タイムリープで恋愛なアニメ映画ランキング 6

あにこれの全ユーザーがアニメ映画のタイムリープで恋愛な成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2024年11月05日の時点で一番のタイムリープで恋愛なアニメ映画は何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

89.6 1 タイムリープで恋愛なアニメランキング1位
時をかける少女(アニメ映画)

2006年7月15日
★★★★☆ 4.0 (4039)
21186人が棚に入れました
東京の下町にある高校に通う女子高生・紺野真琴は、ある日踏切事故にあったのをきっかけに、時間を過去に遡ってやり直せるタイムリープ(時間跳躍)能力に目覚めてしまう。最初は戸惑いつつも、遅刻を回避したり、テスト問題を事前に知って満点を取ったりと、奔放に自分の能力を使う真琴。そんなある日、仲の良い2人の男友達との関係に、微妙な変化が訪れていく。

声優・キャラクター
仲里依紗、石田卓也、板倉光隆、原沙知絵、谷村美月、垣内彩未、関戸優希
ネタバレ

renton000 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

驚きの完成度でした

あらすじは他の方のレビュー等をご参照ください。

 「バケモノの子」の公開記念として、2度目の視聴をしました。前回のレビューに追記して終わろうかと思っていたのですが、なんだかごちゃごちゃした感じになりそうだったので全改訂しました。内容自体は以前のレビューと大して変わらないものになっているはずです。純粋な追記箇所は「キャッチボール」と「カメラワーク」のところです。他のところは、話の流れに合うように少しいじった程度です。

 「噂通りの名作だ」というのが初見時の率直な感想です。もちろん今でもそう思っていますが、「おおかみこども」を見た後だと、若干粗さを感じました。作品の質としては、「おおかみこども」の方が上だと思います。
 「おおかみこども」のレビューで、「左右の選択が重要な要素となっている」というようなことを書いたのですが、この「時かけ」でも同じような「方向に対する意識付け」が結構出てきます。でも、「おおかみこども」ほど中心に据えている感じではなくて、おまけ的な印象が強いですかね。その辺を交えながら雑多に述べていきます。


キャッチボール:{netabare}
 キャッチボールのシーンは複数回出てきますが、このシーンが持つ意味の中心は「コミュニケーション」です。

 中盤、マコトがチアキの告白をなかったことにしたあとに、チアキとコウスケのキャッチボールのシーンがあります。ここで、「投げろよ!」というコウスケに対して、チアキは「考えながら投げらんねぇ!」と返していました。彼らにとってのキャッチボールというのは、「会話のキャッチボール」であり、また、「心のキャッチボール」でもある、ということの説明がされています。キャッチボールをすること自体が、コミュニケーションをすることである、ってことですね。チアキとの接触を避けているマコトは、ここでのキャッチボール自体に参加していませんでした。
 また、エンディングではコウスケの彼女候補もキャッチボールに加わることになりますが、キャッチボール自体に四苦八苦しています。まだコミュニケーションが上手く取れていない、ということですね。

 で、このキャッチボールに、「方向に対する意識付け」が付与されているシーンがあります。序盤のマコト・チアキ・コウスケの三人がキャッチボールをしているシーンです。
 三人は当初、時計回りでキャッチボールをしながら、夏休みの計画を話しています。そして、コウスケが「図書館で勉強する」と言いながらチアキにボールを投げた後、チアキがそれを否定しながら、反時計回りでボールを返します。夏休みの計画から、将来の話に会話が移ったタイミングでキャッチボールの向きが変わっています。
 その後、反時計回りでキャッチボールが続きますが、コウスケがマコトに「お前はどうするんだよ?」とボールを投げた後に、マコトが「ホテル王」と返しながら、時計回りにボールを投げます。実現可能な将来の話が実現不可能な将来の話に変わったタイミングで、キャッチボールの向きも再度変わっています。

 会話をしている者同士がボールを投げ合っている、ということでもあるのですが、会話の中身が変わるたびにキャッチボールの方向が変わる、ということでもあるのだと思います。
{/netabare}

ここから(標識):{netabare}
 このシーンは方向の意味が分かりやすいですよね。中盤のチアキの告白にまつわるシーンです。ここでは、マコトとチアキが絡む右奥の道路と左奥の道路、そして、コウスケだけが影響する左手前の道路があります。

 マコトとチアキの将来に影響を与えないコウスケは、常に左手前の道路にはけて行きます。そして、告白に対して葛藤のあるマコトとチアキが右奥と左奥の選択を幾度かチャレンジしています。

 で、このシーンは直接的にその後の展開に影響しています。
 常に一人で左手前にはけて行くコウスケに対しては、チアキは別れを告げませんでした。道路の演出と同じように、コウスケの将来というのは他にに影響を与えないし、他から影響を与えられることもない、ということなのでしょう。
 マコトとチアキは、右奥の選択から左奥の選択へと変わります。左奥選択後では、チアキの告白はキャンセルされるのですが、このシーンは用意されていません。マコトと魔女おばさんの会話でのみ、それが明らかになります。ですが、ここが描かれなかったことがフラグとなってエンディングを導いています。チアキを避けて左奥を選択していたマコトが、チアキを追いかける展開へと変わりました。

 キャラクターたちの進む方向とストーリー展開との連動が表現されていました。
{/netabare}

前方回転・後方回転:{netabare}
 タイムリープ中のマコト(デジタル時計と歯車のシーン)の身体の回転方向も、重要な演出になっていました。これが一番分かりやすいですかね。分かりやす過ぎて書くほどのことでもないかもしれませんが、ちょっとだけ。

 下らないことにタイムリープを使っているときは、マコトは背中側に後方回転しています。
 そして、最後のタイムリープ。ここでも背中側から始まりますが、マコトはくるっとターンして前方に向き、前方回転に変えています。ここで描かれている、後方回転であったものが前方回転に変わること、これがマコトの成長ですね。自分の思いに向き合えるようになり、前向き・主体的な決断をするようになったということです。
 私のお気に入りのシーンです。
{/netabare}

 前述した「粗さ」というのは、このあたりのことですね。時計回りと反時計回り、右奥と左奥と左手前、前方回転と後方回転、と様々な「方向に対する意識付け」がなされているのですが、やや統一感に欠けている感じがするんです。初見時にはあまり気にしませんでしたが、「おおかみこども」を見た後だとちょっと気になります。「おおかみこども」では、常に「右か左か」という選択しかありませんでしたから、このスマートさに比して粗く感じるところがある、ということです。

 ただ、ここを批判する気はないですけどね。こういうことをやれない監督も多いですし、「やれた上で」ということですから、贅沢な文句のような気がします。また、同じことを繰り返す統一感よりも、いろいろな演出を用いる幅の広さを評価する人もいるでしょうから、単に私の好みの問題かもしれないな、とも思います。

 ここから先は、更に雑多なことです。

最後のカメラワーク:{netabare}
 最後のタイムリープ後、マコトがチアキに会うために左に向かって走っているシーンです。カメラが一定のスピードでマコトを追いかけていて、追いつけなくなったマコトが画面右にフレームアウト、その後追いついて画面中央に、追い越して画面左にフレームアウトします。

 ここでの一定のスピードで進むカメラというのは、一定のスピードで進む時間を表現したものだと思います。カメラワークで「time waits for no one」を演出しているのでしょう。マコトの動きは、時間を超えるタイムリープの演出でもあるのでしょうが、その直後にあるシーンに係っているんだと思います。チアキの「未来で待ってる」に対する答えとしての「すぐ行く、走っていく」というセリフの実践ということですね。
 ここもお気に入りのシーンです。

 なお、この一定の感覚で進むカメラワークを時間として表現する演出は、クレヨンしんちゃんの「オトナ帝国の逆襲」でも使われています。こちらも時間をテーマにした作品ですね。
 時間もの映画の定番演出、と言った方がいいのかもしれません。
{/netabare}

マコトと魔女おばさん:{netabare}
 魔女おばさん。
 タイムリープに理解があること、過去のものを未来に残す仕事をしていること、男性二人の間に写る写真。これらは、魔女おばさんがマコトと同じ背景を持っていることの説明ですね。これらから、魔女おばさんも未来人と関わりのあった人物なのだと推測できます。過去、タイムリープを経験している方なのでしょう。

 で、マコト。
 マコトも将来魔女おばさんと同じ仕事に就くことが明らかになっています。マコトも魔女おばさんみたいになるってことですね。タイムリープに悩む少女をマコトが導いてあげるときが来るのかな?
{/netabare}

チアキ:{netabare}
 ほぼ確実に…死刑ですね。

 この作品て、最初から最後まで怪我するシーンが多いんですよ。そして、どんどん怪我の程度が悪化していく。
 マコトのタイムリープには自傷(痛み)が絡んでいますが、あからさまな怪我は負ってはいませんでした。ところが、タイムリープが出来なくなった後には、全身に擦り傷を負い、視線の先には自転車に乗った二人の死が描かれます。タイムリープの先にある死の暗示ですから、おそらくはチアキは…ですね。

 ラストシーンにおける「未来で待っている」というセリフとキスをしないところに、チアキの中にある期待と優しさの狭間を垣間見るようで何とも言えない気分になります。待っていることは出来ないけれど待っていたいという願望と、待っていられないのだからマコトには忘れて欲しいという思いやり。

 マコトが魔女おばさんと同じ境遇になる、というのは、マコトがチアキと会えないことの暗示でもありますからね。そもそも時代が違いすぎますし。マコトとチアキの思いが通じ合ったことを認めつつも、マコトの魔女化とチアキの死を推察してしまう視聴者側の「なんとかしてよ」という叶わぬ希望も混ざり合って、複雑な感情が生まれてしまいます。
 ハッピーエンドとは一体…?
{/netabare}

細田守監督:{netabare}
 個人的な見解ですが、アニメ映画の監督では、この人が一番てっぺんに近い監督だと思いますよ。宮崎駿監督は引退してしまいましたし、今敏監督は鬼籍に入ってしまいましたからね。

 このレビューで述べて来たように、細田監督はセリフに頼らずに演出で語ることができる方です。また、「演出に気付いてよ!」というスタンスではなく、気付けなくても楽しめるように作っています。
 例えば、前方回転・後方回転を気付かなくても何の問題もありませんよね。マコトの前向きな姿勢というのは、将来の夢を定めたことから十分に分かります。

 このレビューでは触れていませんが、ストーリー展開や人物描写も非常に上手いですよね。人間自体を肯定的に捉えるところにも好感が持てますし、それだけでなく人間の負の部分もきちんと描こうとしています。どこをとっても高レベルにまとまった正統派の映画監督だ、というのが私の細田監督に対する評価です。

 私は自分が視聴するまで情報をカットしてしまうので、「バケモノの子」がどんな内容なのかはCM以上のことは分かりませんが…。もし、「おおかみこども」レベルの作品であったなら、その地位は盤石なものになると思います。私の中で、という枕詞が付かないことを願うばかりですね。
{/netabare}

対象年齢等:
 対象年齢は中学生以上かな。現役の学生にも、過去学生だった人にもお勧めできる作品です。
 作中で表現されているように、未来から見れば過去は美しいんです。大人になって思い返すと、高校生活はやっぱり輝いていますよ。今学生生活を送っている人にはぜひともキラキラした毎日を過ごして欲しいものです。走り回れるのも学生のうちだけですしね。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 17

ラ ム ネ さんの感想・評価

★★★★★ 4.7

その時への色のある思索。

 琴線ふれて、涙腺導き、手に汗握りしめ、心奥から数々多様な感慨回線らを心意の外側へと誘起させ、「時をかける少女」はそれらを巧みに手繰り寄せてみせる。本作を映画第一作と言い答える細田守監督は、真っ白な空間に感無量の物語と、多彩なドラマツルギーを炙り出し、加筆しアレンジを加え、圧縮し構成させ、記憶に深く根付くような多元の浸透作品を生み出して、魅せる。抜群これに長けている。

この始まりはマッドハウス取締役社長の丸山正雄が、監督細田が演出を一部務めていたとあるテレビアニメを観て、細田の演出に「可能性」を見出した事が結果「スタジオ地図」創設に至った原点だと言ってもいい。丸山正雄は細田守に、小松左京、星新一と肩を並べ「SF御三家」とも謳われた日本を代表するSF文章表現家、筒井康隆の代表作品でもある「時をかける少女」を原作としたアニメ映画製作を持ち掛けた事がきっかけだ。
 そして細田守は制作に繰り出した。スタッフには、後に角田光代原作の「八日目の蟬」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞し、本作が初めてアニメ映画脚本に関わることとなる奥寺佐渡子や、キャラクターデザインに漫画版「新世紀エヴァンゲリオン」を筆する貞本義行を始めとする有名な表現家たちが加わり、映画の出来栄えは一層高まっていく。
その結果アニメ映画「時をかける少女」が、全国各地に知れ渡ったのは2006年夏。僅か14本程度のフィルム数の当初は静かな小規模上映から、好評の口コミ効果などにより映画館は連日立ち見が起こる程観客で溢れかえり、配給会社はすぐさま上映館を全国各地に飛び火させたのだ。観客を震撼させた本作は「古典的な予感」を収め大成功となった。

東京の下町のとある高校に通う女子生徒・紺野真琴は、友人の間宮千昭、津田功介と共に日常を過ごしていた。いつもと何も変わらないある日、不運から踏切事故に遭遇し一度は死は訪れたものだと悟ったが、気が付くと彼女は数分前の時系列上に逆戻りし舞い戻って、死の危機を脱していた。これをきっかけに時間を過去に遡りやり直せるタイムリープ能力(時間跳躍能力)を自分が可能であることを悟る。戸惑いつつも、遅刻を回避し、テストで満点を取ったり、カラオケに10時間以上居座ってみたり、夕食に鍋が食べたいが故に一昨日の食事まで戻ったりと、奔放に能力使いまくる真琴。しかし、時間を戻す度に周りの人間の当初の行動が変わり始め、友人2人との関係にも微妙な変化が訪れることになり、その誤差が真琴の運命を辿っていく…。

アニメ「時かけ」の時代設定は、作品の上映開始当時の2006年となっている。原作、及び第一回劇場版は(1980年以降四回劇場映画化され、1つの原作から4回劇場映画化されたことは他に例を見ない)、1986年の設定だ。アニメ化については原作から内容を大きく変更されている。アニメ化での舞台は原作の20年後となり、未来の位置付けになっていて、原作の主人公である芳山和子も36歳になり、劇中「魔女おばさん」と真琴に呼ばれるかたちで登場している。原作に沿ったストーリーは数える程で、本作はオリジナルであると言っても過言とはならないだろう。昭和の物語に取って代わり、平成学生の日常風景が転写され、次世代の人物が繰り広げる物語を描いた、いわば原作の続編という位置付けを成しているのだ。
 原作では深町一夫なるケン・ソゴルが開発段階の時間跳躍の薬を使い過去へ遡り、本作では間宮千昭が幾数回チャージ可能なドングリほどの大きさの時間跳躍装置で時を遡っている。原作での未来と本作との未来は同じ時空間上に存在せず、ケン・ソゴルは原作の限りだと時間跳躍薬の開発者(ここでは薬となり、その状態は茶色い液体が白い湯気を立てている)、間宮千昭は時間跳躍装置(液体から跳躍回数をチャージ出来るドングリ型になる)の使用者となっており、ここから間宮の未来はケン・ソゴルの未来よりも幾年幾十年先の時間跳躍が発展した未来と予想できる。ケンの時代は、社会の技術に人間の知能が間に合わず勉学を半世紀をも積まないと就職出来なく、睡眠療法により幼少期から知識を脳にすり入れて社会の向上を目指していた。少子化は進み、月及び火星への移住民も普通になりつつあったが、貧困民は移住する金がなく飢えた地球でさらに飢え続けている、そんな未来であった。そんな時代からまたさらに幾十年経ち、地球での人類の状況はさらに苦しくなっている時代が、おそらく間宮千昭の未来なのだろう。そんな頃に比べれば、2006年の地球がどれほどの美しさを秘めているか、考えようもない。無限の時の突端に始まった一つの大きな主張を見間違えた先の人類が、今の風景を振り返ればそれはきっと絶景だったのだ。
 原作の「時かけ」にある「SF」「恋愛」「青春」の内から、細田監督は「青春」を選び本作を想像した。描かれているところには、イジメもあり、受験戦争もあり、嫌な教師もいる。しかし、この時代に生きる高校生はかけがえのない美しさの中に生きている。70、80年前のその年代は工場で戦闘機の部品やら銃弾やらを作っていた人もいる。過去にも未来にも酷な状況は残る。細田監督が描いたものの中には、日々日常の煌々しい瞬きや、高い声が響く学生生活の素晴らしさを再発見することができる物語のカケラが忍んでいる。

深町一夫=ケン・ソゴルが、開発した時間跳躍の薬の実験で1986年に7世紀を遡りタイムリープしてやってきた彼は、その時代で芳山和子と恋をした。「きっと会いにくるよ。でも、その時はもう、深町一夫としてじゃなく、きみにとっては、新しい、まったく別の人間として・・」彼はそう言って、「いいえ、わたしにはわかるわ・・きっと。それが、あなただということが・・」彼女はそう言った。彼は未来にへ帰ってゆき、16歳の少女は歩み始め、20年が過ぎ、それでも彼女は待っている。
 間宮千昭は、遠い昔の混沌とする戦乱の時期に幸福をもって描かれた一つの”絵画”を見ようと、その絵がこの時にしか所在が分からないと知り、2006年に未来からタイムリープしてやってきた彼は、その時代で紺野真琴と恋をした。「未来で待ってる」と彼は言って「うん、すぐ行く。走っていく!」彼女はそう答えた。彼は未来に帰ってゆき、16歳の少女は走りだした。
 同じ境遇に立たされた主人公たちは、二人共に同じ方向へは行かなかった。浮世離れした雰囲気からの「魔女おばさん」なる芳山和子は、自分の若い頃と紺野真琴を照らし合わせ、タイムリープの事で悩む真琴に助言のような、また適当に調子を合わせていることを語り、最後には自分と真琴は違うと気づかせ、真琴はそれに背中を押され最後のタイムリープへ向かうこととなる。和子は国立美術館で絵画の修復をしながら未来に帰ったままのひとを待ち続けるが、劇中の和子が言うように真琴は友人2人とは別のひとと結婚をするだろう。二人は同じ運命を背負わない。
川が地面を流れているところを初めて見た。自転車に初めて乗った。空がこんなに広いところを初めて見た。なにより、こんなに人がたくさんいるところを初めて見た。間宮千昭はそう言った。数学が優秀で、漢字が読めなかった。俺この時代が好きだ。野球もあるし。彼女はその理由に自分が入っていることをわかっていた筈だ。その未来はもしかしたら、科学の発達が及ぼした地底都市で故に空は小さく、川の水はパイプ管を行き来して、自転車など必要しないほど活動圏は狭く移動は簡単で、世界規模で少子化が進んだ、「宇宙戦艦ヤマト」や「火の鳥(未来編)」のような人類末期の腐敗した地球なのかもしれない。そんな時代で彼はその”絵画”を知り、酷く荒れた飢饉貧困の時にどうしてこんな幸福な絵が描けたのだろうかという疑問を抱いて、時を遡ったのだ。そしてその時代の美しさ故に定住し、紺野真琴や津田功介と出会い、広すぎる青空に野球ボールを打ちはじめた。帰らなきゃいけなかったんだけど、いつの間にか夏になった。お前らと一緒にいるのがあんまり楽しくてさ。そう記憶に耽って千昭は言った。タイムリープにより誤差が生じたことで千昭は最終的に”絵”を見ることが叶わなかった。しかし彼はそれを見上げない感動を得ていた筈だ。 
 「未来で待ってる」「うん、すぐ行く。走っていく!」この言葉の解釈には色がある。千昭が見れなかった絵を未来に残すこと、であったり。彼のこの言葉は未来へ帰る直前の為に台詞をぼかした告白であって、彼女の言葉は対する応答、であったり。これは未来への思索であり観客に対する大いなる主張、であったり。彼は唯優しくあり、彼女の人生を一生明るく温かめるの思い出の言葉となった、であったり。そしてその言葉のシーンで千昭は真琴にキスをしない。ここに千昭が真琴に対する最後の優しさをみてしまう。「Time waits for no one」とは日本の慣用句で「光陰矢の如し」。直訳は「時は誰も待たない」。この言葉とまた、、”その大切な思い”を黙然と示唆しているかのように理科室の黒板に殴り書かれている。津田功介の「真琴!前見て走れ!」という言葉もまた。「かける」という様々な意味が煌々しい。
真琴はまず自分のために時をかけた。そして誰かのために時をかけた。やがて真琴は未来のために時をかける。最後にやっとタグライトの意味が提起される。「待ってられない未来がある」と。

第二段落、Wiki情報参考。
2013.7.17「原作より断然良い(‐_‐)bグッ!」レビュー投稿。
2014.2.18「その時への色のある思索。」レビュー更新。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 24
ネタバレ

かしろん さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

ここまで良いとは

【プロフェッショナル 仕事の流儀 を追加】
評判の良さは、勿論、知っていたんだが、
 サマーウォーズ
 おおかみこどもの雨と雪
を先に見てしまったせいもあり、
「ホントにそこまで面白いもんなの?」
と思ってた。
もっと、
ラブラブグダグダな三角関係に悩むぜ青春!跳べ!三ツ矢サイダー!
みたいな話だと思ってたのだ。

【ここまで良いとは思ってなかった】
{netabare}感想の結論言うと、
良い!素晴らしい!!
である。
一少女の、成長、恋への目覚め、を見事に描き切っている。
タイムリープものとして「ん?」と思う部分が無いでもないが、
んなこた、どーでもいいのだっ!

ルパンは別れ際におでこにキスをするけれど、千昭は真琴にキスはしない。
それでも、好きな相手に、自分という人間を残したい。
人に自分の本当の気持ちを伝えることが苦手な千昭。
そんな彼の精一杯が「待ってる」。
待ってる将来が何年後なのかは知らないが、もう、2度と、会えないことを分かっている。
真琴も、千昭に伝えられた未来像から、千昭とは、もう、2度と、会えないことを分かっている。
それでも、今までタイムリープで避け続けた、千昭の心を受け止めることが出来た。
心を盗んだのは、真琴なのか、千昭なのか。

飛行機の音と共に消えた千昭が、留学という名目で去っていく。
 そいえば、真琴がタイムリープしだした当初、進路について
 「留学でもしようかな」
 とか言ってたね
みたいな、伏線の張り方も実に綺麗。

「千昭の為に絵を残そう」
と将来を決めた真琴。
いずれ、魔女おばさんの後釜になるんだろう。
そして、いつか、魔女おばさんになった真琴のもとに姪っ子がやってきて
「こんな不思議なことがあったの」
と話す日が来るのだろう。
本編で、細やかなタイムリープ、ループを描きつつ、
物語として、大きなループを感じさせる。

入道雲。ぶつかる人混み、ぶつからない人混み。道路標識。
様々な演出手法で描かれる心情。
”ここから”の二分岐道路標識アップはやり過ぎだと思うけどね。


細田守監督の話から勝手に想像
有名なエピソードがある。
”スタジオジブリ ハウルの動く城 監督降板”。
スタッフかき集めてみたものの、製作が頓挫。
”ジブリ新作、細田守監督”として公開ラインナップ披露されながらポシャったのだ。
そりゃ、
「あの時、ああしておけば」「あの時、こうしておけば」
とか、沢山の後悔をしただろう。
それでも、前を向いた結果として、おジャ魔女どれみや劇場版ワンピースを世に送り出せた。
そういう思いや経験が、作品にギュッと積まって感じるんだよね。
過去を振り返り、やり直せばやり直すほどに状況が悪化してく
ってのは、タイムリープもののお約束なんだけど、そんなお約束すらも、東映アニメーションを退社してフリーとなった細田監督第一作目としての覚悟に感じる。

また、劇中のキーアイテムとなる画「白梅ニ椿菊図」。
作者も何も分からないけど、心に来る画。
監督が目指すものなんじゃないかな。
「監督が誰とか、見てる側にとってはどうでもいいことだ。
 名を残したいんじゃない。
 見てる人が、ただ純粋に、いいな、と思える作品を世に残したい。」


色んな事を経験した監督が、ただ前を向き、心に残る作品を作りたい。
将来、夢、希望、理想
が、大きく、高く、モクモクと膨らんでいく。
真っ青な夏の空に浮かぶ真っ白な入道雲のように、

最初から、最後まで、お見事でした。{/netabare}

【ループもののお約束】
{netabare}ループものは、
ループを繰り返す程状況が悪化していき、
段々と身動きが取れなくなっていく
ってのがお約束としてある。
本作は基本的に爽やか青春モノなので、流石にそこまでギスギスしたことはやってないが、ある部分でちゃんと則ってやっている。
それは、ループで被害を受ける人と内容。
被害を受ける人が、段々と真琴の身近な人になり、その内容も悪化していくのだ。

最初は、買い物おばさん。眼が前に付いているのは前に進むためだ、と本作のキモを話すひと。
 真琴の自転車とぶつかる。
次に、高瀬くん。
 真琴の失敗を全て被ることになり、いじめの対象となる。
次に、早川さん。
 高瀬が投げた消火器がぶつかり怪我をする。
そして、功介と後輩ちゃん。
 壊れた真琴の自転車に乗り、電車に轢かれる。

お約束やベタを綺麗にやる、ってのは難しい。
本作では、しっかりと、それをやれている。{/netabare}

【勝手に想像 ヤボだけど、演出や暗喩読み】
{netabare}合ってる間違ってるとかは知らない。
勝手に、そう思いました、読みました、受け取りました、って話。
内容が良いと、こういうのを読みたくなるよね。

河原ジャンプ前の部活ワッショイ
 真琴の心の戸惑いやざわめき。ただし、前向き。

河原で高笑い後のSEがヒグラシとカラス
 ループしまくりで調子に乗った真琴の状況が悪い方に向いていく。

分岐道路標識と「ここから」
 そのまま。シナリオとして大きな分岐点となる。

千昭告白時、3台の自転車が追い抜いていく
 今まで通りの3人では進んでいけない。

早川が千昭と話しているのを見かけた真琴を、騒ぎながら通り過ぎて行く大勢の生徒
 焦燥感。自分だけ置いてけぼり。

後輩ちゃんが功介のことを語る時の入道雲
 膨らんでいく功介に対する想像と恋心。

時間停止中の交差点で千昭と別れたら赤信号
 点滅信号のブザーは真琴の状況把握に要する時間。
 千昭と会えなくなることを完全に理解して赤信号。
 車の騒音は心のざわめき。

河原での千昭別れ時、2人乗りの自転車が追い抜いていく
 千昭と2人では進んでいけない。
 千昭告白時とのリンク。

河原での千昭別れ時の飛行機雲
 千昭が手の届かないところに行ってしまった。
 けれど、それは真っ直ぐに遠くまで伸びている。自分の将来への決意。

ラストに真琴が見上げる入道雲
 大きく、高く膨らんでいく、将来、夢、希望、理想。

白梅ニ椿菊図
 誰が書いたとか関係なく、見た人の心に残る作品を作りたい、
 という監督の希望。
 と、同時に、
 一人でもいいから、自分の作品を見た人の人生を狂わせてみたい、
 という監督の野望。
 シブリとか、宮崎とか、そんな看板どうでもいいんだよ!
 中身だろっ!
 と、までは言い過ぎか。
 時かけ以降のプロモーションが
 「○○、○○の細田守監督作品」
 とされてるのは、監督にとってはある種の皮肉?{/netabare}

【プロフェッショナル 仕事の流儀】
{netabare}”プロフェッショナル 仕事の流儀”
で細田監督が取り上げられた。
バケモノの子制作、密着300日。
「絵を描くアニメーションは自由に思われるかもしれないが、正解は1つしかない。
 そのたった1つの正解を求めて模索していく。」
12時間ぶっ通しで絵コンテを切る監督はそんなことを語っていた。
非常に興味深く、楽しい番組だった。

私は、細田監督のプライベートについて、1つ疑問に思っていることがあった。
それは、子供がいるのかどうか。
この番組中、自宅で子供に絵本を読み聞かせる細田監督が映っていた。
それを見て、
あぁ、なるほどね。
と、勝手に合点がいった。
細田監督の作品制作における姿勢が垣間見えた気がしたのだ。


時をかける少女
 様々な失敗をしても前を向いて進む姿勢と、フリーとなり制作作品にかける思いや決意

サマーウォーズ
 結婚と結婚において生まれた人との絆

おおかみこどもの雨と雪
 結婚生活で見えてきた子供を育てるという現実と母親の姿

バケモノの子(本編未見なので番組の内容解説より)
 子育ての中で見えてきた父親になるということと自分の父親への思い


こう見ると、監督自身の置かれた立場や状況が、素直に、作品に影響してる。

となると、次作が非常に難しそう。
作品制作への思いは、時かけで語っちゃった。
家族ネタは、サマウォで家族、雨雪で母子、バケモノで父子とやってきた。

俺、こんなに成功しちゃってるぜイエーイ!は作品にしにくい。番組中でも語ってた。
自分が描いてた理想と自分が置かれてしまった現状のギャップとその苦悩、みたいなものを描くと、内容が小難しくなり、万人向けエンターテイメントたり得なくなる。
それに、ジブリ宮崎の長編新作が無き今、小難しい内容は日テレ他が許さないだろう。
でも、ここらで一発、そんなん無視して、監督が抱えるドロドロをぶちまけちゃうような作品やって欲しいなぁ。

だけど、なんか、手堅く、原作アリで、感動的な恋愛モノをやりそうな予感、とか?{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 14

89.1 2 タイムリープで恋愛なアニメランキング2位
劇場版 STEINS;GATE 負荷領域のデジャヴ(アニメ映画)

2013年4月20日
★★★★★ 4.1 (2606)
13629人が棚に入れました
「狂気のマッドサイエンティスト」を自称し、いまだ厨二病をひきずる大学生・岡部倫太郎。秋葉原の片隅、「未来ガジェット研究所」で偶然、過去へと送信できるメール「Dメール」を発明してしまったことから、彼とその仲間たちは世界規模の大事件に巻き込まれることになる。

「シュタインズ・ゲート」は、タイムパラドックスにより引き起こされる悲劇と、それに立ち向かう仲間たちの絆を描く物語である。

声優・キャラクター
宮野真守、花澤香菜、関智一、今井麻美、後藤沙緒里、小林ゆう、桃井はるこ、田村ゆかり
ネタバレ

ようす さんの感想・評価

★★★★★ 4.1

大事な人がいなくなった世界。その世界を受け入れるのか、抗うのか。

STEINS;GATE劇場版。

6年ぐらい前に視聴してレビューも投稿していたのですが、STEINS;GATEのテレビシリーズを見直したのに合わせて、こちらの劇場版も久しぶりに視聴。

自分が過去に書いたレビューとだいぶ違った感想を抱いたので、こちらのレビューも書き直すことにしました。

テレビシリーズ第1作を見てからの視聴をおすすめします。

設定や登場人物たちがどのような道のりを経て、
現在に至っているかを知っている方が、
より楽しめると思います。

90分ほどの作品です。


● ストーリー
あの夏から1年後。

牧瀬紅莉栖(まきせ くりす)は、久しぶりに日本に帰ってきて、岡部倫太郎(おかべ りんたろう)達と再会した。

ラボでにぎやかに過ごし、
普段と変わらないと思っていた日常。

その中で岡部は様々な世界線の記憶の混濁に苦しんでいた。

そして、 {netabare} 世界と皆の記憶の中から岡部の存在 {/netabare}が、消えた。

何かが世界に足りないと感じた紅莉栖は、
過去へタイムリープすることを決意する。


最初の30分ほどは、ラボメンとの再会や、
おかりんの相変わらずの中二病っぷりを味わうw

こういう時間はおかりんがずっと欲しいと頑張ってきた成果だから、当たり前に思ってはいけませんね。

そしておかりんに起こる異変。
異変を感じ取り、行動する紅莉栖。

本編ではおかりん目線で物語が進行しましたが、
今回は紅莉栖目線の物語でした。

紅莉栖のおかりんへの想いとか、
ラボメンにとってのおかりんの存在とか、

いつもは中二病を冷たくあしらわれているけれど、
みんなに愛されているんだな~と感じられてよかったです。

おかりん優しくていいやつだからね。
みんなの輪の中心にいるのが似合っていると感じました^^

時間は90分でちょうどよかったです。
無駄もなく、かけ足にもならず。

本編ほどわくわくドキドキはしませんでしたが、
十分面白いと思いました^^


でも過去へ戻った紅莉栖の行動がいまいち解せない。
{netabare} なぜキスをする必要があったのか? {/netabare}

確かに強いインパクトではあるけれど、
あれ、事件でしょ?笑

映画公開時はどうだったかはわかりませんが、
現代だと大問題ですよww

下手したら悪い意味でのトラウマになってしまってもおかしくない…。
まあ、美人な女子大生が相手なら、誰にとってもご褒美になるのかしら?w


≪ デジャヴ ≫

作中で語られるデジャヴについての可能性。
別の世界線での記憶ではないかと。

でも私、これ本気で思うんですよね。

というのも、自分がよくデジャヴを感じるから。
デジャヴというか、予知夢に近い感じかな。

悪い夢を見て、
それと同じ場面が現実に起こるの。

「ああ、この後夢だとこうなるんだよね。」とその場では淡々とその場面を受け入れつつ、夢と同じことが起こらないようにただ祈る。

今まで夢の通りになったことはなく、
すべて悪いことは回避されています。

それこそ、別の未来を歩み出したみたいに。

これって、本当にただの記憶のバグなのかしら。それとも偶然?
どうも納得いかないんだよなー。

皆さんにもこんなことありませんか?

誰かとそんな話したことないけど、
私だけが感じていることじゃないと思うのよね。


● キャラクター
キャラがいいですね。

再会シーンや、みんなでにぎやかに過ごす様子を見ていて、改めて思いました^^

ツンデレ紅莉栖の可愛さや、
ロリおかりんの可愛さにやられてました(*´Д`)

ロリおかりんがイケメンでびっくりしたw
なぜ道を誤った…もったいない…。笑


● 音楽
【 主題歌「あなたの選んだこの時を」/ いとうかなこ 】

1期のOPもよかったですが、
こちらもかっこいい♪

1期のOPとは違う曲なのにシュタゲらしいと言うか、
よく合っています。お気に入り^^


【 ED「いつもこの場所で」/ 彩音 】

この曲もよかったな~。

最後に流れる曲として、余韻もばっちり^^


● まとめ
たぶん世界のどこかでタイムマシンの研究は行われていると思いますが、果たして本当に必要なものなのか。

それを考えるきっかけにもなりました。

過去はやり直せないからこそ、
人は前を向いて歩いていける。

でももし過去をやり直せるとしたら…難しいテーマです。

1期と比べるとドキドキ感は物足りなかったですが、
十分満足できる面白さでした。

ラブラブ感は増してましたね(・∀・)ニヤニヤ

ただいちゃちゃするだけじゃなくて、
いいパートナーだというのを感じさせてくれたのがよかったです^^

投稿 : 2024/11/02
♥ : 40

かおーん さんの感想・評価

★★★★★ 4.8

劇場版の前に小説読んだのは不運か幸運か

---視聴前---
原作ゲームもやってません。普段アニメみない自分が、室内で自転車こぎながらハァハァ(心拍的に)しながらみてアニメにはまったのがこの本編。面白すぎたこの作品の続編なら見なくては!と思ってるのですが。

子育て忙しく映画館に行けないので、12月3日のDVD発売を待とうと思ったんですが、楽天ポイントが余ってたのでkoboで小説上下巻を買ってみました。

アニメ25話(未放送?)から小説はスタートします。映画は、25話は含まれないようです。ので、25話を見てから映画を観たほうがよいでしょう。

えと、小説の内容のほうはひどいです。クドい。わかりにくい時系列を説明しようとしてなのか、、、またその解説かよ、お前は進撃の巨人のオープニングか?みたいなループを感じます。そして、文章が致命的に下手。文体にキレもなければ明瞭さもないので感情も緊迫感も、登場人物の愛らしさもなにも伝わらないという駄作。

本編では映像だけで楽しめた、あのブラウン管工房、ドクペの群れ、夏のうだつような暑さのなかに回る扇風機、妙に美味そうな牛丼、きらびやかなメイドカフェに輝くコス。
こういったものが、文章でまるで再現出来てない。というより風景描写や心理描写等の基本的な技術が抜けてる。

メイドカフェ2号店はどんな感じなのよ?
助手のタイムリープ、どんな顔してんの?それは好奇心?それとも意地?
岡部の苦しみを理解して、自分も苦しむ描写が薄いくて解らなくね?
科学者の意地と、女である自分。その表現ってもうすこし掘り下げないとじゃね?

この作者はもうすこし他人の文章を読んだ方が良いですね。

このおかげで、本編で上げられまくったハードルがガッツリ下がったので、DVDがより楽しめそうです。そういう意味で、小説から入るには意味があるかも。

「私は小説を読んだが、読んでいなかったと観測させろ。あのとき読んだ、あの本は、設定本なのだ。自分を騙せ。世界を、騙せ!」
と努力中。

映像視聴後に再度編集予定

---視聴後---
いや、まじで。小説版を先に読まない方がいいです。2ch開いてたらネタバレみちまったよチクショウ的な感じが・・・。
小説版を読んでいないと自分を思い込ませ、内容忘れた世界線に移動したつもりだったんですが、リーディングシュタイナーが邪魔をしてくれる・・・。

が、それでも楽しめました。
さすが劇場版、作画は最高です。キレイな映像で楽しめます。
この作品と、「はたらく魔王さま!」が並行作業だったとは・・・恐れ入ります、WhiteFox。

声優さんもスバラシイ。小説版ではイマイチ(いや、まったく)伝わらないクリスの感情がビシビシ来ます。アニメ制作側に愛された作品ですね!
TV版22話、勝利宣言前のタイムリープ、クリスが部屋に駆け込んでくるところに重ねてるんですねー。こういうところが小説だとまったくわからんw

今回の主役はオカリンではなく、クリスです。
岡部の追い求めたシュタインズゲート世界線を尊重し、過去改変は行わないと決める、科学者としてのクリス。岡部と共に生きていきたい乙女としてのクリス、その葛藤。そして彼女が選ぶ「選択」とは。

小説のほうが、未来でオバサンになったクリスと、バイト戦士の関係がどうだったのか、クリスオバサン騙して、命がけでタイムマシン使って、乙女クリスの願いを叶えようとした鈴羽の思いとかが書かれています。

小説版では、タイムリープ前に鈴羽が来たことの理由として、ずっと先の未来、クリスもダルも40歳だっけか?そのくらいになって、急にオカリンのことを思い出した、それでタイムマシンを作った。と説明されています。クリスはその年になって急に思い出した岡部を、やはり大切な人、なぜ忘れていたのかと思い悩み、タイムマシンを作り、封印する。それを見てられなかった鈴羽は、、、。


シュタインズゲートは最高傑作ですね。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 16

Ka-ZZ(★) さんの感想・評価

★★★★★ 4.5

いくつもの世界線を越えてきた彼らの物語は、ついに劇場へと収束する…

この物語は、本編トゥルーエンドの"その後"に起こる事件が描かれています。
まゆしーが死なず、紅莉栖が生きているこの世界…
たった一つの答えに辿り着くまで、岡部は幾度となくタイムリープを繰り返してきました。
タイムリープする度に精神的負荷が身体を蝕み、心がボロボロに引き裂かれながらも正解への歩みを止めなかった狂気のマッドサイエンティスト…

未来に起こるであろう最悪を回避し、みんな一同に集える世界線…
岡部が願ってやまなかった幸せな時間が過ぎている…
あの事件から1年後の世界が今回の物語の舞台です。

そんな中、アメリカの研究所から紅莉栖が1年振りに戻ってくるところから物語が始まります。
久々の再開…岡部も紅莉栖も嬉しくない筈がありません。
それなのに顔を見るなり言い合いが始まるんです。
全く…お互い素直じゃないところは相変わらずですね。

そんな中、突如、過去の記憶がフラッシュバックする「変調」が訪れます。
でも、最初は変調だと気付きませんでした。
何故なら、その様な光景は本編でも度々見かけたからです。
だからその変調は、これまでと一緒で暫くすれば元通りになると思っていました。
ですが、事の重大さを知るまでに多くの時間は必要ありませんでした。

次の瞬間、広がっていたのは違和感だらけの世界…
いつもと変わらない日常…ただし、大切なモノがごっそり抜け落ちていることに誰一人気付かず、元から何も無かったことになってしまった世界…
手に入れるために必死に足掻いた結果が代償と烙印を押された世界…
今回そんないびつな世界で一人奮闘するのは、牧瀬紅莉栖です。

元々の存在を無かったことにする…
世界線が移動したのなら可能性がゼロではないのかもしれません。
でも人の記憶って不思議…
ひょんなことから、これまで欠落していた記憶を呼び起こすことだってあるんです。
紅莉栖の場合は、マイフォークでしたけれど…

そんな世界でも強く生きる…
意志を強くもって紅莉栖は日々を過ごしてきました。
でも、川の流れのように流されて今に行き着いた訳ではありません。
固く禁じられていた過去改変まで行って現状を打破しようと懸命に足掻きました。
それでも、事態を収束できないばかりか、過去改変による精神的負荷が半端ないことを身をもって思い知らされるんです。

自分の大切を守りたくて…取り戻したいから過去に行くのに、目の前で起こるのは自分が一番見たくない惨劇の光景…
自分の無力さを思い知らされて…心がポッキリ折れない筈がありません。

それでも一歩踏み出す…
そのきっかけをくれたのは、ラボメンのデジャヴという名の優しさでした。
だって、あれだけずっと一緒だったんです。
元から無かったことになんて絶対できないんです。

紅莉栖は本懐を遂げることができるのか…
気になる方は是非本編でご確認頂ければと思います。

元々嫌いじゃありませんでしたが、この劇場版で紅莉栖に対する株は右肩上がりです。
天才と言われるだけあって、普段はあまり取り乱したりしない彼女…
唯一表情を変えるとすると、彼女の琴線に触れた時に発動するツンデレ成分くらい…
でもこの劇場版ではこれまで見てきたどの作品より人間らしさ…彼女の本気を感じることができます。
そして最後の台詞の「やだ。」はトドメの一撃…
これで彼女に色々持っていかれた気がします。

主題歌は、いとうかなこさんの「あなたの選んだこの時を」
エンディングテーマは、彩音さんの「いつもこの場所で」
どちらもメチャクチャ格好良い楽曲です。
志倉千代丸さんの作る曲は私好み…ということが最近分かってきました。

上映時間89分ですが、時間を感じさせない濃密な内容に作品に仕上がっていると思います。
私にとってゼロの視聴に弾みを付けてくれた作品であると共に、視聴して良かった…と本気で思えた作品でした。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 26

72.5 3 タイムリープで恋愛なアニメランキング3位
HELLO WORLD(アニメ映画)

2019年9月20日
★★★★☆ 3.7 (225)
1023人が棚に入れました
京都に暮らす内気な男子高校生・直実(北村匠海)の前に、10年後の未来から来た自分を名乗る青年・ナオミ(松坂桃李)が突然現れる。ナオミによれば、同級生の瑠璃(浜辺美波)は直実と結ばれるが、その後事故によって命を落としてしまうと言う。「頼む、力を貸してくれ。」彼女を救う為、大人になった自分自身を「先生」と呼ぶ、奇妙なバディが誕生する。「頼む、力を貸してくれ。」彼女を救う為、大人になった自分自身を「先生」と呼ぶ、奇妙なバディが誕生する。

声優・キャラクター
北村匠海、松坂桃李、浜辺美波、福原遥、寿美菜子、釘宮理恵、子安武人
ネタバレ

ぽ~か~ふぇいす さんの感想・評価

★★★★★ 4.1

この世界はラスト1秒でひっくり返る

まぁこういうキャッチコピーがついた作品には
いつも痛い目に遭ってばかりなので
相当身構えた状態で観に行きました

そもそも原作・脚本が野崎まど
という時点で大どんでん返しがあるのはわかりきってるわけで
ただそれが「正解するカド」の時のように
悪い方向にひっくり返る可能性も少なくない
というのが事前の予想

野崎まどはデビュー作【映】の頃から注目していたアーティストではありますが
もともとホームランか三振かみたいな作家さんです
それがアニメという一人では作れないプラットホームにやってきて
他のスタッフの仕事を生かすも殺すも彼次第になり
いわば満塁ホームランかトリプルプレーかみたいな
よりリスキーな状態になったという認識
そして第一打席であった「正解するカド」は
味方の援護も微妙なところだったので
ランナー無しからの空振り三振といったところ

続く第二打席がこの作品
キャラクターデザインに堀口由紀子
監督はSAOの伊藤智彦
人気の高いクリエーターと組んで失敗に終われば
これはもう野崎まどが戦犯だと言われても
擁護のしようがないでしょう

そこにきてこのキャッチコピーです
ラストのどんでん返しが売り
というよりも他に見どころがない
そんな印象を受けるキャッチコピーです
これは四分六で併殺コースかなぁと
なかばあきらめモードで観に行きました

結論から言うと
ラストの部分を除いても
骨太のSF作品としてきっちり成立していた上
ラスト1秒・・・は言い過ぎにしても
ラスト1シーンで世界は見事にひっくり返りました

この鮮やかなラストは
野崎まどの本領発揮
最後の最後で見事な逆転劇
まさに逆転サヨナラ満塁ホームランといったところ

ただし、SF作品としてのストーリーの秀逸さは文句なしですが
それを一本の映画作品に収める際の尺のバランスに関しては
冗長な部分と駆け足の部分両方が存在したので
そのあたりを加味してストーリーは4.5としました

ストーリー以外の部分として
タレントキャストの男性陣は悪くなかったと思います
メインヒロインがだいぶ棒気味ですが
彼女自身の設定が若干コミュ障気味なので
あれはあれで悪くない気がしました
演技力の低いタレントキャストでも
使いようによってはどうにでもなるということですね

もっとも一流のプロ声優にかかれば
ほとんど言葉をしゃべれないようなキャラでさえ
非常に魅力的に演じられるということを
ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝で
悠木碧が見事に証明してくれたのに比べると
あくまでタレントキャストのダメージを軽減することに成功しただけで
決してプラス評価できるような演技ではありませんね

映像面は堀口キャラの愛くるしさはとてもよく表現できていたと思います
ときどき挟まれるコミカルなデフォルメ顔も嫌いじゃないです
アクションシーンの迫力もまぁ及第点かなというくらいではあったのですが
中盤以降警戒色の昆虫みたいな色合いのキャラというかエフェクトが増えて
非常に目が疲れるアニメーションだったのは
ちょっとマイナスポイントでした

音楽は全体的に悪くないですが
作品の雰囲気に合ってるか?
というのが若干微妙な気がしなくもないです

作品全体としては全てが完璧とは言い難いですが
緻密なSF考証とあっと驚く展開が売りの野崎まど作品が
アニメ作品として十分に魅力的なものにできることが証明された
ということが非常にうれしいですね
今後もきっと素晴らしいSFアニメとトンデモ落ちの怪作を作ってくれるだろうと期待しています

ちなみにスピンオフのANOTHERWORLD
というWebアニメ(全3話)が
HPで有料公開されており
ひかりTVかdTVに加入で観れるようです
dTVじゃなくてdアニメにしてくれよ!
といいたいところですが
逆にdTVの無料お試しに温存の価値はあまり感じないのであれば
無料お試し期間を使って観るのもありかもしれません
ただし視聴可能期間が結構短いので注意してください

おまけ(SF考証)ネタバレあり
{netabare}
今回の作品のもとになったネタは一昔前に少し流行った哲学論争
野崎まどは頻繁にこの手のものをネタに作品を書いています

「猿がタイプライターの鍵盤をランダムに叩きつづければ
いつかはウィリアム・シェイクスピアの作品を打ち出す」
という無限の猿理論をモチーフに
AIによる小説作成に切り込んでいった
「小説家の作り方」
なんかは元ネタがわかりやすいですねw

さて本作の主人公である堅書直実は
量子コンピュータによって過去の京都を再現した
シミュレーターの中のデータです
そしてその外から来た「先生」によって
自分が仮想世界の中のデータであることを知らされ
クラスメイトの一行瑠璃を救うために共闘します
そしてその「先生」のいた世界もまたシミュレーターで
シミュレーターを使って一行さんを助けようしていた「先生」は
シミュレーターを使って一行さんに助けられる側だった
というオチで終わりました

このシミュレーテッド・リアリティの中のシミュレーテッドリアリティ
という発想はシミュレーション仮説を意識してると考えて間違いないでしょう
シミュレーション仮説は哲学者ニック・ボストロムの提唱した一種の思考実験です

今から何百年後何千年後あるいは何億何兆年後
科学技術が発達していけばいつかは本物と見分けのつかないような
「世界」そのもののシミュレーターを作ることができるようになるのではないか?

そのシミュレーターの中では
人々が自分の世界は現実だと疑わずに生活している
そしてその仮想世界の住人達もいつかは
「世界シミュレーター」を作り出す
シミュレーターの中のシミュレーターもまた世界シミュレーターを作り出し・・・
という具合に無数の「世界」が生み出されていくことになるのではないか?

ここから導き出される結論は次のどちらかです

A人類は世界シミュレーターを生み出せるだけの科学力を手に入れる前に滅亡する

B人類は世界シミュレーターを作り出し、その中に無数の仮想「世界」が作り出される
無数にある仮想「世界」の中にオリジナルの世界はたった一つ
我々の生きている世界がオリジナルである可能性は限りなく低く
我々はほぼ確実にシミュレーターのデータに過ぎない

これは物語の中の話ではありません
今これを読んでいるあなた自身が
シミュレーターのデータである可能性を示唆しているのです

Bが正しい場合
私たちの世界がシミュレーターであるはずがないと信じるのは
きわめて分の悪い賭けであり
自分たちがオリジナルである根拠はまったくありません

Aが正しい場合
実はこれですら自分たちがシミュレーションデータでないことが確約されるかというと
そうとも言い切れない部分があります

例えばこの宇宙が宇宙の外にいる人知を超越した何かが作り出したシミュレーターであるという可能性
そしてその発想を膨らませて作られた作品が「正解するカド」だった
と考えるといろいろ納得がいくのではないでしょうか?

あるいはちょうどこの話が流行った頃に作られた映画「マトリックス」では
コンピューターの反乱によって人類は眠らされ
仮想世界の中で偽りの人生を送っていた主人公ネオが
外の世界からのメッセージを受信し
自分が仮想世界の中にいることに気が付き目覚めるところから始まります

人類以外の存在が仮想世界を作り出し
その中に人類が生きているという構造は
仮想世界の中の人類が世界シミュレーターを作れなくとも
そこが仮想世界である可能性は否定できないという反証になります

さて実際のところ我々のいる世界はシミュレーターなのでしょうか?
シミュレーターという概念自体はとても現代的ですが
似たようなことを考えた哲学者は古代にもいました

今からおよそ2000年前荘子は次のように残しています

以前のこと、わたし荘周は夢の中で胡蝶となった。
喜々として胡蝶になりきっていた。
自分でも楽しくて心ゆくばかりにひらひらと舞っていた。
荘周であることは全く念頭になかった。
はっと目が覚めると、これはしたり、荘周ではないか。
ところで、荘周である私が夢の中で胡蝶となったのか、
自分は実は胡蝶であって、いま夢を見て荘周となっているのか、
いずれが本当か私にはわからない。
荘周と胡蝶とには確かに、形の上では区別があるはずだ。
しかし主体としての自分には変わりは無く、これが物の変化というものである。

シミュレーション仮説は
自分は現実の人間だ!シミュレーターのデータであるはずがない!
という先入観から来る根拠のない思い込みを打ち砕くものですが
この考え方が議論を呼んだ背景には
自分がただのデータに過ぎないという可能性に
本能的に抵抗感を抱く人が多かったことがあげられます

シミュレーション仮説に強く抵抗する人は
もしも自分がただのシミュレーションデータに過ぎないならば
そんな偽りの人生に価値はないと考えるようです

しかし、映画マトリックスでネオと一緒に仮想世界から目覚めた男は
人類がすでに滅亡しかけているという事実を知らされ
「こんなことなら起こさないでくれればよかった」
と嘆きます

「先生」に直実は自分がシミュレーターのデータであると知らされますが
それをほとんど驚くこともなく受け入れています
これは彼がSF好きであるということから
「先生」に出会う前に既にシミュレーション仮説に触れたことがあり
自分自身がデータである可能性を自分なりに消化していたのでしょう

荘子もまた自分が本当は蝶であり
今ちょうど人になる夢を見ているのかもしれない
という可能性を否定しませんでした
あるがままを無為自然に受け入れるというのは
荘子の思想の中心となる考え方です

もしかしたら我々の住む世界は本当にシミュレーターのデータなのかもしれません
しかし、直実やネオのように外の世界の干渉を受ける可能性はほぼ0で
ここが現実世界なのかシミュレーターの中なのか
一生わからないまま生を終えることになるでしょう

たとえこの世界がシミュレーションだったとしても
その世界から出ないで生きていく限り
現実であろうとシミュレーションであろうと
何一つ変わりはないわけです
荘子の言葉を借りれば
主体としての自分に変わりはないのです

となれば本当に大切なのはこの世界がシミュレーターなのかどうかではなく
そこで幸せに生きているかどうかではないでしょうか?
{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 15

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★★ 4.1

仮想世界に魂の洗練を託す……挑戦的な3DCG映画

【物語 4.0点】
青春ボーイミーツガール、時間差を盛り込んだSF設定、ヤマ場でMV風演出……。

同時期、乱立したアニメ映画企画群の中でも、
本作はSFとして情報量多し。

現実に匹敵する仮想世界を観察するこの世界もまた仮想世界で……。
という入れ子構造を生かしたシナリオはSFとして刺激的。

俳優や音楽目当ての一般層よりも、
歯ごたえのあるSF設定も楽しみたいマニア向け。


『SAO-オーディナルスケール-』までの監督・伊藤 智彦氏が
引き続きVRMMO物をやりたいと始めた企画なので
『SAO』をテーマを咀嚼して体験したような方なら付いていける。

他にもSF関連や、
プログラム入門者が最初に紹介される例題から借りたというタイトル名、
PCゲーム『平安京エイリアン』みたいな惨状(笑)とか、ネタ多し。


これを既視感と断じるのは簡単だが、
私の場合、既視のSF設定等を当てにしないと理解仕切れなかったのも事実(苦笑)

なのでここはオマージュとして好評します。


脚本は野崎 まど氏。“脚本テロ”による奈落突き落とし等を警戒される方もいると思いますがw
むしろ昨年、私が劇場鑑賞したアニメ映画の中でも、本作の余韻の良さは屈指でした。


一方で解釈しきれない謎も残される。

本作にはBD特別盤同梱or一部配信サイト限定で、
大人・ナオミ視点で綴られた短編アナザーストーリー『ANOTHER WORLD』もありますが、
それで補完し切れない点もあり、鑑賞者の想像に委ねられる。


【作画 4.5点】
果敢なセル画寄りの3DCG作画。

群衆やアクションに長があるCGの力をしっかり濫用する一方、
意外に日常ラブコメシーンも多い本作。

CGが不得手な萌えやコミカルも提供しようと、
制作に「フェイシャル・スーパーバイザー」なる顔面チェック担当のポジションを設置。
さらに勝負所ではキャラクターデザインの堀口 悠紀子氏自らが原画を担当するなど、
人物の表情に不自然さが生じないよう尽力。
成果は赤面するヒロイン等に確実に現われている。

ただ、それでも私はラブコメは手描きの方が好きですがw
けれど本作の挑戦は評価したいです。


日本有数の計画都市である京都。
碁盤状の古都に近未来の仮想世界が重なり、現実をひっくり返す描写はダイナミック。

私のツボ:見下し視点で描かれた、
区画ごとマス目を動かしてピンチ脱出を図る想像力爆発シーン。


【キャラ 4.0点】
ヒロインの一行さん。感情希薄な図書委員。ツンデレ成分配合。
彼女に萌えるかどうかが特に前半日常パートを楽しめるか退屈するかの分かれ目。

萌えキャラとしては標準的な属性の一行さんだが、
文化系でも意外と強気で頑固な性格がツンとして消費されるだけに終わらず、
濃厚なSFシナリオの中でしっかりと回収されるのが評価ポイント。

私の中で、一行さんは萌えキャラでもあり、ある種の燃えキャラでもあるのです。
さあ、「やってやりましょう」


多分に生き方を問われるシナリオ構成の中で、
主人公少年・直実と外部世界から来た大人・ナオミが、
世界との関わり方を通じたキャラ立ちにより、
テーマを深化させているのも〇。


【声優 3.5点】
直実 CV.北村 匠海さん。ナオミ CV.松坂 桃李さん。ヒロイン CV.浜辺 美波さん。

実力も人気もあり、かつアニメへの理解もある若手俳優陣でメインを固める。


ただ、この役者さんたちの演技力を引き出したかと言うと、
私はもっとやってやれた感じもします。

映像にしても状況理解に想像力が求められる本作にて、
アフレコ(映像に合わせて収録)ではなくプレスコ(声を収録してから映像)で、
台本だけで、SF設定が絡む場面を思い浮かべながら声を提供する
というのは俳優陣にとってはかなりハードルが高かったのかもしれません。


大人・ナオミ役も声は合っていましたが、
一方で、上記の『ANOTHER WORLD』では声優・松岡 禎丞さんが大学時代を演じていて、
正直、本編も松岡さんで良かったじゃんと言う気持ちが抑えられませんw


脇を固めた声優陣はプレスコでも盤石。



【音楽 4.0点】
気鋭。

OKAMOTO`Sらが若手アーティストらを束ねたチーム「2027Sound」が、
多彩な劇伴&楽曲を提供。
Official髭男dism「イエスタデイ」、OKAMOTO`S「新世界」といった主題歌は、
キャッチーなメロディがBGMとしても再三アレンジされ、堅いSFの大衆化を試みる。

……の割には興収……伸びなかったな……(遠い目)


【感想】
仮想現実がリアルに追い付き追い越した時、何が起こるのか?

『SAO』や他のSF関連でも再三問われて来たテーマに改めて挑んだ本作。
これらの作品群に通底するのは、
魂の虚実が問題なのではない。リアルでもバーチャルでも邪悪な意志はある。
バーチャルを見下し悪用しようとする人間もいる。
そんな中でも、善き魂が残り、新しい世界の道しるべになって欲しい。
こうした近未来に向けた願いなのだと思います。

この春にラストシーズンを迎える
『SAO』のテーマを受け止めるためのお供にもオススメしたい、
良作SF映画です♪

※初回投稿4/10

【追記】
……と思っていたら、『SAO』も新型コロナの影響で放送延期に……。
厳しい春ですね……。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 34
ネタバレ

きつねりす さんの感想・評価

★★★★☆ 3.6

SF・考察好きにはおススメの一本。

かなり前から自分の中で期待度の高い作品だったので無事に劇場で見られたことで満足、しかしそれ以上に話を理解するのに時間がかかった・・・というのが率直な感想です。結構頭を使う作品だと思います。
こういった作品は原作を読めば結構すんなりと理解できることが多いのですが、敢えてそれを映画という媒体だけで考えてみるのも面白い。そして答え合わせとして原作を読んで・・・という風にメディアミックスの沼に落ちるのもまた一興かと。

以下ネタバレ。

{netabare}

端的に言うと「大切な人のために過去を改変する話」なんですが、この話の時間軸が色々とズレているせいでなかなか理解が難しくなっているように感じました。

事故が原因で脳死状態になった恋人を目覚めさせるために、その事件が起きないよう過去へ戻って過去の自分と共にやり直す主人公、過去の自分が事故を防いだのを見届けるや未来の世界へと恋人の存在を連れ帰り、現実世界で脳死状態から目を覚ます恋人。

しかしその現実と思っている「恋人が目覚めた世界」も本当の現実ではなく「記録された世界」だった・・・という二重構造が話をややこしくしていると思います。

「結局のところ脳死しているのは主人公であり、その眠りから目覚めさせたのは本来主人公が救おうとしていた恋人である」というラストを迎えるのが本当に作品の残り1分くらいなので、エンドロールを見ながらポカーンと見ているばかりになってしまいましたが、後々つじつまを考えると先に挙げたような頭の整理ができるようになりました。

このからくりに気付く一番のヒントは「改変した過去を正史へと修復させる」狐面の存在があることではないかと思います。現実には干渉してこないはずの狐面が一行さんを無いものにしようとすることで主人公が「これもまた過去である」ということに気付く、それを見て見ている側もここが現実世界ではないと気付くという仕掛け、見事だと思います。言葉にするとややこしいですけど。
後は最後のシーンで他の星(おそらく月?)から地球を望むようなカットが入ること。ここで「地球での生活は終わり、他の星での生活が主となった」、つまりストーリーの大半で現実のように扱われている「地球生活を営む2037年」よりも「主人公が目覚めた世界」が未来の話であるということが
推測できました。

身体という「器」に「宿るべき精神」が到達したときに目覚めるという現象に持っていくため、主人公を過去へ行くように差し向け、記憶の世界で成長させ、「新しい世界への到達」=「健全な精神の完成」に至ったことで精神と器が合わさり目覚める。
・・・この三重になった世界がなかなか理解できなかったですが、分かると気持ちいい!
というわけでかなり見終わった後の満足感はあります!

ストーリー理解でかなりカロリーを割いたので他のアプローチについては端的に。

作画:3Dをメインとしていましたが、印象的なシーンは手書きの細かさが見られて完成度も高かったです。特にラストは手書きで描かれていて、CGメインの虚構と手書きの現実という文字通りの描き分けがされていて後から「ストーリーとリンクしていて凄い!」と感心しました。

声優:浜辺美波さん、声だけの出演だと少し物足りなく感じました。やはり見た目も含めた演技あっての人だな、と。でも目が覚めた時の演技は抜群に良かった!

音楽:凄く音楽を売りにしていたわりに後ろ目な印象。髭男の挿入歌も随分と切り取られていたし・・・サントラとしては完成度高いけど、「もっと聞きたい!」ってなるかというとそうでもないような気がします。

キャラ:ほぼ3人で回している、そんな中やはり目立つ描かれ方をしている勘解由小路さんの存在は大きい!でもそこはスピンオフで描かれるだけで映画本編では描かれないので・・・残念。小説はとりあえずチェックしようと思います。

{/netabare}

もう少し人気出ても良かったな~と思いますが、説明したりするのが難しいので若干広がりにくいかな、とも思いました。その複雑さも含めて、考察好きには是非見てほしい一本だと思いました。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 7

71.3 4 タイムリープで恋愛なアニメランキング4位
夏へのトンネル、さよならの出口(アニメ映画)

2022年9月9日
★★★★☆ 3.7 (93)
346人が棚に入れました
あの日の君に会いに行く。

ウラシマトンネル――そのトンネルに入ったら、欲しいものがなんでも手に入る。
ただし、それと引き換えに……

掴みどころがない性格のように見えて過去の事故を心の傷として抱える塔野カオルと、芯の通った態度の裏で自身の持つ理想像との違いに悩む花城あんず。ふたりは不思議なトンネルを調査し欲しいものを手に入れるために協力関係を結ぶ。

これは、とある片田舎で起こる郷愁と疾走の、忘れられないひと夏の物語。

テナ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.8

青春の共同戦線~ビニール傘をかして返してもらうまでの時間~

この作品は私が、ずっと楽しみにしてた作品の1つです。
原作を知ってる訳でもありません。
私はよくアニメ映画を見にくのですが、その中に必ずある映画告知でよく流れていたからです。
その時に、面白そうと感じたのが「夏へのトンネルさよならの出口」です。

2022年10月も凄く気になる作品がありますが、見に行きたいなぁ(*´˘`*)ニコッ
見たらきっとレビュー書いてると思います。




さて、私がこの作品に感じた事を書いていきます。
物語は、ウラシマトンネルと言う外と中では時間の流れが違うトンネルを発見する。
そのトンネルを潜ると欲しい物が何でも手に入る。
その対価として100年歳をとる。

そんな都市伝説的なトンネル発見した主人公とヒロインはお互いの願いの為にトンネルを攻略する共同戦線を張る!


主人公 カオル

彼の願いは「妹を取り戻す事」
妹のカレンは優しい女の子でした。
彼女は人の幸せを心から願える女の子です。
彼女の夢は「人が幸せになる世界にする事」
この幼い年齢でこの願いは凄いw

この歳だと、普通に可愛いぬいぐるみとか、欲しいゲームとか、願いませんか?
自分が恥ずかしくなるww

主人公のカオルの願いは「カブトムシが欲しい」コレコレ!コレが子供の夢よww

ある日、兄妹喧嘩をしてしまいます。
カオルは妹に「大嫌い」と言われて「大嫌い」と返して家を出ます。
妹はすぐに「嘘!大好き!いってらっしゃい!」と返すのですが、兄はそれも無視します。

彼が帰ると妹は木から落ちて事故死してました。
兄と仲直りしようとして兄の欲しいカブトムシを取りに行ったから起きた事故でした。

うん、これって結構キツいよね。
喧嘩なんて当然します……
でも、喧嘩をして永遠に会えなくなるのは……
私も似た経験あって中学生の時の思春期におばあちゃんと喧嘩しました。
その後、数日後におばあちゃんは亡くなってしまいました。

二度と謝る事もなく一緒に暮らしてる訳でも無かったので、それから言葉も交わさずに……
今でも心残りです。
だから、カオルの気持ちって凄く解ります。

彼が妹を生き返らせたいってのも凄く解る。
正直、多分、ずっと心残りになると思う。
いつになっても、「あの時なぁ〜」ってなります。

それに彼は妹が自分と仲直りしようとしての事なら尚更……
何を犠牲にしても叶えたい願いだと思いました。



アンズ

彼女の願いは「特別な才能が欲しい」
彼女のお爺さんは、漫画家でした。
しかし、売れる事もなく借金してまでも漫画を描き続けた。

そんなアンズも漫画を書く楽しさをお爺さんから教えて貰って彼女も漫画家になりたいと願うも踏み出せないでいました。

父に「お爺さんと同じになるつもりか!」と原稿をビリビリに破かれたそうです。
だから、彼女は漫画家になりたかった。
お爺さんを反面教師扱いする両親を見返したかった。

でも、自分の漫画は、どうしても普通にしか見えなかった。
出版社に持ち込んでもダメだと思い込んでしまう。

でも、自分も何か残したいと考えていました。
それが、彼女にとっては漫画でした。

実は私は彼女に凄く共感出来ました。
私も産まれて来たからには「世の中に何かを残したい」と思ってしまいます。
せっかく産まれてきたのですから私が私個人が生きていた証を……

で、私が他にも共感出来たのは自分の作品を自分の線引きで出版社に持ち込めないって点です。
自分の作品は普通だから……勿論書くがわからすれば面白いから書いてるけど、世の中には更に面白い漫画は沢山ある……だからこのレベルではダメだと……

実は、私も物語を書いていました。
今は書いてませんが……当時は、文庫本作家になってみたいなぁ〜とw
電撃大賞とかに出したいなぁ〜と思って書き上げたりしてましたが、結局は私も同じ理由で足踏みしてました。
文才も言葉も拙いのでw

結局、彼女は最後に編集に持ち込むので私なんかとは全然違うのですけどねw
で、アンズと私って多分、そんなに年齢変わらないです。
2005年になってたから1つか2つ先輩かな?
でも、同年代の子だと考えたら凄いなぁーって本当に思いますね。


だから、彼女の気持ちって色々共感出来ちゃいました。


ウラシマトンネル攻略 8月2日

攻略前日……アンズから自分の漫画を出版社に持ち込んだら気に入って貰えたそうなんです。
担当さんが付いて一緒に漫画を作りませんか?と提案されたのだと。

相談されたカオルは攻略の延期を持ちかけます。
それはウラシマトンネルの中と外では時間の流れが違うので数時間で数年経つ……すると多分、この漫画家への道は失われる……

しかし、カオルは1人でウラシマトンネルへ行きます。
アンズが気付いた頃には手遅れでした。

カオルのした事って正しくはあると思います。
共同戦線だからって最後まで付き合う必要はないし、トンネルは願いを叶えるのではなく、失った物を取り戻すトンネルだからです。
つまり彼女の才能は手に入らない。
それなら、尚のこと自分で掴んだ才能とチャンスを手放してまで一緒に来る必要はないのです。


でも、カオルはその反面考えが足りなかった。
アンズが自分の漫画が気に入られた時に相談したのは一緒に考えたかったのだと思います。

2人で共同戦線を辞めて2人で共に過ごす時間と、一緒にウラシマトンネルで妹のカレンを取り戻して3人で過ごす時間

その為なら、全てを投げ出してでも一緒に居たかった。
彼女は恋をしていたのです。

特別な才能が欲しかった彼女は、今はカオル特別な存在になりたかったのでしょうね……

でも、彼の決意は硬かった。
カレンダーを8月2日から破り捨ててました。
それは、それから先の時間は彼にはないからです。
更にはメールも全て消して、携帯も捨てて……
だから、決意の強さが伝わりました。


カオルは妹に再会します。
妹と兄の失われた時間。
カオルも子供になってました。
つまり時間が戻ったのです。

妹は自分が捕まえたカブトムシを兄にプレゼントします。
あの日、兄と仲良くする為に捕まえようとしたカブトムシ。

2人は幸せそうに話をする。
けど、カオルは気づく。鏡に映る自分の姿は高校生である事に……

そこに捨てたはずの携帯がメールの着信音を鳴らします。
そこには消したメールが全て復活してました。

ウラシマトンネルは無くした物を取り戻すトンネルですが、これでは言葉足らずです。

ウラシマトンネルは大切な物を取り戻すトンネルってのが正確だと思います。

過去の時間に戻ったって事は、元の時間の世界の大切な物を失ったと言う意味です。
だから、携帯もメールも戻った……そして自分の気持ちも。

妹も大事だけど妹と同じくらい好きな人……

実はカオルとアンズの2人はトンネルの外から中へのメールは届かないと実験していました。
しかし、今はメールが届いた。
それは、アンズの時間軸から無駄だ……届かない……そう知ってても送らずにないられなかったメール

経過する時間の中、アンズが送り続けたメール。
そのメールは、カオルが失った時間に送られたメールです。
だから、失った物としてトンネルを通じて彼に届いた。

彼は現実世界に戻るために走り出す!
カレンは知っていたのかもしれません。
兄が別の時間軸の兄だと……だから背中を押した。

カレン「大好きだよ!いってらっしゃい!」
自分に囚われてないで、気にしないでって彼女なりの優しさで。
喧嘩した時に本当に言いたかった言葉を添えて。

彼女の願いはなんだったけ?
「人が幸せになる世界にする事」
彼女が生きた時間のアンズは、引きずってる……カオルの事を……夢を叶えて連載を持っても彼女は笑えなかった……カレンの言う、人が幸せってのはアンズも含めてです。
だから、兄の背中を押した。
兄の幸せを考えられる強さを持ってるから。

私は死んだ人に生きてる人が出来る事って多くはないって思います。
でも、カレンにカオルがしてあげられる事がある。

それは現実世界で幸せになる事です。
人の幸せを願える妹の兄に出来るのは自身が幸せになり好きな人を幸せする事だと思います。
何故ならそれがカレンの願いだから……その1歩になる事が彼女に唯一してあげられる事なのかな?と思いました。

そうして、カオルとアンズは十三年ぶりに再会する。
13年……ウラシマトンネルの時間差……
13年間、ずっと待ち続けてくれたアンズ。
彼が戻る確信なんてなかった。
それでも、彼を待ってくれていた。
本物の愛なんでしょうね。
好きな人にそこまで待って貰えるカオルが幸せ過ぎますねw

理由はどうであれカオルは13年間アンズに心配を掛けて悲しませてきました。
これからの時間は、全力でアンズを幸せにしてあげて欲しいですね(*´˘`*)ニコッ

正直、この作品、ウラシマトンネルの調査中に大幅カットされてるような描写もあるけど、私に共感出来る事が多い作品でビックリしました。


因みに、ココに出てくる大人は最低の象徴として描かれています。

酔って暴力を振るうわ、息子が体調を崩すと心配すらしないで暴言暴力を振るう父親。

娘の夢を反対して原稿を破るわ、田舎に転校させ1人で暮らして頭冷やせとか言う両親。


この2人の出会いに……「親なんか居ないわ」「いいねそれ」って言葉があります。
最初は、カオルのいいね発言にビックリしましたが、これは2人が友達ではなく理解者であるんだろうなぁ〜と見ていて感じました。
ウラシマトンネルの共同戦線もお互いの利害が一致してるからでしょうし、お互いに理解者から恋人になるまでが描かれているのかな?とw

さて、この作品のタイトルって、「夏へのトンネル」はカレンの死んだ夏への入口、「さよならの出口」ってカレンへの未練を断ち切る為の、さよならの出口なんですね。
劇場版みた後に気づきました。
ある意味タイトルで盛大なネタバレされてるけど意外と気づけない上手いタイトルですね。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 10
ネタバレ

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

ウラシマ効果と願いの狭間で浮き彫りになる若気の至り

【あらすじ】
{netabare}欲しいものが何でも手に入る「ウラシマトンネル」
鹿との衝突事故により電車が止まるくらいの田舎を舞台に、
{netabare}亡き妹・カレンと幸福な家庭{/netabare}を取り戻したい高校生男子・カオル。
{netabare}漫画で世界に爪痕を残せる才能{/netabare}が欲しい女子高生・あんず。
二人が願望の代償として世界を捨てるに等しいウラシマ効果をもたらすトンネルを前に、
“共同戦線”を張る内に、距離が縮まる同名ライトノベル(未読)の映画化作品({netabare}83{/netabare}分){/netabare}

【物語 4.0点】
監督・田口 智久氏。

実写「デートムービー」も意識して、主人公の少年少女二人に焦点を絞り原作を再構築。
ヒロイン視点補強を試みて、二人の出会いなどの節目を詳述するため、
三度にわたる駅のシーンをアニメオリジナルで追加し、ボーイ・ミーツ・ガール成分増量。

「ウラシマトンネル」になかなか飛び込めずに事前調査を重ねる二人。
浦島太郎が予め竜宮城に行った後の顛末を知ってしまったら、
亀に乗るのにメッチャ逡巡して物語が停滞するでしょうがw
これが青春を生きる高校生二人なら、人生経験の少なさもあって不安定なアイデンティティや居場所のなさ。
“共同戦線”に下心や恋心はないのか?など整理できない自分の気持ち。
モヤモヤが些細な衝撃で暴発しかねない危なっかしさ。
若さは逡巡すらメインストーリーとして魅力十分な甘ずっぱいドラマに昇華させます。

トンネルの先を描いた終盤も、既視感は覚えるものの見応え十分。
何を言ってもネタバレになりますが敢えて一言だけ叫ぶと、
{netabare}気づくのおせーよ{/netabare}ってことでしょうか。


ガラケーがスマホに駆逐される前の時代が舞台とあって携帯メールが活躍するシナリオ。
連絡事項に改行スペースを重ねてスクロールさせ末尾に{netabare}「塔野くんてちょっとエッチだよね」{/netabare}と本音を仕込む技もベタですがあざといです。
ケータイ共々爆発して下さいw


【作画 4.5点】
アニメーション制作・CLAP

草薙(KUSANAGI)提供の細密な背景に押し負けない映像作りで、夏を始めとした季節感を好表現。
同スタジオの前作『ポンポさん』でも多用した、
色トレス(近景等の色彩に人物の主線の色を合わせる)も駆使して、
世界と登場人物の一体感をアップ。

小物に“演技”をさせる演出も上々で、
特に上記アニオリシーンで“助演俳優賞”級の活躍をしたビニール傘については、
描き込みが面倒な透明色にもめげずに二人の仲を橋渡し。
終盤の{netabare}錆{/netabare}の描写も良い仕事してました。

ただ私としては“助演俳優賞”は笑顔を彩ったヒマワリに授与したい心境です。

ケータイ画面やビニール傘が濡れる心情演出も文学的。
CGで構築された水面もまた波紋で揺れる男女の言動を反映する“役者”ぶり。


【キャラ 4.0点】
主人公の高校生男子・塔野カオル。
携帯プレイヤーは音楽鑑賞じゃなく外界の音を遮断するために使う系。
家庭に安寧の場所はなく、斜に構え、田舎で朽ち果てつつある典型的な疎外感を抱えた主人公少年。
世界から外れかかっている彼のメンタルこそが「ウラシマトンネル」を招き寄せた
という作中での考察、一理あります。

ヒロインの女子高生・花城あんず
東京から田舎に転校して来た、これまた典型的な孤高の黒髪ロングJK。
寄らば斬る(むしろ{netabare}殴り倒すw{/netabare})
そんなテンプレでツンツン、デレデレされたって俺は萌えないぞ。
……と頑なになっていた私ですが、彼女が{netabare}カオルに初めて自作漫画を読まれ論評{/netabare}されるシーンの足芸で、
あっさり萌えて陥落しましたw

それ以上にあんずにグッと来たのは世界に爪痕を刻むと決意する強さ。
特に{netabare}絵で物語る漫画がなくなるはずがない{/netabare}と熱弁する件。
「特別」を目指すヒロインのカッコ良さには異性としてではなく人として惚れ込みます。


【声優 3.5点】
実写とアニメの中間領域を志向し、メインキャストは俳優をオーディションで選出。

主人公・カオル役の鈴鹿 央士さんは声優初挑戦。
スタッフ陣はナチュラルなボイスがハマり役と好評していますが、
私は走って息切れるシーンの演技にしても、自然さより経験不足を感じてシックリ来ませんでした。

声に人生が滲み出る演技だなとも感じはしましたが、
哀しみ故に荒れた生活を送るカオルの父役の小山 力也さんにはまだまだ及ばない印象。

その点、ヒロイン・あんず役の飯豊 まりえさんは、声優経験もありまだ安定感がありました。

それでも、脇に回った畠中 祐さん&小宮 有紗さんじゃ駄目なんでしょうか?
という私の疑問をかき消すほどの演技ではなかったかなと。

ただし、カオルの妹・塔野カレン役の小林 星蘭さんは子役時代のスキルも生かした幼女ボイスで上々。
塔野家の天使に免じて評点は基準点+0.5点で。


【音楽 4.0点】
劇伴は富貴 晴美氏のフィルムスコアリング。
氏のBGMは管弦楽の迫力でねじ伏せるよりも、ピアノを中心に心情にそっと寄り添う方が味わい深いです。
本作でも遅効性の恋に繊細な音色がマッチしていました。

主題歌、挿入歌はeill。
アップテンポな劇伴ソング「プレロマンス」では二人の恋愛未満を的確に射抜き、
主題歌バラード「フィナーレ。」では濡れるリスクが増える相合傘の利点を恋愛面から力説。
一番刺さったのは既存曲のアコースティックアレンジとなった「方っぽ」
世界から外れそうな位の喪失感が痛切で抉って来ます。


【付記】
イケメン俳優&朝ドラヒロインをキャスティングして、
実写恋愛映画の如く、カップル集客も目論んでいるという本作。
ですが初週鑑賞時、まばらな観客は私も含めてアニメ&ラノベファンと思しきソロの男性ばかりで、
デート中のカップルなんて一組も見当たりませんでしたw

プロデュースが滑っている以上、上映期間も長くはないと思われるので、
興味がある方は、夏が消え去る前に、お早めに劇場に行くことをオススメします。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 17
ネタバレ

nyaro さんの感想・評価

★★★☆☆ 2.1

「ほしのこえ」の引き延ばしバージョンの出来損ない?

24年9月再視聴+原作を読みました。本作よりは川崎さんについてかなり描かれており、殴打問題のその後もありました。その点はいいんですけど、原作を読んで気が付いたのは、構造は新海誠氏の「ほしのこえ」そのままです。オマージュかなあとは思ってましたが、結構そのままです。つまり30分でいいよね、という気がしました。

 本作はウラシマトンネルありきなんですよね。時間の経過に引き裂かれた2人の世界が中心にあってそれ以外はあまり内容がない気がします。その印象は原作でも変わりません。
 で、原作にはないケータイメッセージのアニオリを入れたので余計に「ほしのこえ」でした。ケータイのメッセージは設定上からいっても矛盾だらけな気がしますので、やりたいことはわかりますがこれはSFとしては出来損ないです。(追記 いや、ここは濡れ衣かも。双方向で通信が可能…かも?少なくとも外→内の一方通行は行ける気がしてきました)

 2人の家族からの孤立も孤立していれば理由は何でもいいし、孤立すら物語のテーマ性に関係がありません。マンガ家の設定もヒロインの側に残る理由が生じることしかありません。

 主人公がなぜ妹に執着するのかは、幸せな家族像がそこにしかないからともいえますが、ヒロインはなぜ特別になりたいのか?なぜ、そこまで強いのかが、正直ありません。というか、ヒロインの人物像はインパクトがあるしはっきりしてますが、そのバックボーンがボヤーっとしています。親への反発がスタートですが、その反抗心の核が見えません。それは原作も同じでした。

 結論から言えば、本作アニメ映画版よりも原作の方が丁寧だし納得感はなくはないですが、それでもフーンというレベルでした。で、何度もいいますが「ほしのこえ」の引き延ばしバージョンだという結論です。





23年6月レビュー

キャラが描けてない。SF・恋愛・家族・成長の何も描けず。

{netabare} ウラシマ効果のような時間遅延と願いをかなえると不幸になる話を組み合わせた感じです。要するに「トップをねらえ」「ほしのこえ」のようななSFと、「猿の手」「地獄少女」「笑うセールスマン」のような因果応報ものを組み合わせたような設定は良いと思います。
 そうそう、死者との再会という点では「オルフェウス」「イザナミイザナギ」とも重なってきます。

 そこまではいいんですけどね。肝心のキャラに全く深みがなく、SF的なセンスオブワンダーがあるわけでもなく、テーマ性も感動性も見いだせず。正直言ってずっと???のハテナマーク状態でした。

 結局最後の30分、ヒロインとの再会ストーリー以外に何を描きたいのかわかりません。家族の問題がいろいろ出ていますが、キャラの厚みにもならないし、家族とはなにかという部分も全く描けていません。あるいは家族の再構築のような感動すらありません。

 初めのイジメに対抗するヒロインのキャラ付けも効果的だったか…むしろあんな言動をしていればいじめられて当然。で、キレるわけですけど、キレた結果どうなるかもありません。
 ヒロインの夢をかなえる的な話もキャラ造形がまったく役に立っておらず、キレキャラがどういう理由でそうなったのかが本気でわかりませんでした。毒親がいたので防衛的に…という感じだとしても、だからどうした?としか言えません。
 そして、2人の関係性が変な見方かもしれませんが、コミュ障の共依存に見えなくはないです。つまり、ヒロインが病的すぎな気がします。

 駅のシーンと花火のシーンがまあ感動シーンなんでしょうけどね。こういう薄っぺらいストーリーだと「打ち上げ花火下から見るか横から見るか」の劣化版でしかないです。こういうのが見たいんだろ?感で非常にシラケます。

 ウラシマ効果そのものに、意味性が付与できていません。主人公とヒロインでいろいろ調べる過程はいいんですけど、そこで何の発見も気付きもないです。

 そしてラストの方の {netabare}妹との再会 {/netabare}ですけど、妹のキャラも主人公にとってどれだけ大切かと口では言ってますが、エピソードが描けていないので、まったく乗れません。妹がいてどれだけ主人公が助かっていたか…不幸な家庭の中の関係性が描き切れていませんでした。要するにカタルシスがないです。{netabare} 妹との再会{/netabare}の時に、主人公が何に気がついたのか全く不明な映画でした。感動ポルノとしてすら成立していません。
 あと、インコも原稿も実物がよみがえったのに…なんで?と思わなくはないです。
 プロットありきで話は破綻してませんが、映画として成立していない気がします。

 無料でも時間の無駄と評価したいくらいです。アマプラで有料で見ましたので映画としての評価をすると、かなり低い点数をつけざるを得ません。

 客観点だと2.1ですが、主観的には15点/100点くらいです。{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 4

77.7 5 タイムリープで恋愛なアニメランキング5位
うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー(アニメ映画)

1984年2月11日
★★★★★ 4.1 (399)
1735人が棚に入れました
あたるの通う友引高校は、本番を明日にひかえて文化祭の準備に大わらわ。だが……翌日になってもやはりあたるたちは文化祭の準備をしていた。実は友引高校のみんなは同じ日を延々と繰り返していたのだ。事態に気付いた担任の温泉マークと養護教諭・サクラは原因を究明しようとみんなを下校させるが、無事帰り着けたのはあたるとラムだけ。みんなは何度帰ろうとしても、友引高校に戻ってきてしまう。その間にも異変は起こり続け、ついに財閥の御曹司・面堂終太郎が自家用ハリアーを持ち出して空から現状を確認する事態に。すると、なんとそこには友引町を甲羅に乗せて中空をさまよう、巨大な亀の姿が…!! 脚本・監督を、「攻殻機動隊」の押井守が務めた。本作品の特異な世界観やストーリーは、現在の押井守の世界の原形とも言われている。

声優・キャラクター
平野文、古川登志夫、島津冴子、神谷明、鷲尾真知子、田中真弓、千葉繁、村山明、藤岡琢也

nyaro さんの感想・評価

★★★☆☆ 2.9

リメイクにあたり再視聴。原作愛の感じられない改変は不快です。

追記 さて、うる星やつらリメイクということで再度話題作である本作を視聴…といっても30分くらいでポツポツと確認した程度ですけど。で、追記ですけど、やっぱり私は駄目でした。

 私は本作の評価が低く、パトレーバ―2の評価は高いです。その理由は原作の主要なキャラやテーマ性を踏襲しているかどうかです。

 パト2は、特車2課が組織の中では力を持たない、ロボットの性能だけでは真ん中にいられないという部分や、男女の機微などもともとパトレーバーにあったテーマ性がありました。ちょっとズレている部分もありましたが、原作を換骨奪胎したという印象です。

 本作についてはどうでしょう。終わらない日常=ルーミックワールド。楽しい時間は終わらないのを是とした高橋留美子。それを否定した押井守。
 秘めたラムとあたるの感情のつながりを言葉にしてしまったこと。ラムが徹底的な我儘なキャラになったこと。本作はもしもボックス…あるいは独裁スイッチと言ってもいいかもしれません。

 原作改変が悪いのではなく、原作の世界観やキャラ愛が感じられないという点で、見ていて嫌な気分になります。上手く関係者を騙して自分のやりたい事をやった…それはクリエーターの努力として否定しませんが、原作のもっているエッセンスを変えてはいけません。
 カリオストロの城を評価できないのも同じ理由です。面白いかもしれませんが、不快になります。

 自分のやりたい事をやっているのに設定やキャラの魅力や人気にライドしているのが許せないと言い換えてもいいかもしれません。

 キャラの評価を1にしたのは、ラムは好きです。でも、本作のラムはラムではない、という意味で嫌いです。



以下 前回のレビュー

 物語の前半のパートに矛盾がありました。先生が家に帰ると時間が経過していました。坊主のテントも朽ちていました。友引町内にあれば時間は経過しないはずです。友引町の外なら出られないはずです。タイムリープとしてオヤ?という展開でした。
 ここは夢ということであれば、設定上の問題はなくなります。ラムの願望は、あたるや父母、テン、修太朗、メガネと一緒にずーっと暮らしたいということでした。ビューティフルドリーマーのタイトル通りとなります。

 では「祭りは準備期間が一番楽しい」という冒頭の文化祭の部分はどういう意味でしょうか。タイムリープとしてこの文化祭の部分が元祖エンドレスエイトと言われている部分です。映画の後半から非現実的な状況を認知した主要メンバーたちは文化祭の準備ではなく、ラムにとって必要な人間しかいない世界に変わります。つまり、ドラえもんのもしもボックスだったという事です。

 映画の前半であれば、仲間と永遠に祭りの前日を楽しんでいたいというラムの無邪気な願望の話で、まさにエンドレスエイトだったのですが、ここで残酷な現実が表現されます。ラムは忍や龍之介を本当に要らないものだと思っていたということです。2人は不要なモノとして退場させられてしまします。対立はあったとしてもいつもの仲間です。内心ではみんな一緒だから楽しい。前半の文化祭の部分ではそう読み取れます。ですが、ラムは本当はそうは思っていなかったということです。女の残酷さと言えばそうですが、これは本当にラムのキャラとして正しいのか?という疑問を感じました。

 ストーリー構成からいっても後半が冗長に感じてしまいますし、設定的にも時間から夢に視点がチェンジした瞬間、急に凡庸になってしまいました。
 また、謎がある話で絶対やってはいけない、突然登場した人物が犯人であるという禁忌を犯しています。テンちゃんが豚を貰ったというのが伏線なのかもしれませんが、それはこじつけでしょう。正直これは白けました。

 前半と後半の出来の差が激しすぎて、本来、前半だけで企画した話を無理に映画用に引き延ばしたようにしか見えませんでした。
 なお、後半ではラムの切ない願望を語る水族館のシーンは良かったです。

 また、ラムと言えばトラ柄のビキニです。別にエロということではなくキャラとして、作画が奇麗なビキニのラムが映画の画面で動きまわるのをファンは楽しみにしていたと思います。これを作家性で裏切って良いかです。途中、泳ぐシーンでわざわざ普通の水着を着せています。これはうる星やつらという舞台を否定して、押井守ワールドに改変してしまったことを意味しています。キービジュアルでいつものラムを表現しておいて、これは卑怯だと思います。つまり、これはラムの夢でもあると同時に押井守の夢ということです。

 映画として前半の出来は非常によかったです。演出も斬新で当時では画期的だったのではないでしょうか。ですが、後半の出来とうる星やつらという世界観を乗っ取って、自分がやりたい事をやった部分は評価できませんでした。もちろん世間の評判は非常に高いので私の見方が間違っているのかもしれません。
 が、少なくともうる星やつらでは無いのは事実だと思いいます。アニメ史に残る作品として評価が高いですが、それは良い意味だけではなく、悪い意味もちゃんと語られるべきだと思います。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 12
ネタバレ

takarock さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

現実と虚構の狭間に投げかけられたメッセージの意味とは

1984年公開の「うる星やつら」劇場版の第2作で、監督は押井守監督です。

押井監督フリークの友人曰く
劇場版第1作目も押井監督が担当して、興行的に成功を収めるが、
「媚び過ぎ」という不評の声も一部あり、
また押井監督自身も「失敗作だった」と評しており、
2作目の本作は「だったら自分の好きなように作る」と制作した結果、
ファンどころか原作者の高橋留美子先生からも
顰蹙を買ってしまったそうです。
しかし、皮肉なことに「うる星やつら」ファンとは関係ない映画好きを始め、
業界関係者やクリエーターからは
今なお高い評価を得ている作品となっているのです。

さらに押井監督フリークの友人曰く
同年に公開された言わずと知れた名作「風の谷のナウシカ」を
劇場で観た押井監督は「勝った」と思ったそうです。
この話は本当に眉唾ものの都市伝説レベルの話と
思って頂いても結構だと思います。
私も半信半疑ですしねw

まぁこの作品については各種考察もなされていて
今更私が言うことは何もないのですが、
敢えて言うとしたら、本作は「うる星やつら」をまったく知らない人の方が
余計なバイアスがかからない分、純粋に楽しめるような気がします。

とはいえそれだけでは寂しいのでネタバレありの各種考察を
紹介していきたいと思います。
(自身で考察する程「押井監督」についても「うる星やつら」についても知識はないので。。)


{netabare}まず本題に入る前に一応説明しておくと
虚構(夢)の世界から現実世界に帰還したその先は
本来3階建てのはずの友引高校が2階の虚構の世界!?(そして冒頭へループ!?)
というのが本作のエンディングです。
このことからも本作のテーマは「現実と虚構」ですね。
そしてその両者には大して違いもなく、
はっきりと認識できるようなものではないということだと思いますが、
はたしてこのテーマは誰に投げかけられているのかというのが
本作の最大の考察ポイントです。

まず、オタクに向けられたメッセージであるということ。
この場合、夢邪鬼は押井監督であり、夢はアニメでしょうね。
アニメから卒業して現実に戻ろうとしてもそこにあるのは夢(であるアニメ)。
「夢の中に居てもいいんじゃないの?」というある意味痛烈なメッセージです。
モラトリアムに対する皮肉とも取れますけどね。

次に、もっと狭義的に捉え「うる星やつら」ファンに向けられたメッセージであるということ。
押井監督はあたるとラムのどう見ても相思相愛の二人が付かず離れずを
ぐだぐたやっているような関係を好きではないようです。

もしそうなのであればこういった解釈もできるわけです。
くっつきそうでくっつかないあたるとラムの
まるで文化祭前夜の馬鹿騒ぎのようなラブゲームが延々と繰り返される
「うる星やつら」は虚構。そして本作も虚構。
そこでいくら現実を叫ぼうともそれは虚構。それであのエンディングです。
あたるらしからぬラムへの想いをはっきり口にするという不自然な描写も合点がいきます。
この説だと「うる星やつら」ファンというよりも
「うる星やつら」そのものに対して喧嘩を売っているとも言えますねw

さらにこんな考察もありました。
夢=文化祭前夜を80年代後半のバブルの前夜祭と捉え、
個々人が快楽を享受する夢のような消費生活を抜けだそうとしても
その現実は巨大資本が作ったシステムに組み込まれた夢(のような現実)に過ぎないという
当時の消費社会に対する警鐘であるという説。
作品の考察をするに当たって当時の時代背景を無視することはできません。
夢の様な消費生活なんて現在からではなかなか想像し難いことかもしれません。

どれもこれも本当におもしろい考察です。
最後に押井監督は後にこんな言葉を残してます。
「この世は模倣されたモノたちで満ち溢れている」
これは情報社会における作られたブームに対する苦言なのですが、
あるいは「そんな現実よりも俺が創り出すフィクションの方がリアルだろ」という
当時一監督に過ぎなかった押井監督の魂の叫びだったのかもしれませんね。{/netabare}


本作は「うる星やつら」をまったく知らない人の方が楽しめる気がしますとは言いましたが、
それでも最低限人物相関図くらいは事前に予習しておいた方がいいでしょう。

押井監督の出世作であり、超問題作であり、そして稀代の名作である本作を
是非心ゆくまで堪能して下さい。
そして1カットも観逃してはならないという程集中して観てください。
一見意味のないカットにも深い意味が隠されているかもしれませんからね。
それは疲れるから嫌だという方は視聴後に
考察サイトやあにこれのレビュアーの考察レビューを是非読んでみて下さい。

アニメ好きならこの作品は決して避けては通れない作品の1つです。
この台詞「パーフェクトブルー」のレビューでも言いましたね。
つまりこの後に続く台詞はもう決まっているわけです。
言う必要はないですね。 まぁ要は観てみてくださいってことですw

投稿 : 2024/11/02
♥ : 41
ネタバレ

disaruto さんの感想・評価

★★★★★ 4.5

「虚構」へのアンチテーゼ

押井守監督作品です。
ジャンルはSFです。
押井守の名を有名にした作品ですね。


学園祭の前日に泊まり込みで準備するあたるとラム達。
楽しいながらも、みんなどこか不思議な感覚に陥る。
まるで「終わらない夢」を見ているかのような…。


冒頭の数分でビックリ。
「うる星やつらってこういう話だっけ」と思ってしまいました。
このシーンで完全に作品に引き込まれました。

名作と呼ばれる作品も非常に多い{netabare}「ループもの」。{/netabare}
アニメにおけるその原型とも言われている本作も、非常に丁寧に作られています。


伏線の張り方が上手い。
「一度見ただけでは完全に理解できていなかったんだなあ」ともう一度見ると思い知ります。
{netabare}冒頭のあたるの表情だったり、時計の針だったり、胡蝶の夢に引っ掛けたり、ラムの言動だったり、マネキンを出したり、明らかに現実ではありえない映像の構図だったり、テレビ番組だったり。
冒頭のあたるの表情は「涼宮ハルヒの憂鬱」における「エンドレスエイト」みたいなもんだと私は思っています。
長門の表情が表に出ちゃったバージョン。
知らぬ間に疲れがたまって放心状態に。{/netabare}

あとビビったのが{netabare}ラストシーンの校舎の階数{/netabare}ですね。
二回見て気付きましたが、あれはゾッとします。
{netabare}劇中のセリフによると、本当は三階建て。
虚構の世界と判明した時は、四階建て。
ラストの抜け出したと思われた世界は、二階建て。
ということは、ループから抜け出したと思われた世界は「虚構」ということでは…。
あとラストにタイトルが出てきますが、つまりここからまた始まり、ループするってことでは…。{/netabare}
全体的にホラーのような演出も多く、ヒヤッとさせられるシーンもいろいろあります。
ラムちゃんのキャラ設定からは考えられない秘められた思いを考えると、ちょっと怖くなります。


本作の最大の美点は圧倒的なテーマ性の強さでしょう。
この手の作品って整合性・伏線にはこだわりますが、そこまでテーマ性にはこだわっていないじゃないですか?(私感)
でもこれは異次元にテーマ性が強い。
敵キャラが存在することで、その傾向が強くなっているように思います。
哲学っぽい言い回しも多いですがそこまで難解ではないので問題ないでしょう。

私はこの作品から「虚構の脆さ」を感じ取りました。
「ビューティフル・ドリーマー」の意味って{netabare}視聴者である私たちのことですよね?
アニメやら漫画が好きな人って感性が若いって言いますし。
この作品は「第三者視点」をやたらに強調してくる演出が多いです。
「お前ら卒業しろ」っていい大人な私に語りかけているようでしたw
でもラストシーンを見ると「卒業しなくてもいいよ」って囁いてもいますよねw
私はまだ卒業できなそうですw{/netabare}


難点はキャラの描き方が雑なところでしょうね。
キャラのイメージだけで伝わってくることは伝わってきますが、それにしても描写不足。
本作のテーマ性を合わせて考えれば、それもありっちゃありなのかな。
あと個人的にですが、若干ギャグよりなのが気に入らないw
ここまでやるんだったら、いっその事シリアス一本でやった方が良かったような気も。


総括して、「うる星やつら2」というタイトルのため視聴がためらわれますが、これは価値ある良作だと思います。
「うる星やつら」を知らなくても、いやむしろ知らないほうが楽しめるかと。
「涼宮ハルヒの消失」「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ 新編 叛逆の物語」が好きならば見るのが吉。
考えを張り巡らせながら視聴してみてください。

どうでもいいですが、{netabare}「叛逆の物語」を見た後にこれを見たのでいろいろと比較したくなりました。
文章はとりあえず書いたのですが、まとまりが皆無になったので“惜しい”ながらも割愛しました。
“押井”だけにねw{/netabare}

投稿 : 2024/11/02
♥ : 33

65.9 6 タイムリープで恋愛なアニメランキング6位
あした世界が終わるとしても(アニメ映画)

2019年1月25日
★★★★☆ 3.4 (89)
354人が棚に入れました
幼いころに母を亡くして以来、心を閉ざしがちな真。彼をずっと見守ってきた、幼なじみの琴莉。高校三年の今、ようやく一歩を踏み出そうとしたふたりの前に突然、もうひとつの日本から、もうひとりの「僕」が現れる――。

声優・キャラクター
梶裕貴、内田真礼、中島ヨシキ、千本木彩花、悠木碧、水瀬いのり
ネタバレ

nyaro さんの感想・評価

★★☆☆☆ 2.0

設定の為の設定、お話の為のお話で中身が無いうえにCGかあ

 SFはサイエンスを意識しすぎると発想が委縮してしまうので、ファンタジーや荒唐無稽な設定であっても、物語に理屈と整合性がありできればテーマ、驚き、センスなど何を描きたいのかが明確なら立派なSFだと思っています。タイムリープとか超能力がいい例です。

 本作の設定部分ですね。 {netabare}設定自体は鏡面世界のようなイメージで昔は太陽系の裏を回るもう1つの地球があって自分とそっくりな人間が…みたいな感じの作品があったと思います。それはいいでしょう。

 ただ、命のリンクですね。「二ノ国」なの?とまず嫌な予感がします。しかも一つの国は荒廃した内戦状態でここも似てますね。で片方で死んだらもう片方も死んで、それが突然死って…突然死がそんな理由で起こって世界が成立するわけないです。
 ある日突然突然死が認知されるのも変だし、そもそも死因のトップが突然死になるはずです。だって、片方の国のあらゆる死が全部こっちの世界の突然死になるんだから。

 これでは作中の地球の状況が現実の我々の世界から地続きじゃなくなってしまいます。これはSFの味わいとしていただけませんん。何よりもこれは設定から発生する「現象」であってここが荒唐無稽ではいけません。ここを考えるのがサイエンスフィクションです。

 で、実は戻す方法があるんだと言葉だけで説明されたり、敵キャラがわざわざ弱点を作ってくれたり。そもそも敵の動機も目標も非常にあいまいなので、その戦いそのものにまったく感情移入できません。で、話はやっぱり「二ノ国」そのものでしたね。どうしてあの作品の模倣をするかなあ?しかもドラマ的にはもっと薄いというか… {/netabare}

 しかも、この設定に基づくドラマに内容がないうえに、ロボット科学が並行して発達しています。この理屈が世界観の設定から導かれないといけません。本作はバトルを見せたかったからくっつけた設定でしかないです。

 じゃあ、ヒューマンドラマとしての恋愛に乗っかれるのか、という話です。いやお前らもう付き合っちゃえよ状態から始まります。デートして上手くいくかもと思ったら…ですね。いや、それは説明じゃん。はじめの30秒で見せてよ…いや、初めからそれでスタートすればいいじゃん、というレベルのドラマという名の茶番です。この恋愛劇の薄さは「永遠の831」というもう一つの類似例を思い出したりしました。

 CGですね。技術的には悪くない水準なのですが、SF、バトル表現としてはともかく、ヒューマンドラマをやらせるにはちょっと厳しいですね。中途半端にレベルが高いだけに帰って不快感に繋がっている気もします。CGならではの魅力が感じられません。

 ということで、設定と大きなストーリーは「二ノ国」でラブストーリーの部分は「永遠の831」という感じの作品です。設定の為の設定、お話の為のお話、CGの為のCGで中身は…ほぼゼロです。
 正直、なぜこういうのが作られのか不思議になるレベルで、私の主観的印象は「駄作」でした。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 3

ホロムギ さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

注意!これはSFバトルアニメです。

調べたところ、本作はHuluオリジナルアニメ『ソウタイセカイ』をベースにして、世界観とその延長線上で起こるドラマだそうです。
主要人物などが同じらしいですが、続編というわけではなく、『あした世界が終るとしても』だけで完結しています。キャラの関係性が変わっていたりするようですが、大まかな内容は似ているようです。
本作だけ見ても問題はありません。



ではレビューです☆
青春ラブストーリーだと思って見始めました。

私みたいな人のために公式ページイントロダクションから一部抜粋。

【幼いころに母を亡くして以来、心を閉ざしがちな真。彼をずっと見守ってきた、幼なじみの琴莉。高校三年の今、ようやく一歩を踏み出そうとしたふたりの前に突然、もうひとつの日本から、もうひとりの「僕」が現れる――。】

前情報を一切知ることなく見始めて、始まった3Dアニメーション。
3Dのラブストーリーに感情移入できるかなと不安でしたが、そんな不安は必要がないことがすぐにわかります。
突然襲われる主人公。ぬるぬると動く戦闘シーン。
思ってたのと違うなーと感じましたが、バトルものなら3Dでもいいかと気持ちを切り替えました。勝手に勘違いした私が悪い。これはSFバトルアニメなんだ。

今調べたところ、モーションキャプチャーを用いて普通の手書きアニメなら動かないような髪や服、視線など細やかな動きが描かれているそうです。
この繊細な動きは慣れておらず、違和感を感じる方も多いと思いますので好みは別れそうですね。
アフレコでも息遣いやリアクションを多く入れているそうなのですが、個人的には日常パートにそこまでの繊細さは必要ないかなーと思います。どちらかといえば私も違和感を感じるほうなのかもしれませんね。
10年先にはこれが普通になってきている気もします。

3Dで描くバトルシーンは非常に綺麗だと感じました。
そんな戦闘シーンはキャラがアップで描かれることが多いように感じました。キャラが3Dでアップのため、迫力があるかと聞かれれば首をひねります。しかし、手書きアニメなら、火花や斬撃で手元まで描かれないようなところも、本作では指先までしっかり描かれており、キャラの息遣いが強く感じられるのです。


キャラはレムがとても可愛く・・・
間違えました。ミコです!声優が同じで、キャラのデザイン、雰囲気、双子、と共通点が多く、人気アニメを思い出すこと必至ではありますが、レムではなくミコです!
最初のころの服装が可愛かったと思います。
最後の方、なぜ着替えさせたのだパパさん!!!


物語は。。。
まぁ、近未来SFバトルです。
ちょっとぶっ飛んでるし、よくわからないところも多いですが、目をつぶって下さい。このアニメはキャラ重視です!!
最後のオチはちょっと納得がいきませんでした。



総評。
これは3Dキャラアニメだから!物語は二の次だから!
オチとか考えるな!ご都合主義で構わないじゃないか!
まぁそんな感じです。

投稿 : 2024/11/02
♥ : 4

雀犬 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.5

世界と中二病は終わらない

2019年1月公開のアニメ映画。
Huluで公開された『ソウタイセカイ』という作品を
ブラッシュアップして劇場アニメにしたもの。

本作はスマートCGアニメーションで制作されているのだけど、
要はフジ系列の+Ultra枠の「revisions」「INGRESS」とルックは同じ。
制作・監督は「INGRESS」と同じで
「revisions」を観ているとこの映画のCMが流れてくる。
3Dは動きの速いシーンは綺麗なんだけど、
そうではない場面ではフワついた動きが気になるんだよね。
まぁ発展中の技術ということで仕方ないのかな。

で、映画の内容ですが、公式サイトにはあまり説明はなく
2つの日本を舞台にしたアクション・ラブストーリーとしか書いてなくて
「こういう内容だとは思わなかった!」という意外性が楽しい作品だろうから
ちょっと書きづらいんだよな。

まぁ、はっきり言ってしまうとB級パニック映画の類です。
幼なじみの高校生男女の日常をニマニマ眺めるシーンから始まり、
微妙に不穏な空気を感じつつ、いい雰囲気の場面で超展開が起こり、
古谷徹のナレーションで「ここで解説しよう!」とばかりに
中二病全開の世界観説明が行われる。
この時点で多くの人が「この映画はヤべエ!」と感じるであろう。

そこからは、中学生の黒歴史ノートを
そのままCGアニメーションにしたような怒涛の展開となる。

特にラストは「THE適当」という感じで、ある意味面白い。
作品タイトルをど~んとスクリーンに大写しにして
スタッフロールが流れれば、
どう解決したのか全然説明がなくても終わりなのだから仕方ないな。
投げ槍な終わり方に反して
あいみょんの主題歌が普通にいい曲なのがジワジワくる。

と、ここまでディスっておいてなんだけど
B級映画は好物だからそれほど不満はないです。
終始半笑いで楽しく観させていただきました。
水瀬いのりさんが双子の妹キャラで好演していたので
彼女のファン(特にReゼロのレム好き)は観に行く価値があるかも。

でも感動の青春ストーリーなんかを期待していた方は
「俺はあいみょんの曲を聴くために、
1800円払って劇場に来たんじゃねえゾ!」
と怒りに肩を震わせて映画館を出ることになったかもしれない。

それにしても、
20年以上たってまだ新世紀エヴァンゲリオンのオマージュをやってる
アニメ業界は大丈夫かぁ?

投稿 : 2024/11/02
♥ : 25
ページの先頭へ