マスルール♪ さんの感想・評価
4.0
【ネタバレ有】「セリフが無くても心に染みる、“短編アニメーション”作品!」
この作品は、前々から観たいと思っていた作品で、以前に“アカデミー賞”だか“カンヌ国際映画祭”だかで、賞を受賞していたことを知っていたので、かなり期待して観始めた―。
では早速、レビューに移るが―、「費用対効果」みたいな感じで、「時間対面白さ」なんてものがあるとしたら、この作品は、間違いなくNo.1の作品だろう―。
「費用対効果」とは、最近で言う“コスパ”(=コストパフォーマンスの略)のことなのだが…、費用が安く、効果が高いほど、コスパが高い(=良い)…という訳である―。
なので、「時間対面白さ」なんてものがあるとすれば、時間が短く、より面白いほど、評価が高いということになる―。
ではなぜ、この作品がNo.1かと言うと、まず何より、分母にあたる“時間”が、わずか“12分”しかないということである―。
分類としては「短編アニメーション」に分けられるのだろうが、勘違いしないでほしいのは、「時間対面白さ」が高い作品ほど、素晴らしい作品だと言っているのではない―。
例えば、“上映時間が30分で面白さが100の作品”と、“上映時間が1時間で面白さが200の作品”では、「時間対面白さ」としては同じだが、“後者”の方が傑作に決まっている―。
なので、この作品の「時間対面白さ」が高いというのは、それは、上映時間が短いのが理由だろう、と思うかもしれない…、が、そうではなく―、
この作品は、どの作品よりも“時間が短く”(=分母が小さく)、かつ、他の名作・傑作と呼ばれる作品たちと同じくらい“面白い”(=分子が大きい)…、そのため、「時間対面白さ」がNo.1なのである―。
(ちなみにだが)、さっきから「面白い」という表現を使ってしまったので、ここでも「面白い」と言わざるを得なかったのだが、“愉快”や“笑える”という意味での「面白い」ではない―。
むしろ逆で、わずか12分のうち半分以上の間、泣いていたような気さえする―。この作品は、観ていて“何故か”涙が流れてくる…そんな表現が相応しい、“心に沁(し)みる作品”である―。
では少し、“物語”の内容を見ていくが…、この作品の凄いところは、“セリフが無く”、“映像とBGMのみ”によってストーリーが進んでいく…、という表現方法を使っており、それが、これ以上ないほど、“観ている視聴者に委ね、感じさせること”に成功している―。
物語の舞台は、“水に沈みゆく街”で、そこに住む主人公の“老人”が、“積木を積み上げたかのような家”で暮らしているというお話―。
“地球温暖化”をモチーフにしているため、“海面上昇”によって、昔住んでいた家や街が、海の下に沈んでいく…、ということに“警鐘を鳴らしている”のだが、この作品(の監督である“加藤久仁生(かとうくにお)”さん)の凄いところは、本作をただの“環境問題を提唱するだけの作品”にしなかったということにある―。
(ここからは、wikiの説明が非常に良かったので、そのまま抜粋させてもらう…)
―加藤は、脚本家の平田研也(ひらたけんや)より、「地球温暖化がモチーフなのだから、もっと環境問題としてアピールすべきだ」というアドバイスを受けたが、加藤は、「そういうことではなく、どんな過酷な環境にあっても、人は生きていかねばならない、ということを描きたかった」と主張を貫いた―。
加藤は、「主人公である老人の生活を、淡々と描くことで、“人生”というものを“象徴的に”表現しようと思った」と語っており、「観た人たちが、“人生の中で大切にしているもの”や“過ぎ去ってしまったもの”に対して、どのような“姿勢”をとるのか考えるきっかけになる作品にしたかった」と述べている―。
この説明を聞いただけでも、“加藤監督の能力の高さ”や、この作品の“本質”を理解できるのだが、この加藤監督の“頑なな信念・こだわり”によって、結果としてこの作品は、“アカデミー短編アニメ賞”を受賞した初の邦画作品となった―(他にも、国内外10の映画祭で14の賞を受賞している)。
ただこの作品を、他の作品たちと“同じように”このサイトで評価するのは、非常に難しいと思う―。
なぜなら、(前述したとおり)、この作品は、“セリフの無い作品”であり、音楽も主題歌や挿入歌はなく
“BGMのみ”である―。
なので、セリフが無いのだから“声優”の評価は0、主題歌・挿入歌が無いのだから“音楽”の評価も低い…、とすべきかと言えば、それは少し“短絡的”なようにも思う―。
声優(セリフ)や音楽とは、あくまで、その作品を良くするための“付属的な価値”なのであって、ただあれば良いというものではない―。
この作品においては、間違いなく、セリフや挿入歌が“無いこと”によって、“良い意味での付属的価値”が生まれている―。
なので、このサイトの評価における“声優”や“音楽”も、作品全体を通しての“統一性”という意味で、
“無いことによる高評価”で良いのだと思う―(が、これはあくまで自分の考え方なのであって、声優がいないのだから評価は0としても、それはその人の受け取り方次第だと思う…)。
時間が短くて面白い…。観る側としてはこれ以上ない“助かる作品”なのだが、環境問題を訴えたかったら、ただ「NO!」というだけでは意味がない―。
そこに一つの“物語”を作ることによって、本当の意味で、観ている人たちの心に投げかけることが出来る―。
加藤監督は、そんな人や物事の“本質”をしっかりと理解している―。
この作品を観て、その経緯を知っただけで、本作だけでなく、“加藤久仁生”という一人の監督に、興味を持っている自分がいることに気付いた―。
(終)