からジョージ・オーウェル小説の『1984』であったり、ディックの『アンドロイドは電気羊は夢を見るか』くらいはたしなんでおりました。
 映画でもSFというジャンルは好きでよく観ているわけですが、SFとファンタジーの違いとかあんまり考えずに『ブレラン』や『エイリアン』などを楽しんできたわけです。
 それでも十分に良いんですけれど、SFのジャンルに対して特別な意識を持ったのはこの伊藤計劃さんの作品に触れてからという事になるかと思います。
 この伊藤計劃さんの作品には今に繋がる未来だったり過去だったりを感じる事ができる。そこにSFとファンタジーの違いがあることを見せつけてくるんですよね。
 特にこの虐殺器官という作品に関しては特に今に繋がっているように感じられますし、この物語の問題っていうのは明日にでも核爆弾でテロが行われてしまい、この作品と同じ流れを世界が作ってしまう可能性があるのではないかという恐怖をもつことができます。
 シミュレーションになっているという点がこの作品の魅力であり、SFのひとつの楽しみかたなのではないでしょうか。
 本作品の中には色々な未来のデバイスが登場します。まだ開発されていないかもしれないが、ナノテクノロジーにしたって実用化レベルに至っていないだけで、実際にあると聞く。まずは軍用化からされて、民間レベルまで落ちてくるのにどれくらいの時間を要するかは分からないけれど、そう遠くない未来がかんじられます。
 人工筋肉も義手や義足のレベルは驚くほど進化しているので、不可能と断定することもないでしょう。
 また、デバイスもさることながら、国際情勢もポリティカルフィクションの要素も含んでいるため、設定が作りこまれています。
 原作読んでる前提になってしまうので、アニメのレビューをするこの場にはもしかしたら相応しくないのだろうが、いちファンの戯言と吐き捨てここは許してもらおう。
 この作品においてなぜ、サラエボが核爆弾テロの標的となったかという話は過去、現在、未来へと繋がっているのです。
 『戦争広告代理店』という本があるのをご存知でしょうか(暇と興味があればぜひ手に取ってもらいたい)。ボスニア紛争をドキュメントで書き下ろした一冊なのですが、ボスニアヘルツェゴビナの首都サラエボは今でこそ美しい街並みであり、多人種、多民族が入り混じっている平和な国となっているが、1990年代にセルビアとボスニアの間に紛争が起こりました。ボスニアの取った行動が今の美しい景観をしたサラエボという町を作り出した。ただし、当然ながら犠牲もあり、敗者もある。
 敗者がいれば、憎しみも生まれるだろう。それにアメリカが絡んでいる事は想像がつくと思います。なんなら最近の戦争でアメリカが絡んでないものなんてあるのかという位ですね。さかのぼれば第二次世界大戦なども絡んできますね。例えば、ユダヤ人虐殺の話にまでまでも触れています。フランツ・カフカが現在はチェコのプラハが出世地でユダヤ人であることが文脈のなかで語られ、ユダヤ人虐殺が物語のなかに必要不可欠な要素として組み込まれているなど、造詣は細かく深い。
 こういった過去から現在(書かれた当時)の国際情勢や歴史を話に盛り込ませることができている作品です。

 他にも大人の子供に対する扱い。平和な暮らしを安定して供給されている裏側にあるものはなにか。など様々なテーマが散りばめられていて、どれを掬い取り、目を向けることができるのか。それは見ている個人に委ねられているのではないでしょうか。

 日本で描かれる戦争もの映画ってなぜか日本人、可哀想とかやられちゃう系が多いんですよね。被害者であるように描かれているように思えるんですが、戦争って被害者とか加害者とかじゃないと思う。
 伊藤計劃って人の凄いところは日本人でありながら外国の戦争を描けていることで、しっかりと加害者であるし、それによって生まれる兵士の苦悩というのが描かれています。いわゆる「PTSD」というやつで、これはイラク戦争での実在した兵士による伝記をもとに映画制作された『アメリカンスナイパー』ではないでしょうか。
 こちら側を描ける、描けている作家は日本にはそうはいないと感じます。

 ここまでは小説の話になってしまっていましたが、この前段階を踏んで語りたかったんです。
 アニメとして映像化されるにあたり、何やら紆余曲折あったようですね。当初制作していた制作会社が破産してしまい、新しい制作会社に引き継がれるなどして完成をむかえたそうです(wiki)。

 さて、アニメを制作のスタッフです。
 監督には『Ergo Proxy』でも監督をした、村瀬修功さん。もともと原画畑だった人のようで、やはりその動きや見せ方はカッコいい。最近では『GANGSTA』でも監督をしており、どう語らせるかよりもどう見せるかを意識している監督のように思っています。今作もその良さはしっかりと出ていました。
 また、キャラクターデザインもやっているようで、懐かしの『機動戦記ガンダムW』のキャラクターデザインもやっていたそうです。
 今回は脚本も兼任している。個人的にこういった内容のものを原画畑の人が脚本をすることには懐疑的でした。というのも、リドリー・スコットのようにカッコいい映像や音の感じで内容を決めてしまうのではないかという点が付いて回るためです。(リドリーは他にもちゃんと良いところたくさんあります。……多分)
 しかし、そんなのも杞憂でした。原作で描いている内容がしっかりと読み解かれて映像化されているように感じました。むしろ、このアニメを見て原作をまた一段上で楽しめるようになったのは村瀬さんの能力の高さだと感じます。

 音楽は池 頼広さん。『Ergo Proxy』でも音楽を担当していたので村瀬さんが推薦したのかどうなのか定かではないですが、再びこのタッグが実現するわけですね。個人的には『神撃のバハムート』での音楽が好きでした。
 表現している音楽の幅が広いなーすごいなーくらいでしたが記憶に残っていました。

 美術監督は田村せいきさん。レビューを書くにあたりもう一度見直してみたところ発見したのですが、廊下を進む描写で歩いている足を見せるカットがあるんですが、そこで木製の廊下から、石造りの廊下に変わる。これはおそらく、バロック様式で石造りだった部分とその後イギリスの植民地となりアメリカ的な木造建築に切り替わったため増築や改修などのさいに混在したことでこうなったのではないか。それを再現している、もしくは表現しているのはこだわりを感じました。他にも調度品や、未来的なデバイスの表現も良いです。

 声優さんには中村悠一さん、櫻井孝宏さんはイメージにピッタリという感じで、大塚明夫さんに関してもこういう役本当にハマっているし、『メタルギア』ファンの伊藤計劃さん的にも嬉しかったのではないでしょうか。
 個人的には小林沙苗さんが嬉しかった。長いセリフのなかにある、澱ませたり、間を取る感じが良いんですよね。

 この物語はあくまでも戦争や紛争を描いています。それは過去、現在、未来とつながりがあります。一つの物語でつながるのではなく、リアルな視聴者のとのつながりでもあります。
 楽しむという表現とは少し違いますが、前述しているようにシュミレーションであり、それはそのまま未来への危惧でもあります。映画『ターミネータ』のように未来では人工知能をもった機械に人間が殺されてしまうという未来を見せることでこんな危険も存在するという恐怖をシュミレーションするのと同じことです。
 ここを楽しめるかどうかがこの作品にハマることができるかどうかの境界線になるのではないでしょうか。
 個人的には素晴らしい作品でしたので、多くの人の目に留まり、楽しんでもらえたらと思います。

 この伊藤計劃という作家の作品に触れて感じたのは自分の教養や知識によって芸術(ここでは広義な意味で)は楽しめる幅が広がったり、見方がかわったりするのだという事です。
 これってすっごく当たり前で私がこうして書くまでもなく、誰しもが感じたことがあるはずで、小さい頃に観た漫画や映画、アニメを大人になって観返すと「違う面白さに気づく」みたいなことなんですよね。「言われるまでもねーやい!」ってなったかたは申し訳ありませんでした。
 恥ずかしながら私が気づいたのは最近でして『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』なる本でも買うかと迷っているほどです。

 とりあえず、この作品に対してのレビューはおしまい。ここはら超絶蛇足になります。
 レビューを書くまでにだいぶ時間がかかりました。好きな作品はしっかりと書きたいし、読んでもらう事に対してその時の感情だけで書くのは避けたいという気持ちから躊躇われたわけです。
 そんなレビューがあと3作品ほど溜まっていたりもして、いつかは……と思っているのです。
 今回は他のかたが書いている虐殺器官のレビューを読んで触発されたというか勇気をもらったというかモチベーションが上がったというか……。
 そしてちゃんとアニメのレビューになっているのか怪しい。
 今回はイレギュラー的に原作とアニメの両方で語ってみたのですが、上手く分けられていないようにも感じてきて消してしまおうかとか消極的なことも考えていますが、ちゃんと投稿します。
 長くなりましたが、勇気を与えてくれたレビューを書いている皆さまありがとうございます。そしてよもやここまで長ったらしいモノを読んでくれる人がいたらその人にもありがとうございます。
 『人は見たいものだけしか見えないようにできているんだ』
 ではおつかれさまでした。
  

投稿 : 2024/11/02
♥ : 5
ネタバレ

Progress さんの感想・評価

★★★★★ 4.6

虐殺器官 レビュー

端的に言えば、アメリカの特殊部隊に所属するシェパードが、世界各地で虐殺を扇動するジョンという男を捕まえようとする話です。
{netabare}
シェパード達特殊部隊の隊員は、マスキングと呼ばれる、ナノマシンによる痛覚遮断技術、および感情調整における何事にも動じない兵士という、近未来的兵士を描いています。

このマスキング、感情調整という、フラットを生み出す設定が、心身の痛みに鈍感になった人間達を暗に示しており、鈍感な人間社会に住む一人のシェパードが、鈍感さを失っていく話になります。

私のように後追いで見た者の見方としては、「どれどれ、本当に何事にも動じない兵士なのかじっくり観察しようかな」なんて思うのですが、シェパードに関しては、ジョンの虐殺文法と呼ばれる手法に引っかかった敵や、ジョン本人に対しても、感情を揺り動かされ、ルツィアに関しては特別な思い入れまで入っていたように思えます。
まあですから、この作品は、特殊部隊が大事な仲間を失いながらも仕事を全うするようなアダルトなものではなく、社会に支配された(ここはジョンとシェパードの最初の会話、国家への隷属の部分)個人が、支配から逃れるまでに変化する物語だと思います。

シェパードとルツイアの関係は、最初こそ、情報軍のスパイと、チェコ語教師(ジョンの元恋人)という関係に過ぎませんでした。ところが、ルツイアがここで死ななくてもよかったとか、個人軽視の社会の個人感情を消した兵士(少年兵であろうが躊躇なく殺せる兵士)であるシェパードが個人の価値というものを見出しています。
どこで変化したか、ジョンとの会話の中でか、楽し気なルツイアとの会話の中か。(後者であるなら、調査対象に情が入るなんともお粗末なスパイなので、前者を押したいですね)もしも前者を押すなら、土壇場で言語学を専門とするジョンの巧みな会話による精神誘導に引っかかったともとれるので、やはり兵士としてはお粗末、なのですが、この作品のそもそもが兵士としての優秀さを描くものではないことは上の方で述べた通りです。
そのため感情に揺り動かされて無能な兵士であっても、兵士を感情のない兵器であるとするなら、そこからの脱却を描いたのが今作品だと思います。

ここで無感情の脱却という点で、いくつかのセリフとシーンが繋がります。
遠い場所で起きている虐殺で、アメリカに住んでいる人たちに届く話はほんの僅か。この意味と、ピザを食べながらテレビでラグビー(アメフト?)を見ているシェパードと、ウィリアムズのシーンは共通するものがあります。
世界のどこかで起きている虐殺、それを感情的に深入りしようとする人はほとんどいません。ニュースとして聞き流し、そんなことがあったのかと日常に戻る。感情的に起伏がない(フラット)のです。それが悪いかどうか、悪くはないでしょう。ただ、あまりにも世界の遠くで起きている虐殺に、痛みを感じなさすぎなのではないかと、そういうことを感じるのです。
一方でラグビーを見るシェパード達は、日常の中での痛みへの無感情を描いています。彼らが見ているラグビーの試合では毎回けが人が出ます。その怪我に対して驚くわけでも、悲しむわけでもない、フラットな感情なままです。ウイリアムズに至っては、バカなルールだと何気なく言う始末。同情ではなく、なんでこんなバカなスポーツやってるんだという、嘲笑(それを見ている彼らの鈍感さ)。
彼ら兵士にとって、ラグビーはどこか遠いようで近い、怪我をしてでも任務を遂行する所が似ているように感じてからの、仕事に対しての皮肉でしょうか。
しかし、2回目に映し出されたそのラグビー鑑賞シーンで、けが人が回復したときに、少しの安堵のようなものがその場に広がった時、彼らは鈍感な社会、鈍感な職業にいながらも、どこかで感情を持っているという、人間臭さを出しているのが伺えます。

さて、色々書きたいことはまだありますが、今回はこれで。
ありがとうございました。

【再視聴~雑多なシーンとテーマについて】
ストリーミング期間があるので、再視聴までそんなに期間を置かずに視聴しました。
まずは、ストーリーとはあまり関係のない、いくつかのシーンにおいて、気付いた事をメモ程度に示そうと思います
まず、赤髪の敵女兵士について。
印象的なシーンは、シェパードが路面電車に何気なく乗り込んで来ようとする赤髪の女を見て、ルツイアに「仲間か!?」と聞いた所。
なぜシェパードが赤髪の女を、敵兵士として認識できたか。
それは、赤髪の女の初登場シーンがその前にあるからです。ルツイアとチェコ語のレッスンを受ける契約をしたその日の帰り道、シェパードは何者かに付け狙われます。その時、シェパードの乗った地下鉄の電車に入ってくる怪しい者たちの中に、赤髪の女がいた。それをシェパードは記憶していたからです。

次に、序盤の仲間の死体置き去りと、ルツイアの死体置き去りの比較について。
まあ、これはシェパード自身が語っていますが、ルツイアの死体を置いてきてしまった、大切な人の死体は物に見えない。
つまり序盤で死んだ仲間の死体については、シェパードは物としてみていました。
その差異について何故発生したか、というのは、シェパードが特別な感情をルツイアに持ち、その感情を持つまでにシェパードが変化したから。
ここで差異の理由を述べるよりも、映像で見たときのシェパードの変化を見たほうが、ありありと彼の変化や感情を受け取れると思います。

民間軍事会社がなぜジョンを取り戻そうとしたか。
これは邪推に過ぎませんが、内戦が起きることによって軍需があり、軍需が発生し続ける限り、ジョンを生かすメリットがあったのではないでしょうか。


ここから、一つのテーマの話になります。世界の選択の責任
ここでいう選択は、世界の真実を知るべきか知らざるべきか。情報の隠蔽と選択。
知らなくてもいいことは知らず、安穏とした堕落した生活を守りたいと思う人、ジョンやウイリアムスがそれに当たります。(彼らにはそれを提供したい恋人や家族がいました)
世界で虐殺が起きている事を知らせるべきと思うのが、最終的なシェパードやルツイア。人々に今の生活がある理由を知らせ、その中で選択すべきという考え。
ルーシャスのセリフ、高度な自由であったり、人は見たいものしか見えない、人工筋肉の悲惨な生産現場など、便利や安全を得る自由を何気なく選択しているが、その自由を得るために使われている犠牲を人々は知るべきか知らざるべきか。

そういったテーマがある中で、ルツイアの願い「突然大切な人が奪われることがないような世界」をかなえるためにジョンが遠い世界の人間の命を天秤に掛けて選択します。結局、ルツイアはジョンの作り出そうとした願いの世界を否定するという、未だにジョンを好きだったはずのルツイアの選択、ジョンの間違いを描いた恋人の関係を描かれています。精神的依存がルツイアにあると視聴者に思わせていた状態から、実はジョンがルツイアの願いをかなえたいという、ジョンの依存精神を描いている、人物の精神的強弱の逆転、もしくは入れ変わりが面白かったですね。







メモ {netabare}
重要な言葉をいくつか挙げてみたいと思います。

虐殺、器官、言葉、痛み、マスキング、少年兵、サラエボ、フラット、ピザ、ラグビー、個人、国家、世界、心、感情調整、PTSD、遠い場所で起きている、伝わってくる話はごくわずか、潜在的意識、存在の消えた傭兵、人工筋肉、イルカ、クジラ、
二回目
民間軍事会社 情報の隠蔽 頭の中の地獄 仲間殺し 究極の兵士 ウィリアムズ 仲間意識 生得的文生成機能 赤い髪の女(電車) 指紋 網膜認証 俺は誰でもない 情報社会とのバランス(ルツイヤ)
自由の選択 プライバシーの自由と、テロの抑圧からの自由 指紋認証の銃 諜報機関 それほどの隷属(国家と兵士) ルーシャス ナノマシン 人は見たいものしかみえないようにできている 犯人は軍事会社 僕は知らない オルタナ(ナノマシン) 仕事と鈍感 心に覆いをする(ジョン) 中国製ヘリ マスキングされた敵兵士 計数されざる者たち 軍事企業がなぜジョンを助けるのか 内戦の勃発による軍需 自分が生まれた世界を守る 選んだ世界への責任 嘘っぱち 死体を置き去り(冒頭の置き去りとの比較)大切な人の死体はものに見えない 大切な誰かを突然失ったりしない世界 人の命の天秤  罪を背負う 
{/netabare}

{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 24
ネタバレ

ぺー さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

ジェノサイドの正当化

または
虐殺をジャスティファ~イ

いつもながら原作は未読。本編もレビューも不穏なタイトルですね。文字通り不穏なやつです。
少し前に遇々『バビロン』という迷作に触れ、その作品談義で頻出してたタイトルがこれでした。

・34歳の若さで早逝した原作者伊藤計劃
・原作『虐殺器官』その評価の高さ
・ノイタミナムービーなるブランド

これまで知らなかったことを知ることができました。これだけでもお得感あるかしら。
早逝したこともあり数少ない輩出作品をアニメ化する試み「Project Itoh」三部作の締めを飾った作品。2017年2月公開のR15+指定。115分です。

あらすじ:サラエボで起きた各爆弾テロを機に世界各国でテロが激化。アメリカを筆頭にテロに対抗する中で先進国では沈静化の方向。後進国では内戦や虐殺が頻発。といったIFストーリー。
後進国で指導層に接触し対立を煽り、内戦や民族対立による虐殺などを引き起こす黒幕として暗躍すると見做されたとある人物を暗殺せよ!
その実行役である特殊部隊員クラヴィス・シェパード大尉が主役の物語です。


戦闘行為にまつわるグロ表現っぷりでR15+指定となってます。
詳細に触れると、タイトル“虐殺”から想像しそうなスプラッター的おどろおどろしさが主成分のグロではありません。あくまで銃撃戦で斃れる敵兵の描写がそれらしいだけ。想像と違ってライト風味かもよってことは指摘しておきます。程度や具合は18禁ではなくR15指定ということでお察しくだされ。
年齢制限が入るのはクリエイターがやりたい表現をできていることの裏返しな部分もあって、本作のミリタリ描写はアニメの中でも超一級の部類に入ると思われます。オペレーションの合理性や演出の迫力などモノが違う感じがします。
『劇場版PSYCHO-PASS』のミリタリ描写との既視感を覚えましたが、プロデューサーがご一緒ということで納得。ノイタミナで辣腕をふるった山本幸治さんです。それでノイタミナムービーということもあるのね。いろいろ繋がってきました。


 世界観 ◎ ※後述
 軍描写 ◎


軍事作戦がベースにあるお話なので根っこが変だと台無しになっちゃいますがその心配はありません。
あとは通しでの物語の面白みであったり、黒幕ジョン・ポールの目的が腑に落ちるものかだったり、やはりというか作品から受け取るメッセージへの共感の有無が気になります。


 物語 △と○の間


タイトル回収を済ませ、大国のエゴも匂わせる国家の繋がりや人間の持つ原罪のようなものへの言及。おそらくこうだろうと想像できる結末もアリといえばアリ。ただしいかんせんよくわからない。

 {netabare}雰囲気だけかっこいい?{/netabare}

劇場版なので視聴者に想像させる手法を否定しないけど軽い匂わせ止まり。肉を焼く匂いで白飯を食べるような感覚。もう少し踏み込んで欲しかったです。
ところがふとしたとこで原作のネタバレを聞き、

 物語・改 ○と◎の間

となりました。

※原作ネタバレ
{netabare}ジョン・ポールの遺志を継いだクラヴィス・シェパードがアメリカに戻り、“虐殺の文法”を駆使してアメリカを内戦に導いていく。{/netabare}

{netabare}小国の犠牲の上にある大国の繁栄について自問自答が描かれてたとのことです。南北問題ですね。{/netabare}


“人工筋肉”なるガジェットが途上国の子供たちによる搾取的な労働に支えられている、とフェアトレード運動に通底するネタが挟まれてましたが、そんなネタが最終的に繋がっていくところまで提示しないのはもったいなかったですね。
とは言っても雰囲気や見た目を馬鹿にするなかれ、です。映画を観てる時間だけその世界に浸れる幸せを実感できる劇場版作品でしょう。その点で買い!優秀な娯楽作品です。




※後述…の世界観◎について

■United Nations

“国際連合”とは意図的な誤訳です。“連合国”が正しくその国連憲章には日本を敵国と見做した条項が残存していることをご存知でしょうか。たかが条文、実態は違うとも言われますが、この敵国条項を除こうと日本が働きかけてもしっかりChinaは潰しにきてくれたりするのが現実です。
永らく“平和のための国際組織”と喧伝され教科書でもそう習ってきた私たちですが、非常に矛盾を孕んでいるのです。直近の事例だと国連の専門機関WHOの武漢肺炎をめぐるグダグダっぷりでしょうか。

 金だけ出して口は出さないでね

日本に求められてる役割がこれ。よって個人的にはあまりこの組織をよく思ってません。そんなとこへ作品の冒頭↓


{netabare}「寛容と多文化主義がこの国の美徳だったのに」と今は民族浄化に勤しむ途上国の指導者がベートーベンの『月光』をバックにシェパード大尉に独白します。
何故自国民に手をかけたのかわからない。黒幕ジョン・ポールの存在を匂わせる一幕です。その前段。

シェパード:
「その国民を殺して回る。あんたの言う政府とやらはどの国連加盟国からも承認されていない」
えらい人:
「国連?我々の文化を土足で踏みにじり、自決権を鼻で笑う最悪の帝国主義者どもが…」{/netabare}


主人公へのシンパシーはもちろんのこと小国の哀しみなんかをこの指導者に見ることができます。きちんと序盤から下地を作っているのです。



■1974年と1975年

原作者伊藤計劃氏とプロデューサー山本幸治氏の生年です。けっこう作品に影響しているような感じ。
だいたいにして小学生時代のバイブル。ジャッキー・チェンの『プロジェクトA』が原題『A計劃』。これホント漢字なの?と伊藤少年の脳裏に焼き付いてたことは想像に難くありません。
多感な中高生時代で起こった世の中の出来事と暇な大学生時代に触れたであろう作品群。この年代特有の感覚が作品に反映されているとふんでます。

15歳前後で「ベルリンの壁崩壊」「ソ連崩壊」を経験。なんとなく大きなうねりが起こっていることを感じつつ、チャウシェスクの銃殺遺体のインパクトだけ覚えていた思春期。
中学の社会科では、“コルホーズ”“ソフホーズ”などを例にとり計画経済を好意的に捉えていた教科書で学んでました。なんせまだ崩壊前だったので。

その後の東欧民主化で泡を食ったのが欧州の火薬庫バルカン半島。ユーゴ紛争が停戦合意したのが彼らが社会に出る頃合い2000年頃でした。
思索に励むことが可能な大学生時代には小林よしのりの『戦争論』が大ヒット。United Nations(連合国)が構築したWWⅡ後の枠組みに疑義を呈した意欲作と言えましょう。

ドイツおよびチェコを舞台としたサスペンス作品『MONSTER』(浦沢直樹)
ユーゴ紛争で故郷を破壊した者への復讐の物語『PEACE MAKER』

90年代後半に発表された東欧を舞台にした名作群もきっと学生時代に目にしてるんでしょうね。
思えば「ソ連崩壊」とはもの凄く大きな出来事で共産主義の敗北に象徴される第二次世界大戦後の枠組みが崩れたことを意味してました。余波は覇権国アメリカにもおよび歪みの極地が“9.11”にと。

そういえば『MONSTER』のヨハンもニナも1975年生まれの設定です。
朝日・岩波的な言説がインテリの条件だった時代から潮目が変わったのはこのへんの年代からかしら。


国際紛争やミリタリ要素の強い作品を描く時にチェコやユーゴの東欧を舞台にしたくなる気持ちがわからんでもない世代。
お話にしやすい国際情勢の煽りを若かりし頃に浴びちゃったこともあるし、中東やジャングルでの紛争よりも身近に感じることのできるエリアでした。今は情勢も落ち着いてますので実際訪れてみるのをおすすめしますよ。異世界ものにありそうな古き良きヨーロッパの風景は中欧・東欧に残ってます。



視聴時期:2020年3月

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2020.12.09追記

5月が初稿の本レビュー。半年経過して“武漢肺炎”の呼称は聞かなくなりましたね。“新型コロナ”で定着した感があります。こうして振り返って気づくことはままあります。
定点観測することで変化に気づく。現在の断面だけ見て踊らされることのなんと多いことか…


2020.05.18 初稿
2020.12.09 追記

投稿 : 2024/11/02
♥ : 35

76.4 4 テロリストで戦闘なアニメランキング4位
PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.2「First Guardian」(アニメ映画)

2019年2月15日
★★★★☆ 3.9 (178)
1212人が棚に入れました
3つの物語の舞台は約100年後の日本とアジア――その現在、過去、未来に起きる事件が語られる。事件に立ち向かうのは、規定値を超えた〈犯罪係数〉を計測された〈執行官〉たちと〈シビュラシステム〉が適性を見出したエリート刑事〈監視官〉たち。犯罪を未然に防ぐために必要なものは、猟犬の本能か、狩人の知性か。事件は思わぬ事実を明らかにし、世界のあり方を映し出す。これまで語られていなかった『PSYCHO-PASS サイコパス』のミッシングリンクがついに紐解かれる。

声優・キャラクター
東地宏樹、有本欽隆、浅野真澄、てらそままさき、大原さやか、関智一、野島健児、石田彰、伊藤静、沢城みゆき、本田貴子、花澤香菜、佐倉綾音

けみかけ さんの感想・評価

★★★★★ 4.8

亡き者達へ捧ぐ【鎮魂歌】All Alone With You

2012年秋冬期の第1期TVシリーズ、2014年秋期の第2期TVシリーズ、2015年の劇場版長篇に続く劇場版3部作『サイコパスSS』の2作目です


人の精神を数値化出来ることから警察が廃止され、厚生省公安局が治安維持と法務の執行を取り仕切る未来の日本が舞台のSFサスペンス


実写映画監督の本広克行、脚本家の虚淵玄も関わっていたシリーズですが、この3部作では最初期からアニメーションディレクターとして携わっていた塩谷直義が自らストーリー原案を組み立てて単独で監督
さらにノベライズ版を手掛けた吉上亮と深見真が脚本を担当しています
本来なら1作目からレビュを書くところですがこの2作目が特に素晴らしかったので先んじて書きたいと思いました

























2116年、SEAUnシャンバラフロートでの事件から2ヵ月後の公安局に、外務省から花城フレデリカという女性が刑事課一係に監視官補佐として出向してきたことが事の始まり
彼女の真の目的は元国防省、国境防衛システム海軍のドローンパイロットであった須郷徹平を外務省にスカウトすることであったのだ
須郷は国防省時代にサイコパスを悪化させるきっかけとなった事件を思い出す…
時は遡り2112年、常守朱監視官就任の数ヶ月前
須郷の所属する部隊はSEAUnへの介入を始めた日本政府と国防省の極秘任務「フットスタンプ作戦」を遂行するが作戦は失敗
ドローンパイロットの須郷たちを残し地上部隊は全滅
その中には尊敬する部隊長であった大友逸樹の姿もあった
しかしその後、フットスタンプ作戦関係者を襲撃する軍事ドローンによるテロが発生
容疑者に挙がったのは死んだはずの大友逸樹
須郷も容疑者として公安の監視下に置かれた
そんな須郷の前に現れた公安というのが、当時刑事課一係の執行官だった“とっつぁん”こと柾陸智己だったのだ…


























今作の第一印象は、色相診断の結果が全てにおいて優先される世界観で、そもそも軍人という職業が成り立つのか?というシリーズへの疑問を投げかけた意欲作だと思いました
理不尽な作戦を強いられる前線の特殊部隊の悲惨さと上層部との軋轢
とかく非情な結末が待ち構えている中で突き進む須郷の心情が軍事冒険小説のような体で彼が得意とするドローン技術の描写と共に描かれ、SFとしてもミリタリーサスペンスとしても楽しめる作品に仕上がっております
この『SS』3部作全てに共通してることでもありますが、画面のクオリティもこれまでのシリーズが嘘のようにハイレベルにまとまっているのも素晴らしい


お話の結論から言って、軍人という職業が成り立っているのはやっぱりちょっとおかしいというか、それは『劇場版』のシャンバラフロート事件を観ても矛盾してるのは明らかです


ですがそんなツッコミどころを他所に、もう一方でハードボイルドな刑事ドラマとしての魅力が今作を支えていることに目を向けたいと思います


物語は終始須郷の目線で語られますが、須郷から観た“刑事という生き方とその正義”を貫いたとっつぁんはこれ以上に無くカッコイイ男、として映ります


まだとっつぁんと宜野座が和解する前ともあり、宜野座との確執の深さや初めて登場する柾陸の元妻=宜野座の母との距離感のある関係も明かされ、とっつぁんの公私が今作の中で共に語られるというのがキャラに深みを与えています
この妻子を支えるとっつぁんの姿は、事件の中心となってしまったが須郷の良き先輩でもあった大友とある意味オーバーラップしつつ、裏表一体の関係になっているのも面白い


何よりもとっつぁんや、さらに今作に登場し大活躍をする青柳璃彩監視官、縢秀星執行官という人々が後々の事件で【全員殉職してしまっている】という事実が今作に漂う哀愁に拍車をかけてます


思えば『サイコパス』というシリーズは幾度となく希望を打ち砕いてきました
本当は死ぬべきではなかったはずの人々の生命が軽々しく奪われていってしまったことへの虚しさ
そんな彼等の在りし日に、いまいちど思いを馳せさせてくれるのが今作なんだと想うのです


そして何より、とっつぁんを演じた有本欽隆さん自身がもはや帰らぬ人となってしまっているのがやるせない…


エンドロールではEGOISTの「All Alone With You」を中野雅之が手掛けたReMixが流れるのですが、これがオイラには“逝ってしまった者達へのレクイエム”の様に聴こえてなりませんでした…


興行終了間際に立川シネマシティ、シネマツーaスタジオでの極上音響上映「TOTTSUAUND」も堪能してきました
SEAUnでの戦闘シークエンスはもはや極爆を超えたとも言える凄まじい音圧の破裂音が連続
とっつぁん最大の見せ場となる、軍人相手に怯むことなく啖呵を切って迫るシークエンスの迫力も他の劇場にも増して最高でした
上映終了後には岩浪音響監督自らが名付けたTOTTSUAUNDという名前と、今作が有本さんの遺作となっていることを合わせた追悼メッセージが画面に映され、最後の最後で涙してしまいました

投稿 : 2024/11/02
♥ : 6
ネタバレ

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★★ 4.1

刑事の勘は永遠に……

『PSYCHO-PASS(サイコパス)』の新作・劇場版三部作の二作目の舞台も日本。
但し、メインの時代はTVアニメ1期の少し前の過去。
本作で起きる事件もまた、霞ヶ関のタテワリが障壁になる難事件ですが、
この当時はまだ“伝説の刑事”で、公安局の“猛犬”征陸(まさおか)智己<執行官>が健在。
シビュラの権限が規制される、他省庁の“聖域”にあっても、
征陸の事件への執念は潰えず、その牙は一度食らい付いたら離れません。

ついでに征陸の息子・宜野座<監察官>もこの頃は絶賛反抗期中w
宜野座は家名の通り、{netabare}沖縄が実家。
沖縄絡みの捜査からの脱線が炎の険悪親子関係に油を注ぐことにw{/netabare}
久々に熱い?親子喧嘩もスクリーンにぶちまけられて感無量ですw

征陸や事件の関係者を通じて、組織の中でも折れない個人の信念を感じたシナリオでした。
例えば征陸<執行官>はTVアニメ1期でも、
シビュラが捜査、執行全般を指示する時代になっても尚、
刑事の勘を前面に押し出した、昔気質のデカを貫き通していましたが、
本作でも、その生き様に再会できて熱かったです。

加えて、そんな個人の信念の継承も確かに感じられました。
各省庁の秘密主義が招いた事件は、相変わらず組織が個人を圧殺する後味の悪い物でしたが、
刑事の勘は、先の第一部にて<執行官>に受け継がれていましたし、
本作では、そんな胸糞な事件が続く中でも、たまに感じられると言う
刑事の正義や信念を引き継ぐ意志もありました。


一方で<シビュラシステム>については、今回もまた、
{netabare}硬軟織り交ぜて対立省庁を屈服させる狡猾さが際立ちました。
事件を通じて、クーデターの危険性が最も高い軍隊に対し、暗部と言う首根っこを抑える。
その上で生かさぬよう殺さぬよう、使える武力だけ残して、
貸しも作って<シビュラ>に抗えない体勢に持って行く。

タテワリが壊される様なんかも、通常は規制緩和など革新的でポジティブなイメージですが、
本シリーズのタテワリ打破は、三部作通じて、
霞ヶ関支配の地歩を固めて行くであろう、<シビュラ>の着実さが目立ち薄気味悪いですw{/netabare}


うん……やっぱりシビュラくん、性格悪いわ~w


付記:第二部公開を控えた今月に入って、
征陸智己<執行官>役の有本欽隆氏・食道がんで死去の訃報が飛び込んで来ました。

<シビュラ・システム>の伸長により“伝説の刑事”から
<潜在犯>として公安局の“猟犬”に落されても尚、
自身の矜持を捨てずに、泥臭く食い付いていく征陸の生き様は、
システムに疎外されても消えない人間性を語る上で重要な要素でした。

それを人間味溢れる演技で再現した欽隆さんの声は地味ながら作品に欠かせない物でした。

元々、本作は、{netabare} 生前の征陸を悼む視点{/netabare}もあった上に、
さらに“弔辞”コメントも相次いだという舞台挨拶のニュース等も含めて、
中の人の追悼ムードも加わり、
より故人の遺志というテーマを意識させられた劇場鑑賞となりました。

ご冥福をお祈り致します。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 19

Ka-ZZ(★) さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

「フットスタンプ作戦」…あそこで、本当はいったいなにがあったんですか!

この作品は、2019年に上映された劇場版アニメ三部作の第2弾です。
現在、過去、未来の三部作のうち、今回は「過去」に位置付けられる作品となります。


常守朱が公安局刑事課一係に配属される前の2112年夏、沖縄。
国防軍第15東郷任務部隊に所属する須藤徹平は、優秀なパイロットとして軍事作戦に参加していた。
三ヶ月後、無人の武装ドローンが東京・国防省を攻撃する事件が発生する。
事件調査のため、国防軍基地を訪れた刑事課一係執行官・征陸智己は、須郷とともに事件の真相に迫る。


公式HPのINTRODUCTIONを引用させて頂きました。

今回の物語の主役は、執行官の須藤徹平さん…
正確に言うと、執行官になる前の軍人だった頃の須藤徹平です。
恥ずかしながら私の記憶から完全に抜け落ちていたキャラでした。

このシリーズは、これまで主人公が次々と事件を解決していくスタイルが主流でしたが、今回の物語は一味違っていました。
確かに事件は発生するのですが、事件を解決するのはあくまで公安局の仕事…
それじゃ須藤徹平はというと…完全に巻き込まれた感じでしたね。

でも、こういう目線も大切だと思います。
何故なら、私たちが何かの事件に関わるなら圧倒的に第3者で巻き込まれる確率が最も高いでしょうから…
生きていて、何度も事件の第一人者には成り得ませんしね。

でも、周囲を巻き込む力…というより、抑え込む力のが物凄く強い事件だと思いました。
最近、「働き方改革」という言葉をよく耳にしますし、職場にも浸透し始めています。
それから比べると、今回登場した国防軍は明らかに逆行していました。
もちろん、機密事項の漏洩はどこの部署においても絶対禁則事項です。
ですが、職場の風通しという意味では、現代社会と随分なギャップを感じました。
今より未来の世界の出来事なのに…

レビューのタイトルで用いた「フットスタンプ作戦」は、本作品の中で素性が明らかになるのですが、思っていた以上に残酷で、悲しみしか生まない作戦だったのではないでしょうか。
諸悪の根源は、作戦の指揮者にほかなりません。
ですが、例え何も知らなかったとしても、自分が加担していたことを後から知らされたらどうでしょう…
何もかも開き直れる訳なんて…ありませんよね。
だから、潜在犯に認定されるのは、直接犯罪に手を染める以外にも多種多様なケースが存在するのだと思います。

本作では、シビュラシステムにはあまり触れられませんでした。
これまでは、全ての犯罪はシビュラシステムに直結していたので違和感ありませんでしたが、システムに関係無いところでも、事件って起こるんですね。

主題歌はCase.1と変わらず、エンディングテーマは、1期後半のエンディングが使用されていました。
もちろん、Case.1同様リミックスバージョンです。

上映時間が約60分の作品でした。
Case.1とコメントが重複しますが、兎に角物語の濃厚さが半端ありません。
「正義と信念の感じられる仕事」という台詞を耳にしました。
自分も「かくありたい」と思える台詞でした。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 12

62.2 5 テロリストで戦闘なアニメランキング5位
攻殻機動隊ARISE -GHOST IN THE SHELL- 「border:3 Ghost Tears」(アニメ映画)

2014年6月28日
★★★★☆ 3.6 (165)
1050人が棚に入れました
恋人と甘い一時を過ごす休暇中の草薙素子の元に、仲間となったバトーから爆弾テロの急報が届く。その現場を制圧すると主犯のカルディス人の胸にはテロリスト「スクラサス」のシンボルが刻まれていた。それと同じ頃、山の手のダムで起きた爆発でひとりの刑事が死亡した。その所持品には“人魚の脚(MERMAID'S LEG)"と記された義体技師の名刺と義体の脚部が遺されていた。それを手懸りに死んだ刑事の後輩であるトグサが捜査を開始する。
ネタバレ

やっぱり!!のり塩 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9

公安9課の試験起動!!第三弾:バランスボール作品★

■評価
テーマ性    :★★★☆  3.9
ラブロマンス度 :★★★☆  3.5
ストーリー性  :★★★☆  3.9
考察度     :★★★★  4.0
おススメ度   :★★★★☆ 3.9

■ストーリー
ある日、水企業と産業省幹部を狙った爆弾テロと同時に
ダム爆発事件も発生する。捜査に乗り出す少佐たちは事件に
スクラサスという伝説のカルディス人テロリストが関与している事を
突き止める。一方トグサはダム爆発事件の捜査をすすめるにつれ事件の
真相を掴み始めるが・・・。

■感想
本作はSF・サスペンス・アクションありとバランスの良い仕上がり。
私的にはこれまでの3作品の中で一番面白い作品と感じます。

本作では水企業、産業省、そして軍部の兵器開発と売買ルートの
利権を巡る国内派と国外派の内部闘争に巻き込まれる少佐達を
描いています。そして何よりファイアスターターの謎が
やっと動き出します。どうやらこの内部闘争がBoarder4にも
関係してくる様なので結構重要なターニングポイントとなる作品と
感じています。

特に今回は物語の謎追うのに少佐路線とトグサ路線の2つが用意されて
いるのが良いです。トグサがいてくれることで、伏線や手掛かり(ヒント)
といったものが分かりやすく、芋ずる式に真相解明につながっていく
楽しさを少しばかり提供してくれます。もちろん少佐路線も必要不可欠
なのですが、トグサという人間味がプラスされる事で、親近感という
リアリティーが作中の組織にやどり9課メンバーを視聴する楽しさが
生まれていると思います。

そしてこれが今回のテーマでもある『磐石な組織形成』にも繋がります。
作中では荒巻が完璧な人間(規格)で統一された少佐達の集団が、必ずしも
完璧ではない事を指摘しています。これにあえて弱点(生身のトグサ)を
加える事で『個性』や『異なる視点』が生まれる事で、多様性をもった
強い組織に生まれ変わる。こういったちょっと大人っぽいメッセージが
受け取れるストーリーはどこかSACを思わせる気がします。

とはいっても台詞回しを注意深く聞いていなければ、置いてけぼりを
くらう分かりずらいストーリー設定の説明、そして今回の少佐のラブ
ロマンスはどうしてもホセとの関係の深さ・・・簡単に言うと馴れ初めが
描かれていないので感情移入がし辛かったです。SAC2の『草迷宮』の様な
グッとくる感じがないのは残念です。そしてED曲を歌っているのは
ジョン・レノンさんのご子息なんですね^^どこかその歌声にカタルシス
を感じましたが、他作品の方が合う気がします。

総じて、従来の攻殻機動隊の姿になってまいりました!!
Border4でのおケツマツ次第ですが、引き続き期待しております。
ご拝読有り難うございました。

以下は本作の謎とポイントをまとめていますので、気になる方は
ご参照ください。ネタバレふくみますのでご注意下さいまし。
■本作の謎とポイント
{netabare}
Q1:本作の事件概要は?
A1:水関連企業と産業省、そして軍部が癒着し、兵器開発と売買を行って
  いたが、その兵器開発元と販売経路の利権を巡り国内派と国外派に
  分かれ内部闘争状態にあった。
  そんな中でクザン共和国水企業(サイード博士)、義体技師の干瀬と
  軍部ホズミ大佐は国外カルテルとの武器密売ルートを確立するために、
  国内派の水企業幹部と産業省役人をテロによって殺害し、最終的には
  国内派の兵器開発拠点となるハリマ重工業幹部と防衛省副大臣までを
  暗殺し国内派勢力を一網打尽にする事を目的としたテロ事件の様です。
  結果として荒巻や少佐たち、そして国内派のクルツによって計画は無に
  なりました。またダムの爆破は武器密売を捜査していた
  水城刑事に物的証拠を掴まれてしまった事から、国外派メンバーが
  逃走する彼を暗殺するためにダムを爆破し決壊させた様です。

Q2:どうも国内派と国外派の構図や意図が分かりにくいのですが・・・。
A2:国外派は兵器開発と製造を国内外で行い、製造した兵器をさらに
  国外カルテルを経由して第三国に密輸する事で利益を得ている様です。
  最終的には国外での開発・製造を狙っています。
  また国内派はあくまで兵器開発と製造を日本国内メーカーで行い、
  その売買価格や売買ルートを牛耳る事(国内カルテルの結成?)で
  利益を得ている様です。しかし・・・これはあくまで私の予想です。

Q3:あの角刈りのホズミ大佐とはだれぞ?
A3:陸軍情報部大佐で、国外での兵器開発と密売ルートの確立を企む
  国外派の主要人物になり、本事件の首謀者でもあります。
  国内派クルツが天敵の様です。

Q4:干瀬晶の動機とは?
A4:これが私にとっては一番の謎でした・・・。
  作中のセリフから大戦中にスクラサスのゲリラ闘争に加担し
  彼の人柄や戦術に惚れ込んだ一人だったのでは?と予想してます。
  おそらくですが、スクラサスが暗殺され彼のゲリラ部隊が
  虐殺された事への恨みと、引き続きカルディス人のゲリラを
  支援するために今回の事件に関わったものと考えています。

Q5:スクラサスとは?
A5:クザン共和国でカルディス人独立のために戦った伝説のテロリスト。
  実は少佐がこのスクラサスであったという衝撃の事実が判明します。
  ただし、なぜ少佐がスクラサスになって独立軍を率いたのかは謎の
  ままです。スクラサスが独立紛争を止めようとする周辺国をも
  標的にしてテロを行う事から、クザン共和国と先進国が周辺国を
  威嚇して利権を死守するためにでっち上げた紛争だったのか?
  これはBoader4にも絡んできそうです。

Q6:エアリアルの起動はどうやって?
A6:これは記憶ウィルスのホストとなるスクラサスとなった人物の
  命令によって起爆する仕組みになっていた様です。
  またウィルスは大戦時に少佐が作成した戦術プログラムを記憶という
  一つのプログラムにまとめ、電脳にインストールさせる事で自身を
  スクラサスと認識し、命令を実行する事で気化爆弾の起動や掌握した
  テロリストを誘導していた様です。

余談:Boarder4へ繋がる謎
  少なくとも今まで見てきた中で以下ポイントは謎に感じています。
  これらの伏線をどう回収してくれるのか期待と不安が膨らみます。
  ・クルツと一緒にいた少女は誰ぞ?なんか凄そう。
  ・国内派として暗躍したクルツの目的とは?
  ・ホズミ大佐はどこへ行った?まだ生きてるのでは?
  ・カルディス人独立戦争に少佐とクルツが参加した目的は?
  ・ファイアースターターとはいったい誰か?
  やっぱし少佐が犯人かも・・・なんて、ぼやかしたおケツマツは
  避けて欲しい所。もっと泥臭いドラマを望みます。

{/netabare} 

投稿 : 2024/11/02
♥ : 6

けみかけ さんの感想・評価

★★★★★ 4.5

満を持して描かれる【恋する義体】のお話

常々思いますがこのシリーズに限らず『あらいず』や『チャンネル5.5』にOKを出してしまった現在、攻殻って何をやっても許されるフリーダムな作品なんだと感じます(笑)
今回もパズの「同じ女は~」のセリフや、トグサのマテバをバトーが指摘するなど小ネタがいっぱい


























前作で草薙素子の下には5人の仲間が集結し、独立部隊として認められる最少人数まで残すところあと1人となった
公安9課からの下請け仕事をこなしていくが満足な予算や権限は与えられず、傭兵のような厳しい扱いを受ける日々
特に義体の性能に頼りきった活動をしているため、義体を維持するための高度なメンテナンスは必要不可欠であり、切迫した状況下ではいずれ限界が来るのも目に見えてきていた


一方で素子は自分のメンテを担当する義体技師のホセ・アキラに絶対の信頼を置き、いつしか周知の恋仲となっていた


そんな最中に前作中の事件から名前が挙がっていたカルディス系難民が起こした爆破テロが発生する
素子達によって一瞬のうちに制圧されるテロリスト達だったが、一介の難民に過ぎなかった彼らに戦闘能力を与えたのは電脳に仕掛けられたウィルスと判明・・・
さらに爆破の手口も不可解な部分が残ったまま・・・
謎は深まるばかりだがテロリスト達の影にはかつて、カルディス人の独立軍を導いたとされる“英雄”スクラサスの姿がちらついていた・・・


























今回はシリーズでも特に『GIS』がお好きだった方にチェックしていただき内容ですね
人によっては「こんなのGISとまるで違うわ!ヾ(`д´)ノ」とお怒りを買うかもしれません;
それもそのはず、今作は冒頭より“少佐に恋人がいる”というシリーズファンのド肝を抜くサプライズから始まります;


さらには劇中で恋人とイチャつく姿(←マジ天使w)やおめかししてデートにいく姿が描かれており、ぶっちゃけると半分はシュールギャグと呼んでいいでしょうw


しかし残りの半分は大真面目のシリアスストーリー
前作、前々作とチラついてたカルディスタンと陸軍501機関という2つのキーワードを繋げ、遂に明かされる少佐の過去


そして“シャワーを浴びてベットで寝る”と徹底して人間くさい生活感が描写されていた今シリーズでの少佐を通して「全身義体とは人間なのか?サイボーグとは生命なのか?」が、改めて問われます


まさに『GIS』が描かんとしていたテーマです!
しかも今作の少佐は『GIS』とは全く異なる答えを既に見つけているんです!
この辺、是非に『GIS』がお好きな方にはチェックしていただきたい!


ドンパチは前2作より控えめ
監督、作監は黄瀬さん自身ですが、初めて浜名孝行さんが演出で名を連ねています


さて、前2作での伏線を回収しきったところで、今作で初登場する陸軍501機関における少佐の後継者、ツダ・エマにより物語は最終章へと加速していく・・・

投稿 : 2024/11/02
♥ : 15

ストン さんの感想・評価

★★★★★ 4.1

草薙素子のラブシーン・・・だと!?

クールビューティ
決してデレないツンデレ
メスゴリラ
というイメージを持っていた少佐が、
漢とラブラブいちゃいちゃ!

やはりARISEというシリーズは今までの攻殻とは別物と考えたほうがいいのかな。
いや待て、この話は今までの話より過去だから、
この後、男に嫌気が差してあぁなった、という展開も考えられるのか・・・?

で、あらすじですが、
休暇中の素子は、美形の義体技師の干瀬晶(彼自身も全身義体)と仲良く付き合っていた。
どうやら、義体の整備をしてもらった時に、
生身の人間と同じように接してもらったことが好印象だったのかな?
この頃の少佐は「恋多き女(?)」だったようで、
短期間に複数の男ととっかえひっかえ付き合っていた模様。

そうこうしている間に、
ある秘密を探っていた刑事の一人がダム爆破事件と同時に殺され、
殺された刑事の後輩であり、捜査をしていたトグサが、
Mermaid's Legという義体を扱う干瀬に辿り着く。

水資源の利権を巡って暗躍する組織、
独立を狙うカルディス人の爆弾テロ事件、
そのテロ組織に戦闘技術と武器を提供している何者か、
それに干瀬が関係している模様。

テロを起こしたカルディス人には、
かつて大戦中の英雄「スクラサス」の紋章が入っていた。
スクラサスとはカルディス人のリーダーであり、
軍に所属していたときに素子が殺した「はず」であった。

このあたりの情報に関しても、
どうも胡散臭い部分がチラホラとあり、
観るものにいろんな想像をさせてくれます。

あとはやっぱり、見てからのお楽しみ、ってことで。


ところで、我らがサイトーさんは、
作戦室でも、作戦中でも居眠りしてました(笑)
いざ狙撃となったら身体を操られてイイトコロなし。

うぅ、次こそは、見せ場あるんでしょうか・・・。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 2

76.6 6 テロリストで戦闘なアニメランキング6位
機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ(アニメ映画)

2021年6月11日
★★★★☆ 4.0 (180)
729人が棚に入れました
第二次ネオ・ジオン戦争(シャアの反乱)から12年。U.C.0105——。地球連邦政府の腐敗は地球の汚染を加速させ、強制的に民間人を宇宙へと連行する非人道的な政策「人狩り」も行っていた。そんな連邦政府高官を暗殺するという苛烈な行為で抵抗を開始したのが、反地球連邦政府組織「マフティー」だ。リーダーの名は「マフティー・ナビーユ・エリン」。その正体は、一年戦争も戦った連邦軍大佐ブライト・ノアの息子「ハサウェイ」であった。アムロ・レイとシャア・アズナブルの理念と理想、意志を宿した戦士として道を切り拓こうとするハサウェイだが、連邦軍大佐ケネス・スレッグと謎の美少女ギギ・アンダルシアとの出会いがその運命を大きく変えていく。

声優・キャラクター
小野賢章、上田麗奈、諏訪部順一
ネタバレ

nyaro さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

宇宙世紀ものとの決別か。(じっくり見られたので追記です)

配信サイトでじっくり見られましたので。追記です。

 宇宙世紀ものとの決別という第1印象は変りません。

 驚異的な映像すぎて、ガンダム感がないというのも初見と一緒でした。ハリウッドが作るゴジラが面白くない…と同じにならなければいいのですが。

 内容もガンダムのテーマとして兵器としての運用、兵站なにより禍々しさというリアリティが無くなっていました。その分、戦闘時の周囲への影響を描いたのでしょうか。3DCGとしてのロボット描写としてのリアリティはありました。ただ、画面が暗いのでガンダムの決めポーズが見られませんでした。2作目に向けての焦らしでしょうか。

 組織そして人の描写には力をいれてました。ハサウェイ、ケネス、ギギのキャラは良く描けていました。つまり、ヒューマンドラマになったということでしょう。
 そして、テロリズムに堕すことでパーソナルな個人の悩み…シャアのような確信犯ではなく、何かをやらなければならないという焦りからシャアをマネてという甘えをハサウェイからは感じます。

{netabare} シャトルがダバオに降りたのは偶然ではなく、自分がイニシアティブをとるためにケネスがそう段取りをしたということですね。で、ハサウェイは自分のホテルへの襲撃を自分で段取りしたんですね。
 で、ギギといっしょにいたので段取りが狂って危険な目にあったと。まあ、コントみたいに逃げる先逃げる先全部危険で、ちょっとやりすぎましたけど。

 逆襲のシャアの時点で思想に走りすぎて、訳の分からないストーリーになっていました。そして最後はアムロがツンばっかりでデレないのでシャアが切れたみたいな感じで、ギャグにも見えるような結末でした。
 物語でもシャアは思想になっていましたが、環境、特権、宇宙移民、ニュータイプ。本作はなにかテーマがあるようで、その思想に内容が伴わない滑稽さが感じられました。

 マフティの行動と民衆の期待にズレがあるのもそういうところでしょう。1000年先と暮らし。ハサウェイが何をしたいのかわからないので、今のところギギという少女にしか興味が向かいません。この描写がそのままハサウェイの迷いだとしたら、訳の分からない感じが脚本の意図通りということで、非常にうまいストーリーだと思います。
 
 ギギについてはニュータイプの娼婦という設定?はララァの再現なのは間違いないでしょう。ガンダムシリーズを通じてララァという少女が結局のところ消化しきれず、歴代の主人公周辺の女性ニュータイプ、強化人間を経て、クエスそしてギギにまで引きずっています。
 つまり、ハサウェイとケネスはシャアとアムロの関係の焼き直しでしょう。ただ、不思議なことにギギに悲劇の予感はしません。というか奇異に見えて非常にまともなキャラでした。この少女を起点に、シンエヴァのようにガンダムを卒業…という訳にもいかないでしょうけど(大人の事情的に)

 ギギは性的な匂いを漂わせていますが、道徳的にはピュアな雰囲気。自らを汚いと感じる感性。恋する少女になっていまいた。この少女の迷いというか、悩みというか難しい状況が示唆されますが、これからでしょう。
 ハサウェイがギギに手を出せないのも、ギギが結局ハサウェイを押し倒さないのも、こういった子供の部分なのかもしれません。

 ハサウェイは、ガウマンというパイロットの救出などにまったく頭が回っていなかった、ということはこの時点でマフティへの興味が薄れているということでしょうか。ハサウェイも自分の甘さを自覚していましたが。

 アムロまたはそれ以前から始まる壮大な宇宙世紀もののガンダムクロニクルは、最後は個人の…それも女への迷いで幕を閉じる?のでしょうか。

 最後、ハサウェイに気があるっぽい女が出てきて、一方でギギがハサウェイが残していった時計のおもちゃに電池を入れるのは上手い心理描写でした。時が動き出しましたし。{/netabare}

 あと、注目ポイントはホテルのエレベーターの内部の液晶パネルです。アニメーターが貧乏で「高級」「豪華」が苦手だといわれていた日本アニメで、感心するほど高級感がありました。

 すごいアニメなのは間違いありませんが、映像美だけでは歴史的なアニメにはなれません。さて、続きはどうでしょう。



以下 1回目の視聴時の感想です。良く見ていなかったのか話を追えていませんでした。

{netabare}
 宇宙世紀もの、ですが、問題のスケールはテロリストにまで落ちています。前作までで、ララァに対してクエスの存在感があまりにも薄く、ハサウェイの抱えている心の陰もあまり見えてきません。地球の特権階級を憎んでいるらしいですが、そこの動機が弱い感じがします。シャアを形だけまねているのでしょうか。(追記;シャアって、逆シャアで最期でどういう結論にしたのか映画ではわからなかったです。環境の問題だといいながらアムロへの執着だった気がするんですが。サイコフレームがどうのこうので終わってよくわかりませんでした)

 ハサウェイのパーソナルな問題をギギとの関係で解決してゆく物語なんでしょうか(追記;それとも本気で環境のことで悩んでいるんですかね?だとするとギギが登場する意味がちょっと分かりづらいですね。ヒロインが欲しかっただけ?どうも環境について人の意見を聞いたりして、環境問題は単なる言い訳に見えたんですけど)。彼がなぜ今の状態にあるのかは本作からはあまり深くは読み取れなかった気がします。しかも、続きものっぽいので消化不良で終わっています。
 まあ、3部作と明示してるんですかね。であれば次作が楽しみな終わり方でした。

 ギギというのは、ララァと同じく娼婦または愛人なんでしょうね。ガンダムにおけるこの女性の扱いというのに、どんな意味があるんだろう、といつも考えてしまいます。魔性ということなんですかね。男を理解できる母は優れた娼婦である?

 ストーリーは面白くはありますが、かなり都合のいい展開と言えるでしょう。
 ハサウェイがあの特別なシャトルに乗っていた必然性があまりなく、そこにハサウェイの組織の偽物のハイジャックが来てます。しかも航路を外れた緊急着陸したダバオには敵の親玉のケネスが赴任してきた基地があり、ハサウェイの組織の拠点もそこにある。
 ホテルに泊まっていたら、ハサウェイの組織に襲われる。要人がかたまっているからなんでしょうが、緊急着陸して偶然そこにいたはずなのに、襲撃の準備はいつできたんでしょうか(追記;ここ偽装工作ということなんですね。でも32Fから上を攻撃するんじゃなかったのでは?)。
 しかも、モビルスーツ戦がハサウェイの真上で始まってしまう。
 うーん、この部分をもう少し丁寧に必然にしてほしかったですね。またはギギによる不思議な力?のせいなんでしょうか。
 大人向けに作っている雰囲気の割にはストーリー展開が子供向けという感じでチグハグ感はあります。少年向け小説が原作みたいなので止むをえませんか。

 本作がガンダムか、といえば、もはやモビルスーツものですらなく、それは単なる戦いの象徴になっています。極端なことを言えば現代兵器でドンパチやっていても、物語に破綻は出ないでしょう。

 アニメは、金はかけたのでしょう。ものすごい出来でした。しかし、実写に近づきすぎたといえばいいのでしょうか。ガンダムらしい迫力が感じられません。ハリウッド特撮的な迫力になってしまっています。
 冒頭のシャトル内の人の動きが気持ち悪かったです。ある種不気味の谷を感じました。

 ギギの造形、キャラだけは素晴らしかったので、それだけでも見る価値はあります。

 あえて、スケールを小さくしてパーソナルな問題に置き換え、ガンダムが不要になってゆく。ニュータイプもあまり意味がなくなってゆく。宇宙世紀もののガンダムとの決別なんでしょうか。

追記;ちょっと集中して見れてなかったみたいですね。一回しかみてなかったのでいろいろ変なレビューでした。また、2作目があるときに見返します。 {/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 11
ネタバレ

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

モビルスーツの場違い感が醸す破滅の予兆

原作小説は未読。

【物語 4.0点】
三部作の一作目。

構成は序盤~中盤3分の2が人間ドラマ。派手なバトルシーンは終盤に集中。
だからと言って、終盤の見せ場にソースを集中すべく、前半を捨てているわけではない。

むしろ前半のハサウェイと出会う人々との濃密なやり取りの方が、
武装蜂起を前にした、ハサウェイ自身によるアイデンティティが不安定な現状を自己分析するパートとして重要なのではないか?
それくらい人物描写が繊細で惹き付けられます。

ハサウェイ率いる反地球政府運動「マフティー」
相次ぐ戦乱で疲弊した地球に特権階級だけを残すべく、
市民を拿捕して宇宙へ強制移住させる「マンハント」。こうした腐敗に鉄槌を下す。
大義としては申し分ないが、過去の武力行使を正当化する名分と比べるとかなり弱い動機。
戦乱で敗れ去っていった者へ思い入れるハサウェイの私心ありやなしや?

マンハント糾弾という点では、地球に残りたい市民とマフティーの利害は一致するが、
最終的に人類は全員宇宙に移住すべしとのマフティーの理想とは齟齬を来す。

何より今や、宇宙世紀(U.C.)0105年。
もはや武力だの、モビルスーツだの、ニュータイプ理論だので現状を変更する時代でもない。
マフティーが人々から“テロリスト”と揶揄されるのは時代の空気を読めていないからだ。

そんなことはハサウェイも百も承知。
その上で彼はシャアら先人たちが歩んだ破滅の未来を回避するには?或いは破滅を織り込むのか?
自己の立ち位置を再確認するために、ネクタイを締め市井に紛れ、自分を模索し続けるのだ。


この観点から心に刺さっているのが{netabare}タクシードライバーとの会話シーン。
その日暮らしの市民には1000年後の地球環境を憂うマフティーの理想になど構っていられない。
だって周りには結構、自然は残っているし。

この活動家が日常生活から乖離して孤立する状況。
世の浮いてる活動家の方々には、テロに手を染めないためにも、耳をかっぽじって傾聴して頂きたいと願います。{/netabare}


ハサウェイが思索の果に迎えるガンダム発進シーン。
綺麗に自己を総括できていますが、高揚感は少な目です。
曇天への発進は、地に足が付かない、五里霧中な行く末を暗示しているかのようです。


以上の通り、物語を愉しむには、
『逆シャア』までのサーガをテーマまで咀嚼することが必須な、マニアックな作品であることは言うまでもありません。


【作画 4.5点】
アニメーション制作・サンライズ

背景美術と人物作画の一体感を出す昨今のトレンドに逆行する本作。
写実的な海面などの背景に割り込んでくるモビルスーツなど浮きまくっています。
戦闘シーンでよくある街中でモビルスーツが煙を巻き上げるカットはメカを魅せるための演出。
ですが、本作の場合は、何もそこまでスクリーンいっぱいに煙やら火花やら噴かなくてもいいじゃないか(笑)
ってくらいの迷惑行為として処理。

宇宙世紀を動かすのはモビルスーツに乗ったニュータイプなどではなく、
メンズスーツを着たオールドタイプである。
モビルスーツなんてお呼びじゃない。
メッセージ性が作画構成でも徹底しています。


とは言え、オールビューモニター搭載が標準化したモビルスーツ同士の戦闘は迫力満点。
私は一作目は通常のシアターで鑑賞しましたが、
次作は360°没入感を最大化できる巨大スクリーン等での鑑賞にこだわりたいです。

【キャラ 4.5点】
主人公ハサウェイ・ノア。
顔立ちや対人関係のぎこちなさはアムロ・レイ。
二つの名を使い分ける暗躍ぶりはシャア・アズナブル。
アムロかシャアか。ハサウェイ自身が葛藤する際の引き出しにもなる。

ハサウェイの秘密を見抜き絡んでくる謎の美少女ギギ・アンダルシア。
大人の色気で、ハサウェイのライバルともなるケネス大佐とのトライアングルを仕掛けたかと思えば、
戦場では幼女の如く動揺を露わにする情緒不安定ぶり。

ギギとの交流の中で、クェス・パラヤを破滅へと攫っていったシャアの一件が重なるハサウェイ。
大義より、過去のトラウマという感情で言動を左右されるハサウェイ自己分析の一助ともなる。

総じて各サブキャラとも、ハサウェイ自身が掴めていない自分探しにヒントを与える献身ぶり。

【声優 4.0点】
ハサウェイ役の小野 賢章さん。
幼さと凛々しさが混在する青年ボイスで、村瀬監督からの“感情と思想に引き裂かれたキャラクター”という難題に応える好演。
このハサウェイ危ないことするよ。

ギギ役の上田 麗奈さん。ボイスを高嶺にコントロールして正体を掴ませない妙演。
これは周りの男どもも取り扱い方法に困ります。


公開前、劇場版『逆シャア』の少年時代以来、
長らくハサウェイに声を当ててきた佐々木 望さんからの“声優交代”が物議を醸しました。
ただこれも『ガンダム』以外のコンテンツではよくあること。
アニメ化よりも先にゲーム等でキャスティングされた声優が、アニメでは変更になるのは割りと普通。
ただハサウェイの場合はアニメ映画化以前にゲーム等で活躍する期間があまりにも長すぎましたw

また、このキャスティングについては、アニメ映画化後もゲームのハサウェイは佐々木さんが担当していることなどから、
①小説版『逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』→『閃光のハサウェイ』原作小説のハサウェイは佐々木 望さん。
②劇場版『逆襲のシャア』→本劇場版三部作のハサウェイは小野 賢章さん。
①②はパラレルワールドの別系統作品であると示唆しているとの見方もあるそうですね。

劇場版三部作見ながら原作小説読んだら①②の異なる要素が混ざり合って困惑してしまうかも。
この辺りが、私が劇場三部作展開中は、小説購読は『~ベルトーチカ・チルドレン』までで止めておこうと決心している理由です。

【音楽 4.0点】
劇伴担当は澤野 弘之氏。
エッジの効いたテクノ等をアレンジした戦闘曲及びボーカル曲で魅せる。
「TRACER」は特にぶち上がります♪

気になるのが『UC』の澤野氏が『ハサウェイ』でも音楽担当している事。
『UC』は原作『ハサウェイ』完結後に、『逆シャア』~U.C.0100の間に闇に葬られた史実があったと後付けされたエピソード。
よもや本シリーズで『UC』を絡めてくることもないとは思いますが、
パラレルだとしたら何でもありですし。
もしくは『UC』同様、『ハサウェイ』も戦乱の亡霊を退治する物語として同一視すれば良いのか。
考え出すと落ち着きません。


ED主題歌は[Alexandros]「閃光」
過去を振り払って未来へ驀進する快作ロック。
ですが、今のハサウェイにはちとまぶしすぎる感もw
Netflix海外配信に合わせて英語版もリリース。
MVは英語版の方がAMVになっており作品のシーンを振り返るのにも最適。


【付記】
分割2クールの『水星の魔女』の幕間に、本作のTV編集版が1/15~全4話で放送されるそうで。
制作中の第2部への予習復習としてハサウェイを分析してみるのも一興かと。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 19
ネタバレ

剣道部 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

劇場で観るべき劇場版アニメ

[文量→中盛り・内容→感想系]

【総括】
久しぶりに、「あ~、俺、今、ガンダム観てるわ~」と思えた。非常に充実した1時間半。

原作は、1989年に出版された、富野由悠季さんの同名小説。「逆襲のシャア」から12年後の世界を舞台にしており、主人公は「ハサウェイ・ノア」。ホワイトベースの艦長として知られるブライト・ノアの息子。

コロナの影響もあり、この1年、映画館に行くのは控えていたのですが、本作はどうしても劇場で観たかったので、昨日行ってきました。田舎の映画館ということもあり、キャパの10分の1程度しか客がいなくて、かなりゆったり観られました。

劇場版三部作の1作目ということで、ストーリーは完結しませんが、充分な満足度がありました。

私が本作を劇場で観てほしいと思う理由は、本作の見所が、やはり映像と音声にあるからですね。

本作では、人間目線でのモビルスーツ戦が多く描かれます。モビルスーツの部品がちょっと落下しただけで命を失ってしまう、絶望感や恐怖。それを味わうには、大スクリーンで観るのが1番だと思います(私は映画館に行くと、視界が全部スクリーンで埋まる、前の席で観るのが好きなんですが、今作はそれがハマってた、スクリーンを見上げる形が良い感じでモビルスーツを見上げている気分になりました)。

まあ、ガンダムを知らない人はまず観ない映画だとは思いますが、一応、「地球環境の為に、全人類を宇宙に移民させようとする青年(テロリスト)の戦い」を描くストーリーです。逆シャアと世界線は繋がっていますが、前作を知らずとも観られる映画だと思います。

コロナ対策をしっかり行った上で、映画館で観てほしいですね。

《以下ネタバレ》

【視聴終了(レビュー)】
{netabare}
原作小説は、確か中学生の時に読んだはずなのに、びっくりするくらい内容忘れてる(笑)

あれは、いいものだ、、、いや、これは、いいことだ(笑)

ということで、ストーリーは知らずに、新鮮な気持ちで楽しみました。

序盤、宇宙船内の会話劇。これがガンダムの会話だよなという空中戦に、ニヤリ。

続いて、ホテルのシーン。どこかクェスを思い出させる、ギギのキャラに、ニヤリ。ハサウェイが大人になってて、ちょっと複雑な気分(笑)

(ちなみに、ハサウェイの植物学の先生が、アマダ博士って、シローとは関係ないよね? 映画の間、ずっと気になってしまったw)

ホテルを射撃したところからの逃亡戦は、本作で一番の見所。人間の目から観たモビルスーツ戦の迫力。圧倒的な暴力。

ハサウェイは、「地球のため」に戦っているが、「人のため」に戦っているのだろうか。明後日を考えられない人がいるなかで、1000年後の人類の、地球のために戦う愚かさと純粋さ。「魚が取れなくなった」と地球環境を嘆くくせに、ディナーで魚を食べる矛盾。しかしそれも、腐敗した連邦高官のせい。

市街地の上でも容赦なく射撃した軍も軍だが、そもそも市街地を盾にしたのはマフティーだ。

どちらが正しいとか間違っているなんてこと、富野さんが書くわけない。両陣営にそれぞれガンダムがいることが、その証左か。

終盤のモビルスーツ戦は、パイロット目線での戦いが熱い。ワケワカランが、訳もなく面白かった。

ストーリーに関しては、まだ序盤なので、3作観てから語りたいと思います。

余談ですが、私は今、30代中盤なのですが、映画館の客層の中ではまだまだ「坊や」でした(笑) オッサン8割、女性1割、子供1割(笑) もうちょい、ガンダムも裾野を広げていかないとな~と思いました。
{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 20
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