nyaro さんの感想・評価
4.0
アニメーション技術は驚異的。ただ、テーマがブレブレ?
手塚治虫氏原作の1949年の作品というよりは、1927年のドイツ映画のメトロポリスに近い印象のストーリーでした。というのは、アンドロイドが女性で、革命を題材に置いているからです。
(追記 さっきまでメトロポリスってソ連映画かと思っていました。ドイツ映画が正解です。ご指摘くださったレビュアーさん、ありがとうございます)
ドイツ版は当時の世相を反映してか、偶像による先導の悲劇を描いた反ファシズムあるいは暴力的革命より平和的革命をというようなニュアスだった気がします。
手塚版は、大衆をカリカチュアしている点と科学に対する警鐘のような雰囲気の方が強かったと思います。当時はレッドパージ中でしたので共産主義思想は明確ではないと思いますが、ニュアンス的にはロボット=労働者という描き方はしているでしょう。ただ、政治についてよりも、アトムにもつながって行くアンドロイドの人権・人格・感情問題の方を丁寧に描いています。
さて、本作のストーリ-についてです。本作は手塚・ドイツ版の両方を組み合わせたような感じです。が、テーマがはっきりしません。資本家・為政者と大衆・ロボットの分断社会が舞台です。労働をロボットに奪われた大衆を描いていました。
ただ、大衆とロボット、そしてレッド党と大統領の配置がよくわかりません。
大衆にとってロボットを狂わせたレッド党は味方でもあります。そのレッド党にしても漠然と世界征服を目論んでいるだけでが何をしたかったのかがよくわかりません。選民思想でもないし、反ロボットと言いながら、ティオを神のような扱いにしようとしています。
ジグラッドやマルドゥクのようなバビロンモチーフで神の怒りのような感じですが、自分たちで作った神が狂った=科学の報復のようなイメージでしっくりはきません。
また、ロボットの感情問題もどこか中途半端で、その想いで人々や主人公を救済したようなストーリーではありません。ロックという人物の思想も狂信的ファザコンですが、そこにテーマは見出せませんでした。
明確なのは、分断と支配者、科学の使い方、ロボットの人権と愛情と悲哀という手塚的なモチーフがそこにある、という以上のものはなくストーリーと上手く絡んでいませんでした。
大友克洋氏が脚本らしいのですが、レベル的にはかなり低いです。手塚オマージュ・リスペクトがメインで、思想や哲学が入っているように見えてデオドランドして、人間とアンドロイドの恋だけが残るような形にしたのかもしれません。
ただ、エンタメとしては手塚本人のストーリーよりも面白いです。結末もなにかハッピーエンドにつながるような後味がいい終わり方でした。テーマも煙に巻かれた感じなので、見ているときはそこまでテーマ的な整合性を意識しないで、ストーリーを楽しむことができました。
そして何より、画面です。これは本気で素晴らしい。キャラデザ、作画、美術、演出。最高でした。1927年のメトロポリス的なイメージからスチームパンク的な要素、アキラのような地下エレベータ、なによりも手塚の初期作にあった未来都市のデザインの再現度。最高でした。SFアニメの画面ということでは、最高峰でしょう。
そして音楽のセンスもいい。古いアメリカのラブソングを入れるのもいいですが、交響曲的な挿入音楽のレベルも高かったです。
ということで、ストーリーにテーマ的な荒さとか、物語のゴールイメージの曖昧さなどアラは多い話です。が、手塚ワールドの集大成としてSFアニメとして見た場合の満足度は非常に高いです。是非大画面で見てみたい水準でした。
ストーリーは3、キャラは4。これ以上は上げられません。ただ、作画は5、音楽は4.5の水準は十分にあります。声優さんは調整で3.5かなあ。
ただ、アニメーションの技術水準がとにかくたかいので、それを見られた満足度は評価以上のものがありました。