Witch さんの感想・評価
4.2
「30分SFアニメ」の弱点を逆手に取った秀逸な展開
【レビューNo.16】(初回登録:2023/1/8)
「イヴの時間」のレビューを書く過程で視聴。忘れないうちにレビュー。
本作は吉浦康裕の「商業アニメ」デビュー作となる、30分アニメです。(2005年の作品)
(ストーリー)
・地球は自然環境の破壊により、人類が地上で住める環境ではなくなってしまった。
そのため地下に居住空間を建設し、そこで暮らしている。
その閉塞空間の中で物語が展開していく。
・主人公は「記録発掘局」の職員。この世界は「過去の世界」の記録データが断片的に埋没しており、
それら記録データを発掘・復元し、過去の世界を分析していくのが本局の仕事。
彼は記録データの復元業務を担当。
(評 価)
・製作者の溢れるSF愛
この作品を観て最初の率直な感想は、「吉浦康裕って本当にSFが大好きなんだなあ」。
単にそれっぽい画を描いてあるからってだけでなく、作品全体から受けるSFの空気感が凄い
っていうか・・・(ある意味SFオタのこだわり的な?)
「日ごろからこんなことばっか考えてるんだろうなあ」ってのが滲み出てる感じですかね(笑)。
・視聴者側の補完がかなり必要な作品
次に感じたのは「30分のSFアニメを作る難しさ」です。
SFなのでまずはその舞台設定から説明する必要があります。それをしながら本筋の物語を展開して
いく。全然尺が足りません!!だから視聴者側でいろいろ補完してやる必要があります。
まさに視聴者がこのアニメから情報を汲み取り解析していくという「記録発掘局員」のような作業を
していく感覚ですね(笑)。
・上述弱点を逆手に取った秀逸なストーリー展開
逆にいうと、「この謎の閉塞空間は一体何なのか?」から始まり、いろいろ考えながら少しずつ世界
が広がっていく面白さがあり、物語に引き込まれていく感覚があります。
以下特大ネタバレw(できれば読まずに視聴することをオススメ)
{netabare}
・本(紙媒体)の存在を知らない世代って・・・
・そもそも「記録発掘局」の目的って何なの
・そこに生きる人々の絶望感
それらの積み重ねを経て、ラストで「閉塞感漂うこの世界からの解放」までの展開は本当に秀逸。{/netabare}
上述の通り視聴者にかなり負担を求めてくるので、好き嫌いがはっきり分かれる作品となるでしょう。
それに娯楽性も乏しく地味だし・・・
しかし「30分のSFアニメってどんなものなの?」と興味をそそられた方は、観ておいて損はない
作品だと思います。
あとwikiで紹介されていた
「この作品の制作中に公開された新海誠の『ほしのこえ』の影響を受け、自分が考えていた以上に商業
ベースにやらないとダメだと思いに至った」
のエピソードが興味深く、のちの「イヴの時間」に繋がったのかと思うと感慨深いものがありますね。